【本編完結】デビアス・ピースキーパー 〜異星文明製ガイノイドとして蘇生されましたが魔法少女に追い掛け回される日々を送っています〜   作:縁樹

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国家指定対災調査員事務局 近畿第一 【その2】

 

 

 

 この世界に受肉を果たし災いを(もたら)す『(混沌)』の存在である『災魔』の対処を主任務とする国家指定調査員俗称『魔法少女』達の職場にして詰所にして司令部にして溜まり場でもある多目的拠点、通称『アトリエ』。

 

 日本全国に点在するその『アトリエ』のうち……いったい誰が言い始めたのか『我の強い』面々が揃うと噂されるここは、近畿第一支部。

 オフィス街の高層ビル内低層部に居を構えるこちらは、所属の魔法少女たちにも「オシャンティでイケイケやん」と大好評の、近畿管区どころか全国でも屈指の花形支部である。

 

 

 ほんの数日前までは、所属の魔法少女【ドラコニス・カルディナル】の負傷によって、緊迫した空気が漂っていたのだが。

 当の本人の負傷も快癒し、また怪我を負わせた原因に関しても懸念はことごとく解消したとあって、幾分か和らいだ……いつも通りのホンワカした空気に包まれていた。

 

 

 そんなホンワカの出どころの一つである、歓談中の魔法少女二人組。

 彼女達の話のネタは……ここ最近魔法少女らの間で話題となっている、まさにそれであり。

 

 いつも何かにつけて話題を提供してくれる『白銀姉妹』が、どういう手段を用いてか抱き込んできた、新たなる協力者に関するものである。

 

 

 

 

「でも……ホントに良かったん? ドラ子ちゃん」

 

「もちのろんよ。私は何も気にしてないよぉ」

 

「……まぁ……ドラ子ちゃんがそう言うなら」

 

「もー……心配性だねぇ、おペイちゃんは」

 

 

 

 おペイちゃんこと魔法少女【麗女(カシオペイア)】が危惧するのも、無理からぬことであろう。

 たとえ彼女達が全幅の信頼を置いている【イノセント・アルファ】による仲介とはいえ、顔を合わせたのは『人体を侵食する金属』を操る謎の敵だった少女なのだ。

 

 親しい友人が目の前で、腕の傷口から壊死していくかのように白く染まっていく光景。……あの画は一度見てしまったら、そうそう忘れられるものでも無い。

 

 

 ……とはいえ、【麗女(カシオペイア)】とて件の協力者の少女『シシナ』が憎いかと問われれば、別にそういう訳でも無いのだ。

 かつて自分達に襲い掛かってきた、化け物じみた少女とは似ても似つかぬその雰囲気。

 確かに、表情を顔に出すのは苦手そうな子ではあったが……物静かながらも礼儀正しいその言動からは、端々に『心から申し訳なく思っている』様子が見て取れる程で。

 

 加えて……かの少女が自分たちに襲い掛かってきた、そもそもの理由。

 自我を喪う程に身体を弄くられ、他者の意の儘に異能の力を振るうことしか出来ない、被害者であったということを知らされてしまっては。

 根が優しい【麗女(カシオペイア)】の少女にとって、かの少女を憎むことなど……もはや出来そうには無かった。

 

 

 

「だけども……やっぱり【神兵(パーシアス)】ちゃんは『おこ』だったみたいねぇ?」

 

「そらそーやろうねぇ……アレどう見てもアルファちゃん『何か隠してる』のバレバレやったし」

 

「はー怖い怖い。触らぬ【神兵(パーシー)】に何とやら、私は【アルゴル】されたくないもん」

 

「…………アルファちゃん本人は……まぁ、あの子が口を割るわけ無いやんなぁ」

 

「強情だもんねぇー」

 

 

 

 かつて敵だった少女が改心し、心強い仲間となる。それは別に良い。

 

 呪われた力を持たされた少女が、凄惨な過去を乗り越えた。それも良い。

 

 

 生真面目な【神兵(パーシアス)】が、こうもあからさまにおヘソを曲げているのは。

 また彼女のほか複数名の魔法少女達が一様に、言葉に出さずとも気にしている点とは。

 

 初めて遭遇してから間もない未知の敵組織に対し、その一員を味方に引き込むことに対する()()()()()()()()()()()が垣間見えてしまったからであり。

 

 そこから推測できてしまう一つの過去について……本人は頑なに、何一つとして語ろうとしないことに対してであった。

 

 

 

 そうして口を閉ざしたままの【イノセント・アルファ】を、多少は深く知っているつもりの者たちが、今回の一連の騒動の報告を受けて抱いた認識とは。

 ずばり……【イノセント・アルファ】もまた『シシナ』同様に『被験体として扱われた過去を持ち、それを頑なに隠したがっている』という、半ば確信に近い推測である。

 

 

 人体実験の被験者であるというシシナについて、日本政府でさえ知り得ない情報を持っていたのは……他ならぬ自分自身が、かつてその立場であったからであり。

 

 日本国内で活動を始めた『奴ら』に反応し、直ぐに行動を起こして『奴ら』の気勢を削ぎに回れたのは……かつての古巣の遣り方をよく知っていたためであり。

 

 被験体『シシナ』を組織の手から解放し、彼女の未来のためにあれこれと精力的に動いているのは……同じ過去を持つ者として、見捨てることは出来なかったから。

 

 

 

 言われてみれば確かに、彼女たちの髪色は綺麗な銀髪……それこそ()()()()()()()()()()()()を備えてはいるが。

 その色とは、それこそ先の戦闘において『シシナ』の振るっていた爪や……そこから拡がった侵食の色や光沢と近しいものである。

 

 

 それに、日本人離れした『アルファ』の相貌は、確かにシシナと同系統の……北欧系と表現できる顔立ちのようにも感じられる。

 

 

 

 今日ここに至るまでの間で、ここまでの判断材料が揃っているのだ。

 それら推測の全てが的中しているわけでは無いにしろ、全く的外れという訳でも無い筈だ。

 

 

 つまり【イノセント・アルファ】および【ディスカバリー】と呼ばれる少女達は……かつて無慈悲な人体実験の被験者として、その人生を弄ばれた被害者であり。

 

 身体機能を増強する【変身】を常用せねばならぬ程に、その幼い身体を蝕まれておきながら。

 

 その環境から二人っきりで逃げ出し、しかし腐らず、授けられた力を人々のためにと振るい。

 

 自分の同輩のために心を砕き、この国のために魔物(マモノ)との戦いに身を投じる……清廉で崇高な心の持ち主である、という認識である。

 

 

 

 どうやら過去のことを隠したがっているらしい【アルファ】本人は、頑なに認めようとはしないだろうし……どれ程問うたところで、答えてくれることは無いだろう。

 

 彼女の過去について、正解が明らかになることは無いのだろうが。

 たとえ過去がどうであれ、仮にその来歴が誇れるものでは無かったとて……それでも魔法少女たちにとって、彼女の存在が得難いものとなっていること。そこは一切揺るがない。

 

 

 

「…………よし、決めた。アルファちゃん会ったら、今まで以上にイイコイイコしよう。わたしもそろそろ謹慎解けるし――」

 

「謹慎やない、療養やって。もー、このおばかちゃんはもー……」

 

「だ、だってぇ! ケガそのものは【医神(おひー)】ちゃんに治してもらったもん。なのにおシゴトできないの、あれもう謹慎でしょぉ……」

 

「術後の経過観察やて。……まぁ我慢の日々ももうすぐ終わるし、バリバリ頑張らんとなのは同意やけども」

 

 

 

 頑固で我の強い【イノセント・アルファ】に、お説教が通用するとは思えない。

 自らを多くの謎で覆っている彼女は、おそらく今後も危なっかしい……それでいて善性に満ち溢れた言動を繰り返すことだろう。

 

 彼女にそれを『やめろ』と命令する権利など、この世の誰にも在りはしない。

 危なっかしいくらいの『良い子』である彼女は、たとえ自らを危険に晒そうとも、その歩みを止めようとはしない。

 

 

 ……ならば、せめて。

 彼女【イノセント・アルファ】が、少しでも日々を楽しく過ごせるように。

 

 あの子が何かをやり遂げたときには、心の底から称賛しよう。

 あの子が何かをやらかしたときには……自分たちも全力で、喜んで手を貸そう。

 

 自分たちが助けられた分……いや、それ以上に、愛らしくも危なっかしい『アルファちゃん』の助けとなろう。

 

 

 ……そのためにも、まずは。

 

 

 

「…………いきたいなぁ、ランチデート……もーっと『お近づき』したいなぁ」

 

「……アルファちゃんも、ちゃんとお手当貰えるようになったもんなぁ。……お腹空かせることが無くなったんは、単純に喜ばしいことなんやろうけど」

 

「もう、こうなったらさ、直接ストレートにお願いしてみるのはどうかなぁ? 『ランチデートしてください!』って」

 

「…………いや、アリかもしれん。なんだかんだであの子結構優し(チョロ)いし、ドラ子ちゃんの快復祝いとか理由つけたら」

 

「んふふふふっ。ちょっと連絡取ってみるね! ……いやー便利になったよねぇ、好きなときにアルファちゃんと連絡取れるなんて」

 

 

 

 

 まずは……あの子達『白銀(シロガネ)姉妹』と、色々な意味で『お近づき』になっておきたい。

 

 それは恐らく、日本国所属の国家指定調査員……俗称『魔法少女』の皆が、大なり小なり抱いている気持ちであり。

 内に秘め(たり曝け出したりし)ている、心からの願望であり、希望であった。

 

 

 

 

 

 

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