──眉間を穿たれた狂乱の魔王は、大の字になって地面に倒れた。
そのあっけない最期に、僕は哀れに思う気持ちを抑えられなかった。
「さようなら、狂乱の魔王。せめて安らかに眠ってね」
日本中の女性達を恐怖のどん底に陥れた狂乱の魔王だけど、僕は覚えているんだ。
初めて出会った時のことを。
――おいおい、いくら何でも重ちー相手に凄むなよ。ガキ相手にダサ過ぎるだろ。
――俺らは関係ないから先に帰ってるぞ。あぁ、念の為に言っておくが、俺らがいなくても支払いを踏み倒すようなクソダセエことすんなよ。
あれは、おっきなおっちゃんと共に、ブラック経営者としての弔さんと初めて対峙したときの事だった。
ブラック企業の社員だった狂乱の魔王は、どんな気の迷いがあったのかは定かじゃないけど、間違いなく僕ら寄りの発言をしてくれた。
どんな凶悪なヴィランでも、その全てが邪悪な物質で構成されているわけじゃないんだ。その心には微かにだけど、温かい光成分もあったんだ。
腕の中のバーニンの熱い身体を感じながら、僕は自分自身の無力さを思い知らされていた。
大切なバーニンの窮地を間一髪で救うことは出来たけど、狂乱の魔王の微かに光成分が混じった心は救えなかった。
「救えなくてごめんね、狂乱の魔王。君の分まで幸せになるから、安心して成仏してね」
ぎゅっと腕に力を込める。柔らかさと弾力さが合わさった幸せな感触を感じながら、僕は自分の弱さと向き合った。
「おい、重清。狂乱の魔王はまだ生きてるぞ」
腕の中の大切なバーニンが言った。
彼女の髪に顔を埋めてその匂いを堪能していた僕は、慌てて顔を上げると狂乱の魔王へと視線を向けた。
「うぅ…」
視線を向けた先には、気持ちの悪い仮面の眉間部分に弾丸をめり込ませながらも、呻き声を上げて気絶している狂乱の魔王の姿があった。弾丸のめり込み具合から推測すると、脳には届いていないだろう。
えぇっ、あの気持ちの悪い仮面はどんだけ丈夫なの!?
──クレイジーダイヤモンド!!
カイナお姉さんの元へと慌てて向かった。
*
「いや、流石に気絶した相手を撃つのは不味いな」
カイナお姉さんに追加の射撃をお願いしたけど、期待した返事はもらえなかった。
ムムム、公安委員会からデッドオアアライブが出ているのに、気絶した相手だと撃ったらダメなの?
「ああ、あくまでも捕縛命令だからな。戦闘中なら殺っても不可抗力の処理で済むが、無力化した状態で殺れば、下手すりゃこちらが非難されかねないぜ」
うーん。そう言われたらそう思えてきた。
大勢のヒーロー達の前で、気絶した相手を殺るのは危険性が高いかもだ。話の分かるヒーローなら見逃してくれるだろうけど、正義バカなヒーローだとそうはいかないだろう。
大勢の正義バカヒーローに詰められたら厄介だね。もちろん、正義バカヒーローとはいえ人間だもん。探れば弱みの一つや二つは見つかると思う。それで脅せば口を閉ざしてくれるだろうけど、それには手間と時間が掛かり過ぎる。
カイナお姉さんの言う通り、今の状況で撃つのは不味い。話の分かるヒーローと、手間と時間を掛けても惜しくない女性の正義バカヒーロー以外をまとめて口封じで撃つのは、流石に少しやり過ぎだと思うしね。
カイナお姉さんの先を見通す慧眼には納得するしかない。流石はカイナお姉さんだとウンウンと頷きながら納得していると、真剣な声色で話し掛けられた。
「……重清、少し話がある」
あれ?
カイナお姉さんが顔を顰めているけど、どうしたの?
「いや、私が言えたことじゃねぇのは重々承知の上だがよ。重清には光の世界にいて欲しいんだ。だからヒーローの……いや、道徳についての話がしたい」
ふーん?
よく分かんないけど、今は忙しいから今度でいい?
「ああ、そうだな。ミルコにも教育には協力してほしいからな。日程の調整をしてから連絡するよ」
うん、わかった!
カイナお姉さんにそう答えたあと、僕はバーニンの元へと戻った。
*
「――ッ!? あ、あのな、重清。急に消えたり現れ――いや、やっぱりなんでもない。自由奔放なのがお前の魅力だもんな。うん、何も気にするな! 何があろうと、私はずっと味方だぞ!」
バーニンをぎゅっとしていた元通りの状態になってから時間を動かしたら、何故か彼女をビクッとさせてしまった。
ウムム?
腕の位置を間違えたかな?
うん、次からは気をつけよう。
*
狂乱の魔王の様子を窺うと、まだ気絶していた。
気持ちの悪い仮面は、弾丸の貫通は防いだけど、その衝撃は殆ど防げなかったみたいだ。
よし、とりあえず傷の具合を見てみよう。もしかしたら意外と致命傷かもしれないからね。それなら後は放っておけばいいだけだ。
そうと決まれば名残惜しいけど、腕の中の大切なバーニンから離れよう。彼女の無事を祝うためにその頬に優しく唇を触れさせてから、僕はそっと彼女から離れる。
僕はトコトコと倒れている狂乱の魔王に近付いた。
「えっと、そこのちょうど良い場所にいる轟君。その気持ちの悪い仮面を外してくんない?」
狂乱の魔王が被っている気持ちの悪い仮面。それに触れるのは何となく嫌だったから、近くでボーッと立っていた轟君に頼んで外してもらう。
「ああ、いいぞ。このデカい鉄仮面を外せばいいんだな。――どっこいしょっと……ん? コイツの顔、どこかで見たことがあるような?」
狂乱の魔王の素顔――ツギハギだらけの顔を轟君はジッと見つめている。その表情が少しずつ驚愕の表情へと変貌していくんだけど?
あっ、まさか一目惚れしちゃったの!?
うーん。新たな男男関係の発生かあ。
個人的には理解しがたい男男関係だけど、轟君とは燃えてるおっちゃん繋がりで友人関係だと言っても過言じゃない関係性なんだよね。ここは友人として協力すべきかなあ?
うーんうーん。よし、決めたぞ!
──両足を交差させて立つ。左手は身体に巻きつけ、そして右手は天へと高く伸ばす。
「ゴゴゴゴゴゴゴッ、届かぬ想いを掴むためガムシャラに足掻くその姿は心に響く。我が友よ。微力ながらその背を押させてもらおう」
──クレイジーダイヤモンド!!
そして全てが凍りつく。
*
轟君ラブラブ大作戦の開始だよ。
①:狂乱の魔王のツギハギが無かった頃にまで元通りに戻す。これで狂乱の魔王だとは誰にも気付かれないだろう。(子供になっちゃった)
②:狂乱の魔王の口から、僕にとって不都合な情報が漏れないように、若返った年齢から今日までの記憶を全て消去する。これで一安心だね。
③:クレイジーダイヤモンドに、狂乱の魔王を轟家の玄関口まで運搬してもらう。うん、後は轟家に任せるから幸せになってね。
④:その辺に転がっている岩にエイッと生命エネルギーを注いで、ツギハギだらけの狂乱の魔王(偽)へと変身させる。
⑤:そして全ては動き出す。
⑥:「グハハハッ! 狂乱ノ魔王ハ負ケヌ! 全員死ヌガイイッ!!」突然起き上がった狂乱の魔王(偽)が暴れ出した。←今ここ
*
狂乱の魔王(偽)は、口から石礫を射出しまくってヒーロー達と激闘を繰り広げている。
そのツバが混じっているだろう石礫には触れたくないし、狂乱の魔王(本物)の排除という目的は達した。
狂乱の魔王(偽)には、大切なバーニンに攻撃を当てないように命令済みだ。そして、注いだ生命エネルギーが尽きる前に、空高く飛んでいって跡形もなく自爆しろとも命令してるから証拠隠滅も完璧なんだ。
「じゃあ、僕らはそろそろ帰ろう」
ボケっと激闘を眺めていたリューキュウの背にトコトコと歩いてきたカイナお姉さんを乗せてから、僕はバーニンに別れを告げる。
「俺の大切なバーニン。無理はするなと言いたいところだが、それはヒーローとしての矜持が許さないだろう。故にこう言わせてもらおう。お前が平和の為に戦うとき、その背にはいつでも俺がいる。お前が世界の不条理に涙するのなら、俺が世界をも変えて見せよう。俺の心は常にお前と共にある。バーニンはその心が命じるがままに自由に燃え盛ってくれ。そんな炎のような君こそが、俺が大切に想う、俺のモエだからだ――」
モエの耳元で囁いたあと、後ろに下がり彼女の全身を視界に入れる。その姿は戦いの余波で乱れてはいたけれど、彼女の燃えるような美しさは全く損なわれていなかった。
「(アァッ、もうッ! 戦場の横で何言ってんだコイツは! こんな場所じゃいちゃつけな――アァァァッ! 今のはナシ!)わかった! 気をつけて帰れよ! それと今日は助かった!…… (やっぱり、ちょっとだけならいいよな)」
美しいモエに見惚れていると、彼女は自分の髪をクシャクシャと掻き乱すと怒鳴るように言った。そして少し逡巡したあと、一歩踏み出して身を預けてきた。
「──これはその礼だ。重清、ありがとう。来てくれて嬉しかった」
真っ直ぐに見つめてくる黄色い瞳は潤んでいた。そして、その瑞々しくぷっくりとした紅い唇がゆっくりと──それは啄むようなキスだった。
*
「ねえ、やっぱり重清君は、そのうち刺されるんじゃないかしら?」
「前にも言ったが、そこまで深刻な状況じゃない。重清はまだまだ子供だからな、親しい女相手に甘えているだけだ。バーニンも甘えてくる子供を揶揄っているだけだろ。フフ、あんな無鉄砲で無茶苦茶な子供相手に本気になる物好きは私ぐらいだ」
「そ、そうかしら。私としては別の意見があるのだけど……まあ、男女関係に口を挟むのは野暮ってものね。それに重清君にはエリちゃんがいるもの。もし滅多刺しにされたとしても大丈夫よね――ハァ、それにしてもネジレも厄介な相手に引っ掛かったものね」
*
移動中、カイナお姉さんとリューキュウには協力してもらった礼儀として、流石にバレたら不味い部分は誤魔化しながらだけど、狂乱の魔王(本物)の顛末について話した。
そしたら頭が痛そうな顔になったリューキュウに『今日はもう疲れたから店仕舞いにするわ』と言われてポイっと捨てられた。
苦笑いのカイナお姉さんはリューキュウと飲みに行くと言って、彼女を誘って空の彼方へと消えていった。
いってらっしゃーい! 飲みすぎないでねー!
*
一人になった僕は街を散策しながら、これからの予定を考えていた。
今からだと残りの作戦場所を覗きに行くには遅いと思う。
到着したらとっくに終了している可能性が高い。それだと無駄足になってしまう。
そうだ!
マナミお姉さんとこでネットゲームでもやらせてもらおう。
最近、ヒゲのおっちゃんが就職したらしくて昼間は暇してるって言ってたんだ。
今なら遊びに突然行っても歓迎してくれるだろう。
マナミお姉さんのお宅へと、僕は颯爽と向かった。
*
“彼女”と出会えたのは偶然だった。
ただの気まぐれで、いつもとは違う道を歩いていたんだ。
それで出会えた。
雄英に入学以来、背がぐんぐんと伸びたこの僕が、見上げるような巨体だった。
あの恵まれた体躯を誇るスターをも軽く上回っているだろう。
その高い頂を見上げ、僕の胸は高鳴った。
もちろん、いくら巨体だといっても巨大化したユウ姉には敵わない。
だけど違うんだ。
ユウ姉の巨大化が非日常だとすると、彼女の巨体は日常なんだ。
日常に自然と存在しているんだ。
そう、彼女はあるがままの自然だったんだ。
雄大な自然なる巨体。
その景色に、登山家ならぬ、登人家たる僕の血が騒がないわけがなかった。
もしも、他人に『なぜ人に登るんだい?』と問われたなら、僕はこう答えるだろう。
──そこに人がいるからだ。
さあっ、行かん!
未知なる人の頂へ!!
*
悲鳴を上げられた。
*
「もうダメだよ。勝手に他人の身体に登るのはマナー違反だからね。今回は重ちーのことを知っていた私だから良かったけど、重ちーを知らない相手だったらヒーローを呼ばれていたかもだよ。もしそうなっていたら、夕方のニュースで『重ちーが登人中にヒーローに保護される』っていう報道をされてお茶の間で爆笑されていたと思うの」
うん、本当にごめんなさい。
つい熱くなって周りが見えて無かったんだ。
次からは自己紹介をして、知り合いになってから登らせてねってお願いするようにするね。
「ええ、それでいいわ。重ちーは素直な良い子だね。それじゃあ、改めて私に登る?」
お姉さんは『はい、登っていいよ』って言うと、僕を受け入れるように両手を大きく開いてくれた。
その動作でぷるんと震える巨大な二つのモモ。
その絶景を目にしたとき、僕は本当の意味でお姉さんの姿が脳裏に焼きついた。
お姉さんは異形型の女の子だった。キツネっぽい可愛い顔立ちに、巨体だけど均整のとれた身体は女性らしいラインを描いていた。
ふと気づいたら、その大きく開いた腕の中に飛び込んでいた。
「うふふ、テレビで言ってた通り、重ちーはハグが好きなんだね。うん、いいよ。重ちーが満足するまでハグをしようね」
身体が果てしなく沈んでいくような錯覚を覚えるほどに柔らかくて温かくて安心するモモに包まれながら、僕はお姉さんの優しげな声にも包まれた。
*
可愛いお姉さんと友達になった。
*
可愛いお姉さんの自宅に招待された。彼女は一人暮らしをしてるそうだ。
お邪魔しまーす。
部屋に入ると、より一層に可愛いお姉さんの大きさが目立った。
ペタンと女の子座りをする可愛いお姉さんだけで、部屋が女の子でいっぱいになった感じがしてお得だと思えた。大きい女の子は正義だよね。
「もう、女の子に大きいは褒め言葉じゃないからね。うふふ、だけど重ちーだと褒められた気分になっちゃう」
可愛いお姉さんは照れた様子で、頬を両手で挟んで左右に身体を揺らしていた。
うん、可愛いね。
*
可愛いお姉さんに淹れてもらったお茶を飲みながら、僕らは友好を深め合う。
「あの雄英高校のヒーロー科でも殆ど負け知らずなんだ。それはすごいね。うふふ、だけど唯一の黒星がヒミコちゃんなのが重ちーらしいね」
ヒーロー科の話は珍しいみたいで、可愛いお姉さんは楽しそうに笑ってくれた。
「ふうん、雄英高校の教師でもマリッジブルーになっちゃんだ。でも女の子にとって結婚は人生の一大事だもん。その先生の気持ちは分か――マリッジブルーになったの男の方なの!?」
情けない担任教師との話題で、可愛いお姉さんと盛り上がった。
「へ、へえ。今どきの男子高校生は男男関係の悩みが多いんだ。少し意外かも」
同級生の赤裸々な問題を話したら、可愛いお姉さんは目を丸くした。
「特戦隊の正規メンバーが揃っちゃったからもう事務員さんの出番はないんだ。それは少し残念かな? 事務員さんのやけっぱちな感じの名乗りが面白かったもん」
意外と人気のあった事務員さん。これは事務員さんの正規メンバー入りを提案すべきかな?
「あっ、思い出した! 前にテレビで見たけど、Mt.レディとの共演で巨大化した彼女のおっぱいにしがみついたのはダメだよ! 不思議と炎上はしなかったけど、普通なら非難されちゃうよ! もう、笑って誤魔化そうとしちゃダメ!」
営業活動のダメ出しに、笑って誤魔化そうとしたけど、可愛いお姉さんに叱られた。
「そろそろご飯の時間だね。えっと、あまり美味しくないかもだけど、重ちー食べてく?」
可愛いお姉さんの手料理をご馳走になった。
「うふふ、重ちーは美味しそうに食べてくれるから嬉しいな。またいつでも食べに来てね。次は重ちーの好物を用意しとくからね」
可愛いお姉さんと次の約束をした。
さてと、あまり長居しすぎても迷惑になるだろう。
じゃあ、そろそろ帰るね。
「うん、今日は楽しかった。本物の重ちーは、テレビ通りの素敵な男の子だったよ。えへへ、ちょっぴりトガさんが羨ましいな……なーんてね! じゃあ、約束忘れないでね! ご飯作って待ってるからね!」
お別れのハグをしてから、僕は可愛いお姉さんに見送られながら部屋を後にした。
*
雄英の近くの住宅街にその店はあった。
洋風の隠れ家的な雰囲気の喫茶店だ。
ゴールドティップスインペリアルの優雅な香りを嗜みながら、僕は食後の一休みをしていた。
この時間が好きだった。
心地よい満腹感と、穏やかに過ぎていく時間。
世俗から離れた独特な雰囲気が漂っていた。
不意にチリンと、ドアベルが鳴った。
新たな客が訪れたようだ。
「ハーイ、重清君じゃない。フフ、またここで会ったわね。この喫茶店は良い雰囲気だものね。君が好むのも分かるわ」
親しげに話しかけて来た来客は、見事な金髪を輝かせたメリッサだった。
彼女は文字通りの日本人離れしたボリュームたっぷりのスタイルを誇る金髪美少女だ。
メリッサとは友達だけど、歳上のお姉さんでもあるから甘えさせてくれる女の子なんだ。アメリカ女性らしく、親密なスキンシップが遠慮なくできる貴重な存在だ。
「こーら、私は誰彼構わず親密なスキンシップなんてしないしさせないわよ。ちゃんと相手を選んでいるのよ。そこんとこを理解しなさい」
メリッサは人差し指で、僕の頬を突つきながら文句を言った。
うん。今のは誤解を招く失言だった。
よし、言い直そう。
メリッサとはとても仲良しだから、親密なスキンシップも許してくれる間柄なんだ。そしてきっと僕以外には仲良しな男友達はいないと信じている。
「もう、男のジェラシーは格好悪いわよ。でも、そう思ってもらえるのは悪い気分ではないわ」
そう言いながら腕を組んできたメリッサは、顔を近付けてニッコリと笑った。
そして、その二つのモモの感触は、とても気持ち良かった。
*
老マスターが置いたパフェに笑顔を見せながら、メリッサは言った。
「ふうん。それで、その最終決戦から外されちゃったのね」
メリッサとの世間話で、超常解放戦線との最終決戦についての話をした。
かつては強壮を誇ったであろう超常解放戦線の勢力だけど、今や風前の灯といえる状況だった。
超常解放戦線の三巨頭といえる、オール・フォー・ワン、死柄木弔、狂乱の魔王。
この三人のカリスマで辛うじて維持しているけど、三巨頭の一人である狂乱の魔王(偽)は時間的にそろそろ自爆をしている頃だ。
残るのは二人だけだ。
オール・フォー・ワンは、ハイパームキムキなおっちゃんや燃えてるおっちゃん、おっきなおっちゃん達を筆頭にした年配のトップヒーロー達が囲んでボコボコにしているだろう。
弔さんは個性対策を施した雄英高校で比較的若いトップヒーロー達が囲んでボコボコにしているはずだ。
そんな数の暴力が発揮できる状況であったとしても、あの二人は捕縛のために手加減して戦えるような甘い相手じゃない。ヒーロー側が勝つには、二人の命を奪うしかないだろう。
スタンド使いとして因縁のある二人が、僕とは関係のない場所で最期を迎えるのだと思うと感慨深いものがある。
「はい、アーンして」
メリッサから差し出されたクリームをすくったスプーン。僕は大きく口を開ける。
パクッと食べると甘くて美味しい。
「うふふ、喜んでもらえて良かったわ」
笑顔のメリッサはそう言うと、クリームをすくいパクリと食べた。
「うん、美味しいわ。やっぱりここのパフェは絶品よね。はい、アーン」
再び差し出されるクリームをすくったスプーン。僕は再び大きく口を開いた。
そんな穏やか時間が流れる中、今日中には最期の時を迎えるであろう二人に想いを馳せた。
──さらばだ。我が宿敵ディオと手フェチ野郎よ。願わくば、来世では浄化されてから生まれて来てくれ。
「あらあら、口元にクリームがついているわよ。ふふ、子供みたいね。はい、取ってあげるからこちらを向いて」
うん、お願いするね!
メリッサの方に顔を向けると、彼女は顔を寄せて、僕の口元についていたクリームをペロッと舐め取ってくれた。
「はい、綺麗になったわ」
そう言って、慈愛に満ちた笑みを見せるメリッサ。お姉さんな彼女はいつもお世話をしてくれるから助かるんだ。
隣に座り、身体をくっ付けてくれているメリッサの体温と柔らかさを感じながら、僕はジョジョ世界でのハーヴェストの本体にも思いを馳せる。
──ハーヴェストのかつての本体さん。君の仇はとったよ。安らかに眠ってね。
この瞬間、僕を縛っていたスタンド使いの宿命から解き放たれた気がした。
これからはスタンド使いとしてではなく、この世界に生きるヒーローとして数々の苦難に立ち向かう事になるのだろう。
それは決して容易い道のりではないと思う。だけど、僕にはジョジョの仲間達にも負けないこの世界の仲間達がいるんだ。
仲間達と力を合わせれば、乗り越えられない苦難などありはしない。
さあっ、僕らの戦いはこれからだ!
──ところで、太ももに置かれているメリッサの手がサワサワと動いていてゾクゾクする。アメリカ女性のスキンシップはくすぐったいよね。
*
「――というわけで、轟君と少年(元狂乱の魔王)のキューピッド役をして上げたんだ」
校舎の裏庭で梅雨ちゃんに膝枕をしてもらいながら、僕らは世間話に花を咲かせていた。
「そんなことがあったのね。色々と聞いちゃいけないことがてんこ盛りだったけど、それは棚に上げておくわね。それでね、手段は兎も角として、友達のために動けた事はとても偉いことだわ。重清ちゃんはちゃんと成長しているのね」
梅雨ちゃんはそう言って、優しげな顔で褒めてくれた。
「だけど、今の話を他所でしてはダメよ。特に轟ちゃんには申し訳ないと思うけど、彼には絶対に言わないでね。余計な波風は立たせたくないもの」
うん、そうだね。
キューピッド役をして上げたよって、そんな恩着せがましいこと言うのはダサいよね。
「……そうね、そんなダサいことを口にしなくても、重清ちゃんの頑張りは私がちゃんと知っているわ。本当に偉かったわね、重清ちゃん――ケロ」
梅雨ちゃんは褒めながら、僕の頭を優しく撫でてくれた。
そして、頑張ったお陰だろう。
僕の前ではあまり出してくれない梅雨ちゃんの舌が珍しく出てたから、ついパクッと甘噛みしちゃったけど、梅雨ちゃんに怒られなかったんだ。
偉いことはするもんだね!
*
ヒミコちゃんもきっと褒めてくれるだろうとウキウキしながら、僕は偉いことをしたんだよって自慢した。
そしたら、その場に正座させられた。
え、正座っ!?
どういうことなの!?
── Mt.レディと死柄木の戦いはまだ続いています。
いつまでパチンパチンとしているのでしょうか?
変化が無さ過ぎてもう飽きたのです。いい加減にして欲しいのです。
「想定よりも死柄木は体力がありますわね。このままではMt.レディの気力が先に尽きますわ」
「そうだね。いくら肉体的な負荷はなくても、人を潰し続けるのは精神にくるよ。少なくともウチだったらここまで持たない」
「そっかな? 溶かすのと比べたらマシじゃん。ほら、原型が残ってるよー」
「うん、三奈ちゃんにとってはそうだね。重清君がいると遠慮なく溶かしてるもんね」
「ウップ……失礼しました。つい思い出してしまいましたわ。また暫くはお肉を食べれそうにありませんわ」
「はぁ……ミルコヒーロー事務所の戦闘は精神的に厳しいよね。肉体的には無傷になるから治療費が掛からんのはお財布的にはありがたいけど、もしかしたら事務所選びを早まったかも?」
「お茶子ちゃん……あの、お茶子ちゃん。もしも本当に辛いのなら、私の重清くんに頼んでエイっとしてもらえばストレス耐性を上げて貰えるのです」
「それって脳を弄るって事だよね!? 私は大丈夫だから絶対に遠慮するんよ! ――ねえ、もしかしてヒミコちゃんはエイってして貰ったの?」
「いえ、してないですよ。以前にテスト対策で記憶力アップとか出来ないかを尋ねたら『──損傷した脳を元通りに戻すだけなら簡単だけど、脳の機能に干渉することはとても繊細で危険な行為なんだ。だから、ヒミコちゃんには絶対にしたくない』って、私でも初めて見るぐらい真剣な顔で言っていたので、とてもじゃないですが頼む気にならないのです」
「そんなの人に勧めたらダメなんよ!?」
♡
「死柄木の体力もそろそろ尽きそうだな」
数百回と繰り返される圧殺と復活を黙って見続けていたミルコさんでしたが、彼女の見立てではやっと終わるみたいです。
死柄木と名乗るヴィランは、何の見せ場もなくこのまま捕縛されるのでしょうか?
これでは重清くんへの土産話にならないのです。Mt.レディのグロ耐性しか話すことがありません。
何かないのでしょうか?
ビックリドッキリな隠し玉があるのなら、早く見せないと手遅れになっちゃいますよ。
「もういい加減にしてよ! こんなのただの見世物じゃないか!」
ああっ!?
緑谷君が死柄木を庇いました!
女の子の姿のままなので、なんだかヒロインっぽい雰囲気でMt.レディに訴えています。
「お、お前…!? ヘブッ!」
緑谷君の言葉に刺激を受けて、虚無顔でパチンパチンしていたMt.レディの顔に生気が戻りました。そして、緑谷君のその行動に希望に満ちた表情を見せた死柄木でしたが、すぐにパチンされました。
「緑谷君、これは必要なことよ。あなたから見たらただの残酷ショーかもしれないけど、死柄木の崩壊の個性とまともに相対すればとんでもない被害を受ける可能性が高いの」
Mt.レディはパチンパチンしながら聞き分けのない子供に言い聞かすような感じで、緑谷君に語りかけます。先輩ヅラのドヤ顔が輝いているのです。
ふふ、でもそんな常識的な言葉は、非常識なぐらいに頭の固い緑谷君には届かないのです。カキンと跳ね返されちゃいます。
「そんなことを言ってんじゃない!! 苦しみを長引かせるやり方だとどんなしっぺ返しが来るか分からないじゃないか!! 敵は反撃されないように一撃で木っ端微塵にしなきゃいけないんだ!! そうだよ。敵は殺す。敵は殺す。敵は殺す。皆殺しだッ!!!」
「デクくんの発作が始まったんよ! 私が抑えておくから誰か薬と水を持って来て!!」
「分かりましたわ! すぐに持って来ますから緑谷さんをお願いします!」
「葉隠ッ、芦戸ッ、ウチらも緑谷を抑えるのに協力するよ!」
「わかった! 彼の手足を切り落とせばいいよね!」
「葉隠のナイフで切り落とすより、溶かす方が早いよー!」
「やっぱり葉隠と芦戸は見学してろ!」
「「えー!!」」
「なあ、やっぱりうちの組の女子って怖いよな」
「うむ、ヒーロー科の女子といえば世間一般では心優しいと評判なのだがな。現実とはいつでも非情なものだ」
「B組が羨ましいぜ。でもさ、今の会話だけ聞いたら耳郎はまともそうに思えるよな」
「その耳郎だが、緑谷に全力で音波を放っている。タフな緑谷だからこそ耐えているが、某なら全身の毛細血管を破裂させて倒れているだろうな」
「耳郎の奴はさ、四肢欠損をさせなきゃいいと思ってそうだよな」
「フッ、所詮はプラグで眼球を平気で抉る鬼御前だ。もしかしたらまともな女子なのかな? などという過度な期待はしない方が賢明だ」
「いや、全くしてねえよ」
「喧しい! 男子共は手伝わないのなら黙れ!!」
「「ウッス!!」」
「デクッ、テメェはさっさと正気に戻りやがれ!!」
「ちょっと爆豪君!! どさくさに紛れてデク君のおっぱいに触らないで!!」
「今はそんなこと気にしてんじゃねえ!! デクの怪力を抑えんのに触る場所なんか気にしてられるかッ!!」
「オイラも手伝ッ、ブゲラッ!?」
「峰田が爆豪に爆破された!?……まあ、下心丸出しだから当然だな」
なんだか賑やかになって来ました。
私もこの騒ぎに乗り遅れないように参加したいところですが、何故か身体が動かないのです。
これは、ハーヴェストが抑えているのだと思います。きっとこれから危ないことが起こるのでしょう。
と考えていた次の瞬間でした。
「ウォォッ! このまま終わらねぇぞッ!」
Mt.レディが爆豪君の爆風で目を閉じた一瞬の隙をつき、死柄木が床に触れると崩壊が始りました。
あれ、おかしいですね?
先程までは、ハーヴェストが直していたのですが?
ああ、分かりました。私が退屈していたから気を利かせてくれたのですね。
ふふ、ハーヴェストはとても優秀なのです。
──そして、真の最終決戦が始まりました。
♡
──お茶子ちゃんと緑谷君に爆豪君、そして死柄木。彼女、彼らを巡る四角関係が織りなす愛憎劇がアクセントとなり、先が読めないスリルあるバトルラブアクションは中々に見応えがありましたが、その最終決戦もとうとう決着がつきました。
この最終決戦だけで長編映画が一本つくれそうな程に盛り上がりましたが、個人的には酷い目にあった最終決戦だったのです。
いえ、怪我とかはありません。戦闘中に飛んできた瓦礫や流れ弾や人間とかは、全てハーヴェストが具現化してくれたクレイジー・ダイヤモンドが殴り飛ばしてくれたので、私は無傷で済んだのです。
ただ、全身が埃だらけになっちゃいました。
重清くんへの土産話がたくさん出来たのは嬉しいのですが、汚れたくはありません。
いつでも、私の重清くんが自慢できる可愛い私でありたいのです。
なので、ゆっくりと身支度を整えてから重清くんに会いました。
重清くんがニコニコしています。なにか良い事があったみたいですね。
ニコニコしている重清くんから自慢話を聞きました。
大きな声で、言ってはいけない秘密なことも自慢しまくりです。
待って下さい、重清くん。ここは雄英高校ですよ?
近くに人影はありませんが、どこで誰に聞かれているか分かりませんよ?
こんな不用心な場所で、嬉しそうに自慢話をする様子は、見ていて微笑ましくて可愛くはあるのですが、私はこう思うのです。
もしかして、アホなのでしょうか?
はい、もしかしなくてもアホだったのです。
とりあえず、正座して下さい。
はい、ここでして下さい。
今すぐして下さい。
今日はとことんお話をするのです。
重清くんのお喋り癖が治るまでお話をするのです。
イヤイヤしてもダメなのです。
最初は、『秘密』という言葉の意味からお話をします。
あっ、逃げないで下さい!
ハーヴェスト! 重清くんを連れ戻して下さい!
はい、お帰りなさい。
ふふ、私のお願いをハーヴェストが聞いてくれたのは、別にハーヴェストがバグったわけじゃないですよ。
ほら、ハーヴェストは重清くんの分身ですよね。
じゃあ、想像して下さい。
お二人の立場が逆だったとしたら、重清くんはハーヴェストと私。どちらの言葉を優先してくれますか?
はいっ、納得してもらえて嬉しいのです!