『おちょくり作戦』が成功し、辺り一面草原地帯を大洗チームの戦車は走っていた
「『…ここで飯を食うのは最高だろうな』」
とケルツが呟いた。
「『風も心地良い。このタイミングならとても最高だな』」
「『草原を走った事はありませんね』」
「『荒れた建物の瓦礫しか走った事はありませんが』」
口々に言うメンバー。ハートマンとシュローダーは瓦礫の建物以外しか戦車に乗った事は無かったが
『あんこうチーム、左折します。ついてきてください』
そこへみほからの通信が入ってきた
「『ケルツ、左折した先は?』」
「『この先は川だ。ショートカットしようとしてるんだろう』」
「『ふむ……ケルツ、あんこうの後ろに続け』」
「『了解』」
左折して、坂を降り始めたIV号を追うように、ティーガーIIも後に続く。他の車両も続いて坂を降り、川の前で停車した
「みほ、この川を渡るのか?」
上半身を出していたみほに友梨奈が訊ねる
「うん。見たところ、川を渡れる橋は無さそうだから、此方の方が手っ取り早いからね」
そう答えたみほは、軽い戦車が流されないようにするため、上流側にレオポン、下流側にアヒルさんチームを配置するように指示を出す。これなら、重戦車が上だから軽戦車が簡単に流される心配は無い
そして、川を渡り半分と言う所でウサギさんチームのM3が、突如として動きを止めたのだ。
「桂里奈、どうしたの?早くしないと置いてかれるよ」
梓にそう言われ、桂里奈はアクセルペダルを何度も踏むが、M3はピクリとも動かない。それどころか、エンジン音も力を失っていき、その音が完全に消えると共に、先程までの小刻みな振動も止まる。
それに気づいたのがハートマンだった
「『ミューラー車長、M3が動いていません!』」
「『何……?』」
ペーターはインカムでウサギさんチームへと繋ぐ
「どうした?」
『な、那須先輩……どうしよう…動かなくなっちゃった……』
みほも気づいたのか停止指示を出し、全戦車停止した。
「OK…状況は分かった。エンストか?」
『はい……エンジン掛けようとしても全然ダメで」
「分かった。みほ隊長に伝えておく。エンジン再始動できないか試してみてくれ」
と無線を切る。
「『エンストか……よくあるんだよな。かけるのが面倒くさい』」
すると、ペーターは考えた
「『ケルツ、ここはお前の出番だ。エンストに関しては私もよく分からん』」
「『ええー……わーったよ』」
「うーっ、全然掛からないよ~!」
その頃ウサギさんチームでは、幾らレバーを動かしてもエンジンが再始動する兆しを見せないと言う状態に、悲鳴を上げた桂里奈の両目には涙が溢れている。どうにもならない状態に怯えているのだろう。
「……こうなったら、仕方無い…………!」
その様子を見た梓は何かを決心したのか、みほへと通信を入れる。
「西住隊長、私達の事は良いから、先に行ってください!後で追い掛けますから!」
少なくとも、今のところはエンジンが再び動く兆しが見られないと悟った梓は、このまま自分達を置いて、先に行くように言う。
そうしている間にも時間は過ぎ、川の流れがM3を横倒しにしようとばかりに、M3の側面装甲にぶち当たる。
「どうしよう、このままじゃM3が横転しちゃう!」
「それに、モタモタしてると黒森峰が来るぞ」
様子を見ていた沙織が言うと、麻子も付け加える。
「………………ッ」
みほは車長席に座り、膝の上に両手を置き、小刻みに震わせていた。去年の試合……プラウダ戦にて滑落したⅢ号戦車、そして悲鳴をあげる乗員の声が脳裏に浮かんだ。それを見ていた沙織は、少し考えた後、みほに声を掛ける
「行ってあげなよ、みぽりん」
みほは、目を見開いて親友の顔を見る。
沙織は無言のまま、ゆっくりと頷いた。
みほは意を決し、席から立ち上がると、優花里に声を掛けた。
「優花里さん、ワイヤーにロープを!」
「はいっ!」
みほからの指示を受けた優花里は目を潤ませ、嬉しそうに返事を返すと、直ぐ様ワイヤーとロープを用意した。そして、ロープを腰に巻き付けたみほは、Ⅳ号のエンジン部分に飛び乗って前方を見やる。
『舞野、聞こえる!?』
「…ケルツ、出ろ。M3を如何なる手段を用いてもかけてこい。ただし壊すなよ?」
「ふっ、無茶言いやがる……!聞こえる。武部」
『お願い、みぽりんを手伝ってあげて!みぽりんと一緒に、1年生の皆を助けて!』
「…了解」
「みほ隊長」
「舞野さん……」
「武部から手伝ってくれと頼まれたから来た。…取り敢えず、飛べば良いんだな?」
「うん。でも、ちょっと遠いかな……」
「…ああ、すまんみほ隊長。許せ」
「ふえ?」
と、舞野はみほを抱き上げたのだ。それを理解したのか、顔が赤くなるみほ
「もう少しの辛抱だ」
と、あっという間にM3に着いた
「西住先輩!西川先輩!」
目尻に涙を浮かべながら、声をかけてくる1年生グループ。
「皆、よく頑張った。みほ隊長、ワイヤーは隊長に任せます…私は、エンジンをなんとしてでもかけますので」
と、舞野は素早く操縦席へと移った
「…負けてられないかな?私だって!」
みほも変な闘争心がついたのか、ジャンプして、ワイヤーを各々の戦車に繋げていく
「ちっ、こりゃ面倒くさい。すぐには掛らんぞ」
舞野がエンジンを掛けようと奮闘していたが、結果は変わらずだった
「ど、どうしよう……」
皆がさらに泣きそうになる。そして舞野の頭がついにキレた
「動け!動け!!このポンコツエンジンが!!」
と叩いた。叩いただけで直るはずもない…筈だった
その時、小さな振動が起き、次には大きな振動が鳴った。エンジンが蘇った
「動いた!」
舞野は操縦席にヘタれるような姿勢になった。
「西川先輩!ありがとうございます!!」
『『『『ありがとうございます!!』』』』
「……………」
と一年生チームの声が聞こえた。紗希は喋りこそしなかったが、サムズアップをした。意外と表現豊かな子で
「…よし、もう安心だ。行くぞ!」
舞野はすぐに出て、持ち場へと戻った。みほを再び抱き抱えて