【本編完結】デビアス・ピースキーパー 〜異星文明製ガイノイドとして蘇生されましたが魔法少女に追い掛け回される日々を送っています〜   作:縁樹

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審全試合 1

 

 

 

 たかだか腕試し程度で、何故プリミシア局長はああもはしゃいでいたのかと疑問だったのだが。

 どうやら聞くところによると……彼女は現在『とある契約』とやらによって、その力を振るうことを厳しく制限されているのだとか。

 

 ……まぁ言われてみれば確かに、仮にも『魔王』を名乗る存在である。

 亡命とやらを受け容れるにしても、武力を削いでおこうと考えるのは当然のことだろう。

 

 

 そんな彼女が実力を振るえる数少ない機会こそ、今回のような『訓練用異界に封印した上での模擬戦闘』なのだといい……しかもひとえに『模擬戦闘』といっても、そう易易と許可が下りるものでも無いのだとか。

 いわば、例外的措置。それこそ『魔王本人が直接検証しなければならないようなケース』ともなると、年に一度も無いだろう……とはユシア課長の談である。

 

 

 そんな意味で私達との模擬戦闘は、彼女のフラストレーションを解消する好機、またとない機会なのだという。

 普段は『契約』やら何やらに縛られ、なかなか申請が通らないらしいのだが……しかし今回は特別すぎるレアケース、なんといっても相手が相手(私達)である。

 

 謎に包まれた【イノセント・アルファ】一味の情報(手の内)が知れる好機ともなれば、それは『魔王』に交戦許可を下すには充分な理由だったらしい。

 

 

 

 

「……えー、では軽く確認を。演習場所となるのは、ここ『溝濠(みぞぼり)イーサリア競技場』の……えっと、スタンド? ピッチ? ……まぁ要するに地面、グラウンド部分となります。この競技場全体を私の『魔法』で……その、()()()()()『現実世界に破壊が影響しない状態』にしますので、その中で繰り広げて頂ければと存じます」

 

「…………すごいな。周囲の被害を気にせず戦える、ってことか?」

 

「……まぁ、そこまで万能ではありませんよ。確かにこの『魔法』は、街の破壊も人的被害も防げるし一般人の目も誤魔化せるし、一見便利に見えるのですが……しかしどうにもコストが嵩んでしまいまして。新地開発部(ウチ)では私含め、数名しかマトモに扱えません」

 

「件の『魔法少女』らにも、どうにかして持たせてやれれば良かったんだがね。……やはり負担が大きすぎる。あの子らに無理をさせないとなると、一般人の認識を誤魔化す程度で限界だよ」

 

「…………この規模で展開できるのは、ユシア課長の実力……ということですか。恐れ入りました」

 

「……恐縮です」

 

 

(スー、ディン、観測データ収集。出来ることなら模倣し(パクり)たい、可能な範囲で頼む)

 

『ワタシより『スー』へ。観測はワタシが引き受けます。スーは模擬戦に専念して下さい。かあさまの名にうんちを塗るのは許しません』

 

(せめて泥って言え。言わんとしてることは解るが表現が嫌すぎる)

 

『ワタシより『ディン』へ。激励を享受致します。観測任務を貴機へ委託、観測補助リソースとして『ススちゃん』『テテちゃん』『ルルちゃん』を配置しました。指揮権を一時的に移譲致します』

 

『感謝します。…………『ミミちゃん』と『ニニちゃん』は?』

 

『…………潜入工作特化型探査機は本観測任務に不適、ならびに貴機の任務遂行の妨げになると判断。……周辺待機中です』

 

『かあさま!! スーが! スーがワタシにいじわる! かあさま!!』

 

(落ち着け!! あとで帰ったらたくさん吸わせてもらいなさい!!)

 

 

 

 周辺被害の抑止魔法……言うは易いが、その実態はどういうものなのか想像もつかない。こんなに便利なことが出来ようとは、やはり『魔法』とは底が知れない。

 見聞きしたその全てを我が物に出来るとは思わないが、しかし模倣できるものは模倣してしまいたい。

 

 ふてくされ気味のディンの頭を撫で、やる気を出してくれるようご機嫌を取りながら、私達観客は邪魔にならないようにメインスタンドの隅っこのほうへと場所を移し。

 中央付近に佇む『魔王』と相対する末っ子に、心の中で全力でのエールを送る。

 

 

 

 ……ちなみに、私はスーの機体(身体)の製造認可を下すにあたって、当初は積極的に戦わせるつもりなど無かった。

 主目的としては、母艦の主演算機器と同期させての高精度情報処理……それに加えて、彼女にヒトの情緒を育ませるための『信号入力(可愛がり)端末』としての側面が強い。

 

 

 しかしながら、そんな機体(身体)を受領してから暫しの後……他でもないスー自身が、『戦闘用機装』の実装を持ち掛けてきた。

 

 (いわ)く……ディンや魔法少女達のように、私と肩を並べて戦う『協働関係』というものに興味を抱いたとのことであり。

 感情表現に乏しい顔に、確かな『照れ』と『恥じらい』の気配を感じ取った私は、その自主性の成長をディンと二人で大喜びするとともに直ぐさま実装を許可。

 その後は彼女の自主性に任せ、少し前に『実装完了』の報告を受けてはいたのだが……実戦の機会が無いまま、今に至るわけで。

 

 

 要するに、彼女(スー)が自らの意志で望み、自ら編み出した戦い方を目にするのは……今日このときが初めてなのであって。

 しかも相手が、この国における(限定的とはいえ)実質的な最高戦力というのなら、それは胸を借りるには充分すぎるだろう。

 

 

 

 

「……【形成(インレウ)】【隔世(クレアドカージォ)A1(ヤナロ・ウヌ)】。……お待たせ致しました。こちらの準備は整いましたので……いつでも」

 

「だ、そうだ。……先手は差し上げよう、如何様にも打って来るが良い」

 

「………………んっ」

 

 

 試合開始のような華々しさも、声援に掻き立てられる熱狂も何も無く、酷く静かに模擬戦の幕が上がる。

 

 

 命や尊厳を奪い合う場などでは無い、単純な腕試しと力比べ。スーも別段気負いした様子を見せずに、淡々と行動を開始する。

 

 

 潤沢な制御リソースをもって、周囲空間への介入を開始したスーの周囲。

 重力場は捻じ曲げられ、重量百キロを超す小柄な身体は当然のように宙に浮かぶ。

 

 

 

『――機装展開(コール)、【マーキュリー】』

 

「…………ほう、これは」

 

 

 そんな彼女の周囲、どこからともなく姿を表したのは……一言で言うなれば『銀色の波』。

 周囲の光景を歪めて映す流体金属は、主を護るようにぐるぐると渦を巻き、命令を待ちながらぐねぐねと舞い踊る。

 

 

『――行動指示(オペレーション)攻撃態勢(アサルト)

 

「ふむ」

 

『――発令(オーダー)

 

「おっと」

 

 

 銀色の渦が蠢き、同じく銀色の七つの(つぶて)へと姿を変える。

 流体金属の塊ひとつひとつが重力干渉によって制御され、権限保持者の意の儘に飛翔する。

 

 一つ一つがバスケットボール程のサイズの、ぶよぶよと蠕動する銀色の雫。

 (やわ)そうな見た目にはそぐわない、冗談のような質量を秘めた金属塊が、砲弾の如き速度で襲い掛かる。

 

 

 金属でありながら液体でもある特殊機装【マーキュリー】とは、本来であれば艦体補修用の充填素材である。

 その名に日本語を当て嵌めるとすれば、『多様性』や『変容性』といったところか。形成後の固形化処置が施されない限り、それは液体としての性質を喪わない。

 

 高質量にして、高密度。あの金属球の重量は、一つあたり恐らく百キロに届いていることだろう。

 見た目以上の質量弾頭と化した【マーキュリー】の雫が、一斉に『魔王』へと殴り掛かるが……しかし当の魔王はというと、相も変わらず涼しい顔を崩さない。

 

 

 見れば……変わらぬ姿勢で佇む彼女の眼前、複雑な紋様が描かれた半透明の障壁が現れている。

 私達の用いる防護障壁のようなものなのだろう。薄く頼りない見た目の印象でありながら、軋み一つ上げずに【マーキュリー】の着弾を受け止め、七つの衝撃を凌ぎ切る。

 

 金属でありながら液体でもある【マーキュリー】の(つぶて)は、その衝撃に耐えかねたかのように弾け飛び……無数の飛沫となって()()()()()()()

 

 

 

『――行動指示(オペレーション)殲滅陣形(スローター)

 

「おっ、とぉ……」

 

『――発令(オーダー)

 

 

 粉々に弾け飛んだ飛沫の一つ一つが、針のように鋭く『魔王』へと襲い掛かる。

 形状操作に加えて、一時的な形質保持命令と、そして加速度・機動制御……もはや数えるのも馬鹿らしい、何百何千にも及ぶ対象に対しての同時並列処理。

 桁違いの処理能力を誇るスーならではの、私達には到底真似できない戦闘手段といえるだろう。……全く、見事なものだ。

 

 

 

「……いやはや、全く恐れ入る。一体どれ程複雑な制御を掛けているのだか」

 

「………………ぅー」

 

『スーの攻撃、全周型防護フィールドにて迎撃されました。敵性反応健在、損傷は確認できません、判断します』

 

(敵じゃない敵じゃない敵じゃない)

 

 

 根のように複雑に絡み合った魔法紋様を瞬かせ、『魔王』を取り囲むように半球状の防壁が張り巡らされる。

 全方位から雪崩打って襲い掛かる【マーキュリー】の飽和攻撃、それを打ち返して尚揺るがない堅牢な護り。……見事なものだ。

 

 いかに密度と速度を高めたとて、雫一つ一つの質量がああも小さければ、その破壊力などたかが知れている。

 (つぶて)にしても打ち破れず、囲んでも死角は無し。守りを抜けないと判断したのだろうか、【マーキュリー】は『魔王』を取り囲むように渦を巻き、機を窺っているようにも見える。

 

 

 

「防壁が抜けないのなら、防壁が解かれる瞬間を狙えば良い。如何な強固な壁とて、攻撃の際には開かねばならない筈だ。全方位から隙を窺い、開いた瞬間を最速で狙う。……着眼点は悪くない」

 

「………………どぅ、も?」

 

「そう、確かに悪くはない。むしろそれが普通の考えだろう。悪くはないのだ。悪くはないが…………良くもない」

 

「っ!!『――行動指示(オペレーション)防護態勢(シェルター)発令(オーダー)

 

 

 本人は堅牢で隙の無い全周防壁を()()()()()()()、ふよふよ浮かぶ標的(スー)の周囲、地面に特徴的な魔法紋が疾る。

 ヒトの感覚ではほんの一瞬の間を置いて、四方八方の地面から真紅の蔦が射出される。

 

 対するスーは……なんと驚いたことに、魔法紋の出現と同時に反応して見せた。

 蔦の槍が撃ち出されるまでのほんの僅かな間で、『魔王』の包囲に回していた【マーキュリー】を自機の周囲へと引き寄せ、全球状の防護壁を形成。

 蔦の槍を流体金属の殻で打ち返し、更に防護殻表層の【マーキュリー】をワイヤー状に形成し、伸ばされた蔦を細切れに斬り捨て。

 

 ……ご丁寧に殻を解いて顔を覗かせ、先程までの意趣返しとばかりに『どうだ』と自慢げな表情を浮かべて見せる。

 

 

 

「くくくくっ。……素晴らしい、素晴らしいな! さぁもっと、もっと見せてくれたまえ!」

 

「……………は、ぃ」

 

 

 周囲空中に魔法紋を開きまくる『魔王』と、自機周辺にて【マーキュリー】を攻撃用に形成し直すスーの二人。

 

 

 その対峙を固唾を呑んで見守っていた者たちは、()()を感じ取ってか距離を取り……そそくさと自らの安全確保を最優先したのだった。

 

 

 






■プリミシア局長
この世界に魔法関連技術を齎した存在。
別の世界からこの世界へと流れ着いた『魔王』だが、割と無害。
魔法少女達の関連組織の他、
多くの魔法関連組織に少なからず関わっている。


■ユシア課長
拠点防衛系の魔法を扱える一般人。
何か秘密がありそうだけど作者のひとそこまで考えてないと思うよ。


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