重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

30 / 35
シーズン6(動乱の幕開け)

 

──いつもの裏庭で、僕は膝枕を堪能しながらこの前の休日に起こった出来事を梅雨ちゃんに話していた。

 

カイナお姉さんに可愛い系のミニスカメイド服を家政婦さんの制服と称してさり気なく渡したら、真っ赤な顔になった彼女に拒否られたんだ。

 

だけど、そこで諦めるのは男らしくないから、僕は床に転がりながら気持ちを込めて着てくれるようにお願いしたんだ。

 

近くにいたヒミコちゃんとミルコ姉さんの二人も仕方なさそうに加勢してくれたお陰で、最終的には諦め顔になったカイナお姉さんにミニスカメイド服を着せることに成功したんだ。

 

照れてモジモジするカイナお姉さんはすっごく可愛かったよ!

 

それで、ヒミコちゃんとミルコ姉さんにもミニスカメイド服を着てもらって、三人のミニスカメイドさんと楽しくお茶してたんだ。

 

そしたらパパが帰って来て、ミニスカメイドさん達を鼻の下を伸ばして見始めたんだ。

 

もちろん、僕のミニスカメイドさん達に失礼な態度だから文句を言おうとしたら、そんなパパに気付いたママがお仕置きでジャーマンスープレックスをパパに決めてノックアウトしたんだ。

 

そして、ママは倒したパパを寝室に引き摺って行ったけど、引き摺られながらパパが助けを求める目を向けてきたから、ご愁傷様ですって言いながら両手を合わせたんだ。

 

うん、パパとはね、ママを巡るライバル関係だけど、焼き餅を焼いたママはとても怖いんだ。両手を合わせるぐらいの慈悲ならバチは当たらないと思うんだ。

 

それでお茶の続きをしてたらユウ姉が急に遊びに来たんだ。

 

部屋に入って来たユウ姉は、ミニスカメイド姿のミルコ姉さんを見つけて指差して笑いかけたと思ったら凄い速さで逃げ出したけど、それを追いかけたミルコ姉さんの方がもっと速かったから直ぐに捕まっちゃった。

 

捕まったユウ姉用のミニスカメイド服だってもちろん用意してたから、それからは四人のミニスカメイドさんに囲まれて楽しかったよ。

 

ところで、そのミニスカメイド服なんだけど、梅雨ちゃん用も当然あるから今度の休日、僕ん家で着て欲しいな。

 

「ケロ、なんだか頭が痛くなりそうな話だったけど、その点に目を瞑れば、重清ちゃんが楽しそうで良かったわ。それで今度の休日だったわね。その日なら予定が空いているから大丈夫よ。重清ちゃんの自宅だけでなら着てあげるわね」

 

この日、仲良しな僕達は世間話に花を咲かせた。

 

 

 

 

登校時、雄英高校前に多くの人達が集まっていた。

 

そして、その人達は一人の男子(?)生徒を取り囲んでいたんだ。

 

遠目から見て危険な雰囲気は感じられなかったから、僕はトコトコと近付いた。

 

「おはよう、緑谷君。この人達と何をしてるの?」

 

「あっ、おはよう。実はこの人達が僕の身体に興味があるみたいで、身体を見せてくれってしつこいんだ。知らない人達だから殴り飛ばしてもいいよね?」

 

その言葉に改めて目の前の人達をじっくりと観察する。

 

落ち着いたら雰囲気の人や、派手な雰囲気の人。気の弱そうな雰囲気の人もいる。

 

特に統一性もない女性の集団だった。

 

その中から意外にも気の弱そうな雰囲気の人が前に歩み出た。彼女は引石健磁の幼馴染だと名乗ると話し出した。

 

「ウフフ、嬉しいわ。重ちーは私達を女性だと言ってくれるのね。健磁から聞いていた通り、重ちーは優しいのね」

 

僕もマグネから――いや、健磁からお姉さん達の話は聞いているよ。

 

収監された健磁と面会したときに約束より早いけど、ついでだったから友達紹介割引の情報を受け取ったんだ。お姉さん達も随分早くから話を聞かされたんだね。あっ!?

 

「ええ、そうよ。重ちーが卒業する約二年を待てば、私達の夢は叶うわ。それまでに希望を失わないで済むように健磁は早めに教えてくれたのよ。ところで、友達紹介割引のことは知っているから口を滑らせたって感じでワタワタしないでいいわよ」

 

その言葉にホッと息を吐く。

 

顧客情報を漏らすのは、美容整形を営む予定の者として致命的だからね。

 

それで、今日はどうしたの?

 

美容整形の希望なら、口頭じゃなくてイラストとかで教えてくれた方がイメージし易くて助かるんだけど?

 

「ええ、それは承知しているわ。今はプロのイラストレーターに依頼して色々と描いてもらっているの。絶対に妥協はしたくないから、まだ卒業まで二年以上あるのは逆に有難いって皆とも話してたぐらいよ」

 

どことなく、楽しそうな雰囲気になる彼女達。

 

文化祭当日よりも準備中の方が楽しいってのと同じことだね。

 

ウンウンと納得した僕は頷いた。

 

「今日、雄英に来たのは重ちーが個性訓練の一環で、同級生を男子から女子に変身させたという噂を聞いたからよ。治癒の腕前なら重ちーが世界一なのは誰もが認める事実よ。でも、治癒と美容整形は似て非なるものだわ。だから、重ちーを疑う非礼は承知の上でどうしても自分の目で確かめたかったの。重ちー、非常識な真似をしてごめんなさいね」

 

彼女がそう言って深々と頭を下げると、後ろの女性達もそれに合わせて深々と頭を下げながら謝罪を口にした。

 

うん、事情はよく分かったよ。

 

お姉さん達の気持ちも理解できる。

 

お姉さん達にとってはとても重要なことだもんね。だから、謝罪は受け取ったから安心してね。

 

じゃあ、今は関係ないみたいだからもう行くね。

 

そう言って、僕は校門を――

 

「ちょっと待って!? 僕を置いて行かないで!」

 

――緑谷君に抱き付かれた。

 

ムニュっとした感触が背中を襲う。

 

だけど、僕はだらしなく鼻の下を伸ばしたりはしない。

 

だって、反面教師のパパを見た後だもん。

 

ここで緑谷君の立派なモモに魅了されようものなら、きっと緑谷君の彼氏候補か、彼女候補のどっちかにお仕置きされる羽目になる筈だ。

 

ここは邪な気持ちは捨てて、男らしく対峙しよう。

 

──身体を回転させて出久を真正面に捉える。右足を滑らせて出久の横に、左手は出久の腰を支えて、彼の上体を後ろに少し逸らさせる。俺は前のめりになる体勢で、出久の顎を右手でクイっと持ち上げた。

 

「出久、慌てる必要はない。ここには俺がいるからな。誰もお前を害することなど出来はしない。だから安心しろ。俺が好きな、お前の屈託のない可憐な笑顔を見せてくれ」

 

「やんぐ、重清くん…」

 

至近距離から見つめられて緊張したのだろう。そばかすの浮かぶ頬をピンク色に染めながら、その大きくて丸い瞳を驚いたように見開くと、出久は俺の名を呟くだけで動こうとはしなかった。

 

《本体、全力で飛び退く》

 

とおっ!!

 

寸前まで僕が居た場所を、爆豪君の飛び蹴りが通り抜けた。チンピラな爆豪君はたまに通り魔的に襲ってくるから困るんだ。

 

緑谷君に目を向けると、お茶子ちゃんが緑谷君の胸ぐらを掴んでガックンガックンと揺さぶっていた。

 

「デク君!? 意識を男子に戻して! 君は女の子じゃなくて男子なんだよ! 矢安宮君の毒牙に負けちゃダメだよ!」

 

「チッ、やっぱり当たらねえか。おい、矢安宮。テメエのトガが向こうでお前を探してたぜ。早く行ってやれ」

 

爆豪君の言葉に、僕は全速力で駆け出した。

 

「あぁっ!? こんな状況で置いて行かないで!」

 

緑谷君の叫び声が聞こえたけど、僕のヒミコちゃんの方が優先順位が比べものにならない程に高いんだ。だから、ごめんね。

 

僕は颯爽とヒミコちゃんの元へと向かった。

 

 

 

 

これは後に聞いた話になる。

 

緑谷君の身体を見せて欲しいと頼んできた多くのお姉さん達の前で、お茶子ちゃんが――

 

『私もまだ見てないのに見せるわけない!!』

 

――堂々と啖呵を切って喝采を浴びたそうだ。

 

 

 

 

「おい、矢安宮。少し話がある」

 

相澤先生にそう言われて進路指導室に連れ込まれる。

 

部屋に入るなりガチャリと鍵を閉められた。

 

いつも充血している相澤先生の目が、今日は一段とギンギンとギラついている。

 

そのギラついた目が、僕を捉えて離さない。

 

うん、とても身の危険を感じた。

 

僕は素早くスマホを操って、ネムリ先生にヘルプメールを送った。

 

メールを送った直後に、ダダダッと近付いてくる足音が聞こえた。

 

「重清君無事なのッ!?」

 

「ミッドナイト先生!? 急にどうされ――ゲボッ!?」

 

ドカッと扉を蹴倒して飛び込んできたネムリ先生は僕を見つけると、手前に居た相澤先生を踏み倒しながら近付いてきた。

 

「間に合ってよかったわ。このケダモノは処置しておくから安心してね」

 

僕の無事を確認すると、ネムリ先生はホッとした顔で頭を撫でてくれた。

 

ネムリ先生とは、実は雄英入学前からの付き合いなんだ。

 

雄英には推薦組として入学した僕なんだけど、推薦組といっても実は試験があったんだ。

 

その試験内容が普通に戦闘を想定したものだったから、体力に自信のなかった当時の僕はあっさりと諦めて試験を受けずに家に帰ることにしたんだ。

 

雄英は普通科でいいやって感じだったかな。

 

そんな帰宅途中の僕を慌てた様子で追いかけて来てくれたのが、ネムリ先生だったんだ。

 

〜ここから回想だよ〜

 

「君は矢安宮君よね! どうして試験を受けずに帰っているの!?」

 

その声に振り返ると、そこにはエッチな服を着た痴女なお姉さんがハァハァと息を切らせながら立っていた。

 

その怪しい姿にピンときた僕は、幼い頃からのママの教えを実行した。

 

「えっと、ちょっと待ってね。今、警察に電話してるから――あ、警察ですか。実は痴女のお姉さんに声を掛けら――スマホを取らないで!」

 

「申し訳ありません。プロヒーローのミッドナイトです。はい、少し勘違いされてしまったみたいです。はい、分かりました。以後は気をつけます。はい、それでは失礼致します」

 

「勝手に電話を切らないでよ!」

 

「もう、矢安宮君は冗談がキツいわね。警察に電話をするのはシャレにならないわよ」

 

そう言って、ウフフと笑う痴女のお姉さん。

 

よし、笑っている隙にダッシュで逃げる!

 

「はい、逃げないでね」

 

あっさりと後ろから抱き上げられた。

 

「もうダメよ、暴れないでね。これから雄英に戻ってお話をしましょう」

 

抱き上げられた僕は全力でジタバタと踠くけど、痴女なお姉さんの腕を振り解くことは出来なかった。だけど、背中の感触が気持ち良かったから悔しくはない。

 

「あら、大人しくなったわね。矢安宮君、大丈夫かしら。どこか痛かったりする?」

 

痴女なお姉さんの心配気な声が聞こえた。

 

その優しい雰囲気につい絆されそうになるけど、僕はそんな安い男じゃない。だって、中学生になった辺りからツンデレ気味だったヒミコちゃんだけど、最近になってやっとツンが取れたんだ。

 

ツンがあった頃は寂しかった。例えば、抱きついたら赤い顔になってパッと離れるし、大好きだよって言っても、『こんなところで言わないで下さい!』って怒鳴られたんだ。

 

最近はそんなことも無くなって、すごく優しく接してくれるんだ。幼い頃のヒミコちゃんがそうだったんだけど、『距離感ゼロなのです!』って感じだよ。

 

そんな優しい雰囲気どころか、本当にすっごく優しい僕のヒミコちゃんがいるんだ。たとえボンキュッボンな痴女のお姉さんだろうと、僕はデレたりしないよ。背中の幸せな感触だって……後で血を貰っておこう。えへへ、ヒミコちゃんに変身してもらったら、いつでも幸せを感じられるぞ!

 

「もう、矢安宮君。君は年頃の男の子だからある程度は仕方ないけど、そこまでだらしない顔を女の子に見せたらダメよ。男の子は格好つけるのも必要なのよ」

 

それは大丈夫だよ。僕のヒミコちゃんは、どんなときでも格好良いって言ってくれるからね!

 

「そう、仲の良いガールフレンドがいるのね。ところで、その娘は矢安宮君が他の女の子と仲良くしていたらどういう反応をするのかしら?」

 

ん?

 

別に変わった反応はしないよ。

 

ヒミコちゃんはサッパリ系の女の子だからね。

 

いつでも、ちょっぴり邪悪風味な笑顔で見守ってくれてるよ。ほら、写真があるから見せて上げるね。

 

「ちょっぴりかどうかは主観によるからノーコメントだけど、随分と迫力のある笑顔ね。それに――ねえ、これはどんな状況で撮影したのかしら?」

 

これは知り合いのピクシーボブが抱っこしてくれた時のやつだね。

 

「ピクシーボブ? あぁ、プッシーキャッツと知り合いなのね。そう、ピクシーボブに抱っこされた時に撮影したのね。その時、ピクシーボブは何か言ってなかった?」

 

えーと、たしか『ヒィッ!? お、落ち着いて……し、重清君は、婚活対象じゃない……からね』とか、よく分からない事を言ってたよ。

 

「ビックリするぐらいに予想通りね。それにあのピクシーボブがそんな反応をするのなら、その娘は写真から受けるプレッシャー以上にヤバそうだわ。ふふ、それにしても重清君は懐が広いのね。随分と重そうな彼女なのにまるで気にする様子がないわ」

 

ヒミコちゃんが重い?

 

──拘束する腕から抵抗なくスルリと抜ける。呆気に取られる彼女の身体がフワリと浮かんだ。綿菓子の様なそれを両腕で受け止めた。

 

「女の子は不思議な生き物だ。どんなに強そうに見えても一歩踏み込めば、そこにいるのは壊れやすいガラス細工のお姫様だけだ。名も知らない可憐な姫よ。どうか自分を大切にして欲しい。そして、その誇り高い魂を汚す言葉を口にするな」

 

キョトンとした顔で腕の中に収まっていた彼女だったが現状に気付いたのだろう。恥ずかしそうに腕の中で身を捩るが、無理には離れようとはしなかった。

 

暫くすると落ち着いたのだろう。彼女は素直な言葉を口にしてくれた。

 

「──ごめんなさい。貴方に、そしてヒミコさんに失礼なことを言ってしまったわ。教師として、そして女としても恥ずべきことだわ」

 

──僕は、彼女の謝罪を受け入れた。

 

⭐︎

 

雄英高校に連れ戻された後、僕は試験を受けずに帰った理由を話した。

 

「――事情は理解したわ。重清君は体育会系な試験内容にこれは無理だと考えて帰ってしまったわけね。随分と判断が早いとは思うけど、これは雄英側の落ち度ね。実はね、貴方は以前から注目されていたの。ただでさえ希少な治癒系個性なのに、その強さもリカバリーガールに匹敵すると評判だったのよ。そしてその後継者として期待されているわ。この試験も形だけのもので合格は特例で確定しているの。実は貴方の中学にスカウトに行く話があったのよ。だけどその前に貴方が雄英受験を希望したという情報が届いた。だから事前の接触は中止されたわ。その理由は過剰な特別扱いは貴方の教育に悪いと判断されたからよ。ほら、雄英を受験する子供は幼い頃から優秀な所為で、周りからチヤホヤされて自信過剰になっている傾向が強いのよ。貴方みたいな『彼女が雄英を受験するからヒーローに興味は全く無いけど一緒に受験する』なんて話は初めて聞いたわ。ふふ、それが悪いと言っている訳じゃないのよ。私個人としてはとても素敵な話だと思うわ。それに日本一のヒーロー養成校と呼ばれている雄英に乞われた子がヒーローに興味が全くないなんて実に痛快だわ。このヒーロー飽和時代に重清君みたいな子は貴重なのよ。ヒーロー志望の子供達はどうしても考え方が画一的なものになってしまう。ヒーローのテンプレートというものがインプットされてしまっているのね。もちろん、それが悪いとは言わないわ。理想のヒーロー像とはあって然るべきものだわ。でも、それだけだと詰まらないわね。ヒーローというのはもっと自由であるべきだと思うの。ヒーローの言動を規制するなんて有り得ないし、そのヒーローコスチュームは魂の表現なのよ! それを法律で縛ろうだなんて国は何を考えているのかしら!? そもそも私は――」

 

──とても話が長かったから途中で寝ちゃった。

 

 

〜回想終わりだよ〜

 

 

兎に角、ネムリ先生にはそれ以来なにかと目を掛けてもらっている。

 

「それじゃあ、このケダモノはきちんと去勢を――したらMs.ジョークに悪いわね。そうだわ、貞操帯を着けましょう。早速、校長に備品要求をしてくるわね」

 

「ま、待って下さい。俺は矢安宮に黒霧を――俺の親友の白雲を取り戻してくれた礼を言おうとしただけです」

 

ネムリ先生が相澤先生を引き摺って校長室に向かおうとしたとき、相澤先生が目を覚まして待ったをかけた。

 

「ッ!? そう、事情はよく分からないけど、相澤君が彼の名前を出すのなら本当のことなのね。――でもこの場は引きなさい。お礼を言いたいという相澤君の気持ちは分かるけど、その為には事情を説明する必要があるのでしょう。それはその事情に重清君を巻き込むという事よ。これは憶測ではあるけど、その事情というのはまだ学生の彼には荷が重いわ。相澤君なら分かってくれるわね」

 

「――はい、ミッドナイト先生の仰る通りです。どうやら俺は冷静じゃなかったみたいです。矢安宮、すまなかった。今日のことは忘れてくれ」

 

うん、わかった。

 

僕は進路指導室を後にした。

 

「おい待たんかッ!! あっさりし過ぎだろうがッ!! どう考えてもオール・フォー・ワン絡みの事情だと察せるのだからもっと興味を持てッ!! それでもヒーローのつもりかッ!!」

 

「相澤君!? 急にキレないでよ。物分かりが良くていいじゃない」

 

「そもそもミッドナイト先生達が、アイツを甘やかすからヒーローとしての自覚が育たないんですよ!! それを分かっているんですか!!」

 

「えぇっ!? こっちに飛び火するの!?」

 

なんだか騒がしかったけど、興味がなかったからスルーした。

 

 

 

 

メリッサからハッキングに特化したパソコンを貰った。

 

「ほら、この前の遠隔操作の爆弾事件がもう起こらないとは限らないでしょう? 取れる手段は多ければ多いほどいいわ。ところで、重清君はPC操作は苦手だったわよね。だから、私が教えて――」

 

ううん、超得意だよ!

 

 

 

 

「ふふ、それで私のところにPC操作を習いにきたのね。女の子には無駄な見栄を張るのが重ちーらしいわ」

 

ううん、超得意だよ。

 

I・アイランドでのテロ事件では、僕の華麗なPC操作でテロリストに止めを刺したからね。

 

メリッサもその場に居て知っている筈なのに凄く心配してたんだ。どうしてかな?

 

「あら、それならどうして私のところに来たの?」

 

マナミお姉さんが不思議そうに尋ねた。

 

うん、それがね。このPCとは相性が悪いみたいで上手く動かないんだ。

 

PC自体には問題がないみたいだから、日本のネット環境との問題だと思うんだ。

 

マナミお姉さんは日本のネットに詳しいよね。だから相談に来たんだ。

 

「なるほど、そうだったのね。それなら任せてちょうだい。ふふ、それにしてもあの天才科学者の一人娘が作ったPCを操作できる日が来るとは思ってもいなかったわ。今日は私を頼ってくれて嬉しいわ。全力でその期待に応えてみせるわね」

 

マナミお姉さんは腕捲りをすると、目にも止まらない指捌きでキーボードを叩き出した。

 

ウムム、僕に勝るとも劣らない指捌きだ。

 

うん、僕が見込んだだけあるよね!

 

後はマナミお姉さんに任せて、僕はマナミお姉さんの部屋に置いてあるソファにゴロンと横になって寛ぐ事にした。

 

僕はテレビのスイッチを入れる。

 

ピッピッピッとチャンネルを変えていく。

 

特に面白そうな番組はやってないみたいだ。

 

突然、ガガガッとテレビ画面が乱れる。

 

あれ? と思うと、パッと画面が変わった。

 

テレビ画面にはソファに座る一人の男が映っていた。

 

『──突然、すいません。今日は真実を話したいと思います。私は元々はソロ活動をしていたヴィランでした。その頃から数々の――』

 

──脳裏に稲妻が走った。

 

彼は弔さんの配下のツギハギマンだ!

 

ツギハギマンが真実を話すだって!?

 

僕にはその内容に心当たりがあった。

 

それはおっきなおっちゃんの未払い給与のことだ。

 

実は弔さんが支払ってくれた未払い給与は、僕らで事前に算出した金額よりも多かったんだ。

 

確かにあの時、弔さんは多い分は利子としてくれると言ってくれたけど、ヒーローとしてそれを受け取ったことは褒められた事じゃない。

 

それを暴露されたら、僕の誠実で男らしいイメージが台無しだよ!

 

弔さんは何をやってんの!?

 

部下の手綱ぐらいちゃんと握っててよ。

 

きっとこれは仲間割れだ。弔さんは人望が無さそうだったもん。裏切られて当然だよ。

 

多分、弔さんの面子を潰してその発言力を落とす事を目的にしてるんだと思う。

 

現に僕の弔さんへの最低限の信用は地に落ちたよ。

 

クッ、これからどうしたらいいんだ!

 

イメージ低下を防ぐために、ヒミコちゃんに格好いい所を見せに行けば良いのかな?

 

いや待て! ここは冷静さを失っちゃダメだ。

 

どうにかしてこの放送を止めるんだ。

 

ハーヴェストはこの放送を止められる?

 

《全国の放送設備をハッキングされています。射程距離外の放送設備の破壊は不可能です》

 

クッ、こんな事なら全国行脚して国内全ての重要設備で働く人にハーヴェストを付けておけばよかった。

 

《それには数が足りません》

 

正論は聞きたくないよ!

 

うぅ、どうしよう。放送設備をハッキングするなんて卑怯過ぎる……よ?

 

そうだッ、ハッキングだ!!

 

マナミお姉さん!!

 

ハッキングをしているヴィランがいるんだ! このままだと世の中が混乱しちゃうよ! そのPCを使ってハッキング仕返すことは出来るかな!

 

「ええ、可能よ。というか、もうやっているわ。だって、重ちーってば、色々と口に出しちゃってるんだもの。私は聞かなかった事にするけど、他所では気をつけなきゃダメよ。それじゃあ、適当な動画データと差し替えるわね」

 

やった!

 

流石はマナミお姉さんだ!

 

テレビからガガガッと音が聞こえた。

 

ハッとして視線を向けると、そこには路上で裸踊りをする羽根のおっちゃんの姿が映っていた。

 

うん、街の監視カメラから動画データを貰ってきたんだね。

 

ちなみにモザイクは掛かっていた。

 

 

 

 

今日も無事に一日が終わった。

 

ガチャリと開錠された扉を開けて部屋に入ると、いつもの様に梅雨ちゃんをヨイショと持ち上げてそっと優しく床に置いた。

 

そして、膝の上に飛び込む。

 

ハァ、今日は疲れた。

 

部下の手綱も握れない弔さんはだらしないと思う。

 

幸いにもツギハギマンの前置きが長かったお陰で、未払い給与については放送されなかった。

 

ツギハギマンがヴィラン連合に加入した辺りの話をしてた時に、羽根のおっちゃんの裸踊りに変わったんだ。

 

柔らかい枕に顔を埋めて、フゥと息を吐く。何となく身体が重い気がした。

 

たぶん、ストレス過多な日々に疲れが溜まってるんだと思う。

 

よし、次の連休にはみんなを誘って旅行に行こう。

 

気分転換は大切だからね。

 

梅雨ちゃんもそう思うよね。

 

「ええ、そうね。鍵をした自室に当たり前の顔をして入り込む誰かさんのお陰で、プライベートを侵害されるストレスを毎日味わっているもの。重清ちゃんの言うストレス過多な日々の意味がよく分かるわ」

 

うん、大丈夫だよ。

 

僕の部屋にも入り込んでいいからね。それでお互い様だからストレスは相殺されるよ。

 

「ハァ、まあいいわ。本当に一人になりたい時は不思議と重清ちゃんは来ないものね。それで最低限のプライベートは守られている――そういう事にして上げるわね。だってこれ以上、深く考えると、乙女として重清ちゃんに責任を問う必要が出てきそうだもの。念の為に言っておくけど、他の女の子にはしちゃダメよ」

 

うん、大丈夫だよ。

 

僕はこう見えて紳士だからね。女の子のプライベートは大切にするよ。

 

「それはどの口が言っているのかしら? もう、本当に仕方のない重清ちゃんね。でも、こうして部屋に来てくれるのは嬉しいわ。いつでもとは言えないけど、今まで通り気兼ねなく部屋を訪れてね。私の重清ちゃん」

 

梅雨ちゃんに頭を優しく撫でられながら、僕は眠りについた――振りをして色々と触っていたら全身をくすぐられた。

 

 

 

 

──登校時、空から女子(?)生徒がフワリと舞い降りる。

 

「おはよう、重清くん! 今日も一緒に頑張ろうね!」

 

トンっと軽い足音を立ててその娘は──緑谷君は地上に降り立った。

 

彼女はニコッと笑うと、その場でクルリと一回転してみせた。

 

キュロットタイプのスカートがフワッと舞い上がる。朝の光を浴びたその姿はまるで天使のように輝いて見えた。

 

「えへへ、この間のお姉さん達に、僕にきっと似合うからって勧められたんだ。重清くんから見てどうかな。変じゃないかな?」

 

軽い感じで聞いているけど、きっと初めての体験に緊張してるんだと思う。

 

彼女の頬はピンク色に染まり、その瞳はまるで泣き出す直前のように潤んでいた。

 

ふと悪戯心が芽生えて、その可愛らしい頬に触れてみた。

 

急に触れたからなのか、彼女の口から『ぴぃっ!?』と意味不明な悲鳴が飛び出た。

 

その可愛らしい悲鳴につい笑ってしまう。

 

「もう、笑うなんてひどいよ。重清くんが驚かした所為なんだからね!」

 

機嫌を損ねた彼女にポカポカと叩かれてしまった。

 

ごめんごめんと謝るけど、彼女は簡単には許してくれなかった。

 

「当然だよ。重清くんの謝罪には全く誠意がないもん。絶対に悪いと思ってないよね!」

 

ぷくっと頬を膨らませた緑谷君に睨まれてしまう。

 

うーん、困ったな。

 

あの膨らんだ頬っぺたを突きたい。だけど、確実に今より怒らせてしまうだろう。

 

僕は一体どうしたらいいのだろうか?

 

「もうっ、本気で悪いと思ってない! このエッチ! スケベ! 浮気者!」

 

本格的に怒らせてしまったみたいだ。

 

プンプンと怒気を撒き散らしながら、緑谷君は僕の服を掴むと『このっ、このっ』と言いながら体当たりをしてきた。

 

ポヨンポヨンと衝撃を受けた身体が歓喜に震えた。

 

その気持ちの良い攻撃に頬が緩み。そして、ゾクリと身体が震えた。

 

《本体、自業自得です》

 

「ガンヘッド・マーシャル・アーツ、空気投げ!!」

 

ブワッと空中へと投げられた。

 

その勢いを利用して、僕は空を駆けて体勢を整える。

 

緑谷君の胸ぐらを掴んでいるお茶子ちゃんの姿が目に入った。なんだかデジャヴ。

 

「デクくんッ、この間の人達から影響を受け過ぎだよ! 今ならまだ間に合うから男の子の意識を強く持って! ほらっ、パフパフして上げるから!」

 

「ちょ、ちょっと待って!? 少し落ち着い、ウプッ!?」

 

お茶子ちゃん達の状況がとても気になるけど、今はこの場から逃げるべきだと本能が囁いていた。

 

うん、一緒に登校してたヒミコちゃんの存在は全く関係ないけど、本能の声には従うべきだろう。

 

チラリと視線を向けると、ちょっぴり邪悪風味な笑顔を浮かべて見守ってくれている素敵な女の子の姿が見えた。

 

視線が合った。ブルリと身体が震えた。

 

うん、今はほとぼりを冷ますべきだ。

 

──僕はスタコラサッサと逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──前代未聞の事件が起こりました。

全国の放送局がハッキングされたのです。

ハッキングした荼毘と名乗るヴィランは、己のヴィラン人生を滔々と語りました。

その締めくくりにナンバーツーヒーロー、ホークスの裸踊りの動画を流したのです。

その瞬間、視聴者達は納得しました。

それはここ最近の話でした。

若くて人気があり、今まで悪い話を聞かなかったホークスが急に酒乱となって、昼夜関係なしに泥酔して狂ったように裸踊りに興じるという奇行に走りました。

酔いが醒めると本人は『酒なんて飲んでいない! これは誰かの陰謀だ!』と言い張りましたが、そんな戯言を信じる者は少なく、彼の人気は急下降しました。

けれど、彼の言葉は真実だったのです。

ホークスの狂乱は、荼毘というヴィランの手によって引き起こされていたのです。

善良な一般市民は戦慄しました。

実力派のホークスが、何も抵抗出来ずに裸踊りをさせられたのです。

無力な一般市民では、それこそどれほどの変態的行為を強制させられるか分かりません。

こうして、荼毘は危険度No. 1の凶悪ヴィランとして一般市民に認識されました。

そしていつしか人々は、荼毘を“狂乱の魔王”と称するようになり、オール・フォー・ワンなど比較にならない程に恐れられています。

新たな魔王の誕生にプロヒーロー達も危機感を募らせました。

特に女性ヒーロー達は、危険過ぎる荼毘を仕留めようと血なまこになって探しています。

荼毘を早く捕まえろと、各地で女性達のデモまで起こっています。

公安委員会も荼毘に関しては、デッドオアアライブでの捕縛指令を出しました。

はい、公安委員長も女性なのです。

たぶん、公安委員会のデッドオアアライブ指令が外部に漏れても誰からも問題視はされないと思います。

何しろ荼毘を擁護すれば、日本中のあらゆる女性団体を敵に回します。

荼毘の名は、今では日本で知らない者がいない程に高まりました。

間違いなく、その名は歴史に記される事になるでしょう。

つまり、荼毘を倒した者もまた歴史に名を残すと思われます。

プロヒーロー、ヴィランを問わず、歴史に名を残したいと渇望する自己顕示欲の強い傍迷惑な強者達が荼毘を狙って活動を始めました。

ここに、未曾有の動乱が──荼毘争奪戦が勃発したのです。

とは言っても、そんな些細なことはどうでもいいのです。

それよりも、訪ねてきたグレートジャイアントとずっと睨めっこをしながらウンウン言っている、私の重清くんが気になるのです。

「うーん。やっぱり、ヒーローがヴィランから利子を取ったと言われたらイメージが悪くなると思うんだ」

「だが、今さら返すのは業腹だぞ」

「うん、そうなんだよね。返すのは簡単だけど、それだと負けた気分になるから絶対に嫌だ。これが女の子にならいくらでも勝ちを譲るけどね」

「うむ。フェミニストと言うやつだな。よく分かるぞ。プッシーキャッツは女所帯だからな。男は片隅で大人しくしているのが一番だ」

「そうだ! 利子を取ったって言い方をするから感じが悪いんだよ! ここは長年に渡る搾取に対する精神的慰謝料って名目にすれば良いんだ!」

「おおっ!? 精神的慰謝料は聞いた事があるぞ! それならこちらの方に同情が集まる気がするぞ!」

「うんうん、そうだよね! これでツギハギマンのリークも怖くないよ!」

「うむ、そうだな! それにしてもブラック経営者の末路とは哀れなものだな。配下に裏切られ貶められる最期とは、正に因果応報の言葉通りだ」

「やっぱり、僕らみたいに品行方正なのが一番だよ」

「うむ、重清の言う通りだ。人は正しき道を歩むのが一番だ」

ふふ、よかったのです。

事情は全く分かりませんが、一件落着したみたいですね。

では、二人が落ち着いたのでお茶でも淹れてゆっくりとお喋りでも楽しむとするのです。

私の重清くん、お茶請けは何にしますか?






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。