重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン3(林間合宿編)

 

──林間合宿が始まった。

 

宿泊施設にはバスで向かっている。

 

バスに揺られながら、ちょっとした疑問を隣に座っている響香ちゃんに訊ねた。

 

「今回は毎年恒例の場所じゃないんだよね?」

 

「そうみたい。例の酔っぱらいヴィラン達に襲撃された件が原因らしいよ。急な変更だから変な場所じゃなかったらいいんだけどね」

 

ヴィラン酔っぱらい集団の雄英高校襲撃事件は意外と大事になった。

 

襲撃自体はあっさりと解決したから問題なかったけど、ヴィラン側に施設の場所と訓練時間がバレていたのが問題視されたんだ。

 

雄英ヒーロー科は日本一の名門だから、その情報もまた日本一知れ渡っている。

 

今までなら警備を厳重にして対応していたけど、ヴィラン側にワープ個性の持ち主が現れてしまったから大変だ。

 

どれだけ厳重に警備しても意味がなくなってしまった。襲撃後の対応はできても、防ぐことは殆ど不可能だろう。

 

こうなると防ぐ事よりも、襲撃対象を特定されない様にする方が現実的な対応だ。

 

とりあえず雄英ヒーロー科としては、例年通りの計画は止める方針みたいだ。

 

「矢安宮、ミカンを剥いたけど食べる?」

 

色々と考えている間に、響香ちゃんがミカンを剥いてくれた。もちろん食べるから大きく口を開いた。

 

「あーん」

 

「もう、矢安宮は甘えん坊だね。ウチは梅雨ちゃんじゃないよ。まっ、いいけどね。はい、あーん」

 

うん、甘くて美味しいミカンだ。もぐもぐと食べる。

 

「ふふ、矢安宮は美味しそうに食べてくれるから食べさせ甲斐があるね。親鳥になった気分だ」

 

響香ちゃんはニコニコしながら、ミカンを口に運んでくれる。

 

そういえば、僕はバナナを持ってきてたんだ。バナナを取り出して皮を剥く。

 

「はい、ママがガーデニングで作ったバナナだよ。あーん」

 

「バナナをガーデニングで作れるんだ。すごいママだね。このバナナ美味しそう。あーん…もぐもぐ、こくん。うん! すごく美味しいよ!」

 

響香ちゃんが、顔を輝かしてバナナの味を褒めてくれた。帰ったらママに教えてあげよう。きっと喜んでくれるはずだ。

 

僕も食べよう。

 

もぐもぐ、ごっくん。

 

うん、いつ食べても美味しい。

 

あれ、響香ちゃんが驚いた顔をしている。少し顔も赤いような?

 

熱でもあるのかな?

 

響香ちゃんの額に手を当ててみる。熱は無いみたいだ。うん、よかった。

 

「ね、熱はないから心配しないで。でもね、心配してくれるのは有り難いけど、女の子の顔に気安く触っちゃダメだよ」

 

うん、わかった。

 

これからは許可をとってから触るね。

 

「いや、それは……まぁ、いいか。矢安宮だしね」

 

響香ちゃんは何故か困ったように笑った。

 

よくわからないけど、話は終わったみたいだからバナナを食べよう。次は響香ちゃんの番だ。

 

「じゃあ、次は響香ちゃんの番だね。はい、あーん」

 

「うぇっ!? そういうシステムだったの!?」

 

響香ちゃんが大声を出した。どうしたんだろう。食べないのかな?

 

僕が差し出したバナナが寂しそうにしている気がした。大好きなママが丹精込めて作ったバナナ。二口目はいらないの?

 

「う、うぅ…た、食べるよ! 食べればいいんだろう! 食べるから泣きそうな顔をすんな!」

 

響香ちゃんがパクッとバナナを食べた。

 

「……うん、やっぱりこのバナナは美味しい」

 

うんうん、ママのバナナは世界一だからね。

 

僕も食べよう。

 

もぐもぐ、ごっくん。

 

うん、美味しいな!

 

はい、響香ちゃん! あーん!

 

「うぅ、やっぱりエンドレスパターンだった。ま、まぁ……べ、別に同じバナナを食べ合うぐらい何でもないよな……相手は弟みたいな矢安宮だしな。気にする方が変だ。と、トガの奴も微笑ましそうに見てるな。うん、全く問題はないみたいだ。じゃあ食べるぞ。あー…ん? コラッ、峰田ッ!! ウチがバナナを食べるのを変な目をして見んな!!」

 

「うぎゃあああっ!! オイラの目がぁぁぁ!!」

 

響香ちゃんの耳のプラグが峰田君の目に深々と刺さった。

 

うん、普通に失明するレベルだ。どうせ後で僕が治すから、と女子達が考えているみたいで、峰田君に対する制裁が日々苛烈になっていく気がするよ。

 

まぁ、別にいいのかな。

 

のたうち回る峰田君を気にする人は、女子達は勿論だけど、男子達にもいないからね。

 

それに峰田君も峰田君だ。制裁されると分かっているんだから、セクハラ行為はやめたらいいのに。

 

女の子とイチャイチャしたいなら彼女を作りなよ。自分の彼女なら抱きついても喜んでくれるよ。

 

こんな風にね。

 

僕のヒミコちゃんにギュッと抱きつく。

 

「ちょっ!? ウチはトガじゃない! トガーっ!! 自分の旦那の面倒はちゃんと見ろーっ!!」

 

「響香ちゃん、ごめんなさい。重清くんに悪気はないので、チワワにでもじゃれつかれたと思って和んで欲しいのです」

 

「どんな言い訳だよ!?」

 

「ごめんなさいね、響香ちゃん。ほら、重清ちゃんこっちに来て」

 

間違えて響香ちゃんに抱きついちゃった。怒った響香ちゃんをヒミコちゃんが宥めている間に、梅雨ちゃんが僕の手を引いて自分の席へと連れていってくれた。

 

響香ちゃんには後でちゃんと謝っておこう。

 

ところで、ずっと目を押さえて叫んでいる峰田君は放っておいていいの?

 

「峰田ちゃんには、いい薬になると思うわ……ケロ」

 

いつもの梅雨ちゃんと違う。少し冷たい感じがした。

 

もしかして、峰田君にセクハラされた?

 

僕は穏やかに梅雨ちゃんに問いかけた。

 

「……(この間の演習で峰田ちゃんに胸を揉まれたのだけど、それを重清ちゃんに伝えたら峰田ちゃんの身に酷い事が起きる気がするわ…………別に問題ないかしら? いえいえ、ダメよ。峰田ちゃんはどうでもいいけど、重清ちゃんの手を汚させてはダメよ。ここは我慢するべきだわ)何もされていないわ。大丈夫よ」

 

梅雨ちゃんがニッコリと笑った。だけどどこか無理をした笑顔に見える。

 

うーん。

 

とても怪しいけど、梅雨ちゃんが峰田君を庇う理由もないからただの気の所為かな?

 

とりあえず、僕は気にしない事にして手に持っていたバナナを食べた。

 

もぐもぐ、ごっくん。

 

うん、美味しい!!

 

はい、梅雨ちゃん。あーん。

 

「美味しそうなバナナね。いただくわ。あーん…もぐもぐ、こくん。ふふ、とても美味しいわ。大地の栄養がギュッと詰まっているようね」

 

梅雨ちゃんは穏やかな笑顔を見せてくれた。

 

うん、無理をしたような笑顔じゃない。本当の笑顔だ。さっきのは目の錯覚だったのかな?

 

僕は首を傾げながらバナナを食べた。

 

もぐもぐ、ごっくん。

 

うん、すごく美味しい。

 

「ねぇねぇ、アタシにもちょうだい。あーん」

 

三奈ちゃんが後ろの席から身体を乗り出してきた。

 

うんうん、思わず食べたくなるよね。ママのバナナだもん。

 

はい、三奈ちゃん。あーん。

 

「あーん。もぐもぐ、こくん。うぅ、美味しいよぉ。やっと矢安宮にあーんしてもらえたよぉ……グスグス…」

 

三奈ちゃんが泣き出した!?

 

どうしたの、お腹痛いの!?

 

僕は慌てて三奈ちゃんを宥め始めた。

 

「ケロ……三奈ちゃんが泣き出したから、バナナの順番待ちをしていた透ちゃんが肩を落として自分の席に戻ったわ。どんどん複雑になっていくわね。私は……私の本当の気持ちはどうしたいのかしら?」

 

 

 

 

バスが止まった。僕達は外に出た。

 

あれ? 宿泊施設がない。ただの途中休憩かな。

 

目を治癒した峰田君がトイレを探している。

 

トイレといえば、メリッサを思い出した。ヴィランに襲われたパーティー会場での緊急事態のことだ。

 

この物騒な世の中だと、いつ緊急事態に襲われるか分からない。

 

あれ以来、僕は携帯トイレを持ち歩いているんだ。これでいつ何があっても女の子に恥をかかせないで済むよ。

 

「重清くん。携帯トイレがあっても、女の子なら恥ずかしいですよ」

 

僕のヒミコちゃんが呆れた顔で言った。

 

うーん、そうなのかな?

 

でも他の対策は思いつかな――

 

──両足を広げ、左手をズボンのポケットに突っ込む。上体を反らせて右手で近くに止まっていた車を指差す。

 

「マンダレイ! 貴様っ! 見ているな!」

 

車内から女性ヒーロー、マンダレイが姿を現す。

 

「ふふ、久しぶりね。重清」

 

「久しぶりって、先週のバーベキューの時にも会ったよ?」

 

「もうっ、こういうのは雰囲気なの!」

 

マンダレイに続いて車から降りてきたピクシーボブが、僕の野暮な言葉に文句を言う。うん、ごめんね。

 

二人は車から降りるといつものを始めた。

 

「煌めくまなこでロックオン!」

 

「キュートに! キャットに! スティンガー!」

 

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』

 

キララーンとした決めポーズ。

 

よし、僕らも負けないぞ!!

 

「今からミルコ姉さんと事務員さんを呼び出すからちょっと待っててね」

 

僕は急いでスマホを取り出すと――

 

「電話をかけるな、矢安宮。今はそんな暇はない」

 

相澤先生に電話を止められた。

 

相澤先生とマンダレイ達がなんか喋り出した。

 

うーん、嫌な予感がする。

 

マンダレイの個性はテレパスだったよね。ピクシーボブはたしか……土流だ!

 

僕はササっと移動すると梅雨ちゃんの背中によじ登る。よいしょっと。

 

「重清ちゃん? なるほど、そういう事なのね」

 

僕が背中によじ登ると梅雨ちゃんは一瞬だけ不思議そうな顔をしたけど、すぐに察してくれたようだ。

 

膝を曲げてその時が来るのを待ち受ける。

 

「――合宿はもう始まっている」

 

相澤先生の言葉と同時に土が盛り上がった。

 

クラスメイト達が盛り上がる土と共に崖下へと落とされていく。

 

梅雨ちゃんは土に身体を持っていかれる一瞬前に跳んだ。空中でバランスをとってバスの上に綺麗に着地した。

 

「みんなっ、気をつけてね!!」

 

「くそう! 蛙吹に背負われた時に嫌な予感はしたが、矢安宮を落とせなかった!!」

 

相澤先生が教師が言ったらダメな事を言ってない?

 

「いいじゃん、イレイザー。プロヒーローの奇襲を察知して見事に躱したんだよ。それなら魔獣の森はスキップでオッケーだよ!」

 

ピクシーボブがグッと親指を立ててくれた。

 

よしっ、第一関門クリアだ!!

 

「純粋に喜べる重清ちゃんが羨ましいわ。私は落ちた皆が心配だわ」

 

優しい梅雨ちゃんが皆を心配している。だけど、安心して欲しい。

 

成長したハーヴェストの総数と射程距離は10倍にもなったんだ。

 

5000体以上のハーヴェスト。そして、僕を中心にして数十キロ四方の射程距離だ。

 

そして、お楽しみの新能力が二つもあったんだ。一つ目は『生命力の収集(エナジードレイン)』だよ。

 

ハーヴェストが生物から生命力を吸収できる様になったんだ。生物なら動植物問わずに吸収できる。つまりこの森の木々からだって吸収が可能なんだ。

 

生命力の吸収といっても、別に命そのものを吸い取るわけじゃないから、時間が経てば吸い取られた生命力は回復する。

 

吸い取った生命力は、ハーヴェストがゲームに出てくるエリクサーみたいな回復薬に精製してくれるんだ。

 

見た目はドロリとした蜂蜜にそっくりだ。ハーヴェストの体表には、ミツバチに似た模様があるからイメージ通りの能力を得たんだね。

 

今は植物から少しずつ生命力を集めている。回復薬はやっと小瓶に半分ぐらい溜まったよ。

 

もう一つの能力は『護衛』なんだ。

 

この能力はその名の通り、特定の相手にハーヴェストを射程距離関係なしに護衛としてつける事が出来るんだ。

 

射程距離より離れた場合、そのハーヴェストは直接操作出来なくなるデメリットはあるけど、僕の場合は直接操作は殆どしたことなかったから問題ない。

 

半自立型ってとても便利だよね。

 

《護衛》を使っている相手は今のところ12人になる。

 

一人目と二人目、ママとパパ(当然だよね)

 

三人目、僕のヒミコちゃん(当たり前だよね)

 

四人目、梅雨ちゃん(心配だもん)

 

五人目と六人目、ミルコ姉さんと事務員さん(護衛は必要ないかもだけど、念のため)

 

七人目、モモちゃん(相棒だからね)

 

八人目と九人目、三奈ちゃんと透ちゃん(最近、距離感が近くなったんだ)

 

十人目、響香ちゃん(気の合う友達だよ)

 

十一人目、お茶子ちゃん(A組女子で一人だけ仲間外れは良くないよね)

 

十二人目、メリッサ(遠く離れるから実験を兼ねたんだ。今のところ問題ないよ)

 

今回のレベルアップでハーヴェストの長所を強化できた。そして射程距離も限定的にだけど無制限になった。

 

ふはははっ、この森の中は全て射程距離内だ。総数5000体以上のハーヴェストに満ちた森は僕の庭も同然だよ。

 

まぁ、訓練の邪魔はしないけどね。

 

「ねぇ、重清ちゃん。私は皆について行こうと思うの」

 

梅雨ちゃんがそんな事を言った。その顔は何かを決意したような覚悟を感じさせた。

 

「この魔獣の森を踏破する。それは私にとってとても良い経験になると思うわ。それで、重清ちゃん。一人にしても大丈夫かしら」

 

「ううん、僕は梅雨ちゃんと一緒にいた――」

 

「ちょっと待ちなさい、重清」

 

僕の言葉をマンダレイに遮られた。

 

「梅雨ちゃんと言ったかしら? 貴女の考えはとても良いことだわ。この魔獣の森を仲間達と力を合わせて乗り越えたとき、その経験は自信となり、必ずこれからの貴女にとってのプラスとなる。頑張って行ってらっしゃい」

 

「はい、ありがとうございます。重清ちゃん、後で会いましょう」

 

梅雨ちゃんが崖下へと跳んでいった。

 

うぅ、梅雨ちゃーん!!

 

叫ぶ僕に相澤先生が声をかけた。

 

「矢安宮、心配なら今からでも追いかけたらどうだ。いや、是非とも行け」

 

ううん、やめとく。

 

こんな崖から飛び降りたら怪我しちゃうし、この森を歩いて通り抜けるの大変そうだもん。

 

僕の代わりに相澤先生が行ってくれない?

 

「行くわけないだろ!!」

 

「あははは、重清は相変わらずね。それじゃあ、車で先に宿泊施設に行きましょう。全員分の晩御飯の用意をしなくちゃいけないのよ」

 

マンダレイが車に乗る。僕も続いて車に乗った。あっ、バスじゃなくて、こっちに乗っちゃった。

 

「矢安宮、お前はバスだ」

 

「いいよ、イレイザー。もう気付いているだろうけど、この子は個人的な知り合いなんだ。私達の車で連れていくから気にしないでくれ」

 

「…分かりました」

 

僕達は宿泊施設へと向かった。

 

 

 

 

宿泊施設に到着した皆はボロボロだった。僕のヒミコちゃんも汗だくて、泥などで全身が汚れていた。だけど、全員が怪我をせずに済んだからよかった。

 

「ヒミコちゃん! 疲れたよね。ご飯はもう少しで出来るらしいから――どうして避けるの?」

 

いつもの様に抱き締めようとしたら避けられちゃった。

 

「分かっていて聞かないで下さい。こんな汗だくなのに抱きつかれたくありません」

 

「僕は気にしないよ! むしろ汗だくのヒミコちゃんを抱きしめたい!」

 

「私が気にするのです! それと皆がドン引きする発言をしないで下さい!」

 

僕のヒミコちゃんは顔を赤くして叫ぶと、ドスドスと女子達と一緒に施設の中に入っていった。

 

「おい、変態兄ちゃん。パパとママが地元の集会に行っちゃったから人手が足りないんだ。夕飯の準備を手伝ってよ」

 

洸汰君が呆れた顔をしながら言ってきた。子供の洸汰君にはまだ分からないだろうけど、大人の男ってのは好きな女の子の匂いを嗅ぎたいものなんだよ。

 

「こらこら、うちの甥っ子に妙な事を吹き込まないでよ。毎回、関係のない私が怒られるんだぞ」

 

マンダレイに苦笑いをしながら文句を言われた。

 

洸汰君のご両親はプロヒーローのウォーターホースなんだ。

 

数年前にヴィラン相手に苦戦してたときに、当時おっきなおっちゃんの就職活動に付き合っていた僕達が偶然通りかかって助けたんだ。

 

なんだか凶悪なヴィランだったらしいけど、おっきなおっちゃんの張り手一発で気を失ったよ。きっとそれまでにウォーターホースがダメージを与えていたんだろうね

 

まぁ、そんな経緯があるからウォーターホースは僕に注意はし難いみたいで、代わりにマンダレイが怒られているみたいだ。いつもお疲れ様です。

 

「あのね、分かっているのなら余計な事を教えるのは控えてもらえないかしら?」

 

こういう知識も必要だよ。本当に純粋培養な環境で育成されたら、洸汰君が大きくなったときに苦労しちゃうよ。

 

「アハハハッ、相変わらず口は達者ね。ほら、マンダレイ。早く夕飯の準備を終わらせないと子供達がお腹を減らし過ぎて目を回しちゃうわよ」

 

ピクシーボブは明るく笑うと、マンダレイを急かした。

 

「はぁ、分かったわ。重清、あなたも手伝ってね」

 

「はーい。ほら、洸汰君」

 

僕達四人は並ぶと声を揃えて言った。

 

『行くぞ!』

 

僕達は宿泊施設に入っていった。

 

 

 

 

「ヒミコちゃん、あーん」

 

「あーん。もぐもぐ、こっくん。ふふ、美味しいのです」

 

僕達は互いに食べさせ合ってる。僕ん家だとママに揶揄われるから絶対に出来ない行為だった。

 

「重清くん、あーん」

 

「あーん。もぐもぐ、ごっくん。うん、美味しいよ」

 

アハハ、ウフフ、と笑い合いながら食べる夕食はとても美味しいね。

 

「おい、誰でもいいから止めろよ。今は合宿中だろ」

 

「無理だ。相澤先生ですら見えてない振りをしているんだぞ」

 

「爆豪がギリギリと歯軋りしながら我慢してんぞ。あんな状態でよく我慢出来るな?」

 

「それだけ関わり合いたくないんだろ。入学当初に関わったせいであの噂が雄英内で定着しちまったからな」

 

「かっちゃん……嘘だよね。あのウワサ…」

 

「まあ、もしかして三角関係かしら? ふふ、面白く…ではなく興味深くなってきましたわ」

 

「ヤオモモ、それって言い直した意味があんま無くね?」

 

「ハッハッハ、色々あっていいんだ! これが青春だよ!」

 

『委員長!? どうした!!』

 

皆が騒いでいる中、僕達はイチャイチャしながら夕ご飯を楽しんだ。

 

 

 

 

お風呂は大浴場だった。もちろん男女別々だよ。

 

僕のヒミコちゃんが入っているんだ。女子浴場に近付いた男は容赦なく葬るから覚悟してね。

 

ハーヴェスト達が峰田君の全身に纏わりつく。少しでも女子浴場に近付こうとしたら、全身を血が出ない程度にハーヴェスト達の爪で突かせた。

 

「イデェ!? グエッ!? イダァ!? グウッ!? ヒイッ!? アウッ!? ウンッ!? アンっ! ウフン! ヒイン! アァン!」

 

「なあ、峰田の悲鳴が段々とヤバくなってねえか?」

 

「関わんじゃねえよ。峰田には忠告していた。それでも行動したなら後は自己責任だ」

 

「そ、そうだな。巻き込まれたくないし、放っとくか」

 

峰田君の妙な声は、女子達が浴場を出るまで続いた。

 

 

 

 

翌日から本格的に個性強化訓練が始まった。

 

「煌めくまなこでロックオン!」

 

「猫の手! 手助け! やって来る!」

 

「どこからともなくやってくる…」

 

「キュートに! キャットに! スティンガー!」

 

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』

 

キララーンとした完全バージョンの決めポーズ。

 

よし、僕らも負けないぞ!!

 

「今からミルコ姉さんと事務員さんを呼び出すからちょっと待っててね」

 

僕は急いでスマホを取り出すと――

 

「だから電話をかけるな。そんな暇はないと言っとるだろうが」

 

また相澤先生に止められてしまった。何か対策がいるね。

 

僕が考え込んでいると、クラスの皆は次々と個性強化訓練を始めていく。

 

そういえば、僕の個性強化訓練は何をするのだろう?

 

「矢安宮の個性強化訓練は協力者が必要だ。もうすぐ着くはずだが……ああ、丁度到着したようだ」

 

相澤先生の視線の先には、大型バスが何台も連なって走行しているのが見えた。

 

 

 

 

大型バスに乗車していたのは、過去に重傷を負って引退した元ヒーロー達だった。彼、彼女達からはこの訓練に付き合うに際して同意書を得ている。

 

内容は主に、個性訓練での失敗に際して不利益を被っても一切の被害請求をしないといったものだ。

 

非常に一方的な内容だけど、それでも彼・彼女達は喜んでサインをして協力を申し出たそうだ。

 

ちなみに、僕の治癒失敗の記録はゼロだ。

 

僕の個性強化訓練は、個性の使用回数を増やす事を目的にしている。

 

ちなみに、僕が個性使用をしていて限界を迎えたことはゼロだ。

 

一度の回数として一番多かったのは、体育祭での普通科の男子達を治癒した時だ。

 

あの時はたしか20人ほどの男子を一人10回以上は治したよ。

 

今回はその時の倍ぐらいは居るかな。

 

今夜の夕ご飯足りるかな? と心配になったけど、ちゃんと人数分のバーベキューの道具と材料は持参しているそうだ。

 

元ヒーロー達の復活パーティーを兼ねているから奮発して豪華な食材を揃えたから楽しみにしてくれと言われた。

 

アハハ、飯田君が向こうで頭を下げている。なるほど、こういう手を考えたんだね。

 

飯田君に片手を上げて応えたあと、僕は気を引き締める。

 

ここで少しでも失敗したら復活ヒーローの名に傷が付いちゃうよ。

 

「さあ、誰から治す? 僕の拳はちょっぴり痛いよ。歯を食いしばって我慢してよ」

 

ドラララララララララッ!!!

 

僕の叫び声が山々に響いていった。

 

 

 

 

「どうですか? うん、ちゃんと治ってよかった。来月からヒーローに復帰するんですか? 頑張って下さいね。僕の連絡先ですか? 一応、僕はミルコ姉さんのヒーロー事務所に所属予定です。プロヒーローになったら治癒は有料になりますよ。今回の分も纏めて払う? いえいえ、今回のは個性強化訓練なので無料ですよ。アハハ、じゃあ、僕が現場で困った時は助けて下さい。ほら、僕は戦闘力は低めなので凶悪なヴィラン相手はキツいですから。はい、ではその時は連絡するので頼りにさせて下さいね」

 

トンと軽く拳を当てて元ヒーロー達の怪我を治している。

 

最初の頃はちゃんと連打をしていたけど、途中で疲れたからやめちゃった。

 

うん、個性強化訓練は恐ろしいよ。気づくのがもう少し遅かったら明日は筋肉痛になっていたところだ。

 

治癒するのはテントを張ってその中で行なっている。一人一人ちゃんと時間をとって現在の状態を聞いて、少し考える振りをしてから治癒をしている。その後は事後確認をしてから世間話だ。この世間話が一番時間が長い。

 

本当は、全員を一列に並べてトントントンと一気に治したいところだけど、それはあんまりだとハーヴェストに注意された。

 

折角の機会だから元ヒーロー達と縁を結べと助言もされたんだ。

 

元ヒーローといっても、怪我が治れば復帰する人が結構いるんだ。その中には現在の上位ヒーローに実力で並ぶ人達もいた。

 

そんな人達に恩を売れば、これからのヒーロー活動もやり易くなる。現場で鉢合わせしても協力してもらえるし、場合によっては現場を譲ってもらえるだろう。

 

再起不能になるまでヒーロー活動をした人達は良い人が多いしね。仲良くなって損はないよ。

 

一人一人にじっくりと時間をとって治癒していると、あっという間に夕方になったから今日は終わりだ。まだ半数近く残っているけど、明日もあるから誰も文句は言わない。まぁ、予定通りだからね。

 

それよりも皆が予想していた以上の治癒能力だったみたいで治癒された人は、はしゃいで走り回る人もいるし、それを見た治癒待ちの人は希望で顔を輝かしていた。

 

うんうん、いい事をすると気持ちがいいね。

 

皆もそう思わない?

 

「ハァハァ、そんな呑気な感想はお前だけだ…」

 

「ウップ……吐きそう」

 

「死ぬ……いや、いっそ殺せ……」

 

死屍累々、といった感じだった。

 

僕のヒミコちゃんも顔色が青かった。心配だよ、ヒミコちゃんの背中を優しくさする。

 

「重清くん、ありがとう」

 

そう言って、力なく微笑むヒミコちゃん。

 

普段とは違うヒミコちゃんの様子にグッとくる。思い出に写真を撮っておこう!

 

スマホを取り出してパシャパシャパシャパシャ。

 

「ハァ、疲れてて怒る気にもならないのです」

 

あぁ、僕のヒミコちゃんがこんな気怠けな表情をするなんて。

 

パシャパシャパシャパシャパシャパシャ。

 

「おい、変態兄ちゃん。バーベキューの準備に手が足りないんだ。手伝ってよ」

 

洸汰君が呆れた顔で言った。

 

分かってないね。大人の男はね、好きな女の子の色んな表情を見て興奮するもんなんだよ。

 

「重清くん! 子供相手に何を言っているのですか!」

 

僕達は慌ててその場を逃げ出した。

 

「どうして僕まで逃げなきゃいけないんだよ!?」

 

洸汰君の叫びが、日が暮れていく山々に響いていった。

 

 

 

 

次の日も、代わり映えしない一日だった。

 

訓練に協力してくれた元ヒーロー達は全員が無事に健康体に戻った。もちろん、飯田君のお兄さんも治ったよ。仲間のサイドキック達がすごく喜んでいた。

 

「ありがとう、矢安宮くん! 弟から話は聞いていたが、聞いていた以上の素晴らしい個性だ! この恩は忘れない。何かあったなら必ず君の力になると誓う!」

 

飯田君のお兄さんは深々と頭を下げた。

 

飯田君のお兄さんらしい礼儀正しい人だね。飯田君はブラコンなのに好きになった人は、お兄さんとは正反対な爆豪君(礼儀知らず)ってのが男男関係の不思議なところだね。

 

「え…? 男女じゃなくて、男男関係だって!? えっ! えぇっ!?」

 

あっ……つい言っちゃった。

 

お兄さんが混乱してる。ついでに周りにいたサイドキック達も驚いていた。お兄さん達は知らなかったんだ。可愛い弟を取られちゃった気分なのかな?

 

でも大丈夫だよ!

 

恋人は別れちゃえば他人だけど、兄弟は一生兄弟だからね!

 

僕の励ましを受けて、お兄さんはサイドキック達に支えられながらフラフラとテントを出ていった。

 

 

 

 

元ヒーロー達は完治したから帰るのかと思っていたけど、折角だからと他のヒーロー科の生徒達に色々と訓練の助言をするために最終日まで残ってくれるそうだ。

 

ところで、個性強化訓練という意味では僕には効果がなかった。治癒回数として限界に届かなかったから余裕を持って終わったからだ。

 

うーん。他の皆はどんどん強化されているのに、何だか一人だけ取り残されていく気分になっちゃうよ。

 

「(ねえ、ハーヴェスト。僕の個性を強化できない?)」

 

《強化ではありませんが、本体の命令があれば、私達にて本体の個性使用が可能です。個性使用時は若干の性能低下が発生しますが、複数回使用、又は複数体での同時使用でカバーできます》

 

「(おぉっ!? つまり僕がもっと楽が出来るって事だね!!)」

 

やった!!

 

今回みたいな大勢を治癒するときや、建築物の大規模修繕をする仕事が来てもハーヴェストに丸投げが出来るよ!!

 

わーい、わーいと喜んでいると夕ご飯の時間になった。

 

今日は元ヒーロー達が全員動けるようになったから、夕ご飯の準備は任せられた。

 

元ヒーローの中には料理上手の女性ヒーローも何人もいたから楽しみだ。

 

僕はステップをしながら夕ご飯へと向かった。

 

 

 

 

今夜はレクリエーションで肝試しがあるんだ。

 

僕のペアは残念ながらヒミコちゃんじゃなかった。

 

「と、トガじゃなくて残念だったんじゃない?」

 

「響香ちゃんは怖いの大丈夫?」

 

「……ハハ、肝試しが怖いだなんてロックじゃないよ」

 

そう言いながら痛いぐらいに僕の腕にしがみ付いている響香ちゃん。

 

顔色も青いし、腰も引けている。その腕は微かに震えていた。

 

うん、これは揶揄ったらダメなやつだ。

 

「そ、そういや矢安宮は、プッシーキャッツと知り合いなんだね」

 

「うん、プッシーキャッツ事務所に就職面談の付き添いで出向いたのが切っ掛けなんだ」

 

「就職面談って誰の?」

 

「おっきなおっちゃん、だと分からないか。えーと、ジャイアントと言えば分かるのかな?」

 

「ジャイアントって、グレートジャイアントか! そういや、グレートジャイアントはプッシーキャッツ事務所だったね。でも今回は居なかったよね?」

 

「うん、今回の林間合宿でプッシーキャッツ事務所の四人が駆り出されたから、その分をおっきなおっちゃんが頑張っているんだよ。ここに戻ってくる時間もないみたいだね」

 

「ふふ、グレートジャイアントをおっきなおっちゃんって。矢安宮らしいね」

 

「グレートジャイアントって名前は僕が考えたんだよ。だけど、おっきなおっちゃんって言い慣れちゃったから、つい言っちゃうんだよね。本人も別に構わないって言うからそのままなんだ」

 

「ふーん。仲が良いんだね。グレートジャイアントとさ」

 

「歳は離れているけど、友達だからね」

 

「歳の離れた友達か。いいね、そういうの。ウチは好きだよ」

 

「うーん。響香ちゃんはもう少し警戒心を持ちなよ。そんな魅力的な笑顔でウチは好きだよ。なんて言われたら勘違いしちゃうよ」

 

「クク、バッカじゃないの? そういう意味じゃないって分かってるくせに」

 

「うん、分かってるけど男子は勘違いするんだよ。ほら、よく聞くんじゃない。女子に笑いかけられただけで自分の事を好きなんだって勘違いする男子の話」

 

「それって、都市伝説じゃないの?」

 

「ううん、よくある普通の話だよ。試しにクラスの男子に笑いかけてみなよ。面白いぐらいに勘違いするから。でも後が面倒くさい事になるからお勧めはしないけどね」

 

「こら、そんなの試してみろって言うんじゃないっつーの」

 

話しているうちに少しずつ響香ちゃんの様子が普段通りになっていった。

 

「……いつの間にか、あんたの方が高くなっちゃったね」

 

腕を組んだまま、僕の顔を見上げる響香ちゃん。

 

「ふふ、入学初日はあんなにちっちゃかったのに、あっという間に大きくなって……今でも梅雨ちゃんの方が大きく見えるから不思議なんだよね」

 

「モモちゃんには今でも負けてるけどね」

 

「こら、ヤオモモには言ったらダメだよ。本人も気にしてんだからね」

 

「うーん、どうして女の子は背が高いのを気にするのかな? 普通に格好いいと思うけど?」

 

「デカくなってもまだまだだな。格好いいと言われて喜ぶ女子は少数派だよ。女の子は、いつでも可愛いって言われたいのさ」

 

なるほど、そういうものか。

 

僕のヒミコちゃんとは、小さな頃からの付き合いだからずっと可愛いとしか言ってなかったけど、それで正解だったわけだね。

 

でもそれなら響香ちゃんに訂正しなきゃだね。たまに響香ちゃんは格好いいね、とか言ってたけど正解じゃなかったんだ。

 

響香ちゃんに組まれている腕をスッと彼女の腰に回す。

 

「え…?」

 

空いている手で響香ちゃんの頭をふんわりと撫でる。急に頭を撫でられて目を丸くした彼女の表情は普段の凛々しいものではなく、年相応の可愛らしいものだ。

 

「響香ちゃんはいつも飄々とした感じで格好いいと思ってた。でも実際に付き合うとお茶目な部分を見せてくれたり、とても友達思いで、時にはきついと思うほどの熱い言葉を口にする。そんな万華鏡のような色々な顔をもった。とても素敵で可愛い女の子だって知ったんだ」

 

えっと、こんな感じかな?

 

頭を撫でるのは子供扱い過ぎたかも?

 

「えっと……ありがとう?」

 

なぜか疑問系でお礼を言われた。

 

「ううん。僕の方こそありがとう。いつも相手をしてくれる付き合いのいい響香ちゃんには感謝しているんだ。僕は響香ちゃんと遊べてとても楽しいけど、君には少し迷惑かなと思うときがあるんだ。僕はほら、少し子供っぽくはしゃぐ癖があるからね。でも、やっぱり響香ちゃんと遊ぶのは楽しいからこれからも相手をして欲しいな」

 

「あ、うん…ウチも楽しいよ。子供っぽいとかも別に思わない……ウチもまだ子供だし……矢安宮と遊ぶのは…ウチも続けたい」

 

うん、よかった!

 

響香ちゃんも楽しんでくれていたんだ!

 

「うわっ!? ちょっ、はしゃぎ過ぎだって矢安宮っ!!」

 

嬉しくなった僕は響香ちゃんの腰の辺りを掴むとヒョイと持ち上げてクルクルと回る。

 

えへへ、最近は筋トレを始めたけど、流石にここまでの筋力はついていない。実はハーヴェストの補助を受けているんだ。もしハーヴェストの姿が見えたら色々と台無しな光景だけど、見えるのは僕だけだからいいよね!!

 

「もうっ、前言撤回! やっぱり矢安宮は子供っぽいよ!」

 

クルクルと回る響香ちゃんは楽しそうな笑顔を見せてくれた。

 

 

 

 

落ち着いたらやっぱり怖さが戻ってきたのか、響香ちゃんはまた腕にしがみついてきた。

 

「けっこう悲鳴が聞こえるね。B組はやり過ぎじゃないかな?」

 

「B組はウチ(A組)らにライバル意識があるからね。いい迷惑だよ」

 

響香ちゃんが顔を寄せてきて教えてくれる。ふーん、同じ雄英なのにライバル意識があるんだ。

 

「下らない理由なんだけどね。ほら、何となくA組とB組って言われたらイメージ的にA組の方が上っぽいじゃん。単なるアルファベットの順番的にさ」

 

「組み分けって成績順じゃなくて、個性の種類が偏らないように割り振っただけじゃなかった?」

 

「そうだよ。だから下らない理由ってわけ。ただのイメージで勝手に反発されても困るよ。まあ、B組の一部の奴らだけの話だよ」

 

耳元に顔を寄せて、響香ちゃんは囁くように話してくれる。

 

うん、いかにも肝試しって感じで雰囲気が出るね。

 

僕も響香ちゃんに合わせて彼女の耳元で囁いた。

 

「響香ちゃんが頑張り屋さんで優秀なのは本当だけどね。それに実はアレかもだよ」

 

「んッ……あ、あれって?」

 

あれ、なんか顔が赤い? 気のせいかな。

 

「可愛い子の気を引きたくてイジワルするってやつだよ。響香ちゃんは可愛いからついイジワルをしちゃうのかも知れないよ」

 

「んんッ……う、ウチはそんなに可愛くないよ。矢安宮は友達だから可愛いって言ってくれるけど、他の女子みたいにスタイルだって大したこと、ないもん」

 

響香ちゃんの拗ねたような言葉に苦笑してしまう。スタイルの良し悪しなんて個人の好みで変わるものだよ。でも、こんな事を言っても説得力はないだろうね。

 

よし、思い切って言ってみよう。

 

立ち止まり、僕は響香ちゃんと向かい合う。そして壊れ物を扱うように彼女の両肩を抱き寄せた。

 

大きく見開く瞳の輝きに、僕は吸い寄せられるように顔を寄せていく。

 

「もしもの話だけど、僕が小さな頃にヒミコちゃんに出会っていなかったとして、そのままヒーロー科に入学していたとする」

 

「え…あ、うん」

 

急にもしもの話をし出した僕に、響香ちゃんは不思議そうな顔をする。

 

そんな響香ちゃんの両肩から手を離し、彼女の全てを包み込むように強く抱きしめながら、その耳元で囁いた。

 

「──きっと、僕は響香に恋をしていた」

 

響香ちゃんを含めてA組女子は全員可愛いからね。僕のヒミコちゃんがいなかったら誰に恋しててもおかしくないよ。

 

「きゅぅぅ」

 

響香ちゃんの身体からいきなり力が抜けた。強く抱きしめててよかった。転倒するのを防げたよ。

 

響香ちゃんをお姫様抱っこする。

 

顔を覗き込むと真っ赤になっていた。まさかハーヴェストがアルコールを静脈注射したんじゃ!? と思ったけど、今はアルコールの静脈注射を停止しているんだ。

 

ほら、元ヒーローが大勢いるからね。中には性格が悪い人が混じっている可能性があるから騒ぎを起こしたくないってハーヴェストが提案をしてくれたんだ。気遣いのできるスタンドって良いよね。

 

ん?

 

なんだろう。霧が出てる。

 

と思ったらすぐに止まった。

 

《怪しい霧を出していた不審者をパトロール中の元ヒーロー達が確保》

 

ふーん、物騒だね。

 

僕達が山で肝試しをするって聞いた元ヒーロー達が、臨時パトロールをしてくれるって言ったときは、そこまでしなくてもって思ったけど必要だったんだね。

 

ハーヴェストの警戒はやめない方が良かったかな?

 

《最低限の警戒は続行中です。霧の不審者も監視していました。アルコールの静脈注射を検討しましたが、周辺を元ヒーロー達がパトロール中でしたので、任せる判断を下しました》

 

僕のハーヴェストが優秀すぎる!!

 

うんうん、本体に似て優秀なんだね。

 

ん?

 

今度は煙だ!! 山火事じゃないかな!!

 

と思ったら止まった。

 

《火を放ってた不審者を元ヒーロー達が確保……いえ、不審者が崩れて消滅》

 

崩れて消えた。妙な個性だね。

 

《刃を振り回す不審者を元ヒーロー達が確保》

 

ふーん、今夜は不審者が多いね。

 

《通常は態々報告をしていないだけです。今夜は肝試し中との事なので不穏な雰囲気を楽しめるかと思い報告しています》

 

僕のハーヴェストがもの凄く優秀すぎる!!

 

ふふん、これはヒミコちゃんに自慢できるレベルだね。

 

レベルアップでステータスは上がらなかった筈だけど、隠しパラメータとかで知能が上がっているんじゃないかな?

 

《トカゲとオネエの不審者二名をプッシーキャッツと元ヒーロー達が確保》

 

本当に不審者が多いね。

 

《奇妙な外見の不審者が元ヒーロー達と激闘を繰り広げています》

 

あれ、確保に苦労してるの?

 

《強敵です。ですが、戦闘音を聞きつけた周囲の元ヒーロー達が続々と集まっています。久しぶりの戦闘にテンションも高いので確保も時間の問題かと思います》

 

そっか。

 

でも、怪我人が出ていそうだから現場には向かおうかな。

 

響香ちゃんをお姫様抱っこしたまま、ゆっくりと休みながら現場へと向かった。

 

 

 

 

「ごめん、ずっと運ばせちゃって」

 

目覚めた響香ちゃんに謝られた。

 

「ううん、魅力的な女の子を抱っこするのは、全ての男子にとってご褒美だから気にしないでよ」

 

「もう、すぐそうやってふざけるんだから……ウチ、重くなかった?」

 

「もちろん、重かったよ」

 

「うぅ、ごめん…」

 

「大事な響香ちゃんの命の重さだったからね。どんな宝物より重く感じたよ。絶対に守らなきゃいけない大切なものだから。あっ、重量的な話なら羽のように軽かったよ」

 

「うー! もうっ、だからすぐふざけるのは禁止!!」

 

揶揄いすぎた。

 

響香ちゃんが怒ってポカポカと叩いてきた。

 

きゃいきゃいと騒ぎながら響香ちゃんの魔の手から逃げる。

 

「こらー! まてー! 一発ぐらい殴らせろー!」

 

「可愛い女の子に殴られて変な扉が開いたら大変だからダメー!」

 

「だからすぐふざけるなー!!」

 

「おいっ、まだヴィランとの戦闘中なんだ!! 気の抜けるやり取りは戦闘が終わるまで我慢するか、どっか向こうの方に行ってやってくれ!!」

 

強敵の不審者──ヴィラン確保の現場ではまだ戦闘中だった。その戦闘中の元ヒーローに苦情を言われた。

 

『ごめんなさい!』

 

二人揃って仲良く謝る。

 

ヴィランは身体から腕を生やして獅子奮迅の暴れっぷりを見せている。

 

吹き飛ばされる元ヒーロー達。中には腕や足が千切れたりしてる元ヒーローもいるけど、僕が即座に治癒していく。

 

「いや、有難いんだが、重傷後すぐに戦線復帰って無限ループの怖さを感じるぜ」

 

「クク、理想的な現場だ。即死さえしなければ何度でもやり直せる。ククク、この場に即死するようなマヌケはいないとは思うが、なんでも首を落とされても数十秒は生きているらしいぞ。万が一の場合、これは貴重な臨床試験となる。各自、安心して戦え!!」

 

「怖いこと言うなよ!!」

 

うん、和気藹々とした現場だね。

 

このヴィランは凄い強敵だけど、こうしている間にも駆けつける元ヒーロー達がいる。時間が経つほどにこちらが有利になっていくんだ。

 

そして、30人近い元ヒーローが戦う姿は参考になる。僕は後衛だから後ろから指示をだす役割が多いんだ。

 

「矢安宮……今はこうして見学をする余裕があるけど、ウチらだけであのヴィランに出会っていたら……」

 

横に立つ響香ちゃんが暗い顔をしていた。たしかに現時点の僕らヒーロー科の生徒達なら嬲り殺しにされる程の実力差があった。

 

響香ちゃんの微かに震える身体をギュッと抱きしめる。

 

「大丈夫だよ、響香ちゃんは僕が必ず守る。だってどんな宝物より大切な人だからね」

 

「矢安宮…」

 

そうだ、僕は友達を必ず守る。

 

中学生の頃はボッチ気味だった僕とヒミコちゃんの大切な友達なんだ。どんなヴィランが相手でも守り通してみせる!!

 

プッシーキャッツの方を襲ってきたヴィラン達も手練れだったみたいだ。すぐ近くで100人ぐらいの元ヒーロー達が休憩中じゃなかったら危なかっただろう。というか、そんな状況の場所によく襲ってきたよね。そのヴィラン達は周囲の偵察とかしてなかったのかな?

 

《プッシーキャッツがいる場所に残っていた不審者達が集結しました。元ヒーロー達にあっさりと確保されました。山に残存する不審者はここの不審者のみとなりました》

 

そっか。バカばっかりだね。

 

 

──そんなことを考えていた自分自身が、きっと一番のバカだったのだろう。

 

ヴィランを危険だと思っていたはずなのに、僕はそのヴィランをバカだと思い無意識の内に見下していた。

 

その無意識の驕りは、分身であるハーヴェストにも影響を与えていた。

 

この場には、300体のハーヴェストが存在している。警戒していればその感知能力は未来予知に等しい精度があった。

 

そのハーヴェストが感知出来なかった。いや、感知していなかった。元ヒーロー達に守られた状態だったから、ヴィランを前にしていながら警戒レベルを下げてしまったんだ。

 

ヴィランはこちらの油断を察したかのように突然、その動きを変えた。それまでとは別次元の速さで襲ってきた。

 

僕は完全に油断をしていた。

 

だけど、それでもなおハーヴェストは反応してくれた。

 

ほんの一瞬でヴィランの全身を覆い、かつてのミルコ姉さんの様に全身の関節を固定した。

 

だけど、ヴィランは関節が砕ける事など意に介さず動き続けた。

 

ヴィランの身体が砕けて歪んだ。その歪みによって生じた隙間の所為でハーヴェストの拘束に弛みが生じる。

 

その隙間に身体を捩じ込むように突き進むヴィラン。

 

全身を歪ませながらなお止まらないヴィランが、その腕を大きく振り上げた。

 

骨は砕け散り、筋肉のみでその身体を支えている不安定な状態のはずなのに、そのヴィランの腕に込められた力は、僕の命を間違いなく奪うと確信した。

 

僕は一歩も動けなかった。目を大きく見開くことしか出来なかった。

 

その大きく見開いた視界いっぱいに、僕の腕の中で震えていたはずの響香ちゃんの背中が映った。

 

両手を大きく広げて、恐ろしいヴィランの前に立ち塞がる彼女の小さな身体は──僕にはとても大きく見えた。

 

 

 

 

──全ハーヴェストの即時消去、そして即時召喚。

 

暴れるヴィランが宙に浮いていた。

 

「え…?」

 

「よかった……間に合った」

 

彼女を背後から抱きしめた。

 

迫り来る死を前にして、僕は響香ちゃんの存在を忘れていた。なのに響香ちゃんは身を挺して僕を守ろうとしてくれた。

 

そんな優しすぎる響香ちゃんを絶対に死なせるわけにはいかなかった。

 

「これは…お茶子ちゃんの個性……ううん、少し違う。もしかして、矢安宮がやってるの…?」

 

宙に浮かび暴れるヴィラン。その姿はお茶子ちゃんの個性で無重力にされたのとほぼ同じように見える。

 

響香ちゃんもそう思ったみたいだけど、すぐに違いに気付いたみたいだ。だけど、今はその疑問に答える余裕がなかった。

 

「ヴィランの動きを止めれるのは、あと1分もない……捕縛系の個性持ちは、いるか…?」

 

「あ、ああっ! 済まないっ、すぐに捕縛するからあと少し堪えてくれ!! おいっ、お前ら早くしろ!!」

 

「クッ…」

 

「や、矢安宮っ!? しっかりして!!」

 

消耗が激し過ぎる。なんだか視界が暗くなってきたような?

 

ふらっとしたと思ったら、地面に両膝をついていた。そのまま力が抜けて顔から倒れそうになったけど、響香ちゃんが受け止めてくれた。

 

そして、地面に仰向けになるように寝かせてくれた。

 

ふぅ、横になって、少し楽になった気が、する……よ。

 

「矢安宮っ!! 目を開けてっ!! 死んじゃやだよっ!!!」

 

あれ…?

 

いつの間にか目を瞑ってたみたいだ。

 

重い瞼を、あける……響香、ちゃん……泣いて…るの?

 

し、死な…ないよ…?

 

気分が…悪い、だけ……だ…よ。

 

ぼくは…涙……ぬぐ…う。

 

あ……きょか…とって……な…い。

 

「いやぁぁぁっ!!! 矢安宮ぅぅぅーッ!!!」

 

──消えゆく意識のなか、響香ちゃんの叫び声だけが聞こえた。

 

 

 

 

「どっこい生きてた矢安宮(やんぐう)重清(しげきよ)だよ!」

 

「もう、急に何を言ってるの?」

 

今は響香ちゃんに膝枕をしてもらって休憩中だ。

 

気を失ったのは30分程度で済んだけど、今回はとても疲れた。

 

ハーヴェストは一度具現化してしまえば、大地から自然エネルギーを吸収するから僕の消耗はない。だけど具現化時には消耗するんだ。

 

森中に散らばっていた全ハーヴェスト5000体の具現化を一旦解除して、この場に5000体全てを即座に具現化したけど、数が数だけに相応の消耗をした。

 

咄嗟だったから数の細かい調整をする余裕がなかったんだ。

 

今回、僕がしたのは、多数のハーヴェストでヴィランを包み込んで持ち上げたんだ。ハーヴェストを団子みたいに球状に集めて、中心にヴィランがいる状態だね。

 

ハーヴェスト団子の中で、ヴィランがどれほど暴れようとスタンドであるハーヴェストの破壊は出来ない。暴れる力を押さえつけずに団子内で受け流すようにしているからパワーで吹き飛ばす事も出来ない。

 

たとえ遠距離攻撃の手段を持っていて、僕を攻撃しても、炎や雷撃のようなエネルギー系ならハーヴェストが壁になればいいだけだ。衝撃波のような吹き飛ばす攻撃でも、多少の威力ならハーヴェスト同士で掴み合っているから耐えられる。耐えられない程の強力な攻撃でも、指向性のあるものならハーヴェスト団子をゴロンと動かして空にでも撃たせればいい。全方向ならどうしよう? 今後の課題としとこう。

 

《謝罪します。今回の失態は全て私の油断です。行動予測が出来ていれば如何様にも対処は可能でした》

 

ハーヴェストが反省してる。でも、油断をしてたのは僕もだよ。ハーヴェストは僕の分身だ。僕の心が具現化したものなんだ。

 

今回はお互いに反省しようね。次からはこんな事がないように力を合わせて頑張ろう。

 

《了解です。二度とこの様な失態は演じません》

 

うん、すごく頼りにしているからね。

 

そんな話を心の中でしていると、響香ちゃんが小さな声で語り始めた。

 

「ねぇ、矢安宮。ウチね、あのときこのまま死ぬんだって思ったんだ。あんたと一緒にね」

 

「うん、響香ちゃんの華奢な身体だと、あのヴィランのごっつい拳は防げなかったと思う」

 

「そうだよね。我ながら無駄な真似をしているなって思ってた。でも、後悔はしてなかった。あのまま死んでいても、きっとウチは満足して死んでたって、何故かそう思うんだ。どうしてだと思う?」

 

「それは響香ちゃんの心がすでにヒーローだからじゃないかな。ヒーローは人々を守る者だからね」

 

「ウチの心がヒーローだから……正直ピンとこない。人々を守る……ウチがあのとき思ったのは……矢安宮はどうなの? 人々を守るヒーローとしてあんな無茶をしたの?」

 

「ん? 僕は響香ちゃんを守るためだよ。知らない人達の為に無茶は出来ないよ。大切な響香ちゃんの為だから無茶をしたんだ」

 

「ふふ、そう言うと思った。矢安宮は女たらしだよね。そうやって皆を落としたんでしょう?」

 

「えーと、僕はヒミコちゃん一筋だよ。だいたい皆って誰のことなの? 僕は自慢じゃないけど、ヒミコちゃん以外にモテたことないよ」

 

「え…本気なの?」

 

「本気ってなにが?」

 

「そっか、そうなんだ。あはは、そうだよね。矢安宮って身体はデカくなっても中身がお子様のままだもんね!」

 

「それは僕に失礼だよ! 僕みたいな紳士を捕まえてお子様はないよ!」

 

「うん、そうだね。矢安宮は素敵な紳士だよ。ウチを助けてくれてありがとう。とても格好良かった。正直、ドキドキした」

 

僕の頭を撫でながら、響香ちゃんは小さな声で言った。

 

「ごめん…ウソついちゃった……咄嗟に身体が動いたこと……本当は後悔したんだ。あんたの腕の中にいれば良かったって。最後なら…矢安宮の顔を見ながら逝きたかったなって」

 

「そうなんだ……えーとね、僕からもごめん。さっきは許可をもらっていないのに、勝手に響香ちゃんの顔に触っちゃった。本当にごめんね」

 

「なにを謝るのかと思ったらそんな事なんだ。ふふ、いいよ。ウチに触る許可を出してあげる。これからは勝手に触ってもいいからね。ただし、ウチも触るから。文句は受け付けないよ」

 

「うん、これからは触りっこしよう」

 

「あはは、その言い方はヤバいよ。そうだね、これからはお互いの温もりを感じ合おう。まぁ…友達として許される範囲でさ」

 

響香ちゃんはそのまま上体を曲げて、僕の胸に耳を当てた。

 

「こうしていると…矢安宮の鼓動が聞こえる。どくん、どくん。矢安宮らしい優しいリズムだ。ウチが守ろうとして、逆にウチを守ってくれた音だ。ウチだけの音…今だけ……今だけは…ウチだけの……矢安宮だよね」

 

僕からは響香ちゃんの顔は見えなかったけど、なんとなく彼女は穏やかな表情をしていると思った。

 

「いやぁ青春だねぇ」

 

「やめろバカっ、邪魔してやるな!」

 

拘束したヴィランを見張っていた元ヒーローのおっちゃんの声が聞こえた。

 

あれ!?

 

気がつくと膝から頭を下ろされていた。響香ちゃんはどこだ!?

 

慌てて周りを見渡すと、すぐ近くの木の下で頭を抱えていた。

 

「うぅぅ、ウチはなんであんなセリフを…人も大勢いるのに……き、聞かれた。あんなセリフを聞かれた……うぅ、死にたい」

 

死なないで、響香ちゃん!?

 

急に落ち込んだ響香ちゃんを一生懸命に励ました。

 

 

 

 

緊急事態が起こった。

 

プッシーキャッツのいる場所にワープゲートが開いたんだ。

 

確保されていた不審者達は、元ヒーロー達の一瞬の隙を突いてワープゲートで逃げてしまった。

 

その際に素早く反応して不審者を追いかけた爆豪君が勢いあまって自分からワープゲートに入ってしまったんだ。

 

その場にいた皆は『あっ』って感じだったらしい。

 

近くにはヒミコちゃん達もいたって話だから、ハーヴェストを護衛につけたままだったら爆豪君を転倒させるとかして止めれたと思う。

 

まぁ、本人の自己責任だから仕方ない。

 

咄嗟に後を追おうとした生徒がいたけど、間に合わずにワープゲートは閉じてしまったそうだ。

 

「かっちゃーん!!!」と叫ぶその生徒の悲痛な叫びが辺りに響いて、現場はとても居た堪れない状況だったらしい。

 

僕が宿泊施設に戻った時には事態は進行していた。

 

「すでに警察が動いているわ」

 

「不幸中の幸いで、あちきのサーチであの子の居場所は分かるにゃんね。今から捜査本部に行ってくるわ」

 

「各地のプロヒーローにも声が掛かっているわ。ウチからも虎が出ることになった」

 

「電撃作戦だ。行方不明の生徒の命が掛かっている。今夜中に決着をつける予定だ」

 

プッシーキャッツから事態のあらましは聞けた。

 

うん、じゃあ、ラグドールと虎は気をつけて頑張ってね。

 

僕は凶悪ヴィランを苦労して確保した直後だから休憩に入るよ。

 

「矢安宮、お前には特別許可が下りた。行方不明者は負傷している可能性が非常に高い。リカバリーガールを超えて、現時点で最高の治癒能力者として現場に連行…ではなく同行してもらう。よかったな、一流のプロヒーローの活躍を最前列で見学できるチャンスだぞ」

 

 

──相澤先生にドナドナされた。

 

 

 

 

 

 

 

 





──林間合宿が終わりました。

予定通りの終了ではないのです。

クラスメイトが行方不明になったからです。

爆豪君が、ヴィランのワープゲートに自分から突っ込んでいったのです。

はい、バカなのです。

周りには元ヒーローが大勢いました。彼・彼女達ですら、ヴィランのワープゲートに侵入して追いかけようとはしませんでした。

もちろん、危険だからです。

ワープ先でどのような罠が待ち受けているか分かりません。

そんなことは、ヒーロー科の生徒にも周知されています。脳筋(バカ)が突っ込まないようにと注意したのです。

残念ながら、教師の想定以上の脳筋(バカ)がいました。

その所為で、私の重清くんが危険な最前線送りになりました。

私もついて行きたいのです。

ですが、私が行く方が危険なのです。

私という存在が、危険な最前線では重清くんの足枷になってしまいます。

自分自身の力不足が不甲斐ないです。

でも、少しだけ安心材料があります。

今回の個性強化訓練で、重清くんの個性が強化されて遠隔での治癒が可能になりました。

負傷者の治癒のために本当の前線まで行く必要がないのです。

あの訓練内容で、なぜ遠隔治癒が可能になったのかは先生達も不思議がっていました。

はい、個性はとても不思議ですね。

重清くんは、帰ってきたらのんびりデートをしようね。と言って現場に向かいました。

そんなフラグみたいな事を言わないで下さい。

とても心配になるのです。

重清くん、どうか無事に戻ってきて下さい。



















ところで、響香ちゃんがとても挙動不審なのです。

重清くん、戻ってきたら、この事についてお話をしましょうね。




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