やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。 作:石田彩真
今日は映画館へ行き、ウィンドウショッピングを楽しんでからそのまま雪乃が家に泊まる日だった。
「あの……、雪乃さん?」
「…………」
現在雪乃はベッドの上で膝を抱え、こちらに背を向けて拗ねのんモードである。
晩御飯を食べてお風呂を済ませるまでは良かったのだが、どこで間違ったのか。
や、それは分かりきっている。
その後のプライベートタイムで雪乃から話しかけられてたのにきちんと反応しなかったことが問題なのだ。
「雪乃、ほんとすまん」
別に無視したくてしていたわけではない。
あの時雪乃はパソコンで猫動画を漁っていたし、俺はラノベを読んでいた。
そのラノベがちょうど面白い展開だったところで話しかけられたから、つい空返事をしてしまったのだ。
そして読み終わった頃に顔を上げると隣にいたはずの雪乃がいつの間にか消えており、探したらこの状態だった。
第三者(主に小町)に聞けば百パーセント俺が悪いと言われる事案で、俺のそれは自覚している。
だからこそかれこれ
「えっと、どうしたら許してくれるでしょうか?」
一向に反応してくれないので
この空気をどうにかしたいがどうにもできないもどかしさに息を吐いて落ち着こうとしていると、不意に声が耳に届く。
「……比企谷くん」
「は、はい」
「許してほしい?」
「お、おう、それはもう……」
「なら方法は自分で考えなさい」
………………。
面倒くせぇ。
これで逆ギレしちゃいけないのが辛いところ。
俺が理性的な人間じゃなかったら手を挙げてたまである。
や、流石に雪乃に手をあげるとか天地がひっくり返ってもあり得ないのだが、なんなら襲いかかったところで俺が合気道の技で投げ飛ばされるのがオチ。
その後、雪ノ下家が俺を訴え慰謝料をふんだくられる未来まで視えた。
ひぇぇ、雪乃さん
そんなことになっては小町に多大なる迷惑をかけてしまうので、この場を収める手段を思考する。
…………。
思い付かなかったのでとりあえず安直に頭を撫でてみた。
「……っ」
一瞬肩を震わせたがこちらを振り向く様子はない。
次はハグしてみる。
「……ふふっ」
手応えは上々。
「雪乃、好きだぞ」
「っ、そ、そう」
試しに顔を覗き見ようとしたが反対側に逸らされてしまう。
が、耳が赤くなっていることから俺攻撃はヒットしているようだった。
「こほん。ま、まだ許してないわよ」
「そうか」
そう言われれば俺は手を休めるわけにはいかない。例え雪乃がもう怒ってないと分かっていたとしても。
しかし俺が出せる手札が多くないのも事実。
辺りを見渡してひとつの袋に目が止まった。
それは俺と雪乃が今日デートの時に買ったものが入っている袋だ。
「……よし」
俺は雪乃から離れその袋を手に持ち寝室から一時離脱した。
雪乃の視線を感じたがそれを華麗にかわす。
そして袋からあるものを取り出した。
『そんなの買っても絶対着ないからな』
『貴方なら絶対似合うと思うのに』
『や、流石に恥ずかしすぎるだろ』
『良いじゃない、白と黒のペアルックよ?』
今日のデートの最中、こんな会話をしたのを思い出す。
まさか着ないと断言した当日に着ることになるとは……。
俺はさっさと来ている服を脱ぎ新品のパジャマに袖を通す。
フードを被り全身鏡の前で自分の姿を眺めた。
猫耳つき、後ろを向けば尻尾も常備、黒猫パジャマの俺爆誕!
「やばい、クソ恥ずかしいなこれ」
だがもうここまで来たら後には引けない。
よし、と気合を入れ寝室に戻る。
と、ちょうど雪乃がこちらを振り向き目が合った。
「……雪乃さん、ゆ、許して、にゃ?」
多分、いや絶対今の俺は赤面している。
らしくないことはするもんじゃないなと心の中で身悶えた。
そんな俺とは別に現実で身悶えてる人が一人。
「か、かわいい……」
雪乃らしくもなく、うずくまりながらベッドの上をごろごろごろごろ。
俺に視線を向けたかと思いきやまたごろごろと繰り返す。
これは予想以上のクリーンヒットしている様子だ。
「八幡、もう一度にゃって言って」
「えっ」
「手を曲げてにゃって言うのよ」
「……にゃ」
とりあえず言われた通りにしてみた。
すると、雪乃は立ち上がる勢いそのままに飛び付いてくる。
「八幡、にゃ〜」
「にゃ、にゃ〜」
めちゃくちゃ顔をすりすりされる。
……なにこれ。
嬉し恥ずかしドキドキわくわく。
感情の渋滞で困惑。
やがて雪乃は俺から離れると部屋を出ていき、着替えてすぐに戻ってきた。
俺とは対照的な白に纏められている白猫パジャマ。
「どう、かしら」
くるりとその場で一回転。
目を奪われていた俺の口からは自然と言葉が漏れる。
「すげぇ可愛い」
かわいくて可愛くてとにかく愛おしい。
この気持ち、抑え込むのは無理なので諦めた。
「きゃっ」
雪乃を抱えベッドに倒れ込む。
お互いの視線が交わりどちらからともなく顔を近づけ唇を触れ合わせた。
そしてゆっくりと離れる。
「八幡、好きよ」
「俺も雪乃が大好きだ」
気持ちを確かめ合い、今日は猫として心ゆくまで二人で戯れ合うのだった──。