重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン4(博多旅行編)

 

──ミルコ姉さんがヒーローランキングで5位になった。

 

そのお祝いで、ミルコヒーロー事務所の全員で旅行に行くことになった。

 

「お祝いなら普通は食事会とかじゃないのか? いや、別に旅行に行くのは構わないんだがな」

 

「うふふ、今回は親睦会も兼ねていますわ。ミルコヒーロー事務所はまだ出来たばかりの若い事務所ですもの。チームワークを強める為にも必要な事ですわ」

 

企画立案をしたモモちゃんが楽しげに旅行の意義を説明する。そして旅行が嬉しいのだろう。三奈ちゃんは目をキラキラさせていた。

 

「えへへー、何だか修学旅行みたいで楽しみだね。ところでどうして行き先が博多なのー?」

 

「はい、実は我が家で出資しているホテルから無料宿泊券が贈られたのですが、家族は誰も使わないのでそれを貰いましたの」

 

「うわー! すっごいねー! 流石はお嬢様だよねー!」

 

三奈ちゃんの称賛の言葉に、透ちゃんが立ち上がり口元に手を当てて高笑いをする。

 

「オーホホホホ! 高貴で太っ腹なわたくしを崇めてもよろしくてよ!」

 

太っ腹アピールなのか、自分のお腹をパーンと叩く透ちゃん。

 

ううーん、お嬢様っぽいのかな?

 

「透さん、それは私のつもりでしょうか?」

 

「うん! 高飛車お嬢様キャラだよ。モモちゃんにピッタリのキャラだよね。違和感なかったと思うんだけどどうかな?」

 

「違和感しかありませんわ! せめてちゃんとした高飛車お嬢様を演じて下さい!」

 

そんなやり取りを見ていた響香ちゃんが疑問の声をあげた。

 

「そういえば、ヤオモモはお嬢様なのに戦闘訓練ぐらいでしか高笑いをしないよね。なんで普段はしないの?」

 

響香ちゃんの中ではお嬢様というのは普段から高笑いをする生き物らしい。その疑問に思う姿からは他意が感じられないから揶揄う意図は無いみたいだ。

 

「あのですね、訓練時の高笑いは他の方達が気合いを入れる為にする掛け声と同じものですわ。響香さんが日常生活でウオオオなどと叫ばないのと同じで、私も日常生活で高笑いなどしませんわ」

 

悪意の感じられない響香ちゃんに困った顔で説明するモモちゃん。

 

うんうん、困るよね。

 

ああいう質問が一番厄介なんだ。

 

本人に悪意が無いから邪険に出来ないし、かといってテンションが上がっているときの行動を説明させられるのは……うん、ご愁傷様です。

 

そんな様子を微笑みながら見ていた梅雨ちゃんが不意に表情を曇らせた。

 

「本当に旅行は楽しみだわ。でもこうなってくると、お茶子ちゃんだけ居ないのが寂しいわ。今からでもお茶子ちゃんを……いいえ、お茶子ちゃんにはお茶子ちゃんの道があるものね。無理強いは良くないわ」

 

しょんぼりしている梅雨ちゃんの気持ちはよく分かる。

 

苦楽を共にしている同級生でも卒業すれば歩む道は別れる。だけど、A組女子の場合だとお茶子ちゃん以外はミルコヒーロー事務所に就職する。

 

お茶子ちゃんと特に仲の良い梅雨ちゃんにとってそれはとても寂しいことだろう。

 

僕だってもしもヒミコちゃんと歩む道が別れるとしたらとんでもなく寂しい。

 

視線が無意識のうちにヒミコちゃんに向いていた。その視線に気付いたヒミコちゃんは穏やかに微笑んでくれた。

 

僕も穏やかに微笑んでヒミコちゃんに問いかけた。

 

「ヒミコちゃん。もしも歩む道が別れる事になったら、君を攫って逃げても良いかな?」

 

「はいっ、その時は攫われのお姫様役をバッチリとこなすので任せて欲しいのです!」

 

満面の笑みと共に返された言葉に感動する。

 

思わず立ち上がり両手を大きく広げた。

 

「ヒミコちゃん!!」

 

「重清くん!!」

 

腕の中に飛び込んできたヒミコちゃんをありったけの想いを込めて抱き締めた。

 

彼女の体温が伝わってくる。

 

柔らかくてそれでいて弾力のある身体からは良い匂いがした。

 

「――重清くんにこうしてもらうと安心するのです」

 

腕の中でヒミコちゃんが小さく呟いた。

 

そんな愛しいヒミコちゃんをベリッと引き剥がすようにモモちゃんが持っていった。

 

「ハイハイ、事務所内での不純異性交遊は鬱陶しいので禁止ですわ。ヒミコさんが抱き締められたいのでしたら私が存分に抱き締めて差し上げますわね。――フンッ!!」

 

「はうっ!? ギブッ、ギブなのです! モモちゃんの怪力でベアハッグされたら中身が出ちゃうのです!」

 

「乙女に向かって怪力は失礼ですわ! フンッ! フンッ!」

 

「はうっ!? はうっ!? ウググッ、たとえここで私が力尽きようとも、第二第三の私が現れて重清くんとハグをするのです……ガクッ」

 

「ヒミコちゃーん!!」

 

愛しいヒミコちゃんの身体から力が抜けてダラリとなった。

 

「オーホホホホ! 邪悪は滅びましたわ!」

 

モモちゃんは力尽きたヒミコちゃんをポイッと捨てた。

 

慌てて床に落ちる前にキャッチした。

 

ふぅ、危なかった。

 

無事にキャッチできて一安心だね。

 

「ブーブー! トガだけキャッチしてズルいよー! 前にアタシが耳郎に放られたときは床に落とされたのにー!」

 

三奈ちゃんが両手を振り回して抗議をする。

 

あの時はキャッチ出来なくてごめんね。次はちゃんとキャッチするからね。

 

あの時は響香ちゃんに助けるのを防がれたんだけど、それを口にするのは男らしくない。

 

素直に謝罪をする。

 

「うんっ、許してあげるね。次はお姫様抱っこでキャッチしてねー!」

 

三奈ちゃんはあっさりと笑顔で許してくれた。

 

「ねえ、あんたらふざけ過ぎだよ。梅雨ちゃんの悲しげな表情が見えないの?」

 

響香ちゃんの冷静な言葉にハッとなる。

 

慌てて梅雨ちゃんを見る。

 

「ふふ、大丈夫よ。あなた達のやり取りは楽しいもの。ただここにお茶子ちゃんがいないのが少し寂しいと、私が勝手に感じているだけだから気にしないでね」

 

そう言って、寂しげに微笑む梅雨ちゃん。

 

うぅ、そんな顔をしないで欲しい。

 

僕まで寂しい気持ちになっちゃうよ。

 

梅雨ちゃん、僕のヒミコちゃんを抱き締める?

 

すごく幸せな気持ちになれるよ。

 

「その効果は重清ちゃん特有のものだと思うわ。いえ、違うのかしら? ヒミコちゃんを強く抱き締めたモモちゃんが『オーホホホホ! やってやりましたわ! 気分爽快っ、絶好調ですわ!』と言いながら幸せそうな表情を浮かべているもの。私も試してみようかしら?」

 

梅雨ちゃんの言葉に、今までグデっと力が抜けて僕に寄りかかっていたヒミコちゃんが慌てて目を覚ます。

 

「止めて下さい! モモちゃん以上に怪力の梅雨ちゃんに締められたら本気で中身が出ちゃうのです!」

 

「ふふ、冗談よ。締めたりしないわ」

 

クスクスと笑う梅雨ちゃん。

 

一見元気になったように見えるけど、無理をしているのがわかる。

 

うーん。お茶子ちゃん問題は難しいよね。

 

梅雨ちゃんが言ってたように、お茶子ちゃんにはお茶子ちゃんの人生があるから口出しはするべきじゃない。

 

答えのない問題に、僕はウンウンと悩むことしか出来なかった。

 

「どうでもいいけど、ヤオモモ普通に高笑いし始めたね」

 

うん。僕も気付いたけど下手に触れない方がいいと思うよ。

 

「ふふ、そうだね。下手に突っ込んで騒がれてもうるさいもんね」

 

響香ちゃんはイタズラっぽく笑った。

 

 

 

 

ミルコヒーロー事務所一行で博多に向かった。

 

電車での移動は修学旅行みたいで楽しかった。

 

今回はミルコ姉さんのお祝いなので、電車で駅弁を食べるときはアーンをした。

 

ミルコ姉さんは仕方なさそうにしながらも素直に食べてくれた。モグモグするミルコ姉さんの耳はピョコピョコと揺れていた。

 

 

 

 

博多に到着した。

 

駅に降り立ち、僕は周りを見渡す。

 

ああ、この懐かしき風景に心が震える。

 

博多よ、僕は帰ってきた!

 

「重清さんは博多出身でしたの?」

 

「モモちゃん。いつものヤツ(中二病)なのです。ここは突っ込まずに温かい目で見守ってあげて下さい」

 

「ケロ、自由にさせてあげるのも教育では大切なことだわ」

 

「なるほど、子育てとは難しいのですね」

 

「おーい、お前ら。到着早々漫才を始めるなよ。急がないとランチの予約時間に遅れるぞ」

 

ミルコ姉さんの言葉に僕らはハーイと答えてホテルに向かった。

 

 

 

 

モモちゃんの案内で目的地に着いた。

 

そこは想像以上に大きい高級ホテルだった。

 

「すっごい大きなホテルだね!」

 

「ホントだー! 八百万家の御威光の賜物だねー!」

 

「うんうん! きっといっぱい悪どい商売をして荒稼ぎしてるんだね!」

 

「八百万家って悪徳商人なの!?」

 

「シーだよ。ヤオモモに聞かれたらお仕置きされちゃうよ」

 

「うわー、ヤオモモの本性は凶暴お嬢様だって噂は本当だったんだ」

 

「うんうん、凶暴なお嬢様に逆らったらSなお仕置きをされちゃうから注意してね」

 

「えへへ、ヤオモモに鞭とか持たせたら似合いそうだよねー」

 

「あはは、バシンッって峰田を叩いてやったら喜びそうだよね」

 

「あー、アイツってばどんなお仕置きをしても喜ぶようになっちゃったから困るよー」

 

「うーん。そう考えたら意外とヤオモモと峰田は相性がいいのかも?」

 

「えへへ、SとMは引き合うもんねー! 峰田の奴もヤオモモが彼女になれば少しは大人しく――」

 

突然、軽口を叩いていた二人が身震いをして大人しくなった。

 

「――あなた達、その辺で口を閉じなければ温厚な私でもそろそろ怒りますわよ」

 

ゴゴゴゴゴッと、僕とは違い口で言っていない筈なのに効果音が聞こえる気がする。

 

迫力のある笑顔を浮かべたモモちゃんに凄まれた透ちゃんと三奈ちゃんはササッとミルコ姉さんの背中に隠れた。

 

自分の背中に隠れた二人を見て溜息を吐いた後、ミルコ姉さんは呆れた顔で言った。

 

「なあ、今時の女子高生は漫才をしなければ死ぬ病気にでも罹っているのか? こんな高級ホテルのロビーで騒ぐなよ。さっきから注目の的だぜ」

 

慌てて周りを見渡すモモちゃん。その迫力ある眼光にサッと顔を逸らす周囲の人達。

 

「ヤオモモは、お嬢様なのに目つきが悪すぎて顔を逸らされるだなんて八百万家の恥晒しって言われちゃうよ」

 

「凶暴お嬢様の面目躍如だねー!」

 

ミルコ姉さんの背中に隠れながらも透ちゃんと三奈ちゃんは軽口を叩く。

 

ギリギリと歯を食いしばり怒りを抑えるモモちゃん。その爆発十秒前って感じの姿に周囲の人達はそそくさと立ち去って行く。

 

そんな周囲の人達の反応にますます怒りを増幅させていくモモちゃん。

 

そんな三人の様子を眺めていた響香ちゃんがポツリと呟いた。

 

「ヤオモモは賢い筈なのに、時々とんでもないアホじゃないかなって思わせてくれるよね」

 

今度は、ガーンという効果音がハッキリと聞こえた。

 

響香ちゃんの呟きが聞こえてしまったモモちゃんはその場に崩れ落ちた。

 

「響香ちゃん。本当のことでも本人に言ってはダメよ。真実は時として人を傷つけてしまうわ。――ケロ」

 

梅雨ちゃんの言葉がダメ押しになった。モモちゃんは顔を伏せてプルプルと震えはじめた。手をついている丈夫そうな床がミシミシと軋んだ音を立てている。

 

「なあ、お前ら本当は仲が悪いのか? 」

 

ミルコ姉さんの疑問に女の子達は答える。

 

「1年A組女子は仲良しグループの代名詞だよね!」

 

「そうだよー! 言いたい事が言い合える仲良しさんなのー!」

 

「そうだね。お金持ちの友達は大切にしないとね」

 

「無料で旅行に来れたのはモモちゃんのお陰だもの――ケロ」

 

「プルプルしているモモちゃんのお腹もプルプルなのです。これが俗に言う駄肉というヤツですか?」

 

「私のお腹はプルプルしていませんわ! というかヒミコさんは今まで黙っていたのにボソッと毒を吐かないで下さい!」

 

モモちゃんが、ガバッと復活して叫んだ。床に入ったヒビ割れは直しておくね。えいっ。

 

「もう堪忍袋の尾が切れましたわ! 全員そこになおりなさい!」

 

「葉隠不味いよ! ヤオモモを本気で怒らせ――って葉隠が居ない!? 自分だけ透明になって逃げるのズルいよー!」

 

「ケロ――緊急避難するわ」

 

「モモちゃんが鞭を創造しちゃいました!?」

 

「ヤオモモ落ち着いてっ、すぐに峰田を呼ぶからそれまでSの衝動は我慢しなよ!」

 

「うわっ、鞭が掠ったー! 耳郎は挑発しないでよー!」

 

復活したモモちゃんがみんなを元気に追いかけ回している。

 

うん、やっぱりキャッキャと騒ぎまわる女の子達は華やかで良いよね。

 

「重清は凄えな。こんな状況でもそんなセリフが出てくるとはな。この私でも頭が痛くなりそうなんだぜ」

 

そうなの?

 

じゃれ合う女の子達って可愛いよ。

 

そこは男子と女子との感じ方の違いなのかな?

 

もしかしたら、クラスの男子達がワイワイとじゃれ合っているのをミルコ姉さんが見たら可愛いと感じるかもしれないよ。

 

「いや、お前ら喧しいわって蹴っ飛ばしたくなると思うぞ」

 

そう言って肩をすくめるミルコ姉さん。

 

「ほう、随分と賑やかだと思えばミルコ特戦隊じゃないか。こんなところで会うとは奇遇だな」

 

燃えてるおっちゃんが現れた!!

 

コマンドを選択して下さい。

 

①戦う。

 

②道具を使う。

 

③話しかける。

 

④逃げる。

 

⑤登る。

 

よし、ここは当然だけど⑤登るだ!

 

ヨイショ、ヨイショと燃えてるおっちゃんによじ登る。

 

「フハハハハ! 重清君は相変わらず元気そうで安心したぞ!」

 

豪快に笑う燃えてるおっちゃん。

 

燃えてるおっちゃんの登場で正気に戻ったモモちゃんが興味深そうに僕を見ていた。

 

「重清さんは同じ年頃の男子とはあまり交友をなさりませんのに、年上の男性とはとても仲良くなられるのが少し不思議に思いま――キャッ!? な、何をなさいますの!?」

 

フワッとモモちゃんが空中に投げられると、そのまま女性陣が頭上に掲げるように支えて運んでいって見えなくなった。

 

投げたのはたぶんヒミコちゃんだと思う。

 

少しすると女性陣が戻ってきた。

 

モモちゃんが何だか神妙な顔をしている。

 

「あの、重清さん。私はこう思いますわ。年齢差のある友情は素晴らしいものだと。同年代の男子の友達などいなくても――キャッ!? またですの!?」

 

再び、フワッとモモちゃんが空中に(以下略)

 

「コホン。エンデヴァーさんとこの様な場所でお会いするだなんて驚きましたわ。私達はミルコさんのヒーローランキング5位を祝しての旅行なのですが、そういえばエンデヴァーさんは堂々の一位になられたとお聞きしておりますわ。遅ればせながら、ナンバーワンヒーローご就任おめでとうございます」

 

戻ってきたモモちゃんは何事もなかったかの様に燃えてるおっちゃんに話しかけた。

 

モモちゃんの後ろにいる女性陣もニコニコと燃えてるおっちゃんに笑顔を向けて各々が祝意を述べていた。

 

燃えてるおっちゃんも不自然なほどの笑顔を浮かべてそれらに応えている。

 

誰一人、僕とは目を合わせようとはしなかった。

 

燃えてるおっちゃんからスルスルと降りて床に立つ。

 

離れた場所で他人の振りをしていた事務員さんの所にトコトコと歩いていく。

 

ソファに腰掛けていた事務所さんは黙って自分の太腿をポンポンと叩いた。

 

そこに逃げ込んだ。

 

そして、一つだけ言いたい事があった。

 

僕は孤独(ボッチ)じゃなくて孤高なんだよ、と。

 

 

 

 

事務員さんに癒されて復活した。

 

燃えてるおっちゃんは連れがいるらしくて別れた。本人的にはこちらに合流したいみたいだったけど、一応先約だからと仕方なさそうに去っていった。

 

「相手はホークスだとよ。なんでもナンバーワンとナンバーツーの二人でこれからのヒーローについて語り合いたいって誘いを受けたそうだ」

 

ハイパームキムキなおっちゃんが現役引退を表明したからヒーローランキング一位は燃えてるおっちゃんになったけど、実力で奪いとりたかったと悔しがっていた。

 

「ホークスがナンバーツーなのが信じられないのです。天下の往来で裸踊りをするような酒乱ですよ。彼をナンバーツーにした公安委員会は正気なのでしょうか?」

 

「それについては議論があったらしいが、酒乱な一面も人間らしくて好感が持てると擁護する声が多くて問題ナシとなったそうだ」

 

「とても怪しい話ですわね。ホークスは公安委員会と繋がりがあるのでしょうか?」

 

「この話にはあまり興味を持たない方がいいぜ。公安委員会といっても必ずしも絶対正義な組織じゃねえからな。君子危うきに近寄らずって言うだろ」

 

「ケロ――大人の世界だわ」

 

「まっ、いいじゃん。ウチらがそのホークスと必要以上に関わらなきゃいいだけの話だよ」

 

「ところで、ホークスが全裸で踊り狂いながら現れた場合、誰が対処するのでしょうか? ちなみに私は絶対に遠慮するのです」

 

「ケロ――ここは遠距離攻撃ができる人にお願いしたいわ」

 

「ウチはパス。たぶんそんな状況だと音の制御が出来ないと思う。芦戸ならいけるんじゃない?」

 

「アタシが溶かすの!?」

 

「それはグロくない? 後始末が大変だよ」

 

「そうですわね。ヴィラン相手なら警察に引き渡して終わりですが、ホークス相手だとそういうわけにはいきませんもの」

 

「ここはやっぱりモモちゃんがゴム手袋を創造して握り潰せば万事解決なのです!」

 

「異議なしだわ――ケロ」

 

「ウチも賛成」

 

「アタシもさんせーい!」

 

「うん、一番良い方法だね!」

 

「満場一致でホークスの対処役はモモちゃんに決定しました。ゴム手袋の創造は出来ますよね? 無理なら生で潰しても――はうっ!? お団子を引っ張らないで下さい!」

 

「なあ、お前ら。本当に漫才をしなきゃ死ぬ病気には罹ってねえんだよな?」

 

ミルコ姉さんが本気で困った顔をしていた。

 

 

 

 

モモちゃんはレストランの個室を予約していた。

 

「うわー! レストランで個室があるんだー!」

 

「なるほど、こういう密室で悪巧みの相談をするんだね」

 

「ケロ――ファミレス以外のレストランは初めてだわ」

 

「お金持ちってこういうとこで食事するんだ」

 

「引っ張られたお団子がまだ痛いのです。クレイジー・ダイヤモンドでモモちゃんのヒステリーを治せないですか?」

 

モモちゃんがヒステリーを発病していなかった頃に戻すことなら出来るよ。何歳頃かな?

 

「モモちゃんのヒステリーはいつ頃からですか?」

 

「ヒステリーではありませんわ! 私のは正当な怒りですわ!」

 

「重清くん。モモちゃんは生まれつきのヒステリーみたいです。クレイジー・ダイヤモンドでお淑やかなモモちゃんに改造できませんか?」

 

うーん。精神的な改造は無理だと思う。

 

「お淑やかな私の爪の垢をモモちゃんに合成してはどうでしょうか。きっと多少はマシになると思うのです」

 

《本体、冷徹なバーサーカーが生まれる確率237%です》

 

うん。それはやめておこうね。

 

「ねえねえ、本格的にヤバい話してないかな?」

 

「あはは、もう慣れちゃったよ」

 

「人体改造……」

 

「どうされましたか、響香さん。御自分の胸と私の胸を見比べているようですが?」

 

「ケロ――それはダメよ。その道を選んだらきっと近い未来で後悔するわ。具体的には『ねぇ、矢安宮。ウチのモモを大きくして欲しんだけど』って頼むときによ。きっとすごく恥ずかしいと思うわ」

 

「梅雨ちゃん! でもっ、でもっ、ウチだってボンキュッボンになってみたい!」

 

「響香ちゃん……」

 

「あのう、ボンキュッボンとは何のことでしょうか? ウイスキーボンボンの銘柄とかかしら」

 

「もう、ヤオモモは口出ししたらダメだよー。ううん、アタシ達は全員ダメだね。ここは梅雨ちゃんに任せよー」

 

「うん、そうだね。余計なことを言ったら響香ちゃんに目ん玉をスプーンでくり抜かれそうだもん」

 

「透さんは怖い事を仰らないで下さい!」

 

「そんな気にする必要はないと思いますよ。エリちゃんや壱与ちゃんには勝って――モゴモゴ」

 

僕のヒミコちゃんの口に手を当てて塞ぐ。挑発するような発言はやめようね。

 

「ウチは後悔しないよ。たとえ一生分の恥をかいたとしてもね」

 

「そう、決意は固いのね。ところで響香ちゃん」

 

「なに、梅雨ちゃん?」

 

「関係のない話だけどね。重清ちゃんは大きなモモも小さなモモも両方とも好きらしいわ。今は唯一の小さなモモなのに、折角の希少価値が無くなるわね」

 

「やっぱり親からもらった身体は大切にしなきゃいけないよね!」

 

「ふふ、分かってもらえて嬉しいわ」

 

「流石は梅雨ちゃんだー! 解決しちゃったよ!」

 

「うん、役立たずのどっかのお嬢様とは違うよね」

 

「まあ、その様なお嬢様がいるのですね。紹介していただければ、この立派で賢いお嬢様である私が指導をして差し上げますわ」

 

「重清くん。謙虚な私の爪の垢をモモちゃんに合成した方がよくありませんか? きっと多少はマシなお嬢様になると思うのです」

 

《本体、悪役お嬢様にバージョンアップする確率237%です》

 

うん。それはやめておこうね。

 

「お前らなぁ、ここは個室だから良いけどよ。もう少し普通の会話は出来ねえのか?……うーん、私達が女子高生の時ってこんなんだったかな。なあ、覚えてるか?」

 

ミルコ姉さんに話を振られた事務員さんは軽く肩をすくめるだけだった。

 

 

 

 

メニュー表に載っていた品名が横文字でよく分からなかったからモモちゃんにお任せで頼んでもらった。

 

「すっごく柔らかくて美味しいお肉だねー!」

 

「うん、月並みだけど口の中で溶けるってこういうことなんだね!」

 

「メニュー表に値段が載っていないのが怖かったわ――ケロ」

 

「ウチらだけだと絶対に来れないよね」

 

「モモちゃんのお腹の駄肉よりプルプルなのです」

 

「ヒミコさん! 私のお腹はスッキリですわ! 嘘っぱちな風評被害を広めようとしないで下さい!」

 

ミルコ姉さん。はい、アーン。

 

「アーン、もぐもぐ。こくん。ああ、確かに美味い肉だな。ほら、お返しだ。アーン」

 

ミルコ姉さんにアーンをしてもらう。

 

アーン、モグモグ。ゴックン。

 

うん、美味しいね!

 

──ズシン!

 

部屋が揺れた気がした。

 

《本体、ヴィランです。エンデヴァーが対応中のため監視だけ行います》

 

うん、任せるね。

 

「ねえねえ、矢安宮。アタシにもちょうだい」

 

うん、いいよ。はい、アーン。

 

「あーん。もぐもぐ、こくん。えへへ、美味しいね。矢安宮」

 

幸せそうな顔でお肉を食べる三奈ちゃん。そんなにお肉好きだったんだ。

 

──バキィッ!!

 

個室の壁に亀裂が入った。

 

《本体、直しておく》

 

うん、ありがとう。

 

何も言わなくてもハーヴェストが直してくれた。

 

「次は重清君が食べる番だよね。じゃあ、私が食べさせてあげるね。はい、アーン」

 

透ちゃんがアーンをしてくれる。

 

アーン、モグモグ。ゴックン。

 

うん、美味しいね。

 

──ビシィッ!!

 

突然、窓ガラスにヒビが入った。

 

《本体、直しておく》

 

うん、ありがとう。

 

何も言わなくてもハーヴェストが直してくれた。

 

「ふふ、矢安宮は本当に美味しそうに食べるよね。矢安宮のお嫁さんになる人は料理のしがいがあると思うよ。そういえば、最近料理をするようになったんだけど、ウチの手料理の味見をしてくれる人がいないんだ。もしよかったら矢安宮が味見役をしてくれないかな? 矢安宮の好みの味付けも早めに覚えたいしね」

 

うん、響香ちゃんの手料理を食べさせてもらえるなら味見役ぐらいいくらでもするよ。

 

えへへ、響香ちゃんの手料理楽しみだね。

 

──ドカァァァン!!

 

窓の外で大きな炎が見えた。

 

周囲の建物に被害が出ているみたいだ。

 

《本体、人と建物を直して(治して)おく》

 

うん、ありがとう。

 

何も言わなくてもハーヴェストが直して(治して)くれる。うん、本当にハーヴェストは僕に似て優秀だね。

 

「なんだか周りが騒がしいけど、食事を続けていても大丈夫かしら?」

 

「蛙吹、お前を信じていたぜ。やっぱり、お前だけはまともだったんだな!」

 

ミルコ姉さんが、とても嬉しそうに梅雨ちゃんの両肩をバンバンと叩いていた。

 

「――ケロ」

 

梅雨ちゃんは超ご機嫌になったミルコ姉さんに引いていた。

 

「まあ、エンデヴァーさんが空を飛びながらヴィランと戦っていますわ。あ、被弾されました」

 

《本体、治しておく》

 

うん、あり(以下略)

 

「復活されたエンデヴァーさんが、こちらに向かってサムズアップをされていますので手を振っておきますわね。ふりふり」

 

「元気いっぱいなのに血塗れなのが面白いので動画を撮っておきます。今度の合同イベントで流したらウケると思うのです」

 

「ドカンドカンうるさいよー!」

 

「大丈夫、三奈ちゃん? ヤオモモ、ミサイルを創造してまとめて撃ち落とせないかな? エンデヴァーだけ地上に落ちる前に治せば問題ないよね」

 

「二人とも動きが速すぎて難しいですわ。あら、ホークスもいますわね。全く役には立っていませんけど」

 

「あの程度でナンバーツーになれるんだ。空を飛べるお陰なのかな?」

 

「あっ、あのヴィランってばエンデヴァーに焼かれても再生してるよ! あんなのずるいよね。えへへ、エンデヴァーも同じだけどねー」

 

「ケロ――完全に泥試合だわ。見ていてもキリがないし折角のお料理が冷める前に頂きましょう」

 

「そうだね、さんせー!」

 

「うん、もう観戦も飽きちゃったしね」

 

「矢安宮、こんな近くであんな激しい戦闘が起こって怖いよ。心細いから肩を抱いてもらってもいいかな」

 

響香ちゃんの震える肩に腕を回して抱き締める。腕の中で少しずつ震えが収まっていくのを感じた。

 

「響香さん! 隙あらば甘えるのはズルいですわ!」

 

「ウググ、撮影中なので邪魔が出来ないのです。モモちゃんは何をやっているのですか! お邪魔虫の名が泣きますよ!」

 

「そんな名など泣かせておけばいいのですわ!」

 

「蛙吹、私の目は曇っていたのか。一人だけでも常識的な娘が混じってくれていたと期待したのに…」

 

ミルコ姉さんが肩を落としていた。

 

はっ!?

 

今日はミルコ姉さんのお祝いだよ!

 

みんなっ!

 

ミルコ姉さんを盛り立てよう!

 

全員で一生懸命にミルコ姉さんをヨイショした。

 

少し機嫌が良くなった。

 

 

 

 

ホテルの部屋は豪華だった。

 

ふかふかのベッドで良く眠れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──生まれて初めて、学校以外で旅行に行きました。

私の家は家族旅行とは無縁だったので、社会人になるまで行くことはないと思っていました。

重清くん家の家族旅行にはよく誘われましたが、そこまで図々しくはなれません。

いえ、正直に言うと怖かったのです。

温かい家庭というものを知りすぎてしまうのが怖かったのです。

きっと、それを知ってしまうともう耐えられなかったから――。

ところで、事務所の旅行では重清くん以外は身内といえる女子だけだったので、とても気楽な旅行だったのです。

普段よりも羽目を外してはしゃぐ私達に、保護者役のミルコさんが困った顔をしていました。

テレビで見ていただけの頃は破天荒な女性だと思っていたのですが、実際に接してみると意外と常識人だし面倒見の良い人でした。

困った顔をしながらも、しゃあねえかって感じで見守ってくれる懐の深い女性なのです。

重清くんが懐くのも分かります。

その重清くんとは旅行中、あまりイチャイチャはしませんでした。

この私だって空気ぐらい読めるのです。

あのメンバーでの旅行でイチャイチャし過ぎると袋叩きにされちゃいそうです。

なので適度に隙をみせてあげました。

重清くんに近付かせるのは業腹ですが、重清くんの方にその気はないので我慢します。

甘えん坊な重清くんには甘えさせてくれる人が必要です。

私だけでも十分なのですが、もしも私が先に死んだ場合に困ります。

重清くんがひとりぼっちになっちゃいます。

人との繋がりは大切なのです。

きっと、悲しむ重清くんをみんなで慰めてくれるのです。

まあ、今の状況で私が死ぬ可能性があるのかは疑問ですけどね。

自分では分かりませんが、ハーヴェストが全身に隙間なくビッチリとくっ付いてるそうです。

『奇襲対策はバッチリだよ』と、重清くんが胸を張っていました。

私のプライバシーはどうなっているのでしょうか?

ふふ、重清くんに束縛されるのは幸せなので気にしませんけどね。

今回の旅行先では、凶悪なヴィランに出会いました。

標的はエンデヴァーでしたので、私達に被害はありませんでしたが、重清くんの警戒心が高まったのを感じました。

空からの襲撃に対しての感知能力に問題があったそうです。

地上からの襲撃なら数十キロ先で対応できることを考えれば、ホテルに攻撃を受けるまで気付かなかったのはとても遅いと言えます。

ハーヴェストは地面に触れていない相手だと目視での監視しか出来ません。

視界を遮る建物の多い都会では完全な監視網は築けないらしいです。

とは言っても5000体以上のハーヴェストが監視をしているので、ほとんど問題ないと思いますけどね。

恐らく今回は近くの空に転移してきたのだと思います。転移先が地上だったらその瞬間にハーヴェストは気付いたはずです。

転移はとても厄介ですね。

今、この瞬間にも襲撃を受ける可能性があります。

「ジャジャーン! ヒミコちゃん、今日も遊びにきたよ!」

重清くんが突然現れました!

うふふ、転移はとても便利なのです。

──本当は転移じゃないのは内緒ですよ。























みんなとの旅行はとても楽しいものでした。

また行けたらいいな。

そう思いました。





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