重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン5(A組vsB組編)

 

──朝の教室では、テレビ放送されたエンデヴァーの活躍が話題になっていた。

 

流石はナンバーワンヒーローだともてはやすクラスメイト達。

 

エンデヴァーは凄いとか格好良いとか、血塗れ姿がトラウマになりそうとか、これからはエンデヴァーの時代だぜ! とか大きな声で騒いでいる。

 

それを聞いていた僕はポツリと呟く。

 

――この間までナンバーワンヒーローだったハイパームキムキなおっちゃんのこと、みんなは忘れちゃったの?

 

周りは騒がしいのに、その小さな呟きは何故か教室内でハッキリと聞こえた。

 

突如静まり返る教室。カタッと出入り口付近で音が鳴った。

 

「あ、オールマイト先生……」

 

誰かがボソリと言った。

 

出入り口付近には、大きな身体を縮こませながら教室を覗くハイパームキムキなおっちゃんの姿があった。

 

なんだか寂しそうな雰囲気だと思った。

 

ハイパームキムキなおっちゃんは何も言わずにソッとその場を離れた。なぜか声を掛けれなかった。

 

そんな時だった。緑谷君がハッとした感じで立ち上がった。

 

緑谷君は、ハイパームキムキなおっちゃんの寂しそうな背中を追いかけていった。

 

その緑谷君の背中を悪態をつきながら爆豪君が早足で追いかけた。

 

そんな三人の背中をストーキングするようにお茶子ちゃんがついて行った。

 

そのお茶子ちゃんの背中をワクワクしながらモモちゃん達が尾行していった。

 

「えっと、委員長は追いかけなくていいの?」

 

一連の出来事を我関せずといった感じの委員長が気になって声をかけた。委員長の大切な爆豪君が行っちゃったよ。

 

僕の言葉に委員長はクイっと眼鏡の位置を直した後に言った。

 

「いや、とっくに予鈴は鳴っているからね」

 

──遠くから相澤先生の怒鳴り声が聞こえた。

 

 

 

 

「まったく、せっかくの良い場面でしたのに邪魔をするだなんて相澤先生には困りますわ」

 

突如始まった緊急訓練。その合間にモモちゃんが朝の出来事について文句を言っていた。

 

「ヤオモモ、良い場面って言い方は良くないよ。ウチらの所為でオールマイトは気落ちしちゃったんだよ。もう少し言葉には気をつけなくちゃダメだよ」

 

「ケロ――響香ちゃんの言う通りだわ。緑谷ちゃんと爆豪ちゃんは、そんな私達の責任を取る形でオールマイトを元気付けようとしたのだから、その様子を楽しんではいけないわ」

 

「ウンウン、そうだよねー。オールマイトを取り合う感じで張り合いながら慰めてたもん。それにしても緑谷の奴が爆豪相手にあそこまで強気になって張り合うなんて思わなかったよー!」

 

「ふふ、そうですね。自分の想い人相手に強気な態度を取れる子だとは思わなかったのです」

 

「そういえば、恋敵の委員長は参加しなかったよね。もしかして爆豪君とは別れちゃったのかな? まあ、恋人の自分と幼馴染の緑谷君をいつまでも天秤にかけるような奴相手なら冷めちゃっても仕方ないよね」

 

「そして距離を縮めたお二人の間に割って入ったのがオールマイトなのですわ! お互いに幼い頃から憧れていたヒーローが身近に現れて心惹かれてしまった。オールマイトへの想い、お互いへの想い。ああっ、憧れと愛情と嫉妬が入り乱れる恋のトライアングルなのですわ!」

 

「あ、あはは……たぶん、デクくんにはそんな想いはないと思うんよ?」

 

モモちゃんがとても興奮し出したから、お茶子ちゃんが苦笑しながら抑えようとした。

 

「そうよ、モモちゃん。緑谷ちゃんはお茶子ちゃんが狙っているのよ。友達なら応援するべきだわ――ケロ」

 

「うわー、恋だよ!」

 

「うん、これぞ青春って感じだよね!」

 

「ふふ、他人の恋路を見物するのは楽しいのです。お茶子ちゃんは友達なので見物だけではなく必要なら手伝いますよ」

 

「うん、緑谷は押しに弱そうだからウチらが協力してそういう状況に持っていけば、案外と簡単に既成事実を作れると思うよ」

 

「えぇっ!? き、既成事実って……べ、別にそういうんとちゃうんよ?」

 

照れながら否定するお茶子ちゃん。

 

「なるほど、本気のようですわね。お茶子さん、後のことはこの優秀で素敵なお嬢様である私にお任せ下さい。お二人の恋のキュービッド役を見事にこなしてみせますわ」

 

照れるお茶子ちゃんの様子にピンときたのだろう。モモちゃんが自信満々に勝手にキュービッド役を請け負った。

 

その表情はとても生き生きと輝いていて楽しそうだった。

 

「お茶子ちゃん、きっとトンチンカンな結果になると思うのです。ぶん殴ってでも止めた方がいいですよ」

 

「あらあら、ヒミコさんは嫌ですわ。私の恋愛知識は映画に小説、そして漫画を通じてあらゆるシチュエーションを網羅しております。男同士の浮気に悩む乙女のラブコメですら既知でしかありませんのよ。お茶子さんは豪華客船にお乗りになったつもりで御安心下さい」

 

「ねーねー、恋愛知識がラブコメって言ってる時点でちょっとアレな予感がするんだけどー」

 

「うん、そうだね。これがヤオモモ自身の話なら笑って見てられるけど、お茶子ちゃんの問題だもん。なんとかしてあげないとね」

 

「まあまあ、ちょっと待ちなよ。もう少しヤオモモを信用しようよ。ああ見えて知能指数は高いからね。ひょっとしたら何かの間違いで良いアイディアが出るかもだよ」

 

「それもそうだわ。たとえゼロに近い可能性でもそれを手繰り寄せてこそのヒーロー……という気がしないでもないわ――ケロ」

 

明らかに期待をしていない皆の言葉。これはアレだね。モモちゃんに自分からキューピッド役を諦めてもらおうって作戦だと思う。

 

うん、モモちゃんのキラキラしてる瞳を見たら、彼女にキューピッド役を止めるように言うのは気が引けるもんね。

 

「うふふ、可能性のヒーローですか。流石は梅雨ちゃんですね。万物ヒーロークリエティに相応しい評価だと思いますわ!」

 

うーん。皆の真意が全く通じていないみたいだ。やる気を益々漲らせたモモちゃんがフンって感じで両手を握りしめて気合を入れているよ。

 

「モモちゃんのポジティブ思考が怖いのです。皆にあれほど言われても全く通じないのは一種の才能でしょうか? ここまでくればもう諦めてモモちゃんのアイディアに期待してみても良いかもです」

 

「ヒミコちゃん!? ダメだよ! 諦めたら試合はそこで終了しちゃうよ!」

 

「お茶子ちゃん……力不足な私を許して欲しいのです」

 

「そんな事ないよ! ヒミコちゃんはやれば出来る子だよ! やれば出来る! やれば出来るから諦めないで!」

 

「──ありがとうねえ、お茶子ちゃん。私を信じてくれて嬉しかったよ」

 

「ダメッ!? 行かないでっ、ヒミコちゃん!」

 

ヒミコちゃんがトコトコと僕のところに歩いてきた。その背後には地面に崩れ落ちたお茶子ちゃんが手を伸ばしていたけど、ヒミコちゃんが歩みを止める事はなかった。

 

「はぁ、モモちゃんのポジティブシンキングを甘くみていました。それに私達は最初から仲良しだったので、男女が仲良くなる方法も思いつかないのでお手上げなのです」

 

やれやれと肩をすくめるヒミコちゃん。

 

僕はそんなヒミコちゃんを抱きしめる。

 

──僕のヒミコちゃん。元気を出してね。

 

 

 

 

川を流れる被害者役の遠形先輩に創造した投網を投げるモモちゃん。

 

「獲りましたわーっ!!」

 

一発で捕獲(ゲット)した。

 

 

 

 

ヴィラン役の天喰先輩を発見した。

 

いきなり鬼気迫る雰囲気の緑谷君が、凄いバチバチ音を立てる光る血管みたいなのを全身に纏わせながら襲いかかった。

 

「ウォォォッ!! デトロイトスマッシュ!! セントルイススマッシュ!! クソッ、こんな程度じゃダメだ!! もっと!! もっと力がいるんだ!! 大切な人を守り切れる力がッ!!」

 

咄嗟に守りを固めた天喰先輩。そのガードの上から殴る蹴るの暴行を加える緑谷君。少し経つと別行動をしていた爆豪君と切島君も合流して、三人掛で天喰先輩を容赦なくボコボコにした。

 

なるほど、A組のバーサーカーは緑谷君だけじゃなかったんだ。うん、今日は嫌なことに気付いてしまった。

 

 

 

 

もう一人のヴィラン役の波動先輩を見つけた。

 

速攻で緑谷君が怖い顔になって襲いかかった。

 

「デトロイトスマッシュ!! 避けたッ!? クソッ、まだだッ!! デラウェアスマッシュ!! からのッ、デトロイトスマッシュ!! デトロイトスマッシュ!! デトロイトスマッシュ!! デトロイトスマッ――」

 

「なにこの子!? ちゃんと手加減はしてる!? これが訓練だって分かってる!? 今のパンチが当たってたら死んでたよ!? 本当に君はヒーロー志望なの!?」

 

「クソッ、攻撃が当たらない! 文化祭の時と同じだ! 僕はあの時からまるで成長をしてないのかよッ!!」

 

「で、デクくん……」

 

波動先輩は飛翔しながらヒラリヒラリと緑谷君の攻撃は避けてるけど、その攻撃は空振りで発生する衝撃波だけで周囲の建物を破壊する威力がある。天喰先輩のような高い防御力を持たない波動先輩に直撃したら命に関わる。

 

他のバーサーカー二人は、天喰先輩をボコった後にまた別行動を取ったからここには居ない。緑谷君の直線的な攻撃のみなら高い技量をもつ波動先輩なら避け続けるのも不可能じゃないだろう。

 

「クソッ、クソッ! どうして当たらないんだよ!」

 

攻撃が当たらない八つ当たりで地面を殴りながら悔しがる緑谷君がとても怖いです。そこまで悔しがらなくてもいいんじゃないかな?

 

当たったら死ぬかもしれない攻撃だよ。波動先輩だって本気で避けるよ。むしろ、当たらなくて良かったって僕は安心したよ。

 

ほら、本気で悔しがる緑谷君を見た波動先輩の頬が引き攣ってるよ。

 

今は普通だったらクラスメイトの緑谷君を手助けする状況なんだけど、この状況は普通と言えるのかな?

 

僕は目の前の二人を見比べた。

 

一人目は、地面を殴るたびに小さなクレーターを拵えている狂犬みたいに凶暴な緑谷君。

 

うん、正直いって関わり合いたくない。

 

二人目は、顔色の悪い空飛ぶ女の子な波動先輩。彼女からは怯えて震える波動(ビート)を感じた。

 

うん、迷う必要は全くなかった。

 

──両足を大きく開いて立つ。上体を後ろに大きく逸らして、真っ直ぐに波動先輩を指差す。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴッ。雄英ビッグスリーが一角、波動ねじれよ。お前の個性『波動(ビート)』が、この俺に遠い記憶を思い出させてくれた。これはその礼だ。とくと感じるがいい。俺の生命の『波紋(ビート)』を!!」

 

遠い記憶に僅かに残るお手軽な波紋呼吸法。それは横隔膜を外部から刺激して強制的に波紋を練る秘技だ。

 

もちろん、僕だとそんな事は出来っこない。

 

だけど、僕には優秀なハーヴェストがいる。

 

ハーヴェストよ。僕の記憶を読み取って上手いことやってね。

 

《本体、それは無茶振りです――いえ、なんとか出来そうです。身体の力を抜いて下さい》

 

力を抜いたお腹をハーヴェストにズボッと突かれた。

 

──コォォォッ。

 

全身に流れる血液が振動するのを感じた。

 

血液の振動は波紋となり、全身を巡る。

 

「──波紋疾走。波紋の呼吸は勇気の産物。勇気とは恐怖を知ること。恐怖を我が物とすること。勇気のすばらしさを刻め。波動を宿し者よ!!」

 

肉体を巡る波紋エネルギーを用いて空高くジャンプした俺の眼前には、目を大きく開いた『ねじれ』がいた。

 

彼女の胸に手を押し当てる。その真下には彼女の心臓が在った。

 

そこに全ての波紋を注ぐ。

 

「――何かが、私の中に入ってくる。温かい何かが、私の全てに満ちていく。これが君の波紋(ビート)なの? 私の波動(ビート)と一つになって震えているわ」

 

ねじれの恐怖による震えは、勇気による震えに取って代わられた。

 

もうその表情からは微塵も恐怖を感じられない。そこにあるのは、黄金の精神にも通じる気高き勇気だった。

 

「恐怖を知るということは、勇気を知ることだ。勇気を知らぬ者は、どれほど強くなろうとも他人を救うことなどは出来ん。勇気を宿す者、波動ねじれよ。俺の波紋(勇気)は、君の波動(勇気)と共に在る。思う存分にハートを振るわせ、熱く燃えるがいい」

 

──彼女は地上に落ちないようにしがみつく僕を支えながら、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

ネジレちゃんと友達になった。

 

 

 

 

B組との対抗戦が行われると相澤先生に聞かされた。

 

「はいっ、救護係は任せて下さい。僕の目が黒いうちはどんな激戦が繰り広げられても怪我人は全て完治させてみせます!」

 

ビシッと手を挙げて宣言する。

 

仲間たちの安全の為なら対抗戦に参加できなくても後悔なんか全くない! 大切な皆を守るために今回は救護係に専念するぞ!

 

そんな自己犠牲に満ちたまさにヒーローらしい感動的な僕の態度に相澤先生もいたく感銘を受けた様子だった。

 

重々しく頷くと相澤先生は言った。

 

「うむ、当然ながら却下する。と言いたいところだが、ほんっとーに言いたいところだが、現実とはいつでも不条理なものだ。矢安宮、お前には特別依頼が公安から出されている。それを受けるなら対抗戦の日は公休扱いとなる。どうする? 断ってもいいぞ。いや、是非とも断れ! 国家権力になど屈する必要はないぞ! この国は自由の国だ! 公安などクソ喰らえだ! 今回の対抗戦ではいつもの様に味方チームの後ろでのほほんとしてるだけでは絶対に勝てないよう会場にはチーム分断用のギミックを予算オーバー覚悟で無数に仕掛けたんだ!! いつもいつもトガを護衛名目で侍らせてイチャイチャしやがってお前は訓練を一体なんだと――」

 

もちろん、僕は特別依頼を受けた。

 

 

 

 

「今回もいつもの様に治癒要員としての依頼だ。なんでもヴィラン連合のアジトに他のヒーロー達が強襲をかけるからその後方支援をしてくれとさ。まあ、怪我人が出るまではのんびりしとくのが仕事だな」

 

ミルコ姉さんが肩をすくめながら特別依頼の内容を教えてくれた。なんだかあまりやる気が無さそうな感じだけど、それは仕方ないと思う。

 

バリバリの武闘派のミルコ姉さんなのに、僕が現場にでる場合はその護衛があるから前線には出れないからだ。そしてこの護衛も特別依頼の一部になっている。

 

とても貴重な治癒系ヒーローを万が一にも失うわけにはいかないからヒーロー公安委員会も気を使ってくれているみたいだ。

 

うんうん、僕のことは大切にしてね。

 

絶対に酷使しないように特別依頼の回数も増やさないでね。

 

「もう、重清君は相変わらずね。公安委員会相手にそこまで遠慮なく言えるのは貴方ぐらいよ」

 

ミルコ姉さんと同じく、僕の護衛としての依頼を受けたユウ姉がクスクスと笑いながら言った。

 

もしもヴィランの襲撃を受けた場合は、ミルコ姉さんが足止めをして、巨大化したユウ姉が僕を手に乗せて離脱する段取りになっているんだ。

 

「いや、重清を掴んだ時点でMt.レディは不死身も同然だろ。離脱せずにヴィランを蹴散らした方が早いんじゃないか?」

 

ううん、それはとても危険だと思うんだ。だって、戦闘で興奮したユウ姉が無意識にでも手に力を込めたら、僕なんか簡単に握り潰されるからね。

 

「おいおい、いくら何でもプロヒーローがそんな間抜けなミスを……いや、何でもない。安全第一だ。Mt.レディは重清をソッと手に乗せたら慌てずにゆっくりと離脱しろ」

 

僕の言葉を呆れた感じで否定しようとしたミルコ姉さんだったけど、ユウ姉のニコニコした顔を見て意見が変わったみたいだ。

 

「ちょっとミルコ先輩!? 私の顔を見て意見を変えませんでした!?」

 

「いや、そんな事はないぞ? ところで、お前は生卵を握って潰さずに走れるか?」

 

「は? 意味がよく分かりませんけど多分出来ると……いえ、腕を振ったはずみで割っちゃうかもしれません。でも、たぶん大丈夫ですよ。私ってこう見えて器用なんですよ」

 

ミルコ姉さんの質問に、ユウ姉は走る態勢をとって手の力加減をイメージしながら答えた。

 

うん、とても信用できない。

 

「よーし! 重清を運ぶときは握るんじゃないぞ。両手をお椀の形にしてそこに座らせろ。そしてゆっくりと歩いて離脱しろ。ゆっくりで大丈夫だからな。ヴィランの攻撃を受けてもその時のお前は不死身だからな。重清への攻撃だけ身を挺して防げば半身を吹き飛ばされようと何も問題はないぞ」

 

「問題ありまくりです!! 半身を吹き飛ばされたくないです!! そうだっ、そんなに重清君を握り潰さないか心配なら――ふふ、胸の谷間に入れて運びましょうか?」

 

ユウ姉がギュッと腕を組み、大きなモモを寄せてアピールしながら言った。

 

うん、とても良いアイディアだと思う。とても大きくて、とても柔らかくて、もうあれは完璧なクッションだろう。きっと、僕の身も心も包んで全てを守ってくれると思う。

 

ユウ姉も『良いアイディアでしょう』と言わんばかりのドヤ顔をミルコ姉さんに向けて――

 

「痛い痛い痛いですぅぅぅ!? おっぱいが潰れちゃいますぅぅぅ!! ごめんなさいぃぃぃっ、調子に乗っちゃいましたぁぁぁ!!」

 

――握り潰さんとばかりにモモを掴むミルコ姉さんに白旗を上げた。

 

 

 

 

如何にも怪しい倉庫街にヴィラン連合のアジトはあった。

 

もちろん、こんな場所が本拠地ではないだろうけど、地道に一つ一つ潰していく方針なのだと思う。

 

ラスボスのディオは既に監獄にいるけど、中ボスの手フェチ野郎は健在だ。

 

プロヒーローが総力をあげて対応するほどではないけど無視は出来ない。そんな微妙な存在がヴィラン連合なのだろう。

 

まあ、戦力として油断できない凶悪ヴィランはいるけど、僕が雄英を卒業する頃には壊滅してるんじゃないかな?

 

そんなことをアジトから離れた待機場所で考えていたら、遠くからドカンドカンと戦闘音らしき音が聞こえてきた。

 

「ミルコ先輩、始まりましたね」

 

「ああ、相手にはワープゲートがいる。初手でそいつを抑えられるかどうかで勝負は決まる。まっ、新しいナンバーワンヒーローのお手並み拝見ってところだ」

 

ミルコ姉さんが言った通り、今回は新しくナンバーワンヒーローになった燃えてるおっちゃんが指揮をとっている。

 

一昔前はスタンドプレーが多かったらしいけど、今の燃えてるおっちゃんは戦隊ヒーローみたいにサイドキック達と協力して魅せる戦闘を心掛けている。

 

そのお陰で燃えてるおっちゃんの人気は鰻登りで、厳つい顔でニッコリと笑うのが怖可愛いともっぱらの評判だ。

 

うんうん、友達として僕も鼻が高いよ。

 

「へえ、随分と年が離れているのにエンデヴァーと友達なのね。ふふ、重清君はフレンドリーだから友達が多そうよね」

 

うん、そうだね。スマホに連絡先はいっぱい登録されているよ。

 

スマホを取り出してパララっと電話帳をユウ姉に見せる。

 

「うわあ、私も知ってるヒーローがいっぱい――あれ、ヒーローしかいない? ううん、そんなわけないわね。ちゃんと同い年の友達だっているわよね?」

 

もちろんだよ。ヒミコちゃんに梅雨ちゃん。モモちゃんと三奈ちゃん。響香ちゃんそして透ちゃんがいるよ。

 

「うふふ、女の子の名前ばかり上げて見栄を張らなくてもいいわよ。重清君が格好良い男の子だってちゃんと分かっているもの。それで男子の友だ――あれ、ミルコ先輩どうしたんですか? 無表情が怖いですよ。えっ、ええっ!? そんな強く引っ張らないで!? ど、どこに連れていっ――」

 

ユウ姉がミルコ姉さんに近くの物陰に引っ張られて行っちゃった。なんか小声で喋ってるけどよく聞こえない。だけど、とても良くない気分ではある。

 

暫くすると二人が戻ってきた。

 

「ねえ、重清君。君が暇なときはいつでも声をかけてね。私はいつでも遊びに付き合うわ。ううん、私が重清君と遊びたいの。だって、私達は友達だもの」

 

ユウ姉が不気味なほど慈愛に満ちた顔で話しかけてきた。うん、とりあえずパンチをしておこう。

 

ぱん、ぱん、ぱん。

 

 

 

 

ヴィラン連合のアジトの方から乱れた足音が聞こえてきた。随分と慌てているみたいだ。

 

ミルコ姉さんがスッと前に出る。

 

そして、僕はスッとユウ姉の背中に隠れる。

 

「えっと、たしかに正しい動きなんだけど、そこまで迷いなく私の背中に隠れちゃうのね」

 

ユウ姉の賞賛の声には、軽く頷く程度で済ませる。

 

危険なヴィランが近付いてる可能性がある今は集中力を切らせるわけにはいかないからだ。

 

そして、僕には近付いているのがヴィランだという確信があった。

 

《本体、近付くヴィランは一名です。アルコールの静脈注射はする?》

 

うーん。本当はさっさとアルコール注射をしたいところだけど、ヒミコちゃん以外には内緒だからね。

 

うん、本当に危なくなるまではハーヴェストは助言だけで良いよ。

 

《了解です》

 

「どうやらヴィランのようだな。Mt.レディ、重清がフラフラしないように手を繋いでおけ。――おいっ、そこで止まれ!!」

 

ミルコ姉さんの声に反応して、走ってきたヴィランはズザザッと地面を滑るようにして止まった。そして、ユウ姉は本当に手を繋いできた。こんな時にフラフラなんてしないよ?

 

「――ハァ、嫌になっちゃうわね。何とか逃げ出せたと思ったら、あのミルコにMt.レディ、オマケで重ちーまでいるだなんて、私の悪運もここまでかしら?」

 

「お前は……マグネ。いや、引石(ひきいし)健磁(けんじ)だな。無駄な抵抗はするな。お前の身元はもう割れている。観念するんだな」

 

「あらあら、本名も分かっちゃってるのね。これはもう本格的に詰みかしら」

 

「大人しくすれば手荒なことはしないわ! 両手を頭の後ろで組んで膝を地面につきなさい!」

 

「……ねえ、重ちーと手を繋いだまま言うのは止めてくれない? 今、この瞬間はマグネというヴィランにとってのクライマックスだと思うのよ。あんたもプロヒーローなら追い詰められたヴィランの最後の見せ場ぐらいシリアスな雰囲気で付き合いなさいよ」

 

「え? そ、そんなこと言われても困るわ。重清君と手を繋いでいるのはちゃんとした理由があるのよ。でも、あんたの言うことも理解できるわね。そうだわ! 私と重清君は偶然ここにいる一般人の姉弟ってことにするわね。あんたと対峙しているプロヒーローはミルコ先輩だけよ! さあっ、好きなだけ血みどろのキャットファイトを繰り広げなさい! ミルコ先輩も頑張って下さい! そうだっ、ポロリをしたら人気も上がりますよ! 私はこれから重ちーのお姉さんキャラで売る予定ですから、ミルコ先輩にお色気キャラを譲りますね! そうそう、ミルコ先輩のポロリを重清君に見せるのは教育に悪いので、ポロリするときは先に言って下さいね。目隠しをしますので!」

 

「よしっ、Mt.レディは後で蹴っ飛ばす!」

 

「えぇっ!? どうしてですか、ミルコ先輩!」

 

「テメエの言動を振り返ってみろ!」

 

「えっと……はいっ、先輩と重清君を思っての発言しかしてないです!」

 

「よしっ、本気で蹴っ飛ばす!」

 

「なんでーっ!?」

 

「ハァ、本当に緊張感のない人達ね。でも、女性ヒーロートップのミルコなら相手にとって不足はないわ。ああ、それと重ちーには手を出さないから安心しなさい。だって、重ちーに気を取られていたから負けたんだって言い訳はさせたくないもの」

 

「クク、そうか。じゃあ、お前も安心しな。これからどれだけズタボロになってもここには重清がいるからな。お前が死ぬことはない。精々、派手に血反吐をぶち撒けな」

 

二人から感じる威圧感にゴクリと喉が鳴った。

 

引石(ひきいし)健磁(けんじ)――ヴィラン名、マグネは赤い長髪の偉丈夫だ。布で包んだ長方形の柱のような物を担いでいる。きっと武器なんだと思う。

 

あの恵まれた体格で振り回せばそれは凶悪な破壊力を発揮するだろう。

 

対峙する二人を見比べれば、まるで大人と子供ほどの体格差があった。

 

ミルコ姉さんの強さは知っているけど、こんな真っ向勝負で力比べになったら女性のミルコ姉さんの方が不利だ。

 

負けるなんて思わないけど、怪我をして欲しくない。たとえ治るといっても辛い思いをするミルコ姉さんを見たくないんだ。

 

そんな思いでいると、無意識の内に力が入った。握っているユウ姉の手を強くギュッとしてしまったんだ。

 

「ふふ、大丈夫よ。ミルコ先輩は負けないわ」

 

緊張している僕の手を強く握り返してくれたユウ姉が、見るだけで安心する笑顔を浮かべて力強く言った。

 

「だって、ミルコ先輩は女性ヒーローの集まりで『ミルコってウサギじゃなくてヒグマとかの異形型だと思うわ。あの馬鹿力はウサギじゃ絶対に出せないもの。アイツのウサ耳はきっと偽物ね。誰が引っ張ってみなさいよ。スポッと抜けて下からヒグマの耳が出てくるわよ』と、噂されるぐらいその逞しさを信頼されているのよ。巨漢の男にだって力負けしないわ」

 

「――Mt.レディ。後でその噂を口にした女を教えろ。もし、その女がお前のことなら覚悟を決めておけ」

 

「ふぇ!? ちょっと待って下さい! 私はただ重清君を安心させて上げようとしただけで決して悪意とかありませんよ!」

 

「うるせえっ! 悪意がなけりゃ何言っても許されるわけじゃねえぞ!」

 

「……ねえ、もう貴女達の漫才は諦めたけど、私を男扱いするのはやめてちょうだい。身体は男かもしれないけど、心は乙女なのよ」

 

身体は男で、心は乙女なの?

 

《本体、トランスジェンダーというものです。マグネは身体と心の性別が異なっている女性です》

 

えーと、それは大変だね。

 

もし僕の心が女の子だったら……うん、想像できないや。

 

じゃあ、もしヒミコちゃんの心が男の子だったら……絶対に嫌だ!! ヒミコちゃんは僕のお嫁さんになってくれる女の子なんだよ!!

 

《本体、親しくない同級生で想像して下さい》

 

えっと、じゃあ、苦手な緑谷君で想像するよ。もし緑谷君の心が女の子だったら……クレイジー・ダイヤモンドで身体も女の子にしたらあのバーサーカーぶりを我慢できそうだよ!!

 

《おめでとうございます。ひとつ苦手を克服できますね》

 

「おいおい、重清。ヤバい企みが口から出てるぞ。念の為に言っておくがそれを実行するなよ。私の悩み事を増やすなよ。フリじゃないからな。絶対にするなよ。約束だぞ、約束を破ったらまたくすぐるからな」

 

「ミルコ先輩は重清君に甘いですよね。私相手だと容赦なく蹴っ飛ばすじゃないですか」

 

「あん? それは当たり前だろうが。仔兎とキングコングの雌が同じ扱いなわけないだろ」

 

「キングコングの雌!? 私ってそんなイメージなんですか!?」

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!! 男を女にするって本当に出来るの!?」

 

あ、ごめんなさい。勘違いする言い方をしちゃった。

 

「そ、そうよね。重ちーの個性でそんなことが――」

 

本物の女の子に出来るわけじゃないんだ。個性で直す(治す)ときに少しだけ僕の意思で形を変えることが出来るだけなんだ。

 

「――形を変える!?」

 

うん、人なら骨格や肉付きを女の子のに変えるだけだから全身美容整形と変わらないよ。

 

「こ、骨格から変えれるの!?」

 

うん、でも外見が女の子に変わるだけだから子供を産めるわけじゃないんだ。

 

「子供……いいえっ、外見が女の子になれるって凄いことよ! それでどのぐらいの精度なのかしら!? ちゃんと女の子に見えるレベル!?」

 

ええっと、僕の想像力でその人をTSして変えるわけだけど、少なくとも本物の女の子には見えると思うよ。

 

こう見えて僕は女の子の観察が好きだからね。可愛い女の子を想像するのも得意なんだ。こうして目を閉じれば、苦手な緑谷君も天パの可愛い女の子として脳裏に浮かべられるよ。うん、はにかんだ笑みが可愛いな。ぴっちりしたヒーローコスチュームが恥ずかしいの? 安心していいよ。女の子らしいラインがとても綺麗だからね。

 

「重清、それはあまり得意気に言わない方がいいぞ。いや、絶対に言うな」

 

「そうね。私もそう思うわ。それこそ重清君のイメージが悪く……あれ、普段の言動を考えれば別に影響ないかしら?」

 

「……それもそうだな。普段の言動がアレだからな。今さら少しぐらい方向性の違うアレな言動をしても誤差の範囲だと思われるだけだな」

 

なんだか二人が失礼なことを言ってる気がするけど、今は聞き流すことにする。

 

それよりもマグネが突然深々と頭を下げたんだ。一体どうしちゃったの!?

 

「重ちー、この通り頭を下げるわ。大人しく投降もする。罪も償うわ。二度と犯罪に手を染めない。だからお願いよ。私を本当の自分に生まれ変わらせて!」

 

ううーん。マグネの言いたい事は分かるけど、僕の個性はあくまでも全身美容整形と同じだよ。本物の女の子になれるわけじゃないんだ。

 

「じゃあ、聞くわ。私を女の子にするとしたら重ちーはどんな私をイメージするかしら?」

 

マグネの問いに彼女の全身をじっくりと観察する。

 

赤い長髪に大柄で筋肉質だ。厚い唇がチャームポイントかな。

 

つまりTSすれば、赤い長髪を風に靡かせてぷっくりとした唇が色っぽいダイナマイトボディのセクシー美女だよね。昔に流行ったボディコンが似合いそうだ。もしくは素肌に革のライダースーツが似合う野生的で躍動感のあるアマゾネス美女かな。それともハーフをイメージしてボンキュッボンな異国情緒溢れるエキゾチック美女も捨て難いよね。若しくは――

 

「現代の全身美容整形でもそこまで自由自在に変えれないわよ! そもそも骨格を変えれる時点で規格外なのを自覚して!」

 

「ミルコ先輩、重清君の好みが想像以上に幅広くてビックリですね」

 

「ああ、アレはただのコスプレ趣味だ。お前もそのうちコスプレをさせられるんじゃないか?」

 

「お前()? ミルコ先輩はコスプレしたんですか?」

 

「……ノーコメントだ」

 

「したんだ!?」

 

マグネから向けられている熱い視線から、彼女の本気の想いが伝わってくる。

 

だけど、安易にその想いに応えるわけにはいかなかった。

 

マグネ、僕は仮免許とはいえプロヒーローなんだ。ヴィランに頼まれてその望みを叶えるわけにはいかない。

 

「そ、そんな……」

 

ガックリと首を垂れるマグネ。その姿からはもうヴィランとして発していた威圧感は失われていた。

 

――これは独り言だよ。

 

マグネの肩がピクリと動いた。

 

雄英高校を卒業したら僕は正式なプロヒーローになる。そうなれば、自分の責任で副業が出来るんだ。

 

僕は治癒系の個性だからそういった医療系の副業をするつもりだ。もちろん、病気には対応できないけど、美容整形は対応範囲になるだろうね。

 

いつの日か、赤髪の美女に会えるって信じてるからね。――ちなみに、副業なんだから有料だよ。ちゃんと真っ当に働いて、料金を稼いでから来所してね。

 

「重ちー、ありがとう。ちゃんと罪を償って、ちゃんと働いて、そして会いにいくわ。――ちなみに割引はあるのかしら?」

 

僕には幸せにし(贅沢をさせ)たい女の子がいるんだ。だから、お金はたくさん稼がなきゃいけないんだよ。――ちゃんと定額料金を支払ってね。

 

「重ちー、その女の子は幸せ者ね。きっと、貴方とお似合いの可愛い子なのね――友達紹介割引はどうかしら? ネットワークを辿れば数十人レベルで紹介できるわ」

 

マグネ、こうして出会ったのも不思議な縁だね。きっと、いつの日か今とは違った関係になれると思うんだ。――一人紹介で5%引きでどうかな? 20人紹介できたら実質無料だよ。他の人には内緒だからね。

 

「ええ、わかったわ!……ねぇ、話は変わるけど、重ちー。あなたは私のようになってはダメよ。守るべき人がいるのでしょう。絶対に道を踏み外さないでね。本当に絶対によ。ちゃんと雄英高校を卒業してヒーロー事務所に務めないとダメだからね。そして副業にも精を出すのよ。じゃあ、いつかまた会えると信じているわ。――ミルコ、投降するわ。まだ子供の重ちーの前で、大人の私が見苦しく足掻く事は出来ないもの。最後は潔く終わる。それがマグネという愚かなヴィランのフィナーレよ」

 

「……そうか。じゃあ、本部に連絡するから大人しくしとけよ」

 

ミルコ姉さんはスマホでヴィラン確保の報告を行なった。すぐに警察が来るだろう。

 

「はぁ、なんだか気の抜けた終わり方ですね」

 

「まあ、いいんじゃねえか? どうせ今日は荒事は無しの予定だったんだ。順調に終わって万々歳だ」

 

「えっと、それもそうですね。重清君も無事だし、何も問題はありませんよね!」

 

「ああ、そう思った方が精神衛生上よっぽどいいぞ。それに今日は他の雄英女子達がいないからな。気持ちに余裕を持って終われたよ。いつもこうなら有難いんだがな」

 

「ミルコ先輩が余裕をなくす雄英女子……バケモンですか?」

 

「今どきの女子高生……間違いなくバケモンだな」

 

ミルコ姉さんがどこか遠くを見るような目で言った。

 

 

──こうして道を踏み外した一人の乙女――マグ姉との出会いと別れの物語は終わりを迎えた。でも、いつか必ずまた会える。そんな妙な確信を、僕は覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──B組との対抗戦はとても疲れました。

いつも言っていますが、私の個性は戦闘に直接役立つわけではありません。

捜査や尾行ならとても便利な個性ですが、戦闘では無個性と変わらないのです。

格闘技術ならそれなりに自信はありますが、ヒーロー科に在籍しているような強個性相手だと薄氷を踏むようなものです。

一応、奥の手は持っていますが、それを使う気は今のところありません。

たぶん、一生使わないかもです。

対抗戦の結果は、トータルでA組が勝ち越して勝利でした。

勝利といってもそれほどA組とB組との間に実力差はありませんでした。たぶん作戦次第では結果は逆転していたと思うのです。

まあ、勝利は勝利なので、今日はちょっとした祝勝会を行いました。

重清くんが居ないのがとても残念です。

アーンする相手がいなくて寂しかったので、隣にいた三奈ちゃんにアーンをしました。

最初は複雑そうな顔をされていましたが、二口目からはすぐに慣れて、素直にアーンと大きな口を開けてくれました。

屈託なく笑いながらモグモグしている彼女を見ていると、重清くんが娘のように可愛がる気持ちがほんの少しだけ分かる気がします。

そういえば、三奈ちゃんは那歩島で歳の離れた友人が出来たそうです。今も共用スペースのソファの端っこで、目立たないようにコッソリと電話をしています。

その動きが怪しいので、もしかしたら二人は禁断の関係なのでしょうか? まあ、それも良いでしょう。二人が幸せになれるように暇な時にでも祈っときますね。

ふふ、我ながら優しくなったと感心します。

きっと、重清くんが惜しみなく優しさを私に注いでくれるからそれが溢れ出ているのだと思うのです。

このままだと優しさに満ちた聖女にでもなっちゃいそうです。

おや、峰田君が電話に夢中な三奈ちゃんのスカートの中を覗こうとしているのです。

少し考えた結果、隣にいるモモちゃんに声をかけます。

モモちゃん。目を瞑って立ってくれますか。

はい、私に掴まって下さいね。モモちゃんが転けたら大変ですからね。

いえいえ、お礼なんて言わなくていいですよ。私達は友達じゃないですか。助け合うのは当然なのです。

ふふ、こんなことで涙ぐむなんて恥ずかしいですよ。

ほら、涙が溢れちゃいました。ハンカチはないので舐めちゃいますね。

──ちゅ。

女の子同士なんですからそんなに照れないで下さい。私まで恥ずかしくなっちゃいます。

もう、早く目を閉じて下さい。

はい、では誘導するので歩いて下さいね。

……そこまでくっ付かれると歩きにくいです。

いえ、怒ったりしてないです。ただ、モモちゃんのモモが思いっきり当たっていて気になっただけです。

ふふ、はい、そうですね。女の子同士ですもんね。照れるのは可笑しいですよね。

じゃあ、遠慮なくモモちゃんのモモを堪能しますね。ムニムニーっと。

モモちゃんが桃色になっちゃいました。ふふ、可愛いのです。

きゃっ、私のモモは揉んじゃダメなのです。

もう、モモちゃんはエッチなのです。でも、これでお互い様ですね。

あっ、ここで止まって下さい。

モモちゃんの利き足はどちらですか?

では微調整をしますね。

はい、ここで大丈夫です。

モモちゃん。手を添えるので、それに従って利き足を振り上げて下さい。

ここでストップです。

では、渾身の力を振り絞って蹴り抜いて下さい。

ふふ、大丈夫ですよ。ちゃんと誘導します。それに柔らかいものしかありませんからね。

え? はい、裸足でも大丈夫です。

軟球より柔らかいです。

それでは、いちにぃの、さん!!

──ぐちゃ。

おっと、危なかったのです。

汚い汁が手につくところでした。

三奈ちゃん、大丈夫ですか?

はい、峰田君がスカートの中を覗こうとしていたので、モモちゃんに手伝ってもらって成敗しました。

ふふ、今日は重清くんが居ませんからね。私が代わりをしただけです。

え? そんなに青褪めてどうしたのですか?

後ろですか?

後ろにはモモちゃんしかいな――

全力疾走で逃げました。

――振り返ったら桃色の悪鬼がいたのです。


とてもビックリしました。


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