重ちー(偽)のヒーローアカデミア   作:銀の鈴

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シーズン2(期末テスト編)

 

──ヒーロー殺しを倒した後の出来事だ。

 

警察が到着する前にマスコミが現れた。

 

この時点では、まだ連絡をして現地に来てもらった事務員さんの説得中だった。恥ずかしがる彼女を説得するのに苦労をしていた。

 

マスコミを前にした僕は焦ってしまう。そして悪い時には悪いことが重なるものだ。

 

そう、ヒーロー殺しが目を覚ました。

 

そしてテレビカメラに気づくと、そのカメラの前で『ヒーローとはなんぞや』といった趣旨の演説を始めた。

 

「ヒック、いぃいかぁぁあ、しぃいんのぉお、ヒクッ、ひぃいろぉとはぁああっ──」

 

「黙れこの酔っ払いが!!」

 

「ブゲラッ!?」

 

泥酔して呂律が回っていなかったヒーロー殺しは、ミルコ姉さんに蹴っ飛ばされてギャグ漫画のようにふっ飛んだ。

 

──ミルコは両足を広げて立ち、上体は大きく反らす。そしてヒーロー殺しを指差す。その勝ち気な瞳は道路に転がるヒーロー殺しを睨む。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴ。人は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる。ヒーローとはそんな人々の希望となる存在だ。私はそんな希望を背負う覚悟をもってここに立っている。覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開く事だ。ヒーロー殺しステイン!! 貴様のような酒の力を借りなければ、己の思想を語る覚悟もない腰抜けがヒーローを語るな!!」

 

ミルコ姉さんにテレビカメラが向けられている。

 

今がチャンスだと思った。

 

僕はミルコ姉さんの隣に躍り出て、名乗りとポーズを決める。

 

「復活ヒーロー重ちー!」

 

僕の意図を汲んでくれたヒミコちゃんが後に続いてくれる。

 

「変身ヒーロートガなのです!」

 

仕方ありませんわね。と小さく呟いてモモちゃんも続いてくれる。

 

「万物ヒーロークリエティですわ!」

 

ああもうっどうして私がっ、と叫びながら事務員さんが覚悟を決めてくれた。

 

普通の事務員(匿名希望)です!」

 

そしてっ、最後は当然!!

 

「ラビットヒーローミルコだ!!」

 

ミルコ姉さんを中心にして決めポーズ──スペシャルファイティングポーズを決める!!

 

『重ちー!! トガ!! クリエティ!! 事務員(匿名希望)!! ミルコ!!みんなそろってミルコ特戦隊!!!』

 

どかーん、と僕らの後ろで、モモちゃんに創造してもらった仕掛けで爆発と5色の煙が上がる。

 

おぉーっとマスコミや野次馬達から歓声が上がった。

 

こうして、ミルコ特戦隊は華々しく全国デビューを果たした。

 

 

 

 

「ハハッ、一度吹っ切っちまえば、中二病呼ばわりも気にならねぇなっ!」

 

ミルコ姉さんがすっかり開き直って笑ってた。

 

僕が考えた、ミルコヒーロー事務所の宣伝は皆の協力のもと思ったより上手くいった。

 

「ふふ、私達の真似をした戦隊ヒーローごっこが子供達の中で流行しているそうですわ」

 

モモちゃんは嬉しそうだ。

 

「道を歩いていたら、子供の声でトガトガ言ってるのが聞こえて気になるのです」

 

ヒミコちゃんは少し不機嫌にしている。ヒーロー名を考えるのが面倒だと言って本名にしたことを後悔しているのかもしれない。

 

「重ちーに合わせて、ヒミちーにしようとしたのを反対したのは重清くんなのです。私は仕方なく本名にしたんです」

 

「ヒミちーは語呂が悪すぎますわ。反対した重清さんの判断は正しいと思います」

 

「学生のヒーロー名はまだ暫定だ。卒業までに気に入るのを考えりゃいいだろ。それより私の中二病被患説を払拭するアイデアはねぇか?」

 

どうやら完全には吹っ切れてないみたいだ。

 

ミルコ姉さんの言葉にモモちゃんは優しく微笑み答えた。

 

「もう手遅れですわ」

 

ヒミコちゃんは満面の笑みで答えた。

 

「もう手遅れなのです!」

 

僕は真面目に答える。

 

「もう手遅れだよ」

 

窓の外から子供の声で「みんなそろってミルコ特戦隊!!」と叫んでいるのが聞こえてきた。

 

「ハァァ…そうだよなぁ」

 

ミルコ姉さんは深い溜息をつき完全に諦めた顔になる。

 

そんなに気にしなくても時間が経てば皆すぐに忘れちゃうよ。大衆なんて飽きっぽいものだからね。

 

それに中二病だと言われても実際に害があるわけじゃないよ。

 

「……15歳のお前らなら中二病でも微笑ましく思われるだろう。だがな、26歳の私だと友達から痛ましい目を向けられるんだよ」

 

ミルコ姉さんの言葉は、僕達よりも事務員さんに刺さったみたいだ。「ハウッ!?」と妙な声を出したと思ったら机に突っ伏してしまった。

 

「アイツは中学の同級生でな。私と同い年なんだよ。それで例の事件があった日、昼間のアイツの用事ってのは実は見合いだったんだが……テレビ放送後、相手さんから自分とは感性が違い過ぎて無理だとお断りの返事がきたそうだ」

 

ミルコ姉さんの衝撃的な発言に言葉を無くす。

 

ぼ、僕の所為じゃないよね?

 

まだ26歳なら若いんだから焦る必要はないと思うけど、自分より年下の学生には言われたくないだろう。

 

な、何か気が利いたことを言わなくては……そうだ! こういう場合は同性の方がいいよね!

 

ヒミコちゃんにヘルプの視線を向ける。

 

「え、私ですか? 私は恋愛結婚派なので、お見合いをする人の気持ちは分かりませんよ? それでも何か助言をするなら…そうですね、仕事に生きるというのはどうでしょうか? 女の幸せは結婚だけではなっ──ムググ」

 

ヒミコちゃんの口に手を当てて塞ぐ。いくら僕でも今のフォローが不適切なことは分かる。

 

他人に興味が薄いヒミコちゃんに不向きなヘルプを頼んだ僕の落ち度だ。

 

今の言葉で、事務員さんのヒミコちゃんを見る目が変わってしまった。机から顔を上げてヒミコちゃんを凝視している事務員さん。今までは可愛い後輩を見る目だったのに、非常識な子を見る目になっちゃったよ。

 

反省をした僕は、モモちゃんにヘルプの視線を向け直す。基本的には優等生なモモちゃんならきっと適切なフォローをしてくれるはずだ。

 

視線に気づいたモモちゃんが『はい、私にお任せ下さい』といった感じで頷いてくれた。

 

「事務員さん、先ずは謝罪をさせて下さい。あの時は十分に話し合いが出来ないまま、半強制的にスペシャルファイティングポーズに組み込んでしまい申し訳ありませんでした」

 

モモちゃんが深々と頭を下げる。慌てて僕も頭を下げた。ヒミコちゃんも僕に合わせて頭を下げてくれる。

 

僕らが頭を下げると、事務員さんは『君達は悪くないわよ』と言ってくれた。『悪いのは許可を出したコイツよ』とミルコ姉さんを睨みつける。

 

事務員さんに睨まれたミルコ姉さんだけど、すでにこの話には興味を無くした様子で、ソファに転がってニンジンスティックを齧りながらテレビを見てた。とても自由人で羨ましいと思う。

 

それでも謝罪をと繰り返すモモちゃんと、事務員さんとの社会人っぽいやり取りを経て、無事に事務員さんと和解ができた。

 

僕が内心ホッとしていると、モモちゃんが続けて口を開いた。

 

「それでは本題に入りますわ。スペシャルファイティングポーズの並び順ですけど、センターがミルコさんなのは当然です。その左右が事務員さんとヒミコさんなのも身長を考慮すれば理解できます。ですが、ヒミコさんの隣が重清さんの理由はありませんわよね? 別に私でも構わないと思いますわ」

 

「ヤです。私の隣は重清くんがいいです。ちゃんと理由もあります。学ランぽいヒーロースーツの重清くんと、黒色スーツ姿の事務員さんが並ぶと全体の色バランスが偏ってよくないと思うのです」

 

「く、悔しいですが、ヒミコさんの言う通りですわ。戦隊では色バランスは重要事項です……あのう、事務員さん。気分転換を兼ねて黒色のスーツ姿はおやめになられて緑色のレオタード姿にされるというのは如何ですか?」

 

事務員さんのモモちゃんを見る目が『お前もか!?』と言わんばかりに見開かれている。ヒミコちゃんに続きモモちゃんまで非常識な子認定されたみたいだ。

 

これで常識人なのは僕だけになった。せめて僕だけでも事務員さんの心の支えになろうと思う。

 

でもバリバリの出来る女オーラを放っている事務員さんのレオタード姿か……ぜひ見たい!!

 

モモちゃん、頑張って説得してね!!

 

 

 

 

もうすぐ期末テストが始まる。

 

モモちゃんから勉強会のお誘いを受けた。

 

メンバーは以下の6名だ。

 

1.モモちゃん

 

2.僕

 

3.ヒミコちゃん

 

4.梅雨ちゃん

 

5.響香ちゃん

 

6.三奈ちゃん

 

三奈ちゃん以外は体育祭でも一緒に打ち上げをしたお馴染みのメンバーだ。

 

5人で勉強会の話をしていると、三奈ちゃんが自分も仲間に入れてと声をかけてきた。なんでも筆記試験がヤバいらしい。

 

別にヤバいといっても、三奈ちゃんの頭が悪いわけじゃない。他の高校なら十分に上位を狙える成績だ。単に雄英のレベルが高すぎるんだ。

 

「アタシをおバカ扱いしないのは、矢安宮ぐらいだよ。あんた良い奴だよねー!」

 

三奈ちゃんはフレンドリーで明るい女の子だ。ダンスが得意で、純粋な運動神経ならA組女子の中でもトップだ。

 

「うーん、そう言ってもらえるのは嬉しいけどさー、アタシはあんたのトガに勝てた試しが無いんだけど?」

 

「対人戦のスキルはヒミコちゃんの方が上だからね。でも三奈ちゃんの個性は強力だから、プロヒーローの現場を想定するなら三奈ちゃんの方が色々と応用が利いて有利だと思うよ」

 

「えへへー、そっか! トガ贔屓の矢安宮が言うなら嘘じゃないよね! 現場ならアタシの方が有利かー!」

 

三奈ちゃんがニコニコしている。使用目的が限定的な『変身』の個性より、『酸』の個性の方が応用が利くのは当然なんだけどね。

 

「ムムム、私より三奈ちゃんを褒めているのです。浮気ですか? 浮気なのです! 重清くんが浮気者なので罰を与えるのです!」

 

三奈ちゃんと喋っていたら、僕のヒミコちゃんが背後から現れた。首に腕を回して締めないで!

 

「ギブ、ギブだよ、ヒミコちゃん!」

 

ヒミコちゃんも本気で締めている訳じゃないけど、彼女の腕は細いからスポッと顎の下に入って頚動脈を押さえる形になってしまう。ちょっと苦しい。

 

「重清くん、反省してくれましたか?」

 

僕のギブを受けてヒミコちゃんは開放してくれた。

 

よし、反撃だ!

 

「浮気は冤罪だから反撃します」

 

「きゃあああ、重清くんに襲われるのですー!」

 

ヒミコちゃんの背後から腕を回してお腹でロックする。これでもうヒミコちゃんは逃げられない。

 

僕はニヤリと笑うと、ヒミコちゃんの頬に自分の頬を当ててスリスリ攻撃を行う。

 

「ヒミコちゃんのほっぺはスベスベだあ!」

 

「きゃあきゃあ、重清くんのほっぺは硬いのですー!」

 

僕のスリスリ攻撃にヒミコちゃんは悲鳴をあげる。冤罪をかけた罪は重いのでこの程度では許してあげないぞ。

 

「もうっ、いきなり目の前でイチャつかないでよ! 教室での不純異性交遊は禁止だー!」

 

三奈ちゃんが両手をあげて抗議をし始めた。

 

そっか。

 

三奈ちゃんは凄い可愛いけど、何故か彼氏がいないもんね。僕達の仲の良さを無遠慮に見せつけたのはマナー違反だ。

 

「す、すごい可愛いって……」

 

「むぅ、重清くんは余計な一言を言わないで下さい」

 

あれ? 三奈ちゃんが急に静かになった。ヒミコちゃんは少し不機嫌になった。

 

いつも元気な三奈ちゃんが急に静かになったら心配になるんだけど大丈夫?

 

「だ、大丈夫だよ!! アタシは全然大丈夫だから心配しないで!!」

 

三奈ちゃんがブンブンと両手を振り回して元気さをアピールする。

 

いかにも三奈ちゃんらしい仕草だけど、どこか違和感がある。

 

三奈ちゃんの瞳をジッと見つめると、不自然に視線を外された。

 

やっぱり変だ。視線が合えばニッコリと笑ってくれるのが三奈ちゃんという女の子なんだ。

 

様子のおかしい三奈ちゃんが気になるけど、あまり無遠慮に踏み込むべきじゃないとも思う。

 

思春期の女の子なんだから色々と思い悩むこともあるだろう。

 

三奈ちゃんの方から相談をしてくれたら話は別だけど、男の僕は一歩ひいて見守るスタンスを保とう。

 

ただ、一言だけ彼女に伝える。

 

──いつでも頼ってくれていいからね。

 

三奈ちゃんだけに聞こえるように、彼女の耳元に顔を寄せて小さく囁いた。

 

突然の言葉に少し驚いた様子の三奈ちゃんだったけど、はにかむような笑みをみせて頷いてくれた。

 

三奈ちゃんのことは様子をみるとして、いきなり不機嫌になったヒミコちゃんの事も凄く気になる。

 

ヒミコちゃんの顔を覗き込むと眉間に皺を寄せて唸っていた。さっきよりも機嫌が悪くなってないかな?

 

でも、ヒミコちゃんって、こういう不機嫌な表情をしていても可愛いんだよね。

 

むぅむぅと唸っているヒミコちゃん。

 

表情を見て分かった。これは長年の付き合いから分かるんだけど、この雰囲気なら不機嫌の理由はそう深刻なものじゃない。

 

少し時間が経てば自然と機嫌を直してくれる。

 

そうだ、せっかくだから可愛い表情を撮影しておこう。スマホを出してパシャリ。

 

「もう、重清くんは勝手に写真を撮らないで下さい! 変な顔をしてるときは撮影禁止だと何回言ったら分かるんですか!」

 

ヒミコちゃんは怒るけど、どんな表情をしていても可愛いヒミコちゃんが悪いと思う。

 

そうだ。念のため言っておくけど、僕以外はヒミコちゃんを勝手に撮影したらダメだよ。

 

僕のヒミコちゃんを好きなときに好きなだけ自由に撮影していいのは、僕だけの特権だからだ。

 

「重清くんにもそんな特権は与えていないのです!」

 

わー! わー! 聞こえないよー!

 

 

 

 

「最近、トガの凄みを感じさせる顔を可愛いと言い切れる矢安宮のことが、カッケーって思えてきた」

 

「まあ、そうだね。トガのヴィラン染みた邪悪な笑顔とかは全くオイラの好みじゃないけど、体つきはエロいし、この間の演習でドサグサに紛れて触ったおっぱいも思ったより良い物をもっていたよ。矢安宮が惚れる理由が少しは分かった。まあ蓼食う虫も好き好きっていうしね」

 

「峰田……今の言葉、矢安宮に聞かれていたら殺されてるぞ。いいか、トガには絶対にセクハラすんな。行き過ぎた悪口も言うなよ。俺は忠告したからな」

 

「ヤダなー、切島は脅かすなよ。彼女が触られたり悪く言われたと知ったら気を悪くはするだろうけど殺されるってのは言い過ぎだろ。第一、矢安宮はオイラと同じで非戦闘系の個性じゃん。あっ、大怪我をしても治してもらえないってことか! アワワッ、それは大変だよ! もう触らないように気をつけるよ!」

 

「お前は気づいて……いや、いいや。トガに妙な真似さえしなけりゃ、矢安宮本人は大らかな奴だからな」

 

 

 

 

勉強会は和気藹々とした雰囲気のまま終了した。

 

モモちゃんがすごく張り切って先生役をしてくれた。本物の先生より分かりやすく教えてもらえた。

 

モモちゃん家はすごい豪邸だから、初めて来た三奈ちゃんは凄く緊張していた。少し挙動不審になっていたから微笑ましい気持ちで見ていたら本人に気付かれてプンプンと怒られた。

 

そんな三奈ちゃんもこの勉強会で実力を伸ばしたみたいで『赤点は絶対に取らない自信があるよー!』と自信満々に笑ってた。本当に大丈夫かな?

 

でもまあ、筆記試験は何とかなるだろう。

 

問題は内容の分からない演習試験だ。

 

複数で協力する試験なら問題ないけど、一対一の戦闘だと後衛の僕は困る。

 

ゲームで言うなら僧侶に戦闘をやらせるようなものだ。

 

理想なのはやっぱり機動戦士モードで演習試験を受けることだ。

 

「重清さん、体育祭と同じで演習試験でもとても残念ですが、機動戦士モードの禁止を言われています」

 

またなの!?

 

ミルコ姉さん相手に実戦訓練を散々したから試してみたいのに!! 特に相澤先生に試したい!!

 

「ふふ、ミルコさんには随分と手酷くやられましたが、その分の経験値は積んだつもりですわ。相澤先生は……機動兵器内にいても私達の個性を封じる事が可能でしたら危険ですわね。機動戦士モードの天敵になり得ますわ」

 

モニター越しなら大丈夫だと思うけどね。強化ガラス越しだとヤバいかな?

 

「全ての監視窓にはブラインドを取り付けましょう。いえ、そもそもモニター類の故障を考慮する必要がないのですから、全てをモニター式に改良した方がいいかもしれませんね」

 

うーん、それは悩むところだね。

 

ヒーロー活動を始めた場合を考えれば、その状況によっては目視したい場合があるかもしれないからね。

 

「そうですわね。天敵対策を万全にするか。それとも汎用性を維持するか。本当に悩ましい問題ですわ」

 

モモちゃんと二人でウンウンと悩むが、こればかりは正解のない問題だから難しいよ。

 

「ケロ、二人とも恒久的な相澤先生対策を本気で考えているけど、相澤先生はヴィランではないわ。演習試験で戦う可能性がないのだから、そこまで本気で対策も考えなくて良いんじゃないかしら?」

 

優しい梅雨ちゃんらしい提案だ。でも、この世界は優しい梅雨ちゃんが思うよりずっと残酷で無慈悲な世界なんだ。

 

「その通りですわ。天敵が存在し、その対策も存在している。それなのに今が敵ではないからと油断をして放置するなどヒーロー失格ですわ。たとえ可能性が低かろうともいつか敵対するかもしれないのです。その時がいざ来た時、私は後悔だけはしたくありませんわ」

 

モモちゃんも僕と同じ考えだ。常に最悪を考えて行動はしなくちゃいけない。

 

 

 

 

「ねぇ、トガ。相澤先生と敵対するってどんなときかなー?」

 

「そうですね。相澤先生も男なので、気の迷いなどで女子生徒に手を出したら敵対するんじゃないですか?」

 

「うひゃあ、それは敵対するねー! 別に相澤先生のこと嫌ってはいないけど、そういう対象じゃないもん!」

 

「あなた達、もしもの話だとしても相澤先生に対して失礼過ぎるわ。口を慎みなさい」

 

「えー! 梅雨ちゃんは相澤先生に押し倒されても嫌じゃないの?」

 

「嫌に決まってるわ!!――ハッ!?……コホン。そういう極端な事を言わないの。例えば、男という理由だけでそういう事を言うのなら重清ちゃんだって男なのよ。三奈ちゃんは重清ちゃんに押し倒されたらどうするの?」

 

「どんとこいなのです!」

 

「……ヒミコちゃんには聞いていないわ」

 

「えっと、矢安宮は希少な治癒系の個性持ちだから将来有望な奴だよね。友達としては一緒にいて楽しいし、中二病が治らなくて子供っぽいところはあるけど、基本的に良い奴だよね。それに良い奴とはいっても無制限なお人好しとかじゃなくて、いい意味で計算高い、というより悪知恵が働くって言うのかな? とにかく他人にいい様にされて損しちゃうって事はなさそうだから安心できるよね。ちょっとお間抜けさんなところは、アタシがフォローしてあげなきゃだけど、そんなところが可愛いなって思っちゃうかも……それと…矢安宮って優しいよね」

 

「あの、三奈ちゃん…?」

 

「だから! 矢安宮がどうしてもって言うなら全然ありかも…。あっ、その場合は二人でトガに土下座して謝らなきゃいけないよね! トガに足蹴にされる覚悟を決めとくよー!」

 

「そんな場合はあり得ないので無駄な覚悟はしないで下さい!!」

 

「えー、それは分かんないよ。今はトガに夢中かもしれないけど、矢安宮だって男だもん。他の女子に目移りする可能性は十分にあるよー」

 

「十分にないのです!! 重清くんとは小学一年からずっと仲良しなのです!! 今さら目移りなんかしないのです!!」

 

「もうやだなー、そんな本気で怒んないでよー。こんなの冗談に決まってんじゃん……でも、ずっと仲良しなんだ。いいな、トガは…ちっちゃい頃にアイツに出会えて…」

 

「ウググ、なんだか嫌な気配がします。芦戸ちゃん、妙な気を起こしたら頭の角を引き抜きますよ」

 

「普通に怖っ!?」

 

「ハァ、いつの間にか三奈ちゃんまで――響香ちゃんは大丈夫かしら?」

 

「だからウチは空気を読んで空気になってるの! 今は話し掛けないでよ!」

 

「響香ちゃんは大丈夫そうね。安心したわ」

 

 

 

 

演習試験は、教師一人に対して二人一組で挑む形式だった。

 

僕のパートナーは透ちゃんだ。

 

隠密特化の透ちゃんとプロヒーローに挑む。

 

うん、これって勝ち目があるのかな?

 

「あのね、重清君。私が前衛を務めるよ。多分それが一番勝ち目があると思うんだ。普段なら防具を着けてないから耐久力に難があって前衛は出来ないけど、重清君がいれば回復し放題だもん。透明の私ってば接近戦で最強かもしれないよ!」

 

透ちゃんが前衛を申し出てくれた。言っていることも納得できる。

 

僕の得意なパターンだよ。透ちゃんは見えない最強の盾だ。

 

うん、決めた。

 

──左足を絶妙な角度で曲げて前に出す。両手を顔の輪郭に沿わせる。両目には強い決意を込める。

 

「ゴゴゴゴゴゴゴゴ。人間ってのは何かを破壊して生きているといってもいい生物だ。その中で僕の能力はこの世でどんなことよりも優しいと言ってくれた人がいた。だが、それは違っていたようだ。この世でどんなことよりも優しいのは僕の能力なんかじゃない。透、君の心こそがなによりも優しい」

 

「えぇと、重清君?」

 

透ちゃんの手袋をしている手を握る。いつもなら抱き締めていたけど、手袋とブーツだけの透ちゃんにそんな真似はできない。

 

──握った手は震えていた。

 

対戦相手の教師はスナイプ先生だ。裸で銃の前に立つ。怖くないわけがない。

 

「僕の“クレイジー・ダイヤモンド”には、壊れた物体と傷ついた生物を元通りに直す(治す)能力がある」

 

「うん、そうだね。もちろん知っているよ。よくお世話になってるもん」

 

透ちゃんは頻繁に怪我をする。僕が雄英に入学してから一番多く治したのは間違いなく透ちゃんだ。

 

透明の個性をもつ透ちゃんは怪我をしても治療がしにくかった。それは怪我の状態を目視できないからだ。

 

透明のせいで人にぶつかられたりとかで、日常生活でも怪我をしやすく治療には苦労をしていたと、透ちゃんを治していたときに聞かせてもらった。

 

僕の“クレイジー・ダイヤモンド”なら怪我の状態を確認しなくても問答無用で治せる。透ちゃんとは友達だ。雄英を卒業してもいつでも治すから必要な時は気楽に連絡して欲しいと言ってある。

 

「透に言っていなかった事がある。僕の“クレイジー・ダイヤモンド”で直す(治す)とき、少しだけ僕の意志を加える事ができる」

 

「重清君の意志?」

 

「そうだ。例えば、壊れた壁を直すときに完全に元通りではなく、僕の意志で形を変えることができる」

 

「うわあ! すごいねそれ! それなら災害現場で瓦礫を使って安全な避難通路とかも作れるよね!」

 

透ちゃんはすぐに応用を思いついた。なるほど、そんな使い方もあるのか。僕は壊れたフィギュアを直すときにポーズを変えたりとかでしか使ってなかったよ。

 

ヒミコちゃんに教えた時は『特売で買ったこのTシャツを、雑誌に載っているこのワンピースそっくりに直してほしいです!』という応用を思いついた。

 

まぁ、この応用はあまり上手くはいかなかった。形は変えれたけど、素材はTシャツのものだから物凄い安っぽい感じのワンピースになったんだ。

 

今は流行遅れになった服や小物を、流行に合わせたものに作り直すようにしている。お小遣いの節約になると、ヒミコちゃんが喜んでくれるんだ。

 

「少し言い方を変えよう。直す(治す)とき、僕の意志を加える事ができる」

 

「直す…治す? えぇと、物体と生物を直す、治すとき……もしかして、物体と生物を混ぜれる、とか?」

 

「試したことはないが、人と岩を混ぜれば生きた鉱物を作れるだろう。もちろんそんな残酷な事をするつもりも必要もないがな。そして今、試したいのはそんな事じゃない。透の…そうだな、髪の毛を一本もらえるか?」

 

「透明の髪の毛…物体と生物を混ぜる……もしかして!?」

 

「透から抜けた髪の毛も透明のままだ。髪の毛は身体から離れても個性を維持している。個性を有した髪と服の合成──試してみないか?」

 

「うん! 試してみてっ、重清君!!」

 

透ちゃんから透明の髪の毛を一本…いや、数本あるよ?

 

「透明なんだから一本だけ抜くなんて器用なこと出来ないよ。グスン、痛かったよー」

 

うん、ごめんね。透ちゃんの頭を撫ででおく。痛いの痛いの飛んでいけー。

 

よし、じゃあ試してみよう。

 

透明の髪と、そうだな、とりあえず僕のヒーロースーツでいいか。

 

「あ、重清君のヒーロースーツを使うんだ」

 

ヒーロースーツの上着を脱ぐと両手で持ち一気に真っ二つに引き裂…ひ、引き裂けない!?

 

じょ、丈夫すぎるよ!?

 

ウンウンと唸りながらなんとか引き裂こうとするけど全くダメだ。

 

「えーと、私が代わるよ?」

 

ハァハァと息を乱しながら上着を破ろうと奮闘する姿を見かねたのだろう。

 

透ちゃんが上着を渡してとその手を差し出してきた。

 

それは無茶だ。男の僕でも無理なんだ。増強系の個性でもない女子では到底不可能だよ。

 

そんな諦めが口から出そうになるけど、透ちゃんの気持ちを無碍には出来なかった。ただ黙って上着を彼女に渡す。

 

「えぇぇぇいっ!!!」

 

──気合一発、一気に引き裂いた。

 

「はい、これでいいのかな?」

 

透ちゃんは明るい声で言いながら、ボロ布と化した元上着を返してくれた。

 

僕は黙って受け取る。

 

……少しは筋トレをしようかな?

 

そんな事をふと思った。

 

 

 

 

僕は沈んだ気持ちをなんとか立て直したあと、透明の髪を右手に巻き付ける。そして元上着を真上に放り投げる。

 

──“クレイジー・ダイヤモンド“

 

「ドラララララ!」

 

上着が修復されていき、消えた──

 

掲げた右手が、見えない上着を掴む。

 

「透、成功だ。見ろ…いや、見えないな」

 

会心のギャグが決まった。と思った瞬間、透ちゃんが胸に飛び込んできた。

 

や、ヤバい!?

 

この感触はヤバいよ!!

 

演習試験の対策を話し合う為に校舎裏で二人っきりになっているこのシチュエーションもヤバい!!

 

僕のヒミコちゃんに見られたら冗談じゃ済まない気がする!!

 

「ありがとう!! 重清君っ、本当にありがとう!!」

 

僕の胸にしがみついて超喜んでいる透ちゃん。

 

見えない上着を、彼女の身体に触れないように気をつけて肩に羽織らせる。

 

「あ……あったかい。透明なのに温かいんだ。えへへ、これは重清君の温もりだね」

 

うんうん、感動する気持ちは分かるけど、とりあえず上着に腕を通してちゃんと着てね。

 

「うん、分かった!! んしょんしょ、ほら着たよ!! ふふ、ぶかぶかだよぉ。重清君って大きいよねー!!」

 

うんうん、それは透ちゃんが小さいんだよ。

 

ふぅ、透ちゃんがハイテンションになっちゃった。

 

まぁ、訓練中はずっと裸だったんだから色々と我慢をしていたんだろうな。なんといっても透ちゃんは年頃の娘さんだからね。

 

とにかく体育祭の時から透ちゃんのヒーロースーツの事は気になっていたんだ。ハーヴェストの頭の隙間に服の端っこを入れたら全体が消えるかな? とか考えていたけど、このやり方を思いついて本当に良かった。

 

ハーヴェストの存在はヒミコちゃん以外には秘密にしているから、たとえ透明化が成功しても説明がつかないからね。

 

そうだ、今回のことは他の人には内緒にしとこう。

 

“クレイジー・ダイヤモンド”で、物体と生物の合成が出来るだなんて世間に知られたらヤバいだろう。

 

物体と生物の合成が出来るなら、生物同士の合成も出来る可能性に気づかれる恐れがある。

 

倫理的にアウトな実験を強制されたら堪らないからね。

 

そうだ、服の透明化は透ちゃんの個性が鍛えられて出来るようになった事にしよう。

 

透ちゃんと、その辺は話し合って口裏を合わせる必要がある。

 

あとは透明化が永続的なものか、それとも時間制限があるのかも調べる必要もある。ヒーロー活動中に急に透明化が解除されたら危険だからだ。

 

透ちゃんがキャアキャアと喜ぶ姿を眺めながら、僕は色々と考えていた。

 

 

 

 

少し調べて分かった事がある。

 

一つ、透明化した服は透ちゃんから5メートル程度離すと透明化が解除される。

 

二つ、透明化が解除されても再び透ちゃんに近づけば透明になる。

 

三つ、透明化と解除は50回が限度となる。50回を超えると透明化が出来なくなる。

 

四つ、透明化が出来なくなった服でも再び透ちゃんの髪の毛を混ぜれば透明化が可能となる。

 

五つ、服のポケットに入れた物は入れている間だけ透明になる。ポケットからはみ出した場合ははみ出した部分は見える。

 

六つ、透明化の持続時間は実際に試していかないと分からない。

 

「うん、本当にありがとう。これでもう裸で人前に出なくていいんだ。人から見えてないといっても本当は恥ずかしかったから嬉しいな。そうだ! 重清君の秘密はたとえ拷問されて殺されようとも絶対に話さないから安心してね!! ううん、重清君の秘密を探る奴がいたら逆に私が殺すから安心して!!」

 

うん、透ちゃんが本気なのが少し怖い。

 

透ちゃん、無理はしないでも大丈夫だよ。基本的に悪意のある奴は、僕には絶対に近づけないからね。

 

「近づけ……そうなんだ。うん、重清君の秘密は絶対に守るからね。重清君はそのままの重清君でいてね。そうだ! きっとトガちゃんは知ってるはずだ。大丈夫、私達二人で協力し合えば秘密を守り切れるはずだよ。うん、トガちゃんと話し合わなくちゃだね」

 

変だな?

 

透ちゃんのやる気が上がった気がするんだけど?

 

 

 

 

演習試験の開始時間が近づいてきた。

 

スナイプ先生対策は特に思いついていない。

 

ここはもう正攻法でいこう。

 

「正攻法? 私が前衛をするよ」

 

ううん、隠密特化の透ちゃんに前衛をさせるほど、僕は間抜けじゃないよ。

 

透ちゃんには奇襲をしてもらう。スナイプ先生の隙は僕が必ず作るからね。透ちゃんはチャンスを窺っていてほしい。

 

「うぅ、それだと重清君が危ないよ。スナイプ先生は銃を撃ってくるんだよ。重清君が怪我をしたら大変だよ!」

 

僕も痛いのは嫌だけど、透ちゃんを盾にするような腰抜けでもないよ。

 

大丈夫、スナイプ先生を倒せって言われたらお手上げだけど、スナイプ先生の隙を作るだけならきっとなんとかしてみせるよ。

 

透ちゃんの肩に手を置いて、彼女と目を合わせる。

 

「え…?」

 

ふふん、実は透ちゃんを見るための裏技をこの話し合いをしている間で見つけたんだ。

 

透ちゃんは透明だけど、なんとハーヴェストには彼女の姿が分かるんだ。

 

もちろん、ハーヴェストでも姿は見えてはいない。分かるのは“音”なんだ。

 

人の身体は音の塊だ。呼吸音に血流の音、筋肉が伸縮する音など様々な微小な音を発し続けている。

 

通常なら五感に優れた異形型でも、日常音にかき消されて聞き取れないような小さ過ぎる音だ。

 

ハーヴェストが感知能力に優れていても、至近距離で集中しなければ出来なかった。

 

透ちゃんがさっき抱きついてきたとき、透明な彼女を警戒したハーヴェストがその動きを感知しようと集中したから初めて気づけたんだ。

 

優秀なハーヴェストはその感知した音から透ちゃんの動きを──姿形を立体的に捉えることに成功した。そしてリアルタイムに捉え続ける為に、数体のハーヴェストが透ちゃんにはくっついている。

 

だけどハーヴェストから透ちゃんの音を直接受け取っても、僕では雑音にしか聞こえない。だからハーヴェストの思念で彼女の幻影を脳内に作り出してもらっている。

 

目鼻などの細かい部分の造形は、ハーヴェストが適当に作っている。実際に顔を触らせてもらえれば、幻影の精度が上がるから時間がある時に頼んでみよう。

 

幻影の透ちゃんは現実に見えているようなリアルさだ……これって脳に悪影響ない?

 

まぁ、今は健康の心配は後回しだ。

 

「透、僕の命運を君に預けるよ。だから透も僕を信じて欲しい。二人ならきっとこの窮地を乗り越えられる」

 

透ちゃんと目を合わせて真摯に訴える。

 

透ちゃんは不思議そうに目を瞬かせる。

 

彼女は顔を横に傾けた。僕も合わせて傾けてみる。

 

今度は逆方向に傾けた。僕も合わせて逆方向に傾けてみる。

 

透ちゃんはやっぱり不思議そうにしている。僕も不思議そうな顔になる。

 

何がしたいのかな?

 

透ちゃんがベロを出した。僕もベロを出す。

 

非常に間抜けな構図だと思う。

 

透ちゃんが両目を閉じた。ほんの少しだけ顎を上げる。まるでキスを待つように。

 

彼女の鼻をつまむ。純情な男子を揶揄わないでね。

 

「嘘っ!? 本当に見えてるの!!」

 

生命を司るといっても過言じゃない“クレイジー・ダイヤモンド”を前にして、いつまでも隠れていられるとは思わないで欲しい。(嘘も方便だ)

 

「──私のこと見えてるんだ。見てくれているんだ」

 

透ちゃんの瞳が涙で潤んだ。そう思った瞬間、透ちゃんがまた飛び込んできた。

 

今度は服を着てるからセーフだ!!

 

わんわんと子供のような泣き声をあげて泣く透ちゃん。

 

うんうん、辛かったんだね。

 

僕の首に腕を回して泣いている透ちゃんの背中をさすりながら僕は思った。

 

──もうすぐ試験開始時間なんだけど、どうしたらいいの? と。

 

 

 

 

スナイプ先生との演習試験はなんとか勝つことが出来た。

 

コンクリート造りの大部屋での戦闘だったから、手当たり次第に床や壁、それに柱を固まる前のドロドロ状態に戻した。

 

スナイプ先生が行動する邪魔になればいいな。という考えだったんだけど、床は兎も角として壁と柱は不味かった。

 

上階の重さに耐えられなくなって、大部屋全体が崩れ始めたんだ。

 

あわや生き埋めかっていう、突然の緊急事態にスナイプ先生も冷静さを欠いたみたいで、潜んでいた透ちゃんがスナイプ先生に手錠をかけることに成功した。

 

その後は三人仲良く必至になって逃げ出した。

 

建物を半壊させたから不合格かもって思ったけど、ヴィラン戦では建物が全壊することも頻繁ではないけど、実際には珍しくない頻度で起こるから減点対象にはならないと言われた。

 

うん、やっぱりヴィランは危険だ。

 

それにしても試験開始前ギリギリで、透ちゃんが泣き止んでくれて助かったよ。

 

それに泣き止んだ透ちゃんはとてもやる気に満ちていた。

 

「スナイプ先生は必ず仕留めてみせるね!! 私の勇姿をちゃんと見ていてね!!」

 

仕留めるんじゃなくて、スナイプ先生には手錠をかけてね。

 

ほんとにやる気があり過ぎて困っちゃった。

 

まぁ、終わりよければすべてよし。

 

僕のヒミコちゃんも演習試験をクリアしたし、文句なしだ。

 

演習試験終了後には待機時間があったから、透ちゃんに顔を触らせてもらった。

 

今より正確に顔を認識が出来るようになる為だって言ったら二つ返事で触らせてくれた。

 

顔だけじゃなく、触っても問題のない場所はこの際だから全部触らせてもらった。

 

──雄英のヒーロー科は美少女揃いだ。僕にペタペタ触られて、はにかむ笑顔をみせた透ちゃんを見てそう思った。

 

 

 

 

A組の皆で買い物に行くことになった。

 

何人か欠席者はいたけど、皆揃って和気藹々とした雰囲気だ。

 

僕はヒミコちゃんと三奈ちゃんの三人で水着を買いに行くことになった。皆とは一旦分かれて水着売り場に向かう。

 

ヒミコちゃんは、僕が選んだ水着にすると言ってくれたけど、ここは悩みどころだ。

 

僕だけが見るのなら少し大胆なものを選びたいけど、他の男子にもヒミコちゃんの水着姿は見られちゃうんだよね。

 

うーん、どうしようかな?

 

そうだ! ヒミコちゃんが買う水着は地味なやつにして、僕からのプレゼントとして少し大胆な水着を選ぼう。

 

プレゼントの水着は、二人っきりのときに着てもらうのはどうだろう?

 

「ねぇねぇ、二人だけの時に水着を着るってどんなシチュエーションなのー?」

 

三奈ちゃんが興味深そうに聞いてきた。

 

「僕ん家の庭で水遊びでいいんじゃないかな。壁が高いから外から殆ど見えないし、それなりに広いから水遊びぐらいは出来るからね」

 

ママが留守の時を狙えば、揶揄われる事もないしね。

 

「ふぅん、親の留守を狙って自宅に連れ込んだ女の子にエッチな水着を着せて遊ぶんだ」

 

言い方ぁああっ!!

 

その言い方には悪意を感じるよ!

 

「でも間違ってはいないよね。名門の雄英高校の生徒としては少しまずくないかな?」

 

うーん、確かに二人っきりはマズイかな?

 

少し前なら気にしなかったけど、今はミルコ特戦隊としてちょっとした有名人になっている。誰かに目撃されたら騒がれるかもしれない。

 

ここに来る途中でも子供達に何度も声を掛けられた。

 

モモちゃんが前に言ってたように、ミルコ姉さんを筆頭にこのまま子供特化のヒーローになる予感がする。つまり子供の夢を裏切るような騒ぎは起こせない。

 

女子にモテる男子というのは、それはそれで子供受けしそうだけどエッチ過ぎるのはダメだと思う。個性のためという理由があるモモちゃんのヒーロースーツは別にするとして、ミルコ姉さんのヒーロースーツぐらいが限度だろう。

 

そうそう、ミルコ姉さんといえば、ミルコなりきりセットが子供向けに売られていた。他にも色々なポーズをしたミルコ人形などもだ。倒れたヒーロー殺しを踏みつけて、ミルコ姉さんが空に向かって吠えているポーズが格好良かった。実際にはそんな事はしてないけどね。

 

あれらは本人にちゃんと許可を取っているのかな? 帰る途中に事務所に寄って事務員さんに確認してみよう。

 

色々と思案していると三奈ちゃんが新しいアイデアを口にする。

 

「ねぇねぇ、二人っきりはマズイけど、三人ならよくない? 普通に仲良しな同級生同士で遊んでるだけにきっと見えるよ。それでね……あ、アタシにも水着をプレゼントしてくれるなら付き合ってあげる。もちろんトガと同じようにエッチな水着でも着るよ」

 

「むぅ、お邪魔虫なのです」

 

「別にいいじゃん。トガもホントに二人っきりだと恥ずかしいと思うよー? だって矢安宮がチラチラ見てる水着ってアレだよ」

 

「ふぁっ!? す、すごくエッチなのです…し、正直言って、アレは想定を遥かに超えています。こんな普通のショッピングモールで販売していいレベルじゃないのです!!」

 

「アハハ、ホントだね。でも、今日プレゼントしてくれるなら、アタシ達二人であの水着だって着てあげるよ?」

 

しゃ、写真も撮っていい?

 

「誰にも見せないならいいよー」

 

「うぅ、恥ずかしいけど、重清くんならいいのです」

 

やったー!!

 

今日は買い物にきてよかった。

 

あとはママが出かける日を確認してから二人を家に呼ぼう。

 

そんな希望あふれる未来に胸を弾ませていた時のことだった。

 

ショッピングモールの広場の方から悲鳴が聞こえてきた。

 

僕たち三人は顔を身合わせると頷き合い、悲鳴の聞こえてきた場所へと走り出した。

 

 

 

 

悲鳴の原因は泥酔した客だった。

 

酔っ払って倒れた人に驚いた女性が悲鳴を上げただけだ。

 

いい迷惑だ。

 

昼間から倒れるほど飲むなんてアル中だろう。

 

ショッピングモールの人が運んでいく白髪の男を見ながらそう思った。

 

その後、同じように広場に戻ってきた男子達が合流してしまったせいで、プレゼントの水着を買うチャンスが見つからない。

 

今日は無理みたいだけど、明日プレゼントするってことじゃダメかな?

 

微かな希望を胸に二人にお願いをする。

 

「えっと…あの水着をこうして冷静になってから改めて見るとやっぱり恥ずかしい、かも。矢安宮、さっきの約束はもう時間切れってことで…ご、ゴメンね!」

 

「はい、やっぱりあの水着は私たちには早すぎると思うのです。重清くんも少し大胆な水着を選ぶと言いながら、あんなエッチすぎる水着を選ぼうとするなんて自重が無さすぎです。少しは反省して下さい」

 

──こうして、僕は希望あふれる未来を失った。

 

 

 

 

休み明けの日、梅雨ちゃんに膝枕をしてもらいながら、僕は悔しい胸の内を語った。

 

「──だから、そのアル中の白髪男さえいなかったら、話の流れのまま水着を買って二人にプレゼント出来ていたんだ。プレゼントさえしていたら一度した約束を反故にするような二人じゃないんだ。もう少しで二人の少し大胆な水着姿を見れたっていうのに許せないよ、昼間っから倒れるまで酒を飲んだあの白髪男のことが!」

 

声に悔しさを滲ませる。梅雨ちゃんは優しい手つきで頭を撫でてくれる。その柔らかい感触が荒れた心を癒やしてくれる。

 

「私は一体何を聞かされているのかしら? という疑問は生じるけどそれは置いておくわ。とにかく重清ちゃんは辛かったのね。でも、その白髪の男性を恨んじゃダメよ。彼には何の責任もないもの。重清ちゃんも本当は分かっているのよね?」

 

頭を撫でられたまま、僕は優しく諭される。

 

うん、梅雨ちゃんの言う通りだ。あのアル中の白髪男は悪くはない。悪くはないけど、迷惑な人ではあると思う。

 

「ふふ、そうね。お昼からショッピングモールで倒れるまでお酒を飲まれたら周りの人達が迷惑してしまうわ。重清ちゃんはそんな大人になってはダメよ」

 

当たり前だよ。僕はそんな迷惑な大人なんかにはならない。僕と同じ気持ちになる少年を増やすもんか。

 

「同じ気持ち…とても言いたいことはあるのだけど、それはとりあえずやめておくわ。とにかく重清ちゃん、女の子に興味が湧くのは男の子だから仕方ないことだけど、無理強いをするのはダメよ。か弱い女の子には優しくしてあげてね」

 

か弱い……う、うーん。

 

A組女子達の中で一番戦闘力が低い透ちゃんにも、僕は取っ組み合いで勝てそうにないんだけど?

 

「体力的な意味じゃないの。私が言いたいのは精神的なことよ。分かりやすく言えば、女の子を泣かせてはダメってことよ」

 

梅雨ちゃんの言葉にハッとなって思い出した。

 

子供の頃にママにも『重ちゃんは男の子だから、女の子は優しくして守らなきゃダメよ。イジワルして泣かせたりしたらメッだからね』って言われたんだ。

 

ショッピングモールでのことを思い出す。

 

二人は恥ずかしいと言っていた。僕は恥ずかしがる二人に無理強いをしてしまう所だったんだ。そんなのはイジワルと同じだ。

 

ありがとう、梅雨ちゃん。

 

ママとの約束を思い出せたよ。

 

「そう、良いママなのね。重清ちゃんも偉いわ。ママとの約束をちゃんと守ろうとしているのね」

 

もちろんだよ!

 

大好きなママとの約束を破ったりはしないよ。

 

うん、考えてもみればヒミコちゃんと三奈ちゃんは二人とも肌をあまり見せないヒーロースーツだもん。恥ずかしがり屋さんなのは察してあげなきゃいけなかったんだ。

 

この手の話は、肌の露出が平気なモモちゃんにすべきだったんだ。きっとモモちゃんならあの水着だって平気で着てくれると思うんだ!

 

「ちょっと待って、重清ちゃん。もう少し真面目なお話が必要みたいだわ。はい、起きて。目を合わせてお話をしましょう。もう、お腹にしがみついてイヤイヤしてもダメよ。まずは社会常識、いいえモラルかしら? とにかく重清ちゃんは少しばかりエッチが過ぎるわ。このままだと峰田ちゃんみたいになってしまうわよ。ヒミコちゃんに嫌われてもいいの? うん、偉いわ。ちゃんとお話を聞く気になったのね。それじゃあ、お話を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──テレビ出演をしました。

ミルコ特戦隊としてなので、ミルコさんが主体となってインタビューに答えていました。

私たちはまだ職業体験中の学生なので、軽く自己紹介をしたぐらいです。それでも一気に知名度が上がりました。

雄英体育祭後も通行人から声を掛けられましたが、今回はその比ではありません。

圧倒的に子供が多くはありますが、まるで有名なプロヒーローにでもなった気持ちになります。

今までは子供から怖がられることが多かったのですが、今回のテレビ出演以来、私を見つけた子供達は歓声をあげて突っ込んできます。

とても迷惑なのです。

蹴っ飛ばしたらダメでしょうか?

はい、ダメなのです。きっと怒られるのです。ここは我慢の子なのです。

そんな時でした。

群がる子供達の群れの中に、私に似た目つきの悪い女子園児を見つけました。

保育園に営業で行った以来の再会です。

必死になって両腕を伸ばしています。

保育園では集団に馴染めていなかった子供です。まるで、昔の自分を見ているようでした。

彼女は、重清くんに出会う前の私でした。

一人ぼっちだった私には、重清くんが出会ってくれました。

でも、この子はどうなるのでしょうか?

この子にとっての重清くんは現れるのでしょうか?

あのとき、ジッと見つめ合って考えていましたが、答えなどでるはずがないのです。

その孤独な目に耐え切れませんでした。営業が終わる時間になったことを言い訳にして、私は一方的に視線を外してしまいました。

あのとき、この子は何を思ったのでしょうか?

その事を聞く勇気は私にはありません。

だけど、今この子を抱き上げる勇気ぐらいはあるのです。

フワリと持ち上げます。

とても軽いです。

周りから歓声が上がります。

両腕でしっかりと抱えます。

目が合います。

やはりとても目つきが悪いのです。

普通に見ているのに睨んでいるように見えます。

これでは友達は作りにくいと思います。

はい、やっぱり似ていると感じます。

子供の頃の…いいえ、今の私にもそっくりなのです。

もしかして親子でしょうか?

この子は未来から来た重清くんと私の子供でしょうか?

そう思ってしまうぐらい似ています。

なんとなく足元に降ろしました。

私は仁王立ちになります。

女子園児も私に背を向けて仁王立ちになります。

なんとなく互いに考えていることが分かる気がします。

きっと気のせいです。

周りの人達も、私達が似ていることに気づき始めました。

親子だ! 2号だ! と言っています。

今、気づきましたが普通なら姉妹だと思うのではないでしょうか?

まあ、どうでもいいです。

私達は合図もなしに同時にポーズをとります。

『変身ヒーロートガなのです!』

セリフも同時でした。

声も似ているのでしょうか?

自分ではよく分かりません。

今度、重清くんに聞き比べてもらいます。

「復活ヒーロー重ちー!」

「万物ヒーロークリエティですわ!」

びっくりしました。

いつの間にか二人が両隣にいました。

目を丸くして二人を見ると、二人とも後ろの方に目配せをしています。

なるほど、今日は兎さんは暇らしいです。

「(代役をお願いします。ヒーロー名は普通の園児(匿名希望)なのです)」

素早くしゃがむと囁きます。

それと同時に兎さんが跳んできました。

私と女子園児は素早く左右に離れます。

中央に着地する兎さん。

「ラビットヒーローミルコだ!」

先程までとは比較にならない歓声が上がります。

ほっぺたを興奮で真っ赤にさせた女子園児を横目に見ます。

とても嬉しそうな邪悪な笑顔を浮かべています。

──きっとそれは。

手を繋いで仲良く駆け出した。

彼との出会い(運命)の日、私が浮かべたものとそっくりなのです──











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