重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン7(内通者編)

 

──ふと気が付いたら、ハーヴェストが新しい能力に目覚めていた。

 

《ジャジャーン。新能力は“念写”です。射程距離外でも、知らない場所でも、知らない人でも、なんでも念写できる》

 

うん、もう殆ど覚えてないけど、そんな能力を持ったジョジョが……いや、お爺ちゃんだっけ?

 

まあ、細かい事はいいや。

 

ククク、この念写さえあれば、もう怖いもの無しだ。

 

これからはいくらでもお宝写真が撮れる。

 

コソコソ隠れてヒミコちゃんの油断した姿を待つ日々ともお別れだ。

 

今日から撮って撮って撮りまくる!

 

ヒミコちゃんの艶姿は一瞬たりとも逃さないぞ!

 

うんうん、写真データ保存用のハードディスクを買い足さなきゃだね。

 

「あのう、ヒミコさん。あのような事を仰っていますが、放っておいてよろしいのですか?」

 

「はい、よろしくないのです。ハァ、重清くんに見られるのは構いませんが、流石に写真に残されるのは嫌なのです」

 

「あら、重清さんに見られるのは構わないのですね。ヒミコさんは度量が広いのか、それとも羞恥心が薄いのか判断に困りますわね」

 

「未来のだ、だだ……だん、ダンゴムシはカァイイのです!」

 

「意味不明ですわ!?」

 

「ケロ、ヒミコちゃんは『未来の旦那様になら見られても構わないのです』と言いたいのよね」

 

「う、うぅ……はい、なのです」

 

「トガってば、妙なとこで照れるんだねー」

 

「乙女なら当たり前だよ。好きな人に身体の隅々まで全てを見られるのは快感だけど、将来のことを言葉にするのは恥ずかしいよ」

 

「見られるのが快感な乙女……なんか違くない?」

 

「ねえ、矢安宮。ウチのことも撮ってくれる? 実は自分に似合うポーズを探しては練習してるんだ。矢安宮に見てもらうことを意識して練習してるんだよ。だって、ウチの一番可愛いとこを見て欲しいもん」

 

「ハイハイ、響香ちゃんは矢安宮君に引っ付き過ぎだよ。ヒミコちゃんが殺し屋みたいな目で睨んでいるし、そもそも職場で不真面目な態度はダメだよ。これは他のみんなにも言っているんだからね!」

 

「おぉっ!? 自浄作用が働いてるぞ。私の判断は正しかった。麗日を教育係に任命したのは正解だったぜ!」

 

「ケロ――ミルコさんと事務員さんが肩を叩き合って喜んでいるわ。やっぱり、お茶子ちゃんはムードメーカーだから居るだけで明るい雰囲気になるのね」

 

「梅雨ちゃん。それは絶対に違うと思うよ。それにしても、みんなが思った以上にはっちゃけてるよね。ミルコさんが苦労する筈だよ。ハァ、これの教育係かぁ。特別手当って付くのかな?」

 

 

 

 

スターとハイパームキムキなおっちゃんの対談番組では、楽しげな雰囲気で進行していた最中に燃えてるおっちゃんが乱入するというハプニングがあった。

 

「この俺が日本のナンバーワンヒーローだぁぁぁッ!!!」

 

「落ち着けッ、エンデヴァー!!」

 

「ぐへポッ!?」

 

「ふぅ、邪魔をして済まなかった」

 

燃え盛る炎と共に勇ましく現れた燃えてるおっちゃんだったけど、そのすぐ後に炎のように揺らめく魅惑的な緑髪を靡かせながら現れたバーニンの感嘆するほどに華麗なフライングクロスチョップによって一撃で沈められた。

 

凛々しく、同時に女性らしい柔らかさを感じさせる美貌のバーニンに襟首を掴まれて引き摺られていく燃えてるおっちゃん。

 

そんな燃えてるおっちゃんの姿に、ハイパームキムキなおっちゃんは申し訳なさそうな顔をしていたけど、スターは知らん顔をしてた。

 

その後は何事も無かったかの様に番組は進んで行き無事に終了した。

 

後日、子供達からフライングクロスチョップを受ける燃えてるおっちゃんの姿が度々目撃されるようになった。

 

その度に大袈裟に吹っ飛ばさる振りをするノリの良い燃えてるおっちゃん。

 

うん、実に微笑ましい光景だと思う。

 

ちなみに、バーニンの華麗なフライングクロスチョップ姿はポスターとなって販売された。

 

もちろん、僕は購入した。

 

 

 

 

狂乱の魔王の猛威は止まらず、その恐怖は日本全国を覆い尽くす勢いだ。

 

僕としても魔王のことは気になるけど、雄英高校から魔王には手出ししないようにと全ヒーロー候補生に通達されている。

 

真面目が服を着て歩いているような僕としては、雄英高校の指示を破るわけにはいかない。ここはプロヒーローに頑張って欲しいと思う。

 

「重清君は呑気でいいわね。私なんて巨大化しているときに裸踊りを強制されたらと考えたら怖くて、今はヒーロー活動を自粛しているのよ」

 

ユウ姉が珍しく弱気になっている。いつも強気なユウ姉の元気のない様子は新鮮で少しドキドキする。

 

「おいおい、お色気キャラが何を言ってるんだ。お前なら裸踊りぐらい平気だろ」

 

「もうお色気キャラは卒業しました。今はヤンチャな重ちーを見守るお姉さんキャラとして売り出し中だって前も言ったじゃないですか。それにお色気キャラだった頃でも裸踊りは無理ですよ。お色気はチラリズムが大切なんですよ。全部見せたらダメです。それだとただの痴女になっちゃいます」

 

うんうん、女の子はやっぱり慎み深い方がいい。ユウ姉のルックスが良いのは一目瞭然だけど、それを安売りして欲しくない。

 

外見にしか目がいかない有象無象に大切なユウ姉を穢されたくないからね。それがたとえ心の中の事でもだよ。

 

もちろん、ユウ姉が下衆な欲望なんか歯牙にも掛けない強い心の(マウント)淑女(レディ)なのは知っている。

 

だけどそれでも、ユウ姉は女の子なんだ。

 

その強い心の奥にいる可憐な乙女を守ることは、男子である僕に許された権利だ。

 

この権利は誰にも渡さない。

 

たとえそれが世界中の男を敵に回す行為だったとしてもだ。

 

俺は揺るがない想いを込めて、ユウの愛しい瞳を見つめた。

 

「ユウ、お前はその気高い心のままに生きろ」

 

いつもは微笑みを絶やさない紅くぷっくりとした唇は、今は彼女の弱気な心を反映してか固く閉じられている。それが悔しくてそっと指先で触れた。

 

「その心を曇らせる障害は、この俺が全て砕いてみせる。だから、ユウの可憐な微笑みを独り占めさせてくれ。──フッ、安心しろ。ユウの気が向いた時だけでいい」

 

独り占めさせろという言葉に、ユウはその表情を強張らせた。どうやら少し強欲が過ぎたようだ。急ぎ言葉を継ぎ足すと、彼女は熱い溜息を吐いた。

 

恐らくは慌てて取り繕った俺の未熟さに呆れたのだろう。

 

これには参ったなと、苦笑するしかない。

 

その実力と人気から若手ナンバーワンと謳われている彼女と比べれば、俺などただの我儘な小僧に過ぎない。きっと、彼女から見れば口先だけのお子様だろう。

 

ふと、年上の女性に触れたままなのは失礼な事だと思い当たる。

 

親しき仲にも礼儀あり、そんな当たり前の言葉を思い出した。

 

艶があり滑らかな触り心地を名残惜しく思いながらも、彼女の唇から指先を離す。

 

指先が離れた瞬間、ぷっくりとした紅い唇が小さく震えた。

 

声にもならなかった吐息の様なそれにどんな意味が含まれていたのか。鈍い俺では想像することすら出来なかった。

 

それが寂しくて――僕は目の前の大きなモモに飛び込んだ。

 

とおっ!

 

ムニュっと優しく顔面を包み込んでくれる。

 

まるで、ユウ姉の大きな心に包まれている様だと思った。思わず、デヘヘと声が漏れる。

 

「もう、格好つけるなら最後まで格好つけなきゃダメよ。急に子供みたいに甘えられたらどう反応したらいいか困るじゃないの。まったく、本当に手の掛かる子ね」

 

ユウ姉は苦笑しながらも、僕の頭を抱き締めてくれた。

 

その抱き締めてくれる手は、とても優しくて温かかった。

 

 

 

 

「なあ、今更なんだが、重清の“アレ”はトガ的には問題ないのか?」

 

「本当に今更なのです。正直に言えば、問題は大アリなのですが、重清くんのはパパの真似なので大目に見ています」

 

「パパだと? もしかして、重清の親父さんは女なら誰彼構わず口説く女誑しなのか?」

 

「それは愛妻家のパパに失礼なのです。パパが甘い言葉を囁くのはママだけです。昔からチャンスがあれば甘々な雰囲気になってイチャイチャしている夫婦なのです。それを小さな頃から見て育った重清くんは女子相手に甘い言葉を囁くことに抵抗がありません」

 

「へえ、なるほどな。仲の良い女相手なら甘い言葉を口にするのが当たり前だと考えているわけだな」

 

「そっか、三つ子の魂百までってやつだね。だけど、今の話で納得だよ。いつも人前で恥ずかしげも無くヒミコちゃん達とイチャイチャ出来たのは、幼い頃からの英才教育の賜物だったんだね。あ〜あ、デク君のご両親もイチャラブ夫婦だったら今頃――デヘヘ♡」

 

「お茶子ちゃんの顔がエッチな事を考えている時の重清くんみたいになっています。つまり、女の子が絶対にしたらダメな顔なのです」

 

「ホントだ! 矢安宮におっぱいを当てた時と同じ顔になってるよー!」

 

「もう、そういうことを大きな声で言っちゃダメだよ。男の子は意外と繊細なんだからね。もしそういうのを気にし出したら、これから引っ付いてくれなくなっちゃうよ」

 

「それはヤダー! スキンシップは大切だもん!」

 

「おっぱいを当てた時の矢安宮の顔……あれ、親しみの籠った穏やかな顔しか見た記憶がないような?」

 

「響香ちゃん。それ以上は思い出してはダメよ。精神衛生上良くないわ」

 

「えへへ、響香ちゃんの控えめなおっぱいには流石の重清君も微笑ましい気持ちになっちゃうよね。きっと、エリちゃんや壱与ちゃんを抱っこした時と同じ感じなんだよ。ところで、梅雨ちゃんの場合はどうなのかな?」

 

「ノーコメントにしておくわ。重清ちゃんは年頃の男の子なのよ。おっぱいが気になるのは仕方がないわ。私達は気付かないフリをして上げなきゃダメよ」

 

「ほう、蛙吹は理解のある大人の女なんだな。クラスの男子にも人気が有るんじゃねえか?」

 

「ケロ――よく分からないわ。クラスの男子をそういう目で見たことはないもの」

 

「ウチもクラスの連中は仲間としてしか見てないから梅雨ちゃんの気持ちは分かるよ。異性云々前にヒーローを目指す仲間なんだよね。そうそう、葉隠は後で給湯室に来い」

 

「皆さんはおっぱいおっぱいと言い過ぎですわ。ここには重清さんが……おっぱいに埋もれるのに夢中で聞いておられない様子ですが、もっと言動には注意して下さい。おっぱいを殿方に当てて誘惑するのも禁止しますわ」

 

「えー! いつもおっぱいを半分見せてる人に言われたくないー!」

 

「人を露出狂みたいに言わないで下さい! 私のヒーローコスチュームは個性の特性上、已むを得ずですわ!」

 

「その割にはよくおっぱいを強調する動きをしてるよね。矢安宮がその度に凝視してんだけど、それはどうなの?」

 

「うふふ、当ててはいませんからノーカンですわ」

 

「分かった! こっちから当てるんじゃなくて、誘惑して向こうから触らせるつもりなんだ!」

 

「男女関係の駆け引きってやつだー! で、でもさ。自分から当てるのはいいけど、や、矢安宮から触られるのって恥ずかしくない? それにおっぱいを触られてそのまま揉まれたりしたら……うぅ、想像しただけでも恥ずかしくて顔から火が出そうだよー!!」

 

「重清君に揉まれる――えへへ♡」

 

「たく、葉隠はズルいよね。女の子がしちゃダメな顔になっても見えないもん」

 

「ケロ――多分だけど、透ちゃんはお茶子ちゃんみたいな顔をしていないわ。きっと、頬をピンクに染めて幸せそうな可憐な表情をしている気がするの。だって、重清ちゃんがおっぱいの隙間から透ちゃんに見惚れてるもの」

 

「アッ、ホントだ!? ウググ、アタシも恥じらった可愛い表情を練習しなきゃだー!」

 

「あら、三奈さんは元々がピンクで可愛らしいですもの。表情の練習なんてなさらずに、自分の気持ちに正直な表情をなされば良いのですわ」

 

「女子が女子に言う可愛いほど、信用できない言葉は無いよー!」

 

「えーと、それなら女子が女子に言う格好良いの言葉はどうなんだろ。偶にファンだって言う娘に言われるんだけど?」

 

「それは大丈夫だよ。本当に褒め言葉だからね。響香ちゃんはその辺の男子より凛々しくて格好良いもん。もしも、重清君が居なかったらきっとA組女子は響香ちゃんに夢中になってたと思うよ。ほら、響香ちゃんが男子の服を着たら、男装の麗人なんかじゃなくて、普通に男の子にしか見えないもんね。うん! 響香ちゃんは男前でロックな王子様だよ!」

 

「……ねえ、それ本当に褒めてるの?」

 

「ううん、違うよ!」

 

「よーし! 給湯室は止めだ! 定時になったら裏の空き地に来い!」

 

「え、私はそんなとこに用事はないよ?」

 

「ウチがあんたに用事があるの!!」

 

「デヘヘ♡ ダメだよ、デク君♡ まだお昼だよ♡ これ以上は夜まで我慢してね♡ もう、そんなに我慢できないなら仕方ないなあ♡ ほら、あそこの茂みなら人目に付かないから行こっか♡」

 

「──なあ、麗日。そろそろ妄想は終えて、コイツらを止めてくれねえか?」

 

 

 

 

個性訓練で念写をする事にした。僕の念写は写真だけではなく、動画もいける万能な念写なんだ。

 

テーブルにテレビと動画装置を準備して椅子に腰掛ける。隣には何故か相澤先生が座っていた。

 

「ほう、念写とは便利な能力だな。治癒とは別系統だが、これは矢安宮の写真趣味が個性に影響を与えたのか? そういえば、矢安宮の治癒は大地のエネルギーを利用しているのだったな。推察するに大地を介して情報を得ているのだろうな。ふむ、実に興味深い能力だ」

 

相澤先生が隣でフムフムと推論を語っている。気が散るからどっかに行ってくれないかな?

 

隣からの雑音と戦いながら、僕は念写を始める。

 

「(じゃあ、ハーヴェストよ。適当な相手を念写してね)」

 

《了解です。捜索中の相手を念写する》

 

ハーヴェストから茨のような植物の形をしたものが生えてきて、その状態のまま動画装置に触れた。すると、テレビからガガッと雑音が聞こえたと思ったら、パッと明朗な画面が映し出された。

 

『──僕には友達が多くてね。例えば、雄英一年A組にも友達の子供がいるんだよ。その子に頼めば、緑谷君を一人にするのも簡単だよ。そこまでお膳立てすれば、君達だって捕らえられるだろう。僕は体調が優れないから見学だけにしておくよ。ハァ、喋るだけで疲れたよ』

 

『俺も体調が良く無いから出来るだけお前らだけで成功させてくれ。ハァ、スターアンドストライプにやられたダメージがまだ抜けねえ」

 

『弔、大丈夫かよ? おい、狂乱の魔王。俺は弔達の付き添いがあるからお前が指揮を取れよ。任せたからな』

 

『俺を狂乱の魔王と呼ぶんじゃねえ!! クソッ、他人を裸踊りさせる魔王って何なんだ。そんな異名を付けられたら本名なんて名乗れねえよ。憎悪を向けられたいのに、現実に向けられるのは変態を見る目だ。ハァ、我ながら情けねえぜ。……そうだ。誰も俺を知らない国に行ってひっそりと余生を過ごそうかな』

 

『荼毘君。もうそれでもいいけど、せめて緑谷君を捕らえた後にしてくれないかい。そうすれば、荼毘君が外国で暮らす手配を僕がして上げるよ』

 

『あぁ、分かったよ。ただし、あんたが付けてるマスクを貸してくれ。万が一の場合、狂乱の魔王だと指を差されたくねえ』

 

『このマスクなら予備があるから貸して上げよう。では、友達に連絡をするよ。僕の友達――青山夫妻にね』

 

 

 

 

もの凄い騒ぎになって授業が中断された。でも、僕には直接関係ないから状況が落ち着くまでミルコヒーロー事務所でゴロゴロする事にした。

 

 

 

 

数日後、ミルコヒーロー事務所に突然現れた相澤先生にドナドナされた。

 

ミルコ姉さんが付き添ってくれたけど、こういう誘拐紛いな真似は止めて欲しいと思う。

 

連れて行かれた部屋の中にあるガラスの仕切り。その先ではモヤモヤ人間が椅子に拘束されて座らされていた。

 

「コイツは改造人間だ。矢安宮、お前はコイツを“生きた状態”で元通りに戻せるか?」

 

相澤先生が“生きた状態”と念押しするという事は、今は“死んだ状態”なの?

 

「ああ、コイツはあの“能無し”と同じだ。死体を材料とした改造人間だ。生きている様に見えるが、実際にはロボットと同じで決められたプログラムで動いているだけだ。そしてその材料となった身体は――」

 

それから過去の話を色々と聞いた。

 

ふーん。そうだったんだ。

 

ところで、生きてた頃の記憶は残っているの?

 

「微かにだが反応を見せる時がある。だが、確かな事は分からん」

 

そっか。そう呟きながら、僕は相澤先生の顔をチラリと見た。

 

そこには、歯を食い縛り激情を抑える男がいた。

 

──両足を大きく開いて立つ。左手を開き顔を隠す。右手は体の前に置く。左手の隙間から黄金の精神を秘めた瞳が、相澤という一人の男の心を貫く。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴッ、お前は理解をしているのか。お前が望んでいるのは懸命に生きた彼の一生を冒涜する行為だ」

 

命は決して戻らない。だからこそ誰もが日々を懸命に生きている。それを覆そうとするのは、そんな懸命に生きる人々を侮辱する行いだ。

 

ガンッとガラスの仕切りを殴る音が部屋に響いた。

 

「分かっている! だがそれでも、いやだからこそだ。白雲の想いを踏み躙った奴が許せない。白雲の心を自由にしてやりたいんだ。冒涜に対する報いなら俺が受ける。一生を掛けてでも償おう。だから頼む! 白雲を解き放ってくれ!」

 

その魂からの叫びに、部屋にいる警察官達が静まり返った。

 

気丈なミルコですら、辛そうな表情を浮かべていた。

 

「クレイジー・ダイヤモンドといえども、死んだ者を生き返らせるのは不可能だ」

 

俺の非情な言葉に相澤は何も言わなかった。ただ、その握った拳から血が滴り落ちた。

 

それを見て、俺は決めた。

 

「失われた命は決して戻らない。俺が出来るのは──能無しを作った外道と同じ事だけだ」

 

この身を外道に堕とす。その覚悟を決めた。

 

ただ、ミルコの顔が悲しみの色に染まるのが辛かった。

 

 

 

 

えい。

 

「おおっ!? 意識がハッキリしたよ! 今の子の個性って凄いねー!」

 

「ババーン。僕の個性はクレイジー・ダイヤモンド! 僕が殴って直せ(治せ)ない物体(生物)はない! そして、ちょっぴりだけ僕の意思を介入させて改造できるんだ。“黒霧”を改造して、“黒霧:白雲バージョン”にしたんだよ」

 

モヤモヤ人間を殴って水色の髪色をした兄ちゃんに改造した。この時にプログラムされた思考を元々のものに戻しておいた。

 

「いやー、黒霧だった頃の事は薄らとしか覚えてないけど、それでもちゃんと覚えている事もあるんだ。重ちーが黒霧だった俺を捕えてくれたんだよね。お陰で罪を重ねることも無くなったし、こうして元の意識も取り戻してくれた。本当に重ちーには感謝しかないよ!」

 

「身体の調子はどうですか? モヤモヤ人間に改造された初期の状態に戻す際に、姿と思考に手を加えて白雲さん本来のものに出来るだけ近付けたつもりだけど、具合の悪いところが有ったら言って下さいね」

 

モヤモヤ人間に改造されるより以前の状態に戻してしまうと白雲さんは死んでしまう。今の状態も生きているとは言えないかも知れないけど、自由意思がある分だけマシだと思いたい。

 

「なるほどね。生き返ったわけじゃなくて改造人間として蘇ったんだね。うん、こうして自由に物を考えられるようになれたんだ。一度死んだ身としては破格の幸運だよ。だから、重ちーが気に病む必要なんか全くないんだ。本当にありがとう。俺を闇の世界から救ってくれて感謝するよ」

 

白雲さんはフレンドリーで前向きな人だった。無愛想で思いやりのない相澤先生と親友だったとは思えない程だ。たぶん、正反対だったからこそ逆に親友になれたんだろう。

 

「ややっ!? よく見るとそこに居るのはショータか! すっかりオッサンになってるじゃん! アハハ! 目付きは悪いし、無精髭もあるしで見た目が完全に不審者だぜ! もう少し外見に気を使えよ!」

 

「うんうん、外見も悪いけど、中身も嫌味っぽい偏屈な教師だよ。もっと生徒に好かれる様に頑張って欲しいよね」

 

「へえ、あの口下手なショータが教師になったのか。ショータ、お前ちゃんと教師をやれて……ないみたいだな。重ちー、不器用な奴でゴメンな。後でちゃんと言い聞かせておくよ」

 

「うん、しっかり言い聞かせて少しでもマシな教師に導いて上げてね。もうすぐ結婚もするから奥さんの為にも頑張らせてね」

 

「ショータが結婚だって!? コミュ障なショータと結婚してくれるだなんて、相手の女性はどこの聖女様だ!?」

 

「Ms.ジョークっていう笑顔を絶やさない素敵な女性だよ。きっと、自分とは正反対な仏頂面を絶やさない相澤先生が気になったんだね」

 

「なるほど、人は自分にない物を持つ相手に惹かれる面があるからな。ただの無愛想なショータが寡黙な男に見えてるんだろうな。よしっ、勘違いの恋が醒める前に結婚式を挙げようぜ!」

 

「うん、僕もそれが良いと思うんだけど、相澤先生がマリッジブルーみたいでMs.ジョークから逃げているんだ。こんな腰抜けな男が担任だなんて、教え子として情けないよ」

 

「あちゃー、そうなのかよ。おい、ショータ! 男ならちゃんと責任を果たせよ!」

 

「ダメだよ!? そんなキツい言い方だとまた相澤先生が引き篭もっちゃうよ!」

 

「引き篭もりッ!? ハァ、思った以上にショータは周りに世話を掛けているみたいだな。よしっ、ここは親友として俺がショータを更生させて見せるぜ!」

 

「ホントに!? それは是非とも頑張ってね!」

 

「おう! 任せてくれ!」

 

僕と白雲さんが、ダメ男の見本みたいな相澤先生を見捨てずに更生させようと話し合っていたら、何となく周りの空気が悪くなった気がした。

 

チラリと周囲の様子を窺う。

 

ダメ男な相澤先生の頬がピクピクしてて、警察の人達は目を逸らしている。

 

ミルコ姉さんは額を抑えて首を振っていた。

 

うん、何だか良くない雰囲気だ。

 

危険察知能力の高い僕は、トコトコとミルコ姉さんに近寄るとその手を引っ張って帰る様に促した。

 

ミルコ姉さんは呆れた顔をしながらも、サラッとその場を後にしてくれた。

 

「それじゃあ、うちらはもう帰るわ。次からはちゃんとアポを取ってから事務所に来いよ」

 

ミルコ姉さんに手を引かれて、僕は無事にその場を逃れた。

 

背後から白雲さんと相澤先生の言い争う声が聞こえてきたけど、僕には関係ないから気にしない事にした。

 

 

 

 

超常解放戦線の壊滅作戦が実施されるそうだ。

 

なんでも罠にかけて一網打尽にする作戦らしい。

 

作戦の詳細は機密事項だから詳しく知らないけど、ヴィランを分断して各個撃破するのが大まかな概要だ。

 

もちろんだけど、僕は後方待機で治癒担当だ。

 

県を跨いでの分断作戦だけど、いつの間にかハーヴェストの射程距離が数十キロから数百キロに伸びてたから直接カバーできる範囲が増えたんだ。

 

調子の良い日は、周辺の県全域をカバー出来るし、最大数も約五千体から約五万体に増えてた。

 

ククク、これだけの数が居れば、僕のヒミコちゃんだけではなく、大切な人達全員の全身防御を1日24時間365日体制で出来るぞ!

 

そんな朗報を梅雨ちゃんに伝える。

 

僕の大切な梅雨ちゃん。

 

今まで待たせてゴメンね。

 

これからはいつでも見守ってるからね。

 

温かくて柔らかい感触を後頭部に感じながら、僕は喜ばしい事実を告げた。

 

僕の言葉を聞くと、梅雨ちゃんはニッコリと満面の笑みを浮かべて言った。

 

「うふふ、絶対にやめてね。今でも乙女のプライバシーが守られているか微妙なのに、これ以上だと重清ちゃんに断固とした責任を求めざるを得なくなってしまうわ。もちろん、重清ちゃんにその覚悟があるのなら全然構わないわよ」

 

ニコニコしてるのに、未だかつてない程の圧迫感を梅雨ちゃんから感じた。

 

うん、今日はバーニンの初めてのポスター発売を記念して食事に行く約束をしてたんだった。すっかり忘れちゃってた。

 

じゃあ、僕はもう行くね。

 

僕はスタコラサッサと逃げ出した。

 

「ケロ、逃げられちゃったわ。少しイジワルだったかしら。だけど、1日24時間365日体制が平気なのはヒミコちゃんぐらいよね。彼女なら全部を重清ちゃんに見られても取り乱したりしないわ。そうね、私だって頑張れば――うぅ、やっぱりまだ無理だわ。全部を重清ちゃんに見られるのは恥ずかしいもの。だけど、いつかは……」

 

 

 

 

超常解放戦線の壊滅作戦に向けて、雄英では強化訓練が行われる事になった。

 

壊滅作戦の核となる緑谷君は、ハイパームキムキなおっちゃんを中心に皆から扱かれて強化訓練に励んでいる。

 

他の脳筋達もそれぞれ激しい訓練を始めた。

 

僕の場合はレベルアップ直後だから、皆の様な厳しい訓練よりも休養を優先する事にした。

 

疲労を溜めたままだと、本当の実力を発揮できないからね。

 

皆の激しい訓練風景を横目に見つつ、僕はジリジリと訓練場を離れていく。

 

うん、僕を見ている人は誰もいない。

 

さあっ、英気を養いに行こう!

 

──僕は街へと脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──超常解放戦線との最終決戦が行われます。

その切っ掛けは、念写という新しい能力に目覚めた重清くんの活躍によって、A組に潜んでいた内通者が発覚した事です。

重清くんのお手柄なのです。

公安委員会からも報奨金が出ました。思ったよりも金額は多かったです。

ナガンさんの一件で、公安委員会からの評価が下がったと考えていたのですが、どうやら違ったみたいです。

噂によると、公安委員長がナガンさんに同情的らしいのです。

どうやらナガンさんの過去には色々と表に出せない事情があるみたいですね。

まあ、本人が何も言わないので聞かない事にします。

ナガンさんは重清くんの味方なので、多少の厄介事を抱えていても構わないのです。いざとなれば厄介事ごと叩き潰せばいいだけです。

ナガンさんよりも内通者なのです。

重清くんを裏切った者には制裁が必要なのですが、内通者がリークしたのは授業内容と林間合宿の行先だけでした。

重清くんに不利益を与えていたのなら、内通者には不幸な末路をプレゼントするところでしたが、その必要は無さそうです。

内通者である彼……えっと、名前が出てこないです。

普段から全く関わり合いのない相手だったので、ついド忘れしました。

まあ、その程度の相手なので気にしない事にします。

今の重清くんなら多少の……いえ、相当な困難が襲い掛かって来ても真正面から打ち破れるのです。

敢えて気をつけるとするなら美人局ぐらいなのです。

それだって、悪意ある女性にはハーヴェストが気付いてくれるので、あまり気にする必要はありません。

悪意の無い厄介事を抱えた女性の場合だと、重清くんが自分から関わり合いになりそうなので、そういうのは私達が防ぎます。

今でもライバルが多いので、これ以上はキャパオーバーなのです。

何なら他のA組男子を紹介するので、その男子とラブロマンスを繰り広げて下さい。

例えば、轟くんとかお勧めなのです。今なら美人な小姑も付いてくるのでお得ですよ。

ところで、今は特訓中なのですが、私の重清くんは何処にいるのでしょうか?

先程から姿が見当たらないです。

……何だか嫌な予感がします。

目を瞑って重清くんの気配を探ります。こうすると何となく彼の居る場所を感じ取れるのです。

そうして集中していると、相澤先生が声を掛けて来ました。

「おい、矢安宮みたいなポーズをしているが、とうとうアイツの病気が感染したのか? それなら早期治療が大切だからな。恥ずかしがらずに正直に言ってくれ」

花の女子高生に失礼なことを言わないで下さい。今は私の重清くんが特訓を抜け出したみたいなので探しに行く為に居場所を感じ取っているのです。

「そうか、また矢安宮は逃げたのか。トガ、お前が探しに行く必要はないぞ。どうせミイラ取りがミイラになるだけだ」

それは優等生な私に失礼なのです。ちゃんと重清くんを連れ戻して見せるので、イルカの浮き輪に乗ったつもりで待っていて下さい。

「それはひっくり返るヤツだろうが! 全く、お前ら二人がセットになって素直に帰ってくるわけがないのは分かっている。トガは大人しく訓練に集中していろ」

ウググ、私の重清くんは素敵な男の子ですが、不真面目な生徒でもあるので信頼度がゼロなのです。そのお陰で品行方正で優等生な私まで疑われるのは不条理だと思います。

ここは正々堂々と相澤先生を簀巻きにして、私の優秀さを実力行使で証明して見せるのです!

ふらりと相澤先生に向けて歩き――

「あれ、重清くんが行方不明なの? それは心配だよね。そうだ! 僕なら飛べるから空から探してくるね!」

――突如現れた緑谷君が捲し立てたと思ったら、止める間もなく飛んで行きました。

ゾクリと嫌な予感がしました。

ムチムチな身体を惜しげもなくピッチリヒーロースーツでアピールする緑谷君を私の重清くんの元に行かせてはダメだと女の勘が訴えているのです。

「砂藤君! クソ葡萄を緑谷君に全力投球して下さい!」

「お、おう? 分かった。――おりゃあ!!」

「ひぃッ!? なんでオイラがァァァーッ!!!」

近くにいた砂藤君に咄嗟に頼んでクソ葡萄を投げてもらいました。

ギュンと飛んでいったクソ葡萄は、見事遠ざかっていく緑谷君にヒシっとくっ付きました。

「ちょっ!? や、やめてよ! そんなとこ触らないでッ!!」

「オイッ、落ちるから暴れるなよ! 非常事態なんだから少しぐらい触られても我慢しろよな!」

「そっちから抱きついてきて勝手なことを言わないでよ! それに重清くんから言われているんだ。峰田君にセクハラ行為をされたら本気で砕く気で殴っても遠隔治癒するからいつでも遠慮なく反撃してねってね!」

「おいッ!? いくら何でも緑谷の本気のパンチはご褒美の域を超えて――ヒデブッ!?」

「うそっ、これでも手を離さないの!? バ、バランスが崩れて落ちるーッ!!!」

遠く離れた場所で落ちていく緑谷君ですが、弾丸の様なスピードで飛んで行った爆豪君が既に両手を広げて待ち受けています。これで怪我をする心配もないでしょう。

お茶子ちゃんがそんな爆豪君を殴り殺しそうな表情をして睨んでいるのはスルーしときます。

とにかくこれで嫌な予感も……無くならないです!?

私の重清くんに魔の手(泥棒猫)が忍び寄っている気配がビンビンするのです!!

こうしてはいられません。今すぐにでも追いかけ――相澤先生、そこを退いて下さい。

「ダメだ。トガはここで訓練を続けろ。矢安宮は俺が追いかける」

相澤先生が重清くんを……?

と、とても嫌な予感がします!

具体的には薄汚れたオジサンがこの世から消えて、ダウナー系の黒髪美女が爆誕する予感がギュンギュンとするのです!

こうなったら仕方がないです。

私の重清くんが戻ってくるまで相澤先生はここで拘束しときます。

私はふらりと相澤先生に向けて歩き出しました。





「──あのう、ヒミコさん。相澤先生が涙目になられているので、せめて簀巻きにされた相澤先生に腰掛けるのはお止めになりませんか?」

「オイラの上になら座っていいぞ!」

「砂藤君。クソ葡萄の顔面に座って上げて下さい」

「お、おう? 分かった。よっこらせっと」

「ギャァァァッ!!! 男のケツは嫌だァァァッ!!!」














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