【本編完結】デビアス・ピースキーパー 〜異星文明製ガイノイドとして蘇生されましたが魔法少女に追い掛け回される日々を送っています〜   作:縁樹

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■国家指定対災調査員事務局 関東第一支部

 

 

 

 この世界に受肉を果たし、災いを(もたら)す『(混沌)』の存在である『災魔』。

 その対処を主任務とする国家指定調査員、俗称『魔法少女』。

 そんな『魔法少女』達の職場にして、詰所にして、司令部にして、溜まり場でもある多目的拠点……通称『アトリエ』。

 

 首都東京を管轄エリアとする関東第一支部、その会議室に突貫工事で設けられた『特級災魔対策室』……の隣の小会議室。

 そこでは、つい先だって国家存続を揺るがす程の危機を乗り越えたにもかかわらず……ただただ重苦しい空気に満たされていた。

 

 壁を一つ隔てた向こうでは、上役の大人達があちこちへ連絡と返礼に奔走しており、慌ただしい空気は壁一枚挟んでも伝わってきているが。

 既に重大な、命懸けでの役目を終えた彼女達までは……さすがにその責務は降ってこない。

 

 

 

「それで、だが…………やっぱり間違い無ェ。今日ので確信したわ」

 

花蓮(かれん)さん……じゃあ、やっぱり……」

 

「あァ。アイツは……【イノセント・アルファ】は、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 突如として地球外縁軌道上に出現した、漆黒の巨人を模した特級災魔。

 比喩ではなくこの国の存続を賭けた戦いに勝利し、凱旋を果たした魔法少女達であったが……その表情は一様に晴れなかった。

 

 常に明るく賑やかで元気を振り撒いている【跳兎(レポリス)】ならびに【導犬(マイリア)】の二人組であっても、今回ばかりはその限りでは無かった。

 

 

 その理由こそ、今回の作戦における前線指揮官を全うした魔法少女【アクアリス・グレイシャー】によって共有された、ひとつの報告。

 これまでは彼女が遠巻きに観察した限りであり、信憑性も然程(さほど)高くはなかった仮説の裏付けとなってしまった……聞く者の心を()し潰して余りある報告。

 

 それは……【イノセント・アルファ】およびその妹と目される人物は、『その心臓に危険な爆弾を抱えている』というものであった。

 

 

 

「私の権能は知っての通り、液体の()()に関連するモノだ。まァつっても血流の流れやらをハッキリ視れるワケじゃ無ェが……普通の人であれば規則正しく刻んでいる筈の心拍が、アイツからは感じ取れなかった。鼓動が『無い』か、もしくは常人とは比べ物にならないくらい『弱い』か。……以前上げた報告が信憑性帯びちまったワケだ」

 

「あ、あのっ、……アルファちゃん、最後、魔物(マモノ)倒して消える前……あの子、とても苦しそうに、胸押さえてて……」

 

「私も、見ました。……顔面蒼白、っていうか……血の気の引いた、すごく苦しそうな顔で、胸を……」

 

「アルファちゃん…………ここんとこ見れなかったのは、病気が悪化して?」

 

「その可能性は高いだろうな。まァ『死亡説』なんざ最初(ハナ)っから信じたか無かったが……けど、今回は例の()も出て来なかったんだろ? ……そうだな? 【神兵(パーシアス)】」

 

「…………はい。数日前に会ったきりで……そのときも『きっとわたしは戦えないから』って」

 

「戦えないほどの容態…………アルファさんだって、大丈夫なわけ無いでしょうに……あんな無茶して……!」

 

「隕石落下の衝撃を一人で防ぎ切る、ってなァ……見事ではあるが、それ以前に『やり過ぎ』だ。……助かったのは事実だけどよ」

 

 

 

 専門家の分析によれば……今回の『隕石』落下に際し、その突入速度は毎秒18kmにも達するものだったという。

 表面剥離による体積減少もほとんど見られず、発見されたときの大きさをほぼ維持したまま大気圏を突破。

 落着にあたっておよそ500キロトン、原子力爆弾の20倍以上のエネルギーが大気圏内に解放され、空震と津波による被害は想像を絶する……ハズであった。

 

 

 病を押して単身出陣し、隕石落着の現場にて我が身を顧みず『防壁』魔法を行使し、被害をたった一人で抑えきった……真白く気高い彼女の存在が無ければ。

 

 

 しかし……そんな彼女【イノセント・アルファ】も、特級災魔撃退後の行方は杳として知れぬまま。

 魔法少女達が撤収し、勝利を讃えられ、各々が一休みして、再び顔を合わせてみても……その事実は変わらなかった。

 

 

 

「…………今度こそ……死んで()ェだろうな」

 

「っ! そんな! 縁起でもない!」

 

理解(わか)ってッけどよ! …………つっても、確かめようが()ェのは事実だろがよ……!」

 

「…………それは……そう、ですけど……」

 

 

 

 地表ではなくほぼ地球外という高高度に出現し、人々を脅かした特級災魔(サイマ)の排除に成功した。

 迎撃に出た魔法少女達の働きによって、国土への接近とそれに伴う被害を未然に防ぐことが出来た。

 

 世間一般ではそのように捉えられ……今回の作戦に参加した魔法少女達へは、国内外問わず各方面から感謝と称賛の声が寄せられている。

 ……世間はそんな状況にありながら、しかしながら彼女達の気持ちが晴れることは無い。

 

 

 自分たちよりも称賛されるべき者が居るということ。そしてその者が、自分達の手の届かないところで苦しんでいること。

 そして何よりも……そのことを知ってなお、自分達には何も出来ないということ。

 鍛錬を積み、魔物(マモノ)を倒すための力は蓄えられても……好きになった子を幸せにすることは出来ないということ。

 

 どう足掻いても抜け出せない、決して出口が見つからない思考の沼。

 (くら)く冷たいどん底に……彼女たちは沈み、抜け出せずにいた。

 

 

 

 

 …………が。

 

 

 

 

「…………探そう」

 

「えっ?」

 

 

 だが……諦められない。諦めたくない。

 

 不器用なあの子を。口の悪いあの子を。態度ばかり大きく、人の話を聞かず、頑固で生意気で意地が悪くて……でも、とびきり優しく高潔なあの子を。

 

 自分達のことを、この国のことを、こんなにも愛してくれた【イノセント・アルファ】を……我が身さえ顧みることのない、危なっかしい彼女のことを。

 彼女との縁を、絶対に諦めたくない。

 

 

「私は……諦めません。もう一度会って、ちゃんとお礼を言って…………そして、ちゃんと名前で呼んでもらうまで! 絶対に諦めません!」

 

「あ……あたしも! あたしも名前で呼んでもらいたい! あっ、あといっしょにごはん食べに行きたぁい!」

 

「……まァ、私も色々と言いたいコトぁ在るし、な。探すのは吝かじゃ無ェ。……まー私ァ名前で呼んで貰ったがな」

 

「「「「は?」」」」

 

「うわ怖ェ怖ェ」

 

 

 

 ……探そう。あの子の……【イノセント・アルファ】の痕跡を。

 大好きなあの子を諦めないで、技を磨いて。この街を……この国を守りながら。

 だから今は、顔を上げて。

 

 あの子が守ってくれたこの国を、今度は自分たちが守っていこう。

 そして、いつの日がきっと……元気になったあの子に、心からの『ありがとう』を伝えよう。

 

 

 たとえ数年掛かっても……数十年掛かったとしても。

 私達は、絶対に諦めない。

 

 

 共通の目的を掲げ、より一層の連携をと再認識した魔法少女達は。

 伏せていた顔を上げ、前を向いて……気持ちも新たに踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

















 しかし……彼女達が掲げた希望は。

 いつ至るとも知れぬ未来を見据え、不屈の決意で打ち立てた願いは。





 あっけなく、打ち砕かれることになる。





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