──雄英高校では1年A組になった。
ヒーロー科だから女子は少ないかなと思っていたけど、1/4以上が可愛い女子だった。ヒミコちゃんにくっ付いて一緒に挨拶をする。
「トガです! トガヒミコです! 皆さん、今日からよろしくなのです! こちらのステキな男の子は、
──左足を絶妙な角度で曲げて前方に出し、両手は輪郭に沿わせる。眼光は意志の強さを感じさせる。
「ゴゴゴゴゴゴゴ、僕の名は
「…………あ、はい、八百万百です。こちらこそよろしくお願いしますわ」
僕が挨拶をすると少し静かになったけど、ポニーテールの女子── 八百万さんが挨拶を返してくれたのを切っ掛けにして、他の女子たちも賑やかに挨拶を返してくれた。
ヒミコちゃんはそのままの流れで女子たちの輪に加わりとても楽しそうにお喋りを始めた。そのキャッキャウフフな雰囲気は眺めているだけで幸せな気分になれるね。
「テメェ、どこちゅーだ?」
幸せな気分に浸っていたらガラの悪い声が聞こえた。
声の出どころに目を向けると、凶暴そうな男が真面目そうなメガネ君に顔を近づけていた。
「なんだろあれ、チュウをどこにして欲しいのかを聞いてるのかな? ここは教室なんだから、そういう事は二人っきりになるまで我慢してほしいよね」
思ったことを声に出したら、女子達から黄色い歓声が上がった。
凶暴そうな男とメガネ君は凄い形相になって否定している。二人には悪いことをしてしまった。仲の良さを揶揄う形になったみたいだ。ここは人として素直に謝るべきだ。
「ごめんね、揶揄う意図はなかったんだ。お詫びといったらなんだけど、僕とヒミコちゃんの事を揶揄っていいよ」
僕はそう言うと、ヒミコちゃんに近づいてぎゅーってした。ヒミコちゃんも嬉しそうにぎゅーってしてくれた。
──さあッ、思いっきり揶揄って!!
*
急にブチ切れて暴れ出した凶暴な男を、どこからか現れた小汚いおっちゃんが取り押さえて宥めている。メガネ君はプルプルと震え続けていた。
よく分からない状況だ。ヒーロー科は一味違うという事だろうか?
しばらくしてやっと落ち着いた。
小汚いおっちゃんは担任だった。なんだか疲れた表情をしているから小汚さが余計に目立っていた。紳士な僕としては無精髭ぐらいは剃って欲しいと思う。それか綺麗に整えるかだね。
何故か入学式の代わりに個性把握テストってのをやる事になった。
まあいいか。僕は推薦組だから一般入試組の“個性”を実技試験で見てないから少しだけ楽しみだしね。
テストを受けるために動き出した同級生たちを見やり、僕は不敵な笑みを浮かべる。
「ククク、見せてもらおうか。実技試験を通った“個性”の性能とやらを」
「いや、お前も受けるんだぞ」
担任の小汚いおっちゃん──相澤先生に無茶振りをされた。
僕は
「つべこべ言わずにさっさといけ」
相澤先生は、シッシとまるで近所の子供を追い払うかのように面倒臭そうに手をふる。
僕は仕方ないので素直にテスト受けた。
テスト結果は……うん、ヒミコちゃんは上位だった。さすがだね!
*
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」
ハイパームキムキなおっちゃんが現れた。
以前に治したハイパームキムキなおっちゃん──オールマイトは新米教師だった。
オールマイトは現役のトップヒーローでもある。オールマイトを治した日に、その事をヒミコちゃんに教えてもらったときは驚いたものだ。
だって、トップヒーローならもっと女子の扱いが上手くてモテそうな感じじゃないの? そんな疑問を感じたんだ。
「オールマイトは大人気ですよ。子供からお年寄りまでオールマイトの大ファンは大勢いてます。なので私もサインが欲しいです」
ヒミコちゃんはオールマイトにサインをしてもらった。オールマイトは慣れた様子でサインをしていた。サインをした流れで握手までしてた。肩にも手をおいた。僕のヒミコちゃんに気安く触れんな、と思った。オールマイトを追っ払ったあと、ヒミコちゃんをギュッとしといた。
オールマイトの最初の授業ではヒーローコスチュームを受け取った。事前に申請をしていた通りのデザインだった。僕のコスチュームと比べて周りは奇抜なコスチュームだらけだった。ここはコスプレ会場かな? と思うようなのばっかりだ。僕は思わず肩をすくめた。
「──やれやれだぜ」
「そのコスチュームは、ヤンキーが着てそうな改造学生服って感じですね」
可愛いヒミコちゃんが現れた。
ヒミコちゃんが言うとおり、僕のコスチュームは学生服をモチーフにしている。第3部のジョジョがモデルだね。これは防御力重視で作ってもらった。
ヒミコちゃんのコスチュームは露出控え目で動きやすさ重視のものだ。よかった、他の一部の女子みたいに露出が多くなくて。
「……重清くんは私のそんな姿を、見たくない感じです?」
複雑そうな顔をしたヒミコちゃんに聞かれた。もちろん僕は胸を張って答えた。
「ヒミコちゃんのエロい姿を見ていいのは僕だけだ! 他の奴には絶対に見せたくない!」
「うぇッ!? そ、そんな大きな声でエロいとか言わないで下さい!」
顔を赤くしたヒミコちゃんに叱られた。だけど、そんなには怒っていないと感じた。
*
戦闘訓練で八百万さん──モモちゃんと組んだ。僕は典型的な後衛だから大きな盾を“創造”してもらった。
戦闘相手は、凶暴な男とメガネ君だった。
「君たちはいいなぁ、僕もヒミコちゃんと組みたかったよ。あっ、モモちゃんが相棒として不足があるっていう意味じゃないからね!」
「うふふ、もちろん承知しておりますわ。運任せのくじ引きでも当然の如くパートナー同士になられる。そんなお二人の強い絆が羨ましいのですよね」
「うん、まるで運命で結ばれているような二人が羨ましいよ」
「テメエらッ!? 何言ってんだぁああッ!!」
また揶揄う形になってしまった。照れた凶暴な男が猛然と攻撃をしてきた。本当にゴメンね。
凶暴な男は自在に爆発を起こせた。モモちゃんが創造してくれた大きな盾は軽くて丈夫だったけど、凶暴な男の爆発は一発で大きな盾にヒビをいれた。
衝撃も凄かったけど、ハーヴェスト達が僕の身体と大きな盾を支えてくれたから吹き飛ばされずに済んだ。
「ハッ、踏み止まったのは大したもんだが、そのヒビだらけの盾じゃ次は耐えられねえぞッ!!」
「えい」
「なんじゃそりゃーッ!?」
ドヤ顔になっていた凶暴な男だったけど、僕が大きな盾を軽く殴ると瞬時に直ったのを見て驚愕していた。
──大きな盾を支えながら、上体を大きく後ろに反らせる。その視線は真っ直ぐに凶暴な男を射抜く。
「ババーン。僕の個性は“クレイジー・ダイヤモンド”! 物体、生物を問わず、僕が殴って
僕の個性に驚いたのだろう。動きの止まっていた凶暴な男をモモちゃんが捕らえてくれた。
残ったメガネ君は一人になっても諦めずに、彼の個性で高速機動を披露してくれたけど、ハーヴェストがこっそりと彼の足を引っかけて転ばせたら、後はモモちゃんが捕らえてくれた。
負けた二人。凶暴な男は凄い顔になって悔しがっていた。メガネ君は自分の足元不注意で転んだ事を悔やんでいた。
そんな二人を見て、僕は色々な意味で申し訳なく思った。訓練開始時には、そのつもりは無くても二人の仲を揶揄って冷静さを奪ってしまったし、スタンドのハーヴェストを使ったのは反則みたいなものだ。ここはちゃんと謝っておこう。
「ごめんね。これからは二人の仲を揶揄ったりしないから許してほしい。謝罪だけじゃ気が済まないなら、僕とヒミコちゃんの仲をいつでも揶揄って──え、オールマイト? どうして引っ張るの?」
──なぜかオールマイトに引っ張られて二人から離された。凶暴な男はなにか叫んでいた。
*
訓練終了後、僕はモモちゃんに気になった事を聞いた。
「──2人乗りの機動兵器の“創造”ですか? 申請すれば設計図の入手は可能の筈ですから、その構造を理解すれば創造はできます。もちろん創造する為にはそれ相応の時間が掛かりますよ」
「そっか、創造できるんだ。あのさ、ちょっと思いついたんだけど、その機動兵器にモモちゃんと僕が乗れば、弾薬・燃料の即時補給と故障箇所の即時修復ができるよね。そしたら無敵の機動戦士ヒーローになれるんじゃないかなって」
「そッ、その通りですわ! 重清さんと私の“個性”であれば可能です!──そうですね。現実的に考えれば、緊急を要する現場で長時間かけて一から機動兵器を創造するよりも予め準備しておく方が良いですわね。いえ、予め準備するのでしたら創造せずとも購入すればいいのですわ。私は難解な機動兵器そのものの構造ではなく、その機動兵器用の補給物資の構造を理解すればいいだけです。あッ、なにも戦闘だけを想定する必要はありませんわ。災害時の救助ヘリやボートなども私達でしたら補給や故障の心配なしで救助を行えます。……その為には各種免許の取得が必須になりますね。操縦士を別に手配するよりも私達が操縦できる方が融通が利きますもの。重清さんッ、早速ですが免許取得のために勉強会を開催しましょう!」
ちょっとした思いつきのせいで猛勉強をさせられることになった。長期休暇のときには専門施設での実技訓練(ヒーロー専用らしい)もあるらしい。そんな面倒なのは勘弁してほしいから、ヒミコちゃんに助けてもらおうと泣き付いたら、ヒミコちゃんも一緒に勉強をすることになった──どういうことなのッ!?
*
雄英高校に入学して少し経った頃にやめたことがある。それはハーヴェストによる小銭集めだ。
長く続けていたライフワークのようなものだったけど、他にハーヴェストのリソースを振り向ける必要が生じたからだ。
ヒーローとして学び始めてからこの世界のヴィランのヤバさを実感した。僕の地元は平和だったからヴィランの危険性を軽くみていた。
ヴィランによる凶悪犯罪が非常に多いんだ。小銭集めよりも安全の確保が優先だ。それに治癒系ヒーローになれば将来はすごく稼げるみたいだから小銭集めの重要度が減ったのも関係する。
他人を治せる個性は希少とは聞いていたけど、実際には唯一無二といえるレベルだった。擦り傷ぐらいなら治せる人はそれなりにいるらしいけど、重傷者を癒せるレベルは今まではリカバリーガール一人だけだった。そのリカバリーガールも高齢だからヒーロー業界では不安視されていたみたいだ。
そこに颯爽と現れたのがこの僕だ。リカバリーガールをも超える個性を持ち、品行方正で学業優秀な好青年だ。
僕のクレイジー・ダイヤモンドなら生きてさえいれば欠損した四肢の再生すら容易にできる。ヒーロー業界は歓喜に沸いたことだろう。
ヒーロー免許をとれば商売繁盛間違いなしだ。小銭集めの重要度が低下しても仕方ないことだった。
そんな確実に稼げるヒーローになるに当たっての心配事がヴィラン対策だ。これからは安全な地元を離れる機会が多くなるだろうからハーヴェストには安全確保に努めてもらう。
ハーヴェストは感知能力に優れているから悪意ある人間、つまりヴィランの判別ができるんだ。万引き程度の軽犯罪しか犯さない小物ヴィランだと一般人との区別は難しいかもだけどね。
僕を中心に数キロ四方を警戒する500体以上のハーヴェスト。ヴィランを感知すればすかさずアルコールを静脈注射だ。あとは道路に転がしておけば警察が処理してくれる。この警戒網をくぐり抜けて僕を害するためには高速で空を飛んでくるか、瞬間移動でもするしかないだろう。
もし直接襲うことに成功しても、僕の身辺は常に数十体のハーヴェストが護衛している。スタンドはスタンド使いにしか見えない、そしてスタンドはスタンドでしか倒せない。つまりハーヴェストが、僕を守る壁になれば無敵のバリアが完成する。無敵のバリアで守りアルコールを注射する。無敵コンボの完成だ。
「ふははは、圧倒的ではないか我が戦力は!」
ちなみに、ママとパパ、そしてヒミコちゃんにもハーヴェストを護衛につけているよ。
*
地元の商店街のイベントでプロヒーローを呼んだそうだ。雄英高校の先生以外のヒーローは生で見る機会が少ないから行ってみた。
「ほぉれ、ほれ。しっかり掴まってないと落ちちまうぞ」
「うわー、すげぇー!」
商店街に着くとウサギっぽいお姉さんが子供らを肩車して駆け回っていた。ウサギっぽい──バニーガールかな?
「あん? バニーガールじゃねえよ。ラビットヒーロー、ミルコってんだ。というか、私を知らないのか?」
バニーガールのお姉さん──ミルコ姉さんは僕の呟きが聞こえたみたいで声をかけてきた。さすがはウサギさんだ、耳がいいね。
僕はプロヒーローのことも学び始めているけどまだまだ疎い。なんといってもプロヒーローが多すぎるんだよね。
雄英高校のヒーロー科だけをみれば人数は少ないけど、ヒーロー科は日本全国にある。毎年、生まれるヒーローだけでも総数は相当なものになる。
地元の商店街に呼ばれるレベルのヒーローだとさすがに覚えていなくても仕方がない話だと思うんだ。
「アハハハハッ、ヒーローチャートTOP 10入り程度じゃ覚えちゃいねえかッ!」
ミルコ姉さんが僕の言葉に豪快に笑う。
「ヒーローチャート……そういえばそんなのがあったっけ。そうだ、ハイパームキムキなおっちゃんのオールマイトがトップヒーローって呼ばれる理由が、そのヒーローチャートで1位になっているからなんだっけ」
「おいおい、オールマイトをおっちゃん呼ばわりかよ。ファンに聞かれたら怒られるぞ」
「大丈夫じゃない? 本人も自分のことオジサンって言ってたし、高校生の僕から見たら完全にオジサンだよ」
「本人もって……おめぇ、オールマイトの知り合いか?」
「知り合いっていうか、生徒だよ」
「ああッ! そういや雄英の教師をやってんだっけ。お前は雄英の生徒か……もしかしてヒーロー科か?」
──右足を曲げて立ち、両腕は高く上げ頭の後ろ付近で曲げる。顔は僅かに横に向けて視線は真っ直ぐミルコ姉さんに向ける。
「ババーン、未来の治癒系ヒーロー、
「えっと、なんだ……今はそういう名乗りが流行りなのか?」
「うん、そうだよ。なんだったらミルコ姉さんにも教えようか?」
「……そうだな。流行りを取り入れるのは悪くないからな。一応、教えてくれ。あと、ミルコ姉さんってなんだ? まぁ別にいいけどな」
それからミルコ姉さんに色々と教えたら、機嫌良く帰っていった。後日、テレビにそのミルコ姉さんが映っていた。
──多数のヴィランと、たった一人で対峙するミルコ姉さん。
「ミルコォッ! たとえ貴様でもこの人数差じゃどうしようもねえだろッ! ブッ殺してやるから覚悟しやがれッ!」
「覚悟──覚悟と言ったか、貴様」
──ミルコ姉さんは両足を大きく開くと上体を僅かに傾ける。左手は大きく開き顔を隠すように覆うが、その指の隙間からは彼女のその強い意志を感じさせる眼差しがギラついていた。
「ゴゴゴゴゴゴゴッ!! 『覚悟』とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開く事だッ!!」
それは偶然、現場に出くわした通行人が撮った動画だった。ヴィランは普段とは違う意味で迫力のあるミルコ姉さんに気圧されていた。
そんな隙を見逃すミルコ姉さんではない。ミルコ姉さんはその強靭な脚力で高く跳んだ。
「ふるえるぞハート! 燃え尽きるほどヒート! おおおおおおッ、刻むぞ血液のビート!
マルコ姉さんは叫ぶと複数のヴィランを空中連続蹴りで蹴散らした。
──倒れ伏すヴィラン達に背を向けて着地したミルコ姉さんは上体だけで振り返ると、人差し指をヴィランらに向けた。
「ババーン! ラビット讃歌は『勇気』の讃歌ッ! ラビットのすばらしさは『勇気』のすばらしさ! 徒党を組む貴様らは『勇気』を知らん!」
この放送の反響は凄かったらしい。
──次の日、ミルコ姉さんが怒鳴り込んできた
「てめぇッ! 嘘教えやがったなッ、私が厨二病を患ったって噂になっちまったじゃねーかッ!」
新鮮なニンジン詰め合わせで許してくれた──
*
風邪で学校を休んだ。
クレイジー・ダイヤモンドといえど病気は治せないんだ。もし治せたとしても自分は治せないんだけどね。
実を言うと病気は治せないといっても裏技はある。風邪みたいな感染症は無理なんだけど、臓器系の病気の場合はその臓器を手術で摘出した後、クレイジー・ダイヤモンドで治せば健康な臓器が復元されるんだ。
これはオールマイトを治したときに実証できた。つまり、治癒系ヒーローとしての僕の価値がまた上がったわけだ。
価値が上がりすぎて、将来は馬車馬のように働かされる羽目にならないよう用心しようと思っている。
そんなことを考えながらベッドで横になっていたら、ママが剥いた桃を持ってきてくれた。小さな頃から病気になったときの定番だ。
小さな頃は病気になったらアーンで食べさせてもらったものだ。よし、今日は久しぶりにアーンで食べさせてもらおうかな。
「ママ、アーン」
「あらあら、重ちゃんは幾つになっても甘えん坊さんね。はい、アーン」
もぐもぐ、と桃を食べていると何か“圧”を感じた。なんだろうとその圧を感じる方向に目を向けると、
「──が過ぎると思うのです」
ジト目のヒミコちゃんと目が合った。
「そうそう、ヒミコちゃんがお見舞いに来てくれたのよ。うふふ、それじゃ後はお願いね、ヒミコちゃん」
ママから桃の入った器を受け取ったヒミコちゃん。ジト目のままのヒミコちゃんがアーンをしてくれた。
「重清くん、あーんあーんあーんあーん」
「ちょっ!? まだ口にはいっ──ンググッ」
──柔らかい桃でも喉には詰まる。ひとつ賢くなった僕だった。
*
風邪が治って登校したら、学級委員長が決まっていた。委員長はメガネ──飯田君だ。メガネキャラの彼は委員長にピッタリだと思った。
副委員長はモモちゃんだった。委員長になれなくて悔しいらしい、あんな面倒そうなことやりたがる人がメガネキャラ以外にいたなんて驚きだよ。
「私の方が驚きですわ。ヒーロー科におられる方で、その様な向上心の乏しい言葉を口にされる方がいらっしゃるなんて」
なんでもクラス全員が委員長をやりたがったらしい。えッ? ヒミコちゃんもなの?
「もちろんです、ヒーローとしてサイドキックを統率する練習に丁度いいと考えました。たぶん、他の人も似たり寄ったりの考えですよ」
「ええ、そうですわ。それに災害時などに多くの人々を誘導するなど、ヒーローには人をまとめる力が必要ですわ」
な、なんと。僕の方が少数派だったのか。
だがッ、僕は負けぬ!!
──イメージするのは、勝ち気なバニー!!
「ヒーローが徒党を組むだと、弱虫め!」
「ふふ、ラビットヒーロー、ミルコさんが言いそうなお言葉ですね。ところで、ミルコさんといえば、厨二病を患われたという噂に激怒されたと耳にしましたが、その際に発端となった動画なのですが、なにやら非常に既視感を覚えるものでした。重清さんには何かお心当たりは御座いませんか?」
「フッ、ミルコ姉さんとは和解済みだ。今ではニンジンスティックを食べ交わす仲だ」
「どういう関係ですの!?」
モモちゃんに勝った。次はヒミコちゃんだ!
「ミルコさんはソロですけど、重清くんは徒党を組んで真価を発揮するタイプですよね? 面倒くさらずに学ぶべきです。それとミルコさんについては後でお話をしましょうね、重清くん」
「人をまとめるのはパートナーのヒミコちゃんに任せるよ。それとミルコ姉さんはただの友人だよ」
「パートナー……うふふ、もう重清くんは仕方がない人ですねぇ。心配なので、パートナーの私が支えてあげますね──ミルコさんの話は別です。後でお話をします」
「ヒミコさん、それは私でもチョロ過ぎると思いますわ。それとミルコさんのお話は私も気になりますわ。ご同席してもよろしいかしら」
──フッ、勝った。……ところでお話ってなに!?
*
人命救助訓練中に“ソレ”は現れた。
「ひとかたまりになって動くな──」
かつて別の世界でハーヴェストを率いる本体を爆破し消滅させた。
「──動くなあれは、
現れた“ソレ”は僕の敵だった。
「オールマイトォ、聞いてるぜ、平和の象徴オールマイト。あんたが弱ってるってのはなぁ」
「ほう、どこ情報かなそれは? 捕まえた後でじっくりと話してもらうとしよう」
黒いモクモクの中から続々と現れるヴィラン達の中に“ソレ”はいた。
顔中、身体中に手首から上をくっ付けた、手に異常な執着があると一目でわかる男だった。うん、間違いなく手フェチの変態野郎だ!!
最近はちょっと忘れかけていたけど、ジョジョの原作でハーヴェストの本体を倒したスタンド使いだ。
あれ? スタンド使いのはずなんだけど……アイツ、見えてない?
手フェチの変態野郎たちが現れた瞬間からハーヴェスト達は動いていた。まるで花畑を飛び回るミツバチのように、ヴィラン集団の中を跳び回るハーヴェスト達。せっせとアルコールをヴィランたちに静脈注射していってる。
手フェチの変態野郎はその光景を目の当たりにしているのに全く気付いた様子を見せない。あっ、手フェチの変態野郎にも注射したよ。
僕の灰色の脳細胞が高速回転して解答を導きだす。
この世界はジョジョ世界と個性のある世界が混じった世界だ。その影響でハーヴェストの本体は僕になり、クレイジー・ダイヤモンドはスタンドではなく個性となった。
つまり、ここはイレギュラーのある世界なんだ。そして手フェチの変態野郎の場合は、この世界ではスタンド使いではなくなったんだ!
スタンドはスタンドでしか倒せない。スタンド使いではない手フェチの変態野郎ではハーヴェストを倒せないんだ。これなら僕の勝利は揺るがな……いや、待てよ。ジョジョ世界を思い出せッ! 僕!!
ジョジョ世界でのハーヴェストの本体は、手フェチの変態野郎にハーヴェストを倒されて負けたのかッ、それは違うだろう!
手フェチの変態野郎はハーヴェストを倒したんじゃない、本体を爆破して倒したんだ!
くそうッ、スタンド使い同士なのにスタンドバトルを放棄して、生身の本体を攻撃するとはなんて卑怯なヤツなんだ!
許すまじッ、手フェチの変態野郎!!
あ、手フェチの変態野郎がぶっ倒れた。他のヴィラン達も次々と倒れていってるよ。うん、あれは急性アルコール中毒だね。
手フェチの変態野郎と会話を交わしていたオールマイトは突然の事態に目を丸くしていた。
──結局、ほとんどのヴィランは捕まった。残念ながら手フェチの変態野郎は、倒れた瞬間に黒いモヤモヤ人間が連れて消えていった。一人だけ倒れなかった脳が丸出しの大男がいたけど、そいつはボーッと立っているだけだった。
「──どうやらヴィラン達は泥酔して倒れたようだね。状況的に考えると皆で酒盛りをしてから雄英高校に襲撃をかけた──つまり酒を飲んだ勢いでの凶行か!」
──オールマイトが導いた結論、それが正しいかどうかは誰にも分からなかった。
*
聞いてほしい。A組の女子たちは本当に可愛いんだ。
これは男子なら誰でも認める事実だろう。
誰だって可能なら女子たちを侍らせてハーレム状態になりたいと願っているんだ。
「……で?」
それはこの品行方正な僕だって男子なのだから決して例外じゃない。
でもこれは普通なら実現不可能だと諦める類いの夢ってやつだ。
そう、普通ならだ。
僕は普通なんて枠に収まる気などさらさらない。
いつだって不可能を可能にするべく努力を忘れちゃいけないんだ。
「……で?」
もちろん個人的に仲良くなる努力はしているよ。その甲斐あって、モモちゃんとは機動戦士モードで戦闘訓練時に猛威を振るう仲になった。
それに免許取得のために一緒に勉強を続けている関係で、モモちゃん家にお呼ばれもされる仲だ。
だけど、なんだか切磋琢磨する仲間って感じなんだ。
「……で?」
三奈ちゃんはフレンドリーで活発な子だからカラオケとかボーリングとか一緒に遊ぶことは多いんだ。
ちょっとしたスキンシップも気軽にしてくれるから、悪い感情は持たれていないと思うんだ。
だけど、遊ぶのは必ず男女何人かでなんだ。ようは単なる仲良しグループって雰囲気だ。
「……で?」
響香ちゃんはクールな感じだけど、ノリはよくて軽口にも付き合ってくれるんだ。
彼女はモモちゃんと仲がいいから、三人で一緒にご飯を食べたりとかもするんだ。
だけど、なんだか男友達って感じなんだよね。
「……で?」
梅雨ちゃんは優しくて面倒見もいいから色々とお世話になることが多いんだ。
兄弟がいてるとかで、僕のことも「下の弟に似てるわ」って言って扱いがほんとに弟なんだよ。
だけど、僕は大人っぽいから弟じゃなくて、お兄ちゃんだと思うんだ。
「……で?」
えーと、次は誰だっけ? まぁいいや。とにかく、A組の女子全員とそれなりには仲良くはなれたけど、あくまでもただの友達としてなんだ。
「……で?」
うん、だからここに全員分の血が揃っているから、ヒミコちゃんに変身してほしいなってお願いなんだ。
「で?」
え? いやだからさ、ヒミコちゃんが皆に変身してくれたら皆とイチャイチャできるんだよ。
「で?」
うん? だから中身がヒミコちゃんなら、僕は女子の皆とイチャイチャし放題だよね。
「で?」
あの、ヒミコちゃん?
「で?」
その、
「で?」
えっと、
「で?」
これ、プレゼントです。
「重清くん、ありがとうございます。かぁいい皆の血はすっごく美味しいと思います!」
う、うん。ヒミコちゃんに喜んでもらえて嬉しいな。
──ぐすん、今日もヒミコちゃんに変身してもらえなかった。でも、絶対に僕は諦めないぞ!! いつかきっと夢を叶えてみせる “Plus Ultra”!!!
──私には“力”が必要なのです。
重清くんを守るための“力”が必要なのです。
彼はとても素敵な男の子です。
クラスの女子達の彼を見る目が少しずつ変わってきているのです。
最初こそは、彼のことを少し子供っぽい男子だと考えていたみたいです。
彼があからさまに私への好意を示すのも、子供っぽいと思われた原因の一つだったみたいです。
それが少しずつ変わり始めました。
彼は決して戦闘向きの個性ではありません。
戦闘時の相棒を治そうと、身を守る防具を治そうと、それらを全て関係ないとばかりに、ただの一撃で粉砕する化物達がヒーロー科にはいます。
それら化物相手に、重清くんは無敗です。
その闘う姿はなんとなくギャグっぽいので、その化物達を含めて男子達からは単なる偶然だと思われているみたいです。
女子達は違います。
偶然では、コンクリート壁をも吹き飛ばす爆発には耐えられない。
偶然では、予兆なく建物ごと凍らせる冷気を躱せない。
偶然では、巨大ロボを粉微塵に砕く一撃を受け流せない。
目敏い女子達は、重清くんの優秀さに勘付き始めています。
そしてそれは優秀さだけではありません。
彼は優しいです。そして一緒にいて楽しいのです。
彼は一緒にいる女子を楽しませようとするのではなく、本気で一緒に楽しむのです。
自分と一緒にいて心の底から楽しそうに笑っている同じ歳の男の子。
そしてその男の子が将来有望となれば気にならない女子などいません。
今はまだ私の牽制で重清くんには近付かせていませんが、だんだんとモモちゃん辺りがにじり寄っている気配を感じます。
その神経が普通に信じられません。
教室の中でも当たり前に抱き合っている男女の間に割り込もうとしますか!?
重清くんはあんなに私にベタベタしてるんですよ!!
重清くんはベタベタし過ぎて、梅雨ちゃんに『ママに甘える幼児みたいだわ』って言われてたぐらいなんですよ!!
…………あれ、もしかして恋人関係だと思われていないのでしょうか?
仲のいい兄妹とか?
ごほん。
とにかく、私には“力”が必要なのです。
重清くんを守るための“力”が必要なのです。
敵となる女子達を蹴散らかす“女子力”が必要なのです!!
ん?
なんですか、重清くん?
この血を飲んで変身して欲しい、ですか?
……で?
変身してイチャイチャしよう、ですか?
……で?
……で?
……で?
……で?
……で?
もう、涙目になるのはズルいです。
変身はダメですが、これで我慢して下さい。
──ちゅ。