重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン7(Mt.レディの奮闘)

 

──超常解放戦線との最終決戦から外されることになった。

 

その理由は、僕の治癒が強すぎる弊害で、雑になったトップヒーロー達の戦い方を改めさせる為だと、公安委員会から説明された。

 

今回は念写での情報獲得によって事前準備を十分に行えた結果、リスク管理は万全だと公安委員会は判断した。その為、今回の決戦を戦い方の改善へと繋げる場にすると決定された。

 

やや短絡的で、危機意識に欠ける決定だとは思うけど、それだけ念写による情報獲得には大きなアドバンテージがあったのだろう。

 

偉い人への反対意見を述べるのは危険だし、僕には悪影響のない決定だから素直に受け入れた。

 

もちろん、僕の大切な人達への遠隔治癒は内緒で続けているよ。公安委員会の決定なんかより、僕の大切な人達の安全の方が重要だもん。

 

さて、戦い方の改善といっても、そこに治癒系ヒーローが居れば、どうしても心に油断が生じてしまう。その為、公安委員会は治癒系ヒーローを現場から外すと決定したんだ。

 

ちなみに、この戦い方の雑化問題は、爆豪君がヴィラン連合に拐われた一件で、他のプロヒーロー達の戦闘状況を観察していたミルコ姉さんも早くから気付いていた。

 

「他のトップヒーローの奴らは、私と違って頭のネジが外れちまってるからな。負傷を前提とした脳筋丸出しの戦法で戦っていやがった。あれだと、同じ脳筋のヴィラン相手には通じても、搦手を持つ狡猾なヴィランのいいカモにされちまうぜ」

 

戦闘技術に優れたミルコ姉さんが言うのだから、トップヒーロー達の現状は良くないのだろう。

 

脳筋な戦法――ゾンビアタックは僕の必勝パターンでもあるから少し複雑ではあるけどね。

 

「もちろん、相手を見極めた上での相打ち上等なら悪い手じゃねえよ。手っ取り早くてスカッとするしな。だが、現状は何も考えずに突っ込む猪武者が増えてやがる。私がヴィランなら猪の隙を突いて気持ちよく無双してやるぜ。そうだな、機会があれば纏めて蹴っ飛ばしてやってもいいな。そうすりゃ少しは目が覚めるかもな」

 

……えっと。頭のネジが外れてる脳筋ではあるけど、猪ではない兎さんが言うのだから、トップヒーロー達の現状は良くないのだろう。

 

うん。傷を負うことを前提としたゾンビアタックなんて良くないに決まっている。これからは得意技はゾンビアタックと言うのは止めよう。

 

プロヒーロー達の間で本格的にゾンビアタックが流行ったら、真幌ちゃんの弟さんにだって悪い影響があるからね。最近はお淑やかになりつつある緑谷君の影響で、弟さんが持つ理想のヒーロー像が“血を流しながらの逆転ヒーロー”から“可憐でキュートなリリカルヒーロー”に変わってきたって、真幌ちゃんは喜んでいたんだ。

 

ここでその流れを戻すわにはいかない。真幌ちゃんの為にもトップヒーロー達には堅実な戦い方に戻ってもらう必要がある。

 

そうだ!

 

緑谷君みたいに、トップヒーロー達にも女の子になってもらうのはどうかな?

 

そうすれば、緑谷君みたいに少しずつでもお淑やかになって、現状が改善すると思うんだ。

 

「いや、それは止めろ。本人が望むなら別だが、性転換は影響がデカすぎる。それに女になったからといってお淑やかになるとは限らねえよ」

 

──ミルコ姉さんをじっと見る。

 

そっか。女の子だからって、必ずしもお淑やかじゃないもんね。

 

「おい。今、何を考えた。正直に言ってみな」

 

全力ダッシュで逃げ出した。

 

速攻で捕まって、全身くすぐりの刑にされた。

 

僕は笑い転げたけど、身体中を弄るミルコ姉さんの指の感触は気持ち良かった。

 

 

 

 

──超常解放戦線との最終決戦が始まった。

 

そして、最終決戦中は学校が休みになったから、僕は那歩島に来ている。

 

「重ちーッ、会いたかったわ!」

 

港で出迎えてくれた真幌ちゃんが胸に飛び込んで来た。

 

「真幌ちゃん! 僕も会いたかった!」

 

抱き上げた真幌ちゃんと踊るようにクルクル回りながら、互いの親愛を確かめ合う。

 

別れてからまだ数ヶ月なのに、真幌ちゃんは少し大きくなっていた。成長期真っ只中なのは伊達じゃないと思った。

 

再会を充分に喜び合った後、腕の中の真幌ちゃんは、自分のオデコを僕のオデコにくっ付けてから言った。

 

「えへへ、急に会いに来るって言うんだもん。ビックリしちゃった」

 

「なんだか、真幌ちゃんの顔を急に見たくなっちゃったんだ。迷惑だったかな?」

 

「迷惑なわけないよ。あたしは重ちーが大好きだもん。いつでも大歓迎だよ」

 

オデコだけじゃなく、鼻の頭までくっ付けながら、真幌ちゃんはそう言って満面の笑みを見せてくれた。

 

「ところで、三奈お姉ちゃんは来ていないんだよね?」

 

「うん、ごめんね。三奈ちゃんも一緒に来たがってたけど、特別授業があって来れなかったんだ。真幌ちゃんも三奈ちゃんに会いたかったよね」

 

「ううん、大丈夫だよ。三奈お姉ちゃんとはいつも電話で話してるもん。それにね、三奈お姉ちゃんに内緒で相談したいことがあったの。重ちー、聞いてくれる?」

 

真幌ちゃんは不安そうに言った。

 

「もちろんだよ! 僕はこう見えて頼りになる男だよ。なんでも相談してよ!」

 

不安そうな真幌ちゃんを安心させるため、僕は自分の胸をドンッと叩――

 

「ゲホゲホゲホッ!?」

 

「重ちーッ、大丈夫!? 誰かお水を持ってきてーッ!!」

 

真幌ちゃんが慌てて背中を摩ってくれた。その優しい手つきが、梅雨ちゃんに似ていると思った。

 

 

 

 

真幌ちゃんのパパがヴィランに襲われて入院していたそうだ。

 

「今はもう退院して帰っているけど、まだ働ける状態じゃなくてリハビリ中なの」

 

パパは手足に後遺症が残っていてリハビリを自宅でしているそうだ。本当は専門のとこでやる方が良いらしいけど、金銭面で難しいみたいだ。

 

今はまだ貯金があるから暮らしていけてるけど、リハビリが長引けば貯金も底をつく。

 

パパは心配するなと言ってるけど、このままのペースだと働けるようになる前に貯金が底をつくと、頭の良い真幌ちゃんは気付いていた。

 

不安な毎日を過ごしているときに、僕が那歩島を訪れた。僕の顔を見た真幌ちゃんは堪らずに相談をしてしまった。

 

「うん、真幌ちゃんの事情は理解したよ」

 

お金の相談事なんて、慕っている三奈ちゃんにも知られたくないだろう。

 

今回、那歩島に来たのは気紛れだったけど、本当に来て良かった。

 

「安心して、真幌ちゃん。僕が来たからにはもう心配はいらないよ」

 

「うん、重ちーが来てくれて本当に良かった。ずっと…ずっと、不安だったの。こんなこと、誰にも相談できなかった。お金がないなんて…誰にも言いたくなかったの…」

 

誰にだってプライドはある。まだ子供の真幌ちゃんだって家にお金が無いから助けて欲しいだなんて、簡単には口にできる事じゃない。

 

でも、勇気を出してくれた。

 

僕に助けを求めてくれた。

 

それがとても嬉しい。

 

真幌ちゃんに助けを求めてもらえるだけの信頼を得られていた事が、僕は本当に嬉しいんだ。

 

──左足を前方に。両手を上げて、顔を上下で挟むように構える。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴッ。真幌は俺が引き取る。父親と活真には生活保護を申請しよう。なに、心配するな。俺はこう見えて甲斐性はあるからな。遥かな未来、真幌に幸せな一生だったと言わせてみせる自信がある」

 

「うん! あたしも重ちーと幸せになる自信があるわ!!」

 

 

 

 

活真君に――

 

『ふざけんなぁぁぁーッ!!!』

 

――と、飛び蹴りをされて提案を却下された。

 

 

 

 

えい。

 

「痛みが消えました! 流石は治癒系ナンバーワンの重ちーですね! 本当にありがとうございます!」

 

真幌ちゃんのパパは内緒で治す事にした。

 

これはルール違反だから、僕が那歩島から居なくなってから暫くはリハビリを続けてる振りをしててね。

 

「はい、何があろうと口外は致しません。娘の友人であり、恩人でもある重ちーの不利になることなど絶対にしません」

 

真摯に頭を下げているパパの隣で、グルルと唸り声を上げている活真君。

 

なんだか前に会った時より凶暴になってない?

 

隣でお姉ちゃんが困った顔をしているから、せめて外面を取り繕うぐらいしようね。

 

それにしても、緑谷君の影響を受けて、可憐でキュートなリリカルヒーローに憧れてるって話はどこにいったのかな。

 

緑谷君から活真君に写真を強請られたって聞いたから憧れてるって話は本当だと思うんだよね。

 

まあ、緑谷君も元々はバーサーカーだったからね。これから活真君も変わっていくんだと信じよう。

 

ちなみに、僕も緑谷君には可愛いポーズをしてもらって写真を撮らせてもらったよ。一緒にも撮ったんだ。

 

男同士だから遠慮なく肩を組んで撮ったんだけど、真っ赤な顔になった照れ屋さんな緑谷君はすごく可愛かった。

 

 

 

 

那歩島に来たのには理由がある。

 

真幌ちゃんに会いに来たというのも理由の一つではあるけど、それ以外にも人目のない場所で個性訓練をしたかったんだ。

 

那歩島は観光地だけど、今はオフシーズンだから人が少ない。そして、地元民の真幌ちゃんに島民ですら近付かない場所を教えてもらった。

 

「クレイジー・ダイヤモンド!」

 

クレイジー・ダイヤモンドを具現化させる。

 

その雄々しい姿に、見慣れているはずの僕ですら惚れ惚れとしてしまう。

 

彼の逞しい身体を見れば一目瞭然だけど、そのパワーとスピードはトップヒーロー達と比べても群を抜いている。

 

仮免試験時にはシャチのおっちゃんに不覚を取ったけど、あれからレベルアップを果たした今なら遅れは取らない。

 

何しろ、クレイジー・ダイヤモンドの極まったパワーとスピードは『時止め』の域に達している。

 

尚且つ、僕とハーヴェスト(総数五万以上)の同時具現化によって、クレイジー・ダイヤモンドを十万体以上(ハーヴェストは右手が二本あるから具現化数も二倍だよ)も具現化できる。

 

本来なら十万体以上の具現化なんてすれば、生命力があっという間に枯渇するだろうけど、僕には栄養たっぷりの自家製ハチミツがあるから問題ない。最近は自分で飲まなくてもハーヴェストが勝手に注入してくれるから楽なんだ。

 

そんな圧倒的な戦力を誇るクレイジー・ダイヤモンドだけど、このあいだアンナが強化してくれたお陰で更なる進化を果たしたんだ。

 

「やれっ、クレイジー・ダイヤモンド!」

 

僕の命令に従って、クレイジー・ダイヤモンドが近くに転がっていた岩に向かってパンチを放つ。

 

そして、パンチを受けた岩がメタモルフォーゼをして生命体へと変質した。

 

『ギャォォォッ!!』

 

そこには、三つ首の羽の生えた巨大なトカゲ――キングギドラが居た。

 

 

 

 

「凄いわ! 物体を改造して三つ首のドラゴンにしたのね! あのね! あたしのホログラムがレベルアップして実体を持てたら二人で百鬼夜行を率いようね!」

 

真幌ちゃんにキングギドラを見せたら凄く喜んでくれた。

 

真幌ちゃんはホログラムの個性を使ってよく妖怪を見せてくれるからキングギドラも気に入ってくれると思ったんだ。

 

「お、お姉ちゃん。百鬼夜行なんて率いたらヴィランだって思われるよ」

 

活真君が心配そうに言った。

 

「それは大丈夫だよ。僕は正体を隠してくれるマスクを持っているからね。真幌ちゃんの分も用意しておくよ」

 

「ホントに!? 重ちー、ありがとう!」

 

真幌ちゃんがお礼の言葉と共に抱き付いてきて、僕の胸に頬をスリスリと擦り付ける。

 

うんうん。そこまで喜んでもらえたら僕も嬉しいよ。

 

「お姉ちゃん!? よその男にそんな風に抱きつくのはダメだよ!」

 

「活真は何を言ってるの? 重ちーなら家族も同然よ。よその男だなんて言っちゃダメよ。そうね、活真ならお義兄さんと呼んだら良いわ」

 

「良くないよ!? お姉ちゃんは何を言ってるの!?」

 

「あら、お義兄ちゃんが良いの? 活真は甘え坊さんね。ふふ、まるで重ちーみたいね。義理の兄弟なのに揃って甘え坊さんだなんて、これはもう家族になる運命なんだわ」

 

「本当にお姉ちゃんは何を言ってるの!?」

 

仲良く話す姉弟の姿に、梅雨ちゃん家もこんな雰囲気なのかな、と思う僕だった。

 

 

 

 

真幌ちゃん家で、昼食をご馳走になることになった。

 

パパが作った料理を、真幌ちゃんと二人で協力しながら食卓へと並べる。

 

「えへへ、初めての共同作業だね。だけど、ごめんね。重ちーには、あたしの手料理を御馳走したかったのに、パパが妙に張り切って料理を作っちゃったの。もう少し早く気付ければパパを止めれたのになあ」

 

「あのさ、お姉ちゃんの手料理なんか食べさせたら絶対に嫌われ……その方が良かったんだ! お姉ちゃん! いつもの吐き気を催す手料理を作ってよ!」

 

「うふふ。活真、お姉ちゃんと少しお話ししようね。ほら、向こうに行くわよ」

 

「顔が怖いよ、お姉ちゃん!?」

 

ズルズルと引っ張られていく活真君の姿に憐憫を覚える。口は災いの元だよ。

 

だけど、こんな状況でも活真君は助けを求めない。僕はあまり好かれてないみたいだ。

 

まあ、お姉ちゃんと仲良しの男が気に食わない気持ちは分かる。

 

梅雨ちゃんの弟さんも似たような感じだ。妹ちゃんとは仲良くなったんだけどね。こういうのは男女の違いなのだと思う。無理に距離を縮めようとしてもきっと逆効果にしかならない。

 

適度な距離感で付き合う方が、彼の為だろう。

 

「よくも重ちーの前で恥をかかせたわね!! 喰らいなさいッ、真幌スペシャル!!」

 

「お姉ちゃんッ、ごめ――ギャァァァァッ!!!」

 

断末魔のような悲鳴を聞きながら、僕はそう思った。

 

 

 

 

パパの予想以上に美味しい料理に舌鼓を打ちながら、テレビを見ているとリザードマンが一万人以上の異形を率いている場面が映された。

 

「嘘ッ!? 百鬼夜行だ……先を越されちゃった」

 

クスンと、悲しそうに鼻を啜る真幌ちゃん。

 

──真幌の頭をクシャクシャと撫でる。彼女はくすぐったそうに顔を綻ばせた。

 

「安心しろ。百鬼夜行の姫はお前だけだ。紛い物などすぐにも蹴散らそう」

 

画面に映る百鬼夜行は普段着の者もいた。あの程度の再現度で百鬼夜行を気取り、真幌を悲しませた罪は果てしなく重い。それを思い知らせてやろう。

 

「クレイジー・ダイヤモンド!!」

 

俺の呼び掛けに応えて、クレイジー・ダイヤモンドがその本領を発揮する。

 

真幌宅の裏庭に躍り出ると、ドララララッとその拳を振るう。忽ち、その辺りに転がっていた物が無数の妖怪へと変貌していく。

 

「うわあ、クレイジー・ダイヤモンドってあんな呆れた顔もするんだあ。具現化される方も大変なんだね」

 

活真が何かブツブツと呟いている。恐らくは、この俺を心配しているのだろう。

 

「心配するな。あんな紛い物共にやられるほど、俺は弱くはない」

 

活真を安心させる男らしい笑みを浮かべる。

 

「ハァ、重ちーは、お姉ちゃん、それに出久お姉ちゃんに馴れ馴れしくて好きになれないけど、基本的には良い人なんだよね。男子には厳しいけど理不尽とまでは言えないし、女子には優しくて親身になって助けてくれるヒーローだ。きっと、お姉ちゃんから見れば、頼もしくて素敵な人なんだろうな。うん、ここは僕が折れた方がいい。たとえ、重ちーが頭のネジが外れてる変人でも、そこはお姉ちゃんだって同じだもん。必要以上に仲良くする気にはなれなくても、大人な対応をしよう」

 

活真はブツブツと呟いたあと、何かを吹っ切った男の顔つきとなる。

 

「重ちー、騒動は最低限にしてね。共同責任でお姉ちゃんはともかく、僕とパパまで警察のお世話になる羽目にはしないでよ」

 

――つまりは、俺を信じて送り出してくれる。という意味なのだろう。懐からメリッサから貰ったマスクを取り出して装着する。

 

「任せておけ。俺は女の信頼を裏切ったことはない」

 

俺はそう言うと、キングギドラの真ん中の頭に飛び乗った。

 

「真幌! 俺の勇姿をその目に焼き付けろ!」

 

「うん! テレビを見て応援してるね! 偽物の百鬼夜行なんてぶっ飛ばしてね!」

 

真幌の信頼を背負って、キングギドラは颯爽と飛び立つ。その後を追いかけるは畏れを纏う百鬼夜行。

 

「ちょっと待って!! 男の信頼はどうなるの!?」

 

その活真の叫びが、俺の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

☆代弁者スピナー編☆

 

セントラル病院の前に集結した一万五千人を超える異形系の人々。そこにはヴィランだけではなく、一般人も多く含まれていた。

 

異形を率いるのは、異形系の代弁者としていつの間にか知名度が上がっていたスピナーだ。

 

「ハァ、何で異形系のヴィランを率いて病院を襲撃しなきゃならないんだ。スケプティックの野郎も妙な作戦を立てやがって。弔に必要な薬を奪うためって本当かよ」

 

そのスピナーはこの襲撃に乗り気ではなかった。こんな事をする暇があれば、友達であり、最近はめっきりと虚弱体質に拍車がかかった弔の身の回りの世話をしてやりたかったからだ。

 

自分に面倒な役割を押し付けてきた一応は仲間であるスケプティックに対する不満を口にするスピナー。

 

早く終わらせて弔の元に戻ろう。そう考えて、スピナーはその歩みを早めた。

 

 

 

 

かつては、リ・デストロの片腕だった男――スケプティックは諦観していた。

 

リ・デストロを支えて、共に大きくした異能解放軍は、前触れもなくヒーロー集団の襲撃を受けて壊滅した。その際にはリ・デストロも逮捕された。

 

何とか残党を纏めて、ヴィラン連合と合併をして超常解放戦線として再起を臨んだ途端、再び前触れもなくヒーロー集団の襲撃を受けて壊滅した。

 

僅かとなった仲間達を叱咤激励しながら、元ヴィラン連合側の提案に乗り、悪名高きタルタロスに囚われている魔王オール・フォー・ワンの奪還に挑み成功する。

 

さあ、これからだ! というタイミングで、恐ろしい程に効率的に脱獄させた囚人達と仲間達を捕らえていくヒーロー集団に絶望した。

 

スケプティックに残されたのは、僅かに燻る種火のみだった。

 

偉大なるリ・デストロが健在だった頃。自分達が輝いていた異能解放軍時代の思い出のみが、彼を支える種火だった。

 

「――せめて、監獄で待つリ・デストロに有終の美を語りたい」

 

その一心で、彼は不満を抱えた異形系の人々を唆すことに心血を注いだ。

 

異形系の旗頭とするのに、耄碌したオール・フォー・ワンなど論外だった。病弱なその後継者も話にならない。狂乱の魔王? 男の裸踊りにしか興味がない変態はお断りだ。

 

そうだ! スピナーが居た!

 

最近では介護職が板についたスピナーだが、考えてみたら異形系の旗頭にピッタリだと思いついた。

 

スケプティックに残された僅かな種火が、再び大きく燃え盛る。

 

全ては、リ・デストロに胸を張って再会するその日の為に。

 

 

 

 

──ドスン

 

「スピナーが三つ首ドラゴンに潰されたーっ!?」

 

 

☆代弁者スピナー編(完)☆

 

 

 

 

紛い物の百鬼夜行の前に降り立つと、人々が騒ぎ始めた。

 

うん。失敗しちゃった。

 

紛い物の百鬼夜行の主を潰しちゃったみたいだ。いきなりボスを倒したら盛り上がらない。

 

このままだと、僕の百鬼夜行のデビュー戦は台無しになってしまう。

 

だけど、安心して欲しい。

 

僕のリカバリー力を見せてやる。

 

「フハハハ! この世に主は一人だけだ! この俺こそが、真なる百鬼夜行の主だ!」

 

「な、なんだ!? この化け物は!」

 

「俺達と同じ異形系なのか?」

 

「え!? つまりこの三つ首ドラゴンも仲間なのか?」

 

「んなわけあるか! スピナーが潰されたんだぞ!」

 

僕の宣言と、僕の背後に続々と降り立つ妖怪集団――真の百鬼夜行に、紛い物の百鬼夜行は慄く。

 

そんな臆病風に吹かれた紛い物の百鬼夜行と対峙していた集団から、一人が進み出て来た。

 

「――ガウガウ。(うん、この匂いは重清君だね。全く、この作戦には参加しちゃダメだよってあれほど言ったのに参加しちゃったんだね。こうなったら仕方がない。話の流れを上手くコントロールして誤魔化さなくちゃだね)その気配は雄英文化祭に侵入したヴィランだな!」

 

あっ、ハウンドドッグ先生だ!

 

そうか、ハウンドドッグ先生は気配に敏感だからね。雄英文化祭でこのマスクが与える違和感に気付いていたんだ。

 

だけど、今回は丁度いいや。

 

ハウンドドッグ先生の言葉に乗っかって、この場を上手くやり過ごそう。

 

「ほう、文化祭ではこの俺を、あの勇猛果敢で慈悲深く男の中の男であるヒーローの鏡のような矢安宮重清と間違えた愚劣で節穴な目を持つ教師が居たが、優れた教師も雄英には居るのだな」

 

「ガウガウ(またイレイザーが激怒しそうな事を。本当に重清君は困った子だね。ここは早めに帰さないと後がうるさくなりそうだ)お前はオール・フォー・ワンの仲間だったはずだ。もしや仲間割れをしたのか? 言っておくが、今はオール・フォー・ワン陣営とヒーロー側が全面対決中だ。そこに加わるつもりなのか? 加わればきっと面倒なことになるぞ。ヴィラン一人程度なら大事の前の小事だ。引くなら見逃すよ。後ろの妖怪についても聞かないから、早く帰りなさい」

 

「フッ、全てお見通しのようだ。流石は優秀なハウンドドッグ先生だな。あの節穴の目を持つ相澤ならグダグダと意味のない戯言を繰り返して無駄に時間だけが流れていたはずだ。それと比べれば、月とスッポンだな。いや比べること自体がハウンドドッグ先生に失礼だった。ここは素直に謝罪をしよう。そうそう、ハウンドドッグ先生の言う通り、確かに俺はオール・フォー・ワンとは袂を分かつことになった。そして、今さら奴に利する行為をするつもりもない。ここに現れたのも俺の百鬼夜行のお披露目の為であり、それ以上の意味はない。その目的を果たした以上はここにも用はない。いずれ訪れる百鬼夜行が街を練り歩く、畏れに満ちた世界を楽しみに待っているがいい。おっと、見物料は取らないから子供達は安心するといい」

 

「(な、なあ。あの言動ってやっぱり重ちーだよな)」

 

「(そうだな。俺もそう思う。重ちー以外にこんなトンチキな真似はしないだろ)」

 

「(となると、あの三つ首ドラゴンや後ろの妖怪集団は、重ちーがいつもの『えい』で誰かを変身させたのか?)」

 

「(いくら重ちーでもそんな倫理観のない真似を――男相手なら普通にするよな)」

 

「(……なあ、考えてみたらさ。完璧な性転換が出来る重ちーにとって、異形系を普通の見た目に『えい』するのは簡単なんじゃねえか?)」

 

「(ハッ!?)」

 

「(そうだ! 重ちーなら出来るはずだ!!)」

 

「(どうして今まで気付かなかったんだ!?)」

 

「(重ちーに『えい』の依頼は出来るのかしら?)」

 

「(前に雄英卒業したら『えい』の副業するってインタビューで答えてたよ!)」

 

「(よし。俺はもう帰るわ。真面目に働いて依頼料を貯めなきゃだもんな)」

 

「(プロヒーローへの依頼料っていくらだろ?)」

 

「(ねえねえ、普通の見た目じゃなくて美人にしてもらうのって、割増料金がいると思う?)」

 

「(それはやっぱりいるだろ。細かい造形は難しそうだからな)」

 

「(誰か割りの良いバイト知らない!?)」

 

「(まだ二年以上あるんだから慌てるなよ)」

 

真の百鬼夜行を目の当たりにして、紛い物の百鬼夜行も戦意を失ったのか大人しくなり、既に一部は帰り始めていた。うむ、最早ここに居る意味は全くない。

 

僕が率いる百鬼夜行は颯爽とこの場を飛び去った。もちろん、飛び去る前にテレビカメラの前で、真幌ちゃんの為に勝利のジョジョ立ちを決めてみせた。

 

「ガウガウ(イレイザーの悪口をどうしても言いたいんだね。でも、こちらの意図を察して早く帰ってくれてホッとしたよ)百鬼夜行か。ふむ、街を練り歩くだけなら法には触れないな。基本放置でいいだろう」

 

──トカゲのおっちゃんは死なない程度に治しておいた。

 

 

 

 

キングギドラを先頭に、大空を飛翔する妖怪の群れ。それはまさしく百鬼夜行だけど、キングギドラは別として、その後ろに続くのは、真幌ちゃんが考えたどことなくユーモラスな妖怪をモチーフとしている。

 

結果として、あまり人々に畏れを抱かせない。むしろ親しみを感じさせる百鬼夜行になっていた。

 

うん。真幌ちゃんの人柄が出てるよね。

 

キャアキャアと騒ぎながら百鬼夜行を追いかける子供達の姿を見下ろしながら、転びそうになった女の子はクレイジー・ダイヤモンドに助けさせ、転んだ男子には強く生きろと心の中でエールを送る。

 

そんな普段しているミルコ特戦隊のパトロールと変わらない状況だけど、まあいいかと思えるほどに穏やかな昼下がりだった。

 

 

 

 

百鬼夜行を追いかけるのに疲れた子供達と別れたあと、那歩島に帰る前にヒミコちゃんに会いに行くことにした。

 

折角の百鬼夜行だからね。

 

ハーヴェストよ。ヒミコちゃんはどこに居るの?

 

《雄英で戦闘中。邪魔だから行くな》

 

ふーん。戦闘中なんだ。

 

怪我する心配はないかな?

 

《ヒミコ嬢の全身は隈なくガードしてる。オールマイトが相手でも無傷で守れる》

 

うんうん。ハーヴェストは頼りになるね。

 

さてと、ヒミコちゃんの邪魔はしたくないから会いに行くのはやめよう。

 

その代わり、梅雨ちゃんとこに行こうかな?

 

梅雨ちゃんなら戦闘の邪魔になったとしても怒ったりしないからね。

 

《怒らないけど、困ると思う》

 

困らせたらちゃんと謝るから大丈夫だよ!

 

──百鬼夜行を、梅雨ちゃんの元へと颯爽と向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──遂に超常解放戦線との最終決戦が始まりました。

その最終決戦の場に、私の重清くんの姿はありません。

ヒーロー公安委員会からの指示なのです。

超常解放戦線との最終決戦という大舞台から外されたなら、ヒーロー候補生としては意気消沈してしまうのです。

私でもきっとショックを受けると思います。

ヒーローを志した者としては当然だと思います。

そして、当然のように私の重清くんは大喜びでした。

グヌヌと悔しがる相澤先生の前で――

『僕の熱いヒーロー魂は、超常解放戦線との決着をこの手で決めたいと叫んでいる。だけど、上からの指示を守れない男にヒーロー足る資格はない。僕は、僕が信頼している皆に全てを任せる。みんなっ、頑張ってね!』

――と、ドヤ顔で煽っていました。





私の担当は雄英高校になりました。

ここでは、重清君の宿敵の一人である“死柄木弔”を迎え討つ予定です。

死柄木は伝播する崩壊という恐ろしい個性の持ち主です。受けると即死しちゃいます。

崩壊対策については直前に説明されましたが、重清くんの治癒と比べれば、危険度はビックリするぐらいに跳ね上がります。

重清くんが個人的に遠隔治癒の対象にしている人以外は死を覚悟したほどです。

なので、この場所に割り当てられたのは、その重清くんが個人的に遠隔治癒の対象にしている人達が中心になっています。

これも公安委員会に振り回されるヒーロー達による生き残る為の知恵なのです。

治癒という確実な対策があるのに、治癒に頼らない戦い方をしろだなんて、偉い人は勝手なことばかり言います。真面目に相手をしていては命が幾つあっても足らないのです。

あッ、死柄木が転移されて来ました!

──パチン

あッ、Mt.レディに両手でパチンと潰されちゃいました。

「こんなもの効くかァァァッ!」

あッ、彼は自己再生を持っているんでした!





──パチン

「デカ女崩れろッ! って効かねぇ!?」

──パチン

「なら地面を――なんで直るんだ!?」

──パチン

「崩壊を封じたぐらいで勝てると――」

──パチン

「まだ喋ってる途ちゅ――」

──パチン

「まだまだァァァッ!!」

──パチン

「こ、このままやられ――」

──パチン

「ちょ、ちょっとは休憩をさせ――」

──パチン

「いや、本当にちょっと待っ――」

──パチン

「そ、それでもお前はヒーローなの――」

──パチン

「テメエの血は何色ッ――」

──パチン

「こ、交渉をしよ――」

──パチン


これって、いつまで続くのですか?






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