重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン5(ヴィラン連合vs異能解放軍)

 

──ある日、おっきなおっちゃんから助っ人を頼まれた。

 

ヒーロー事務所を通した依頼ではなく、個人的な頼まれ事だ。もちろん、おっきなおっちゃんは友達だから助っ人を引き受けた。

 

日時はこちらの都合に合わせるとの事だったから、週末が三連休になる日にした。

 

当日、おっきなおっちゃんは会うなりその大きな頭を下げた。

 

「面倒事を頼んで済まぬ。俺一人では手に余る可能性があるのだ。だが、プライベートな事情にプッシーキャッツは巻き込めぬ。頼れるのは友であり、全ての事情を知る重清だけなのだ。この通りだ、重清の力を貸して欲しい」

 

友達なんだから助けるのは当然だよ。そう言って、僕はおっきなおっちゃんの肩へと登った。

 

さあ、行こう!

 

おっきなおっちゃんの心残りを晴らす旅へ!

 

 

 

 

──数時間後、僕らは身体中に手を張り付けた男と対峙していた。

 

「お主がアイツの後継者か――あの愚劣な男の後継者に相応しい澱んだ目をしている」

 

「――なんだ、お前? もしかして先生を馬鹿にしているのか?」

 

おっきなおっちゃんの目的は、かつておっちゃんを何年間にも渡り無給で働かせたブラック企業の経営者に未払いの給与を請求する事だ。

 

プッシーキャッツヒーロー事務所で働きながら、おっちゃんはブラック経営者に関する情報を集めていた。そして苦労の末に情報を掴んだときには、ブラック経営者は既に監獄の中だった。

 

そのブラック経営者の後継者と目されているのが、目の前にいる身体中に手を張り付けた男だ。

 

――スタンド使いの宿命。

 

その男を目にした瞬間、脳裏に浮かんだ言葉だ。

 

そうっ!

 

おっきなおっちゃんを酷使したブラック経営者とその後継者。

 

その正体はこの世界における『ディオ』と『手フェチ野郎』だったんだ!

 

本当にどこまでいってもスタンド使いの宿命からは逃れられないと、僕は諦観にも似た感情を抱いた。

 

手フェチ野郎に視線を向ける。彼の周囲には取り巻きと思しき男達が侍っていた。

 

彼らはどんな能力を有しているのだろうか?

 

その能力はこの世界の個性だけなのか?

 

それともスタンド能力を持つ者もいるのか?

 

分からない事だらけだ。

 

だけど、僕は全ての障害を打破してみせると決意する。

 

ふと、ヒミコちゃんの笑顔が思い浮かんだ。

 

今朝見たばかりだというのに、彼女のちょっぴり邪悪風味な笑顔が懐かしく感じた。

 

グッと拳を握り込む。

 

ヒミコちゃんの元に必ず戻ると心に誓った。

 

そして、僕は手フェチ野郎に向かって口を開いた。

 

さあっ、やるぞっ!

 

 

 

 

「――というわけで、未払いの給与を前経営者の後継者(相続人)となる貴方には代わりに支払う義務が発生します。もしも、支払い拒否をされた場合には法的処置、の前に監獄内にいらっしゃる前経営者にも面会して説明しようかと思います。また、マスコミにも公表しようと考えております」

 

「おいっ、そんなセコい話を先生にするんじゃねえよ! それにマスコミにも言うな! 世間のいい笑い物にされちまうだろうがッ!」

 

僕らの目的を聞いた手フェチ野郎は喚きだすと、その目に剣呑な光を宿した。

 

「クソがッ、お前らを纏めてぶっ殺せば未払い給与とやらもチャラだろうがッ!」

 

手フェチ野郎のそのセリフに周囲の男達が呆れた顔になる。

 

「おいおい、いくら何でも重ちー相手に凄むなよ。ガキ相手にダサ過ぎるだろ」

 

「そうですね。それにそちらの男性の存在は耳にした覚えがあります。元従業員というのは真実でしょう。給与未払いの非はこちらにあります」

 

「そうだぜ。それにこうして危険を承知で友達のために来たんだ。未払い給与ぐらい払ってやれよ。生活費を稼ぐってのは大変なんだぜ」

 

「重ちーは俺と同じエンターテイナーの匂いがする。ふむ、ここは彼の顔を立てて支払ってやらねぇか?」

 

「なあ、死柄木。払ってやろうぜ」

 

「ああっ、五月蝿えよ! お前らはどっちの味方だよ! 分かった! 分かったよっ、未払いの給与ぐらい利子つけて払ってやるよ!」

 

取り巻きの男達に説得されて支払いを了承する手フェチ野郎だったけど、いざ支払いの段で問題が発覚した。

 

「これから金を盗んできてその金で支払うって、貴方はアホですか? こちらはヒーローですよ。そんな金を受け取れるわけありません。というか、金を盗んだ時点でヴィランとして捕えます。まあ、いいです。先ほどの話は冗談として聞き流して上げます。それで、まともな商売で稼いだ金は本当に全くないのですか? ブラック企業といえど合法的に稼ぐ手段ぐらいありますよね?」

 

「死柄木、いくら何でも常識がなさ過ぎるだろ。どこの世界にヒーロー相手に盗んだ金を渡そうとするアホがいるんだよ」

 

「重ちー殿、申し訳ありません。弔の教育に失敗していたようです」

 

「えっ? 今のってマジだったのか!? タチの悪い冗談かと思って突っ込む寸前だったぜ」

 

「クク、子供の重ちーより常識無しとは笑っちゃうよね」

 

「引くわー、この俺ですら引くわー」

 

「ウググ、テメエら……そ、そうだ! ドクターなら金を持っているだろ! ドクターって言うぐらいなんだから医者だろ! 医者なら合法で金を稼いでるだろ! 黒霧ッ!! ドクターのところに行って金を貰ってこい! 言っておくが、合法的な金だぞ!」

 

「ハァ、分かりました。ドクターに頼んでみましょう」

 

手フェチ野郎の言葉に、モヤモヤ人間が仕方無さそうにワープしていった。

 

「俺らは関係ないから先に帰ってるぞ。あぁ、念の為に言っておくが、俺らがいなくても支払いを踏み倒すようなクソダセエことすんなよ」

 

配下の一人がそう言って帰ると、残った人達も同じような事を言いながら帰っていった。

 

一人でポツンと残された手フェチ野郎。

 

「クソッ、どいつもこいつも勝手な事を言いやがって!」

 

苛立って地面を蹴りつける手フェチ野郎だが、普段から運動などしていないのだろう。地面を蹴りつけた反動でバランスを崩し一人で転けていた。

 

そんな彼を憐憫の籠った眼差しでおっきなおっちゃんが見ていた。

 

「仲間に置いていかれるとは哀れなものだな。あのような寂しい姿を見せられては憎むこともできぬ。いや、憎むべきはそんな人間を作り出すブラック企業なのだな」

 

スッと空を見上げるおっきなおっちゃん。その姿からは何か大きな決意をした人間特有の情熱のようなものが感じられた。

 

「重清よ、俺は決めたぞ。この世界にてブラック企業に苦しめられている全ての人々を救う。そんなヒーローに俺はなってみせるぞ!」

 

おっきなおっちゃんは、蒼くおっきな空に向かってそう高らかに宣言した。

 

──これが、後の世でブラック企業と戦う弁護士ヒーローとして名を馳せる事になる、かもしれないグレートジャイアントのオリジンだ。

 

 

 

 

「ただいま戻りました。ドクターには渋られましたが、病院の交際費から資金を融通してもらう事に成功しました」

 

モヤモヤ人間が戻ってくると、手フェチ野郎に大量の現金を手渡した。

 

手フェチ野郎は憎々しげな表情だったけど、その大量の現金をそのままこちらに渡してきた。

 

「ほらよ、これだけあれば足りるだろ。多い分はさっき言った利子だ。精々感謝しろよ」

 

金額が足りているかはもちろん信用出来ないから数えていると、手フェチ野郎の携帯電話が鳴った。

 

現金を数え始めた僕のことを不満気に睨んでいた手フェチ野郎は、とても面倒臭そうに携帯電話を手に取った。

 

「もしもし、今は立て込み中だ。誰だが知らんが後でかけ直してくれ」

 

手フェチ野郎の言葉に答えたのは、途轍もなく怪しい合成音による声だった。

 

 

 

 

──誘拐事件が発生した!

 

手フェチ野郎の知り合いが誘拐された。誘拐されたのは闇ブローカーの義爛という男だ。

 

手フェチ野郎はブラック経営者の後継者だし、闇ブローカーも善良な人間とは言えないだろう。

 

だけど、ヒーローとして放っておくわけにはいかない。

 

僕とおっきなおっちゃんは頷き合うと、ヒーローとして動くことにした。

 

よし、まずは現状把握からだ。

 

誘拐犯は単独犯ではなく、異能解放軍という怪しい組織だ。異能解放軍は、泥花市を拠点とする組織みたいだ。

 

「なるほど、異能解放軍か。以前に聞いた事があるぞ。かつて、個性が異能と呼ばれていた時代にデストロという男がつくった過激派団体だ。この現代まで残っていたとは驚きだな。だが、地下に潜り活動を続けていたのであれば、どれだけの規模の組織になっているのかまるで予想がつかん。ここは全力で事にあたるべきだ」

 

おっきなおっちゃんが警戒を促す。

 

「いや、お前らは関係な――」

 

合成音の声によると、被害者の義爛は指を切り落とされた状態にある。

 

誘拐犯はその指を各地にばら撒くという猟奇的犯行を行なっている。

 

被害者はとても危うい状況に置かれていると考えて間違いない。

 

うん、ここは応援を呼ぶべきだろう。

 

自分達だけで解決するには異能解放軍は危険すぎる相手だ。

 

僕はスマホを取り出すと知り合いの公安委員会の人に電話を掛けた。

 

「もしもし、矢安宮ですけど――」

 

僕はザッと事情を説明して、公安委員会の知り合いに特別依頼を発行してもらった。

 

よし、これでタダ働きにはならないぞ!

 

「うむ、流石は重清だな。この緊急事態でも冷静な行動だ」

 

おっきなおっちゃんが感心している。

 

「いや、だからこれは俺達の問題――」

 

フッ、僕もヒーロー事務所に勤めているからね。ちゃんと収支を考えた行動ぐらい出来るよ。

 

「なるほど、これは俺も見習わなければならんな」

 

おっきなおっちゃんが大きく頷いた。

 

さてと、次はミルコ姉さんに電話しよう。

 

『おう、どうした? またファイティングポーズを披露したいから来てくれって話か?』

 

電話に出たミルコ姉さんにザッと事情を説明する。その後はハイパームキムキなおっちゃんに燃えてるおっちゃんなどの身近な人達。それに以前にケガを治した元ヒーローの中で、現場復帰したヒーロー達に次々と電話を掛けて応援を求めていく。

 

「おいおい!? どれだけのヒーローを集め――」

 

もちろん、ヒーローだけではなく警察にも連絡をしている。まあ、警察への連絡は僕からではなく、警察と長年の付き合いのあるハイパームキムキなおっちゃんに頼んだ。

 

「ほう、適材適所というやつだな。今後の参考としよう」

 

おっきなおっちゃんがメモをとっていた。

 

よし、これで出来ることは大体出来たかな。

 

あとはリーダーに指名したハイパームキムキなおっちゃんに任せて、僕は安全な場所で後方待機だ! おっきなおっちゃんはハイパームキムキなおっちゃん達と合流してね。

 

「おう、わかった。現場は任せろ」

 

「は? お前は待機するのか? え? いや、なんだ、その、えっと、それはおかしくないか?」

 

手フェチ野郎が妙なことを口走っている。

 

オジさんはまだ未成年で、仮免許の僕に最前線に行けって言うの?

 

オジさんは部下に嫌われてる思いやりのない無神経な上司なの?

 

オジさんはこのまま理不尽なブラック経営者の道を歩むつもりなの?

 

「俺はまだオジさんと呼ばれる年じゃねえよ!!」

 

手フェチ野郎が叫んだ。

 

じゃあ、なんて呼べばいいの?

 

「えーと、無難に死柄木さんか、弔さんでいいだろ」

 

じゃあ、弔さんって呼ぶね。

 

「おう、わかった」

 

それで、弔さんはこれからどうするの?

 

もう未払い給与を支払ってもらったから、弔さんは帰ってくれていいんだけど?

 

「え? そうなのか? いや、だけど、義爛の奴が……いや、奴はヒーロー共が助けるのか。えーと、ん? そうか、別に帰っても問題無いのか。そうだな、異能解放軍はムカつくが、態々ヒーロー共と三つ巴になってまで争う程の因縁もねえよな……うん、帰るとするか」

 

弔さんはブツブツ言ってると思ったら帰る気になったみたいだ。

 

「じゃあな、俺は先に帰るわ。お前……えーと、重ちーは怪我しないように隠れてろよ――フフ、俺って配下に好かれる気遣いの出来る上司だよな」

 

弔さんは満足気にそう言うと、軽く手を振って帰った。

 

 

 

数時間後、泥花市を強襲したヒーロー軍団が異能解放軍と激突した。

 

現役引退はしているけど、やっぱりハイパームキムキなおっちゃんの無双が一番凄まじかったそうだ。

 

二番目は現ナンバーワンヒーローの燃えてるおっちゃんだと言ってあげたいけど、実際にはおっきなおっちゃんだ。なんでも戦闘に入ったおっきなおっちゃんは、巨大化したユウ姉に匹敵するぐらいに更におっきくなって暴走機関車の如く無双したそうだ。

 

後に泥花市動乱と呼ばれる事になるこの激戦を制したのは、当たり前だけどヒーローサイドだ。

 

最終的に千人を超えるヒーローが泥花市に集結した。

 

圧倒的な戦力だと思うだろうけど、実際には異能解放軍の方が遥かに数が多かった。

 

なんと、泥花市に住まう九割以上の住民が異能解放軍に所属していたらしい。

 

その数は10万以上。

 

うん、すぐに応援を呼んだ僕の判断に間違いはなかった。

 

そして、迷いなく後方待機を選んだのは英断だったと言える。

 

ちなみに、この泥花市動乱集結後、未払い給与を手に入れたおっきなおっちゃんに高級焼肉を奢ってもらった。

 

すごく美味しかった。

 

 

 

 

「――そういえば、雄英高校に臨時講師で行くことになったわ」

 

ミルコヒーロー事務所に顔を出していたユウ姉が突然そんな事を言った。

 

「お前がなにを教えるんだ? ドロップキックのやり方か?」

 

「違いますっ! えーと、コホン。マスメディア対応の講師を依頼されました。若手ナンバーワンの人気を誇る私に相応しい依頼ですね」

 

巨大化という分かりやすくて目立つ個性を持ち、しかも若くて美人なユウ姉の人気は高い。

 

テレビの露出も多くてその対応に慣れているから講師に向いている。相澤先生みたいに無愛想で口下手なヒーローでは到底無理だろう。

 

「あー、なるほどな。八方美人のお前向きな依頼ってわけだ。私みたいな無骨なヒーローには無理だな」

 

「プークスクス。ミルコ先輩が無骨って何言ってるんですか。チビッ子達に大人気のウサぴょんじゃないですか。今度、テレビカメラの前でピョンピョンってして上げたらウケますよー」

 

ユウ姉がニヤニヤしながら言った。

 

ミルコ姉さんのウサ耳がピクピクッと震えた。

 

僕はソッと事務所から出る。

 

バタンと扉を閉めると同時に事務所内からユウ姉の悲鳴が聞こえてきた。

 

空を見上げると蒼天が広がっていた。

 

きっと、今日は良い日になる。

 

僕はそう思った。

 

 

 

 

「――公安委員会からヒーローインターンを推奨するように通達がでた。雄英高校からも各ヒーロー事務所に受け入れ要請を出すことが決まった。喜ぶがいい、ヒーロー科全員がインターンに行けるぞ」

 

朝っぱらから相澤先生がそんなことを言った。

 

なんでも泥花市で、10万以上のヴィランが暴れるという異常事態に危機感を募らせた公安委員会の偉い人が言い出した事らしい。

 

気持ちはとても良くわかる。

 

10万以上のヴィランなんて怖いよね。

 

少しでも優秀なヒーローを増やしたいよね。

 

強制的にインターンに行かされる学生の気持ちなんて考える余裕はないよね。

 

うん、学業とインターンの両立は辛いけど、ここは頑張り時なんだと思う。

 

「……どうした? 矢安宮は反対しないのか? 熱でもあるのか?」

 

やだなあ、熱なんて無いよ。

 

僕はこう見えてヒーロー志望の熱血漢だからね。

 

力無き人々を守る為ならどんなに辛い事でも耐えられるんだ。

 

僕のヒーローらしい言葉に感動した同級生から感嘆の溜息が聞こえた。

 

「ハァ、矢安宮はいいよな。親戚の優しいお姉さん状態になってるミルコのヒーロー事務所だもんな」

 

うんうん、みんなも頑張ろうね!

 

「……全員に言っておくが、インターンに行けばそこは本物のヴィランと対峙する鉄火場だ。甘えた気持ちでいると怪我だけでは済まんぞ。各自、覚悟を持って挑め!」

 

相澤先生の気迫の籠った言葉に、同級生達は力強く頷いた。

 

 

 

 

放課後、偶に心操君の訓練に付き合っている。

 

普通科の心操君は、ヒーロー科への転属を希望して訓練に励んでいる。

 

――クレイジー・ダイヤモンドよ。心操君をヴィランだと思って容赦なく叩きのめせ!

 

具現化したクレイジー・ダイヤモンドとガチで戦うことを希望した心操君はMなのかな?

 

いつもそう思ってしまう。

 

「ハァハァ、そんなわけ無いだろ。ヒーロー科の誰よりも足りない経験値を補うには、こうやって無茶を繰り返すしかないだけだッ!!」

 

そう吠えると、ウォォォッとクレイジー・ダイヤモンドに何度も向かってくる心操君。

 

もちろん、僕の指示通りにクレイジー・ダイヤモンドは心操君を何度も容赦なくぶっ飛ばす。

 

その回数が両手で数えられないぐらいになると、ようやく心操君は地面に大の字となる。

 

「ハァハァ、やっぱり矢安宮君のクレイジー・ダイヤモンドは強いね。この間の対抗戦で戦ったヒーロー科の人達より数段は上だよ。お陰で良い経験になるよ」

 

そっか。心操君はA組対B組の対抗戦に出場したんだ。どう、楽しかった?

 

「うーん。楽しかったというより、悔しかったかな。今の自分とヒーロー科との差を思い知らされたよ」

 

苦笑しながらそう言った心操君だけど、その雰囲気は楽しげなものだった。

 

うん、やっぱりMなんだね。

 

そう考えながら、優しい眼差しを心操君に向ける僕だった。

 

……。

 

…………。

 

……………………。

 

ハッ!? 僕たちのこの関係って、もしかして友達と呼べる関係じゃないかな!?

 

「は? 今さら何を言ってるんだよ。僕達はとっくに友達だろ」

 

そう言って、屈託のない笑みを浮かべる心操君。

 

──今日、僕は生涯の友と出会った。

 

「えっと、なんか重いんだけど……」

 

 

 

 

学校の裏庭にヨイショ、ヨイショと梅雨ちゃんを運んできた。

 

優しくソッと地面に置いた。

 

いつもの様に膝枕に頭を乗せる。

 

──そして時は動き出す。

 

「――ねえ、重清ちゃん。こうして膝枕をするのは全然構わないわ。だけど、瞬きをしたと思ったら瞬間移動をしていた、という経験は何回繰り返しても吃驚してしまうわ。だから前みたいに手を引っ張って連れてくる方式に戻してもらえないかしら?」

 

柔らかい膝枕に癒されながら聞いた梅雨ちゃんの言葉に、僕はもちろん頷いた。

 

「ふふ、ありがとう。それで何かあったのかしら? なんだか元気が無いように見えるわ」

 

梅雨ちゃんの心配気な声。僕は素直に悩み事を話した。

 

うん、実はね。少し前に破壊された泥花市をね。丸ごと全部直すようにって公安委員会から特別依頼がきたんだ。

 

そんな大変な依頼なのに、全部直すまで家に帰っちゃダメだって。現地に泊まり込めって言われたんだ。

 

「そうだったのね。市を丸ごと全部直すのは大変――大変というレベルの話かしら? ま、まあいいわ。とりあえず、常識的な考えは心の棚に仕舞っておくわね。とにかく家にも帰さないだなんて、そんな理不尽な公安委員会には腹が立つわ。今回は断固抗議するべきよ!」

 

僕のために怒ってくれる梅雨ちゃん。その気持ちが嬉しかった。

 

梅雨ちゃんのその優しさに甘え、僕はグニグニと柔らかい膝枕に顔を押しつける。

 

「重清ちゃん。そんなに頭を動かしてはダメよ。スカートが捲れちゃうわ」

 

──僕は一向に構わない!

 

梅雨ちゃんの小さな心配事を一喝して取り除く。

 

大切な僕の梅雨ちゃん。

 

君には曇った顔なんて似合わないよ。

 

いつでも笑顔でいて欲しいんだ。

 

「ふふ、その気持ちだけはとても嬉しいわ。でもそれはそれとして、重清ちゃん。久しぶりに真剣なお話をしたいから起きてちょうだい」

 

その言葉にビクッと身体が震えた。

 

ス、スカートの下はスパッツだよね。捲れても大丈夫だと思うんだ。ほら、三奈ちゃんなんかはよくスカートでダンスをするから捲れているよね。

 

「ダンスで自然と捲れてしまうのと、男の子にスカートを捲られるのはまるで違う話だと思うわ。重清ちゃんはそうは思わないのかしら?」

 

ウググ……そ、そうだ!

 

女の子のスカートを、男子が捲ったらダメなんだよね。

 

「ええ、その通りよ」

 

それなら良い方法があるよ!

 

さあっ、梅雨ちゃん!

 

自分でスカートを捲って、僕に見せて!

 

──梅雨ちゃんが、本気でお叱りモードに入ったから脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 

 

泥花市は想像以上に広くて、ポカポカ殴って直すのは大変そうだったからハーヴェストに丸投げした。

 

そしたら半日で直してくれた。

 

うんうん、僕に似てハーヴェストは優秀だね!

 

 

 

 

寮のベッドで横になりながら考えていた。

 

今回、手フェチ野郎――『死柄木 弔』との対決は中途半端なまま終わった。

 

未払い給与問題の解決を優先したからだ。それに交渉中に誘拐事件が発生するというハプニングにも見舞われた。

 

異能解放軍は強大な力を持つ過激派団体だった。ヴィラン連合というブラック企業より優先して倒す必要があった。

 

誘拐された被害者の身も心配だった。

 

スタンド使いの宿命という個人的問題よりも、ヒーローとしての使命を優先すべき状況だった。

 

ブラック企業との交渉は中途半端な状態で打ち切りになった。一方的に渡されたお金で妥協するしかなかった。

 

尤も結果的にいえば、弔さんから渡されたお金は、おっきなおっちゃんの満足のいく金額だった。

 

おっきなおっちゃんの数年間に渡るブラック企業人生は報われたんだ。

 

おっきなおっちゃんと、ブラック企業との因縁は決着がついた。

 

だけど、『死柄木 弔』と僕個人との因縁は――あれ、因縁なんてあったっけ?

 

えーと……。

 

あっ、そうだ。

 

スタンド使いの宿命だった。

 

んっ、ごほん。スタンド使いの宿命は否応なく、いずれ僕達を争わせることになるだろう。

 

恐怖がないと言えば嘘になる。

 

だけど、負けるわけにはいかなかった。

 

何故なら、僕には叶えたい夢があるからだ。

 

ふと、ヒミコちゃんの笑顔が思い浮かんだ。

 

すごく会いたくなったから、部屋に遊びに行くことにした。

 

“クレイジー・ダイヤモンド”

 

共用部を見張る監視カメラを無効化しながら移動した。

 

──じゃじゃーん!! 遊びに来たよ、ヒミコちゃん!!

 

次の日、寝不足になった。

 

 

 

 

今日から冬休みになった。

 

相澤先生も昨日のホームルームで、『各自、休み中はヒーローインターンに全力を尽くせ。ここで気張らなければ皆に置いていかれると思え。そして矢安宮! お前にはヴィラン連合に通じているという疑惑が浮上している! 何故か警察に調査依頼をしても『はぁ、つまり重ちーがヴィラン連合と通じている可能性があるから調査して欲しいと。ククク、そんな都市伝説もあるんですねぇ。えーとですね、実は警察はとても多忙なので都市伝説の真偽を問うバラエティ番組みたいな調査は管轄外なんですよ。どうしても興味があるのでしたら御自身で調査なさって下さい。ですが、重ちーへの誹謗中傷や迷惑行為をされた場合には容赦なく逮捕するので注意して下さいね。それではそろそろ帰ってもらえませんか?』というふざけた返答だったが、俺の目は誤魔化せんぞ! あの泥花市動乱の直前にお前とヴィラン連合が会っていたという目撃情報がある。これから街の監視カメラを確認し――な、なんだ!? まだホームルームの時間ですよ! なぜ関係のない先生方が教室に入って来るんですか! オールマイト離して下さい! 何を言っているんですか! 俺は正気ですよ! 俺にはドアホな矢安宮を正しい道に導く責任と義務があるんです! 俺は疲れてなんかいません! マリッジブルー!? 何のことですか! 俺は生涯独身だ! 結婚なんか人生の墓場じゃないか! その手を離せっ! 俺はっ、俺は自由なんだっ!! ドアホの策略なんかで結婚なんかするもんかーっ!!』といった錯乱を起こしたから、教師だけど生徒と同じように今日から冬休みを貰えたらしい。

 

うん、ゆっくり休んでね。相澤先生。

 

《本体、街中の監視カメラの記録消去完了した》

 

うんうん、僕に似てハーヴェストは本当に優秀だね!

 

 

 

 

 

 

 





──泥花市にて大規模な動乱が起こりました。

市内に潜んでいた異能解放軍が一斉蜂起したのです。

テレビでは数え切れないほどの暴徒と、泥花市に結集したヒーロー達の戦闘の様子が放送されています。

その戦闘の余波によって、平穏だった街並みが破壊されていきます。

その狂気すら感じさせる圧倒的な暴力を目の当たりにしてしまった、私のような普通の女子高生では『皆さん、元気なのです』という言葉を呟くことしか出来ません。

これほどの戦闘はもう戦争と呼んでもいいのではないでしょうか。

それとも、生存競争と呼ぶべきでしょうか。

現在の秩序を守る者達と、新しい秩序を求める者達が、その命運を賭けて争っている。

そんな風に私には思えるのです。

まあ、こんなつまらない世間話はどうでもいいのです。

それよりも、私の重清くんが朝早くから出掛けて夕方になってもまだ帰ってきません。

とても心配です。

ご飯はちゃんと食べているのでしょうか。

疲れてその辺の道端で寝てはいないでしょうか。

私の小さな胸は張り裂けちゃいそうです。

――響香ちゃん、小さな胸という言葉に反応しないで下さい。別に当てつけではないので睨むのはやめて欲しいのです。

「あのう、ヒミコさん。テレビに重清さんが映っているのですが、何かお聞きでしょうか?」

モモちゃんの言葉に慌ててテレビを見ます。

泥花市の動乱を制圧するために集まったヒーロー達の後方支援を行っている拠点の様子がレポーターによって紹介されています。

あーん。もぐもぐ、ごっくん。

そんな擬音が聞こえてきそうです。

テレビの画面には、Mt.レディにケーキを食べさせてもらっている重清くんが映っています。そしてその視線が、彼女のモモに向いているのがムカつきます。

あの様子では撮影されている事に気付いていないみたいですね。

ふと思いついて、重清くんに電話をしてみます。

『どうしたの、ヒミコちゃん』

重清くんが電話にでました。

テレビに映っている重清くんも携帯電話で喋っています。はい、これは生放送ですね。

「私の重清くん。帰りが遅いですけど夕ご飯は大丈夫ですか?」

『えっと、実はヒーロー活動中なんだ。夕ご飯は食べる余裕がなさそうかな。ヒミコちゃんは心配しなくていいから寮でゆっくりしててね』

はい、確かにケーキをパクパク食べさせてもらっているので、今夜は夕ご飯を食べれそうにないですね。

一体いくつお代わりをするつもりなのでしょうか。食べ過ぎは身体に良くないですよ。

重清くんの頬についた生クリームを、Mt.レディが指で拭ってくれるのは有難いのですが、その指についた生クリームを舐め取らないで下さい。なんだかムカつきます。

「今日は帰れない感じですか?」

『うん、そうだね。前線では多くのヒーローが負傷しているんだ。僕の治癒がなくなれば一気に戦況が傾いてしまうから離れるわけにはいかないよ』

ケーキを食べ終わった重清くんは、Mt.レディに膝枕をしてもらっての食休みに入ったみたいです。

Mt.レディのモモを幸せそうに見上げている姿がムカつきます。

画面が切替わりました。

なるほど、確かに前線では重清くんの遠隔治癒によるヒーロー達のゾンビアタックで、暴徒との圧倒的な物量差をものともせずに圧倒しています。

はい、確かに重清くんが離れるわけにはいかないのです。

「私の重清くん。とてもムカつ――いえ、とても心配ですが、重清くんがいないと前線は保てないので我慢しますね。ただ、怪我なんかしないで無事に戻って来ると約束をして欲しいのです」

画面が戻りました。どうやら会話を聞いているレポーターが気を利かせてくれてるみたいです。

おや、いつの間にか現れたミッドナイトが、重清くんの頭を掴んで自分の膝枕に移そうとしています。

それを防ごうとMt.レディも重清くんの頭を掴んで引っ張っています。

ああっ!?

力を込めすぎです! 重清くんが首を痛めちゃったみたいです!

ミッドナイトとMt.レディも慌てています。

二人で協力し合って首に湿布を貼ったり、重清くんの頭を撫でたりしてご機嫌を取り始めました。

『――ごめん。少し油断をしちゃった。不意を突かれて首を痛めたけどまだまだ戦えるよ。これ以上は怪我をしないと約束するから心配しないで欲しい』

ミッドナイトとMt.レディが左右から支える様にして重清くんにくっ付きました。

重清くんが左右からデカいモモにギュウギュウとされてデレデレになっているのがとてもムカつきます。

「はい、とても言いたい事はあるのですが、重清くんを信じて待ちます。重清くんも私のことを想ってくれるなら変なことはしないで下さいね」

「うん、無茶なんてしないから安心してね」

三人が仲良くお喋りを始めました。

重清くんが不自然なオーバーアクションで手を振り回しながらお喋りに興じています。

不自然に振り回した手が二人のモモに当たりました。重清くんは偶然を装っているつもりみたいですが、わざとなのはバレバレです。

二人は重清くんの頬を軽く摘んで叱っていますが、側から見るとイチャついているようにしか見えません。

はい、途轍もなくムカつきました。

あのですね、重清くんは私の重清くんなのですよ。そして、私は重清くんの私なのです。

ここはもうバシッと言っちゃうのです。

「私の重清くん。――私は重清くんが大好きなのです!」

画面の中の重清くんが、ガバッと立ち上がりました。

『僕のヒミコちゃん。――僕もヒミコちゃんが大好きだよ!』

電話とテレビの両方から、重清くんの想いが届きました。

お互いの気持ちが通じ合いました。

とても嬉しいのです。

はい、とても嬉しかったので、重清くんへのお仕置きはジャイアントスイングだけで許して上げますね。

──テレビの中の重清くんが、ビクッと震えました。







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