重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

13 / 35
シーズン3(仮免試験編①)

 

──今日はプロヒーロー仮免試験日だ。

 

僕らはいつもの様にバスで試験会場へと向かっていた。

 

バス内では隣の席になった三奈ちゃんにポッキーを食べさせてもらっていた。

 

「はい、アーン」

 

「ぽりぽりぽりぽりぽり、ぱく」

 

「こらー、アタシの指は食べちゃダメだよー」

 

「ごめんね。つい指も一緒に口に入れちゃった」

 

「えへへ、別に怒ってはいないから大丈夫だよ。はい、次のポッキーだよ。アーン」

 

「ぽりぽりぽりぽりぽり、ぱく」

 

「こらー、アタシの指は食べちゃダメだよー」

 

「ごめんね。つい指も一緒に口に入れちゃった」

 

「えへへ、別に怒ってはいないから大丈夫だよ。はい、次のポッキーだよ。アーン」

 

「ぽりぽりぽりぽりぽり、ぱく」

 

「こらー、アタシの指は食べちゃダメだよー」

 

「ごめんね。つい指も一緒に口に入れちゃった」

 

「えへへ、別に怒ってはいないから大丈夫だよ。はい、次のポッキーだよ。アーン」

 

「ぽりぽりぽりぽりぽり、ぱく」

 

「こらー、アタシの指は食べちゃ――」

 

「うおー!!! いい加減にしやがれ!! バスに乗ってから延々とエンドレスループでいちゃつくんじゃねえぞ!!!」

 

三奈ちゃんの言葉を遮るように、急に峰田君が騒ぎ始めた。

 

何を興奮しているのかな? と首を傾げていたら、ガシッと三奈ちゃんの右手が峰田君の顔面を掴んだ。

 

「――アシッドクロー。峰田の脳味噌を頭蓋骨ごと溶かすのに三秒もあればお釣りがくるよ。それでね、峰田クン。次に邪魔をしたら──私の時間を三秒あげる」

 

「ひぃッ!? オイラが悪かったよ!! アダダダダッ!? 顔が潰れるぅぅぅ!!!」

 

どこからかミシミシと音が聞こえる気がするけど、きっと気のせいだろう。

 

暫くのあいだ悲鳴が聞こえた後、ドサッと床に倒れる峰田君。気絶したのかな?……いや、気絶した振りをして逃げたみたいだね。薄目で近くの座席に座っている女の子のスカートの中を覗こうと――

 

そこに無表情の切島君が近付いてきて、顔面を手形に凹ませている峰田君を無言で引き摺っていった。

 

僕の方を振り向いた三奈ちゃんはいつものニパッとした快活な笑顔を見せてくれた。

 

「えへへー、峰田の奴ってば騒がしいよね。ちゃんと叱っておいたからもう大丈夫だよ」

 

うん、三奈ちゃんはしっかり者だ。バスで騒ぐ同級生を先生の代わりに叱れるなんて偉いね。

 

僕は他人を叱るのは苦手だから余計に凄いと思うよ。でも叱るのは苦手な僕だけど、褒めるのは得意なんだ。

 

「三奈ちゃんは偉いね。良い子、良い子」

 

触り心地のいい頭を撫でる。三奈ちゃんは機嫌の良いニャンコみたいに目を細めた。

 

「うにゃあ、矢安宮は撫でるのが上手だね。なんだか眠くなっちゃうよー」

 

三奈ちゃんが胸に抱きつくように寄りかかってきた。触れ合った肌はとても熱かった。

 

うんうん、眠くなると体温が高くなるからね。三奈ちゃんの色がピンクというよりもレッドになってるよ。

 

胸にしがみつくような体勢になった彼女の背中をポンポンと軽く叩く。最初は強張っていたけど暫くすると身体からフワッと力が抜けた。

 

僕の胸にもたれた三奈ちゃんからスゥスゥと寝息が聞こえはじめた。

 

子供のように安心しきった寝顔で眠る彼女を見ていると、なんだかパパになった気分になる。

 

この子は嫁にはやらんぞ。そんな気持ちが沸々と湧き起こってくる。

 

うん、やっぱり娘ができたらメリッサみたいなファザコンに育てたい。今度、デヴィッドおじさんに子育てのコツを聞いておこう。

 

「呼ばれ方はやっぱりパパがいいな」

 

「なぁに、パパァ…もう朝ァ?」

 

三奈ちゃんの寝ぼけた声が聞こえた。そして眠たそうに僕の胸に顔を擦り付けてくる。

 

僕は胸に込み上げてくる感情を抑えて穏やかな声で答えた。

 

「まだ寝てていいよ」

 

「うん、わかったぁ……スゥスゥ」

 

僕の言葉でまた安心した表情で眠りにつく三奈ちゃん。

 

右手を見た。

 

──“クレイジー・ダイヤモンド”

 

今なら出来る気がした。

 

僕の個性は生物や物体を問わずに“元通り”に直す(治す)個性だ。

 

ならば可能なはずだ。

 

僕の望みを果たせるはずだ。

 

“クレイジー・ダイヤモンド”に意識を向ける。

 

そこから感じるのは無限の可能性だ。

 

荒ぶる感情と高まる父性。どこまでも強くなる愛情を“クレイジー・ダイヤモンド”に託す。

 

右手が炎に炙られたように熱くなる。

 

それを意志の力で握り潰した。

 

凝縮された熱が臨界を超えて爆発的にその性質を変えていく。

 

ただの熱の塊が方向性のあるエネルギー体へと変質していく。陽炎のように僕の身体に纏わりついた“ソレ”はいつしか雄々しい姿へと変貌していき――遂には懐かしい姿を見せてくれた。

 

「──君と、やっと会えたね」

 

僕の前に立つのは、遥か遠い記憶に残るスタンド──クレイジー・ダイヤモンドだった。

 

──スヤスヤと眠る三奈ちゃんを起こさないように気をつけてお姫様抱っこをして立ち上がる。両足を大きく開いて両手に抱く三奈ちゃんを宝物のように慈しむ。クレイジー・ダイヤモンドは僕達を見守るように背後に立った。

 

「ババーン!! 覚醒したクレイジー・ダイヤモンド。その拳はあらゆる物体(生物)をぶっ飛ばし、あらゆる物体(生物)直す(治す)!!」

 

クレイジー・ダイヤモンドの姿はクラスメイトの皆にも見えている。つまり、このクレイジー・ダイヤモンドはジョジョ世界のスタンドではなく、この世界の個性だという事だ。常闇君のダークシャドウみたいなものだね。

 

突然の事態に驚愕の表情を見せるクラスメイト達。

 

その中で唯一驚きの表情ではなく興味深そうな表情を見せているのが僕のヒミコちゃんだ。

 

ヒミコちゃんにはスタンドのクレイジー・ダイヤモンドの姿を絵に描いて説明していたから驚きよりも興味の方が強いのだろう。

 

とにかく、覚醒したクレイジー・ダイヤモンドの力なら僕の望みは達せられると自然と理解した。

 

僕のヒミコちゃんに視線を向けた。

 

絡み合う視線からは彼女の深い愛情が感じられる。

 

うん、高らかに彼女に告げよう。僕のこの熱い想いを。

 

「ヒミコちゃん!! 三奈ちゃんを幼児に戻すから二人で三奈ちゃんを育てよう!! そして彼女を立派なファザコンに育て上げるんだ!!」

 

──ヒミコちゃんと梅雨ちゃん、そしてモモちゃんの三人掛かりで本気で説教された。うぅ、泣きそう。

 

透ちゃんは心配そうにオロオロしている。大丈夫だよ、心配しないでね。

 

響香ちゃんはクレイジー・ダイヤモンドを興味深そうにペタペタ触っていた。うんうん、格好いいよね。思う存分触ってね。

 

可愛い三奈ちゃんはこの騒ぎの中でもスヤスヤと腕の中で眠っていた。

 

せめてバスが到着するまでは寝かせてあげよう。僕は強くそう思った。

 

 

 

 

──試験会場に到着した。

 

周りを見渡すと他校の生徒達も続々と集まってきている。

 

相澤先生は他校の女教師と喋っていた。彼女はMs.ジョークっていうプロヒーローだ。

 

ブツブツが癖の同級生がブツってたから間違いないだろう。

 

でもなんだか二人の距離感が近いような?

 

「よう、イレイザー。結婚しようぜ!」

 

「しな――」

 

「相澤先生が結婚するの!? 大変だっ、皆にも教えてあげよう!!」

 

僕はスマホを取り出すと、知り合いの元ヒーロー達(もう現役復帰した人達も結構いるよ)にメールすべく入力を始める。

 

『担任のイレイザーヘッドこと相澤消太が、Ms.ジョークと結婚するそうだよ。プロポーズを生で見たのは初めてだからビックリした。ちなみに今はプロヒーロー仮免試験の会場にいるよ。生徒達の引率中だから公私混同も甚だしいけどおめでたい事だから大目にみてあげようね!』

 

「これでよし!!」

 

かつてない程の指さばきでメール本文を素早く打ち込むと、パシャッと相澤先生達のツーショットの写真を撮って添付してから一斉送信をする。

 

写真を撮る瞬間、Ms.ジョークは素早く相澤先生と腕を組んで幸せ一杯といった笑顔を浮かべていた。状況判断が早い女性だ。流石はプロヒーローだと思った。

 

「は? 今誰にメールしたんだ!?」

 

一瞬、珍しくキョトンとした顔を見せて動きを止めた相澤先生だったけど、すぐに再起動をした。

 

血相を変えて僕に詰め寄る。腕にしがみ付いているMs.ジョークは満面の笑みを見せていた。

 

「えっと、メールをした相手はね――」

 

約400人程の名前を次々に読み上げていく。20人を超えた辺りで相澤先生とMs.ジョークのスマホの着信音が鳴り響いた。

 

「嘘だろ、おい」

 

鳴り響くスマホ画面を見て蒼白になる相澤先生。お祝いメールも続々と届いてるみたいだ。

 

「よう、イレイザー。ここまで広まっちまったら取り消すのは無理じゃね? プロポーズしたのはイレイザーってことになってるみたいだし、私と結婚しなかったらプロポーズしておきながら女を捨てた極悪人扱いされちまうぜ」

 

Ms.ジョークがニコニコしながら相澤先生に言っていた。

 

相澤先生は魂が抜けたようにフラフラとしていた。

 

その二人の様子はダメ亭主を支える良妻といった風情だ。きっと末永く仲良く過ごすだろう。

 

さて、相澤先生を揶揄うのもここまでだ。

 

プロヒーロー仮免試験が始まるぞ!

 

僕は気合を入れて試験会場へと入った。

 

「重清さん……恐ろしいお方ですわ。いつも相澤先生への意趣返しの機会を狙っておられたのは知っておりましたが、このような手段を躊躇せずにお取りになるだなんて――正直言って惚れ直しました。優しいだけではなく狡猾さも併せ持つだなんて、これなら八百万家に迎え入れるのに何の不安もありませんわ。なんと言っても、女性側が幸せ一杯な笑顔なのが堪りませんわ!」

 

「ケロ、少しやり過ぎだわ。でも、お相手のMs.ジョークは幸せそうね。それに相澤先生はこれぐらい強引じゃないと一生独身だと思うからこれで良かったのかしら?」

 

「バスの中で私達に説教されていたとき、重清くんは相澤先生に向けたヘルプの視線を無視されたのです。これはその逆恨みの仕返しですね。ふふ、そんな小物なところも可愛いのです」

 

──そんな女性陣の言葉が僕の耳の入る事はなかった。

 

 

 

 

会場を歩いていると他校の生徒達から次々に声を掛けられた。

 

その多くは元ヒーロー達や神野で助けた人達の身内だった。少しだけミルコ特戦隊のファンが混ざる感じだね。

 

皆、口々にお礼を言ってくれた。とても友好的な人達ばっかりだ。

 

「他の奴らは蹴落とすライバルだけど、君だけには絶対に受かって欲しいよ」

 

「むしろ優秀な治癒系個性なんだから無試験で合格でいいんじゃないか?」

 

「そうよね! うちのお父さんも神野で治してもらったんだよ! もうプロヒーローも同然だよ!」

 

「今回の合格枠を一つ削っていいから彼を無条件で合格にして欲しいよ。復活ヒーローが居る居ないじゃ現場の危険度が段違いになるんだぞ」

 

「親戚の元プロヒーローのおじさんが言ってたけど、雄英の林間合宿でヴィランと戦った時に彼が居てね。そこで重傷からの即時復活からの即時現場復帰の無限ループを今でも夢でみて飛び起きるんだって!」

 

「お前のおじさん、現場で重傷を負い過ぎじゃね? 悪夢をみるほどって一つの現場で何回重傷を負うんだよ」

 

「うん、本人もそこでプロヒーローには向いてないって気付いたから現役への復帰はやめとくって言ってた」

 

「気づくの遅くね!?」

 

こんな感じで僕の合格を応援してくれる感じだった。流石にわざと負ける訳にはいかないけど、今回の試験では僕を含めて雄英を集中して狙わないと言ってくれた。

 

うん、集中攻撃は怖いからね。それがないだけでも助かるよ。でも、試験場で相対したら遠慮なく戦おうね。と言っておいた。

 

そんな風に穏やかな時間が過ぎて、いよいよ試験開始の時間となる。

 

さあ、怪我をしない程度に頑張ろう!!

 

 

 

 

今回のプロヒーロー仮免試験の参加者は約1000人だ。

 

この中から約半数が合格となる。つまり、二人に一人は落ちるんだ。

 

とても厳しい試験だけど必ず合格してみせる。だって、もしも僕だけ落ちたら来年は一人だけで参加しなきゃならないんだ。

 

そのことをミルコ姉さんに指摘されてからは僕のやる気は天元突破した。

 

『随分とやる気が無さげだったから念の為に言ってみたけど、本気で気付いていなかったのか。お前は本当に妙なところで抜けているな』

 

ミルコ姉さんには呆れた顔をされたけど、僕は感謝している。

 

こんな所まで一人寂しく試験を受けに来たくないもん。

 

さてと、第一次試験の内容が発表されたよ。

 

試験内容は全員参加のバトルロワイヤルだ。制限時間まで生き残るのが第一条件で、制限時間になった時点で規定人数以上だった場合は武闘派のプロヒーロー達が投入される。

 

プロヒーロー達を相手に規定時間を生き残った全員が一次試験合格となる。

 

戦闘は一人ずつに配られるリストバンドを破壊されたら負けとなる。

 

武闘派のプロヒーロー達相手だと生徒達では到底勝ち目はないだろう。出会ったら即失格だと覚悟した方がいい。

 

それ故に最初の制限時間内で合格を決めるべく戦闘に自信がある生徒達は積極的に戦い、逆に直接戦闘は苦手な生徒達は様々な手段を用いて生き残りを図る。

 

単純な強さだけではプロヒーローは務まらない。それを見定める為に仮免試験では色々と工夫を凝らしているそうだ。

 

今年は少し戦闘力を重視した内容になっているけど、それはヴィランの活動が活発化する兆しがあるからだ。

 

ヴィランは本当に迷惑だよね。

 

さて、試験は全員参加のバトルロワイヤルとはいっても実際に同じ高校の生徒同士で争う馬鹿はいない。同級生達とは協力し合って戦うのがセオリーだ。

 

試合開始までの僅かな時間で作戦を考えなきゃだね。

 

たぶん委員長の飯田君が中心となって作戦を考えてくれるだろうから、僕は大人しく後ろの方でボンヤリとしておこう。

 

そんな感じで僕はのんびりと同級生達の元へと向かった。

 

 

 

 

「俺は好きにさせてもらうぜ!! 守りを固めてチマチマと戦うのは趣味じゃねえからな!!」

 

「おいおい、爆豪。いくら何でも一人は無茶だ。それなら俺も付き合うぜ」

 

「チッ、好きにしやがれ!!」

 

「俺も自由にさせてもらう。俺の個性は味方がいると却って邪魔だ。一人の方がやりやすいからな」

 

「爆豪君に切島君!! それに轟君まで勝手な行動は慎みたまえ!! 今回はただの演習じゃな――」

 

「だからだよ!! ただの演習じゃねえから足手纏いはいらねえッ!!」

 

「ほ、本気で言っているのかい。仲間を足手纏いだなんて……君は本気で言っているのかい!!!」

 

想い人であるはずの爆豪君相手に激昂する飯田君。それほどに仲間を軽んずる発言が許せなかったのだろう。

 

僕はそんな状況に怯える三奈ちゃんを抱きしめて励ましていた。

 

僕のヒミコちゃん?

 

僕のヒミコちゃんなら退屈そうに欠伸をしながら眺めているよ。

 

透ちゃんも興味なさそうだった。クレイジー・ダイヤモンドに肩車されながら眺めている。

 

モモちゃんが出張っていれば、ヒミコちゃんもモモちゃんの後ろで威圧程度の援護ぐらいはしただろうけど、副委員長のモモちゃんはクレイジー・ダイヤモンドの身体検査に集中していた。

 

「どんな隠し要素があるか分かったものじゃありませんわ。予め徹底的に調べさせてもらいます。響香さん、エコー検査はお任せしますわ。梅雨ちゃんは金属探知機での検査をお願いしますね。私はX線検査を行いますわ」

 

「すごい筋肉だね。本体の矢安宮も最近鍛えてるからこんな風になるのかな?――ふふ、いつもの感じで抱き締められたら息が詰まっちゃいそうだね」

 

「ケロ、金属探知機を使うの? 別に構わないけど、個性で生まれたクレイジー・ダイヤモンドはエネルギーの塊だと思うのだけど……まあ、やるだけやってみるわ」

 

三人で仲良くワイワイやっている。飯田君達の騒動には興味がないみたいだ。

 

「ね、ねえ…矢安宮。なんか揉めてるけど大丈夫かな。喧嘩になったりしないよね?」

 

不安そうに顔を曇らせてる三奈ちゃん。

 

ふと、テロを起こしたヴィランに囲まれた状況でも平気で僕と軽口を交わしていたメリッサの顔が浮かんだ。

 

あれ?

 

気弱な女の子って何気に初めてじゃないかな?

 

同級生同士の揉め事程度で不安そうに震えている腕の中の三奈ちゃん。

 

うぅ、可愛い。庇護欲が刺激されちゃうよ。

 

揉め事を起こしてる奴らを男らしくぶっ飛ばせば、可愛い三奈ちゃんは安心して笑ってくれるかな?

 

──三奈ちゃんを抱き締めたまま、両足を大きく開いて――

 

 

《本体、それは絶対にやめとけ》

 

 

――ハーヴェストに止められた。

 

 

 

 

「──それで常闇さん。ダークシャドウとクレイジー・ダイヤモンドとの違いで何か気付かれた事はございましたか?」

 

「ふむ。ダークシャドウとはその有り様が違いすぎて一概に比較は出来ぬが、この筋肉に秘められたパワーは闇の世界でその存在を強化したダークシャドウにも匹敵……或いは凌駕するやもしれぬ。そんな底知れぬ力の波動を感じる」

 

「なるほど、とても参考になりましたわ。ご協力ありがとうございます」

 

「いや、俺も勉強になった。それにダークシャドウのライバルも見つかった。これからも精進あるのみだ。ではもう行くぞ」

 

「はい、試験開始直前に本当にありがとうございました。――ふむ、つまりクレイジー・ダイヤモンドは脳筋なのですね。これは不味いですわね。基本的に搦め手の重清さんに直接的な暴力的解決手段まで加わったら益々手の掛かる事態に陥りそう……いえ、寧ろ目に見える分かりやすい暴力の方が都合がいいのかしら? これはミルコさんを交えて要相談ですわね」

 

「ふふ、ウチと梅雨ちゃん二人でも軽々と抱きあげられるね。あれ、なにこれ? 見えない何かがある?」

 

「もう、響香ちゃん! 急に足を掴まないで。ビックリしちゃったよ!」

 

「透ちゃん。普段から服まで消さないで。完全に透明になられるとフレンドリーファイアが怖いわ」

 

「あ、そっか。教えてくれてありがとう、梅雨ちゃん。それならこれを裏返しで着とくね!」

 

「……それ、もしかして矢安宮と同じヒーロースーツ?」

 

「よく分かったね、響香ちゃん! 少しだけデザインを変えて女性用にはしてるんだよ。えへへー、色々と工夫してリバーシブルなんだ。表だと透明で裏返すと見えるんだ。重清君に協力してもらって作ったんだよ!」

 

「ふーん…いつの間にかそんなに矢安宮と仲良くなってたんだ。まっ、ウチの方が矢安宮とは仲が良いとは思うけどね!」

 

「……うん、そうだね! これからも重清君と仲良くしてあげてね!」

 

「なに、その余裕の発言は? それになにか含みが有りそうなんだけど?」

 

「ううん。別になにもないよ。気に障ったのならごめんね!」

 

「もしかして……あんたは矢安宮の……いや何でもない。ここで言える事じゃないから気にしないで」

 

「ふーん。そういえば、響香ちゃんは林間合宿で重清君と一緒にヴィランに襲われたんだよね。……そこでナニカを知った?」

 

「そっか……分かった、あとで話すよ」

 

「うん、了解だよ。皆に声を掛けておくね」

 

「皆……なるほど。ふふ、やっぱりね、アイツは迂闊だもん。知ってる奴は大勢いるに決まっているよね。あっ、もしかして梅雨ちゃんも気づいているの?」

 

「ケロ……それは重清ちゃんがよく自慢げに話してくれる武勇伝に出てくる諸々の不思議な現象のことかしら?」

 

「なに自分で喋ってんのよ!!!」

 

「し、重清君……さ、流石に擁護できないよ」

 

「あ、頭が痛いですわ。やっぱり目に見える脳筋が必要ですわね」

 

 

 

 

気がつくと爆豪君達の姿が消えていた。

 

周りの雰囲気が暗いから交渉は決裂したのだろう。

 

まあ、それもいいんじゃないかな。

 

色々な考え方の人がいる。

 

合う考え方の人がいれば、合わない考え方の人もいて当然だ。

 

それでも協力すべき時というものはあるけど、今回は無理をしてまで力を合わせる場面じゃないと思う。

 

僕達はまだ一年生だ。

 

人間として未熟で当たり前だし、失敗から学ぶことで成長も出来るんだ。

 

「みんなっ、一部の人は離れてしまったが残った僕達は力を合わせて頑張ろうじゃないか!! 目指すは全員での合格だ!!」

 

おー!!

 

飯田君の激励に合わせて拳を振りあげる。

 

いよいよ集団戦だ。

 

僕の必殺技を見せてやるぞ!!!

 

「みんなっ、今こそゾンビアタックの見せ所だ!! ゾンビアタックの唯一の弱点は拘束系に無力なところだけど、その対策はもう考えているから安心してね!!」

 

「……安心する前にその対策内容を教えてくれないか?」

 

瀬呂君が不安そうに聞いてきた。

 

きっと本当に拘束を解除できるか心配なのだろう。

 

その心配を夏場のカキ氷のように溶かしてあげるよ。

 

僕は考えていた作戦案を説明する。

 

「物理的に拘束された場合には三奈ちゃんの強酸でその拘束物は瞬時に溶かすよ。

 

催眠系なら三奈ちゃんの強酸で身体を溶かされた痛みで瞬時に解けるよ。

 

毒系なら強酸で身体を溶かされた痛みでのたうち回っている間に諸々の手段(ハーヴェストが自家製ハチミツを静脈注射するんだ)でなんとかするね。

 

そして遠隔治癒が可能になったから、今なら即死攻撃を受けても死ぬまでの一瞬の時間で治癒できるから即死しないで済むんだ。

 

ただし、遠隔治癒の場合だと治癒能力が少し落ちるから即死攻撃ほどの威力だと痛みなしでは治せないと思う。もしかしたら文字通りの死ぬほどの痛みを感じるかもだけどそのぐらいは我慢できるよね」

 

「……そうか。概ね思った通りだ。拘束されないように死ぬ気で回避するよ」

 

瀬呂君が拘束解除の方法に納得してくれた。続けて作戦案の残りを説明する。

 

「拘束解除は三奈ちゃん頼りだから、戦闘中は前に出ないで後方から酸を飛ばしての威嚇程度に抑えてね。

 

梅雨ちゃんは三奈ちゃんの護衛兼緊急時は三奈ちゃんを背負って移動して欲しい。

 

響香ちゃんは後方で索敵を任せるよ。

 

モモちゃんには後方で飛び道具を創造してほしい。本体を創造したあとは弾の補充をお願いね。

 

非戦闘系の透ちゃん、お茶子ちゃん、田口君はその飛び道具で後方から援護射撃をしてね。

 

瀬呂君は攻撃してくる敵を拘束する事をメインで活動してね。

 

僕は安全な後方で待機しているから治癒は安心して任せてね。

 

僕のヒミコちゃんは当然だけど僕の護衛を任せるよ。

 

あとの戦闘系の皆はどれほどの重傷を負っても必ず治すから捨て身の特攻をしても大丈夫だよ。

 

僕からの作戦案は以上だ」

 

「いや、まあ、普通に理解できる作戦だな。うん、このメンバーの個性的に考えて集団戦なら納得の作戦のはずだ。不思議と理解は出来るのに納得したくない妙な気分になるけど確かに理解はできる。多分、委員長の口から聞いてたらこんな妙な気分にはならなかった気がするけどな」

 

「まあまあ、僕もこの作戦案には賛成だよ。というよりも、ほぼ僕が考えた作戦案と同じだからね。一つ違うのは拘束系を解除するのに芦戸さんの強酸を使う案だけだ。提案されてみればなぜ今まで思い付かなかったのかと不思議に思う程の良案だね。改めて言わせてもらおう。僕は全面的にこの作戦案に賛成するよ」

 

委員長の飯田君が、少し不満げな瀬呂君を宥めながら僕の作戦案に賛成してくれた。

 

周りを見渡しても作戦案に反対する人はいなかった。むしろ一部の脳筋(ブツブツの子)は無茶が出来ると興奮してた。

 

よし、この作戦案でいこう!

 

「ちょっと待てよ! もしかしてオイラも戦闘系扱いなのか! どう考えてもオイラは非戦闘系だろ!」

 

「それならモギモギを僕に投げてみて」

 

「は? よく分からないけど、ほらよ」

 

文句を言ってきた峰田君が頭のモギモギを取ると投げてくれた。

 

「(ハーヴェストよ、モギモギを抱えろ。クレイジー・ダイヤモンドのパワーを見せつけるぞ!)」

 

《了解です》

 

弧を描き飛んでくるモギモギを空中でハーヴェストがキャッチする。

 

「クレイジー・ダイヤモンド!!」

 

僕の掛け声に合わせて背後に立っていたクレイジー・ダイヤモンドがモギモギに拳を放った。

 

唸り音をあげて迫る拳にモギモギを抱えたハーヴェストは、刹那のタイミングを逃す事なくその両足で着地すると拳のパワーに自らの脚力を合わせた。次の瞬間、凄まじい速度で空に向かって射出される。

 

──チュイン。

 

そんな残音だけが聞こえた。

 

射出されたモギモギの影を見た者すらいないだろう。

 

飛んでいったと思われる方向にあった大きな雲の中央部分は丸い円を描くように消失していた。

 

「不壊であり吸着作用を持つモギモギは現存するどんな徹甲弾よりも強力な弾丸となる。あとは実戦の中で投擲力を磨くだけだよ。峰田君、君はとても優秀な戦闘系個性の持ち主だよ。もっと自分に自信を持つべきだ!!」

 

「お、オイラのモギモギにはあんな可能性が秘められていたのか。うおーっ!! やってやるぜ!! もうオイラを雑魚とは言わせねえぞ!! オイラのモギモギ弾で撃ち抜いてやるぜ!!」

 

峰田君がやる気になってくれた。

 

これで全力で前線に突進してくれるね!

 

 

 

 

「(なあ、アレって矢安宮のクレイジー・ダイヤモンドのパワーでのごり押しだろ? モギモギなんてほぼ関係ねえじゃん)」

 

「(クレイジー・ダイヤモンド。俺の見立て以上だな。オールマイトより純粋なパワーは劣るようだが、パンチスピードは迫るものがある。あのパワーとスピードならそこらの小石でも恐るべき凶弾と化すだろう。それでモギモギ弾だが、確かに不壊と吸着の優位性はあるがモギモギは軽く柔らかい。弾丸としての破壊力が期待できるとは思えん)」

 

「(……あのさ、さっきのバスで峰田の奴が気絶した振りして倒れただろ。そん時に近くに座ってたトガのスカートの中を覗こうとしたんだよ。咄嗟に切島の奴が引き摺って止めてたけど矢安宮にはバレてたよ。一瞬だけど峰田を睨んでたからな。その後、芦戸達と騒いでたから忘れてると思っていたけど、これは覚えてたって事だろうな。まあ酷いことにはならんと思うぜ。トガへの覗きは未遂だったからな。たぶん治癒を遅らせる程度の仕返しだろ」

 

「(あちゃー、よりにもよってトガにセクハラかよ。峰田はバカじゃねえの? それに矢安宮云々が無かったとしても普通はダチの彼女にセクハラなんかしないだろ)」

 

「同感だ。同胞の彼女にセクハラなど男の風上にもおけん。俺は矢安宮の気持ちの方が分かる。俺なら直接報復するがな)」

 

「(やっぱりそうだよな。俺だったらその場で殴ってたと思うしな。よし、今回は見て見ぬ振りでいいな)」

 

「(オッケー、他の男連中にも言っておくよ)」

 

「(うむ、承知した)」

 

 

 

 

さあ、プロヒーロー仮免試験が始まるぞ!!

 

僕達の戦いはこれからだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──重清くんの個性が覚醒しました。

クレイジー・ダイヤモンドが具現化したのです。

常闇君のダークシャドウと同じですね。

ダークシャドウと同じように出し入れは自由に行えるそうです。

話に聞いていたクレイジー・ダイヤモンドとはたぶん同じ姿だと思います。

たぶん、と付けるのは仕方ないのです。

重清くんは絵に描いて見せてくれてはいたのですが、その絵はあまり、その、この私でもさすがに上手とは言えないアレだったのです。

重清くんのママに聞いたのですが、小さな頃は将来は漫画家になると言って絵の練習をよくしていたらしいのですが、どうも根本的に絵のセンスが足らないみたいです。

私は直接聞いたことは無いので、彼が個性に目覚めてからは漫画家の夢は完全に忘れたみたいですね。

漫画家の夢を思い出されても困るので、この話題には触れないでおこうと、重清くんのママと決めています。

具現化したクレイジー・ダイヤモンドはダークシャドウとは違い自我は持たないみたいです。

重清くん曰く、ハーヴェストは半自立型でクレイジー・ダイヤモンドは操作型だそうです。

操作型といってもマニュアルではなくオートマみたいな感覚だと言っていました。

重清くんのふんわりとした考えを読み取って正確に行動をしてくれるそうです。

ふんわりを正確に? ハーヴェストだけではなく、クレイジー・ダイヤモンドもとても優秀ですね。

クレイジー・ダイヤモンドに自我はありませんが意識はあるみたいです。

重清くんをよく困った子を見るような目で見つめています。なんだか親近感が湧きますね。

もうすぐプロヒーロー仮免試験が始まります。

このタイミングで個性が覚醒したのには何か理由があるのでしょうか?

というか、何か理由があって欲しいです。

ファザコンな娘が欲しい……なんていう理由は恥ずかしいのです。

重清くんのママに知られたらどれだけ揶揄われるか分かったものじゃないのです。

ニッコリと微笑まれて、黙って精のつく食べ物を出される可能性もあります。

うぅ、やめて下さい! 私達はまだ清い関係なのです!!

ハァハァ……息が乱れてしまいました。

あれ、どうしたのですか?

重清君が急に近付いて来ました。

いえ、別にいつでもそばに来て欲しいのですが、今回は唐突なので少し驚きました。

え…?

男とは好きな女の子の乱れた息で興奮する生き物なのですか?

ハァ……溜息しか出ないのです。

どうしてこんな能天気な男の子のことが、こんなにも愛おしく感じるのでしょうか?

自分のことなのに全くの謎なのです。

ふふ、乙女心は複雑怪奇ですね。








  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。