「あ、あの友梨奈さん!大丈夫なんですか!?」
「……と言うと?」
みほが心配そうに聞いてきた。私は何気なく返したが
「だ、だって友梨奈さん私とほぼ同じくらいですし………!もし怪我なんてあったら……!」
まぁ言いたい事はわかる。彼女凄い鍛えてるように感じる。どこで鍛えたかは知らんが
「生憎、死線は潜り抜けているつもりだ。これぐらい慣れてる」
元軍人だ。前より少しは身体は軽く感じるから
と思っていたら向こうからの攻撃が来た。速い。鍛えられてる
「………ッ!」
私も命のやり取りは5年してきた。この程度はまだ序盤に過ぎない
やはり体格差もあるのだろうか。体が軽い分余裕を持って躱せる
「こんのォ!!」
ことごとく躱わされて苛立ってきているのか、汗が見え始めていた
「しゃらくさいんだよ!!」
と頭に被っていた水兵帽を投げてきた。中々に投げるのも上手いな
「よっとな」
だが大人しく当たる訳にはいかない。こちらは身体を屈ませてその軌道から外れる。
「あうっ!?」
と後ろから声が聞こえた。まぁ十中八九バーテンダーの子にでもあたんだろう
まぁ、これで引いてくれれば嬉しいのだが
「こんのォォォォォ!!!!」
相手の女生徒は一瞬たじろいだような反応を見せたが、それでも声を張り上げながら走って来た。
(やはり来るか!)
こう言うタイプは大体向かって来るのは分かっていた。分かっているならこの後やる動きも分かる
態勢を後ろに崩し彼女の足を掛ける。そしてそのまま腕を引っ張って勢いよく投げた。
そのままカウンターの方へ投げ、ゴタゴタしたような音が聞こえたと同時に断末魔のような声が聞こえた。
「おー!何とも鮮やかな足技です!!」
「上手いなぁ友梨奈。体術でも習い始めたのか?」
「……いや、特に習ってはいない」
前の人生じゃ習ってるようなもんだが。と思っているとカウンターから女生徒が出てきた。ただ、怒りの表情を浮かべながらおもちゃのナイフなどを持ってこちらにジリジリ寄って来た
(シャイセ……面倒な事になった。これならMG34くらい持ってくるべきだったか?)
と舞野が不意に後ろを振り返ると秋山が何かを持っていた。それは元ドイツ兵なら一瞬で分かる代物だった
(M24手榴弾なんて持ってるんだ!?)
M24型柄付手榴弾、別名『ポテトマッシャー』を隠し持っていた秋山。
(それで突撃して自爆……いや、ここはドイツでもねぇしベルリンでもねぇし。せいぜいやるなら国民突撃兵の連中だな)
1人でツッコんでいると
「待ちな」
そんな時、張り詰めた空気を引き裂くように凛とした声が部屋に響いた。
(またクセの強い人が出てきた…………)
この世界の日本人はクセの強い人間しかいないのかと思っていると呑んでいたグラスをカウンターの上を滑らせ、こちらに向いてきた。肌が黒く日焼けし、帽子に赤い羽をつけた人だった。服装的にもThe・海賊というイメージがある
「アンタら、キャプテン・キッド並みな連中だね。まぁ、キャプテン・キッドには会ったことないんだけどね」
彼女が笑みを浮かべるとこちらに向けて、何かを投げつけてきた。
「これは………」
舞野が投げつけられたものを掴むと、それは真っ赤な液体が入った一本の瓶だった
「『Havana Club』……?」
「『どん底』名物、激辛ハバネロクラブ。ハバネロで作ったノンアルコールのラム酒。コイツで呑み比べと行こうじゃないか。勝ったらアンタ達の質問に答えてあげる」
成る程。つまりこの酒を呑み比べて勝ったら教えてくれると………この勝負なら華が行くべきなんだろうが………
「俺が行こう」
華が名乗りを上げるより先に舞野が親席についてしまった。
「『おいケルツ!ここは華が行くべきじゃないのか?』」
「『まぁ、飲食に関しては彼女に軍配が上がるであろうな』」
「『なら何故だ?』」
舞野……もといケルツはこう言った
「『お前だけに楽しませて堪るかペーター?任せろ。何年の付き合いだ?』」
「『それはそうだが………』」
「『それに華は生徒会長だろ?呑ませる訳にはいかないじゃないか』」
と言いながらケルツは華に目線を向ける。華は心配そうな表情をしていたが
「同級生として、同じ戦車道の一員として俺たちは居る。ここは俺に任せてくれないか?」
舞野の言葉にしばらく考え込むような表情を浮かべると、彼女は砲手のような鋭い目つきに変わった。
「わかりました。ここはお任せします」
「……ヤヴォール」
華からの許しを貰った舞野。何故かあんなにウキウキなのは何故だ?
「sぁ、始めようか。何せ久々だからな」
「はい」
とそれほど大きくないグラス、2、3杯口につければなくなるほどのものに真っ赤な酒を注ぐと慣れた手つきでカウンターの上でグラスを滑らせ、2人の手元に運ばれた
「ドレイク船長も裸足で逃げ出すこのハバネロクラブ。呑み比べと行こうじゃないか。まぁ、ドレイク船長には会ったこともないけどね」
「……ドレイク船長は知らんが、会ってみてから同じ事を言ってみたら良いぞ?」
二人は酒が注がれたグラスを口につけ、一気に中身を飲み干し始める。
「か、辛いッ!?!??」
二人が呑んでいる中、そんな悲鳴の声が響き、そちらに視線を向けると麻子が顔を真っ赤にしながらカウンターに沈んでいた。
「………呑んだのか…………」
「そ、そう見たいですね…………」
成る程、あの酒は辛いのか………ん?ケルツって辛い酒呑んだ事あったか?
「ふむ、ハバネロとやらの名前なだけあって辛いな。飲めない訳ではないが」
「そう言っていられるのも今のうち、ってね」
「良い事を言う」
いや、余裕の顔で呑んでいるのかよ…………辛いの行けたっけぇなアイツ……
と15あたりを超えると向こうの海賊女生徒がその辛さから顔を紅潮させた状態でカウンターに突っ伏した。
一方の舞野はまだ余裕があるようで顔にそれほど変化は見られなかった
「どうした?まだまだこれからじゃないか?もっと頑張ってくれ」
少々挑発を含んだ言葉を添えて言った。
「あ、アンタだって、平静を装っておいて本当は胃の中真っ赤なんじゃないの………?」
「どうだか。俺はまだまだいけるぞ?」
と言いながらバーテンダーから出されたグラスを一気飲みした。そして
「さぁ、お前の番だぞ。せいぜい耐えてくれるよな?」
舞野も真っ赤ではあったが、余裕はあった。そして海賊女生徒の方はたじろきながらも勢いよく呑んだ。まぁ、あの感じだと
「ッ!?」
ほら思った通りだ。後ろに倒れ地面に叩きつけた
「……さて、何か甘い飲み物でも無いか?口直し程度に飲みたいのだが」
「……アンタ、大丈夫なの?」
「あー………呑んだことがない味でびっくりしたが問題なかったよ」
……隠れてあう言う系呑んでたのか?舞野……
「まぁ、ともかく勝負は勝った。あの海賊女が起きるまで待つか」
「あぁ……で、何か良い酒は無いか?こいつが呑んでると飲みたくなってな」
久しぶりの飲酒だ。少し楽しんでもバチは当たらんさ
「戦車ねぇ…………すまないけど、あまりピンとは来ないねぇ…………」
ここで情報無しに帰るのは無駄足になっちまう。だが事前情報じゃ戦車はどっかにあるのは確かの話なんだが
「河嶋桃先輩………」
と何故か河嶋の名前を出した舞野。だが、向こうの女生徒達の表情が変わった
「………どうしてそこで桃さんの名前を出した?」
とソファで横になっていた海賊女の方が険しい表情で見てきた。
「いやな……もしかしたらだが、河嶋先輩とは縁があると思ってな。彼女は危機に瀕している」
「な、なんだって!?それは本当なのか!?」
と舞野は説明よりも先に持っていた学級新聞を見せた。
「な、なんてことだ……!桃さんが留年を………!?」
留年………まぁ本人曰くには浪人なのだが
「…………事情はわかったよ。それと、さっきまで喧嘩をふっかけていたから差し出がましいとは思うけど、桃さんのために私達にできることがあるのなら、なんだってやらせて欲しい」
とリーダーの女海賊生徒は言った。洗車の場所は知らないかと質問したが彼女達は本当に戦車は知らないらしい。
そして問い詰めていると彼女達が案内してくれた。そこはカウンターの向こう側にある扉。開けるとウインナー等の食べ物が吊されていた。ここは燻製室みたいだった
なんとそこには戦車があったのだ。秋山曰くサスペンション等は改造されており、ちゃんと修理さえすれば動かない事は無いらしい
「『ふぅ……なんとか無駄足にならずに済んだな』」ゴクゴク
友梨奈はドイツ語で呟きながら酒を呑むのであった