思い出は夕焼けとともに   作:桜花 如月

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まずは知ること

 Afterglowのサポーターというふわっとした役割を与えられてから何度目かの休日、AfterglowはCiRCLEにてバンド練習をしていた。

 もちろん俺も現状は聞くだけになっているものの参加して何度か聞くうちに感じ取れるようになった曲の違和感をメンバーへと伝えることをしている。

 

「……さすがに休憩しよっか」

「さんせ〜」

 

『ScarletSky』をフルで止めずに弾き終えたところで美竹がギターを置いてタオルを首に巻いた。

 一休みと部屋の隅に置いてあるペットボトルに手をかけた美竹が「あっ……」と声を漏らしたためよく見てみると既にペットボトルは空で予備も無かった。

 

「俺飲み物買ってくるよ」

「別にあたし達で買いに行くけど」

「2時間ぶっ通しで弾いてたんだから少しは休んだ方がいいって」

 

 ずっと座って聞いていただけでそこまで気を使えなかったことが申し訳ないため買いに行こうとしたら「それぐらいやるよ」と言いたそうな顔で止められたが彼女たちは全員2時間一切休まずに練習していたからさすがにここで引き下がる訳には行かないためそのままスタジオの扉を開けようとしたら肩をつかまれた。

 

「かーくんだけじゃ6人分持てないだろうからあたしも行くよ〜」

「ペットボトルぐらいなら持て「ほらほら〜」ちょっ、押すな!?」

 

 振り向くよりも前に肩をつかんだ張本人──青葉に拒否権なく外へと連れていかれた。

 部屋を出る直前、振り向いた先で呆れた様子の4人が見えた気がするが、多分気のせいだろう。

 

 

 

「マカロンタワーって中で食べれますー?」

「さすがに外で食べてもらうことになっちゃうね」

 

 青葉に背を押されたままCiRCLEの外に出ると併設されているカフェの受付にいる茶髪のパッと見女子高生と店員のそんなやり取りが聞こえてきた。

 中というのはスタジオかロビーということだろうが、マカロンタワーなるものを中に持って行こうとしてるのか……? 

 

 

「かーくん〜? 早く買わなきゃ怒られるよ〜」

「だから押すなって」

 

 カフェのやり取りが少し気になり立ち止まった俺を青葉はカフェ横にある自販機まで無理やり押して到着と同時に手を離した。

 急に押されなくなったことによりバランスを崩しかけたがなんとか倒れることなく体勢を直して自販機の飲み物を選ぶ。

 

 

「……みんな何飲むか聞いてないな」

「そんなことだろうと思ったよ〜」

 

 いざ買おうと財布を取り出してから一番重要なことに気づく。

 買ってくるよ、と言ったものの青葉含めた5人の好きな飲み物と苦手な飲み物を、そして今のみたいであろう飲み物を全く把握していない。

 全員同じものを買っていけば解決するかもしれないが、その中に誰かが苦手だったりすれば再度買う必要が出るし何より本人へ迷惑をかけてしまう。

 

「そうなると読んでモカちゃんが来たんだよ〜、てことで順番に言ってくからそれ買ってね」

「そういう理由だったのか……ありがとな」

「それほどでも〜」

 

 完全に忘れていたことを先読みしていた青葉がそれぞれが飲むであろう飲み物を順に言っていき俺がそれを一つずつ購入。

 最後に俺の分を買ったところで購入したものを改めて確認する。

 コーヒーとココア、コーラにお茶、そしておしるこ、これだけ見ても誰がどれを飲むかは全く予測出来ない。

 そんな俺の心を読んだのか、青葉はニヤニヤと俺の顔を覗き込んできた。

 

「どれが誰の飲むものかわからないんでしょー?」

「……ご名答」

「せっかくだからモカちゃん先生が教えてあげる〜」

 

 そういうと青葉は近くの机に飲み物を置いてひとつずつ手に取る形で誰が飲むかを紹介した。

 コーヒーが美竹、ココアが上原、コーラが巴、お茶──緑茶が羽沢、そしておしるこが青葉。

 こう聞くと予想とは見事に違ってるし休憩時間におしるこ飲もうとする青葉にびっくりしている。

 

「みんなのこと、もっと知りたい〜?」

「そりゃあ、まぁ……」

 

 Afterglowの一員として、そして友人としてこれからも関わっていく相手のことを何も知らないまま過ごすのは嫌だ。

 だから些細なことでも、趣味や特技でも知っていきたい。

 

「教え──」

「教えてもいいけど……みんなを知るなら直接聞いた方がいいんじゃないかな?」

「直接……」

 

 今思えば、美竹と青葉はともかくとして他の3人とはほとんど話したことすらない。

 ここで青葉に全員のことを教えてもらうよりも対面でしっかり話す方がお互いを知ることが出来るはずだ。

 そうと決まればすぐ実行……といきたいがそんな俺の気持ちすら読んだ青葉が俺の肩に手を置いた。

 

「まーまー、そう焦らなくていいと思うよ〜?」

「……それもそうか」

「そーだよ、ゆっくり知っていこうよ」

 

 出会ってから1ヶ月程度しか経ってないし、これから少なくとも3年は関わり続けるだろうから、そこまで焦る必要は無いかもしれない。

 だから今は少しずつ、時間をかけてみんなを知る……か。

 

「ということでとりあえずスタジオに戻ろっか」

「そうだな、けっこう時間経っちゃったし怒られそうだな」

 

 飲み物当てをしているうちに休憩始めてから既に15分が経っている。

 幸いなことに呼び出しは無く、その代わりさっき月島さんが外に出てきていた、多分美竹たちに言われて探しに来た様子だった。

 さすがにこれ以上待たせると本気で怒られそうだから買った飲み物を2人で分担して持って中に戻ろうとしたところで足を止めて後ろを見る。

 

「……そこの人は何でこっちみてるんだ?」

「うぇっ!?」

 

 話しかけるとは思ってなかったようで変な声を上げたのはさっきカフェの受付でマカロンタワーを注文しようとしていた茶髪の女子。

 誰が飲むかを考えてる時からずっとチラチラとこっちを見ていたからさすがに気づいてたし、俺らが話してる間何故か少しづつ近づいていたからさすがに気になった。

 

「いやぁ、別に何か企んでるとかは無いよ?」

「怪しいんだけど」

「ボクはただ君を──あ、いや……ほらこれ! これあげたくて!」

 

 何か言いかけたのを誤魔化すように肩にかけたバッグから小袋を取り出して俺へ渡してきた。

 急に渡されどうすればいいのか困惑していると彼女は逃げるように立ち去り……CiRCLEの中に入っていく。

 

「かーくん、今の人は誰〜?」

「……いや、初めて会う」

 

 昔どこかで会った、という訳でもない。

 何が目的だったのか分からないが、害はないだろうからそこまで気にしなくていいだろう。

 

「かーくんのファンだったり?」

「それは無いだろ、Afterglowはともかく俺はバンドやってるとかないし」

「それもそっかー、それより早く行こ、蘭がメッセージで怒ってる」

「それはまずいな」

 

 青葉のスマホには「なにしてんの?」と美竹から一文だけ送られてきている。

 それに対して「今戻る〜」と返しているが返信はない。

 本当に怒られる気がするが、そこは腹を括るしかなさそうだ。

 

 と、腹を括りスタジオへ戻る途中でさっきの茶髪の子が隣のスタジオへ入っていくのが見えた。

 

 

 話しかけに行くわけにもいかないためそのままAfterglowが使っているスタジオへ入り、しっかり怒られてその後に練習を再開した。




何も知らなければ接し方もわからない。
だからまずは知っていく。
そんな彼はこれから少しずつ『Afterglow』を知っていく。
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