やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。   作:石田彩真

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二人で誕生日を祝うだけのお話

「誕生日おめでとう」

「ええ、ありがとう」

 

 言って、俺と雪ノ下はグラスを打ち鳴らす。

 俺がグラスを傾けると、雪ノ下もそれに倣って恐る恐る"人生最初の"お酒を口に含んだ。

 

「どうだ?」

「……ええ。このお酒、甘くて飲みやすいわ」

 

 言うと先ほどよりもスムーズにグラスを傾け、ひと口。そして柔らかく微笑む。

 

「今回比較的飲みやすいの選んだが、かと言って飲みすぎないようにな? まだアルコールにどれくらい耐性があるか分からないし」

「大丈夫よ。もしもの時は比企谷くんが介抱してくれるでしょう?」

 

 それは大丈夫とは言わないんだよなー。

 今度はイタズラっぽい笑を浮かべ、雪ノ下は三度目のお酒を口にした。

 まあ今のところ漫画みたいにすぐ酔って暴走みたいなこともなさそうだし、俺を信頼して大丈夫と言ってくれてるんだから嬉しくないわけではない。

 何かあった時のため個室バーにしているので、その辺りも万全だ。

 

「それにしても、こんな良いお店よく知ってたわね」

「……や、ここは雪ノ下さんに聞いた」

「でしょうね。あなたがこんなオシャレな店に一人で辿り着けるわけないもの」

「おいこら」

 

 それはなにか? 俺が邪気を孕んだ何かで、神聖な場所には立ち入りできないってことか?

 これでも最近は雪ノ下の隣に並んで歩いても恥ずかしくないように、髪のセットの仕方を小町に聞いたり、ファッションチェックを小町に頼んだり努力してるんだぞ。

 俺の妹マジ天使で超優秀。

 振り返ると自分の他力本願っぷりに泣けてくる。

 そんな自分の情けなさを嘆いている間に、雪ノ下は次の酒を頼んでいた。

 

「ペース早いな」

「そうかしら」

 

 甘くて飲みやすいからジュースみたいに飲めるのは分かるけど、あまり飲みすぎるのはいただけない。

 けれどまだ二杯目だし、今日は折角の誕生日だ。注意しすぎるのもあれなので、危なくなるまでは好きにさせることにした。

 

「そういえば明日……明後日だっけか? 由比ヶ浜たちにも祝ってもらうんだろ?」

「そうね。『誕生日当日くらい二人で過ごしたいでしょ?』って由比ヶ浜さんに変な気を遣われてしまったけど、そんなこと気にする必要無いのにね」

「……だな」

 

 相槌を返したものの、今回に関して言えば早めにこの店を俺が予約してしまったので、あらかじめ由比ヶ浜に雪ノ下を祝う日をずらしてくれと頼んでおいたのが本当のところ。

 だけどそれをわざわざ説明する理由もないので、ここは由比ヶ浜がくれた建前に乗っかることにした。

 

「比企谷くん、次何頼む?」

「え、……ああ。じゃあ同じので」

 

 雪ノ下は三杯目、俺は二杯目へと突入する。

 や、ほんと飲むペース早いな。

 見たところ変化はなさそうだけど、雪ノ下家は全員(陽乃さんしか知らないが)酒が強いのだろうか。

 

「ふふっ、おいしい」

 

 三杯目も少しずつだが割とすぐに飲み干した。

 心なしか頬が紅く染まってきてる気がしなくもないが、会話は通じてるし問題はないはずだ。

 が、酒の失敗をしたことがある先輩として一応の忠告を。

 

「初めてなんだから少しペース落とした方がいいぞ。今日酒の失敗をすると、由比ヶ浜頼む時飲みたくなくなるからな」

「……そうね。そうするわ」

 

 意外に聞き分けよくグラスから手を離した雪ノ下は、じーっとこちらを見つめてくる。

 反射的に俺も見つめ返す。

 

「…………」

「…………」

 

 八幡は恥ずかしさに耐えかねて目を逸らした。

 や、なにこれ。どしたん急に。

 一瞬だけ視線を戻すも、雪ノ下はこちらに目を向けたまま微動だにしない。

 や、瞬きはしてるので反応はある。

 

「……雪ノ下。まだ酔って、無いよな?」

「ええ。私は比企谷くんが好きよ」

「お、おう、そうか。俺もだ」

 

 いきなりの求愛発言に反射的に言葉を返す。

 

「比企谷くん」

「は、はい」

「私はね、比企谷くんがいなければこの先、生きていけないと思うのよ」

「お、おう」

「だから今ここで、未来永劫私と人生を歩むことを誓いなさい」

 

 …………重い。

 重すぎるよ、雪ノ下さん!

 俺は残っていた自分の酒を一気に飲み干した。

 これはあれだな、今の雪ノ下は間違いなく酔っているのであろう。

 酔っていて、それで普段より気持ちがおおらかになった上での発言、という感じかもしれない。

 まさか三杯で酔ってしまうとは……と考えたところで、初心者がハイペースで飲んだらそういうこともあるかと納得する。

 甘くて飲みやすくても酒は酒。

 度数だってそれなりだ。

 雪ノ下がこれ以上飲まないように自然な動作で雪ノ下のグラスを手繰り寄せ、それも飲み干す。

 そして未だ俺の返答を待っている雪ノ下と視線を交わらせた。

 

「人生を歪める権利を最初にもらったのは俺だからな。その対価はちゃんと払うってあの時言っただろ」

「……そうね」

「だから、その……、お前がそう望むなら、やぶさかでは無い」

 

 最後の最後で尻すぼみになりながらもなんとか答える。

 正直、酔ってる相手に本気で返す必要は無いのかもしれない。

 ただここで誤魔化すことはなんとなく(はばか)られた。

 実際、俺の対応は間違っていなかったらしく、雪ノ下は満足そうに頷く。

 

「ふふっ、比企谷くんと、ずっと一緒……」

 

 なんか発言がヤンデレ風味を醸し出しているが、その表情は幸せそうで俺まで微笑ましい気持ちになってきた。

 

「あ、そういえば、雪ノ下」

 

 今までタイミングが掴めず、いつ渡そうか考えていたプレゼントを懐から取り出す。

 が、それをテーブルに置く前に目の前の彼女の身体が微かに左右に揺れているのに気づく。

 

「? 雪ノ下?」

「……眠い」

 

 どうやら俺が思うよりも大分酔っているようだった。

 

「ま、後でも良いか」

 

 呟き、ひとまず店員に声をかけて先に会計を済ませる。

 雪ノ下はもう既に限界らしく、猫みたいに(しき)りに目を擦っていた。

 

「んじゃ、そろそろ帰るか」

「ん」

 

 手を取り雪ノ下を立ち上がらせる。

 そのまま自然な流れで背を向けるとこちらもそれが当然のように覆い被さってきた。

 

「背中、あったかい」

「……そりゃよかった」

 

 店を出ると外の冷気で一気に身体の芯まで冷えていく。

 

「さむっ」

 

 俺の家から割と近場を選んだが、こうなるならあらかじめタクシーを呼んでおけばよかったなと後悔しつつ家に向かい歩き出したのだった──。

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