重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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ファイナルシーズン(残された傷跡)

 

── 超常解放戦線との最終決戦は、ヒーロー側の勝利で幕を閉じた。

 

「――誰一人欠ける事なく作戦を終えることが出来たのは、誰か一人の力ではなく、ここにいる皆が力を合わせた結果だ。ヒーローとは孤独じゃない。背中を預けられる仲間がいることを忘れるな」

 

授業が再開された最初のホームルームで、担任の相澤先生がもっともらしい言葉を口にしていた。

 

「ねえねえ、轟君。相澤先生って、狂乱の魔王の個性を封じる目的で配置されたのに、狂乱の魔王が様子見で放った軽い炎でドライアイを悪化させて、速攻で病院送りになったって聞いたけど、ホントなの?」

 

「ああ、よく知ってるな。あれは矢安宮が現れる前の序盤で起こった悲劇だった。狂乱の魔王がお約束の名乗りをしていたときに演出で放った炎の熱波が、抹消を温存していた相澤先生を直撃したんだ。相澤先生は悶え苦しんだが、先生以外は熱に耐性のある個性者ばかりだった。まさか、あの程度の熱がダメージになるとは夢にも思わず、狂乱の魔王の油断を誘う策略だと考えたんだ。もちろん、狂乱の魔王もそう考えて『おいおい、そんな猿芝居に引っ掛かってやるほど、俺はお人好しじゃねえぜ』と言ってたんだが、十分ほど延々と苦しみ続ける様子を見て『……誰か救急車を呼んでやれよ』と呟いたんだ。俺達はその言葉で先生が本気で苦しんでいることにやっと気付けたんだ。それにしても日本の救急医療は優秀だな。すぐにドクターヘリが駆け付けてくれたぞ」

 

轟君の珍しい長台詞に、A組一同はシーンと静まり返った。そして誰一人として相澤先生へと視線を向けずに下を向いていた。

 

うんうん。格好つけて仲間ウンヌン言ってた直後にこんな話を聞かされたら言葉が出ないよね。

 

よし、ここは僕が先陣を切ろう。

 

「響香ちゃんは芸能関係に造詣が深かったよね。響香ちゃんがその場に居たらすぐに芝居じゃなくて本気で苦しんでいるって分かったんじゃないかな? そしたら相澤先生も無駄に苦しみ続けなかったよね」

 

「ここでウチに振るの!? え、えっと、芸能関係と言われても、ウチの専門は音楽だからこの場合だと、えーと、そうだ! トガは他人になりすます訓練をしてたじゃん! トガの方が適役だと思う!」

 

響香ちゃんは突然の振りにワタワタとしながらも、ヒミコちゃんへとパスをする。

 

「私ですか? そうですね、私なら相澤先生が無様にのたうち回る様子を再現することは可能ですが、それが芝居なのか、それとも本気なのか、その区別を演じるには一度は本物を見ないことには無理なのです。模倣というのは本物あっての話ですからね。そういうわけなので、初見で見破るには常日頃から痛みに悶えている変態(峰田)が適役ではないでしょうか?」

 

変態(峰田)へとパスをするヒミコちゃん。うーん、ヒミコちゃんの口から変態(峰田)の名を聞きたくないなあ。

 

「ここでオイラが脚光を浴びるわけだな。へへッ、仕方ないから教えてやるよ。なんちゃってMと、本物のMとの格の違いってや――デブシッ!?」

 

「あら、申し訳ございません。高校生として不適切な話題でしたから、副委員長として責任感の塊であり、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は彼岸花な身なので、つい止めてしまいましたわ。理由はあれど、人様の言葉を遮る無作法を晒してしまうなんて、まだまだ修行不足な自分を恥じ入るばかりですわ」

 

華麗な動作で金属バットを創造してフルスイングしたモモちゃん。その立ち居振る舞いは決して卑下する必要などないと感じるほどに洗練されていた。

 

「──なあ、歩く姿は彼岸花とか言ってるけどよ。言い間違いだと思うか?」

 

「ふむ、愚問である。A組女子で最も冷徹なのはトガかもしれんが、最も殺意が高いのは間違いなくあの凶暴凶悪なお嬢様だ。貴君は知っているか? 彼岸花の花言葉は“食べたら彼岸(あの世)行き”ということを」

 

「うぇぇ、怖ぇな。見た目は綺麗でも中身は毒入りかよ。あっ、でもよ。一時期、毒入りだって表示してくれてたから、その点は親切だな。まあ、毒入りおっぱいなんて誰得だよって話ではあるけどな! 峰田でさえ目を背けてたぜ!」

 

「ふむ、愚答である。A組女子で最も殺傷力が高いのは芦戸かもしれんが、最も火力が高いのは間違いなくあの凶暴凶悪なお嬢様だ。貴君は知っているか? 暴徒鎮圧用ゴム弾はとても痛いということを。だからしがみつくな!! 向こうへ行け!!」

 

「共同責任だろ、常闇ッ! 一人だけ逃げようとするんじゃねぇよ!」

 

「もうお手洗いは済ませましたか? 八百万の神々へのお祈りは? 教室の隅でガタガタとお震えになって命ごいをされる心の御準備はよろしいですか? もっとも、命ごいなど認めません。それでは――Fire!!」

 

洗練された銃撃は逃げまわ――立ち塞がる敵対者に命中しまくった。

 

──保健室への要救護者搬送後にホームルームが再開された。

 

担任の相澤先生が何事も無かったような顔をして言った。

 

「超常解放戦線との最終決戦にて、治癒役の矢安宮が不参加だった理由を覚えているか? 安易な瞬間治癒による脳筋特攻戦術の蔓延が問題視されたからだ。それを踏まえて我がA組でも、致命傷でもない限りは矢安宮の治癒は許可しない。例年通り、リカバリーガールによる自然治癒力の強化で治してもらえ。くだらない仲間内での諍いで受けた致命傷の場合はギリギリまで治癒は遅らせる。生と死の瀬戸際で己の所業を悔やむ時間をくれてやるから、各々有効活用をしろ」

 

相澤先生の八つ当たりが含まれてるんじゃね? と思わされる方針で、僕のボランティアによるえいっ(仕事量)は軽減される事になった。

 

うんうん、入学以来初めて相澤先生の方針に納得したよ。これで過重労働環境が改善されるね。

 

そう喜んで小躍りをしていると、ふと気づいた。

 

ちょっとした怪我をすることが多く、よく治癒を受けている透ちゃんが不安げな表情をしていることにだ。

 

その表情に、僕は頭を金槌で打たれたようなショックを覚えた。

 

『重ちゃん、女の子には優しくするのよ。ママとの約束よ』

 

『うん、わかった!』

 

かつて、幼かった頃に大好きなママと交わした大切な約束。その大切な約束を破るかのような己の小躍りに愕然とした。

 

僕の小躍りに、彼女のガラス細工の心はどれほど傷付いたのだろう。暗い影を落とす彼女の表情から察するにそれは――

 

自分の罪深さに、ガクンと膝から崩れ落ちた。

 

いつも笑顔を見せてくれる透ちゃん。その彼女から笑顔を奪ってしまった。

 

くそうっ!

 

この程度の男なのかっ、この僕は!

 

確かにヒーローを目指したのはヒミコちゃんに合わせただけだ!

 

その程度の志しか持ち合わせていない!

 

それでもっ、女の子を大切に想う気持ちだけは誰にも負けないつもりだったんだ!

 

ハッと、このとき気づいた。

 

――負けない“つもり”だった。

 

そう、つもりでしかなかったんだ。

 

フッと笑いが込み上げる。

 

こんな小さな男だったんだ。

 

こんな情けない男だったんだ。

 

涙がポツリと落ちた。

 

「泣かないで下さい! 私の重清くんは情けない男なんかじゃ――」

 

僕の背中にしがみ付きながら、慰めてくれようとしたヒミコちゃんが突然その場からスッと離れると、その後を追うように風切り音が聞こえた。

 

「――透ちゃん。頚動脈を狙うのは反則だと思うのです」

 

「反則なのはヒミコちゃんの方だよ! 今のはどう考えても私の番だよね! 重清くんを慰めながらイチャイチャするのは私の番だよね! こんなの協定違反だよ!」

 

「うん、そうだね。今のはトガが悪いよ。ウチだって立ち上がりかけたけど我慢したんだ。協定違反をし出したら収拾がつかなくなるよ」

 

「そうだそうだー! ヒミコちゃんはすっこんでろー! それでね、矢安宮。アタシはこう思うんだ。矢安宮はさ、相手の見た目とか言動なんかに惑わされずにその人の――」

 

ブンブンと腕を振り回しながら元気いっぱいに叫んだあと、三奈ちゃんは何を思い出しているのかは分からないけど、懐かしそうな、それでいてどこか切なげな表情で話している途中で、その場を勢いよく飛び退いた。その後を追うように床を強く踏み込んだような音が聞こえた。

 

「――あっぶなー!? 酷いよっ、葉隠! アタシ達は友達だよね! 鳩尾から抉り込むように刺そうとするなんて友情にヒビが入るよー!」

 

「酷いのは三奈ちゃんの方だよ! 援軍だと思った瞬間に裏切るなんて鬼畜の所業だよ!」

 

「まあまあ、皆さん。落ち着いて下さい。仲間内で争っても何も良い事などありませんわ。ここは平等にクジ引きで決めましょう。ここにちょうどクジがあります。赤い印をついたものが当たりです。さあ、順番にお引きになって下さい。提案者の私はもちろん最後で構いませんわ」

 

騒がしくなった皆を鎮めるため、モモちゃんが冷静にその場を取りまとめると、スっと差し出した腕には数本のクジが創造されてきた。

 

「ケロ? クジの先っぽが腕に埋まったままだわ。このまま引き抜けば良いのかしら?」

 

「ええ、そうですわ。クジ先の赤い印が見えないように隠していますから不正は出来ませんわ」

 

「完全に不正クジじゃん! そんなのヤオモモが自由に印をつけれるだろ!」

 

「そのような穿った見方はヒーロー的ではありませんわ。公明正大な副委員長たる、この私の誇りにかけて不正はありませんわ」

 

キリッとした表情でそう告げるモモちゃん。その姿からは副委員長としての威厳を感じさせた。

 

そんなモモちゃんに気付かれないように、コッソリと背後から近付く影があった。

 

「えいっ、ほら、全部空くじだよ。赤い印なんて一つもついてないよ。もう、不正はあかんよ」

 

「お茶子さん!? 無関係な貴女が邪魔をしないで下さい!」

 

お茶子ちゃんの果断な行為にモモちゃんが激昂しかけたその時、二人の間にスっと音もなく現れたのはヒミコちゃんだった。

 

ヒミコちゃんは気遣うようにお茶子ちゃんを背中に隠すと、モモちゃんに抑えた声で言った。

 

「モモちゃん、落ち着いて聞いて下さい。ほら、最終決戦時の突発イベントで――そういえば、モモちゃんは薬を取りに行っていましたね。実はモモちゃんが不在時に突発イベントが発生していたんです。その突発イベント中に現れたゲスト男子が、緑谷君の好感度を荒稼ぎしちゃったのです。お茶子ちゃんは恋の鞘当てで敗北濃厚な状況に追い込まれてやさぐれているので、少しぐらいの八つ当たりならスルーして上げて下さい。まさか、四角関係ならぬ五角関係だったとは予想外でした」

 

「まあ! そのような面白――こほん、興味深いイベントがあったのですね。これは、作戦名『恋のジェットコースター大作戦』の本編を大幅に書き直す必要がありますわ」

 

「ヤオモモってば、まだそのトンチキ脚本を書いてたんだ」

 

「あれはビックリしたよねー! 遠いオセオンから緑谷の元に駆けつけるだなんて感動したよー!」

 

「うん、そうだね。それまで壊れてしまいそうな雰囲気で戦ってた緑谷君が、彼を見た途端に心底ホッとした表情になって胸に飛び込んでいくんだもん。あれは誰だって感動しちゃうよ」

 

「まあまあまあ! 執筆意欲が湧いてきますわ! ここからお茶子さんが巻き返すには――『恋のバンジージャンプ!私と一緒に飛び降りて!大作戦』始動でしてよ。奇想天外な一手で、緑谷さんのハートにチェックメイトですわ!」

 

「みんな知ってる? ヤオモモはこれでも優等生って昔は呼ばれていたんだ。あの頃の姿を知るのはもうウチだけかもしれないね」

 

懐かしそうに遠い目をしながら語る響香ちゃん。そして、モモちゃんは気持ちよく高笑いをしていた。

 

そんな仲良しコンビをまるっとスルーしながら、梅雨ちゃんは話を続けた。

 

「ケロ――まるでドラマみたいだったわ。緑谷ちゃんがヒロインになるなんて入学時には思いもしなかったわ」

 

「ふふ、入学時に予見できたら未来視だよ。そうだ! あのサー・ナイトアイだったら予知出来たのかな?」

 

何気なく返した透ちゃんの言葉。それにお茶子ちゃんが反応した。

 

「え……? サー・ナイトアイが予知してた? ふぅん。それなのに黙ってたんだ。緑谷君が恋する女の子の顔になっちゃうのを黙ってたんだ。入学時だったら余裕で阻止できたのに……サー・ナイトアイは黙ってたんだ」

 

「お、お茶子さん? 殺し屋みたいな目つきのヒミコさんの百倍は殺し屋みたいな顔になっておりますが、お気は確かですか?」

 

「私を引き合いに出さないで欲しいのですが、本当にお茶子ちゃんの顔が怖いのです」

 

「メーデー、メーデー、メーデー、こちらは雄英高校。サー・ナイトアイに命の危機が発生。直ちに逃亡を推奨する。よし、これでウチの責任は果たした。あとは知らないからね」

 

「自分だけ責任回避はズルイよー! 日本は連帯責任の国だー!」

 

「そんな時代錯誤なこと言わないでよ。今どきは独立独歩で自己責任の時代――」

 

「うぅ……お、オイラは気を失ってたのか?」

 

「――ちょうどいいや。ちょっと、峰田。あんたのモギモギで麗日を止めてよ。もし止められなくてサー・ナイトアイが死んだら、あんたの責任だからね」

 

「流れるような責任転嫁だー!」

 

騒ぎ出す周囲に気付いたお茶子ちゃんが雰囲気を変えてニパッと明るく笑う。

 

「あはは、やだなー。サー・ナイトアイなんか狙ってる暇なんてないんよ。だってまだ勝負は終わってないもん。ねっ、爆豪君もそう思うよね」

 

「……夫婦は死が二人を分つまでだが、親友は死んでも親友だ。俺はそれでいい」

 

「――ッ!? それでいいの? 爆豪君の想いはそんな簡単に諦められるものだったの?」

 

爆豪君の思わぬ言葉に息を飲むお茶子ちゃんだったけど、すぐに冷静に問い返した。

 

「……もう、いいんだ。俺達は幼馴染で親友。それでいい」

 

弱気な発言に、お茶子ちゃんは激昂する。

 

「ふざけないでッ! そんな軽い気持ちで今まで邪魔してきたの!? 爆豪君の邪魔さえ無ければ、今までに何度だって既成事実を作れるチャンスはあったんだよ!」

 

「……脳内ピンク色の邪魔すんのは当たり前だろ。俺達はヒーロー候補生だ。不純異性交遊で全てをおじゃんにしたいのか?」

 

胸ぐらを掴む勢いで迫るお茶子ちゃんだったけど、爆豪君は力無く返すだけだった。

 

「こらー! ピンク色のイメージを悪くするなー!」

 

「ハイハイ、今いいところだから、ピンキーはこっちに来ようね」

 

「……そっか、爆豪君は意外と古風なんだね。不純異性交遊なんて久しぶりに聞いたよ。今どき高校生カップルなんて普通すぎて話題にすらならないよ」

 

爆豪君のきつい言葉が、実は自分を気遣うものだったと気付いたお茶子ちゃんの雰囲気は少し柔らかいものに変わった。

 

「チッ、もっと慎みを持ちやがれ。――損するのは女の方が多いんだぞ」

 

「ふふ、心配してくれるんだ。本当に意外だね。そんなに優しいのに、誰も知らないのはどうしてなのかな?」

 

「知るか。それに優しくなんかねえよ……本当に優しい奴ならオセオンで、アイツを一人になんかしなかったはずだ」

 

そう言って唇を噛み下を向く爆豪君。その手は震える程に強く握られていた。その震える手を、辛そうな目で見つめるお茶子ちゃん。

 

「少し待ってくれ。緑谷なら一人じゃ無かったはずだ。アイツは男と一緒に――」

 

「ハイハイ、事実じゃなくて情緒を語ってるわけだからね。唐変木はこっちで静かにしててね」

 

「そ、そんなの気にする必要なんてない! だって仕方のない状況だったんでしょう!? 爆豪君の責任なんかじゃない! そんなこと言い出したら私なんてその場にさえ居なかったんだよ!」

 

うつむく爆豪君の姿に耐えきれなくなったのか、お茶子ちゃんはその感情を爆発させた。その必死さは何とか爆豪君を立ち直らせたいという気持ちに溢れていた。

 

「それこそ仕方ないだろ。脳内ピンク色はフランスに配置され――」

 

「ここで脳内ピンク色はないんよ!!」

 

「――ゲボォッ!?」

 

「こらー! ピンク色の――爆豪がブン殴られた!?」

 

お茶子ちゃんの腰の入った見事な一撃が決まった。あれは世界を狙える右だと思う。

 

「爆豪がゲロを吐いちゃったよ。ヤオモモ、モップを創造してよ」

 

「私の一部がモップとなってゲロを……ウップ、気持ちが悪くなりましたわ」

 

「大丈夫? ヤオモモは繊細だね」

 

「ふふ、我ながら情けないですね。はい、モップですわ。情けない私の分までゲロ掃除をお願いしますわ」

 

「はいよ。まったくどんだけ吐いてんだよ――ゲロ。なんてね」

 

「響香ちゃん、イメージが悪くなるからその語尾はやめてちょうだい――ケロ」

 

「梅雨ちゃんゴメン」

 

「ピンク色の元気いっぱいなイメージはピンキーが守るよー!」

 

「無色透明の可憐なイメージはインビジブルガールが守るね!」

 

「オーホホホホホッ、赤色の才色兼備なイメージはクリエティが守りますわ!」

 

「ふふ、重ちーのトガとセットなイメージはトガが守るのです!」

 

「ここでそれはズルいですわ!」

 

 

騒々しいホームルームだけど、担任の相澤先生は騒音をガン無視して連絡事項を淡々と告げていた。

 

 

 

 

雄英高校にて最強のサポートアイテムは何かと問えば、モモちゃんの機動兵器が上がるけど、これは公式には認められていないんだ。

 

何故かと言うと、モモちゃんの機動兵器はサポート科の作品ではなく、民間の軍事兵器研究所が開発したプロの製品だからだ。

 

そんな勘違いの風聞にも負けず、今日も雄英高校サポート科は元気に活動を続けている。

 

「――つまり中距離から安全に攻撃ができるサポートアイテムが欲しいのね。そうね、治癒系の重ちーは攻撃力に難が――あるのかしら? クレイジー・ダイヤモンドがいればそんなサポートアイテムなんて必要ないと思うわよ?」

 

サポートアイテムの相談を美々美先輩にしに来たけど、あまり乗り気になってくれない。

 

確かにクレイジー・ダイヤモンドは頼りになるけど、そうじゃないんだ。

 

「それはどういう意味かしら?」

 

首を傾げる美々美先輩。

 

実はクレイジー・ダイヤモンドで活躍しても、何故か報道では『お手柄!クレイジー・ダイヤモンド!』って感じになるんだ。

 

重ちーが頑張った! ってならないんだ。

 

「それは仕方がないわ。だって、重ちーは現場の遥か後方で隠れていて、クレイジー・ダイヤモンドだけが現場で活動しているのよ。何もしていない重ちーよりもクレイジー・ダイヤモンドの頑張りを褒めてあげたいから、私が記者でもそういう報道をすると思うわ。それに重ちーはクレイジー・ダイヤモンドは自我のない操作型だなんて言うけど、どう見ても自己判断で行動しているじゃない。言葉が喋れないだけでジェスチャーで意思疎通は出来るし、なんだったら筆談OKなのよ。私としては実は言葉だって喋れるんじゃないかと疑っているわ。だって、必要はないけど呼吸は出来るし、ラッシュで殴る時はドララララッて叫んでいるのよ。唯一、ドララララだけ発生が出来ると言われても逆に不自然だわ。重ちーが最初にクレイジー・ダイヤモンドは自我のない操作型だって言ったから、彼が気を効かしてそう振る舞っているのが真相だと思うの。違うと言うのならクレイジー・ダイヤモンドをここで具現化してもらえるかしら? 本人に確認しましょう」

 

……さてと、そろそろ美々美先輩お手製のおやつをご馳走になろうかな。

 

お茶は淹れに行くから、美々美先輩はおやつの用意をしておいてね!

 

僕は颯爽と、お茶を入れに行った。

 

「もう、都合が悪くなるとすぐに逃げちゃうんだからいけない子ね。それとも歳下の男の子ってあんなものなのかしら? まあそれより、重ちーが戻って来るまでにおやつの用意をしなきゃね。今日のは新作なんだけど──うふふ、彼は美味しいって喜んでくれるかしら? 少しだけ楽しみだわ」

 

 

 

 

クレイジー・エメラルドを覚えてるかな?

 

そう、僕の唯一の弟子にして、妹分のエリちゃんの個性だ。

 

メリッサに頼んで開発してもらった個性制御装置のお陰で個性が暴走する事もなくなり、今では普通に幼稚園に通っているんだ。

 

ヒミコちゃん似の壱与(いよ)ちゃんとは親友同士でいつも仲良くしている。

 

「えへへ、壱与(いよ)ちゃんは良い子だもん。重ちーのこともわたしが正妻って認めてくれてるんだ!」

 

エリちゃんのまるで影のない笑顔に、僕の胸は温かいもので満たされた。彼女の過去を考えれば、その笑顔はとても尊いものに感じられる。

 

「うん……わたしは二号でいい。ヒミコお姉ちゃんには悪いけど、三号で我慢してもらう」

 

頭の雑なお団子をフルフルと震わせながら、顔を真っ赤にした壱与(いよ)ちゃんは小さな声だけど、はっきりと言い切った。

 

とても恥ずかしがり屋な壱与(いよ)ちゃんだけど、少しずつ、だけど確実に成長してるんだと気付き微笑ましい気持ちになる。

 

そんな二人を両手で抱えて、僕は大空へと駆けた。

 

「うわあっ! 風が気持ちいいね!」

 

「うん……雲があんなに近いよ」

 

太陽の光を全身に受けながら、僕ら三人は大空の散歩を楽しむ。

 

そんな中、エリちゃんの首元で光を反射してキラリと光る可愛いチョーカー型の個性制御装置。

 

 

──それはあのパーティの日、メリッサがつけていたものに似ている気がした。

 

 

 

 

 

 

 





── 最終決戦の結末は、世界に大きな傷跡を残しました。

世の女性達を恐怖に震わせた狂乱の魔王は無事に討伐されましたが、その代償は大きかったです。

狂乱の魔王はなんと決戦中に口から石礫を吐いたのです。一時は新たな個性かと思ったヒーロー達でしたが、問われた狂乱の魔王はこう答えたそうです。

『ん? これは個性じゃねえよ。そういう体質だ。お前らが唾液を吐くのと同じだ』

医学業界と生物業界に激震が走りました。

有史以来、そのような人体構造を持つ人間は公式には見つかっていません。

折れた歯を吐いたのではないか? いや、歯石じゃないか? いやいや、動物が消化を助けるために飲み込む石と同じものじゃないか?

様々な仮説が立てられては消えていきました。

惜しむらくは、討伐した狂乱の魔王が木っ端微塵すぎて回収できなかった事です。

そして、死柄木の問題もあります。

Mt.レディのペチンペチンに心を折られていた死柄木でしたが、その絶望の最中に伸ばされたと勘違いした緑谷君の言葉に光明を見ました。

そうなのです。究極の吊り橋効果だったのです。

そして折も悪く、その時の緑谷君は女の子バージョンでした。死柄木には本物の女神に見えたらしいです。本人がそう調書で供述しているので間違いありません。

ところで、緑谷君は女の子になってから一度も男子には戻っていませんが、誰も気にならないのでしょうか?

お茶子ちゃんも緑谷君のトラウマは治そうとしていましたが、女の子バージョンは気にならないみたいです。

休日には二人でキャッキャウフフとショッピングを楽しんでいる姿をよく見かけます。

これも多様化の時代の影響でしょうか?

流石にお風呂に入るのは、緑谷君が恥ずかしがって拒否しましたが、お茶子ちゃんは恥ずかしく無いのでしょうか?

もしも、重清くんが女の子になったとしても、私だったら恥ずかしくてお風呂には誘えないのです。

恥じらいはとても大切だと思うのです。

オープンな女の子よりも、恥じらって照れる女の子の方が、私が男子だったらグッとくると思います。

間違っても鼻息も荒く、強引に緑谷君を浴場に引き摺り込もうとするのはアウトだと思うのです。

そんな女難な緑谷君ですが、男運も悪いみたいです。

勘違い男の死柄木に、粗暴な割にはみみっちい爆豪君。そして連絡もなく来日して来たストーカー気質のロディ君。

碌な男がいないのです。

この五角関係は今のところロディ君が優勢ですが、まだまだ勝負の行方は分かりません。

ヴィランの死柄木も結局は投降しました。彼個人は重大犯罪の記録がない(伝播する個性覚醒時の凶行は重清くんが全て元通りにしたのでノーカンみたいです)ので、模範囚に徹すれば早々に出所できるらしいです。

『──残りの命は女神にくれてやるよ』そんなダサいセリフが耳に残っています。本人は格好良いと思っていたみたいです。

死柄木が投降したのは構いませんが、伝播する崩壊の個性はやっぱり危険なので、重清くんが内緒でえいっとして、空気を扱う弱い個性にしちゃいました。もう何でもありな重清くんです。(詳しく聞いてみると、重清くんは元通りに強化前の個性に戻したはずだと首を傾げていました。)

『これで弔さんが逆転勝利して、出久ちゃんをギュッと抱きしめても安心だね!』

そう言って笑う重清くんは、とても友人思いで素敵だと思います。

ところで、重清くん。

もしかして、緑谷君を女の子にしたの忘れていませんか?




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