重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン4(文化祭準備編)

 

──プロヒーロー仮免補講に関わる特別依頼がきた。

 

「いつもの救護任務だな。今回は小学生を参加させるから、そのガキ達の面倒を見て欲しいそうだ」

 

なるほど、小学生相手か。

 

ミルコ特戦隊は子供人気が高いからピッタリの依頼だね。でも、小学生がプロヒーロー仮免補講に参加するの?

 

「いや、当たり前だがガキ達は受講者じゃねぇぞ。なんでも今回の受講者の中に極端に協調性が低い奴らがいるらしくてな。その矯正を目的とした協力者のガキ達だ。もっとも、このガキ達自身が随分な問題児達らしいがな」

 

ヤンチャな子供達の相手をさせて協調性を養わせようって事かな?

 

うーん。無謀な試みだと思う。

 

ヤンチャな子供の相手って素人が簡単にできるもんじゃないよ。

 

「まぁ、そうだな。私も無謀だとは思うぜ。目的を同じとするプロヒーロー候補生同士でも協調をとれないような奴らが、傍若無人なガキ達の面倒なんぞみれるわけがないわな」

 

ミルコ姉さんも同じ意見だね。それでもこの依頼を受けるの?

 

僕の言葉にミルコ姉さんは肩をすくめて答えた。

 

「まっ、いいんじゃねえか。うちへの依頼内容はガキ達の安全確保だ。受講者への指導じゃねえからな。仮免補講が奇跡的に成功しようが、順当に失敗しようが、うちへの依頼としては問題はねえからな」

 

それもそっか。

 

依頼に関係ない部分を気にしても仕方ないよね。

 

ところで、今回もミルコ姉さんが付き添ってくれるんだよね?

 

「あー、それなんだがな。私と重清が二人揃ったら、ガキ達が興奮し過ぎて仮免補講どころじゃ無くなるんじゃねえかって意見が出たんだ。だから今回は他のプロヒーローが付き添いになる」

 

えー、僕ってシャイだから知らない人と一緒に行動するのって緊張するから嫌なんだけど。

 

「本当にシャイな奴は、スターアンドストライプに登らねえよ。しかも初対面だったんだぞ。まあ、今回の付き添いは重清の知っている奴だよ。神野で会ったエンデヴァーだ。普通なら気後れする相手だが、重清なら気にしないだろ」

 

なんだ、燃えてるおっちゃんか。

 

でも、燃えてるおっちゃんって、トップヒーローだよね。

 

ハイパームキムキなおっちゃんの次に凄いヒーローだって聞いた事あるよ。

 

そんな人がこんな付き添いの依頼なんてよく受けてくれたよね?

 

「ん? 知らないのか。エンデヴァーはお前の同級生の父親だぞ。今回は自分の息子が仮免補講に出るからな。息子が心配みたいで二つ返事で依頼を受けたそうだ」

 

燃えてるおっちゃんの息子…?

 

爆豪君かな?

 

「クク、惜しいな。爆発の個性なら確かにエンデヴァーの息子っぽい個性だな。正解は半冷半燃の個性――エンデヴァー曰く、最高傑作だとよ」

 

あっ、思い出した。そういや、そんな話を聞いた事あるよ。

 

でも、半冷半燃の個性か……個性名はフレイザードの方が良かったのにね。

 

「フレイザード? クレイジーダイヤモンドもそうだが、重清のネーミングセンスは独特だな。だが、案外とエンデヴァーとは気が合いそうだ。アイツの個性名はヘルフレイムだからな。ふふ、お前を任せても大丈夫そうだ」

 

ミルコ姉さんはそう言うと、安心したように微笑んだ。

 

 

 

 

──子供達が集まっていた会場の照明が消えた。

 

いきなりの暗闇に悲鳴をあげる子供達。

 

そんな子供達をさらなる恐怖が襲う。

 

「キキィーッ、全員そこを動くな! この場は我らネオショッカーが占拠した!」

 

「キキィーッ、抵抗すればこの会場ごと爆破するぞ!」

 

幾つものスポットライトに照らされて浮かび上がる全身タイツの戦闘員達。

 

戦闘員の爆破という発言で動けなくなる大人達。

 

キキィー、キキィーと騒ぎ回る不気味な戦闘員達の意味不明な振る舞いに、子供達の恐怖が限界を迎えようとした。

 

その瞬間っ、高らかに響き渡る正義の声!!

 

「そこまでだ! 幼い女の子達に指一本たりとも触れることはこの僕が許さない!」

 

「重ちーよ! 重ちーが助けに来てくれたわ!」

 

「よかったぁ! 重ちーはミルコ特戦隊の救護担当だけど、助ける相手が女の子ならミルコより頼りになるもんね!」

 

「最悪だあっ、重ちーしかいないぞ! せめてトガはいないのか!? トガがいれば重ちーが格好つけようとしてオレ達男子も助けてくれるのに!」

 

「ミルコーッ!! 重ちーへのヒーロー教育ちゃんとしてくれーっ!!」

 

「うるさいわよ男子! 重ちーに文句を言わないでよ! 重ちーはあたし達女子の味方なのよ!」

 

「そうよ! 重ちーに文句つけるなら女子全員を敵に回すわよ! あんたらの金玉潰すわよ!」

 

「ひいっ!? 女子怖え!! 誰かまともなヒーロー助けてーっ!!」

 

「大丈夫だよ、僕がいるからね。最近は筋トレをしているから安心して! 具現化したクレイジー・ダイヤモンドと僕の二人が居れば、この場の女子全員を抱えて脱出できるからね!」

 

「きゃー! やっぱり重ちーは頼りになるわ!」

 

「トガさえいなきゃ彼女に立候補するのにー!」

 

「クソッ、やっぱり重ちーはオレ達男子の事は眼中にねえぞ!」

 

「うん、そうだね。だけどさ、ここまで突き抜けていると逆に格好良く見えるよね」

 

「あー、そうだな。ヒーローとしてはどうかと思うけど、男としてならカッケーかもな。男なら自力でなんとかしろ、か弱い女の子は任せろってスタンスを貫き通すのは凄えと思う。まぁ、ヒーローとしてはマジでどうかと思うけどな」

 

「重ちーは本物のヒーローだよ! 世間の評価なんか気にせずに自分の中の正義を貫き通す強さを持っているんだ!」

 

「お前は重ちー推しかよ……そういや、お前の母ちゃんは神野で重ちーに助けられたんだよな」

 

「うん、重ちーがいなかったらママは……僕はママを助けてくれた重ちーを一生応援するよ!!」

 

「……そうか。重ちーは確かに本物のヒーローなんだな。理不尽な現実をブッ飛ばす本物のヒーローだ……とは言っても今は他のヒーローに来て欲しいけどな!!」

 

「そうはそうだよ!! クセの強い重ちーじゃなくて、ちゃんとした普通のヒーロー助けてーっ!!」

 

か弱い女の子達を背後に庇い、僕はネオショッカー戦闘員達の隙を伺う。一瞬でも隙を見せれば女の子達を抱えて脱出してみせる!

 

「キキィーッ! なんでその言動で女の子達は兎も角として、男の子達の好感度が落ちねえんだよ! 理不尽だろうが!」

 

「キキィー、本当にこれ子供達とは打ち合わせしてねえのか? 普通は非難轟々になるだろ」

 

僕はたった一人でネオショッカー戦闘員達と対峙する。

 

ネオショッカー戦隊員達からの凄まじいプレッシャーが襲いかかってくるけど、この僕の背後には護るべき女の子達がいるんだ。

 

一歩たりとも引かないぞ!!

 

決死の想いを胸にしたその時――

 

「轟く豪炎は天を焼く! 唸る剛拳は大地を砕く! 燃え盛る魂は世界を満たす! フレイムヒーローエンデヴァーここに参上!!」

 

――彼はその勇姿を現した。

 

ババーンと炎に包まれながらファイティングポーズを決めるエンデヴァーの登場に一瞬だけ言葉をなくす子供達。

 

次の瞬間、割れんばかりの男子達の歓声が会場を震わせた。女の子達は一応って感じでパチパチと拍手をしている。

 

「うぉおお!! まともなヒーロー来たぁああ!!」

 

「よかったーっ!! これで無事にママのところに帰るよーっ!!」

 

「ねえ、愛想の悪いエンデヴァーが来たわよ」

 

「どうせ来るならトガが来ればいいのに。私、重ちーとトガがイチャイチャしてるのを見るの実は好きなんだ」

 

「分かるー! あたしも好きー! なんかあの二人いいよね。すごく仲良くって、お互いを大切に想い合ってるって雰囲気が素敵だよね」

 

子供達の声援がとても心強い。

 

うんうん、燃えてるおっちゃんに根気よくファイティングポーズを指導した甲斐があったよ。

 

男子達は大興奮だ。

 

補講を受けに来たヒーロー候補生達は、ネオショッカー戦闘員が現れた瞬間からアングリと口を開いて見入っていた。

 

あっ、轟君が頭を抱えて何か呟いているみたいだけど、周りの歓声が大きくて聞こえないや。

 

歓声を受けている燃えてるおっちゃんも満更でもない顔をしてるから今回のサプライズは大成功だね。

 

ちなみにネオショッカー戦闘員の皆さんは、燃えてるおっちゃんのサイドキックだよ。

 

さあっ、会場も温まった事だし、プロヒーロー仮免補講を頑張ってね!!

 

 

 

 

──会場から追い出された。

 

ミルコ姉さんが迎えに来た。

 

「ハァ、お前なぁ。私からエンデヴァーに付き添いを変わった理由を覚えているのか? ガキ達が興奮するのを抑える為なんだぞ。それなのにわざわざ騒ぎを起こすんじゃねえよ」

 

「ミルコよ。そう重清君を責めないでやってくれ。彼に協力してもらったとはいえ、子供達の大歓声を起こしたのは、この俺が自ら魅せたファイティングポーズの責任だからだ。ここで責められるべきは、重清君ではなく、このフレイムヒーローエンデヴァーだ!!」

 

ミルコ姉さんに軽く叱られてた僕のことを、燃えてるおっちゃんが雄々しいポーズを決めながら庇ってくれた。

 

実は燃えてるおっちゃんとは、事前の打ち合わせで話した時に仲良くなったんだ。

 

燃えてるおっちゃんはナンバーツーヒーローだ。ナンバーワンヒーローのハイパームキムキなおっちゃんをライバル視している。

 

彼を超えてナンバーワンヒーローとなる為に若い頃は厳しい鍛錬を続けていた。そして、自分ではそれが叶わないと察すると、自分の息子にその夢を託して轟君に厳しい訓練を課したそうだ。

 

前にそんな話を轟君がどっかで誰かに話していたんだ。それを立ち聞きしていたのを思い出した僕は、そのときに疑問に思った事を本人に聞いてみたんだ。

 

――ナンバーワンヒーローはヒーローチャートで一位になった人の事だよね。

 

ヒーローチャートで一位になるのに強さは、まあ必要だろうけど、一定レベルをクリアしてたらそれ以上を求めてもヒーローチャートには関係なくない?

 

ヒーローとしての実績は、燃えてるおっちゃんの実績はハイパームキムキなおっちゃんに匹敵するんだよね?

 

じゃあ、燃えてるおっちゃんがハイパームキムキなおっちゃんに及ばないのは世間からの人気だと思うけど、ナンバーワンヒーローになりたいのならどうして燃えてるおっちゃんは意味の薄い鍛錬ばっかりして、世間からの人気獲得をおざなりにしているの?

 

僕の疑問を聞いた燃えてるおっちゃんはしばらくフリーズしてたけど、再起動した後は激しく同意してくれた。

 

その後はプロヒーローの仮免許を取る前から世間からの人気を得ていた僕に、燃えてるおっちゃんはナンバーツーヒーローとしてのプライドなんか無視して人気を得る為の手段を相談してきた。

 

相談された僕は正直に話した。

 

自分は世間からの人気を得ようと思って活動したのではなく、自分のやりたい事、自分が出来る事、ただそれだけをやってきた。だから、僕のやり方が燃えてるおっちゃんの人気に繋がるかは分からない。

 

そんな風に正直に話した僕に、燃えてるおっちゃんはそれでもいいから教えて欲しいと頭を下げた。

 

僕はその言葉を受け入れた。

 

その日から燃えてるおっちゃんとの友情は始まったんだ。

 

今ではお互いが思いついた色々なアイディアを話し合って盛り上がる仲なんだ。

 

「……そうか、わかった。重清、もう帰るぞ。今日の依頼はキャンセルされたからな。偶々、仮免補講の見学に来てたオールマイトが運営側と掛け合ってくれてな。依頼失敗ではなく、キャンセル扱いにしてくれたんだ。後でオールマイトに礼を言っておけよ」

 

「オールマイトに借りを作ってしまったか。重清君、オールマイトへの借りは君の分まで俺が必ず返そう。だから今日のことは気にするな。この俺に新たな道を示してくれた君はそのままの君でいて欲しい。ミルコ、そういうわけだ。重清君の事をよろしく頼むぞ。それと先ほど重清君と約束したんだが、ミルコ特戦隊とのコラボの話は俺の方からミルコヒーロー事務所に打ち合わせに出向くゆえ、日時の都合がつけば、このフレイムヒーローエンデヴァーに直接連絡してくれ!!」

 

燃えてるおっちゃんが、僕と約束してくれたコラボの件を、勇ましいポーズと共にミルコ姉さんに告げてくれた。

 

「……そうか、わかった」

 

「うむ。では、俺は息子の活躍を隠れて見守るという使命があるからこれで失礼する。また会おう、重清君」

 

燃えてるおっちゃんは燃え盛りながら颯爽と会場へと忍び込んで行った。

 

「ハァ……甘い物でも食べてから帰るか」

 

ミルコ姉さんは深い溜息を吐いてからそう言った。

 

やった!

 

おやつタイムだね。

 

ミルコ姉さんは喜ぶ僕の頭を軽く撫でるように叩いた。

 

「少しは反省しろ。ほら、行くぞ」

 

手を差し出すミルコ姉さん。

 

僕達は手を繋いでおやつタイムに向かった。

 

 

 

 

もうすぐ、雄英の文化祭だ。

 

僕達のクラスでは舞台をする事に決まった。

 

舞台と言ってもお芝居じゃない。歌にバンド、それにダンスといったキラキラとしたショーをするんだ。

 

歌は響香ちゃんが担当する。彼女はすっごく歌が上手いんだ。楽器も弾けるし彼女ならプロも目指せると思う。

 

その響香ちゃんとモモちゃんはバンドで楽器を演奏する。

 

響香ちゃんはボーカル兼ベースで、モモちゃんはキーボードだ。

 

キーボードといえば『I・アイランド』を思い出した。

 

テロリストとの壮絶な戦いの果てで、勝負を決めたのは僕の見事なキーボード捌きだったんだ。

 

あの時はコンピューターを操作するキーボードだったけど、あの頃よりも経験を積んだ今の僕なら音楽を奏でるキーボードもいけると思うんだ。

 

よし、ちょっと試しに弾いてみるね。

 

ドラララララララララッ!!!

 

「はいはい、重清さん。このお菓子を差し上げますわ。向こうの方でお茶でも飲んで休憩なさってて下さいね」

 

「ほらほら、矢安宮。練習が終わったらいくらでも相手をしてあげるからね。今は向こうに行っててね」

 

僕は二人に背中を押されるようにして追い払われた。

 

ふむ、何故だろう?

 

 

 

 

バンドの二人以外の女子達はダンスを練習している。

 

昔からダンスを習っている三奈ちゃんがコーチとして指導をしているんだ。意外と彼女はスパルタな鬼コーチだ。

 

女子達はヒーローを目指すだけあって運動神経が良い。その上達速度は恐ろしい程に早かった。

 

文科系の僕では厳しい練習についていけないって分かりきっているから見学だけする。

 

お茶子ちゃんが元気いっぱいに練習をしている。彼女は中々の武闘派だから動きにキレがあるね。キレがあり過ぎてダンスっていうよりも武術の演舞に見えるのはご愛嬌ってやつかな。

 

「コォォォッ! ハッ、フッ、トォッ!!」

 

三奈ちゃんをジっと見つめる。

 

――三奈ちゃんの野生動物を思わせるしなやかな肢体が汗に濡れて輝いて見えた。

 

その表情はどこまでも真剣で、普段のヤンチャで可愛らしい女の子っぽさなどどこにも見当たらなかった。

 

その本気でダンスに取り組む姿は新たな彼女の魅力を僕に教えてくれた。

 

「あわわわっ!? 矢安宮があんな熱い目でアタシを見つめてるよー!? ど、どうしよう、もっとお尻とか振ってあげた方がいいのかなー!?」

 

透ちゃんをウンウンと見守る。

 

――透ちゃんの女の子の魅力に溢れる肢体が躍動している。

 

透明の個性のため普段から身体全体を使ったゼスチャーをしているからなのか、彼女のダンスでの表現力は素人とは思えないほどに心に訴えてくるものがある。

 

気がつくと、僕の視線は彼女に奪われていた。

 

「はわわっ、重清君の熱い眼差しが私の身体を舐めるように……うんっ、重清君が望むなら私はいつでも準備オッケーだよ!」

 

梅雨ちゃんをニコニコと凝視する。

 

――梅雨ちゃんの小柄ながらも母性を感じさせる肢体に心を奪われる。

 

普段は笑顔を絶やさない彼女が見せる本気のダンスは、僕の中では優しい姉という彼女のイメージを変えさせるのには十分な破壊力があった。

 

梅雨ちゃんは魅力溢れる素敵な女の子だ。

 

「ハァ、重清ちゃんは遠慮が無さすぎるわ。あんなに露骨な視線を女の子に向けてはいけないわ。だけど、本気で嫌がっている娘はいないみたいね。お説教は軽くするだけでいいかしら?」

 

僕のヒミコちゃんにボウっと見惚れる。

 

――僕のヒミコちゃん。

 

面倒臭そうな表情で適当に踊っている雰囲気なのに、そのダンスの完成度は三奈ちゃんに迫るものがある。

 

変身の個性の影響があるのか、僕のヒミコちゃんは他人の動きを模倣することに長けている。

 

いや、動きだけではなく口調や雰囲気まで完璧に模倣する。

 

だから身近な女の子は当然として、テレビでしか見れない可愛いアイドルや美人女優に変身しても本物と区別が全くつかない。

 

そんな変身したヒミコちゃんとイチャイチャするのはとても楽しいんだ。

 

もちろん、そのまんまのヒミコちゃん自身が一番可愛くて魅力的だよ。

 

だけど僕と同じ男なら分かってくれると思うんだ。

 

自分の彼女が変身の個性を持っていたら他の女の子に変身してもらってイチャイチャしたいって気持ちをね。

 

それにしても僕のヒミコちゃん、そんな薄着でダンスを踊るのは危険だよ。

 

周りの男達にエッチな目で見られちゃうからね。

 

でも厚着だとダンスはし難いよね。

 

うん、それなら僕が周りの男達の目ん玉を潰しておくね。

 

ダンスの練習が終わったら治すから何も問題はないよね。

 

「問題大アリなのです! 峰田君以外の男子の目ん玉を潰すのは可哀想です! あぁ、もうっ、そんな泣きそうな顔をしないで下さい! 重清くんは練習の邪魔なのでどっかに行ってて下さい!」

 

 

 

 

──練習場から追い出された。

 

僕のヒミコちゃんに叱られちゃった。

 

うぅ、悲しい。

 

今夜は梅雨ちゃんの部屋に行って慰めてもらおう。

 

トボトボと歩く。

 

寮に戻るにはまだ時間が早い。

 

広い寮に一人ぼっちは寂しいからね。

 

時間潰しにどっかに行こうかな?

 

ミルコヒーロー事務所はダメだ。今の時間帯だとミルコ姉さんはパトロール中のはずだ。事務員さんも今日は私用があるって言ってた……またお見合いかな?

 

自宅に帰ってエリちゃんと遊ぼうかな。いや、これもダメだ。エリちゃんは友達と遊ぶって言ってた。僕のヒミコちゃんによく似た幼稚園児とは順調に仲良くなってるみたいで安心する。

 

うーん。

 

今からだと遠くには行けないよね。

 

よし、雄英周辺の探索でもしよう。

 

僕のヒミコちゃんとのデートで行けるお店を探すんだ。

 

デートコースがマンネリだと飽きちゃうもんね。僕とのデートがつまらないなんて思われたくないよ。

 

とりあえず、雰囲気の良い喫茶店を探してみよう。

 

レッツゴーだ!

 

 

 

 

雄英の近くの住宅街にその店はあった。

 

洋風の隠れ家的な雰囲気の喫茶店だ。

 

ここは紅茶メインのお店なんだ。

 

ゴールドティップスインペリアルという高級紅茶を優雅に嗜む。それは紳士な僕に相応しい格調高いものだった。

 

うん。考えてみれば初代ジョジョは英国紳士だった。

 

ジョジョとは直接の面識はないけれど、彼には同じ黄金の精神を持つ者同士のシンパシーを感じるんだ。

 

英国の優雅な空気に触れた今の僕は、普段よりも三割増しの紳士だった。

 

ふんふふ〜ん。と鼻歌を口ずさむ。

 

素晴らしい一時を提供してくれた老マスターにお礼を告げ、僕は店を後にする。

 

次は僕のヒミコちゃんと来よう。

 

弾む気持ちで、そう思った。

 

 

 

 

「あら、この香りはジェントルが好きな銘柄のやつね。ふふ、あなたは若いのに紅茶の好みが……重ちー!? あなたは重ちーよね! すごいわ! わたし、重ちーのファンなの! 会えてとても嬉しいわ!」

 

すれ違ったツインテールの女の子が興奮した様子で握手を求めてきた。

 

その子はとても小柄で、そして目の周りには大きな隈がある女の子だった。

 

一見すると小学生ぐらいの年頃に見えるけど、僕の類稀な女の子に対する観察眼は彼女が年上のお姉さんだと見抜いていた。

 

ツインテールのお姉さんに失礼のない様に丁寧に握手をする。もちろん、礼儀正しい挨拶も忘れない。

 

「うふふ、テレビだと破天荒な一面ばかりクローズアップされているけど、本物の重ちーはとても紳士ね。ますます好きになっちゃったわ」

 

ニッコリと魅力的な笑顔を見せてくれるツインテールのお姉さん。

 

とても好意的な雰囲気だ。

 

うん、まだ寮に帰るには時間がある。

 

僕はさっきまでいた喫茶店にお姉さんを誘ってみた。

 

「まあ、重ちーからお茶のお誘いだなんて嬉しいわ。是非ご一緒させてね」

 

僕達は喫茶店へと向かった。

 

 

 

 

「それでね、私のジェントルったらとても素敵なの。きっと、私のジェントルは歴史に名を残すと思うの」

 

「うんうん。僕のヒミコちゃんもとっても素敵だよ。僕のヒミコちゃんとイチャイチャして幸せな一生を過ごすんだ」

 

「あんなに素敵なジェントルを誰も知らないなんて許せないわ。彼がよくても私が許さないんだから」

 

「僕のヒミコちゃんは僕だけのものだよ。彼女の魅力は僕だけが知っていればいいんだ。だって他の男に見られたら腹が立つからね」

 

「──それはそうよね。私のジェントルを他の女に見られたら腹が立つもの」

 

「そうだよ。僕のヒミコちゃんをエッチな目で見ていいのは僕だけだ。僕のヒミコちゃんをエッチな気持ちで触っていいのは僕だけなんだ」

 

「そうよ。 私のジェントルをエッチな目で見ていいのは……って女性に何を言わせる気なの! もうっ、重ちーのエッチ!」

 

老マスターの紅茶とケーキを楽しみながら、ツインテールのお姉さん――マナミお姉さんとは談笑を通じて仲良くなっていった。

 

「うふふ、重ちーはやっぱりトガさん一筋なのね。それはとても素敵なことだわ」

 

マナミお姉さんには想いを寄せる男性がいる。ジェントルという動画投稿者だ。

 

彼女は彼の夢を――歴史に名を残す。という夢を叶える手助けをしている。

 

その為に……うん。合法とはいえない行為をしていた。

 

「ごめんなさい。本当は言うつもりはなかったの。重ちーに迷惑なんてかけたくないもの。だけど……重ちーってば、下手したら私より愛が重いんだもの。つい張り合って喋り過ぎてしまったわ」

 

しょんぼりと項垂れるマナミお姉さん。

 

ジェントルは社会正義を守る義賊を気取っている。だけど偽装表示や不正会計を行った会社の末端店舗に強盗に入るのなんかは義賊の行為じゃないと思う。

 

勇気を出して内部告発を行った誰か。地道な調査で隠された犯罪行為を白日の元に晒した誰か。

 

そんな誰かに力を貸すこと。そんな誰かに自らがなること。

 

それが社会正義を守る義賊じゃないかな。

 

決して末端店舗で日々を真面目に働いている人達相手に強盗を行う事ではない、そう僕は思うんだ。

 

世間の注目を集めて、その企業の犯罪行為を抑止させる。

 

その考えが完全に間違っているとまでは言わないけど、その手段が犯罪行為だというのは間違っているよ。

 

世論を動かしたいのなら合法的にやらなきゃダメだ。

 

犯罪行為によって世論を動かす。その考え方はただのヴィランだよ。

 

ジェントルはただのヴィランではなく、義賊と呼ばれる存在になりたいんだよね。

 

結果的には被害らしい被害はないけど、経緯をみれば窃盗に強盗、それに公務執行妨害を繰り返していて、その行為を動画投稿している愉快犯のヴィランだよ。

 

このまま続けていても決して義賊として名が広まることはないと思うよ。

 

「うぅ……本当は分かっていたの。歴史に名を残す。それを叶える為に義賊を名乗ろうと、実際にやっている事はヴィランと変わらないってことは。それでも、私はジェントルの手助けをしたかったの……ごめんなさい」

 

マナミお姉さんがポタポタと涙をこぼす。

 

僕はヒーロー候補生だ。既に仮免許を取得してヒーロー活動もしている。

 

犯罪行為を知った以上は黙って見逃すわけにはいかない。

 

マナミお姉さんもそれが分かっているからこそ、僕に迷惑をかけてしまう事を謝っている。

 

マナミお姉さん自身はただの協力者だ。動画撮影と動画投稿を手伝っただけだから、情状酌量を考えれば実刑を受ける事はないと思う。

 

「いいえ、ジェントルが実刑を受けるなら、私も受けるわ。ジェントルとは一心同体だもの」

 

ううーん。困った。

 

ヴィランとして大暴れをしているのなら女の子相手でも容赦なく捕えるけど、マナミお姉さんを捕えるのは気がひけるよ。

 

よしっ、決めた!!

 

「マナミお姉さん。僕に考えがあるんだ。聞いてくれるかな?」

 

「え、重ちーの考え?」

 

自分の夢と、愛する人。

 

ちっぽけな人間が手に入れられるのは、いくら頑張ろうとも精々が片方だけだ。

 

かつて僕は、愛(怒ったママ)の為に夢(自宅警備員)を捨てて進学を選んだ。

 

僕という男は、夢よりも愛を選んだんだ。

 

ジェントルはどちらを選ぶ男なのかな?

 

夢を選ぶ男なら、僕に出来るのはせめてジェントルに華々しい有終の美を飾る場を提供するぐらいだ。

 

だけど、ジェントルが愛を選ぶのなら――僕には秘策がある。

 

うん、ジェントルに選択してもらおう。

 

己の夢か、それともマナミお姉さんの愛かをだ。

 

「もうっ、そんなのジェントルが選ぶのは愛に決まっているじゃない!」

 

間髪入れずにマナミお姉さんは答えた。

 

うん、そうだね。愛し合う二人なら答えは最初から出ているよね。

 

「うん。分かった。じゃあ秘策を教えるよ」

 

「ふふ、重ちーの悪巧みね。楽しみだわ」

 

さっきまで泣いていたのに、一瞬で満面の笑みに変わった。

 

女の子のこういう所って、現金で可愛いよね!!

 

 

 

 

建設中の工事現場で待つ僕達の元に、その男は現れた。

 

「ラブラバは無事だろうね」

 

銀髪で髭を生やした眼光の鋭い男だった。

 

英国紳士風の装いをしているが、その雰囲気は優雅な紳士とは程遠く、荒々しい肉食獣を思わせた。

 

もっとフレンドリーに出来ないかな?

 

「愛する人を誘拐されて穏やかでいられるほど人間は出来ていないんだ。頼むから減らず口は叩かないでくれないかな。君を……つい八つ裂きにしたくなるからね」

 

ヒゲのおっちゃんの全身から迸る殺気に鳥肌が立つ。

 

どうやら本気で怒っているみたいだ。愛されているんだね、マナミお姉さん。

 

……嬉しいのは分かるけど、ニヤつくのは我慢してね。

 

鉄骨に縛り付けたマナミお姉さんに小声で注意する。(拘束は簡単に解けるよ)

 

「(ごめんなさい、気をつけるわ)」

 

マナミお姉さんも小声で答えた。

 

「それでは君の要求を聞かせてもらおうか。目的は彼女ではなく、私なのだろう?」

 

ヒゲのおっちゃんは怒っていても冷静さを失ってはいなかった。殺気をおさめて静かな口調で問いかけてきた。

 

僕を必要以上に刺激しない様に気を使っているのを感じた。

 

要求は簡単な事だよ。

 

今後一切の義賊活動をやめる事だ。

 

「グッ!? 私にジェントルの名を捨てろということか!! そんな要求など呑めん!!」

 

いいの?

 

こっちには君の愛する女性がいるんだよ?

 

「なんと卑怯な!? ラブラバに何をする気だ!!」

 

僕の要求が呑めないのなら、彼女の魅力的な胸に顔を埋めるぞ!

 

「助けて、ジェントル! 彼の要求を呑んで! じゃないと私はパフパフされちゃうわ!」

 

これが僕の秘策だ!!

 

ジェントルとラブラバの名はそれなりに知られているけど、警察はまだ二人の素性を掴んでいない。

 

今すぐに義賊活動から足を洗い、特徴的な外見を変えれば捕まることはないだろう。

 

幸いにも二人が行ってきた犯罪行為はショボいから警察も全く本腰をいれて捜査をしていない。

 

数ヶ月もすれば誰も記憶に留めていない程度の認知度だ。

 

よかったよかった。

 

これで一件落着だ。

 

……うん、僕の行為はヒーロー候補生としては間違っている。

 

だけど、僕にはマナミお姉さんを捕える事なんて出来ない。

 

好きな人の為なら犯罪行為でも躊躇わずにしてしまうって気持ちが痛いほど分かるんだ。

 

だから今日のことは墓場まで持っていく。

 

ジェントルとラブラバという二人組のヴィランは、人知れず消え去るんだ。

 

よし、とにかくこれで、マナミお姉さんはヒゲのおっちゃんと末長くイチャイチャして暮らせるよね。

 

そんなお気楽な考えをしていた僕を、ヒゲのおっちゃんの衝撃的な言葉が襲った。

 

「パフパフ? まぁ、別に構わないよ。今、気づいたけど君は重ちーだね? 確かラブラバがファンだと言っていたね。えーと、これがどういった趣向の催しかは分からないけど、重ちー相手ならラブラバは自分から喜んで抱き締めるだろう。それに私も子供の重ちー相手に焼き餅を焼いたりしないさ。遠慮なくラブラバの胸の中で甘えなさい」

 

えぇっ!?

 

驚愕すべき発言だった。

 

僕だったら幼稚園児の男子相手にだって焼き餅を焼くよ!?

 

僕のヒミコちゃんにパフパフしようものなら、本気でどつき回すかも知れないよ!?

 

「それはいくら何でも狭量が過ぎないかい? まあ、人それぞれかな。ところでもう帰ってもいいかい? 午後のティータイムを抜けて来たからね。紅茶が冷めないうちに帰りたいんだがね」

 

「ちょっと待ってジェントル!! 本当に私がパフパフされてもいいの!? それにもっとすごい事もされちゃうかも知れないのよ!!」

 

そうだ、そうだ!

 

要求を飲まないならパフパフをした後、ほっぺたにチューもしちゃうぞ。

 

「大変よ、ジェントル!! チューをされちゃうわ!! それでもいいのジェントル!!」

 

「いやまあ、それぐらい別にいいよ。じゃあ、あまり遅くならないうちに帰って来なさい。はしゃぎ過ぎないようにね。私はもう帰るからね」

 

ヒゲのおっちゃんは興味を無くしたみたいだ。踵を返すとサッサと帰ろうとした。

 

──ブチッ!!!

 

そんな音が聞こえた気がした。

 

恐る恐る音が聞こえた気がした方向に顔を向ける。

 

──ツインテールの鬼がいた。

 

「ジェ〜ン〜ト〜ル〜。貴方には愛の鞭が必要のようね。重ちーっ、貴方に私の愛を託すわ!! ジェントルの朴念仁に愛の大切さを知らしめて!!」

 

怒れるツインテールの鬼から“力”を注入される。

 

ひいっ!?

 

身体が破裂しそうな程の“力”を注がないで!!

 

僕は咄嗟にクレイジー・ダイヤモンドを具現化させて“力”を彼に流した。

 

ふう、死ぬかと思った。

 

ドクンドクンと“力”を流し込まれるクレイジー・ダイヤモンド。

 

「(そうだ。ハーヴェストに“力”を流してレベルアップしてもらう方がいいかな?)」

 

《いえ、以前の個性増幅装置(スタンドの弓矢)とは原理が違うようです。私が受け取るのには適さない“力”です。このままクレイジー・ダイヤモンドに流して下さい》

 

「(そっか、残念だね。まあ、その代わりクレイジー・ダイヤモンドがレベルアップしてくれるのかな?)」

 

《彼女の個性は一時的な強化のようですが、強化状態を固定化する為のエネルギー供給を数日間ほど継続して行えば、レベルアップは可能です。本体の生命力を消費するので精製したハチミツ(万能回復薬)の摂取をお勧めします》

 

「(そうなんだ。本当にハーヴェストの的確な助言は助かるよ。でも、数日間もエネルギー供給を意識的に続けるのって疲れそうだね)」

 

《本体の許可があれば、私が本体の生命力を使用してクレイジー・ダイヤモンドにエネルギー供給を行うことは可能です》

 

「(僕のハーヴェストが優秀すぎる! じゃあ、任せるね!)」

 

《了解しました。ハチミツ(万能回復薬)摂取が必要になれば連絡します》

 

えへへ、僕のハーヴェストはとても優秀だね。僕のスタンドがハーヴェストで本当に良かったよ。

 

ところで、クレイジー・ダイヤモンドは大丈夫かな?

 

なんだか変なオーラみたいなのを纏っているんだけど?

 

「私の愛でクレイジー・ダイヤモンドを強化しているのね。すごいわ! 愛の力はそんな事も出来たのね! さあっ、そのパワーでスカポンタンなジェントルの目を醒まさせてあげて!! 思いっきりボコボコにしていいわよ!! うふふ、重ちーがいれば治癒ができるから何度でも折檻を繰り返せるわね」

 

ツインテールの鬼が怖い笑顔で怖い事を言っている。

 

ヒゲのおっちゃんのこと……好きなんだよね?

 

「ひいっ!? ラブラバッ、何を怒っているんだい! いつもの君に戻るんだ! とにかく冷静になれ!」

 

「私が怒っている理由が分からないジェントルに怒っているのよ!! 死にはしないから素直にブン殴られて反省して!!!」

 

「死ぬより酷い目に合う予感がビンビンとするよ! ここは戦略的撤退を選ばせてもらおう。ラブラバが冷静さを取り戻した頃にまた会おう! さらばだ!」

 

「重ちーっ、絶対に逃がさないでっ!!」

 

アイアイサー!!

 

とにかく今のツインテールの鬼に逆らったらダメだ。ここは全力を出す!

 

いけっ、クレイジー・ダイヤモンド!!

 

オーラを纏ったクレイジー・ダイヤモンドがそのパワーとスピードを全開にする。

 

次の瞬間だった。

 

──全てが停止した。

 

走り出していたヒゲのおっちゃんが不自然な体勢で固まっている。

 

叫んでいたツインテールの鬼は口を開いた状態で固まっていた。

 

周りを見渡すと、風の音すら聞こえない完全な静寂に包まれていた。

 

《──時間停止を観測しました。クレイジー・ダイヤモンドの新能力だと推察します》

 

ハーヴェストのその言葉に、僕は何とも言えない感情を覚えた。

 

──時間停止。

 

それはあの『吐き気を催す邪悪』のディオのスタンド能力だった。

 

この世界のディオにはスタンド能力がなかったから当然のように時間停止も出来なかった。

 

その時間停止の能力を、そのディオを倒した僕が受け継ぐことになる。

 

これは運命の皮肉なのだろうか?

 

それとも、これもスタンド使いの宿命というものなのだろうか?

 

もしかしたら、この能力が必要とされる強敵が迫っているのかもしれない。

 

まだ見ぬ強敵。

 

それがどれほど強大でも逃げるわけにはいかない。

 

だけどそれは決してスタンド使いの宿命に殉ずる為じゃない。

 

強敵に立ち向かう事が、僕が愛する人達を守る事に繋がると理解しているからだ。

 

まぁ、それはそれとして、今はすべき事があるんだ。時間が止まっている間に片付けよう。

 

僕はクレイジー・ダイヤモンドをトコトコと移動させると、ヒゲのおっちゃんをヨイショと担がせる。エッホエッホとツインテールの鬼の前に持っていって下ろさせた。

 

──そして時は動きだす。

 

「うわっ!?」

 

「キャッ! ジェントル!? いけないわっ、まだお昼で外よ! それに重ちーの見てる前で押し倒すだなんてモラルに反するわ! 彼の教育に悪影響よ! もうっ、だから離れてって言ってるでしょう!!」

 

「ブケラッ!?」

 

置いた位置が悪かった。ヒゲのおっちゃんが走り出していた方向にツインテールの鬼がいた。

 

勢い余ってツインテールの鬼を押し倒す形になって、それで更に怒り狂ったツインテールの鬼がヒゲのおっちゃんを殴り飛ばしたんだ。

 

あれ? 一発ぶん殴っただけじゃ気が済まないみたいだ。

 

ツインテールの鬼は、ヒゲのおっちゃんに馬乗りになると殴りまくっている。

 

「私はっ、ジェントルがっ、泣くまでっ、殴ることをっ、止めないっ!!!」

 

肉を殴る音が響き続ける。

 

こ、怖い…。

 

 

 

 

──二人は仲直りをした。

 

うんうん、本当に良かった。

 

ヒゲのおっちゃんはこれからは真面目に働く事になった。

 

ヒゲのおっちゃんの個性は優秀だから、サイドキックを目指すそうだ。

 

そんなヒゲのおっちゃんをツインテールの――じゃなくて、マナミお姉さんは支えるそうだ。

 

「ありがとう、重ちー。出会ったばかりの私の力になってくれて本当に感謝しているわ。これからも頑張ってね。ずっとファンを続けるからね」

 

「うむ。ラブラバがとても世話になったね、礼を言うよ。そして今日は重ちーにはとても教えられたよ。幼稚園児の男の子相手でも焼き餅を焼く。それだけの情熱をもって女性を愛すべきなんだね。私はまだまだ女心が分かっていなかったよ。今日みたいな失態は二度としないように心に刻むとしよう。それにしても今日は本当に死ぬかと思った。そうそう、重ちーは知っているかい? 三途の川というのは実在するんだよ。いつ必要になるか分からないから三途の川の渡し賃は、いつでもポケットに入れておきなさい。これは先人からの忠告だよ」

 

幸せそうな笑顔のマナミお姉さん。そして少し虚な目のヒゲのおっちゃん。二人と別れの挨拶を交わす。

 

マナミお姉さん、結婚式には呼んでね。

 

ヒゲのおっちゃん、マナミお姉さんを泣かせたらダメだよ。

 

二人は僕の姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。

 

 

 

 

──寮に戻った。

 

梅雨ちゃんの部屋(鍵が掛かってたけどハーヴェストが開けてくれた)に駆け込んだ僕は、机で勉強中の梅雨ちゃんをヨイショと持ち上げて床に置くと、その膝の上に逃げ込んだ。

 

「うぅ…怖かったよ。ツインテールの鬼が好きだと言っていたヒゲのおっちゃんを血塗れになるまでボコボコにしたんだ。ヒゲのおっちゃんが泣いて謝るまで延々と殴り続けるなんて思わなかった。うぅ…梅雨ちゃん、女の子は好きな人を容赦なく殴れるものなの?」

 

「重清ちゃん、震えているわ。本当に怖いものを見たのね。重清ちゃんが施錠していた部屋にどうやって入って来たのかを問い詰めたい気持ちはあるけど、今は我慢するわ。重清ちゃんの見てしまった状況が分からないから推測なのだけど、たぶん男女関係に関することよね。重清ちゃんとヒミコちゃんはとても仲良しな関係だから、修羅場になった時の女の子の事なんて分からないわよね。そうね、男女関係の修羅場とは違うけれど思い出してみて。この間の機動戦士モードでの模擬戦ではっちゃけたモモちゃんは正直言ってとても怖かったわ。でも普段のモモちゃんはとても優しいでしょう。つまり普段は優しいモモちゃんでも怖くなる状況というものがあるの。モモちゃんはあのとき“本気”で怒っていたのよ」

 

梅雨ちゃんのその言葉で気づかされた。

 

「そうか。今日の場合はヒゲのおっちゃんは自身の心無い言葉でツインテールの鬼を怒らせた状況だったんだ。僕のヒミコちゃんだって怒らせたら、柔らかいほっぺたを膨らませてプンプンするから凄く可愛いもん。……あれ、怒った女の子は可愛い?えーと、整理するね。僕のヒミコちゃんは怒った状況でも可愛い女の子だ。そしてツインテールの鬼は怒った状況だと怖くなる女の子ってことだね。つまりは個人差があるんだ。好きな人を容赦なく殴るのも個人差ってことだよね。それでヒゲのおっちゃんが容赦なく殴られたのは、自分が発した言葉が原因なんだから自業自得だったんだ。よかった。僕のヒミコちゃんは怒っても可愛いし、僕のことを容赦なく殴ったりもしないもん……あれ? モモちゃんは怒らせたら容赦なく殴ってくる女の子?」

 

「それは大丈夫だと思うわ。モモちゃんが“本気”で怒るのは機動戦士モードを侮辱されたと感じた時ぐらいよ。重清ちゃんは機動戦士モードの大切なパートナーですもの。機動戦士モード関連で“本気”で怒る対象にはならないわ。それに私を含めて周りの女の子達も重清ちゃんに怒ることはあっても“本気”で怒ることは多分ないと思うわ。だから安心してちょうだい」

 

「そうなんだ。うん、安心したよ。安心したら眠たくなってきちゃった。梅雨ちゃんの膝の上はそれでなくても安心できて眠くなるからね。それじゃあ、お休みなさい……すぴー」

 

「あっという間に寝ちゃったわ。ふふ、重清ちゃんの寝顔は可愛いわね……それにしても重清ちゃんは、どこでそんな激しい修羅場を覗き見しちゃったのかしら? まったく、どこのカップルか知らないけど重清ちゃんを怯えさせないで欲しいわ――ケロ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──重清くんが新しい能力を見せてくれました。

部屋に入って来たと思ったら、重清くんが両腕を広げたのです。

はい、もちろん重清くんの胸に飛び込みました。

飛び込んだ瞬間、後ろから抱き締められました。

状況が理解できませんでした。

直前まで目の前にいた重清くんが背後から抱き締めてきたのです。

私が何を言っているのか分からないと思いますが、私も何をされたのか分からないのです。

頭が混乱して目が回りそうでした。これは催眠術とか超スピードだとか、そんなチャチなものではありません。

もっと、とんでもないものの片鱗を味わったのです。

なーんて、重清くん好みのコメントをしてみました。

とりあえず、モモちゃんにメールしておきます。

“重清くんが瞬間移動をしたのです。ビックリしました”

後の対策はモモちゃんに丸投げです。

私はとても忙しいからです。

そうです。後ろから抱き締めてきた重清くんとイチャイチャするのにとても忙しいのです。

面倒事はモモちゃんにお任せです。

うふふ、お邪魔虫の活用法を見出したのです。

私は一分一秒を惜しんで、私の重清くんとイチャイチャをする。

モモちゃんは一分一秒を惜しんで、私の重清くんの秘密を守る対策を考える。

まさに適材適所というやつです。

適材適所といえば、文化祭ではダンスチームに割り振られました。

芦戸ちゃんの真似をして踊れば良いだけなので楽ではあります。

私の重清くんは裏方です。

衣装や舞台装置の製作担当です。

個性をフル活用したので、準備を始めてから三日程で製作を終わらせちゃいました。

今は皆の練習を見学しているだけです。

特にダンス練習を見学している事が多いですね。

はい、視線がとてもエッチなのです。

重清くんは見過ぎなのです。

いえ、私が見られるのは構わないです。それこそ、どんとこいなのです。

他の女子を見ているのが腹が立つのです。

私と他の女子達を代わりばんこに見るのはどうなのでしょうか?

普通に失礼だと思います。

女の子に失礼と言えば、重清くんがミルコさんに女子高生時代の写真を見せてもらった後に、雄英の制服をミルコさんに着てもらおうとしたのもどうかと思うのです。

26歳のミルコさんに女子高生の格好をさせる。それは少し無茶が過ぎるのです。

私達の制服を借りるとしてもサイズが合わねえよ。と言って断ろうとしたミルコさんに、ジャーンとドヤ顔でミルコさんのサイズピッタリの制服を取り出した重清くんには流石の私でもドン引きです。

どれだけコスプレに執念を持っているのですか?

お陰で頬を引き攣らせるミルコさんという珍しい光景が見れました。

諦め顔になって制服に着替えたミルコさんは、本当に重清くんには甘いですね。

重清くんは制服姿のミルコさんの写真を撮りまくっていました。

ミルコさんも途中から開き直って色々とポーズを決めてあげていました。

重清くんは大喜びです。

それを見ていた重清くんママの『うふふ、重ちゃんのコスプレ好きはパパに似たのね』のセリフに納得です。

重清くんが私に変身して欲しいと、何度もしつこくおねだりするのは遺伝だったのです。

ところで、重清くん。

実の母親の目の前で、ミルコさんに女子高生のコスプレを頼むのは、いくら何でも勇者が過ぎませんか?










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