やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。 作:石田彩真
やったー、わーい!
…………。
こほん、取り乱してごめんなさい。
でもそれは仕方のないことである。
だって、だってだって高校生の時からずっと好きだったヒッキーと付き合えることになったんだもん!
大学生になっても疎遠にならないように週一でメッセ送ったりお出かけに誘ったりして、ようやくだ。
これが嬉しくないわけがない。
「ふふーん」
上機嫌で鼻歌を歌ったりして。
ヒッキーから告ってくれた時は心臓が破裂しそうだった。
正直、なんて返事したのか覚えてない。
『お前といると飽きなくてたのしい、すごく落ち着く。だから俺の恋人になってくれないか?』ってヒッキーが言ってくれたことは覚えてるんだけどなぁ。
「忘れ物はない、かな」
付き合って一日目だけど今日はヒッキーの家にお泊まりデート。
今まで家に行くのは断られてたけど、昨日の夜帰ってきたあと勢いでヒッキーの家にお泊まりしたいことを伝えたらまさかのOKをもらえたので驚き。
「……よし!」
昨日の告白から一夜明けてもドキドキが一向におさまらない。
もう今以上に人生で嬉しくて幸せな日なんて今後無いのではないだろうか。
「ダメダメ、こんなんじゃヒッキーに笑われちゃう」
一度冷静になろう。
…………。
よし、心臓の鼓動は相変わらずうるさいけどひとまずOK。
「……ふふっ」
けれど頬の筋肉が緩んじゃうのはご愛嬌。
「ヒッキーの家にお泊まり。……お泊まり、か」
…………。
お泊まりってことは夜中もずっと一緒って事だよね⁉︎
後先のことを考えず浮かれすぎてて、その思考に今更ながら至ってしまった。
「わわっ……」
ど、どうしよう。
もしかしてキ、キスとかしたりしちゃうのかな⁉︎ そ、その先とかも……?
ま、まああたしとしては願ったり叶ったりというかむしろどんとこいではあるけども、流石に昨日の今日は
今まで彼氏とか出来たことないし、そんな話も友達とあまりしたことないからタイミング的なのはさっぱり分からない。
け、けどそこはまあ流れに身を任せてもいい、のかな?
「うぅ〜」
家でじっとしてるのも耐えられないし早くヒッキーの家に行きたいけれど、ヒッキーは今日の午前中は講義で午後はバイトの予定があると言っていた。
だから今家に向かったところで留守なので待ちぼうけを食らってしまうだろう。
けど落ち着かない、どうするべきか。
「いっそヒッキーのバイト先に突撃する?」
確かヒッキーの住んでるアパートの近くにある、個人でやってる喫茶店だったはずだけど……、や、ダメだ、迷惑は掛けたくない。
もうさっきから頭の中ぐるぐるぐるぐる、ちょっと疲れてきた。
「ヒッキーはどうなんだろう?」
意外、というのは失礼かもしれないけど、告白してくれた時のヒッキーはスマートだった。
きちんとあたしと目を合わせ、真っ直ぐに想いを伝えてくれた。
あたしがこんなにドキドキさせられてるのに会った時にヒッキーが平然としてたらそれはそれでなんかムカつく。
「や、でもヒッキーならあり得そう」
周りの空気に敏感なのに人の気持ちにはちょっと鈍感な部分もあるからなヒッキーは。
でもそういうヒッキーをあたしは好きになったんだ。
「あと少し……」
最終確認としてナチュナルメイクで顔を整える。
ん、完璧!
これでヒッキーをメロメロに……や、メロメロになってくれたから告白してくれたんだよね、うん。
……自分で言ってて恥ずかしくなったので頭の中から消すことにする。
「……よし!」
ちょうどいい頃合い。
今から向かえばヒッキーも家に帰ってる時間だろう。
荷物を持ち、家の戸締りを確認してからヒッキーの家へと向かう。
あたしが暮らしてるアパートからヒッキーが暮らしてるアパートは最寄駅から二駅先にある。
だから最初はヒッキーがあたしを向かえにきてくれるって話になっていたけれど、あたしはそれを丁重にお断りしておいた。
なぜなら──、
「……おう」
「やっはろー」
こうしてインターホンを押して、ヒッキーに出迎えて欲しかったから。
ん、やばい、顔が緩んじゃいそう。
ヒッキーが手を伸ばしてくれたので、あたしはその手にバッグを渡した。
「ありがと」
「いや、これくらい。道、迷わなかったか?」
「ん、大丈夫だったよ」
顔を合わせず、あさっての方向を見ていたヒッキーの顔を覗き込むと視線が交わった。
「……っ、え、なにどうした?」
「あっ……、ううん、なんでもない!」
あたしが家で悩んでたことが杞憂に終わる。
良かった、ヒッキーもちゃんとドキドキしてくれてるっぽい。
それが分かっただけでも今日は大きな収穫。
「ふふっ……」
「どうした急に、気持ち悪いぞ」
「なっ、か、彼女になった女の子に気持ち悪いは酷くない⁉︎」
「お、おう悪い。……彼女。彼女、な」
彼女という言葉を復唱するヒッキー。
あたしはそれを聞き、ますます顔がにやけてしまう。
「うん、あたしはヒッキーの彼女だよ?」
「あ、ああそうだな。由比ヶ浜は俺の彼女、なんだよな」
もしかしてこれ……いやもしかしなくてもあたしよりヒッキーの方が緊張してたりする?
なんとなくそう感じた。
そう感じたと同時に、自分より緊張している人が目の前にいると逆にあたしの緊張がほぐれていく。
さっきからあたしと目を合わせようとしないヒッキーの行動にも納得出来る。
「ねぇ、ヒッキー」
「ん、なんだ?」
「あたし、お泊まり出来るの今日一日楽しみにしてたよ!」
「……そうか」
「うん、だから今日の夜は寝かせないからね?」
「……っ!」
言った瞬間、リビングに続く扉を開けようとしたヒッキーはドアノブを掴もうとした手が空振りそのまま扉に激突した。
「わわっ、大丈夫?」
「おまっ、今そういうこと言うなよ」
「……?」
あたしが首を傾げるとヒッキーはなぜか呆れたようにため息をついた。
「そうだよなぁ、由比ヶ浜は一色と違って自然な天然だもんなぁ」
「あっ、彼女の前で他の女の子の話は禁止! ってか、今あたしバカにされた?」
「よしOK。おかげで落ち着いた」
釈然としないけれど、落ち着いてくれたならなにより。
ヒッキーはあたしの荷物を寝室に置きに行くと、そのままあたしの手を引っ張りソファへと座らせた。
「由比ヶ浜、さっきの言葉の意味はな──」
「えっ、うん……、っ、違っ、あたしそういう意味で言ったんじゃないもん!」
そう言い訳するあたしをヒッキーはおかしそうに笑う。
そして目を瞑り考える素振りを見せてから急に顔を近づけてきて耳元で一言。
「んじゃ、今夜は寝かせないからな」
「っ……⁉︎」
言った後、離れてあたしと目を合わせたヒッキーの顔が真っ赤。
驚いてるあたしもおそらく熱を帯びてるから赤面してることだろう。
だけど──、
「は、はい、よろしくお願いしましゅ」
辛うじてそう答えることは出来た。
あたしとヒッキーがこのあとどうなったのかはご想像にお任せします──。