重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン2(職場体験編)

 

──飯田君が暗い顔をして自宅まで訪ねてきた。

 

その足取りは頼りなくヨタヨタとした感じだ。

 

そんな飯田君の姿にピンときた。

 

ピキーン(ガオー!!)じゃないから、僕にとっての悪い予感じゃない。

 

だけどこれは僕の手に負えない案件だと察した。とりあえず飯田くんは客間に通しておく。

 

よし、応援を呼ぼう。

 

自分の力を過信するのは愚かなことだ。無理をして事態を悪化させる前に仲間に頼るべきだと思う。

 

選択肢は幾つかある。

 

1番:僕のヒミコちゃん

 

2番:お姉ちゃんな梅雨ちゃん

 

3番:お嬢様なモモちゃん

 

4番:プロヒーローのミルコ姉さん

 

選択肢のそれぞれには一長一短がある。

 

1番の僕のヒミコちゃんの場合は、頼れば快く協力してくれるだろう。ただし、彼女の場合だと僕の問題なら全力で取り組んでくれるけど、飯田君の問題だと少し本気度が落ちてしまうと思う。基本的にヒミコちゃんは他人には興味がないからね。

 

2番のお姉ちゃんな梅雨ちゃんの場合は、飯田君の問題に真剣に取り組んでくれるだろう。だけど、家族のお世話で忙しい彼女にプライベートな時間を本来なら無関係な相談事で割いてもらうのは気が引けてしまう。

 

3番のお嬢様なモモちゃんの場合は、頼れば意気込んで協力してくれると思う。だけど、お嬢様なモモちゃんには今回の問題は不向きな気がする。

 

4番のプロヒーローのミルコ姉さんの場合は、プロだから全力で取り組んで……くれるかなぁ? 相談内容的に向いてない気がするんだよね。

 

「どうした、ウンウン唸ってるが便秘か?」

 

迷ってたらミルコ姉さんが家に来た。ヒーロー事務所が近いからか、この兎さんは暇なときは寛ぎに来る様になったんだ。ママとも仲良くなってるよ。お互いに歳も近いからか話も合うみたいだ。

 

「私はまだ26歳だぞ。高校生の子供がいる歳じゃねぇよ」

 

ミルコ姉さんに軽く頭を叩かれた。

 

イテテ、だけど丁度いいや。いつまでも飯田君を待たせておくわけにはいかないからね。

 

「なんだ相談事か? ヒーロー科の子供が抱える問題なら大体察しがつく。私に任せておけ」

 

ミルコ姉さんが頼りがいのあるセリフを口にする。表情を見ると本当に自信があるように感じた。うん、年上のお姉さんだもんね。思春期の問題なら色々と経験豊富なんだと安心した。

 

飯田君を待たせている客室に向かいながらミルコ姉さんに事情を説明する。

 

「実は同級生の飯田君という男子が、同じ同級生の爆豪君という男子との恋愛相談で家に来てるんだよ。僕だとそういう相談事には力不足だからここは年上のお姉さんで経験豊富なミルコ姉さんに是非とも力をかり──」

 

「ああっと野暮用を思い出した。もう帰らせて――その腕を離せ! この私が男子同士の恋愛相談に乗れるわきゃないだろ!?」

 

最後まで話を聞かずに逃げ出そうとしたミルコ姉さんの腰にしがみつく。

 

「ミルコ姉さん行かないでっ、僕も自信がないからせめて隣にいてよ! もうダメだと思ったら合図をするから何か緊急の連絡でもあった振りして強引に連れ出して欲しいんだ!」

 

「おう、そういう話ならいいぜ。ククク、相変わらず悪知恵が働く奴だな」

 

なんとかミルコ姉さん(お手上げ時の保険)をキープできた。

 

今まで男女交際の相談にも乗ったことないのに、先に男男交際の相談に乗ることになるなんて人生は何が起こるか分からないね。

 

深呼吸をして気持ちを入れ替える。

 

うん、飯田君はこの僕を頼って来てくれたんだ。その期待に応えられるように微力を尽くそう。

 

──僕は飯田君が待つ部屋の扉を開いた。

 

 

 

 

「それは無理だな。重清の力を借りたいなら個性使用の特別許可を取ってきな。それぐらい、てめぇも分かってんだろ」

 

飯田君の悩みは驚いたことに男男交際のことではなかった。

 

彼のお兄さん──プロヒーローのインゲニウムの負傷の事だった。

 

「公共の場での個性使用は犯罪だ。ヒーロー科の生徒であろうと例外はない。教師の監督下でしか個性使用は認められない。重清の力を貸してもらいたいのなら、コイツが正式なヒーローになるまで待つんだな」

 

飯田君は歯を食いしばって聞いていた。彼もルールは分かっているんだ。

 

ミルコ姉さんは厳しい言葉を口にするけど、これは僕のためだ。

 

医療に関する個性使用の特別許可は医師免許を持っていなければまず下りる事はない。

 

僕が情に流されて、インゲニウムが入院する病院に出向き彼を治癒すれば、病院側は個性の無断使用を警察に届けるだろう。

 

そうなれば、僕は逮捕されて雄英高校も退学処分となる。かもしれない。

 

実際には稀有な治癒系個性だからヒーロー協会が口を挟んでくれると思うけど、そんなリスクを負うわけにはいかない。僕にはお金持ちになって、ママとパパを大事にして、可愛いヒミコちゃんと幸せな一生をおくるという大きな目標があるんだ。

 

はぁ、飯田君も僕に直接頼みに来たりせずに、雄英高校の話のわかる教師に相談すればいいのにと思う。

 

「矢安宮くんっ、それは、それはどういう意味だい!?」

 

僕が“つい”ポロリとこぼした言葉に飯田君が食いついた。

 

「これは独り言だけど、ヒーロー科として外部から特別講師を招く。そうだね、今話題の『ヒーロー殺し』と相対して生き残ったヒーローの生の声を生徒達に聞かせる。そんな名目ならインゲニウムを招けるだろう。なんなら『ヒーロー殺し』によって再起不能になった元ヒーロー全員を招けばいい。その講義中に当時の現場再現を行なっていたインゲニウム役のある生徒の個性が気合を入れすぎたせいか暴走した。運悪く特別講師として招いた元ヒーロー達を次々とはねて負傷を負わせた。担当教師はその場にいた治癒系個性をもつ生徒に治癒を指示した。そしてその生徒はその場で負った怪我だけを治すなんて器用な真似は出来ないだろうね。ふぅ、独り言はここまでだ」

 

こんなグレーな行為は当事者だけで計画を練り実行するものだ。利用される形になる僕が事情を何も知らなければ、もしも発覚した場合でも処罰されないからだ。

 

たとえ法に触れようと叶えたい願いがあるのなら、無関係な人間は巻き込まないように立ち回るべきだと思う。

 

ミルコ姉さんが、僕の頭にポンと手を置いてクシャクシャと髪を掻き混ぜる。止めてっ、と言おうとしたけど意外と気持ちいい。頭皮マッサージというやつだね。

 

「クソ真面目なだけじゃヒーローは務まらん。だが法を破れと言ってんじゃねえぞ。さてと、お前はここには…あー、なんて言ったかな? そうだ爆豪だった。その爆豪との恋愛相談をしに訪れただけだ。重清はその相談に乗った、それだけだ。いいな、これからのことは全てお前一人で考えて実行しろ。これ以上は他人を巻き込むな。自分一人で出来ないのなら兄貴の事は今は諦めろ。三年経てば重清がプロヒーローになっているはずだ」

 

ミルコ姉さんの言葉に飯田君はただ黙って頭を下げた。

 

そしてゆっくりと頭を上げたあと、飯田君は話し始めた。

 

「矢安宮君! 今日は爆豪君との…れ、恋愛について相談に乗ってもらいたくて来たんだ! 実はだね──」

 

飯田君が本当に恋愛相談を始め出してしまった。やっぱりお兄さんの事だけではなく、爆豪君との事も彼が暗い顔をしていた原因だったんだね。

 

大変なんだとは思うけど、二つも一度に相談事を持ってこないで!

 

──結果だけを言おう。ミルコ姉さんに緊急の連絡が入って僕を連れ出してくれた。

 

うん、僕に男男交際の相談は荷が重かったね。

 

 

 

 

「職場体験ってのに行ってもらう」

 

相澤先生の言葉に教室中が騒ついた。

 

クラスメイト全員がどこかしらのヒーロー事務所に一週間の職場体験に行くことになった。

 

雄英体育祭で活躍した生徒には多数のヒーロー事務所から指名がきてた。

 

僕にも指名はきてた。最終種目には出場出来なかったけど、この身から溢れるヒーロー魂を感じとったのだろう。

 

だけど僕が職場体験にいくヒーロー事務所は既に決まっている。

 

うん、ミルコ姉さんのヒーロー事務所だ。

 

他の皆は自分の個性に合ったヒーロー事務所を調べているけど、治癒系の僕はおよそどのヒーロー事務所でも荒事は多いから個性的には合うだろう。

 

それなら後はヒーロー事務所の場所とそこのヒーローとの相性だけだ。

 

ミルコ姉さんのヒーロー事務所は近所だから申し分のない場所だ。ヒーローとの相性も、相手はミルコ姉さんだから今さらの話だ。ミルコ姉さんのヒーロー事務所は彼女以外は事務員の人がいるだけだから気が楽なんだ。

 

ヴィラン捕縛を専門にするミルコ姉さんと、治癒系でありヴィラン捜索も得意とする僕(ハーヴェスト)は相性もいいと思う。

 

僕(ハーヴェスト)がヴィランを見つけて、ミルコ姉さんが捕らえる。ミルコ姉さんが負傷をしたら僕が治す。

 

うん、素晴らしい役割分担だと思う。

 

あと念のために言っておくと、職場体験中はお世話になるヒーロー事務所の人と、同じヒーロー科の生徒以外には原則として治癒をしないようにと雄英から指示を受けている。

 

なんでも他者の身体に影響を及ぼす個性だから責任範囲がややこしいみたいだ。

 

僕が正式にヒーローになれば、自分の責任で治癒は副業として認められるけど、ヒーロー科生徒に過ぎない間は制約が多いんだ。

 

だから、飯田君がお兄さんをミルコ姉さんのヒーロー事務所に連れてきて、ミルコ姉さんの監督下で治すという手は使えないんだ。

 

やっぱり、飯田君が教師を説得して協力してもらうか、僕が正式にヒーローになるまで待つしかないと思う。

 

「重清さんは希望するヒーロー事務所を決められているのかしら?」

 

色々と考えていたら、モモちゃんが話しかけてきた。モモちゃんは希望するヒーロー事務所を悩んでいるのかな?

 

「もし良ければ、同じヒーロー事務所にしませんか? 機動戦士モードを実際の現場で試してみたいと思うのですが」

 

なるほど、それは面白いかもしれない。

 

ミルコ姉さんのヒーロー事務所なら実戦を経験できる可能性は高い。機動戦士モードなら移動速度も速く広範囲をカバーできる。

 

飛行形態でミルコ姉さんを乗せて移動すれば宣伝効果も高いだろう。

 

ミルコ姉さんの人気は高いけど、より派手な演出は新しい層のファン獲得に役立つと思う。

 

ヒーローは人気商売だ。せっかく職場体験に行くならミルコ姉さんの役にも立ちたいと思う。

 

僕が前向きに考えていると分かったのだろう。モモちゃんはニコニコと笑いながら、僕の考えが纏まるのを待ってくれていた。

 

「重清くんは、やっぱりミルコさんの事務所ですか?」

 

そこに僕のヒミコちゃんが可愛らしく首を傾げながら会話に入ってくる。

 

どこからかチッと舌打ちのような音が聞こえた気がしたけど多分気のせいだ。

 

「うん、家から近いからね。ヒミコちゃんもミルコ姉さんの事務所にする?」

 

ミルコ姉さんが指名しているのは僕一人だけど、頼めば後二人ぐらい了承してくれるだろう。

 

「わぁ、誘ってくれて嬉しいです。そうですね、私の個性的には調査・捜索系のヒーロー事務所の方が向いてはいますが、雄英卒業後は重清くんの護衛役をする予定なので、それならミルコさんの事務所で実戦的な戦闘術を学ぶのは全然ありなのです!」

 

うんうん、よかった。ヒミコちゃんは後で誘おうと思ってたんだ。

 

ヒミコちゃんの二つのお団子にそれぞれ乗っかってるハーヴェストを見つめながら僕は胸を撫で下ろした。

 

ハーヴェストの射程距離は僕を中心に数キロ四方に及ぶけど、流石によその都市のヒーロー事務所に行かれたら射程距離を外れてしまう。

 

ヒミコちゃんの護衛を外すわけにはいかないからね。

 

──このときふと思った。ハーヴェストを成長させる必要がある、と。

 

何も理由はない。直感が働いたわけでもない。だけどなぜかそう思った。

 

まぁ、それはそれとして、今は目の前でニコニコ笑い合ってるけど、妙な迫力を感じさせるヒミコちゃんとモモちゃんを何とかする必要がある。

 

モモちゃんと仲のいい響香ちゃんに視線を向けると、彼女は机にうつ伏せになって寝ていた。あれ、さっきまで起きてた気がしたんだけど気のせいかな?

 

仕方ない、ここは他の女子達に頼ろう。

 

え!? 周りを見ると一斉にうつ伏せになって寝始めたんだけど、皆そんなに疲れていたの?

 

「はぁ、仕方がないわ……二人とも少し落ち着きなさい。ここは教室よ」

 

唯一、寝てなかった梅雨ちゃんが二人を嗜めてくれた。

 

さすがはお姉ちゃんだ、頼りになるね。

 

そうだ、僕のヒーロー名を暫定だけど決めたんだ。

 

──復活ヒーロー『重ちー』

 

これが僕のヒーロー名だ!!

 

 

 

 

ラビットヒーローミルコは、女性ヒーローの中ではトップを誇る人気ヒーローだ。

 

男勝りの性格と口の悪さ、何よりもその近接戦闘の圧倒的な強さは他の女性ヒーローを寄せ付けないものがある。

 

そんな彼女のヒーロー事務所での職業訓練初日は保育園のイベント参加、つまり副業の営業だった。

 

「オラオラオラーっ!! 兎さんを捕まえみせろぉー!!」

 

ミルコ姉さんは園児と鬼ごっこをしている。ずいぶんと迫力のある兎さんだけど、園児達はキャッキャと喜んで追いかけている。

 

モモちゃんは園児達に振り回されてあたふたとしていた。

 

ヒミコちゃんは、目つきの悪い園児とジーと睨み合いを続けている。なにかシンパシーでも感じているのかな? なんだか見た目もヒミコちゃんに似ている子だしね。

 

僕はというと。

 

──両足を交差させて立ち、上体を僅かに反らせる。両腕は顔の付近で構える。眼前に立つ無数の男子園児に強い意志のこもった視線を向ける。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴ。吐き気をもよおす『邪悪』とはッ、大好きなママを泣かす者だ! たとえそれが自分自身でも絶対に許すなッ、男なら全力で立ち向かえ! 朝はちゃんと起きろ! 好き嫌いをして困らせるな! そしてッ、ママが大好きだと言葉にして伝えてやれ!!」

 

男子園児たちの瞳に熱い炎が灯った、ように見える。きっと僕の気持ちは届いた。女子園児たちは呆れた顔をして近づいてくれないけどね。

 

 

 

 

「地域住民との触れ合いはいいけど、自分が通ってた保育園は微妙なんだけど」

 

ヒーロー事務所に戻ってからミルコ姉さんに愚痴る。園長先生とかまだ僕のことを覚えていた。『まだそんなおバカな事をしてんのかい、あんたのママは泣いてないかい?』とか言われて心配された。僕のことは放っといて!

 

「アハハハ、お前は地元密着型ヒーローを目指してんだろ? なら諦めろ」

 

ミルコ姉さんは機嫌良さそうに笑うだけで、まともに相手にしてくれない。

 

「それにしても園児相手は疲れました。自分にもあんな頃があったとは信じられませんわ。でももう少し聞き分けが良かったと記憶しているのですが」

 

疲れた声でモモちゃんが言った。

 

「クク、そんなガキがいるかよ。ガキってのは異星人みたいなもんだ。腹が立っても蹴っ飛ばすなよ」

 

「そんな事しませんわ!」

 

ミルコ姉さんは初めて会ったときも感じたけど子供の相手をするのが上手い。兎さんだからかな?

 

「おう、昔からよく引っ付かれたもんだ。ようは慣れだな。お前らも何回か繰り返せば慣れちまうよ」

 

「……慣れるほど、子供相手の営業を行うのでしょうか?」

 

「そうだな、ガキの人気があればその親も応援してくれる。長い目でみればガキだって大人になる。大人になってもガキの頃に好きだったヒーローは贔屓にしちまうもんだ。心当たりはあるだろ?」

 

「そ、そのとおりですわ。私にも幼少の頃から憧れているヒーローがおりますわ」

 

「そうだろ。ファンが多けりゃ暴れすぎても苦情は出にくいからな。あとはそうだな、災害現場で泣き叫んでるガキ共も多少は安心させれるぜ」

 

「たしかにその通りですわ! オールマイトが現れたら全ての人々は安心します。ミルコさんの場合は子供特化なのですね! そしてその子供も将来は大人となる。年月が過ぎれば過ぎるほどに影響力を増していく。素晴らしい深謀遠慮ですわ!!」

 

「いやそこまで本気で感動するなよ」

 

ミルコ姉さんってば、絶対にその場のノリで適当に喋ってると思う。

 

子供人気が高いのは事実だけど、以前にどの営業の仕事を受けるのかは、面倒だから事務員さんに任せてるって言ってたもん。

 

向こうで事務員さんもクスクス笑ってるよ。

 

「…………」

 

ところでヒミコちゃんが、保育園を出てからずっと腕にしがみ付いているんだけど、どうしたのかな?

 

「ヒミコちゃん、どうしたの?」

 

「……どうもしないのです」

 

「もしかして保育園で睨み合ってた子が気になるの?」

 

「……はい」

 

ぎゅっとヒミコちゃんの腕に力が入った。そのままヒミコちゃんが喋り出すのを黙って待った。

 

しばらく時間が過ぎたとき、ヒミコちゃんはどこか戸惑うように口を開いた。

 

「……あの子は、私と似ていると思いました」

 

そういえば、あの園児は目つきの悪さや、髪をお団子にしてる所とかヒミコちゃんに似ていた。

 

「……私は思ったのです」

 

ヒミコちゃんは沈んだ声で話す。その深刻そうな雰囲気に他の皆も静かになる。

 

「うん、ヒミコちゃんは何を思ったの?」

 

僕は気遣うように優しい声色でヒミコちゃんに訊ねる。ヒミコちゃんは逡巡するような素振りをみせたけど、僕の目をジッと見つめたあとゆっくりと口を開いた。

 

「重清くんとの子供は、きっとあんなかぁいい子に──」

 

「思わせぶりに言うセリフではありませんわっ!!!!」

 

モモちゃんが大声でつっこんだ。ミルコ姉さんは爆笑してた。

 

「もうっ、モモちゃんは割り込まないで下さい! 私と重清くんの愛の語らい中なのです!」

 

「うっさいですわ! しょうもないことを雰囲気だして話す方が悪いのです!!」

 

「私達の愛の結晶をしょうもない扱いするなんて、モモちゃんは酷いのです!!」

 

「妄想の話じゃないですか!!」

 

「妄想じゃないです! 将来の話なのです!」

 

「将来がどうなるかは誰にも分かりませんわ! ヒミコさんがこれから峰田さんと恋に落ちて結ばれる可能性だってゼロではございませんわ!」

 

「いえ、それはゼロですね」

 

「そうですわね。自分で言っておいてなんですが、流石にそれはあり得ませんわ」

 

テンションが上がってた二人がいきなり冷静になった。峰田君の好感度が低すぎない?

 

「おいおい、その峰田ってのはどんな奴なんだ? 同じ雄英のヒーロー科なんだから将来有望な奴だろ」

 

ミルコ姉さんの言葉に、女子二人は醒めた瞳で峰田君の悪行を話し出した。

 

──その後、ミルコ姉さん経由で峰田君の悪行はゆっくりと女性プロヒーロー達の間に広まっていくのであった。

 

 

 

 

職業訓練2日目は戦闘訓練になった。

 

「おう、トガは筋はいいが攻撃力が足りないな。そうだな、スタンガン機能のある特殊警棒を持つか?」

 

「警棒ですか? そうですね、私は筋トレしても筋肉が中々つかないので、いっそ武器で補うのも悪くないかもです」

 

「ああ、別に武器を使うのは悪いことじゃねえからな。ヒーローは個性だけで戦おうとする奴も多いが、それでヴィランに負けちまったらそれこそ意味がねえ」

 

「その通りですわ! 流石は女性トップのミルコさんです。とても素晴らしいお考えだと思いますわ。それでは次は私たちの機動戦士モードへのご指導をお願い致します!」

 

戦闘訓練中の二人の会話に、モモちゃんが強引に割り込んだ。

 

その勢いにミルコ姉さんは苦笑して、ヒミコちゃんに確認するように視線を向けた。それに気づいたヒミコちゃんは仕方がないと首を縦に振る。

 

今日の戦闘訓練は、ヒーロー事務所の裏手にある空き地で行われている。

 

モモちゃんと僕は戦車タイプに変形した機動兵器に乗り込んでいた。

 

「よし、じゃあ次は八百万の番だ。だけどなぁ、その巨大戦車に対して何を指導をするんだ? 砲撃のやり方なら知らないぞ」

 

空き地は結構な広さがあるけど、それでも圧迫感を与えるほどの巨大戦車を見上げて、ミルコ姉さんは呆れた顔で言った。

 

「うふふ、AI制御ですので砲撃は自動化がなされていますわ。搭乗者が行うのは攻撃対象の指定だけとなっております」

 

「えらい上機嫌だな。ご自慢の巨大戦車のようだが、街中でこれを乗り回してヴィランを追いかけ回す気か?」

 

「はっ!? 申し訳ありません! 市街地で戦車タイプは不適切でしたわ。すぐに人型タイプに変形致します!」

 

モモちゃんの声と同時に機動兵器は人型へと変形した。そのギミックにミルコ姉さんは目を丸くする。

 

「変形機構も搭載してんのか。一体いくらしたんだこれ? おい、もしかして他のタイプもあるのか?」

 

「はいっ、戦車タイプ、人型タイプ、飛行タイプ、船舶タイプ、潜水タイプ、地中タイプ、宇宙タイプの合計7タイプを搭載しております!」

 

モモちゃんは胸を張って答えた。僕はぷるんと震えたそれをジッと見つめる。ヒーローコスチュームの隙間から少しだけ見える、モモの下側に書かれた文字が非常に気になる。『毒』とか『入り』とか書かれてない?

 

「これをヒーロー科に通う娘一人の為に開発したのか……八百万家はアホなのか?」

 

「モモちゃんのパパは超のつく親バカなのです!」

 

ミルコ姉さんの疑問に、ヒミコちゃんがすかさず答えた。

 

「娘を溺愛しているパパの暴走か? まぁいいか、とりあえず人型ならマウントレディと似たようなものだ。よし、少しだけ蹴ってやる。おい、構えな!」

 

ミルコ姉さんから獰猛な気配が放たれる。モモちゃんはその威圧感に息を呑むけど戦意は失わない。

 

「はいッ、お願いします!」

 

モモちゃんは精一杯の気合いを込めて返事をした。

 

「いい気合いだ。いくぞ!」

 

ミルコ姉さんが弾丸のように跳んできた。その顔に浮かぶ凶悪な笑みを見て察した。

 

──これ、酷い目に遭うやつだ!

 

 

 

 

戦闘訓練後は周辺地域のパトロールだ。

 

飛行タイプに変形した機動兵器の上にミルコ姉さんを立たせて、低速で飛行しながらパトロールをしている。

 

僕達三人は機動兵器の上に立つのは危ないから搭乗席に座っている。ミルコ姉さんぐらいの身体能力がないと強風と振動で吹き飛ばされる。そのミルコ姉さんですら低速でないと立っているのは無理だと言っていた。

 

このパトロール中に暴れるヴィランを見つけた場合には、警察に連絡を行った上で捕縛する。駆けつけた警察にヴィランを渡す。そして必要な書類を作成提出すれば内容確認後にお金が振り込まれるそうだ。

 

この書類作成が大変なので、ミルコ姉さんとこは専門の事務員を雇っている。いつもミルコ姉さんがお世話になってます。と、初対面の時に頭を下げて挨拶をしたら笑われた。ミルコ姉さんは苦笑してた。

 

地元を低空でゆっくりと飛びながらのパトロールは楽しい。

 

機動兵器の上に立つミルコ姉さんを見つけた人達が歓声をあげながら手を振ってくれる。

 

ミルコ姉さんも振り返している。こういった地道な活動もヒーローには必要なのだ。人気商売は大変だよ。

 

 

 

 

パトロール後、女子会が開かれた。

 

僕の参加はダメらしい。

 

ヒミコちゃんから『盗み聞きはダメです』と釘を刺されたから、ヒミコちゃんの護衛のハーヴェストは女子会が開かれている部屋から出している。

 

事務員さんは昼から用事があるとかでとっくに帰っていたから、僕は一人ぼっちでソファでゴロゴロしていた。

 

テレビでも見ようと電源を入れたら『ヒーロー殺し』のニュースをやっていた。

 

飯田君のお兄さんを襲ったやつだ。

 

ヒーロー殺しは複数のナイフを巧みに操るヴィランだそうだ。他人を金縛りにする個性も持っている。

 

近接戦闘では非常に危険な相手だ。僕では金縛りにする必要もなく、ヒーロー殺しに簡単に切り刻まれるだろう。

 

幸いにもヒーロー殺しが出没した都市はだいぶ離れているから出会う可能性は低い。

 

現実的な話ならこのヒーロー殺しの能力なら、ハーヴェストの警戒網を突破して僕の所まで辿り着く事は不可能だ。

 

どっかその辺の道端で、泥酔した状態で倒れる事になるだろう。

 

僕にとっての脅威度は低いヒーロー殺しだけど、世間を騒がしているのは間違いない。ミルコ姉さんが捕らえたら人気が上がるだろう。

 

蹴りまくってボコボコにしたヒーロー殺しを引き摺るミルコ姉さん。とてもテレビ映えがしそうだ。

 

ヒーロー殺し捕獲に協力した職業体験中の雄英ヒーロー科の生徒達ってのも話題性がありそうだね。

 

テレビの前でポーズを決める僕たち。

 

惜しいな、五人いれば特戦隊のポーズが……事務員さんを入れたらいけるね!

 

『五人そろってミルコ特戦隊!!』

 

これならミルコ姉さんの人気が一気に上昇するよ!!

 

そんな事を色々と計画してたら女子会が終わったみたいだ。

 

「重清くん、お待たせしました。雄英卒業後、私達三人はミルコさんのヒーロー事務所に就職する事が決まったのです」

 

えぇっ!? 僕抜きで決まったの!?

 

と、驚いてはみたけど、僕がミルコ姉さんとこに就職するのはほぼ決めてたし、僕が就職したとこにヒミコちゃんも一緒についてきてくれるって約束をしている。

 

今回の女子会ではモモちゃんの就職についての相談だったのだろう。男の僕には話しにくい内容もあるだろうしね。

 

「そっか、わかった。モモちゃんまだ先の話だけど就職後もよろしくね」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いしますわ。うふふ、これで機動戦士モードも安泰ですわね」

 

モモちゃんは本当に機動戦士モードが気に入ったみたいだ。就職を早々に決めた理由も大半が機動戦士モードを続けたいからだろう。

 

「ところで、ミルコ姉さん」

 

「ん? なんだ。晩飯ならもう少し後だぞ。待てないならニンジンでも齧っておくか?」

 

そんな話じゃないよ、子供扱いしないで欲しい。僕は一人で居たときに考えていた計画をミルコ姉さんに話してみた。

 

「ミルコ特戦隊の名乗りは兎も角、ヒーロー殺しか。アイツは気にはなっていたが発見するのが大変みたいだぞ」

 

ミルコ姉さんもヒーロー殺しは気になるらしい。気にはなるけど、捕縛そのものより発見する難易度が高いから手を出さなかったみたいだ。

 

「私はソロだからな。捜索が絡む任務は基本的に受けないようにしている」

 

それは納得できる理由だ。だけど今ならこの僕が居る。捜索は僕(ハーヴェスト)の得意分野だ! 半径数キロ程度のエリアなら一時間もかからずに捜索を終えれるよ!

 

「……さっきも話し合ったが、こいつは迂闊すぎないか?」

 

「そこが重清くんの可愛いところなのです!」

 

「その気持ちは分かりますわ。だけど秘密を守るためには対策が必要ですわね」

 

三人はコソコソと何を話し合っているのかな? 急に頭を突き合わせて目の前で内緒話をされても反応に困るんだけど?

 

「よし、対策は決まったぞ。トガ、頼む」

 

「はい、任せて下さい。重清くん、少し向こうでお話をするのです」

 

ヒミコちゃんに連れられて隣の部屋にいく。何の話かな?

 

「重清くん、今から私が言う通りにハーヴェストに命じて欲しいのです」

 

ハーヴェストに? ヒミコちゃんがそんな事を言うのは初めてだ。

 

欲しい血があるのなら僕に言ってくれれば──はっ!? まさか他の男の血が欲しいの!?

 

僕はその場に転がっ──「違うのです!!」

 

なんだ、違うのか。僕は立ち上がる。

 

「もう、重清くんは早とちりなのです。それにこんな場所で子供みたいな駄々のこねかたをしないで下さい!」

 

ヒミコちゃんは少し頬を赤くして怒った。怒った顔も可愛い。

 

「いいですか、私がこれから言う通りにハーヴェストに命じて下さい。『ハーヴェストよ、僕がハーヴェストの存在や能力を他人にバラすような言動をしようとしたら《喋るのストップ》という思念を僕に送れ』以上です」

 

ヒミコちゃんの僕の声真似が可愛すぎる!!

 

もう一回やって!!

 

「可愛かったですか? 自分ではよく分かりませんが、仕方がないですね。一回だけですよ──」

 

10回ぐらい繰り返してたら、ミルコ姉さんが来て呆れた顔でヒミコちゃんを見た。

 

「トガ、イチャつきたい年頃なのは分かるが、今は我慢してくれ。八百万がイライラしながら隣の部屋で待ってるからな」

 

「は、はい……ごめんなさいです」

 

「じゃあ、任せるからな」

 

ミルコ姉さんはそう言うと部屋を出ていった。

 

ヒミコちゃんがさっきより頬を赤くしている。すごく可愛い。

 

「もうっ、一回だけと言ったのに、重清くんが何回もリクエストをするせいで怒られたのです!」

 

プンスカと怒るヒミコちゃん。可愛すぎてぎゅうと抱きしめる。

 

「メッ、重清くんは反省してないのです。もう怒りました。お仕置きをします」

 

ヒミコちゃんにくすぐられる。

 

うぬぬ、負けるものか! 僕もくすぐり返す。

 

キャアキャアとくすぐり合戦をしてたらミルコ姉さんがまたやって来た。

 

「お前ら本気でイチャつくのは後にしてくれ。八百万がブチ切れそうだ。鬼の形相になってるぞ」

 

「ごめんなさいです!」

 

モモちゃんのそんな顔は見たことがない。興味が湧いたから隣の部屋を覗いてみる。

 

「あら、もう話し合いは終わりましたか?」

 

にっこりと笑いかけてくれるモモちゃん。とても普通だった。

 

僕は首を傾げながら部屋に戻る。

 

「重清くん、急に行かないで下さい。ミルコさん、後は私に任せてもらって大丈夫です」

 

「うーん、本当に任せて大丈夫なのか? よく考えてみれば、トガはコイツと仲の良い幼馴染なんだよな。ということはコイツと似た者同士という恐ろしい可能性があるんだが?」

 

「それは私にとても失礼なのです! 重清くんはとても素敵な男の子ですが、あんぽんたんな性格は品行方正な性格の私とは似ても似つかないのです!」

 

「……なるほどそうか。似た者同士でお似合いの二人なんだな。よく分かったから、今は話し合いを優先してくれ。私は三年後、お前らがうちのヒーロー事務所に入った後の騒動を抑える対策を考えてくる」

 

ミルコ姉さんが珍しく疲れた顔をして部屋を出ていった。大丈夫かな?

 

「はい、それじゃあ、重清くん。私が先ほどの言葉を言いますから、その後に続いて同じ言葉を言って下さい。ちゃんとハーヴェストに命じるつもりで言って下さいね」

 

さっきの言葉?

 

あぁ、僕がハーヴェストの事をバラす事を言うのを防ぐってやつのことか。

 

正直言って無駄なんだけどね。この僕が自分からそんな迂闊なことを口にするわけが無いからね。

 

ヒミコちゃんは心配性だよね。でも、僕を思ってくれての心配だからその気持ちが嬉しい。

 

嬉しい気持ちを抑えきれずに、思わずヒミコちゃんをぎゅうと抱きしめる。

 

「もう、本当に重清くんは懲りない人なのです。やっぱりお仕置きが必要ですね」

 

ヒミコちゃんは僕に──「おい、三度目は止めろよ」

 

ミルコ姉さんが扉の隙間から覗いていた。据わった目が少し怖い。

 

ヒミコちゃんと頷きあって気持ちを確かめ合う。

 

──うん、真面目にやろう。

 

 

 

 

僕達は保須市に来た。

 

もちろんヒーロー殺しの捕縛の為だ。

 

機動兵器の搭乗席に四人とも座っている。

 

宣伝の為にミルコ姉さんには機動兵器の上に立っていて欲しかったけど、本人に強風に晒されたまま立ちっぱなしは嫌だと言われた。

 

「当たり前だ。地元でのパトロール中なら我慢もするが、あんなクソ寒い所にいられるか」

 

なるほど、上空は寒いんだ。でも兎さんは雪山でも元気だよね。寒さに強いんじゃないの?

 

「全身に毛皮があれば寒さに強かったんだろうが、生憎と耳と尻尾にしか生えてねえからな」

 

ミルコ姉さんの耳と尻尾はモフモフだもんね。触り心地が良いよ。

 

「……言っておくが、他の奴(獣タイプ)の耳や尻尾に気安く触んなよ。敏感な部分だからな」

 

そう言いながら、僕が触ってるのを止めない優しいミルコ姉さんだ。

 

「うーん、お前はなんというか、放っとけない間抜けな子兎って感じだからな。多少の事じゃあ蹴っ飛ばす気にはならねぇよ」

 

ミルコ姉さんがクシャクシャと髪を掻き混ぜる。うんうん、気持ちの良い頭皮マッサージだ。

 

──このとき、僕はピンときた。

 

と、頭皮マッサージが気持ちいいってことは頭皮がダメージを負っている。という事じゃないの!?

 

「ヒ、ヒミコちゃん、僕の髪って薄くないよね?」

 

まだ若いんだ、大丈夫なはずだと自分に言い聞かせながら恐る恐る聞いた。

 

ヒミコちゃんは慈愛を感じさせる微笑みを浮かべる。まるで聖母のようだと思った。

 

「重清くん、私は貴方がどんな姿になろうとも抱きしめることが出来るのです。だから安心して下さい」

 

何を安心すればいいの!?

 

と、その時だった。

 

保須市の一角で炎が立ち昇った。

 

──立ち上がり、両足を大きく開く。上体を僅かに反らし街のある一点を指差す。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴッ、炎は気にするな。あちらにはオールマイトが向かっている。僕らが向かうのはあそこだ。モモ、遮光性ゴーグルと耳栓を2セット創造しろ。ミルコとヒミコはゴーグルと耳栓を装着したら船外に出て突撃準備だ。船外での補助は任せろ。突撃後、ミルコはヒーロー殺し(ナイフを持った男)を蹴っ飛ばせ。ヒミコは倒れている被害者を引き摺ってこい。モモ、二人の突撃に合わせて閃光弾を発射しろ」

 

僕の指示に三人とも素直に従う。準備を終え船外に出た二人をハーヴェストを使って固定する。

 

「モモ、全速力で目的地に向かえ」

 

機動兵器が速度を上げる。船体が激しく触れるが船外の二人は耐えてくれている。

 

機動兵器は見る間に目的地に近付いていく。

 

「モモ、目的地上空で空中停止だ。減速時期を見誤るな」

 

目的地に近付くと機動兵器は速度を落としていく。

 

そして目的地上空に空中停止したのと同時に、二人は突撃しモモは閃光弾を発射した。

 

ミルコは自力で跳んだ。ヒミコはハーヴェストの集団を利用して飛ばす。

 

閃光弾の閃光に紛れてミルコはヒーロー殺しを蹴っ飛ばしたが、ヒーロー殺しが蹴り飛ばされながらも放った斬撃を受けた。

 

ヒミコの着地をハーヴェストにフォローさせる。着地後は素早く被害者に駆け寄り、強引に引き摺って路地裏から連れ出した。

 

「モモはヒミコと被害者を回収しろ。僕はミルコのフォローに行く」

 

──僕は上空から飛び降りた。

 

 

 

 

「クッ、き、貴様はラビットヒーローミルコか、ブギュッ!?」

 

僕は『ヒーロー殺し』の上に着地した。もちろん、ハーヴェストにフォローをしてもらったから怪我はしてないよ。

 

「フッ、つまらぬ物を踏んでしまったか」

 

下敷きにした『ヒーロー殺し』は気絶したみたいだけど、目を覚ましたら怖いからハーヴェストにアルコールを注射させとこう。

 

ミルコ姉さんを見ると腕を斬られていた。急いで駆け寄り額に拳を当てた。

 

──クレイジー・ダイヤモンド。

 

頑張った兎さんを癒す。

 

「おう、助かる。それでそいつか『ヒーロー殺し』か。咄嗟に反撃した腕は大したもんだったが、思った以上にあっさりと倒せたな」

 

治った腕を確かめるように回しながらミルコ姉さんは僕が踏んづけている『ヒーロー殺し』を観察していた。

 

「そうでもないよ。被害者が近くにさえいなかったら、機動兵器からの硬質ゴム弾無限射出ができたからミルコ姉さんが怪我をする必要もなかったからね」

 

「クク、そいつは欲張りすぎってもんだぜ」

 

──僕が口にした不満にミルコ姉さんはニヤリと笑った。

 

 

 

 

──職業体験が終わった。

 

終わってみればあっという間の一週間だった。

 

「重清ちゃん、お疲れ様。テレビで見たわ、大活躍だったわね。五人での決めポーズがとても格好いいって弟が言っていたわ。でも、端っこのスーツ姿の女性が、真っ赤な顔でプルプルと震えていたのが気になったのだけど、彼女は大丈夫だったのかしら?」

 

梅雨ちゃんだ。なんだかすごく久しぶりに会った気がする。

 

折角だし膝枕をしてもらおう。

 

梅雨ちゃんの手を引っ張り、裏庭に連れて行って芝生に座ってもらう。そしてそこに僕をセットする。

 

「ふふ、本当に重清ちゃんは弟みたいな事をするわね。うちの弟も甘えたい時に同じことをしていたわ……今よりもっと小っちゃいときの話だけどね」

 

弟さんは今はしないの?

 

「姉に甘えるのが恥ずかしいみたいで今はもうしないわ」

 

それは勿体無いね。梅雨ちゃんの膝枕はこんなに幸せな気持ちになれるのに。ほら、梅雨ちゃんの太ももは柔らかくて気持ちがいいよ。

 

「はぁ、重清ちゃん。ただの同級生の女の子に膝枕をされている時は、うつ伏せになってはいけないわ。ぐいぐい顔を押し付けてもダメよ。そういうのはヒミコちゃんの時だけにしてね」

 

梅雨ちゃんが寂しいことを言う。

 

「え…?」

 

前にも言ったよね。

 

僕にとって梅雨ちゃんはただの同級生なんかじゃない。

 

──僕の大事な(面倒を見てくれる)人だよ。

 

 

 

 

 

 





──重清くん家にお泊まり中です。結婚したわけじゃないですよ、職業体験中なのです。

この職業体験中に、私は決断をしました。

大切な秘密を他人と共有する決断をしたのです。

本当は嫌です。

大切な重清くんの秘密なのです。

可能なら知った人間を闇に葬りたいです。

でも、私は無力です。

私だけでは秘密を守る事が出来ません。

大切なあの人を守り抜く事が出来ません。

もしも悪意がある人に秘密を知られてしまったら、きっとあの人は穏やかな人生を歩めなくなってしまう。

あの人の平和な夢を叶えられなくなってしまう。

それは嫌なのです。耐えられないのです。

お金持ちになって、私と一生幸せに暮らすというとても大切な夢が叶わないと困るのです!!

その為には苦渋の決断もする必要があります。

実はミルコさんに秘密を勘付かれていました。

以前、重清くんが迂闊なことにミルコさんをコテンパンに倒しちゃったのが原因です。

秘密の力をこれでもかってほどに使っての勝利です。

それを聞いた時は目眩を感じたものです。

幸いなことにミルコさんは、彼の秘密の力について一切口にしようとはしませんでした。

そして今回の職業体験では、彼女の方から彼の面倒を一緒にみようと話を持ち掛けてきたのです。もちろん怪しいと思いました。

怪しむ私にミルコさんは苦笑しながら言いました。

──危なっかしくて放っとけないからな。

とても納得できました。

ミルコさんはあれですね。

梅雨ちゃんと同じお姉ちゃん気質みたいです。

彼女が嘘を言っている可能性はありません。

その理由は簡単です。

ミルコさんが泥酔して倒れていないからです。

私が接している相手が暴力を振るおうとしたり嘘をつけば、その相手は泥酔して倒れます。小さな声で『何もしなくていいです』と言っておけば何も起きません。

ふふ、不思議な現象なのです。

ミルコさんは信用する事にしました。上位ヒーローの彼女の力は、重清くんの役に立つと思います。

もう一人の協力者になったモモちゃんは問題があります。

そうです。モモちゃんにも勘付かれました。

重清くんは迂闊が過ぎるのです。

戦闘訓練で二人が組む事が多いのは事実ですが、それだけで察せられるなんて思わなかったのです。

機動戦士モードでは、重清くんは索敵・回復担当です。普通、索敵はレーダーの監視役なのです。それをレーダーを見ずに正確な索敵をし続けるなんて重清くんはアホですか!?

そうなんです。重清くんはアホなのです。

私がそれを誰よりも知っていた筈なのに……後悔のしまくりなのです。

直す(治す)個性以外にも個性を持っているとモモちゃんは思っています。それはミルコさんも同じです。

二つ以上の個性を持つ者はいない。

これは常識です。その常識を覆す存在が現れたら頭のイカれた科学者達のモルモットにされる危険があります。

重清くんは稀有な回復の個性持ちなので、ヒーロー協会が守るはずですが、それも絶対とは言い切れません。

ミルコさんとモモちゃんも危機感を持っています。絶対にバレないように協力し合う事で合意しました。

これからミルコさんとは上手く付き合っていけると思います。お姉ちゃんポジなので。

問題はモモちゃんです。

そうです。毒入りモモちゃんが問題です。

彼女はイチャイチャタイムを邪魔するお邪魔虫なのです!

職業体験中は、重清くん家に折角のお泊まりなのに、彼の部屋にいく邪魔ばかりされるのです!

かぁいいパジャマを見せたいのに『不純異性交遊は禁止ですわ!!』とか言って通せん坊されるのです! イジワルです!

私達は不純ではなく、純粋なのです!

頭の中もモモ色な毒入りモモちゃんとは違うのです!

ところで、モモちゃんはいつになったら落書きに気づくのでしょうか?

モモちゃんのモモの下側に書いたので、直接目視はしにくい箇所ですが、お風呂で鏡を見ないのでしょうか?

ヒーローコスチュームだと人から見えるのですが、クラスの皆もそういうデザインだと思ったようです。

響香ちゃんは小さな声で『意外とロックだな』と呟いて目を丸くしていました。

梅雨ちゃんは『自己防衛ね、分かるわ』と言ってました。

男子の多くは何だか怯えた様子でした。よく分からない反応ですが面白いです。モモちゃんへの邪な視線は減った気がします。

モモちゃんは許せない存在ではありますが、友達でもあるのです。

なので邪な男子対策のため、私は今夜も寝ているモモちゃんのモモに書いた文字が消えないように上書きをして上げるのです。カキカキ。

ふふ、お邪魔虫にも塩を送る。

私はとても心が広いのです。












──前世とか、スタンドのことは墓場まで持っていきます。重清くんと私だけの永遠の秘密なのです。



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