休日、Afterglowの練習もなくかといってやることも無い俺は散歩がてら家の近くにある川沿いを歩いていた。
春は桜の名所と呼ばれているこの地もすでに桜は散り、それでも他に比べると少し心地よい風が吹いている。
「話す、か……」
川沿いを歩いていく道中にある小さな公園のベンチに座りそんなことを呟く。
数日前、練習の休憩時に青葉に言われたこと、各メンバーと一度話をしてみよう、というアレ。
かといって話をしよう、と切り出すにもいきなりすぎるしそこまで話題もない。
だけど今のままだと青葉含めあの5人のことを何も知らないで一緒にいる、サポートとして活動することになる。
それは、本当に正しいのか、そう思ってしまう。
「……どうすればいいんだろうなぁ」
一人天を仰ぐ、考えれば考えるほどどうすればいいのかわからなくなっていく。
すると、聞き覚えのある声が足音とともに近づいてくる。
「あれ、奏じゃん、こんなとこで何してるの?」
「上原?」
声の主はAfterglowのリーダー、上原だった。
学校のジャージを着て首にはタオルをかけて少し息があがってるのを見るとランニングでもしてたのだろう。
「こんなとこで何してたの?」
「ちょっと考え事、そういう上原は?」
「ランニングだよ、ちょっと……色々あるから」
読みが当たったが何故か上原は目を逸らしながら小声になった。
変に詮索するのはなにか失礼な気がするため下手に話題を広めることなく再び天を仰ぐ。
すると上原は俺の横に腰を下ろして深呼吸する。
「考え事っていうのは、Afterglowに関して?」
「なんでわかっ……当人たちに聞かれたくはなかったんだけども」
「えー、隠し事?」
「違うよ、そういうのじゃない……けど」
相談するにも本人にどうすればいいなんて聞くのは違う、そうわかってはいるもののかといってこれといった解決法も見つけられずこうして迷うことになっている。
ならばいっその事、聞いてしまうのがいいのだろうか?
もちろん、青葉に言われた通り焦る必要がないのも理解はしているが、どうしたものか
「そんな深く考え込むようなことなら伝えてくれた方が私も蘭やモカも助かると思うよ、変に考え事してると特にモカは即座にわかると思うし」
「……なら、ここだけの話にしといて欲しいんだけど」
ひまりの「話して」と言わんばかりの目線に圧されて他のメンバーには話さないという約束で迷っていることを打ち明ける。
「なぁんだ、そんなこと?」
「そんなことって、お前……」
俺の説明を聞いた瞬間、少し苦笑いを浮かべながらちょっとした安堵の声を漏らした上原はそんなこと、と俺の悩みを軽いものと言わんばかりの言葉を吐いた。
「奏が私達のことを知らないのと同時に、私達だって奏の事はまだよく知らないよ? あこちゃんと仲のいい妹さんがいることと、ScarletSkyの情景に涙したぐらいしか、私達も知らない」
「そう、か……」
「そういう話をまだしてないからっていうのはあるけど、奏のことを、私達のことをお互いに知っていかなきゃ」
そうでしょ? と上原はウィンクする。
まったくもって彼女の言う通り、俺もAfterglowのメンバーに自分のことを話してないしそんな状態で向こうのことを知ろうなんてのはそりゃ無理がある、そんなこと考えればわかることだ。
「ということで! 奏の事を教えて!」
「いきなりだな……」
「こういうのはすぐ実行するのがいちばん! でしょ?」
「まぁ……そうか」
上原は俺の顔を覗いてきた。
はやくー、と催促するような表情でチラチラと見てくるため一旦深呼吸してから話を始める。
とは言ったが、俺は特にこれといってなにか特別な生い立ちなんて無い。
Afterglowのように一緒に何かをし続けているわけでもなければ自慢できるような特技も一切ない。
「じゃあ奏はどうして羽丘に?」
「え、それは……」
高校を決めた時は、叶恵の通ってるとこだから、とか特待生制度があるから、とかそんな理由で探して羽丘にした。
そこに、自分の意思はなかった……のかな。
「……俺の家はさ、両親が共働きで仕事が忙しいからって基本的に家にいなくてさ」
だから妹、叶恵と二人で家事を分担して頑張って生活してきた。
もちろん生活に必要な金や学費はちゃんと払ってもらえてるし、二人で住めなんてことも言われてないから特に不便なことはなく高校生に(叶恵は中三に)なった。
まぁ、色々と忙しくてちゃんと青春と呼べるものは送れてなかっただろうし、私生活も家のことで時間が潰れていたけど、それも今となっては慣れたこと。
「奏はそれでいいの?」
「なにが?」
「妹さん……叶恵ちゃんもそうだけど、もっと色んなことしたいって思わないの?」
「別に、俺は……」
そこまで言いかけて言葉が詰まる。
ただ学業に励んで、普通に生活すればいいと、そう思って過ごしてきた。
はず、なのに。
俺はずっと、なにかが足りなくて。
買い物で商店街に行けば
それを、当たり前だと
──やくそく、だよ?
ふと、ある日の景色を思い出す。
俺は、夕凪奏は。
ただ何もしないままの高校生活を過ごすため、親のために学費を少しでも減らすため……はあるけど、それだけで本当にいいのか?
それだけなら、Afterglowと関わろうとなんてしない。
それ以上に、良くも悪くも目立つことなんてしなくていいだろう。
「そう、か……」
目標、と呼べるものではなくても。
つまらないと、そう思っていたこれまでとサヨナラするためにも、俺は。
「上原、ありがとう」
「えっ?」
「せっかくの高校生活、やりたい事見つけなきゃ損、だよな」
白紙で終わるつもりだった青春というものに、俺の──俺
そう、決めた。
なにをするかはこれから見つければいい。
なんなら、バンドを始めるのもいいかもしれない。
「これからも頑張ろうな、上原」
「もーなにそれ、でもまぁ、うん……Afterglowの一員として、よろしくね奏」
言われてから気づいた俺の非凡な日常は、新たな一歩を踏み始める。
「そういえば、なんで苗字呼びなの?」
「うっ……それは……」
人付き合いが近所や商店街の人達くらいだったから慣れない、なんてことは恥ずかしくて言えない。
「内緒、うん」
「え、巴だけ名前呼びなのに!?」
「それは色々複雑な……まぁ、でも……」
Afterglowのメンバーを名前で呼ぼうと心がけてはいたけど、改めて決めた。
「それで、上原は?」
「私? 私の話か……まず、私はAfterglowのリーダーで」
「えっ」
上原の一言目に普通に衝撃を受けながらも彼女からメンバーのことも含んで色々な話を聞き、この日は帰路につくことになった。
次の日。
俺は、Afterglowメンバーに振り回される休日を送ることになって
ふと気づけば、退屈があって。
その溝は、自分では気付けないもの。