重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン7(米国のナンバーワンヒーロー)

 

──朝のホームルームで相澤先生が、最近の情勢について注意を促した。

 

「――というわけで、武闘派のプロヒーローとヴィラン共が魔王討伐に躍起になっている。その諍いも徐々に規模を拡大している。お前らはくれぐれも巻き込まれないように注意しろ。それと魔王討伐に参加しようなどとは思うな。狂乱の魔王の個性は未知数だ。間違いなく複数個性持ちだが、その内実は全く明らかにされていない。お前らのような半人前ではホークスの二の舞になるだけだと肝に銘じておけ」

 

相澤先生の言葉に同級生達は真剣な表情で頷いた。それはチンピラな爆豪君でも同じだった。

 

「あれ、いつもみたいに喚かないんだ。『俺様なら魔王如きぶっ殺せるぜ!』とか頭の悪いセリフを言うと思ったのに、少しは成長したってことなのかな?」

 

素直に頷く爆豪君に疑問を感じた僕は、爆豪君専門家の緑谷君に何となく聞いてみた。

 

「えっと、成長したかは分かんないけど、かっちゃんでも裸踊りを公衆の面前でさせられるリスクは取りたくないんだと思うよ。僕だって絶対に裸を見られたくないもん。今はお風呂だって一人で入っているんだよ。なのに峰田君はお風呂に一緒に入ろうぜって、しょっちゅう誘ってくるから困っちゃうんだ」

 

「クソ葡萄ッ!! テメエッ、ブッ殺すぞ!!」

 

「緑谷ッ!? それは内緒だって言っただろ!!」

 

緑谷君の衝撃発言に爆豪君がいつもの様に激昂して峰田君に襲いかかった。慌てて逃げ出す峰田君だけどいつもの事だから同級生達は視線すら向けない。相澤先生ですら知らん顔で、次の話を淡々と語っていた。

 

「あ、ごめんね。つい口が滑っちゃった」

 

両手を合わせてペコリと頭を下げる緑谷君だけど、テヘッと笑っている辺り確信犯だろう。

 

うんうん、セクハラはダメだからね。峰田君には容赦はいらないよ。

 

「そうだ。話が変わるけど、今度、かっちゃんと食事に行く約束をしてるんだけど、何処か個室のある雰囲気の良いレストランを知らないかな? 重清くんならトガさんとかとデートで行ってるから詳しいよね」

 

「トガさん“とか”って含みを持たせた言い方はしないでね。僕はヒミコちゃん一筋だよ」

 

緑谷君の危険な発言には抗議をしておく。チラリとヒミコちゃんを見ると、彼女は隣の席のモモちゃんと、僕も一緒に受ける週末の免許試験の話をしていた。

注意:入学当初にモモちゃんに強制された各種免許取得のやつだよ。ちゃんと続けていたんだ。

 

よし、僕らの話には興味はないみたいだ。

 

「お勧めのレストランを教えるのはいいけど、何かリクエストはないの? 例えば、日本食とか中華、イタリアンとかのさ」

 

「えっと、そういうのよく分かんないんだ。だから、重清くんが美味しいと思ったとこでいいよ」

 

うーん。そういうのは個人の好み次第だから難しいな。

 

そうやって、ウンウンと困っていたらお茶子ちゃんがコッソリと話しかけてきた。

 

「デク君、デク君。そういう聞き方だと矢安宮君が困っちゃうよ。もっと具体的に聞かなきゃダメだよ」

 

お茶子ちゃんの言葉に、緑谷君は困ったように眉を寄せる。

 

「そう言われても行った事ないんだもん。よく分かんないよ」

 

「そっかー。そう言われちゃうとそうだよね。うーん、それならどうしよっか…」

 

困り顔の緑谷君に、お茶子ちゃんも考え込む。腕を組んで難しい顔をして悩むお茶子ちゃんの姿はなんとも可愛らしくて、僕は緑谷君と顔を見合わせると微笑みあった。

 

そして、暫く考えていたお茶子ちゃんはナイスアイデアが浮かんだと言わんばかりに顔を輝かして言った。

 

「そうだ! 爆豪君と行く前に私と行こっか! 私もそういうお店に行ったことがないから一度行ってみたかったんだ。デク君と二人なら安心だし、きっと楽しいと思う!」

 

「いいの、麗日さん? そういうとこって結構高いと思うけど」

 

心配顔になる緑谷君に、お茶子ちゃんは笑みを浮かべて嬉しげに言った。

 

「えへへ、実はインターンでミルコヒーロー事務所にお世話になってるんだ。そのまま就職の内定も貰ったから心配しなくて大丈夫だよ」

 

「そうなんだ! ミルコヒーロー事務所はヒーロー事務所の中でも稼いでるとこだから将来も安泰だね!」

 

「うん、ありがとう! ミルコさんとこで頑張って、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ!」

 

お茶子ちゃんの実家の事情を知る緑谷君は、彼女のミルコヒーロー事務所への就職を我が事のように喜ぶ。

 

お茶子ちゃんは照れくさそうにしながらお礼を言っていた。

 

うんうん、二人とも良い子だね。

 

そして、僕は二人にお勧めの雰囲気の良いレストランを何店か教えた。

 

 

 

 

「恋する乙女って腹黒いよね。最初は爆豪との食事の邪魔をするのかなって思って聞いてたけど、最後にはちゃっかり自分が食事に行くことになってるんだもん。ビックリしたよー」

 

「もう、腹黒いなんて言ったら可哀想だよ。恋する乙女は一生懸命なんだよ。そこは計算高いと言って上げなきゃね」

 

「ケロ――響香ちゃん。それは言い直す意味があるのかしら?」

 

「恋は戦争だもん! なりふり構っていられないよ! うん、私も頑張る!」

 

「透ちゃんは服を脱ごうとしないで。(多分だけど、重清ちゃんには見えてるのよね?)」

 

「うん、教室ではやめておくね。(えへへ、内緒だよ)」

 

「ねえ、矢安宮。ウチもレストランに行きたいな。男の子と二人っきりで行ったことないから緊張するけど、ウチの初めては矢安宮が良い。ううん、矢安宮じゃないと嫌だ。ウチは一生、矢安宮一人だけだから。だから──いくときは、ウチと一緒にいこう」

 

「ねーねー、耳郎は普段はクールでボーイッシュを気取ってるけどアタシ達の中で一番エロいよね。矢安宮に触れる手つきも何だかヤラシイし、やっぱり欲求不満なのかなー?」

 

「もうそんなこと言っちゃダメだよ。ただの耳年増なモテない女の子なんだから、少しぐらい重清くんにエッチなスキンシップをしても大目に見て上げよう」

 

「へー、耳年増なのはヤオモモみたいだね。でも、ヤオモモは口では誘惑するけど、実際には何も出来ないヘタレお嬢様だから安全だよねー!」

 

「だけど、妄想力は強い脳内桃色お嬢様だからおっぱいからお乳が出るかもだよ。きっと、妄想の中ではとっくに子沢山になってると思うんだ」

 

「ヤオモモが思い込んだらホントに出ちゃうよ。きっと、おっぱいの先っちょから無意識に創造しちゃうんだ!」

 

「良かったね、ヤオモモ! これで将来は未婚でも乳母になれるよ。将来、母乳の出が悪くて困ったらお願いするからそのときはよろしくね!」

 

「あっ、アタシもお願いするねー!」

 

「それならウチも乳母の予約していいかな。それと、葉隠と芦戸は後で校舎裏に来い」

 

「ケロ――私も予約しておくわ」

 

「モモちゃん! 私も予約するのです!」

 

「えっと、僕も予約した方がいいのかな? かっちゃんと麗日さんはどう思う?」

 

「あぁっ!? ンなもん……一応、頼んでおけばいいんじゃねえか。粉ミルクと比べたら、たとえエセお嬢様の母乳でもそっちの方がマシだろ」

 

「うん、デク君。ふざけ過ぎた人達へのお説教は後でするけど、ここは逃げよっか。相澤先生ですら一目散に逃げ出したからね」

 

「オーホホホホホッ――この私をここまで怒らせたお馬鹿さん達は初めてですわ。もちろん、覚悟は出来ているのでしょうね。機動兵器遠隔起動ON、ターゲットは一年A組のお馬鹿さん達です。さあっ、ファイヤーですわ!!」

 

──その日、教室は半壊した。

 

 

 

 

日本の治安は日々、悪化している。

 

特に狂乱の魔王が潜伏していると目される地域では、全国から集まるプロヒーローとヴィラン達による騒動が絶えない。

 

僕の地元なんかは週末以外は平和だけど、徐々に悪化する治安に日本全体に暗い空気が広がっていた。

 

うーん。なんだか嫌だな。

 

商売繁盛のネタが多いのは良いんだけど、多過ぎると空気が澱んじゃうよ。

 

《本体、守備範囲を拡大する?》

 

うん、そうだね。

 

暫くは平和な地域を広げよう。

 

ハーヴェストの射程距離内のヴィランと粗暴なプロヒーローは全員泥酔させちゃってね。

 

《了解です。悪質過ぎるのは裸踊りもさせとく》

 

うん、反省を促すのに丁度いいね。

 

そうだ!

 

適当に電車とかの乗客に付いていって遠方のヴィラン達にも対処しといてよ。

 

《了解です。飛行機にも乗っていく》

 

うんうん、その辺りは臨機応変にお願いね。

 

ふぅ、これで少しは治安が回復してくれたらいいな。

 

──プロヒーローの見本みたいな正義感に溢れた品行方正なナイスガイはそう思った。

 

 

 

 

──アメリカ合衆国からスターが来日した。定期的に行われている日米のナンバーワンヒーロー同士の対談番組に出演する為だ。

 

「hey 重清! 久しぶりだが元気そうで安心したぞ。おぉっ、前よりも重くなったな!」

 

今日は雄英高校にハイパームキムキなおっちゃんと事前の打ち合わせに来たらしい。

 

校長室に入る途中のスターを偶然見かけたからそのまま付いて入ってみたんだ。

 

「HAHAHA!! 重清少年はスターにも遠慮なく登るんだね。ほら、相手はアメリカ合衆国のナンバーワンヒーローだよ。失礼だから降りようね」

 

ハイパームキムキなおっちゃんは、そのぶっとい腕を伸ばしてスターの肩に登った僕を捕まえようとする。

 

「マスター、気を使わないでくれ。重清は私にとって子供のようなものさ。このように親しく戯れられて逆に嬉しいぐらいだ」

 

フレンドリーなスターが、そんなハイパームキムキなおっちゃんから庇ってくれる。

 

うんうん、やっぱり世界ナンバーワンの淑女は心も広いよね。ハイパームキムキなおっちゃんも見習ってね。

 

「ハイハイ、分かったから降りようね。スターもあまり甘やかさないでね。彼の教育に悪いからね」

 

ハイパームキムキなおっちゃんに捕まって降ろされてしまった。

 

ウヌヌ、仕方ない。今は素直に諦めよう。

 

さてと、それじゃあ、気になったことをスターに聞いてみよう。

 

「ねえ、スター。日本のナンバーワンヒーローは、ハイパームキムキなおっちゃんから燃えてるおっちゃんに――ううん、何でもない」

 

スターからの途轍もない無言の圧力に僕は口を閉ざした。

 

フッ、君子危うきに近寄らずだよ。

 

「そういえば、日本に新たな魔王が生まれたそうだな。なんだったら来日したついでだ。私が始末をしようか?」

 

空気を変えるようにスターが狂乱の魔王の話題を口にした。

 

「スター、そんな気遣いはしなくて大丈夫さ。日本のことは私が対処する。狂乱の魔王とて情報以上の力を持っていようと倒す自信はあるさ。ただ、魔王が見つからないんだよね」

 

ハイパームキムキなおっちゃんはそう言うと、大きな肩をすくめた。

 

そう、狂乱の魔王が見つからない。

 

モヤモヤ人間はもう捕らえたからワープで逃げることは出来なくなったけど、そもそもが見つからないんだ。

 

「僕は個性の応用で半径数十キロを捜索出来るんだけど、それ以上に離れてるみたいで見つからないんだ」

 

「ほう、治癒の応用で捜索が出来るのか。重清の個性は随分と便利なんだな。フフ、こういうのをブーメランと言うのかな。私の新秩序(ニューオーダー)こそ便利すぎる個性だからな」

 

ふーん。スターの個性の新秩序(ニューオーダー)ってのは便利な個性なんだ。

 

うーん。新秩序(ニューオーダー)はどっかで聞いた気もするけど、まあいいや。アメリカのプロヒーローのスターと組んでヒーロー活動をする機会はないだろうから覚えても仕方ないもんね。

 

「アハハハハ! そんなことを言われたのは初めてだぞ! 重清、そうつれないこと言わないでくれ。私の新秩序(ニューオーダー)は本当に便利なんだぜ。そうだな、一時的だが、重清の個性を強化してみようか?」

 

クレイジー・ダイヤモンドを強化できるの? マナミお姉さんみたいな個性だね。

 

「ウムム、似た個性を知っているのか。それだとつまらないな。そうだな、それなら重清の身体能力を強化しよう。オールマイト程は無理だが、超人と言えるほどに強化できるぜ」

 

へえ、今も筋トレは続けているけど、将来の姿を確認してみてもいいかな?

 

そう考えていると、校長室の扉がノックされた。ハイパームキムキなおっちゃんが返事をすると、陰気そうな顔をした相澤先生が入ってきていきなり土下座した。

 

「突然申し訳ありません。偶然ですが扉越しに会話を聞いてしまいました。スターアンドストライプ殿が矢安宮君を強化されるのでしたら、是非とも彼の精神を強化しては貰えないでしょうか。教師でありながら恥ずかしいことですが、今の私には矢安宮君の軟弱な精神をプロヒーローに相応しい強靭な精神に鍛え上げれた未来が見えていません。そこで何卒強化をお願いします。この未熟な教師に未来に希望はあるのだと、どうか示して下さい!」

 

額を床に叩きつけながら土下座する相澤先生の姿に、豪胆なスターが思いっきり引いていた。

 

アメリカ合衆国ナンバーワンヒーローをここまで引かせられるだなんて一種の快挙じゃないかな。

 

黄金の精神を持つ僕に対してとても失礼なことを言っていた気がするけど、ここは大目に見てあげようと思う。

 

じゃあ、これで僕は失礼するね。

 

僕は颯爽と校長室を後に――スターに両肩を抑えられて止められた。ウググ、ビクとも動かないんだけど。

 

ちょっと待って! 精神強化はなんだか怖いからイヤだよ!

 

「まあ落ち着け。突然の土下座には正直言って引いたが、一人の男がここまで覚悟を見せたんだ。私はその願いを叶えてやりたい。それに――何をすればここまで教師を追い込めるんだ? マスター、重清は良い子で優秀な生徒だと聞いていたが違うのか?」

 

「HAHAHA、もちろん重清少年は優秀な良い子だよ。雄英教師の殆どは肯定するはずさ。ただね、ほんの少しクセが強いからね。考え方が合わない一部の教師もいるってだけだよ。そこの相澤先生みたいにね」

 

ハイパームキムキなおっちゃんが相澤先生を示しながら言った。その相澤先生はピクリとも反応せずに真摯に土下座を続けていた。

 

「そうか。人の考え方とは様々だからな。共感する者がいれば、反発する者もいる。それは仕方のないことだ。私個人としては重清の共感者だが、教師として真摯な彼の望みも理解できる。だからこうしよう」

 

スターはニッコリと邪気のない笑みを浮かべた。

 

「重清は黄金の精神の持ち主だと言っていたな。その本質は推察するしかないが、私が思うに黄金の精神の体現者はプロヒーローとして考えてもそれに相応しい者だろう。だから、私はこう言おう。【矢安宮重清は、黄金の精神の体現者だ】」

 

なるほど。僕は元々黄金の精神を持っているからね。これなら何も変わら――

 

アババッ!?

 

――スターから目が眩むほどの黄金の光が、ギュゴゴゴゴゴッと轟音を立てながら流れ込んできた。

 

僕の内側に流れ込む黄金の光は決して相容れないものじゃない。その本質は僕と同じものだと自然と理解できた。

 

だけど、その密度が段違いだった。

 

例えるなら、僕の黄金の精神が庶民に優しい金箔のウサギ像だとすると、この黄金の光は庶民が憧れる純金のウサギ像だ。

 

や、ヤバい予感がする。

 

このままこれを受け入れたら、僕はもう梅雨ちゃんの膝枕で甘えたり、ヒミコちゃんを1日24時間365日体制で見守ることすら出来ない腰抜けの男に成り下がる気がする。

 

ぬぉぉぉっ!!!

 

黄金の濁流になど負けるものか!!!

 

僕は気力を振り絞り、黄金の濁流をハーヴェストにパスした。

 

《高次元の精神エネルギーを感知した。これを利用すれば、本体は品行方正なナイスガイに再誕できる。どうする?》

 

ううん、僕はもう品行方正なナイスガイだから間に合ってるよ。そのエネルギーはハーヴェストが使ってレベルアップしてね。

 

《了解です》

 

ふぅ、危なかった。

 

もう少しで精神汚染されるとこだったよ。

 

僕はホッと息を吐いた。

 

「ハァハァ、たった一つのニューオーダーでここまで疲労するのか。しかもこれ程の力を注いでも、その精神に僅かな影響すら与えられないとはな。重清よ、黄金の精神の体現者である貴公に最大の敬意を払う」

 

ふと気付くと、スターが片膝をついて頭を下げていた。彼女は疲れ切った顔をしていたけど、口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

 

「HAHAHA!! 見事だ、重清少年。スターにここまで言わせた男は君が初めてだろうね」

 

「フフ、別格のマスターを除けば、確かに重清が最高の男だと認めます。これでまだ十六歳なのだから末恐ろしいですね」

 

ハイパームキムキなおっちゃんの手を借りて立ち上がるスター。少し足元がふらついてるけど大丈夫? なんだったら、ハイパームキムキなおっちゃんにお姫様抱っこでスターが宿泊するホテルまで送ってもらう?

 

「ホントに!? やったわ!! あ、コホン。マスターにその様な手間を掛けさせるのは…」

 

ううん、日本男児にとって女の子を抱っこして運ぶのは手間じゃなくてご褒美なんだよ。だから安心して運ばれてね。

 

「マスターっ、そうなのですか!?」

 

「いやまあ、そうだね。全くのデマではないかな。少なくとも重清少年にとってはご褒美だね。私にとってはスターを運べるのは光栄なことだね。さあ、おいで。キャシー」

 

ハイパームキムキなおっちゃんが両腕を大きく開いた。

 

キャシーは顔を輝かしてそこに飛び込んだ。

 

キャシーをお姫様抱っこしたハイパームキムキなおっちゃんは、彼女と楽しげに談笑しながら歩き出した。

 

僕は慌ててその後ろにくっ付いて校長室を出た。だって、未だに土下座をしてる人はピクリとも動かなくて不気味だったんだもん。

 

──次の日、相澤先生は学校を休んだ。

 

 

 

 

週末、僕達はヒーロー専用航空機免許の実技試験を受けに米軍基地を訪れた。

 

米国資本の航空専門学校だから米軍基地を借りれたんだ。

 

「そこにいるのは重清じゃないか! 基地で会うとは思わなかったぞ。ふふ、今日はここで何をするんだ?」

 

実技試験用の飛行機がある格納庫へと向かっている途中でスターと出会った。

 

スターは基本的に米軍の専門チームと合同で任務についているから、彼女が米軍基地にいるのは自然なことだ。逆に他国の高校生に過ぎない僕が米軍基地にいるのは不自然に思えるのだろう。

 

たとえ、個人的に友人といえる関係であっても、アメリカ合衆国のナンバーワンヒーローであるスターはその不自然を放置しなかった。

 

僕から事情を聞いた後、スターは航空専門学校の講師と話をし始めた。そして気がつくと彼女が実技試験の試験官になっていた。

 

うん、流石は自由の国アメリカだと思った。

 

 

 

 

「先に言っておくぞ。重清相手でも実技試験では手心は加えないぜ。試験官として厳しく採点をさせてもらう。だが、幸いにも今日はオフで時間があるからな。重清が合格点に到達するまで再試験は何度でもしてやろう。だからリラックスして試験に挑みな」

 

スターはそう言い放つと、僕の頭を撫でた。

 

やはり、アメリカ合衆国ナンバーワンヒーローは正義の人だ。その厳格なまでの正しさは人によっては厳しすぎるとさえ感じさせるだろう。

 

「どう考えても甘々ですわ」

 

「ふふ、運も実力の内なのです。重清くんがあのスターアンドストライプと仲良くなっていて、そして来日したタイミングで実技試験があり、偶然その試験会場が彼女が滞在していた米軍基地で、しかも彼女がオフの日で偶々散歩していて重清くんに気付いた。その上で実技試験は彼女が強い影響力を持つ航空専門学校でのものだったから無理を通せた。――もしかして、私の重清くんは幸運の女神に愛されているのでしょうか?」

 

「それは当然かと存じますわ。幸運の女神ですら、もう仕方ないわね。と言いながら面倒を見てしまう。それが“矢安宮(やんぐう)重清(しげきよ)”という殿方ですわ」

 

「確かに重清くんが地面に転がって駄々を捏ね始めたら誰にも止められないです。もう諦めて我儘を聞くしかないのです」

 

「うふふ、ジタバタと転がって暴れる重清さんは小さな子供みたいで可愛らしいですわ」

 

「それは当然なのです。幼い頃から磨き上げた駄々っぷりは伊達ではないのです!」

 

「まあ! それではキャリア十年以上を誇るジタバタだったのですね。通りでキレが良い筈ですわ」

 

「ふふ、重清くんの駄々を見慣れているママでも溜息を吐くレベルなのです。『ハァ、重ちゃん。いい加減にしないとヒミコちゃんに嫌われちゃうわよ』とよく言っています。私は呆れたとしても嫌いにはならないので、重清くんは安心して下さいね」

 

「もちろん、私を含め他のA組女子にも呆れたとしても嫌いになる者はいませんわ。ただし、度が過ぎれば梅雨ちゃんに叱ってもらいますわ」

 

「重清くんを叱ったら可哀想なのです!」

 

「うふふ、ヒミコさんは焼き餅を焼かれた時以外は寛大ですわね。ジャイアントスイングは可哀想じゃありませんの?」

 

「ちゃんと怪我をしないように細心の注意を払っているのです! ママがパパにするみたいに手加減のしようのないジャーマンスープレックスとかはしないのです!」

 

「そうでしたわ。お義母様は物静かな雰囲気の方ですのに、意外とアグレッシブな一面をお持ちで驚きましたわ」

 

「ママは意外性のある女性なのです!」

 

「なるほど、重清さんの突拍子のない部分は、お義母様に似たのですね」

 

「重清くんのコスプレ好きはパパ似なのです」

 

「いえ、それは口にしても良いのでしょうか? 夫婦生活にも影響を与えていそうな御趣味だと思いますわよ」

 

「夫婦生活ですか? モモちゃんはナニを想像しているのでしょうか。よく分からないので詳しく教えて欲しいのです」

 

「フフン。その手には乗りませんわ。私に二度も同じ手が通じるとは思わないで下さい」

 

「はぁ、モモちゃんの言っている意味が分からないですけど、まあいいです。それよりパパは小さな頃はよく戦隊シリーズや魔法少女シリーズのコスプレをして遊んでくれたのです。きっと、重清くんもパパになったら同じように子供とコスプレして遊んでくれます。ふふ、私にとって楽しかった思い出なので、私の子供にとってもきっと楽しい思い出になるのです」

 

「えぇっ!? 普通に良い思い出話なのですか!? 重清さんの子供と、ヒミコさんの子供が同一人物のような印象を与える誤った表現はありましたが、とても良いお話でしたわ。あぁ、私の心はなんて汚れているのでしょうか」

 

「モモちゃん、そんなに落ち込まないで下さい。たとえ、モモちゃんが薄汚れたお嬢様だったとしても、私の大切なお友達なのです。モモちゃんが悲しんでいたら、私まで悲しくなっちゃいます。だから、笑って欲しいです。モモちゃんの笑顔には腹黒さが滲み出てはいますが、私はそんなモモちゃんの笑顔が大好きですよ」

 

「ヒミコさんは、こんな高貴で華やかさしか取り柄がないような笑顔を大好きだと言ってくれるのですね。では、心ゆくまでご覧下さい。オーホホホホホッ!!」

 

「うわあ! 今日も高笑いが決まっているのです! フィギュア化の暁にはそのポーズにしましょう。商品名はポンコツ悪役令嬢なのです!」

 

「オーホホホホホッ!!って、誰がポンコツですか!! ぶっ飛ばしますわよ!!」

 

「きゃ〜!! モモちゃんが怖いのです!!」

 

「なあ、重清。このコントはいつまで続くんだ? そろそろ試験を始めたいんだが…」

 

──二人のいつもの戯れ合いを呆れた顔で眺めていたスターの言葉が風に流れていった。

 

 

 

 

それは上空で待ち構えていた。

 

ヒーロー公安委員会によって“ハイエンド”と名付けられた化け物。

 

それの飛行タイプに乗っていたのは、蛇腔病院で強化手術を受けてパワーアップをした“弔さん”だった。

 

行方不明だった弔さんとのまさかの再会に驚く。

 

《本体、射程距離外だった個体との意識再統合を完了した》

 

ハーヴェストの言葉にも返事を返せなかった。

 

それだけショックだった。飛行機の速さに必死になって飛んで付いてくる“ハイエンド”の姿が哀れに思えた。

 

──弔さん。あなたはブラック経営者の道を選んだんですね。

 

悲しかった。ほんの少しだけでも分かり合えた瞬間があった筈なんだ。

 

そんな彼の配下を酷使する姿が、酷く非人間的で恐ろしく思えた。

 

人というのはここまで他者を扱き使えるのか。飛行機が飛ぶ高さでは気温は低いはずだ。気圧の問題だってある。そんな中で“ハイエンド”は引き千切れるんじゃないかと思う程にバタバタと翼を振っていた。

 

その“ハイエンド”からは苦しみも辛さも感じなかったけど、逆にそれが悲しい事だと思う。

 

昔のおっきなおっちゃんのように搾取されている事にすら気づいていないのだろう。

 

ブラック経営者、許すまじ。

 

おっきなおっちゃんの友達として、僕はブラック経営者は絶対に許せないんだ。

 

「弔ッ!! テメエの悪行は許せねえッ!!」

 

怒りに震える僕は、弔さんを絶対に捕える事を決意する。だって弔さんに懸けられた懸賞金は破格なんだよ。ここは逃すわけにはいかないよ。

 

そんな義憤に燃える僕の肩をスターが抑えた。

 

「マスターが言っていた。重清はここぞという場面では本気を出すとな。そんな珍しい場面なんだ。あの男は強敵なのだろう。そんな男の侵入を許してしまったのは、我らアメリカ合衆国の落ち度だ。故にここは私に任せては貰えないだろうか。当然だが、捕らえた後はその身柄は引き渡す」

 

もちろん、スターにお任せした。

 

 

 

 

スターの戦いは派手だった。

 

実技試験用の飛行機から飛び出したスターは、彼女と同じく非番だった軍人達を呼び出して同行させていた軍用機に降り立った。

 

「さあ、始めようか。日本のヴィラン!!」

 

スターが弔さんへと襲いかかった。

 

スターが何をしているのかはよく分からなかったけど、弔さんは何度も豪快にぶっ飛ばされていた。

 

そして、ぶっ飛ばされる度に再生しては、再びスターにぶっ飛ばされる弔さんはMなのかな? Mといえば峰田君だ。彼とのキャラ被りなのかと心配になる。

 

そんな一方的な戦いの中、僕らが乗る飛行機を攻撃する振りをした卑怯な弔さんにスターが触られて崩壊が始まるというアクシデントが起こったけど、当然ながら僕が“元通り”に治した。

 

そして、それを見た弔さんは驚愕の表情を見せたと思ったら一目散に逃げ出した。

 

僕らが乗る飛行機は言うまでもなく、軍用機よりも“ハイエンド”の方が小回りが利く所為で残念ながら逃げ切られた。

 

うん、どうやら弔さんはMではなかったみたいだ。峰田君とのキャラ被りは回避できた。

 

結局、破格な報奨金は手に入れ損なった。でも、今回はハーヴェストを多めに付けたから居場所を知りたければ、ハーヴェストを一体消せばその時点での情報が手に入る。いつか暇なときにでも捕まえに行こうと考えている。

 

実はスターが逃したお詫びと“元通り”に治したお礼にと、回らないお寿司を奢ってくれたから満足してるんだ。そうそう、お寿司に誘われた時にスターのキラキラした眼差しに気付いたから、僕はハイパームキムキなおっちゃんを呼んで上げた。

 

もちろん、お寿司屋さんではハイパームキムキなおっちゃんをスターの隣に座らせた。

 

スターはハイパームキムキなおっちゃんに僕のことをベタ褒めしてくれた。うーん。折角のチャンスなんだからもっと色気のある話をすれば良いのにと思った。

 

うん、奥手な女の子のフォローには苦労したんだ。

 

「そう、重清ちゃんは苦労……苦労したのかしら? 少し疑問は残るけど、実技試験は受かったのよね。そちらは素直に祝福できるわ。重清ちゃん、おめでとう。いつか、貴方が操縦する飛行機に乗せてね」

 

僕はいつもの裏庭で、いつもの様に梅雨ちゃんに膝枕をしてもらいながら世間話をしていた。

 

ちなみに、今日は素直に上向きで膝枕をしてもらっている。

 

実はこの間、下を向いて膝枕を抱き締めていたら梅雨ちゃんに叱られたんだ。急に叱るだなんて酷いと思う。

 

「膝からよじ登って胸まで来た重清ちゃん。反省が足らなかったかしら?」

 

ウヌヌ、いつもなら僕の頭を胸に抱いて甘えさせてくれるよね。それと一緒だと思うんだ。

 

「正座した私の上半身にのし掛かって芝生に押し倒した重清ちゃん。ここが雄英高校の裏庭で、そして衆人環視のある場所だと覚えているかしら。あの後、相澤先生に色ボケも大概にして重清ちゃんの躾をちゃんとしろって叱られたわ」

 

頬を少し赤く染めた梅雨ちゃんに軽く睨まれた。

 

うん、ごめんね。

 

照れ屋さんな梅雨ちゃんは人に見られて恥ずかしかったんだね

 

僕の気遣いが足らなかった。素直に反省するね。

 

「あら、今日は素直なのね。私の重清ちゃ――」

 

──クレイジー・ダイヤモンド。

 

そして全てが凍りつく。

 

梅雨ちゃんをよっこらせと抱き上げる。その僕をクレイジー・ダイヤモンドに運ばせる。

 

ダダダッと、雄英寮の梅雨ちゃんの部屋まで一気に駆けていく。

 

梅雨ちゃんをよっこいしょと絨毯が敷かれた床に丁寧に置く。

 

僕はそこにダイブする。

 

そして全ては動き出す。

 

「――ん!?」

 

梅雨ちゃんを床に押し倒した。梅雨ちゃんが頭を打たないようにちゃんと手を当てて守っているよ。

 

僕は甘い匂いに包まれて幸せを感じた。梅雨ちゃんは誰にも見られなくて恥ずかしくない。

 

うん、ウインウインな関係だね。

 

「ハァ、本当に相澤先生の言う通りだわ。重清ちゃんの躾を本気で考えなきゃいけないわね」

 

どこかから不穏な言葉が聞こえた気がした。

 

うん、聞こえなかった事にしよう。

 

──僕はそのままお昼寝タイムに入った。

 

 

 

 

 

 





──ヒーロー専用航空機操縦資格の講習も佳境に入りました。後は実技試験を残すだけです。

モモちゃんの提案で受け始めた講習ですが、一年近くも掛かりました。

本来ならもっと早く終わる予定でしたが、雄英高校の授業だけでなく、ヒーローインターンでの活動もあった為です。

多忙な日々でしたが、同時に充実した日々でもありました。

モモちゃんとも友誼を深めることが出来ました。

ふふ、最初の頃は重清くんを狙うライバルかと警戒した相手でしたが、予想外にヘタレお嬢様だったのです。

私の次には、重清くんと二人っきりになる機会が多い筈なのに全く進展がないです。

今となっては彼女のモモに毒入りと書いたのは無駄な労力だったと苦笑するしかありません。

警戒すべき対象が多い中、安全パイな彼女とは末長く仲良く出来ると思うのです。

「ヒミコさん。その生温かい視線を向けるのはやめて下さい。なんだか不快ですわ」

おっと、視線に気付かれちゃいました。

能力的には優秀なモモちゃんなのです。

そういえば、モモちゃんは狂乱の魔王について情報は聞いていないのですか?

公安委員会の上層部とも繋がっている八百万家なら、何かしらの情報を得ていると思うのです。

「狂乱の魔王自体の情報はありませんわ。ただここ最近は活動を活発化させています。これまでは魔王の犠牲者はホークスのみでしたが、全国に犠牲者が広がっています。様々な強力な個性を持つプロヒーロー、ヴィラン達がまるで抵抗出来ずに泥酔させられ裸踊りを強制させられています。その犠牲者の中に個性の影響で酔わないヴィランがいたのですが……目撃者が動画を撮っていましたわ。シラフでの裸踊り強制は地獄ですわね。露出狂なら問題ないのでしょうが、普通の神経では耐えられませんわ。もうあのヴィランは再起不能でしょうね。幸いにもまだ女性の犠牲者はいませんが、いつ自分が犠牲者になるかと怯える者が急増しています。公安委員会もいよいよ全力での魔王捜索を始めましたわ」

全国に裸踊りの犠牲者が広がっていたのは知らなかったのです。

「混乱の助長を恐れた公安委員会と警察が情報統制を行っているのですわ。ありえない話ではありますが、自分が犠牲者になった場合を想像すれば恐怖で身が震えますわ」

ブルリと身体を震えさせるモモちゃん。その気持ちは痛いほど分かります。

この私でも公衆の面前で裸踊りなんて死んでも嫌なのです。もしもそんな事になったら、きっと重清くんは目撃者全員を――。

まあ、そんな事は絶対に起こらないのです。

私の全身にはハーヴェストがびっしりとくっ付いているので、いざとなったらハーヴェストが動きを止めてくれるのです。

それにそもそも裸踊りをさせているのは――ふふ、これは内緒なのです。

何となく察している人達はいるみたいですが、その人達も内緒にしてくれています。

「あのう、何となくどころか、もはや確信レベルなのですけど。ハァ、まあいいですわ。私達は運命共同体ですもの。どこまでも付き合いますわ」

はいっ、とても人望のある私の重清くんなのです!!




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