重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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閑話・スターアンドストライプ

 

──ヒーローインターンという制度について説明された。

 

「僕がしているミルコ姉さんとこでのアルバイトとは違うんですか?」

 

うむ、と頷いて相澤先生が答える。

 

「矢安宮のバイトはあくまでも一般人でもできる内容だけだ。ヒーローインターンではプロヒーロー仮免許の所持を前提としている。つまり一人前のサイドキックとして活動をすることになる」

 

その言葉に教室内が騒ついた。

 

うんうん、そんなの嫌だよね。君子危うきに近寄らずだよ。まだ学生なのに危ないアルバイトなんてしたくないよ。

 

「矢安宮のような特殊な意見の持ち主は無視するとしてだ。ヒーローインターンは職場体験とは違い学校行事ではない。あくまでもヒーロー事務所と各人との契約となる。つまり先般の雄英体育祭でスカウトがなかった生徒はヒーローインターンそのものに参加できない場合もある。もちろん職場体験でお世話になったヒーロー事務所にお願いする手はあるぞ。それぞれで考えて行動しろ。以上だ」

 

学生の本分は勉強だよ。アルバイト探しを進める教師ってどうなの?

 

「重清さんはミルコさんの事務所に行かれるのですか? それとも他のヒーロー事務所を体験されるのかしら」

 

「ミルコさんは他所のヒーロー事務所で経験を積むのもアリだと仰ってましたよ。ヒーロー事務所毎に得意とする分野が違うのでミルコヒーロー事務所では経験できない分野を得意とする事務所に行ってみますか?」

 

僕のヒミコちゃんとモモちゃんが何故かヒーローインターン制度を利用する前提で話しかけてきた。

 

周りの同級生達もヒーローインターンの話で盛り上がってる。

 

うーん、仕方ない。ここは空気を読もう。ヒーローインターンに行くことは許容しよう。だけど知らない人のとこには行かないぞ。

 

「ヒーローインターンならやっぱりミルコ姉さんとこかな。もちろん様々な経験を積むという考えも理解は出来る。だけど僕はミルコ姉さんとの連携を深める方がいいと思う。ミルコ姉さんは今までソロ活動だったからね。チームプレイを学ぶ時間はお互いに大事だと思うんだ」

 

他所の事務所に行って知らない人に顎で使われるなんて嫌だもん。

 

僕は和気藹々と仕事をして、厳しい世間の荒波を知らずにぬるま湯に浸かって生きていくんだ。

 

「ふふ、ここまで堂々と覇気のないことを仰っているのが、世間で最も注目されている次世代ヒーローなのですから面白いですわね」

 

「トップヒーローは必ず学生時代に逸話を残していると言われますが、重清くんも既に『神野の奇跡』という逸話をつくっています。ミルコ特戦隊のメンバーということも重なって知名度なら既にトップヒーロー並みですよ」

 

ミルコ特戦隊のイメージが強いのなら、それこそ他所のヒーロー事務所には行けないよ。

 

いつもお世話になっているミルコ姉さんに不義理を働くわけにはいかないからね。

 

そんな風になんとか他所のヒーロー事務所に行くのを阻止しようと頑張っていると、誰かにツンツンと背中をつつかれた。

 

「ねぇねぇ、矢安宮はミルコヒーロー事務所にインターンに行くの? それならアタシも一緒に行きたいよー」

 

振り返ると三奈ちゃんが上目遣いで僕のことを見つめていた。

 

その姿を見て僕はピンときた。

 

「事務員さんの代わりにいいかも!」

 

僕の言葉にモモちゃんがなるほどと頷く。

 

「ミルコ特戦隊の活動のせいで事務員さんのストレスも溜まっているようですし、良いアイディアですわ。芦戸さんでしたら気心も知れてますし、まるで無関係な方を迎え入れるよりはいいと思いますわ」

 

モモちゃんは肯定的だ。ヒミコちゃんはニコニコしているけど、あれは興味がない時の笑顔だ。どっちでもいいって事だね。

 

「それならミルコ姉さんに面接を――」

 

「ちょっと待ってよ! ウチもミルコヒーロー事務所に行きたい! 面接するなら参加させてよ!」

 

響香ちゃんが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

流石はラビッドヒーローミルコだ。人気があるんだね!

 

もしかして他にも興味がある人はいるのかな?

 

教室内を見渡すと男子達は何故かサッと目を逸らした。

 

峰田君は瀬呂君にテープでグルグル巻きにされてもがいている。何かのプレイかな?

 

あっ、梅雨ちゃんが口元に指を当てて考えて込んでいる。

 

僕らを見ているから梅雨ちゃんもミルコヒーロー事務所に興味があるのかな?

 

ミルコ姉さんは水辺の仕事は専門外として受けないから梅雨ちゃんには不向きかと思っていたけど、あえて専門外の仕事を経験したいと梅雨ちゃんは考えているのかもだね!

 

梅雨ちゃんがいてくれたら事務所でも甘えられる。今だと事務所では気を張っているから少し疲れるんだ。

 

よし、梅雨ちゃんもミルコ姉さんの面接に誘ってみよう。

 

梅雨ちゃんに声を掛けるべく近付いた。

 

 

 

 

「ヒミコさん。事務所での重清さんはミルコさんの次にダラけているように見えるのですが、あれで気を張られているのでしょうか?」

 

「ミルコさんは仕事中はケジメとして重清くんを甘やかさないのでそれを言っているのだと思います」

 

「あのう、ヒミコさん。ミルコさんはいつも重清さんには甘い対応をされているように私の目には映っているのですが?」

 

「重清くん家にいる時のミルコさんは重清くんを子兎のように甘やかしているのです。学校での梅雨ちゃんみたいな感じですね」

 

「ベタベタの甘々ではないですか!!」

 

「ふふ、重清くんは甘えん坊ですから甘えさせてくれる人を見極める眼力は天下一品なのです。一見、粗暴そうなミルコさんにも初対面の時から懐いていたそうですよ。ミルコさんの方も色々とあって重清くんを気に入り思いっきり甘やかせるようになりました」

 

「どんな眼力ですの!? でもそうですわね。梅雨ちゃんもいつの間にか重清さんを甘やかせていましたわ。と言いますか、初日の個性把握テストの時から重清さんにお水を飲ませてあげたりと、色々とお世話をしていた姿を見かけましたわ」

 

「私の前だと格好つけたがって無理をする事が多いので助かります。まぁ、焼き餅を焼いたときなどは平気で地面に転がって駄々を捏ねたりもするんですけどね」

 

「ふふ、重清さんはいつまでも子供のように純粋な心をお持ちなのですね。本当に可愛らしい殿方ですわ」

 

「ここでそう言ってのけるモモちゃんに少しびっくりです。少しぐらい引いてもいいのではないでしょうか?」

 

「そのような振る舞いも全て余裕があるからですわ。私はそう思いますわ。ヒミコさんもそうなのでしょう。もしも重清さんが本気を出されたら――オールマイトにすら負けることはないと、そう考えております」

 

「ふふ、重清くんはオールマイトに懐いているのでありえない話ですね。でも確かに本気を出した重清くんが負ける相手なんて……いえ、一人だけ可能性のある相手がいます」

 

「心当たりがあるのですか、本気の重清さんに勝てる相手の?」

 

「もしも今すぐ敵対すれば重清くんが間違いなく勝ちます。ですが、手の届く範囲で敵対すれば負ける可能性があります。そういう相手ですね」

 

「なるほど、接近戦を得意とする相手――いえ、違いますね。それならオールマイト以上の存在はいません。そうなると……分かりましたわ。重清さんの強さの根源。未だに私でも予測できない不可思議な力を無効化できる可能性のある者。オールマイトに次ぐ世界第二位のプロヒーローと謳われし者」

 

「はい、アメリカ合衆国ナンバーワンヒーロー・スターアンドストライプなのです」

 

 

 

 

「おう、重清。ちょうど良かった。ヒーロー公安委員会からの特別依頼だ。日米の共同軍事演習での救護要員として参加してくれってさ。例年はリカバリーガールに依頼があるんだがもう歳だからな。重清が仮免許を取ったから丁度いいから代替わりをして欲しいそうだ」

 

ミルコ姉さんに梅雨ちゃん達の面接のお願いをしに事務所まで来たらそんな話をされた。

 

「その手の依頼って多くなりそうだね。リカバリーガールに年間予定とかあるんなら聞いておこうかな」

 

「ああ、そうだな。今までリカバリーガールが担ってた依頼は基本的に順次回ってくると思った方がいい。うちの事務の方で調整しておこうか?」

 

ミルコ姉さんの言葉に事務員さんの方を見る。視線に気付いた事務員さんがOKの合図をしてくれた。

 

「出来るだけちょっとずつでお願いね。それと代替わりを切っ掛けにして断れる依頼は断ってもらいたいな」

 

「ククク、贅沢な注文だな。ヒーロー飽和時代といわれるこのご時世で依頼の選り好みをするんだからな」

 

「リカバリーガールの個人的な付き合いで受けてた依頼を断って欲しいだけだよ。僕は僕で受けなきゃいけない依頼が出てくると思うからね。余裕は必要だよ」

 

「まっ、それもそうだな。じゃあ基本的に公安経由の国からの依頼は受ける。それ以外の依頼は一旦は断る。再交渉などは重清が正式にプロヒーローになってから行う。ってところかな」

 

国からの依頼を受けるのは一種のステータスにもなるから受けた方がいい。下手に断ったら後が怖そうだしね。

 

それ以外の毎年ある様々なイベント関係の救護要員としての依頼は一旦リセットだ。

 

もし依頼を受けるとしても依頼料などの再交渉をしてからだ。リカバリーガールの個人的な付き合いで安く受けてた依頼もあると思うからね。

 

ミルコヒーロー事務所には僕とヒミコちゃん、そしてモモちゃんの三人が一度に就職する事になる。もしかしたら梅雨ちゃん達も加わる可能性だってある。

 

事務所経営が赤字にならないように頑張らなきゃならない。

 

僕のヒミコちゃんにお金の苦労なんてさせないぞ!!

 

 

 

 

日米軍事演習の日、学校は公休扱いになった。

 

「今日は雄英のビッグスリーの話が聞ける日だったのにお仕事だなんて残念だよ」

 

僕の愚痴にミルコ姉さんが呆れた顔になった。僕はまだヒーローインターン中だからプロヒーローのミルコ姉さんが付き添いをしてくれるんだ。

 

「おいおい、雄英のビッグスリーの噂は私も聞いたことはあるが、今日はビッグスリー以上の大物に会えるんだぞ。そもそも同じ高校の先輩と比較できる相手じゃないからな」

 

「アメリカ合衆国ナンバーワンヒーローだったよね。ハイパームキムキなおっちゃんが知り合いみたいで事前に僕のことを話しておいてくれるって言ってたよ」

 

「ククク、オールマイトも過保護だな。まあ、聞いた噂だと正義感は強いが、人当たりの良いヒーローだそうだ。まだ学生の重清相手なら優しくしてくれるだろう。色々と教えてもらえ」

 

僕達がいる場所は日米合同の救護室だ。

 

日本国内での演習のためアメリカ合衆国の治癒系ヒーローは来日していない。

 

アメリカ合衆国は日本とは比較にならない程にヴィラン被害が多い為、数少ない治癒系ヒーローは多忙を極めている。国外に出る余裕はまるでないという話だ。

 

治癒系ヒーローを派遣出来ない代わりにナンバーワンヒーローを派遣してアメリカ合衆国としてのメンツを保っている。という僕にはよく分からない状況だ。

 

「国同士の話は気にしても仕方ないぞ。それと軍事にヒーローは関わらないが、演習なんぞの事故で怪我人や死者を出すわけにはいかないからな。重清はそれにだけ気を配っていればいい」

 

軍事演習といっても多くの見学者を招いたお祭りに近いイベントだ。

 

世界各国のマスコミも集まっているイベントで怪我人などを出せばスクープにされてしまう。だけど、僕がいれば何が起ころうと結果的に負傷者ゼロになる。

 

その際には途中経過は問わないらしい。

 

これもよく分からない話だ。

 

まあ、いいや。

 

ハーヴェストは既にイベント会場全体に配置している。

 

どこで何が起ころうと怪我人も死者も出さない体制が整っている。

 

えっと、念の為に声を掛けておこう。

 

「(ハーヴェストよ、油断はしないでね)」

 

《当然です。二度と油断はしません》

 

うん、これで大丈夫だ!!

 

 

 

 

「本国のヴィラン共が紛れ込んだ形跡があるだと!? 憲兵どもは何をしていた!!」

 

「一部の者が金を掴まされていたようです。既に拘束はしたようですが、潜入したヴィラン共の情報は知らさせていないみたいですね」

 

荒い足音を立てながら、彼女はおっちゃんの兵士達を引き連れて救護室に入ってきた。

 

「おっと、すまない。もう到着されていたのか。私はスターアンドストライプだ。本日はよろしく頼む。ミスター矢安宮。おや、事前連絡だともう一人付き添いのミスミルコが来られるのではなかったのか?」

 

ミルコ姉さんとはまた違うタイプの女傑だと思った。

 

──両足を広げ僅かに膝を曲げる。左手で上着の裾を掴み、右手は胸元を見せるように上着を引き寄せる。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴッ。スターアンドストライプさん。ここは日本だ。よって侵入したヴィランはこちらで対処させてもらった」

 

「なに!? それはどういう意味――」

 

「失礼します!! 会場に侵入していた本国のヴィラン共が日本のプロヒーロー達に確保されているとの事です」

 

「なんだと!? いや、失礼した。どうやら日本のプロヒーローに借りを作ったようだな。ミスター矢安宮」

 

スターが驚いたの一瞬だけだった。すぐさま状況を察して冷静さを取り戻した。それだけで彼女が百戦錬磨のプロヒーローだと理解させられた。

 

「それは違う。スターアンドストライプさん。先程も言ったがここは日本だ。ならば侵入したヴィランに対処するのは日本のプロヒーローの責務だ。貴女が借りに思う必要は何もない。それと――僕のことは重清と呼んでよ。あと、オールマイトが『あまり無理をせずに健康に気をつけるんだよ』って伝えてって言ってたよ」

 

「マスターがそのような伝言を託すとはミスター、いや重清はマスターに信頼されているのだな。そうだ、私のことはスターと呼んでくれ」

 

「うん、了解だよ。スター、今日はよろしくね。僕はまだ経験不足もいいところだからフォローして貰えたら助かるよ」

 

「もちろんだ。マスターからも重清を頼むと言われている。ふふ、今日のエスコート役は任せてくれ」

 

そう言ってスターは、茶目っ気を感じさせる笑みを浮かべた。

 

 

 

 

スターが来訪する少し前のことだ。

 

ハーヴェストが会場内のヴィラン達を発見した。

 

アルコールの静脈注射をしようかと思ったけど、目の前のミルコ姉さんが目に入った。

 

ミルコ姉さんに確保してもらったら警察から報酬が支払われる。

 

酔っ払ったヴィランを確保するよりもそのままの状態で確保した方が査定がよくなる気がする。

 

よし、ハーヴェストに頸動脈でも押さえてもらって気絶させよう。

 

「ミルコ姉さん、会場内の地図ってあるかな?」

 

「今日のパンフレットに載ってたぞ。ほらこれだ」

 

ミルコ姉さんがパンフレットを取り出して広げてくれた。

 

僕はそのパンフレットの地図にパパッと印をつけていく。

 

「……その印の意味は?」

 

ミルコ姉さんに言葉短く聞かれた。

 

「ヴィラン達のいる場所だよ。アメリカのヴィランだけど国際手配もされてるからミルコ姉さんが確保しても報酬が貰えるよね」

 

「あぁ問題ない。――少し数が多いな」

 

「ミルコ姉さんが現地に到着すると同時に気絶させるから暴れられる心配はないよ。あっ、でも警察が来るまで確保しとくのに人数がいるのか」

 

「それなら大丈夫だ。警備要員でプロヒーローが集められているからな。そいつらに協力してもらう」

 

よし、これで報酬ゲットだ。

 

「(ハァ、ヴィラン共を見つけられた理由はどうすりゃいいんだ? よし、ここは八百万の奴に考えてもらうか!)」

 

ミルコ姉さんは何かブツブツ言ってると思ったら素早くメールを打って送信した。

 

「じゃあ、行ってくるぞ!」

 

「いってらっしゃーい!(ハーヴェストよ、ミルコ姉さんの移動に合わせてヴィラン達を気絶させてね)」

 

《了解です》

 

僕は手を振ってミルコ姉さんを見送った。

 

 

 

 

「ほう、重清は天才科学者デヴィッド・シールドと面識があるのか。マスターの紹介かな?」

 

「うん、一緒に旅行に行った先のイベントで会ったんだ。その時に仲良くなって困った事があれば相談に乗ってくれるって約束をしてくれたんだけど、たまに連絡をしても娘のメリッサが通話をハッキングして割り込んでくるからあまり話せてないかな」

 

そういえば、メリッサからもうすぐ短期留学するって連絡があったんだ。メリッサは甘えさせてくれるお姉さんだから大歓迎だよ。

 

「ふむ、重清は女に対して警戒心が足らないのではないか? 少ししか話を聞いていないが、それでも不穏な気配を感じるぞ」

 

スターが心配そうな顔になる。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。女の子が砂糖菓子で出来てるなんて夢は持ってないからね」

 

「ほう、そうか。ではこれ以上は……ちなみに女の子は何で出来ていると思っているんだ?」

 

「女の子は愛情と包容力と強気とファザコンで出来ているんだよ。スターもそうだよね!」

 

「いやちょっと待て。少し話し合おう。重清の考えには妙な偏りがあると思うぞ。プラス方面のみに目を向ければ間違いとも言い切れないが、もっとマイナス方面にも目を向けろ。それと最後のファザコンとはなんだ?」

 

「自分の娘にはファザコンになって欲しいんだ。スターはもちろんファザコンだよね。やっぱり時代はファザコンの時代なんだよ」

 

「いやちょっと待て。私は父を尊敬はしているが、重清の言うファザコンとは違うぞ」

 

「うんうん、パパ大好きっ娘はやっぱり可愛いよね。将来はママとパパを大事にして。僕のヒミコちゃんとラブラブな家庭を作って。ファザコンな可愛い娘達に囲まれて。豊かで楽しい生活を送るんだ!」

 

「んん? それは素晴らしい目標だと思うのだが、なんだ? なにか引っかかるような……そうか! 息子だ! 息子を忘れているぞ!」

 

「パパと息子は永遠のライバルだよ。息子が産まれたらその家庭は戦場になってしまうんだ。そうかスターは男兄弟はいないんだね」

 

「た、たしかに私には妹しかいないが……え? 父親と息子とはそんな殺伐とした関係になるのか!?」

 

「スターが知らないのは無理もないよ。あくまでも家庭内の事だからね。普通は外部に漏らしたりはしないからね」

 

「な、なるほど。確かに家庭内の事を他人に言ったりはしないな。父と息子とは複雑な関係なのだな。いや、親子でも男同士なのだから張り合うのは本能なのかもしれないな」

 

「男同士は全て競い合うライバルだよ。だからこそ女の子には優しくするし、安らぎを求めてしまうんだ。これは本能だから仕方ないんだ」

 

「そういうことか。たしかにうちの男達はとても優しくしてくれるな。ふふ、甘やかされてると思い気に食わない部分もあったが、それが男の本能なら仕方ないというものか」

 

「そうだよ、スター。そういう男のどうしようもない部分を笑って受け入れてあげるのが大人の女性としての度量って奴じゃないかな」

 

「アハハハッ! 歳下の重清に言われては立つ瀬がないな。女としての度量か。うむ、いいだろう! 私はアメリカ合衆国ナンバーワンヒーローだ。つまりは国を代表する女でもある。女としての度量が狭いと思われてはアメリカ女性の名折れだ。男達のどうしようもない部分も笑って受けいれてみせようじゃないか!」

 

「流石はアメリカ合衆国ナンバーワンヒーローのスターだね。考え方も柔軟に変えれるんだ。是非とも僕のことも甘やかせてね!」

 

「日本の男はシャイだと思っていたが、重清は随分と明け透けに物を言うのだな。ふふ、私から見れば重清は子供のようなものだ。母だと思い甘えても構わんぞ。思う存分に甘やかせてやろう」

 

スターは小さな子供の頭を撫でるように僕の頭を優しく撫でた。

 

やった!!

 

ミルコ姉さんがいなくて、スター以外はアメリカ人のゴツいおっちゃん兵士達に囲まれた状態だったから心細かったんだ。

 

ミルコ姉さんが戻ってくるまでスターにくっ付いていよう。

 

あれ、周りのおっちゃん兵士達が変な目で僕の事を見てない? 気の所為かな?

 

 

 

 

「重清、あーん」

 

「アーン。モグモグ、ゴックン。このケーキ美味しいね。スター、アーン」

 

「あーん。もぐもぐ、こくん。うん、日本のケーキは美味いな。それにお菓子を食べさせ合うなど子供の頃に妹としたとき以来だ。だが悪くない。少々気恥ずかしいものはあるがな」

 

「そうなの? 僕はクラスの友達とよくするよ。コミニュケーションとしていいと思うんだ。食べさせ合って親密度アップだよ」

 

「なるほど、それは納得だ。こうやって重清に食べさせていると母性本能をくすぐられる。そして食べさせてもらうと幼い頃を思い出して胸の奥が温かくなるよ」

 

「うん、そうだよね。そうだ! スターならオールマイトとも食べさせ合ったらいいんじゃないかな。きっとオールマイトは喜ぶよ。オールマイトは雄英だと教師だからね。流石に教師と生徒の関係だと食べさせ合いは難しいからね。でもオールマイトとスターなら日米のトップヒーロー同士だから問題ないよ。それに二人は昔からの友人同士でもあるからね」

 

「マスターと!? た、確かに日米のトップヒーロー同士の親密度を高めるのは良い事だな。それにマスターとは私が子供の頃からの付き合いでもある。マスターにとって私と食べさせ合うのに抵抗はないだろう」

 

「うんうん、スターが子供の僕と食べさせ合うのと同じだね。オールマイトにとってはスターは自分の娘のように可愛いと思うよ。つまり、スターはファザコンのようにオールマイトに思いっきり甘えればいいんだよ」

 

「なに!? こ、この私が甘えるだと。い、いや、甘える相手が世界ナンバーワンヒーローのマスターなら問題ないのか? そ、そうだな。マスター以上の男などいないのだ。私が甘えてもなにも問題はない。むしろ甘えて当然とも言えよう」

 

「そうだよ。女の子はパパに甘えるべきだよ。スターはスターにとってパパみたいに頼りになって優しくて温かいオールマイトに甘えるべきだ!」

 

「うむ、その通りだな。よし、明日は日米トップヒーロー同士の対談があるんだ。その際にでもマスターと食べさせ合いをして親密度を高めるとしよう」

 

「きっとオールマイトは凄く喜ぶよ。でもオールマイトは僕と違ってシャイだからね。挙動不審になったら優しくフォローして上げてね」

 

「ふふ、確かにマスターは親しい相手にはシャイな一面を見せるときがある。うむ、こうやって重清が助言をくれたようにマスターには私が支えとなろう」

 

うん、ハイパームキムキなおっちゃんは喜ぶだろう。

 

僕はいい提案ができたと考えながらスターとケーキを食べさせ合った。

 

ところで、周りのおっちゃん兵士達が目ん玉が飛び出しそうなほど目を見開いているんだけど何なのかな?

 

 

 

 

「(野生()の勘だと言い張れってどんな説明だよ。八百万も当てにならんな。)重清、遅くなっ――」

 

暇つぶしにハイパームキムキなおっちゃんの背中に登るように、スターの背中に登っていた最中にミルコ姉さんが戻ってきた。

 

「おかえり、ミルコ姉さん」

 

「貴女がミスミルコか。私がスターアンドストライプだ。本日は迷惑をかけた。アメリカ合衆国内で何かがあれば今度は私が力になると約束しよう。その時には遠慮なく声を掛けてくれ」

 

「え? あ、ああ。わかった。その時はよろしく頼む……あ、いや、なんで重清があんたの背中に登ってんだ?」

 

珍しくミルコ姉さんが混乱してる。

 

アメリカ合衆国ナンバーワンヒーローを目の前にしたら、いくらミルコ姉さんでも緊張するんだね。

 

いや、ここは流石はスターだと言うべきかな。

 

世界ナンバーワンヒーローがオールマイトなら、世界ナンバーツーヒーローはスターだ。

 

つまり、女性ではスターが世界一の淑女ってことだもん。

 

女性なら誰だって憧れるってものだ。

 

「ふふ、そう持ち上げないでくれ。自分ではまだまだ未熟者だと思っているんだ。私の目標はマスターだからな。今の私でもマスターにはまるで及ばん。いつかマスターの横に並び立つのが目標なんだ」

 

そう告げるスターの顔は夢見る乙女のように輝いて見えた。

 

「いやちょっと待ってくれ。この状況はどうなってんだ。おいあんたら、ずっとここにいたんだろ。私がいない間に何があったんだ。教えてくれ」

 

ミルコ姉さんがおっちゃん兵士達に声をかけた。おっちゃん兵士達は何故かスッと視線を逸らした。

 

 

 

 

「──アメリカ合衆国ナンバーワンヒーロー・スターアンドストライプ。国が秘匿していますがその個性は漏れ聞こえてきます。確かに驚異的な個性ですわ。ですが――スターは女性ですよね」

 

「はい、女性なのです。なのであくまでも可能性だけです。現実的に言えば、私の重清くんが女性と本気で戦うことは有り得ないのです。なので『もしも戦えば』を考える空想のお話です」

 

「ふふ、それなら『もしも重清さんとヒミコさんが戦えば』どちらが勝つのでしょうか?」

 

「くすぐり合いなら本気の重清くんには勝てないのです。普段の三倍の素早さで身体中を弄られます」

 

「貴方達は何をされているのですか!? 破廉恥ですわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──テレビの真面目な対談番組で、オールマイトとスターアンドストライプが互いにケーキをアーンで食べさせ合っていました。

日米のトップヒーロー達の頭のネジは大丈夫でしょうか?

まぁ、それだけ今は平和なのだと思う事にしました。

そんなことより重要なことがあります。

雄英のビッグ3のことです。

いえ、正確にはそのトップの通形ミリオのことです。

重清くんが公休でいない日に、ミリオとA組全員で模擬戦を行いました。

そこでミリオが全裸になったのです。

彼に露出癖があろうと、ただの個性の副作用であろうと、それはどうでもいいのです。

問題は、模擬戦中に瞬間移動のように突然背後に現れたミリオの気配に、私の身体が無意識に反応してしまった事にあります。

はい。空中にいた彼にカウンターでした。

私が突き出した拳がクリーンヒットです。

一瞬だけでしたが、グニャッとした感触が気持ち悪かったです。

幸いにも防護用のグローブを着けていたので素手ではありませんでした。

ミリオにも大きな被害はありませんでした。潰れる前に透過したからです。

素晴らしい反応速度です。

雄英のトップというだけあります。

この件に関してはちゃんとミリオに謝りました。この私でも気の毒に思う痛がりようだったのです。

とても顔色が悪かったですが、ミリオは不可抗力だからと言って笑って許してくれました。

いつも笑っていますが、この時の笑顔にはキレがありませんでした。

これで一件落着だと思った時でした。

峰田君が騒ぎ出しました。

『トガァ、ゴールデンボールに生で触った感想を聞かせてくれよぉ。少しは興奮したかぁ? オイラのと比べさせてやろうかぁ? ほらほら触ってもいいぞぉ』

もちろん蹴りを叩き込みました。

インパクト時に捻りを加えたので二つとも潰せました。

はい、最悪でした。

汚い液体がまた靴につきました。

当然ですが、靴は廃棄処分です。

相澤先生にはまた怒られました。

私の方がセクハラ発言の被害者なのに酷いのです。

ところで、峰田君は泡を吹いてピクピクと痙攣していましたが、そんなに痛いのでしょうか?

見ていただけのクラスの男子達まで青い顔して変な体勢になっていました。

それを見た芦戸ちゃんが提案をしました。

──そんなに痛い急所なら鍛える為に戦闘訓練時は意識して狙ってあげよっか?

『絶対にやめてくれ!!!』

相澤先生まで男子達と声を揃えて叫びました。

その真剣で切実な様子に女子達が想像するよりも遥かに痛いのかな? と思い至りました。

それだけの痛みを受けながら笑って許してくれた雄英トップのミリオ。

彼は器の大きい優しい先輩だったのです。

被害を与えた部分が部分なので、後日になりましたが重清くんに念入りに治癒をしてもらいました。

重清くんも私の行為を知って、改めて私と一緒に謝罪をしてくれました。

やはりミリオは笑顔で許してくれました。この時の笑顔はキレを取り戻していました。本当によかったです。

この一件で私は重要なことを学びました。

──今まで重清くんと本気のケンカなどした事はないが、もしも本気のケンカをしたとしても絶対に男の子の急所を狙ってはいけない。

この事を学んだのです。

重清くんも――

『う、うん。絶対に狙わないでね』

――と青い顔をして頷いていました。












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