あこが遊びに来た翌日。
やることも無いためあこを送りに行く叶恵に付き添おうと思っていたところで萩澤からメッセージが入り叶恵達と途中で別れて呼び出された場所へと向かうことに。
向かった先は昨日も来た商店街のこれまた昨日気にしていた羽沢珈琲店。
初めて来る店だからと少し入るのに躊躇っていたら中にいた萩澤が出てきて半強制的に店内へと招かれた。
「いらっしゃいませ! ……って、奏君?」
「羽沢……そうか」
中に入るとエプロン姿の羽沢が席へ珈琲を運んでいた。
店名からそんな気はしていたけどここは彼女の家族がやってる珈琲店、ということだろう。
「お好きな席へ、と言いたいけど待ち合わせ?」
「そんなところ、萩澤達と相席するよ」
「うん、それじゃあご注文決まったら呼んでね」
そういうと羽沢は店の奥へと入っていき、俺は萩澤に押されて席の方へと連れていかれた。
そこには既に萩澤と一緒に来ていた桜丘が妙に真剣そうな表情を浮かべていた。
「……羽沢さんとどんな関係は聞く前に僕たちの問題を解決してもらいましょうか」
「美竹関係だよ、それ以上は無い、それで緊急事態ってなんだよ?」
「また美竹と何かあるのか!?」
「違うしまたって言うな」
2人に変な誤解をされてそうな言い方を繰り返されたが全く違うため軽く流す。
美竹のバンド、Afterglowのメンバー、それぐらいしか彼女のことは知らないしまだほとんど話したことすらない。
そんな俺のことはさておき、桜丘達の問題というのは……
「話を戻すけど、2人の問題ってなんだよ?」
「それはズバリ……これです!」
バァンという音が聞こえそうな勢いでテーブルに置かれたのはこの店のメニュー表、その一つの『期間限定メニュー』と書かれたもの。
そこには2種類のケーキが載っていてどちらも美味しそうだけど、これのどこが問題なのかと思っていると桜丘が説明を始めた。
「どちらを食べるか選べないんですよ」
「……は?」
「だから、どちらを食べようかと彼と話したんですが決められなくてですね」
「決められないって……」
「俺ら2人で同じやつ頼んだらもう片方食べれないだろ? でももう片方食べたくてよ」
そんなことを真面目に、真剣に2人は言う。
ただそれだけの事で呼ばれたという事実が見え隠れしたがそれを一旦押し殺して2人に案を出す。
「……2人で別の頼んで二つに分ければいいだろ、それか二つずつ頼めば」
「お前……」
「天才ですか?」
2人は俺の提案にその手はなかったと言葉を足しながら俺の手を掴んできた。
天才も何も無いし普通に考えれば出てくると思うんだけど……出てこなかったみたいだしそこは黙っておこう。
「奏君、注文決まった?」
「あぁ、悪い……コーヒーと、2人にこの期間限定のケーキをお願い」
「はーい、少しお待ちください」
あまりにも衝撃だったのか未だ俺の手を掴んだままのためそれを無理やり剥がしてその様子を見ていた羽沢に自分の注文と二人が悩んでいたケーキを代わりに注文する。
そんな放心するほど意外な答えを出したつもりは無いんだけどね?
「お前ら、人を神みたいに崇めるなって、それに俺ら以外にも客はいるんだぞ」
「天才ですよあなたは……で、他にお客さんいました?」
「ほらあそこ、今目背けたけど」
俺が指したのは店の端っこでコーヒーカップ片手に窓の外を眺めてる朱色の髪の女の子。
俺が店に入ってからずっとあの子がこちらに目線を送ってきていたため気になってはいたがいざあの子に目線を向けると即座に目を背けて今のように窓の方を見て誤魔化そうとしている。
「たまたまこっちみてただけでしょうよ、知り合いでもないなら気にしない方がいいですよ」
「そーだぞ、お前ただでさえ女たらしみたいな動きしてるんだから」
「女たらししてねぇよ」
萩澤の発言に何故か奥の女の子が「えっ」と口に出していた気がするが、きっと気のせいだろう。
変な勘違いされてないといいけど……
「お待たせしました、コーヒーとケーキふたつです」
「おっ、キタキタ」
「ありがと、羽沢」
2人のせいで変な空気になりかけたところで羽沢が注文したものを持ってきてくれた。
萩澤たちの前には彼らが悩んでたふたつのケーキが置かれたが、何故か俺の前にもケーキが置かれている。
「俺の分は別によかったんだけど……」
「蘭ちゃんの話し相手になってくれてるお礼、かな」
「お礼されるほどのことはしてないけどね」
青葉と同じように羽沢も美竹と話したことに対して感謝を述べてくる。
俺としてはただクラスで孤立してる人がすぐ隣にいるっていう環境が嫌だったのと、明らかに落ち込んでた美竹を放っておけなかっただけなんだけど。
「それでも! わたしなりのお礼をしたいから、ね?」
「そこまで言われたらな、それに出されてるわけだしいただくよ」
「うん!」
ケーキをサービスしてもらうほどのことはしてないと断ろうとしても一切引き下がらない羽沢の勢いに負けたのともう既に出されたものを返すことはしたくないためケーキを食べる。
そんな俺と羽沢のやり取りを見てた萩澤達がなにか言いたそうな顔をしていた。
「……なんだよ」
「やっぱ女たらしですよね」
「違うわ」
「じゃあ美竹だけじゃなく羽沢さんとも仲良いってどういうことですか」
「説明するから落ち着け」
面白いものを見たとニヤニヤしてる二人がずっとイジって来るため誤解を解くためにも初日以降何があったのかを簡潔に説明することに。
美竹と仲良く──友達になって青葉や上原、巴、羽沢とも友達になり昼食を一緒に食べたりする関係になって少し経って昨日、彼女たちの組んでいるバンド、Afterglowのサポーターという立場になった、と。
「女たらしでは無いんだな」
「だからそう言ってるだろ」
「それにしてもバンドのサポーターですか、中々面白いこと始めましたね?」
「何するかはまだ決めてないけどな、それでもAfterglowの力になれたらいいなって」
「ふーん……」
「なんだよその反応」
ケーキを食べながら俺の話を聞いてた二人はさっきと態度を変えて感心したような反応を見せる。
萩澤は急にニヤニヤしたかと思えばケーキを食べ終えて立ち上がって手を伸ばしてきた。
「俺は難しいことわからないけど、奏がやろうとしてることに微力ながら応援させてくれ」
「バンドのサポーターってだけだぞ、大袈裟じゃないか?」
「そうかもだけど何かあった時のちょっとした手伝いぐらいは出来ると思うんだよ、そういうのでいいから応援させてくれって話だ」
「よく分からないけどわかったよ、それで頼む」
バンドのサポーターの応援という謎の関係を組むことになったが、妙にやる気だし断る気もないしまだ知り合ってまもないが萩澤は頼りになる……はず。
そんな俺と萩澤の話を横で見てた桜丘は呆れたような顔で俺の方を見てくる。
「萩澤君がそうやるなら僕も君の応援しますよ、もちろん手伝えることは少ないですけど」
「お、おう……?」
少し嫌そうにしながらも萩澤と同様に応援してくれるとのこと。
変な関係を組んだな、と思いながらコーヒーを口にする。
ふと視線を横にずらすとさっきの女の子と目が合ったが、またすぐに顔をそれされてしまった。
萩澤雄登、桜丘洋輝がなかまになった!
というのは冗談で、Afterglowのサポーターを担当する奏が困った時に色々手伝うぜ!って話です
それではまた次回。