【本編完結】デビアス・ピースキーパー 〜異星文明製ガイノイドとして蘇生されましたが魔法少女に追い掛け回される日々を送っています〜 作:縁樹
「いやいやいやいやいや…………なんというか、これはまた……いや、すごいね。やはりこの世界は素晴らしい。まだこれ程の感動を味わうことが出来ようとは……いやいや、つくづく『生きていてよかった』と思うよ」
「………………暑く……いや、熱くないのか?」
「当然、非ッ常に熱いとも。魔王などと名乗っちゃ居るが、
「じゃあそんな無理しなくても」
「これが無理せずに居られようか! あぁ、なんと素晴らしい……遠き我が故郷の『龍種』にも劣らぬ生命格! それでいて知的で温厚で友好的、意思の疎通も可能ときた! まさか彼らをこの目で拝める日が来ようとは……」
「…………程々にな」
さて……日付変わってところ変わって。
この国の政治中枢が置かれる首都東京から、ほぼ真南におよそ1,500キロメートル。飛行機で直行を試みてもおよそ2時間。なお滑走路などあるわけが無い。
ここは周囲一面どこをとっても海しか見えない、ヒト文明の痕跡さえ見当たらない絶海の孤島である。
……まぁ『ヒト文明』どころか、文明の痕跡など何一つ存在していないだろう。
なにせこの島が出現してから、ほんの一週間そこらしか経過していない。未だ活発な火山活動が続いているとあり、調査員さえ上陸できない有様なのだ。
そんな新生火山島の最高峰、そこには直径およそ百メートル程の穴が『ぽっかり』と開き、現在私達はその一端に佇んでおり。
そこから見下ろす眼下、赤々と煮え立つマグマこそその姿を消したものの、黒い表面に浮かぶ
そんな地学の神秘、超高温の溶岩湖の中を悠々と泳いでいるのは……この惑星の先住知的生命体であり、先の騒動において私達に力を貸してくれた『アガルタ』の民であり。
盟約に従い、僭越極まりないながらも『
私の、えっと、その…………友達、である。
――――『わたしは認識します。わたしに対するとても多い興味。同盟者『ニグ』の交友個体であると判断します』
「…………なるほど、報告には聞いていたが……やはり魔力を以て個体間の意思疎通を図る種であるらしい。これは興味深い……いや、環境を考えればある意味当然なのか?」
「考察も良いが、とりあえず挨拶しとこうプリミシア局長。彼らは
「確かに。いや、失礼した。…………お初にお目に掛かる、地底の民『アガルタ』の『ココロカ』殿。私はニホン国の……役人、『プリミシア』という。……お会いできて、光栄だ」
――――『わたしは認識します。ニホンコクにおけるヤクニン。個体名『プリミシア』を『知恵の者』コミュニティ『ニホンコク』引導者階級と定義します。最初に提供する挨拶、『こんにちは』です』
「…………あぁ、こんにちは。……素晴らしいな、私は今猛烈に……感動に打ち震えているよ」
「傍目に見てわかるくらい物理的に震えてるな。寒いのか?」
「くっそ熱いとも」
「…………だろうな」
溶岩湖内の温度は、せいぜい摂氏1,000度程度。気圧のほうも当然
であるにもかかわらず、先の戦闘以降アガルタ個体『ココロカ』はというと……いったい何が楽しいのか、度々地表の火山火口まで足(?)を運んでいる模様。
ここが寒冷きわまりない環境であるのは確からしいのだが、なんでも彼ら『熱移動を遮断する魔法』のようなものを感覚的に使いこなすらしく、ある程度の時間であれば寒冷環境での活動も可能なのだとか。
そもそもの棲息環境、地底のマントル層からして、上層と下層とでは摂氏1,000度から3,000度程度と大きな開きがあるらしい。
泳いでいける範囲でも、ここまで大きく環境が変わるのだ。地表ほど寒冷な環境は例外であったにせよ、元来温度変化に強い種族なのだろう。
まぁ勿論その『熱移動を遮断する魔法』とて、過去に地表環境で試みた前例など無いだろうに……私が『ココロカ』と名付けた個体は、なかなか肝が据わっているらしい。
また肝が据わっているだけでなく、知的好奇心が旺盛というか
しかしながら実際、私達はその好奇心のお陰で命拾いしたのだ。
ココロカが、そして彼らアガルタが、私達にとってかけがえのない恩人であることは、決して揺るがないだろう。
……まぁ恩
「……それで、そろそろ良いか? プリミシア局長。本題に入りたいんだが……」
「おぉっと、そうだったね。済まない、あまりにも感動的すぎて。……それで、えーっと……『立入禁止の指定』だったかな」
「あぁ。彼らが地表に顔を出しても騒がれないように、ヒトの接触を防ぎたい。……先延ばしにしかならんだろうが……彼らとヒトを引き合わせるのは、正直まだ早いと思う」
「そこは同意だ。意思疎通の可能な地底世界の住民など、いったい誰が想像できよう。物騒かつ野蛮なことに利用しようと企むは想像に難くないし、各国の地質学者も生物学者も黙っては居るまいよ。摂氏3,000度、百万気圧を超す地底世界など……ある意味では月よりも、火星よりも遠い場所なのだ」
「今これ以上
「然り。……まぁ、こんな時代だ。わざわざ他国に実地調査を寄越す余裕など無かろうよ」
こんな時代……世界規模で『魔力』が溢れ、予測不可能な
真っ当な感性を持ち合わせている国家であれば、自国の事態収拾を優先するはずなのだが……世界が混乱している今だからこそ、などと暴挙に出る国も存在するのが現状である。
いずれにせよこんな絶海の孤島、しかもまがりなりにも日本国の領海内なのだ。
最寄りの航空基地から何時間、下手すると十何時間も掛けて調査を寄越そうとするなど、正気の沙汰ではあるまい。
まぁ尤も、それは我が国にも言えることであるらしく。
なんでも
例えば、魔力環境に適応した生態を備える形で進化を遂げた、様々な植物。
光合成とともに魔力を発生させるようになってしまった植物によって、常にじわじわと魔力は発生しているらしい。
例えば、古来から人々の祈りの場として用いられてきた『パワースポット』と呼ばれる場所。
長年『奇跡を起こす』と信じられ続けた地が実際に『
先だって私達が除去した『地底に溜まっていた魔力』は、どうやら原因の
もちろん危険度の高い
……いや、それもそうか。今やこの国では電力設備から研究設備から、あるいは家庭用レベルの便利機器に至るまで、大小様々な『魔力』関連施設が動いているのだ。
その動力たる『魔力』が絶えてしまっては、それはそれで問題だろう。……だからこそプリミシア局長は『待った』を掛けなかったのだろうな。
この国から『魔力』と関連技術を取り上げられては、それは極めて大きな痛手だろう。
いち早くそれら技術を実用化に漕ぎ着けたからこそ、今日の日本は国際社会において、斯様に優位に立ち回れているのだ。
「まったく…………只でさえ
「そのへんは、まぁ……『政治家先生方は大変ですね』としか。私らは私らの出来ることしか興味無いからな。……済まないが、腹の探り合いは任せる」
「適材適所、というやつだろう。私とて心得ておるとも。……現場仕事を安心して任せられるだけでも、私としては大助かりだ。ステラ女史の力添えも得られれば、まさに百人力というやつだよ」
「…………あの子が何も言わんなら、私からはあまりとやかく言うつもりは無いが……だがな、とりあえず週に二日は休ませろ。私の娘を何だと思っている」
「う、ぐ…………」
この国の発展の主要因、魔法関連技術の目ざましい発展とは、関係各所職員(特に総責任者)の
魔法関連の総責任者、魔王を冠するプリミシア局長とて、ただでさえ休む間も無く働き詰めの日々であるらしく。
この国の業務処理アプリケーションを導入したスーの助力に、文字通りの意味で泣いて喜んでいた彼女の様子は、私としても記憶に新しい。
そこへこんな大きな火種――湧いて出た国土や排他的経済水域の扱いやら立入禁止の申請やら、それどころか未確認生物やら地下世界やら――を持ち込んだ身としては、責任の一端を感じざるを得ない。
かといって……最近はディンと仲良く新たな趣味を見つけようとしているあの子を、四六時中デスクに釘付けにするわけにもいかないだろう。
……いやそれ以前に、まずは局長が率先して休みを取れ。完全週休二日を導入しろ。休日出勤など悪しき習慣だろうが。
「だがまぁ…………そうだな。私らとしても、無理を言える相手に潰れられては困る。……スー以外で、何か要望はあるか?」
「ステラ女史を嫁にしたい」
「それ以外っつってんだろ火口に蹴落とすぞ」
「なら! あのステキな船がほしい! 宙に浮く船とかツボを押さえ過ぎだろう! しかも揺れないし人目に付かないし、オマケに
「
「そんな無体な! 何でもって言ったじゃないか!」
「言ってねぇよ蹴落とすぞ!」
――――『わたしは理解します。同盟者『ニグ』そして引導者『プリミシア』を仲良しであると。判断を設置に良いと解釈します』
「ほらぁ! 仲良しの頼みだろうに!」
「限度ってもんがあるだろうが!!」
どうにも調子が狂う言動だが……しかしこんなんでも、この国の魔法関連部署の頂点だ。
私達とは基本的な方針も近しいことだし、色々と
私の娘たちと、ココロカと……そしてシシナと、彼女指揮下のイー・ライ。
現代の一般常識から大きく乖離した、非現実的きわまりない一団によって企てられる、たのしいたのしい悪巧み。
他人様には(たぶん)迷惑を掛けないので……どうかお目溢しとフォローの方、何卒宜しくお願いします。
もうちょっとだけつづきます。