重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン6(ヒーローvs超常解放戦線)

 

──超常解放戦線を一斉検挙する作戦が持ち上がった。

 

なんでも世界規模のテロ事件が発生したのが発端となり、国内の大きめのヴィラン組織は早期に壊滅させる方針になったそうだ。

 

うん、その気持ちは分かる。放っておいて第二のテロ事件を起こされたら嫌だもんね。

 

それで、公安委員会が最初に目をつけたのがヴィラン連合と異能解放軍の残党が合併して出来た超常解放戦線だ。

 

今のところは動きの見えない超常解放戦線だけど、だからこそ被害を受ける前に一斉検挙する作戦が立てられた。

 

世界規模のテロ事件では、外国の一つの都市が壊滅する規模の被害を受けた。

 

そんなテロ事件を日本で起こさせるわけにはいかない。公安委員会は本気で超常解放戦線を壊滅させるつもりだ。

 

有力なトップヒーロー達は全て招集されることが決定されている。

 

そしてその作戦では、近隣のヒーロー養成校に所属する仮免許持ちにも参加要請が正式にされた。

 

「――というわけだ。一応は志願制だから念の為に確認するぞ。この中に作戦への参加を“怖いからやだ”などの理由で断る臆病者はいるか?」

 

朝のホームルームで作戦の説明をしたあと、相澤先生がとても断りにくい確認の仕方をした。

 

ウググ、普段なら間髪入れずに断る場面だけど、面倒臭がりだと思われるのはいいけど、臆病者だとは思われたくない。

 

僕は頼りになる幼馴染だとヒミコちゃんに思われている筈なんだ。そのイメージを崩すわけにはいかない。

 

よし、今回は参加前提で話をしよう。

 

「相澤先生! 僕はミルコヒーロー事務所所属のプロヒーローとして参加します。雄英生徒としての参加では後方支援が役割となる筈です。ですが、僕の個性は治癒だけではありません。建物への干渉も出来ます。敵拠点への強襲なら必ず役に立ちます。以上の理由で、僕は雄英生徒としての参加は辞退します!」

 

弱き人々を守るヒーローとして、僕は前線に赴きたい。この身体に流れる正義の血がそう訴えるんだ。

 

相澤先生にもこの熱い想いが伝わったんだろう。ウンウンと頷いて聞いていた。

 

「なるほどな。矢安宮の考えは分かった。雄英生徒として作戦に参加すれば、現場では見知らぬヒーローの指示を受ける事になる。気紛れな貴様には窮屈だろうな。それならいっそのこと危険な前線だろうと信頼するミルコと共にいたい、そういう事だな。ふむ、普段の面倒だからサボりたいというふざけた態度と比べればよっぽどマシだ。そうか、お前でも少しは成長するんだな。――よし、分かった! 貴様の希望は公安委員会に伝えよう。ミルコは“能無”の製造拠点を一番槍で強襲する危険な任務だが、必ずや貴様もそこに捩じ込んでやるから心配するな!」

 

ファッ!?

 

ちょっと待って!?

 

そんな話は聞いてないんだけど!

 

相澤先生は、僕の必死の呼び掛けを無視してサッサと教室を出ていってしまった。

 

ウググ、相澤先生に一杯喰わされた。

 

前線といっても、大勢の中に隠れてやり過ごそうと思っていたんだ。だけど、ミルコ姉さんが一番槍で強襲するって言うんなら、本当に先頭に立って敵拠点に突っ込むはずだ。

 

ミルコ姉さんを一人で行かせるわけにはいかない。今回は覚悟を決めよう。

 

まったく、ミルコ姉さんには危険な依頼を黙って受けないでよって言ってたのに。念の為にミルコ姉さんにもハーヴェストを護衛につけているけど、勝手な事をされたら心配になるよ。

 

自分勝手なミルコ姉さんに腹を立てていると、僕のヒミコちゃんが心配そうに声を掛けてきた。

 

「重清くん。ミルコさんと敵拠点に本当に突入するのですか? それは危ないと思うのですが…」

 

ヒミコちゃんを安心させるために、彼女の腰を抱き寄せて耳元で囁いた。

 

「ヒミコ、お前の目の前の男はヴィラン如きにやられるほど弱くはない。だから、心配するな」

 

「重清くん――」

 

その囁きにヒミコちゃんは胡乱な目になった。

 

「自分はミルコさんが敵拠点に突入すると聞いて怒っていたのに、私には心配することすら許してくれないのですか?」

 

ウグッ!?

 

い、いや、そこはやっぱり男女の違いがあるから、いくらプロヒーローでも女性のミルコ姉さんが心配なのは仕方ないと思うんだ。

 

「普段から自分は後衛だから戦闘は苦手だと公言している男子を心配するのはダメで、自他共に認める女性プロヒーロートップのミルコさんを心配するのはOKなのですか?」

 

アグッ!?

 

えっと、あのね。女の子が傷付いたら哀しいよね。僕はそんな哀しいのは嫌なんだ。

 

「男の子の重清くんが傷付いたら哀しいのです。私はそんな哀しいのは嫌なのです」

 

ウググ……

 

よ、よし、こうなったら奥の手だ!

 

「ヒミコ、今こそ伝えよう。ヒミコが雄英高校の受験対策で通っていた古武術系の道場に伝わる究極奥義“夢想転生”を。その真髄は、無より転じて生を拾うことにある。実体を捉えられない“無”の状態で敵の攻撃を回避すると同時に、気配を悟られず避ける手立てのない“夢想”の一撃を浴びせる攻防一体の究極奥義。これを身につけられるのは、哀しみを背負った者だけだと伝えられている。ヒミコ、哀しみを背負って生きろ。それがお前を助ける力となる」

 

突拍子のないことを言って煙に巻く作戦だ!

 

「ああ、これですか?」

 

ヒミコちゃんの気配が薄くなったと思ったら腕の中から消えた。エッと思ったら背後から抱き締められていた。

 

「ふふ、ただの体捌きに仰々しい技名が付いているのです。それとも私の技量がまだまだ技名に相応しい水準ではないという師範からの戒めでしょうか?」

 

こ、古武術って凄いね!

 

あとで師範のおっちゃんに“夢想転生”の技名をプレゼントしよう。あのおっちゃんも割とこういうノリが好きな人だから気に入ってくれるはずだ。

 

じゃあ、そういわけでもう行くね。と、さり気なく教室から出ようとしたけど、ヒミコちゃんは身体に回した腕を離してくれなかった。

 

「ふふ、私の重清くん。どこに行くつもりですか?」

 

ゾクリとする笑顔を見せながら身体に回した腕に力を込めるヒミコちゃん。そうすると、当然だけど二つの大きなモモが背中で潰れるわけである。

 

デヘヘと、その感触に頬が緩む。

 

「──私の重清くん。無力な私では貴方の力にはなれないかもですが、貴方を心配することは出来るのです。貴方の無事を祈ることは出来るのです。どうか、貴方の帰りを待つ女の子がいることを知っていて欲しいのです」

 

二つの大きなモモをモニュモニュと当てながら、ヒミコちゃんは自身の気持ちを告げてくれた。

 

「ヒミコ、俺が悪かった。お前の気持ちを蔑ろにしていた。俺は守りたかった。ヒミコを取り巻く世界に住む皆を守りたかったんだ。だがそれがヒミコを、俺の大切な女性を悲しませるというのなら――」

 

僕のヒミコちゃんを悲しませるぐらいなら、僕は全てを捨てても構わない。背中の二つのポヨンポヨンに幸せを感じながら僕はそう告げ――

 

「違うのです! 重清くんには好きなようにして欲しいのです! 重清くんの邪魔には絶対になりたくないのです! ただ、貴方に伝えたいのです!──トガヒミコが貴方をどれだけ大切に想っているのかを」

 

今まで以上にギュッとヒミコちゃんの両腕に力が入る。二つのモモだけじゃなく、身体全体が密着してすごく気持ち良い。温かくて柔らかくていい匂いがするヒミコちゃんの激情が言葉となって溢れた。

 

そんな彼女の心に僕は応える。

 

「うん、すっごく気持ち良い!」

 

「私の重清くん。セリフを間違えていますよ。言っちゃダメな方を口に出しちゃってます」

 

えへへ、間違えちゃった。

 

「ふふ、重清くんは幾つになってもうっかりさんで可愛いのです」

 

ついセリフを間違えて照れていると、ヒミコちゃんがギュッとしたまま励ましてくれた。

 

そんな優しいヒミコちゃんとイチャイチャしていると、峰田君が急に叫んだ。

 

「オイコラ! オイラの息子が萎えちまうぐらい邪悪な笑顔のトガとはいえ、教室で羨ましい真似をしてんじゃねえよ! 委員長も注意しろよ! どう見ても不純異性交遊だろ!」

 

「ハハハッ、二人は幼馴染だよ。兄妹みたいなものじゃないか。見ていて微笑ましいよ」

 

「委員長ッ!? クソッ、そういや委員長は矢安宮に甘かったんだ。そうだ! 女子達も腹が立つだろ! 文句を言ってやれよ!」

 

「峰田は何言ってんの? 今回は出遅れたウチが悪い。ここで文句を言うとかそんな恥ずかしい真似なんかしないっての」

 

「そうだよー。こういうのは早い者勝ちだもん。勝ったヒミコちゃんに文句なんて言わないよ」

 

「じゃあ、私は正面からいくね。二人でサンドウィッチにすればもっと喜んでくれるよ」

 

「ケロ――透ちゃん、じゃあの意味が分からないわ。それとサンドウィッチもやめてね。峰田ちゃんも少し落ち着いて。二人の邪魔をしても別に峰田ちゃんがモテるわけじゃないのよ」

 

「コホン。仕方ありませんわ。峰田さんがヒミコさん達が羨ましくて目障りだと仰るのでしたら、ここは皆に慕われている優秀で素敵な副委員長たるこの私が責任を持って解決致しますわ。緑谷さん、峰田さんが人恋しいそうなので、友人として一割程度のパワーで抱き締めてあげて下さい」

 

「えっ、僕が抱き締めるの!? ま、まあ、別にそれぐらいいいけど。じゃあ、峰田君いくよ。フルカウル10%!!」

 

「や、止めッ、ウギャァァァッ!!」

 

「えっと、デク君。ふざけてる時の副委員長の指示には従わなくていいんよ」

 

「うん、それは承知しているけど、今の話の流れだと合わせるべきだと思ったんだ」

 

「そっか。空気を読んだんだね。えらいね、デク君はちゃんと周りの人達のことを気にかけているんだね」

 

「えらくなんかないよ。僕は周りの人達に助けられて今までやってこれたんだって気付いただけだよ。これからは周りの人達を大切にしたいんだ」

 

「ふふ、そうなんやね。やっぱりデク君はえらいよ。大切なことに自分で気付けたんだもの。でも、どうして気付けたの?」

 

「それは簡単だよ。麗日さんも外国で指名手配犯として警察やテロ組織に追いかけ回されたら気付ける筈だよ。日本でどれだけ恵まれた環境にいるのかをね。逃亡時に信用できたのは自分自身と、僕と一緒に指名手配された彼だけだった。周りの人達は全員が敵だった。いつ通報されるかとビクビクしてた。心細い日々、肌を寄せ合って励まし合った彼とは固い友情で結ばれたよ。結果的にだけど、僕らはテロ組織壊滅に多少は貢献できたからね。現地当局と交渉してプロヒーローではなかった彼の功績を認めさせてそれなりの報奨金を渡すことが出来たんだ。その際にはエンデヴァーに力を貸してもらった。ほら、仮免許の僕なんかの言葉なんか現地当局は聞く耳さえ持ってくれないだろ。本当にエンデヴァーには頭が上がらないよ。他にも色々あったんだけど、キリがないから重要な事だけ言うね。それは味方は大切にしなきゃダメだって事と、そして──知らない奴は敵だ!!!」

 

「誰かッ! 心理カウンセラーを呼んで!!」

 

 

 

 

蛇腔病院――そこが凶悪ヴィラン“脳無”の製造拠点だ。

 

僕らはそこに踏み込んで、院長の“殻木 球大”の確保と“脳無”の無力化が任務となる。

 

病院内をざっとハーヴェストに調べてもらうと、“脳無”とは桁違いの力を秘めた“怪物”を見つけた。幸いなことに“怪物”は休眠中だったけど、“脳無”の方は無数に配置されていた。

 

「ククッ、重清が好き好んで前線に来るだなんて、今日は鉄槍が降るんじゃねえか」

 

作戦前の待機所にいるミルコ姉さんは面白そうに笑うけど、僕としてはとても不本意な状況だ。

 

ミルコ姉さんが先頭に立つ必要はないと思うんだ。治癒系ヒーローの護衛をすると言えば、公安委員会だって文句は言わない。

 

それを敢えて先頭に立つだなんて、ミルコ姉さんは身勝手だと思う。

 

「アン? ヴィランを相手にするのはいつもの事だろ。重清は、何をそんなに苛ついているんだ」

 

ミルコ姉さんは不思議そうに言った。

 

今回の相手は“脳無”だよね。

 

「ああ、死者を改造して複数の個性を宿せるようにした外道の産物だ」

 

“脳無”だけならともかく、休眠中の“怪物”が複数いるんだ。それらを纏めて相手をするのはミルコ姉さんでも無茶だよ。無傷じゃ済まない。最悪、殺されるかもしれない相手だよ。

 

「なるほどな。お前がそう言うのならそうなんだろうな。だがな、それがどうした。私はいつ死んでも後悔ないよう毎日死ぬ気で息してるぜ。死ぬのなら標的を蹴り砕いてから笑って死んでやるよ。まっ、お前がいるなら死なねえだろうけどな」

 

ミルコ姉さんはそう言って肩をすくめた。

 

うん、絶対にミルコ姉さんを死なせたりしない。

 

だけど、教えて欲しいんだ。

 

「ん? なにをだ」

 

こんな危険な依頼を受ける事をどうして前もって教えてくれなかったの!?

 

「は? そんなこと言われても知るかよ。ヴィランの拠点を攻める依頼なんぞいつもの事だろ。今までだってそんなもん態々伝えてねえよ」

 

え?

 

うーん、そう言われてみればそうなのかな?

 

「“脳無”は危険といえば確かに危険な相手だが、何度も見た相手だぞ。油断さえしなかったらいつもの依頼と同じだろ」

 

う、うーん。確かにそう言われたらそうだけど。

 

で、でも!!

 

今回の“怪物”はいつもの“脳無”とはレベルの違う強さだよ!

 

そんな依頼を受けるならちゃんと事前に教えてよ!

 

「あのなあ、レベルの違う強さの怪物とか言われても、そんなもん事前に分かるわけないだろ」

 

ミルコ姉さんは本気で呆れた顔になったあと、すぐに優しい表情をみせた。

 

「重清は心配してくれたんだな。ありがとな、心配してくれて」

 

ミルコ姉さんは優しい手つきで頭を撫ででくれた。

 

「だけどな、誰も知り得ない情報で心配されても困っちまうよ。次からはもっと順序立てて話をしてくれ」

 

ウムム?

 

ミルコ姉さんを困らせるのは本意じゃない。

 

うん、ここは僕が折れるべきだ。

 

とりあえず、一旦冷静になろう。

 

小柄なミルコ姉さんの頭を両腕で包むように抱きしめる。その長い耳や髪に顔を擦り付けて深呼吸をしながら匂いを嗅ぐ。

 

スーハースーハー。

 

うん、少し落ち着いてきた。

 

嗅ぎ慣れたミルコ姉さんの匂いに身体から無駄な力が抜けていくのが分かった。

 

「――いや、私の匂いを嗅ぐのはいいんだけどな。もうちょっと場所を選べよ」

 

作戦前の待機所――廃工場は互いの声が聞こえない程度には広いけど姿は丸見えだ。他のヒーロー達がチラチラとこちらを見ているのが分かった。

 

うん、つまり僕達二人は凄い仲良しだってアピール出来たわけだね!

 

「――そうか。お前が良けりゃ構わねえよ」

 

ミルコ姉さんはそう言うと、僕の身体に腕を回してギュッと密着してくれた。実家ではよくしてくれるけど、外ではあまりくっ付いてくれないから珍しいことだ。

 

抱き合うとより匂いが嗅ぎやすい。ミルコ姉さんの心遣いに感謝しながら、今度は彼女の首筋に顔を擦り付けて匂いを嗅ぐ。

 

「ン…ンンッ……こら、くすぐったいぞ」

 

ミルコ姉さんの小さな声での抗議を聞き流しながら、心ゆくまで匂いを嗅いで冷静になった僕は素直に謝った。

 

ごめんね、ミルコ姉さん。ちょっと冷静じゃなかったんだ。これからはミルコ姉さんを1日24時間365日体制で見守るから安心してね。

 

「それは止めろ」

 

僕の身体をギュッとしたまま、ミルコ姉さんはそう言った。

 

 

 

 

今回の作戦では、蛇腔病院とは別に超常解放戦線のアジトである群訝山荘でも検挙が行われる。

 

仮免許持ちの殆どは、どちらかの後方部隊に配属された。一部の集団戦向きの個性持ちだけが群訝山荘の前線部隊に配属されている。

 

幸いにもうちの女子メンバーは全員が後方部隊に配属された。

 

超常解放戦線のアジトにいるのは異能解放軍の残党がその殆どを占めている。だけど、残党といっても侮る事は出来ない。

 

元々が十万人以上の人員を誇った異能解放軍だ。残党でもその数は相当なものになる。その上、動乱時には泥花市を離れて全国にある支部を守っていた実力者も今回は集結している。

 

よし、ここはハーヴェスト三千体ぐらいでヴィラン達の生命力を吸い――

 

「おい、余計な真似はするなよ。普段通り遠隔治癒だけにしとけ。それだけで負けねえんだからな」

 

ウムム。離れた場所での戦闘だから不安だったのにミルコ姉さんに機先を制されてしまった。

 

《本体、そこまで警戒するヴィランは向こうにはいない》

 

うん、それはハーヴェストに調べてもらったから分かっているんだけどね。

 

ハーヴェストも百体単位で振り分けてみんなに付けているから周囲のヒーロー達の治癒もできる。ヒーロー側の体制は万全だといえる。

 

だけど、それでもみんなが心配だ。

 

あのバーサーカーの緑谷君でさえ、ちょっと目の届かない外国に行った途端に心を病んでしまった。

 

大切なみんながそんな事になって欲しくない。目の届かない場所にいる彼女達がとても心配なんだ。

 

《本体、分かった。これから全ヴィランの生命力を根こそぎ吸い取る》

 

うん、よろし――

 

「だから余計な真似はするなって言ってるだろ」

 

パチンとミルコ姉さんに頭を軽く叩かれる。

 

ウググ、思念での会話なのにバレている。

 

「重清は顔に出やすいからな。表情を見れば考えている事は大体わかる。まったく、少しは信用してやれ。お前の手助けが無くてもアイツらには務めを果たすだけの実力はあるぞ」

 

だけど、ミルコ姉さん。凶暴なバーサーカーだった同級生(緑谷君)ですら、周囲に敵しかしない状況だと心を病んだんだよ。

 

大切なみんなはこれから多くの敵と相対する。そこで想定外が起これば、いつ敵に囲まれるかも分からないんだ。なのに、僕の目は届かない。そんな状況がとても心配なんだ!

 

「そうか、そんな同級生がいたのか。――ところで話は変わるが、うちの女子メンバーは今は何をしてるんだ?」

 

えっと、今はまだ時間に余裕があるから近くの喫茶店でお茶してるよ。なんかそこで、モモちゃんが高笑いして注目を集めてるね。

 

「そうか。普段と様子は変わらないんだな」

 

うん、そうだね。三奈ちゃんは少し緊張してるみたいだけど、珍しくヒミコちゃんが気にかけてるから問題はないと思うよ。

 

「……そうか、トガの奴も成長しているんだな。そうそう、携帯以外でアイツらと連絡はつくのか?」

 

えっと、内緒の方法ならあるよ。でも、僕のヒミコちゃんとしか連絡し合えないけどね。

 

ふふん、実はハーヴェストを介して筆談なら出来るんだ。ペンとか無くても地面に書けばいいし、ヒミコちゃんの方は普通に喋ってもらったらいいからね。

 

「…………」

 

あれ、どうしたの?

 

「いや、なんでもない。もう今さら何を聞こうが大差ないと思うことにした。それでだ、そろそろ作戦が始まる時間だ。別行動のアイツらが心配なのは分かったが、向こうにはオールマイトもいるんだ。お前が心配している敵に囲まれる状況にはならないだろ。だからそろそろ集中しろ。心配しているお前の方が怪我をしたらアイツらが悲しむぞ」

 

うん、そうだね。その通りだ。少し注意散漫になり過ぎてた。気合いを入れなおすよ。

 

それに向こうにはハイパームキムキなおっちゃんがいたんだった。

 

引率の名目でハイパームキムキなおっちゃんが同行するって聞いたから、みんなのことは事前にお願いしてあるんだ。

 

うん、腐っても元ナンバーワンヒーローだもん。一人で向こうのヴィランぐらい全員倒してくれるよね。

 

「腐ってもってお前……まあ問題ないか。お前らは仲が良かったもんな。しかし、一人でヴィラン全員を倒すのはちょっと無理があるぞ。全盛期のオールマイトなら余裕だろうが、今の衰えたオールマイトだと体力が持たな――なあ、お前ら仲が良かったんだよな。もしかしてオールマイトを治した(全盛期に戻した)のか?」

 

えーと、古傷を治したことならあるよ。ゾンビなおっちゃんが、ハイパームキムキなおっちゃんにメタモルフォーゼしたんだ。

 

 

 

 

「HAHAHA! 泥花市動乱では指揮をとっていたからあまり活動出来なかったけど、今回は全力を尽くすよ。重清少年にも君達のことを頼まれているからね。もしも、かすり傷一つでも付けたらアメリカでの恥ずかしい秘密をネット公開すると脅されているんだ。――もしもの時は彼を止めてね」

 

 

 

 

作戦開始の三分後、群訝山荘の全ヴィランは捕縛された。

 

 

 

 

蛇腔病院での作戦が始まった。

 

僕は具現化したクレイジー・ダイヤモンドに背負われて、ミルコ姉さんと共に蛇腔病院の隠し通路に飛び込んだ。

 

作戦隊長の燃えてるおっちゃんは、先ずは患者を避難させる為にその指揮を取る。他のヒーロー達も全員で避難誘導を行う為、それらが終わるまで孤立無縁だ。

 

「――おい、無数の“脳無”が通路に倒れてゼエゼエ言ってるんだが、何か心当たりはあるか?」

 

うん、あるよ。きっとブラックな環境で働かされ過ぎてダウンしてるんだよ。

 

「……そうか。そうだな。ブラックなら倒れもするわな。ハァ、もう面倒だから一気に最深部まで行くぞ」

 

それまで周囲を警戒して進んでいたミルコ姉さんだったけど、気分が変わったのか急に走り出した。

 

その不用心な行動に、僕は付いてきて良かったとホッとした。

 

──クレイジー・ダイヤモンド。

 

世界が凍りつく。

 

全てが停止した世界で、ミルコ姉さんの髪を一房手に取ると唇を落とす。

 

「ミルコ。お前には余計なお世話なのだろうが、つゆ払いは任せてもらうぞ」

 

お約束のパターンだと、最深部に突っ込んだ最初の人は罠に嵌められるからね。

 

罠は無いはずだけど念には念を入れる。今回は妙にミルコ姉さんが心配になるんだ。もしかしたら、これが虫の知らせというやつかも知れない。後悔はしたくないからね。僕は全力を尽くす。

 

さあっ、行くよ!

 

クレイジー・ダイヤモンド!

 

ダダダッと、僕を背負ったクレイジー・ダイヤモンドは走り出した。

 

通路の途中で白衣のお爺さん――院長が倒れていたけど放っておく。どうせ動く元気は残っていない。

 

移動しながら自家製ハチミツを飲んで活力を回復させる。これで時間停止を延長できる。

 

これは過度な栄養補給になるから健康に悪いと思う。だから普段は使わない手段だ。

 

透明の円柱が並ぶ部屋についた。いくつかの円柱の中には“怪物”がいた。

 

時間停止中じゃなかったら“怪物”が目覚めて一斉に襲ってくるのだろう。

 

円柱を破壊するか迷ったけど、破壊したら“怪物”が目覚めるかもしれない。

 

死体に戻すか?

 

うーん。犯罪の証拠品だから後で怒られる危険性がある。

 

よし、とりあえず放っておこう。

 

生命力は吸い取ってるからたぶん大丈夫だと思う。

 

そこから続く通路をまた進んでいくと、他の円柱よりも豪華な円柱があった。そしてその中には――

 

「これが、スタンド使いの宿命なのか」

 

――手フェチ野郎。“死柄木 弔”が眠っていた。

 

 

 

 

円柱を前にして、時間停止を恐る恐る解除したけど、弔さんは起きなかった。

 

“怪物”も起きる気配はなかった。

 

暫くすると、院長を引き摺るミルコ姉さんが呆れた顔をしてやって来た。

 

よしっ、これでミッションコンプリートだ!!

 

ミルコ姉さんとハイタッチをしようと両手を上げる。

 

ミルコ姉さんは溜息を吐いたあと、仕方なさそうにハイタッチをしてくれた。

 

 

 

 

ミルコ姉さんが作戦隊長の燃えてるおっちゃんに作戦完了を無線で報告をした。暫くすると燃えてるおっちゃんや他のヒーロー達。そして、多くの警察官がやって来た。

 

「こいつが“死柄木 弔”か。どうやら個性強化の途中だったようだな」

 

燃えてるおっちゃん曰く、蛇腔病院の院長は死体から“脳無”を作るだけではなく、生きている人間の個性強化も出来るそうだ。

 

よかった。強化が終わる前に確保が出来て、と胸を撫で下ろしていたら、警察官が円柱を砕いた。

 

バシャーと円柱を満たしていた液体が流れ出る。ついでに弔さんも流れ出た。

 

ゴロンと転がる弔さん。

 

その乱暴なやり方にやっぱり警察は怖いと思った。さり気なく警察官達から距離を取る。

 

倒れたままの弔さんの様子を警察官が見ている。

 

それを見ながら僕は思った。

 

──これでスタンド使いの宿命が終わる。

 

長く苦しい戦いだった。胸を去来するのは、今日まで続いた数々の激闘の記憶だ。

 

僕一人では戦い抜くことは出来なかっただろう。僕の背中を守ってくれて、そして共に歩いてくれた仲間達が――

 

「寒い……寒すぎる」

 

――気がつくと、弔さんが立ち上がっていた。

 

「いかん!? そいつから離れるんじゃ!!」

 

ちっちゃいお爺ちゃんが叫んだ。

 

その声に反応したかのように、弔さんはニタリと笑うと両手で床に触れた。両手が触れた瞬間、床が崩壊を始め、周囲にいた警察官達の身体もまた崩壊し始めた。

 

「──重清ッ!!」

 

その刹那、ミルコ姉さんの叫び声が響いた。

 

反射的に視線を向けると、脱兎のごとく駆けるミルコ姉さんの背中が崩壊していくのが見えた。

 

うん、やっぱり今日は彼女に付いてきて良かった。

 

《本体、全てが崩壊する。全部直す(治す)

 

──元通りに戻ったミルコ姉さんの蹴りが弔さんにめり込むのを眺めながら、僕は胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

「――よくやった。一応、そう言っておく」

 

一斉検挙の翌日。朝のホームルームで不機嫌そうに相澤先生がそう言った。

 

 

 

 

雄英の近くの住宅街にその店はあった。

 

洋風の隠れ家的な雰囲気の喫茶店だ。

 

そこの老マスター御自慢のゴールドティップスインペリアルの香りを楽しみながら、僕は色々と思考を巡らせていた。

 

朝のホームルームで、相澤先生が不機嫌だったのには理由があった。

 

検挙された超常解放戦線の面子の内、ヴィラン連合に所属していた連中の逃走を許してしまったからだ。

 

そう、モヤモヤ人間のワープゲートで逃げられてしまった。

 

苦労して確保した弔さんの身柄まで奪取されたそうだ。

 

まったく、警察は何をしてたんだと文句を言いたい。

 

残念ながら、ワープゲートで跳ばれてしまうとハーヴェストでもその痕跡を追うことは出来ない。地道に探し回るしかないんだ。

 

《本体、射程距離内には居なかった》

 

僕を中心にして数十キロ四方の射程距離と言うと、とても広大な範囲に思えるけど、実際には県内ですらカバーし切れない。ヴィラン連合が隣の県に移動していたら完全にお手上げだ。

 

《本体が移動する?》

 

ううん、それは面倒だからやめとく。

 

それに逃したのは警察だしね。依頼もないのにこれ以上のタダ働きはする気はないよ。

 

本拠地の群訝山荘を潰された超常解放戦線の残党(元ヴィラン連合所属の数人)は報復しようとするだろう。

 

きっと狙われるのは、一人で群訝山荘を潰したハイパームキムキなおっちゃんだ。

 

数千人はいた群訝山荘を一人で潰したハイパームキムキなおっちゃんを狙って、ヴィラン数人が襲ってくる。

 

うん、心配する必要はまるで無さそうだ。

 

ハーヴェストを念の為にくっ付けとけばもう万全だろう。あとは任せておけばいいや。

 

フゥ、と長い息を吐く。

 

今回は頑張り過ぎたと思う。自家製ハチミツを摂取し過ぎた所為で、夜になっても目が冴えて眠れないんだ。

 

ふと、弔さんのことを思い出した。

 

目覚めた弔さんは強化された個性を使った。

 

崩壊が伝播していくという恐ろしい個性だったけど、周りを囲んだハーヴェストが全部直して(治して)くれた。

 

少し前にオーバーホールと戦ったときと同じだ。弔さんが崩壊させる速度よりも、数千体のハーヴェストが直す(治す)方が早い。やっぱり、数の暴力って最強だよね。

 

ミルコ姉さんに全力で蹴っ飛ばされた弔さんは全身骨折して気絶したけど、その様子を伺っていたら彼の怪我が勝手に治っていった。弔さんは個性の強化だけじゃなくて、追加もしていたんだ。

 

弔さんがまた目覚めたら暴れると思ったからハーヴェストに生命力を吸ってもらった。生命力の回復力強化の個性とかが追加されてたら怖いからハーヴェスト一体を付けて吸い続けさせる事にした。

 

その付けたハーヴェストは射程距離外になってしまったから今の居場所とかは分からないけど、最後の命令通り生命力を吸い続けているはずだ。──衰弱して死んでないかな?

 

《本体、たぶん加減して吸ってる》

 

うん。それならいいや。放っておこう。

 

弔さんに付けてるハーヴェストを一度消したら情報は得られるけど、向こうにはモヤモヤ人間がいる。彼らが警戒して定期的にワープしてたらもうハーヴェストを付けるチャンスは巡って来ないかもしれないからね。

 

兎に角、ミルコ姉さんが無事で本当に良かった。

 

──ゴールドティップスインペリアルの香りに包まれながら、今後も虫の知らせには注意しようと思った。

 

 

 

 

 

 

 





──世界規模のテロ事件は、大きな爪痕を人々に残しました。

緑谷君はその心を摩耗させて、今では知り合いを大切にする思いやりに溢れた少年です。チャームポイントは、その反面知らない人を蛇蝎の如く嫌うところでしょうか?

帰国したエンデヴァーは律儀にもミルコ事務所に顔を出して見学会を中止した謝罪をされました。手土産のオセオン饅頭は美味しかったのです。ご馳走様でした。

エンデヴァーに同行していたバーニンが妙に重清くんにベタベタしてたのが気になりましたが、よく考えたらミッドナイトやMt.レディの痴女コンビよりかはマシなので気にしない事にします。

顔も知らない公安委員会の偉いさんもテロ事件に不安感を煽られたらしく、国内のヴィラン組織一掃に乗り出しました。

最初の獲物には超常解放戦線が選ばれました。

泥花市動乱の元凶となった異能解放軍の残党がいる組織なので順当な選択だと思います。

ヴィラン連合の方は吸収合併する相手が悪かったと思い、素直に諦めて下さいとしか言えません。ご愁傷様です。

掃討作戦は上手くいったのです。

私が配置された場所では、現役引退したはずのオールマイトが全盛期並の大活躍をして、緑谷君が黄色い歓声を上げていました。

他のプロヒーローもオールマイトなら仕方ないと頷くだけで、活躍の場を奪われても文句は無さそうでした。

いえいえ、待って下さい。三分で解決っておかしくないですか?

作戦開始直前まで、オールマイトは私達と居ました。絶対に怪我をしないでね、と何度も私達に念押しをしてたのです。

そして、オールマイトは作戦開始の合図と共に音も無く姿を消しました。

突然消えたオールマイトに驚いていると、前線からオールマイトが全部終わらせたと連絡がきたのです。

消えてから僅か三分での話です。現状確認などでの連絡遅延を考えれば、実稼働時間はもっと短いはずです。

ハッキリ言って怪奇現象と変わらないです。速すぎるし強過ぎて気持ち悪いです。正直言って引きます。緑谷君みたいに無邪気に喜べないです。

そんな子供みたいにはしゃいでる緑谷君を眺めていたら、別の場所の作戦部隊から連絡が来ました。

【先行突入したミルコと重ちーから作戦完了の報告有り】

作戦開始後十分でのスピード解決です!

流石は私の重清くんなのです!

私は込み上げてくる感情を抑えられずに歓声を上げました。

──歓声を上げながら、彼の無事にそっと胸を撫で下ろしました。






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