重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン4(文化祭開幕編)

 

──その日、担任の相澤先生に職員室に呼び出された。

 

「矢安宮、明日から停学一週間だ。三日後の文化祭への参加も認められん。自室で大人しく反省していろ」

 

そして、無情な言葉を告げられた。

 

 

 

寮の共用エリア。

 

そこのソファが置かれた一角に、僕達は集まった。

 

集まってくれたのは、ヒーローインターンの任務で夜間パトロールに出掛けたお茶子ちゃん以外の女子六名だ。

 

停学になった原因が彼女達にも関わる事だったから、ちゃんと説明をした方がいいと思ったんだ。

 

僕は停学になった事とその理由を説明した。

 

そして、これからは寮の女子エリアに行けない事を付け加えた。

 

「相澤先生は酷いのです! 重清くんは何も悪い事なんかしてないです!」

 

僕のヒミコちゃんが怒ってくれる。その気持ちだけですごく嬉しい。

 

「本当だよ! 重清君は私達の部屋でお喋りとかしてただけだよ。それだけで停学だなんてどう考えてもやり過ぎだよ!」

 

透ちゃんも怒りを露わにして怒ってくれる。そうなんだ、僕の停学は寮の女子エリアへの立入が理由だったんだ。

 

女子エリアへの侵入は一発で停学だ。そのルールは事前に聞かされてはいた。

 

僕はちゃんと女の子の許可を取ってるよ! と反論したけど無駄だった。

 

『たまに遊びにいく程度なら停学にまではせん。だがな、毎日のように女子エリアに遊びに行かれては他の男子生徒の不満も溜まる。寮内の規律を保つ為にもお前の停学は必要な処置だと職員会議で決まった。どんな言い訳をしようとも決定が覆る事はないぞ』

 

相澤先生は冷たく言い放つだけだった。

 

「でもさー、他の男子生徒の不満が溜まるっていうのが理由なら、どこの誰が告げ口をしたんだろ? なんだか嫌な奴だよねー。アタシ達の部屋に遊びにくる矢安宮が羨ましいんなら、自分も遊びに行きたいってアタシ達に言えばいいじゃん!」

 

三奈ちゃんが両手を振り回して叫んだ。

 

「告げ口の犯人には心当たりがありますわ。というよりも、彼以外が犯人なら逆に吃驚しますわ」

 

「奇遇ね、私も同じ意見だわ」

 

モモちゃんの言葉に、梅雨ちゃんも同意するように頷く。

 

「なるほど、確かにそうだね。ウチにも告げ口をした奴が誰だか分かるよ。女子絡みの話で不満を溜めるっていう時点で殆ど一択だよね」

 

「ムム、それは誰なの? って言ってる間に私にも分かっちゃったよ。アイツ以外にこんな告げ口する奴はいないよ」

 

響香ちゃんと透ちゃんにも分かったらしくて、二人してウンウンと頷いている。

 

そんな周囲の状況を見た三奈ちゃんは、皆に合わせるように慌てて頷き始めた。

 

「ウンウン。ソウダヨネー。アイツ以外ニ犯人ハ考エラレナイヨネー」

 

棒読みだった。よく見ると冷や汗もかいている。

 

うん、可愛いと思った。

 

三奈ちゃんは正面のソファに座っていたから、スッと手を伸ばして頭をナデナデする。

 

急に頭を撫でられた三奈ちゃんはキョトンとした表情になったけど、すぐに笑顔になってくれた。

 

「うにゃあ。どうしたの、矢安宮。甘えて欲しいの?」

 

三奈ちゃんが僕の膝の上に乗ってきた。そして可愛い顔を僕の胸に擦り付けるようにして甘えてくれる。

 

うん、すっごく可愛い。

 

彼女をギュッとするとキャアキャアと嬉しそうな悲鳴をあげた。

 

「ウググ、おバカな子ですね、と考えていたら思わぬ展開になってしまったのです。まったく、お邪魔虫のモモちゃんは何をしているのですか。ちゃんとお邪魔虫としての本能に従って邪魔をしてくれないと困るのです」

 

「誰がお邪魔虫ですか!? いえ、私も驚きましたわ。あのような手法もあるのですね。とても勉強になります。今度、私も試してみようかしら?」

 

「いえ、モモちゃんが真似をすると普通に熱でもあるのかと心配されちゃいます」

 

「うん、ヤオモモにはお馬鹿キャラは似合わないよ。それに壊れかけた優等生の仮面とはいえ、自分から木っ端微塵にするのは勿体ないと思うよ」

 

「そうだね、今は優等生キャラと凶暴キャラの天秤が辛うじて釣り合ってて、微妙なバランスでお笑い枠にいるのに、ここで優等生キャラを投げ捨てちゃったらただの凶暴キャラになっちゃうよ。そうなったらヴィランルートに入っちゃうかもね。でも安心して、ヤオモモがヴィランに堕ちちゃったら、重清君と私との愛のパワーでちゃんと葬ってあげるからね!」

 

「ハァ…ライバルのヒミコさんの言葉が一番マシですわね。それで響香さん、私は優等生の仮面を被っているのではなく、本当に優等生ですよ。そして葉隠さん、貴女とはじっくりと話し合う必要があるようですわ」

 

「私には話し合う事なんてないよ?」

 

「は・な・し・あ・い・ま・す!」

 

「モモちゃん、あまり興奮してはダメよ。冷静沈着だった入学当初の自分を思い出してみて」

 

「はっ!? その通りですわ。私は推薦組の生徒として皆の模範となるべく冷静沈着を心掛けていたのですわ。梅雨ちゃん、ありがとうございます。私は初心を思い出しましたわ」

 

「モモちゃんが冷静沈着だった時期なんて記憶にないのですが? きっと梅雨ちゃんの幻覚だと思うのです」

 

「いや、思い出したよ。オールマイトの最初の授業で模擬戦をやったじゃん。そこでヤオモモは矢安宮と組んでたよね。その模擬戦が終わった後に、矢安宮から機動戦士モードのアイディアをヤオモモは聞かされて、それがキッカケではっちゃけ出したんだ。それまでのヤオモモは確かに冷静沈着という言葉が似合う雰囲気だった気がするよ」

 

「わかった! あくまで雰囲気だけで、中身は違ったんだ。うんうん、冷静沈着キャラで高校デビューしようとして見事に失敗したんだね。どうせなら高飛車お嬢様キャラの方が良かったのに、本性の凶暴キャラに近いから上手くいったと思うよ。そうだ、何だったら明日からそうする?」

 

「し・ま・せ・ん・わ!!」

 

「モモちゃん、少し落ち着いて。透ちゃんは揶揄っているだけよ。副委員長として軽く受け流すぐらいの度量を持つべきだわ」

 

「……はい、そうですわね。私はA組の副委員長です。友人の軽口ぐらいで取り乱していては、クラスの皆さんに笑われてしまいますわ」

 

「そういえば、モモちゃんは副委員長でした。副委員長の権限で重清くんの停学をなんとかなりませんか?」

 

「残念ながら副委員長にそのような権限はありませんわ。所詮はクラスの雑用係でしかありませんもの」

 

「モモちゃん、アンパンを買って来て下さい」

 

「私はクリームパンをお願いするわ」

 

「ヤオモモ、ウチはメロンパンね」

 

「私は焼きそばパン!」

 

「もうっ、あなた達はこういう時は息がピッタリですわね! 副委員長はそういう雑用は致しません」

 

「あれ、前に委員長に頼んだ時は買って来てくれたよ?」

 

「葉隠さん、委員長をパシリにしてはいけませんわ。委員長の足の速さはパシリに最適ですが、そこは自重をお願いします。A組の委員長がパシリでは他クラスに舐められてしまいますもの」

 

「あ、そっか。重清君がいるクラスが他の有象無象しかいないクラスに舐められるわけにはいかいよね。うん、これからは委員長をパシるのはやめておくね」

 

「はい、お願いしますね。では話を戻しますわ。まず停学についてですが、雄英での評価など重清さんの将来にはまるで影響を与えませんわ。ですから停学処分は素直に受け入れましょう。女子エリアへの立入禁止に関しても、私達の部屋に遊びに来る際は防犯カメラにさえ映らなければ良いのですわ。証拠が無ければ如何とでもなりますもの。今回の告げ口犯は後でしめときますわ」

 

うん、寮の廊下とかの共用部分には防犯カメラが設置されているから、普通に女子エリアへ立ち入ったら証拠が残ってしまうけど、クレイジーダイヤモンドが新たに得た能力を使えば、防犯カメラなんか簡単に無効化出来るんだ。

 

「そうなると問題は一つだけだね。せっかくの文化祭なんだから矢安宮が参加できるように交渉しようよ。あっ、そろそろこれは邪魔だよね」

 

響香ちゃんが近付いてきて、ポイっと膝の上の三奈ちゃんを床に投げ捨てた。

 

ああっ!? 三奈ちゃん!

 

咄嗟に伸ばした手は、響香ちゃんに握られた。

 

「ふふ、やっぱり男の子の手はおっきいね」

 

僕の手を握って微笑む響香ちゃん。そんな彼女に三奈ちゃんが苦情を言う。

 

「アタタ……耳郎、いきなり床に落とすなー!」

 

「あんたがいつまでも矢安宮に抱きついてるからでしょう。まったく、もっと慎みを持ちなよ」

 

「もうっ、それは矢安宮の手を堂々と握りながら言うセリフじゃないよー!」

 

「こんなのは握手と変わんないじゃん。ただの友達同士のスキンシップだよ。抱きつくのと一緒にしないでよ」

 

「耳郎だって前に抱きついてたもん! アタシに慎みとか言うなら、耳郎だって一緒だよー!」

 

「うん、そうだね。矢安宮にこうして触れるのは凄く勇気がいる行為だよ。恥ずかしくて、照れくさくて、とてもドキドキして、ウチの小さな胸が破裂しそうになるよ。だけど、それ以上に幸せな気持ちになれるんだ。ふふ、どうしてなのかな。不思議だよね」

 

響香ちゃんが軽くハグしてきた。それに応えて僕も軽くハグを返す。

 

「以前から思っていたのですが、響香さんはよくそのような言葉を平気で口にできますわね。恥ずかしくありませんの?」

 

「ウチはもうそんなの乗り越えたんだよ。あの森での一夜はウチを大人の女に変えたんだ」

 

「ケロ――林学合宿でのことね。なんでも元ヒーローの方達が何十人といる前で、恥ずかしいセリフを堂々と口にしたのよね。ふふ、まるで重清ちゃんみたいだわ」

 

「思い出しました。響香ちゃんの様子が変だった時ですね。とても挙動不審で面白かったのです」

 

「ふふ、なんと言われようとも気にしないよ。ウチはもう大人の女だからね。いつでも余裕は失わないのさ」

 

響香ちゃんは、もう大人の女になっちゃったの?

 

なんだか寂しいな。

 

響香ちゃんと子供っぽくはしゃいで遊ぶのが大好きだったのに。

 

でも、それは仕方ない事だよね。

 

人は誰だっていつかは大人になっちゃうんだ。

 

寂しいけど我慢するよ。

 

僕はまだ子供だから、これからは大人な響香ちゃんと一緒に遊ぶことは少なく――

 

「やだなー! 大人だなんて冗談に決まってんじゃん。ウチらはまだ高一なんだよ。大人なんてまだまだ先の話だよ。ウチなんてピチピチの子供だからね!」

 

――よかった! 冗談だったんだ。つい本気にしちゃったよ。

 

じゃあ、これからもいっぱい遊べるね!

 

「うん! いっぱい遊んで、思い出もいっぱい作ろう!」

 

「はいはい、戯れ合うのもいいですけど、話が進みませんわ。そろそろ真面目に話し合いをしますわよ」

 

「その通りね。それで誰か良いアイディアはないかしら? たぶん普通に掛け合っても相手にされないと思うわ」

 

「ここは重清くんに甘いオールマイトに助けを求めるのはどうでしょうか? 相澤先生は重清くんに厳しいので相手をするだけ無駄だと思うのです」

 

「ケロ――相澤先生、Ms.ジョークとの婚約が決まってから重清ちゃんへの当たりが以前にも増して強くなってしまったわ」

 

「酷い話だよねー、矢安宮は恋のキューピッドなのにさー」

 

「オールマイト先生なら事情を汲んで下さると思いますわ。ただ、オールマイト先生は教師としては新米なので雄英での影響力は低いですわ。頑固な相澤先生を説得して、文化祭への参加を認めさせるのは難しいでしょうね。良くも悪くも雄英は担任教師の権限が強いですもの」

 

「他の先生にも助力してもらいたいけど、それは難しそうだね」

 

「寮内の異性問題だもん。結構対応が難しいから逃げ腰になられちゃうよね」

 

皆が真剣に考えてくれてる。だけど良いアイディアは中々でない。

 

うん、今回はもう諦めようと思う。

 

強引な手段を取るならどうとでもなるけど、皆を巻き込みたくはないからね。

 

品行方正な僕は素直に自室で反省しているよ。

 

ありがとう、皆の気持ちはとても嬉しかったよ。

 

文化祭は僕の分まで楽しんでね。

 

僕の殊勝な言葉を聞いた皆は驚いた表情を見せると、顔を寄せ合ってヒソヒソと話し合っている。

 

僕のヒミコちゃんだけはその輪に加わらずに近付いてきて耳元で囁いた。

 

「(私の重清くん。とても悪い顔になっているのです。何かを企んでいるのでしたら顔に出さないように気をつけて下さいね)」

 

──そう言って、にんまりと笑う僕のヒミコちゃんの笑顔がとても可愛かったからギュッとした。

 

 

 

 

「矢安宮と女子達が集まってお喋りしてやがる。くそッ、矢安宮が女子エリアに行ってるのをチクったのに効果ナシかよ!」

 

「峰田、お前最悪だな。ダチを売るって何考えてんだ? 矢安宮は一週間の停学で文化祭も参加できねぇんだぞ」

 

「見損なったぞ。いや、見下げ果てたと言うべきか。女子部屋に遊びに行っているのが羨ましいのならお前も女子に頼んだらいい。何故ゆえにそれをせずに矢安宮を売った」

 

「うっせえよ! オイラが頼んでも女子が部屋に入れてくれるわけねえだろ。矢安宮が悪いんだよ。彼女がいるクセして他の女子ともイチャイチャしてるんだぜ。お前らだってムカつくだろ」

 

「いや、全く。クラスの女子達はマジで怖えだろ。あんな手に負えねえ凶暴な奴らを相手にイチャイチャ出来るなんて、矢安宮にムカつくどころか逆に尊敬しちまうよ」

 

「うむ。A組女子の良心と謳われる梅雨ちゃんでさえ、お前へのセクハラに対する報復では水責めや逆さ吊りを当然のように行うからな。率直に述べれば……とても怖い」

 

「なに言ってんだよ。女子からの責めなんてご褒美じゃねえか。それにあの蔑む目なんてゾクゾクするだろ」

 

「峰田、オメエ……その扉を開けちまったのか」

 

「それについては何も言わぬ。お前が自ら開いた扉だからな。だが、ならばこそ再度問う。何故ゆえに同胞を売った。今のお前は女子から十分なご褒美を頂いている状態なのだろう。矢安宮を妬む必要は無いはずだ」

 

「女子の責めは快感だけど、普通にイチャイチャもしたいんだよ。一粒で二度美味しいって言葉もあるだろ。それで矢安宮が女子から離れたらつけ入るチャンスが生まれるかもしれねえじゃんか。それにアイツ、クレイジー・ダイヤモンドが具現化してからは物理的に邪魔しやがるんだよ。つまり責めとイチャイチャの両方の意味で邪魔なんだ。なぁ、お前らだって男ならオイラの気持ちを分かってくれるだろ」

 

「あぁ、お前が最低な奴だってのはよく分かったよ」

 

「彼女や女友達がセクハラの被害に合うのなら、それを防ぐのは男として当然の行いだ。お前の考えには全く共感できん」

 

「ケッ、なんだよ。格好つけやがってよ。はいはい、どうせオイラが悪者だよ。女にもモテねえよ。全く、オイラと矢安宮のどこが違うんだよ。そんなに変わんねえだろ。少なくとも女の趣味ならオイラの方が上だぞ」

 

「お、俺たちっ、用事を思い出したからもう行くわ!!」

 

「うむ、さらばだ!!」

 

「あっ、急にどうしたんだよ!?……ったく何だよ、二人して行っちまいやがった。あーあ、当てが外れたし次はどう――」

 

「――次は重清くんの女の趣味について聞きたいのです」

 

「ひいっ!? と、トガァ!? いつの間にオイラの後ろに!?」

 

「――さあ、私の重清くんの女の趣味について聞かせて下さい」

 

──そう言って、ニンマリと嗤うトガの笑顔がとても怖くて、オイラのゴールデンボールがギュッとなった。

 

 

 

 

雄英の近くの住宅街にその店はあった。

 

洋風の隠れ家的な雰囲気の喫茶店だ。

 

ゴールドティップスインペリアルの香りを嗜みながら、僕は仕事前の緊張感を楽しんでいた。

 

この時間が好きだった。

 

スリルの前の平穏な時間。

 

緊張と緩和のハーモニーが、僕の脳髄を心地良く刺激する。

 

不意に新たな香りが周囲に広がった。

 

僕を包み込むような優しい香りだった。

 

「ハーイ、重清君!!」

 

懐かしい声に思わず立ち上がった。僕は声が聞こえた方へ顔を向けた。

 

そこには満面の笑みを浮かべてメリッサが立っていた。

 

その懐かしい姿に、僕は気付いたら彼女の元へと駆け寄っていた。

 

ちゃんと筋トレを続けている僕は、メリッサの腰付近を掴むと、ハーヴェストの力は借りずに自分の筋力だけで持ち上げた。

 

初対面の時にハイパームキムキなおっちゃんがメリッサにしてたからね。真似てみたんだ。

 

「メリッサっ、久しぶりだね!!」

 

「きゃあ!? すごいわっ、まるでマイトおじ様みたいだわ!――ふふ、私はもう17歳よ。昔と違って重いでしょう!」

 

メリッサも覚えていたみたいだ。あの日と同じセリフを嬉しそうに口にした。もちろん僕はハイパームキムキなおっちゃんと同じセリフを返して二人で笑い合った。

 

久しぶりに会うメリッサは、以前にも増して金髪美少女ぶりに磨きがかかっていた。文字通りの日本人離れしたスタイルも健在だ。

 

「よかった。元気そうだね」

 

「ええ、重清君も元気そうね。うふふ、それともお姉さんに会えたから元気になったのかしら? なんて――」

 

「うんっ、そうだね! メリッサの顔を見たら元気が出てきたよ。メリッサは金髪美少女だもん。日本だと希少価値もあるから余計に輝いて見えるよ!」

 

「――ハァ、迂闊に冗談も言えないわ。もう、以前にも言ったわよね。年上を揶揄っちゃダメよ」

 

「えっと、ごめんね。僕は英語が苦手だから言ってる意味がよく分からないや」

 

「日本語で言ったわよね!? と言うより重清君には一度だって英語で喋りかけた事はないんだけど!?」

 

「うんうん、メリッサは日本語が上手いよね。まるで違和感がないよ。もしかしてメリッサの前世は日本人なの?」

 

「あのね、もしも前世が日本人だとしても、前世の記憶なんてないから関係ないと思うわよ?」

 

「そんな事はないよ。僕達は前世でもすごく仲良しな二人だったと思うんだ。お互いにその記憶は忘れてしまっているけど、魂の奥底では覚えていたんだ。だからこそ、僕達は出会ってすぐに仲良くなれたんだ。うん、二人の絆に気付いてしまえば納得できるよ。僕はメリッサと初めて出会ったときに途轍もない衝撃(注:ハイパームキムキなおっちゃんを狙う美人局が現れたと思った衝撃)を実は受けていたんだ。自分でも信じられないほど、僕の心は震えていたんだよ(注:ハイパームキムキなおっちゃんは僕が守る! ふるえるぞハート!燃えつきるほどヒート!)」

 

「重清君、あなたは…」

 

「うん、メリッサ」

 

僕の真摯な言葉にメリッサは言葉をなくした。

 

お互いにジッと見つめ合う時間だけが過ぎていく。

 

ふと、メリッサの手が優しげに伸びてきた。

 

僕はそっとその手を避ける。

 

「どうして避けるのかしら」

 

「ガラス細工のように繊細に見えたんだ。僕みたいな粗野な奴が軽々しく触れたら壊してしまいそうで怖かった」

 

「うふふ」

 

「えへへ」

 

僕達は二人、まるで小さな子供のように無邪気に笑いあった。

 

それは遥か過去にも存在した光景だったのかもしれない。

 

メリッサが微笑みながら近付いてくる。

 

僕はニコニコと笑いながら後ろに下がる。

 

「……」

 

「……」

 

無言で見つめ合う。

 

次の瞬間、二人の心は重なり合った。

 

ダッシュしたのは同時だった。

 

「こらーっ、大人しくつねられなさい! 年上のお姉さんを揶揄った罰よ!!」

 

「やだよー! 痛いの嫌いなんだー!」

 

喫茶店内での本気の追いかけっこは、喫茶店の老マスターに本気で叱られるまで続いた。

 

 

 

 

「ハァ……来日早々、大人の人に本気で叱られたなんて、パパにはとても言えないわね」

 

「うんうん、メリッサと僕との二人だけの秘密だね」

 

「……マイトおじ様が言っていたわね。『I・アイランド』での重清君は、知らない人が多いから緊張してるって。あの言葉は本当だったのね。今日の重清君は、当社比30%アップで元気ですって感じだわ」

 

「あはは、それはきっとメリッサに再会できたからだよ。ずっと会いたかったんだ。だって、メリッサの三割は僕の物だからね。僕は自分の物はとても大切にする性格なんだ。目の届かない所にいるメリッサが凄く心配だった。僕が居ない時にメリッサがヴィランに襲われたどうしようって気が気じゃなかったんだ。本当にメリッサと無事に再会できてホッとしたよ」

 

メリッサの頬に触れた。

 

触れている手から彼女の温もりが伝わってくる。

 

短くとも濃密な彼女との思い出が蘇る。

 

彼女の大好きなパパがヴィランに連れ去られそうになった時、気丈な彼女が浮かべた恐怖の表情を僕が忘れることはないだろう。

 

「メリッサ。君の表情をもう二度と曇らせたりはしない。男子、三日会わざれば刮目して見よ。この言葉通りだ。今の僕なら必ず成し遂げてみせる。それをメリッサ、君の眼鏡にかけて誓うよ」

 

「──重清君。私は君よりもお姉さんだからね。君が今言った言葉。冗談っぽく締めくくったけど、そこにどれ程の覚悟が込められているか察する事ぐらいは出来るのよ。お姉さんとしては本当は止めるべき無茶な覚悟だと思う。でも、敢えて言うわね。重清君――貴方を心から信じています。私はどんな状況でも絶対に笑顔を忘れない。それを重清君、貴方の所有物である私の眼鏡にかけて誓います」

 

──この日、僕達は眼鏡に誓い合った。

 

 

 

 

「はい、依頼の品よ。以前に作っていた物だけど依頼内容には合う物よ。ふふ、重清君ったら部屋を出る直前に電話を掛けてくるんだもの。もう少しで日本行きの飛行機に乗り遅れる所だったのよ」

 

メリッサに電話で頼んだ発明品。僕は御礼を言ってから受け取った。

 

ククク、コレさえあれば計画を実行に移せるよ。

 

「あらあら、悪い笑みを浮かべているわよ。ヤンチャな重清君は、どんなイタズラを考えているの?」

 

おっと、また顔に出てたみたいだ。

 

クールな男は表情もクールにだね。

 

──キリっ!

 

「…………」

 

あれ、急に黙っちゃったけど、どうしたの?

 

お腹が痛いの?

 

「ハッ!? だ、ダメよ! こんな場所でそんな格好いい顔をしちゃダメ!どこで誰に見られているか分からないのよ。妙な女に目をつけられたら大変だわ。だからね、その顔は私と二人っきりの時だけにしてね」

 

メリッサの言葉に『なるほど』と思った。

 

以前の僕とは違い、今の僕にはメリッサの言葉がストンと腑に落ちた。

 

ツインテールの鬼との邂逅で、女の子というのは愛情と包容力と強気とファザコンと稀に三奈ちゃんみたいな弱気で出来ているけど、それぞれの個人差が大きい事を知ったんだ。

 

ツインテールの鬼だって普段は愛情あふれる可愛い女の子だけど、彼女の中で怒りスイッチが入ったら鬼へと変貌するんだ。

 

僕のヒミコちゃんなら怒っても可愛いけど、ツインテールの鬼の怒りは凄く怖かった。

 

メリッサの言う『妙な女』というのは、この個人差が極端に大きい――ツインテールの鬼のような変貌スイッチを持っている女の子のことだ。

 

うんうん、変貌スイッチは怖いからね。

 

知らない女の子には用心しようと思う。

 

急に変貌スイッチが入って殴られたくないからね。

 

そう考えると、今までの僕は運が良かったんだと思う。

 

仲良くなった女の子達の中に、僕に暴力を振るうような変貌スイッチをもった子はいなかったからね。

 

いつの間にか正面の席から隣の席に移っているメリッサを見ながらホッと安堵の息をつく。

 

優しげな眼差しを僕に向けて、ケーキをアーンで食べさせてくれる優しくて世話焼きなお姉さん。

 

うんうん、メリッサには『優しいお姉さんスイッチ』がついていたんだね。

 

普段は笑い上戸で科学好きな元気少女だけど、二人だけの時はすごく甘やかしてくれる。

 

うん、やる気が漲ってきた。

 

今日は雄英文化祭だ。

 

メリッサに貰った発明品──科学的にも個性的にも使用者の正体を隠してくれる仮面を握り締めて立ち上がった。

 

マナミお姉さんにも助力を受けて準備をした作戦を決行する。

 

『雄英文化祭に侵入してみた』

 

さあっ、僕の動画配信者デビューだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──重清くんが停学になりました。

重清くんのママへの報告は、私が任されちゃいました。

仕方のない重清くんです。

ママに叱られるのが怖いのは分かりますが、逃げると後でもっと叱られちゃいますよ。

ふふ、それが分かっていても逃げちゃうのが重清くんですね。

結果から言うと、ママは怒りませんでした。

『あらあら、重ちゃんがヒミコちゃんの部屋に遊びに行くのは当然の事だわ。二人はとっても仲良しだもの。それを責められて停学にされたのなら仕方がないと諦めましょう。次からはバレないように気をつけるように重ちゃんに伝えてね。それといざという時は男としての責任をちゃんと取るのよ。とも伝えてね』

……とても理解のあり過ぎるママでした。

最後の部分は聞こえなかったことにします。

私達にはまだまだ関係のない話なのです。

……私以外の女の子の部屋にも遊びに行っていることは言えませんでした。

もしもママに言ったとしたら、きっと家族会議の場で――

『重ちゃん。ヒミコちゃん以外の女の子と仲良くしてはダメよ。重ちゃんはただの友達として仲良くしてるつもりだろうけど、ヒミコちゃんの気持ちを考えてあげてね。大好きな男の子が自分以外の女の子と仲良くしていたら悲しく思っちゃうのが女の子なのよ。だから――』

イヤァァァァァッ!!!

考えただけで羞恥心で死にそうです!!!

ママには絶対に言えないのです!!!

ハァ……何だか精神的に疲れました。

今日はもう眠ろうと思います。

明日は文化祭です。

重清くんが騒動を起こす筈なので、英気を養っておきます。

万が一の場合には、上手くモモちゃんに騒動を押し付けて重清くんと逃げる必要がありますね。

それでは、お休みなさい。

「じゃじゃーん!! 遊びにきたよ、ヒミコちゃん!!」

重清くんが前触れもなく現れました。瞬間移動は便利ですね。

実は瞬間移動ではない事は教えてもらいましたが、モモちゃん達には内緒です。

とんでもない能力過ぎるので、スタンド能力などと同じく墓場まで持っていきます。

では、重清くんと遊ぶべく、私はベッドから降ります。

ふふ、明日は寝不足かもしれませんね。

楽しそうな重清くんの笑顔を見ながら、私はそう思ったのです。









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