重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン2(雄英体育祭編)

 

──今日は雄英体育祭だ。

 

ミルコ姉さんがママと一緒に観戦に来るって言ってたから、ママのボディガードを頼んだ。

 

依頼料はママがガーデニングで作った新鮮なニンジンだ。

 

うん、僕の分までニンジンを食べてね。

 

最初に選手宣誓が行われた。

 

凶暴な男──爆豪君の晴れ舞台だ。彼の強気な宣誓に会場は沸いていた。

 

そして飯田君がその勇姿を眩しそうに見てた。

 

二人の仲が良好そうでとても安心した。

 

最初の競技は障害物競走だ。様々な危険なトラップが仕込まれているコースだ。

 

クク、これは僕達の独壇場になるだろう。

 

「モモちゃん、機動戦士モードだ!」

 

解説しよう。

 

モモちゃんのパパが娘可愛さで巨額出資を行い軍事兵器研究所に設計・開発をさせて完成させたヒーロー専用機動兵器がある。

 

その機動兵器にモモちゃんと僕が乗り込むことで完成するのが機動戦士モードだ。

 

このヒーロー専用機動兵器は、陸海空は当然として宇宙空間にも短時間なら活動可能なトンデモ兵器だ。

 

そこに僕ら二人が搭乗すれば活動時間の制限が無くなり、スーパートンデモ兵器に進化するのだ。

 

機動兵器としては故障の原因となるため敬遠されやすい変形機構も備えてある。当然ながら人型もあるよ。

 

「これが機動戦士モードの全国デビューだ!」

 

「あの、重清さん。非常に残念なのですが、雄英体育祭での機動兵器使用は禁止されていますわ」

 

ガーン!?

 

「相澤先生ッ、どういう事ですか! サポートアイテムの持ち込みはオッケーの筈だよね!」

 

「お前はアホか? サポート科の生徒が自分で開発したサポートアイテムと、軍事兵器研究所が製造した機動兵器を一緒にするな。あれの戦闘訓練での使用は、非常に効果的だと合理的に判断して許可したが、体育祭であんな大量殺戮兵器の許可を出すわけないだろう。少しは常識を学べ。八百万、お前もこのアホに影響を受け過ぎだ。あんな大量殺戮兵器を使ってヒーローをやる気か? ヴィランにも人権がある事を忘れてないか?」

 

「お言葉ですが、相澤先生。武装に関してはヒーロー協会の規格をクリアしておりますわ。機動戦士モードは合法です。(武装換装が出来ないとは言っておりません)」

 

「ハァ、もういい。とにかくあれの使用は許可できない。矢安宮はたまには自力でやれ」

 

うぬぬ、僕がまるで普段は人に頼りっきりな奴みたいに聞こえるぞ。役割分担で僕は目立たない後衛にいるだけなのに失礼すぎる。

 

今日はママが来てるから、活躍してるとこを少しは見せたかっただけなのに。

 

よし、気が変わった。

 

雄英体育祭で活躍しすぎて全国のヒーロー事務所からスカウトが殺到したら大変だと思って、目立たないように中ぐらいの成績で抑えようと思ってたけどもう少し上を狙ってやるぞ!

 

僕の実力を見せてやる!!

 

「モモちゃん、パワードスーツの創造をお願い!」

 

「あの、重清さん。身体強化系装備と移動系装備の創造も禁止されていますわ。“創造”は個性としては万能過ぎて状況に応じての対応力が他の個性の方々と比べると不公平だから、という理由ですわ」

 

「ヴィラン相手に個性の制限をするって言うの!? 相澤先生は無能な上官ですか!」

 

「お前はドアホか? 今はヴィラン相手を想定した戦闘訓練ではない。高校の体育祭だぞ? 各々の生徒が持てる個性を創意工夫して挑戦することに意味がある。この場合、八百万には悪いが“創造”は万能すぎて他の生徒とのバランスがとれん。ある程度の制限は優れた個性を持つ対価だと思って我慢してくれ」

 

「ふふ、承知しておりますわ。私が“創造”を自由に使えたなら飛行ユニットを創造するでしょうから、その場合は障害物競走の競技自体が成り立ちませんもの。その様な模範解答“過ぎる”のは雄英体育祭の趣旨に反します」

 

「分かってくれているのならいい。しかし八百万は矢安宮のアホが絡まなければ普通に優秀な生徒なんだがな……親しくする相手を間違えていないか?」

 

相澤先生が失礼すぎるッ!!

 

モモちゃんが即座に否定してくれたからいいけど、普通なら学校側に訴えるレベルの暴言だと思う!!

 

うぬぬぅ、相澤先生めッ!!

 

 

 

 

障害物競走の開始直前のスタート地点。

 

僕はトコトコと梅雨ちゃんに近づくと、その背中によじ登る。よいしょっと。

 

「重清ちゃん、うちの弟妹みたいに体に登られても困るわ」

 

「うん、僕が回復役と索敵役をするね。梅雨ちゃんには移動役と運搬役をお願いするよ。それじゃあ、まずはジャンプだ!」

 

「ケロ!?」

 

梅雨ちゃんは驚異的な跳躍力で僕を背負っているにも関わらず、地面を凍らせていく突然の冷気を軽々と飛び越えた。

 

「助かったわ、重清ちゃん」

 

華奢そうな外見とは裏腹に、異形型の梅雨ちゃんは僕を大きく超える身体能力の持ち主だ。僕程度なら軽々と運べるのだ。えっへん。

 

「ケロ、そこで私の事で自慢げに胸を張るのが重清ちゃんらしいわ」

 

「ふふん、僕が見込んだ梅雨ちゃんだからね。 僕の梅雨ちゃんの立体機動の本当の凄さを全国の皆に見せつけてやろう!」

 

と、その前に急ぎモモちゃんにお願いをしなくちゃだ。

 

「はい、分かっていますわ。梅雨ちゃんが重清さんを落とさない様におんぶ紐を創造致しました。私が着けますから少しお待ち下さい」

 

モモちゃんがささっと創造したおんぶ紐を装着してくれた。うん、これで僕が振り落とされることはないだろう。

 

「……モモちゃんがママに見えるわ」

 

「ふふ、重清さんになら別の意味でママと呼ばれるのもやぶさかではありませんわ」

 

「き、危険すぎる発言だわ。ヒミコちゃんには絶対に聞かせられないセリフね」

 

「そうですわね、今はまだ時期尚早です。重清さんもお気になさらないで下さい」

 

よく分からないけど、またピキーンときたよ。どこかでヒミコちゃんが、ガオーって吠えている気もする。うん、僕は学習する男なんだ。これは悪い予感だ。ここはスルーの一択だ!

 

「うん、わかったよ。じゃあ、梅雨ちゃん行こうか!」

 

「(ヒミコちゃん一筋の重清ちゃんが、ここでモモちゃんにお断りをしないなんて……もしかして、モモちゃんにも脈があるのかしら? 男女関係は難しいわ)分かったわ、行きましょう」

 

「お互いに頑張りましょう、重清さん」

 

「うん、おんぶ紐ありがとう。モモちゃんも怪我のない様に頑張ってね。もし怪我をしたらすぐに治すから言ってね!」

 

「……ケロ」

 

僕達は(僕を背負った梅雨ちゃんは)勝利に向かって走り出した。

 

 

 

 

巨大ロボが現れた。

 

動きの鈍い巨大ロボなんかに、僕の梅雨ちゃんを捉えられるわけがない。

 

もちろん僕も梅雨ちゃんを補助すべく、周囲の危険を梅雨ちゃんに伝える。

 

梅雨ちゃんの死角から飛んでくる瓦礫や個性による攻撃を僕の指示通りに回避をしてくれる。

 

どうしても避けきれない場合は、梅雨ちゃんが身を挺して僕を庇ってくれる。

 

そこに梅雨ちゃんの深い親愛が感じられた。

 

まるで本当のお姉ちゃんみたいだ。

 

梅雨お姉ちゃんって呼ぼうかな?

 

「同じ歳の弟は許してちょうだい。それに重清ちゃんを庇うのは重清ちゃんが自分自身は治せないからよ」

 

たしかに僕は自分を治せない。逆に梅雨ちゃんが負傷すれば、瞬時に治しているから彼女の言葉は正しいだろう。

 

だけど理屈では分かっていても飛んでくる瓦礫や攻撃を前にしたらその恐怖で理屈など忘れてしまうのが人間だ。

 

梅雨ちゃんはその恐怖に打ち勝てる。すごく強くて優しい女の子なんだ。

 

彼女の両肩に置いていた両腕を外して、ふんわりと首にまわした。

 

気持ちは言葉にしないと伝わらないものだ。僕は寡黙な日本男児を気取るつもりはない。

 

「それでもありがとう。梅雨ちゃんの強さと優しさにはいつも助けられているからお礼を言いたいんだ。でもいつでも頼りになる君だけど、疲れたとき、困ったとき、ただ寂しいときでも構わない。君の背中を温めることぐらいしか出来ない頼りない僕でよければ思い出してほしい。あ、後方右斜め上から瓦礫が飛んでくるよ」

 

梅雨ちゃんは飛んできた瓦礫をヒョイっと避ける。そしてぴょんぴょんと跳ねて一旦安全な場所に着地した。

 

「ケロ、私に背負われた状態でなければ格好いいセリフだわ……重清ちゃん忠告よ。ヒミコちゃん以外にそういった事は言うものじゃないわ。勘違いされるわよ」

 

勘違い?

 

ピキーン(ガオー!!)ときた!!

 

悪い予感だ! !

 

きっと僕の気持ちが勘違いされているんだ。僕への信頼が揺らいでいるんだよ!

 

梅雨ちゃんの信頼を失ったら、誰が僕の面倒を学校でみてくれると言うんだ!

 

え、ヒミコちゃんはって?

 

バカ言うな!

 

ヒミコちゃんにとって、僕はとても頼り甲斐のある幼馴染なんだぞ。そのイメージを崩すわけにはいかない。

 

ヒミコちゃんの前では常に格好いい男でいたいんだ。

 

よし、梅雨ちゃんに僕の誠意を見せよう。

 

……誠意ってどう見せればいいのかな?

 

と、とりあえずもう少し力強く気持ちを伝えてみよう。

 

梅雨ちゃんの首に回した両腕に少し力を込める。梅雨ちゃんの身体から伝わる温もりが強くなった。『後方左斜め上』耳元で囁く。強く触れ合っているから身体の動きがより強く感じる。

 

華奢に見える身体に秘められた力強いエネルギーが伝わってくる。でも、どんなに強くても梅雨ちゃんの身体は僕なんかの両腕に収まってしまうぐらいに小さいんだ。

 

梅雨ちゃんは頑張り屋さんだ。まだ小さな弟妹の面倒をずっとみてきたのは梅雨ちゃんだ。学校では僕の面倒もみてくれている。その上でヒーロー科の厳しい訓練に耐えているんだ。

 

より強く両腕に力がはいる。こんな小さな身体で頑張り続ける梅雨ちゃんに恋慕にも似た感情を持つ。だけどそれ以上に怒りを感じた。

 

辛くないはずがない。苦しくないはずがない。それなのに梅雨ちゃんから愚痴一つ聞かされた記憶がなかった。

 

そんな僕自身に強い怒りを感じたんだ。

 

梅雨ちゃんから不満を打ち明けて貰えるだけの信頼を得られなかった。そんな自分の不甲斐無さに涙が出そうだ。

 

梅雨ちゃんの境遇に同情するのは傲慢というものだ。だけど君を──梅雨という一人の、心優しい少女を心配することは許して欲しいんだ。

 

──僕の大事な(面倒を見てくれる)人だから

 

 

 

 

梅雨ちゃんの信頼を取り戻そうと、自分の想いを語っていたら、いつの間にか巨大ロボが破壊されていた。よし、巨大ロボエリアをクリアしたぞ!

 

「ハァ……重清ちゃんの切り替えが早くて、色々な意味で物事を気にしない性格は長所になるのかしら?」

 

少し顔を赤くした梅雨ちゃんが溜息を吐きながらそんな事を言ってきた。

 

流石に疲れたのかな? 僕を背負って巨大ロボから逃げ続けるのは負担が大きかったんだ。でも溜息を吐く梅雨ちゃんは珍しいよね。そんな姿を見せてくれるって事は少しは信頼を取り戻せたのかな?

 

「重清ちゃんを信頼できなくなったと言った覚えは全くないわ。どうして信頼を取り戻すという話が出てくるのかしら?」

 

あれ? えっと? どうしてだったかな?

 

「ハァ、本当にこの子は大丈夫かしら? 放っておいたらとんでないことになりそうだわ」

 

えぇっ!? 梅雨ちゃんはもう僕のこと放っておくの? 学校で面倒をみてくれないの?

 

「そういう意味での放っておくではないから安心していいわ。でも本当に放っておけない子だわ。ハァ、モモちゃんのことは言えないわね。本当に男女関係は難しいわ……ケロ」

 

よく分からないけど、学校では今までどおりみたいだね。うん、僕の誠意が伝わったみたいだ。やっぱり気持ちを素直に伝えることが重要なんだね!

 

 

 

 

少し気持ちを整理したいからと、梅雨ちゃんの背中から降ろされた。

 

ど、どうしよう?

 

目の前に断崖絶壁にロープを張っただけのコースがあるんだけど、これはどうやって渡ればいいの?

 

周りを見渡すと集団で崖を渡る人達がいた。互いに命綱をつけてその端は崖の端で複数人で握っていた。協力プレイで渡るんだね!

 

僕はその人達に混ざって渡らせてもらおうと考えた。男子には怪訝な顔をされたけど、命綱を着けるのに手間取っていたら世話好きそうな女子達が手伝ってくれた。

 

よいしょ、よいしょとロープを渡る。ロープの上に腹這い状態で渡るのは難しいね。途中で何度もくるりんと、ひっくり返りそうになりながらも何とか渡りきる。

 

頑張って渡り切ったら、一緒にロープで渡っていた人達が笑顔で拍手をしてくれた。

 

うぅ、皆が口々に褒めてくれた。嬉しい。『よく頑張ったね』『途中で挫けないで偉いぞ』等々。

 

話を聞いたら彼らは普通科の人達だった。ヒーロー向けの個性じゃなかったから、ヒーロー科は諦めて普通科を選んだそうだ。

 

僕の個性が直す(治す)個性だと教えたら、『君は戦闘向きの個性じゃないのに、それでもヒーロー科で頑張っているんだな!』と、心操君って子が興奮してた。

 

ここからは彼らと一緒に障害物競走に挑戦することにした。

 

最後の地雷原エリア、このコースを考えた教師はバカじゃないかな?

 

たとえ実戦を考えたコースだとしても、ヒーローは戦争をするんじゃないんだよ。実戦っていっても想定される相手は街中で暴れるヴィランだよ。

 

もちろん特殊なケースはあるだろうけど、ヒーロー科だけじゃなくて、普通科や経営科、サポート科の人達も参加する体育祭には相応しいコースだとは思えないよ。

 

まぁ、地雷といっても死ぬほどの威力はないみたいだから抗議はやめておく。

 

さて、気持ちを入れ替えて僕は地雷原エリアの攻略作戦を皆に提案する。

 

「地雷の威力は吹き飛ばされて地面に叩きつけられる程度みたいだから、ここは男子達が前面に出てわざと地面を踏みまくって地雷を爆破する。その後を女子達が安全に通る。って作戦でいこうよ。男子達は怪我をしても僕がすぐに治して戦線復帰できるから人手不足にもならないよ。あ、僕の個性は自分の怪我は治せないから、僕は女子達と一緒に後ろから男子達の身を挺した勇姿を見守っているから安心してね」

 

男子達はゲンナリした顔になったけど、女子達の圧倒的賛成で作戦は決行された。

 

ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン!

 

景気良く鳴り響く爆発音。

 

うわー! ぐわー! どひゃー! いえーい!

 

段々と吹き飛ばされるのに慣れていく男子達。

 

怪我をしてもすぐに治るからか、地雷を踏むのも度胸試しみたいなノリになっている。

 

男子達が地雷を除去して、吹き飛ばされてくる男子達を僕が治して、女子達が声援をおくりヤル気を維持させる。

 

うんうん、これが適材適所というやつだ。チームワークって素晴らしいよね!

 

あっ、ママ達が見てる! 手を振っておこう。ミルコ姉さんもママと一緒に手を振りかえしてくれたよ。

 

よし、ゴールだっ!!

 

皆の好意でゴールに入るときは、僕と心操君を先に行かせてくれた。

 

普通科の人達って優しいね!

 

 

 

次の種目は騎馬戦だ。

 

ヒミコちゃんは、モモちゃんと梅雨ちゃん、それに響香ちゃんの女の子チームみたいだ。

 

よかった。ヒミコちゃんが男子と組まなくて、そんな事になったらその男子には……きっと良くない事が起こっちゃうとこだったよ。

 

本当はヒミコちゃんと組みたかったけど、ヒミコちゃんから反対されたんだ。

 

「私と重清くんがとても仲が良いのは知れ渡っています。それを学校の皆に見せつけるのはどんとこいですけど……今日は重清くんのお母さんが見ているので……なんだか恥ずかしいのです」

 

すごく気持ちが分かるよ!!

 

僕だってママにヒミコちゃんとくっ付いている所を見られるのは恥ずかしいよ!

 

いつもは優しいママだけど、僕がヒミコちゃんと仲良くしてると揶揄ってくるから嫌なんだよね。子供の頃はそんな事をしなかったのに困っちゃうよ。

 

ママが揶揄うようになったのは中学生の頃だったかなぁ?

 

まぁそんな訳でヒミコちゃんとは組めないんだ。さて、騎馬戦のメンバーを探そう。誰がいいかな?

 

 

 

 

騎馬戦のチームメンバーが決まった。

 

僕、透ちゃん、心操君、山田君の三人だ。

 

それと普通科から勝ち残った男子9名は全面的に協力してくれる。なんでも普通科の人達は心操君を勝たせるために協力をしているそうだ。(他の普通科の子達は、残念ながらさっきの障害物競走で42位までに入れなかったよ)

 

ちなみに山田君も普通科の人だよ。

 

僕の作戦に必要な人材は透ちゃんと山田君だった。心操君は山田君の近くにいたから数合わせで誘ったんだ。結果的には普通科の目的に叶うから良かったよ。

 

「おいおい、数合わせは酷いな。まぁいいさ、今はそれよりも作戦とやらを教えてくれ。時間がないからな」

 

うん、僕の作戦はこうだ。

 

山田君の個性は“隠密”だ。個性名は格好いいけど、その能力は自分と自分が触れている人の存在感を薄くする微妙なものだ。さっき地雷原行進中での治療中に教えてもらったんだ。(治療中っていっても一瞬で治るから、きっと山田君は戦線復帰を遅らせようと企んで無駄話を振ってきたんだと思う)

 

「こら、本当のことでも人の個性を微妙って言ったらダメでしょ! ごめんね、山田君」

 

「ハハ、大丈夫だよ。微妙なのは本当の事だからね。単に目立たなくなるだけの個性さ」

 

透ちゃんに叱られたけど、透ちゃんの『本当のことでも』の言葉の方が山田君が傷付いてる気がする。男子に言われるのと、女子に言われるのとじゃ受けるダメージが違い過ぎるという事実を女子は学んだ方がいいと思う。

 

それで作戦の続きだけど、騎馬戦が始まったら山田君の個性で僕らの存在感を薄くする。

 

騎手は透ちゃんだ。透ちゃんなら騎手でも全く目立たないからね。

 

騎馬の先頭には心操君に務めてもらう。僕と山田君が流れ弾とかで脱落する危険を減らす為だ。

 

それで他の普通科の人達のハチマキをこっそり受け取ってから会場の隅っこで目立たないようにしておくんだ。

 

そして普通科の男子達には三人一組でチームを組んでもらう。その後はもう分かるよね?

 

僕の言葉に男子達は苦笑いを浮かべる。うん、ちゃんと自分達の役割を分かっているみたいだ。

 

「クラスの女子達が見ているんだ。君達の男らしい特攻を見せつけてやれ!」

 

僕らの騎馬を守る意味も含めて、普通科の男子達には捨て身の特攻をしてもらう。精々、会場を掻き乱してくれ。

 

あと、ハチマキを取れたら僕らに渡すのも忘れないでね。

 

「重清君、それは危なすぎるよ。相手はヒーロー科の子達が殆どだよ。普通科の子達だと大怪我しちゃうかもだよ」

 

普通科の男子達を心配する透ちゃん。

 

──両足を広く開けて立つ。左手を広げて顔を隠し上体を逸らす。右手を普通科男子達を示すように横にだす。

 

「ドドーン。安心しろ、普通科の男子ってのはそんな柔ではない。何故なら地雷原に嬉々として突っ込んで行き、わざと爆発させるほど“漢”達だからだ!!」

 

「それはそれで別の心配をするんだけど!?」

 

うん、これで透ちゃんの心配事も無くなったね。本当に大丈夫だよ、どんな怪我をしたって僕がすぐに治すから安心してね。

 

「腕の一本や二本くれてやるつもりで暴れてやれ。今回も即座に治して戦線復帰させてやるから遠慮はいらないぞ!」

 

僕の発破に普通科の男子が応える。

 

「その言葉でやる気になると本当に思うのかよ? ハハ、なぜかやる気になっちまうんだよな。二度目ってのもあるけど、心操には勝ち残って欲しいし、女子に良いところってのを見せたい気持ちもある。よしッ、一丁やってやるか! いくぞお前ら!」

 

他の男子達も“応ッ”と叫ぶ。うん、気合十分みたいだ。

 

最後の保険は心操君だ。ファンネル(普通科の男子達)が全部潰されて復活させる余裕もなかったら心操君が最後の壁だよ。

 

全ての攻撃を身を持って防ぐんだ。怪我はすぐ治すけど、痛みとかで心操君が気絶した時点で棄権するから責任重大だよ!

 

「棄権するのかよ!?」

 

女の子の透ちゃんに怪我させるわけにはいかないだろ? 僕ら“漢”としてはさ!!

 

「えぇ、自分は棄権するのに漢ってお前……ククク、いや、そうだな。お前の言う通りだ! よしッ、俺も覚悟が決まった!!」

 

心操君の顔つきが変わる、山田君も気合十分だ。透ちゃんからは呆れた空気が漂っている感じがするけど気のせいだろう。

 

さあっ、騎馬戦が始まるぞ!!

 

──四人が並び声を合わせる。

 

『いくぞ!!』(透ちゃんも恥ずかしそうな声色だったけど合わせてくれた)

 

 

 

 

騎馬戦を勝ち残れた。ギリギリの点数だったけどね。

 

結局、最後まで僕らの騎馬が狙われる事なく終われた。

 

ヒミコちゃんとは試合中に目が合ったからにっこり笑い合った。

 

それ以外は特に何も起こらず、普通科の男子達の勇姿を見守るだけだった。

 

普通科の男子達も試合中に僕が治すほどの怪我はしなかった。彼達も拍子抜けしていた。これなら地雷原の方がヤバかったよな、と笑っていた。

 

──最後まで口にはしなかったけど、透ちゃんの個性を勘違いしてた。触れている物を透明に出来るわけじゃなかったんだ。せめて彼女のヒーローコスチュームをなんとかしてあげれないかなぁ?

 

 

 

 

最終種目は個人戦トーナメントだ。

 

「はい、棄権します!」

 

僕は“漢”らしく堂々と棄権を宣言した。

 

 

 

 

個人戦は怪我をしそうだったから棄権をした。相澤先生に言ったら『却下する』とか言われそうだったからオールマイトに言った。苦笑はされたけど普通に棄権をさせてくれた。さすがはナンバーワンヒーローだと初めて思った。

 

透ちゃんと山田君も棄権をしてた。山田君には怪我をしても治すから出てみたら? と提案したけど、テレビの全国放送で恥はかきたくないと断られた。うん、納得だね!

 

透ちゃんは僕と同じ戦闘向けの個性じゃないから無理せずに棄権して正解だよ。って事を話してたら山田君が『俺の個性も全く戦闘向けじゃないのに試合を勧めたのはなんでだ?』とか言ってきた。

 

男の殴り合いなら見てて面白いけど、女の子の殴り合いは見たくないでしょ? と言ったら納得してくれた。

 

心操君はトーナメントに参加する。彼はこの体育祭で活躍してヒーロー科に編入したいそうだ。それなら頑張らなきゃいけないね。即死しなきゃ治すから思いっきりいっちゃえ! と激励しといた。

 

ヒミコちゃんは残念ながら騎馬戦で敗退してしまった。ヒミコちゃんは素早く流れるような体術を得意にしているから、騎馬戦のような自由に移動が出来ない状態だと予想以上に苦戦したみたいだ。

 

本当に残念に思うけど、ヒミコちゃんが怪我もなく終われてホッとしているのが本音かな。個人戦も出られなくて実は安心してしまった。すぐに治せるとしても、ヒミコちゃんに怪我してほしくないんだ。痛い思いなんかしてほしくない。

 

ヒミコちゃんにこんな事を言ったら怒られちゃうから言えないけどね。

 

さてと、僕のヒミコちゃんのご機嫌伺いにいこう。きっと不機嫌だろうから宥めなくちゃね。

 

 

 

「重清くん、聞いて下さい。モモちゃんが酷いです。試合中に身体の向きを変えようとしてついモモちゃんの身体に足を当ててしまっただけなのに怒るんです。気が短すぎて将来のモモちゃんの旦那様は苦労すると思います」

 

あれ、意外と平気そうだ。まぁそれもそっか、ヒミコちゃんにとっては体育祭なんて遊びみたいなものだよね。ヒーロー事務所のスカウト話にも興味なさげだったし。

 

「ヒミコさん、不正確な情報を伝えないで下さい。ヒミコさんは私の胸を足場にされたのですよ。たとえ靴を脱いでいたとしても乙女の胸を公然の場で足場にされて怒らないほど寛大な気持ちにはなれませんわ」

 

モモちゃんのモモを足場にだって!?

 

「それは見たかっ…じゃなくて大変だ! モモちゃんの繊細なモモが傷付いてたら一大事だよ。僕がモモちゃんのモモに触って癒し──」

 

「重清くん?」

 

「いつものように背中に“クレイジー・ダイヤモンド”でいいかな?」

 

危なかった、つい口が滑りそうになっちゃった。それにモモちゃんが自分のモモに触らせてくれるわけがない。たんに好感度を落とすとこだったよ。治すのに患部に触る必要がないって知ってるからね。

 

「ふふ、大丈夫ですわ。私のモモに傷はありません。ご心配でしたら確認されますか? 少しなら触っても──」

 

「モモちゃん!! 重清くんを揶揄わないで下さい!!」

 

おおっ!? 危なかった!! ヒミコちゃんが叫んでくれて正気に戻れた。モモちゃんの巧みな揶揄いに引っかかるところだったよ。

 

うん、気をつけよう。

 

ヒミコちゃんなら間違えたふりして触っちゃっても『もう、重清くんはエッチです』の一言で許してくれるけど、中学で女子の胸を触った男子が往復ビンタされた上で、学校中に噂を流されて大変な目に遭ってたからね。

 

ちょっと仲良くなったからって油断はしないぞ。

 

僕は『クラスの女子に笑いかけられたらその女子は自分のことが好きなんだ』と思い込むような悲しい男子じゃないからね。

 

モモちゃんが仲良くしてくれるのは、機動戦士モードの相棒だからだ。勘違いしちゃダメだぞ、僕!

 

「ごめんなさい。重清さんは素直な反応をされるからつい可愛くて揶揄ってしまったの。お詫びに次の休日にケーキをご馳走しますので、私の屋敷に来ていただけませんか?」

 

「なッ!? ウググ…」

 

おぉ、やった! モモちゃん家のケーキって美味しいんだよね! ヒミコちゃんは変な顔をしてるけどどうしたんだろ?

 

「うん、いいよ。行くのはヒミコちゃんも一緒でいいかな?」

 

「……はい、もちろんですわ。ヒミコさんも是非ご一緒に来て下さい。歓迎致しますわ」

 

「重清くん、誘ってくれてありがとうございます!」

 

ヒミコちゃんがギュってしてくれたからギュってかえす。

 

ヒミコちゃんのさっきの反応が変だったから、ヒミコちゃんもケーキが食べたいのかなって思ったけど正解だったみたいだ。

 

うんうん、僕はヒミコちゃん検定一級だからね。ヒミコちゃんの気持ちは言葉にされなくても分かるんだ。

 

ヒミコちゃんとモモちゃんは一緒に免許取得勉強をしている仲間だから仲良しなんだよね。

 

そうだ、仲良しというならモモちゃんと仲良しさんの響香ちゃんも誘うべきだね。それにいつもお世話になっている梅雨ちゃんも誘おう!

 

「はい、構いませんわ。ふふ、これなら体育祭の打ち上げですね。ケーキだけとは言わずに当日は豪華に致しますわ」

 

「やった! さすがはモモちゃん!!」

 

「うぇ!? ウチも!? 今まで空気を読んで空気になってたんだけど!!」

 

「響香ちゃん、素直に行くべきだわ。ここで絡むと響香ちゃんまで巻き込まれるわ」

 

「そ、そっか。目立たずモブに徹するんだね、わかった」

 

「それにしても本当に放っておけない子だわ。このまま妙な争いになるぐらいなら…………ハァ、私は何を考えているのかしら?」

 

「つ、梅雨ちゃん? いきなり頭を抱えてどうした!」

 

 

 

 

控室でワイワイと喋っていたらトーナメントが終わっていた。

 

優勝は爆豪君だった。

 

表彰台に立つ爆豪君を見つめる飯田君……の姿はなぜか見えなかった。どこに行ったのかな?

 

爆豪君もどこか寂しそうに表彰台に立っていた、ように見えた。

 

姿の見えない飯田君のことは気になるけど、これで雄英体育祭は終了だね。

 

おっ、オールマイトの掛け声だ。せーのっ、

 

お疲れ様でしたー!!

( “Plus Ultra”!!!)

 

 

 





──雄英体育祭が終わりました。

最終種目には残れませんでした。

騎馬戦でモモちゃんのモモを踏んじゃったら怒ったのです。

モモちゃんを宥めていた隙を狙われてハチマキを取られちゃいました。

モモちゃんは気が短いです。

足が当たったときに予想よりも大きい気がしたので、もう少し小さくならないかな?って考えてしまい、うっかりクニクニと足で捻り込んだだけなのです。それだけで怒っちゃったのです。

もっと大らかでいて欲しいのです。

私が踏まれたらですか?

それは戦争ですね!

私のモモは私だけのモモじゃないからです。大好きな彼も大好きなモモなのです。私のモモは大人気なのです。えっへん。

それにしても今日は疲れました。

個性が戦闘系の人達と正面切って張り合うのは体力と気力の両方を消耗します。

私の個性は、街中での尾行とかなら有利なのですが、ヒーロー科のカリキュラムでは役に立たない事が多いです。

重清くんには大好評の個性なので文句は全くありませんが、今日みたいな日は少し戦闘系が羨ましく思います。

梅雨ちゃんが重清くんを背負い、軽々と巨大ロボの攻撃を躱しているのを見てつくづくそう思いました。

私は体力的には普通の女子高生なので到底真似は出来ません。

梅雨ちゃんが羨ましかったです。

あぁ、梅雨ちゃんといえば、重清くんが抱き締めていたそうです。私が目を離していた隙に行為に及んだのですね。まったく油断がなりません。

この事は重清くんのママが心配そうにしながら教えてくれました。

重清くんのママは私の事を幼い頃から知っています。重清くんと初めて出会った日に紹介されました。

息子が初めて家に連れてきた友達であり、初めてのガールフレンドだったわけです。

出会った時から私に好意的でした。

中学生の頃からは料理なども教えてくれるようになりました。

私達の仲を楽しそうに揶揄うようにもなりました。揶揄うのはやめて欲しいのですが、息子とその彼女を揶揄うのは母親の特権なのよ。と言って聞く耳を持ってくれません。残念ですが、母親公認彼女だと思うと嬉しくもあります。

そんな重清くんのママに息子の女性関係を心配させる。なんだかいたたまれない気持ちになります。

家族会議は止めてあげて下さい。重清くんがストレスでハゲちゃいます。

どうせ、重清くんのことなので浮気などではなく、いつもの発作だと思います。唐突に厨二病を発揮するのは困った癖だと思います。

梅雨ちゃんは学校で重清くんの面倒をお姉ちゃんのように色々とみてくれています。

重清くんも弟のように甘えています。

私には見せない顔も梅雨ちゃんには見せています。

いえ、別に羨ましくはありません。

梅雨ちゃんに向ける感情と、私に向ける感情は明確に違うと分かっています。

私には弟としてではなく、一人の男として接してくれます。

えへへ、私だけの男としての重清くんなのです。

弟としての重清くんぐらいなら、彼のお世話をしてくれる梅雨ちゃんには貸してあげます。

私はモモちゃんとは違い大らかなのです。

そしてモモちゃんは警戒対象なのです。

体育祭の打ち上げでも注意が必要です。

幸いにも梅雨ちゃんも参加します。重清くんのことは彼女に任せられます。私はモモちゃんを徹底的にマークしておきましょう。

重清くんが興味を示したモモちゃんのモモ──隙をみて『毒入り』と油性マジックで書いておくのです。






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