やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。 作:石田彩真
二次創作のリハビリがてら八色を書いてみました!
読書は良い。自分の世界に入れるから。
俺は割と速読が得意だが、より小説に没入したくてじっくり読むタイプだ。
ページを繰る音と微かな呼吸音のみが耳に響く。
そんな状態がかれこれ2時間ほど続いていた。
そんな折、ふと何かが視界の端で動く気配を感じ、その物体は胡座をかいた俺の足に体重を乗せてくる。
「…………」
その様子を見下ろしつつ、寝心地が悪いのか少しもぞもぞ動き、やがてフィットする場所が見つかったのかようやく収まる。
そして顔を脹脛あたりに擦り付けてきた。
一応言っておこう。
今俺に構ってアピールをしてきているのはカマクラでは無い。
我が家の猫はマイペースではあるが、俺にここまで甘えてこない。……や、言ってて悲しいが。
さてじゃあ今の状況を簡潔に説明すると──、
「ん〜、ふぅ……」
俺の彼女である一色いろはが頭を乗せてきているのだ。
確かさっきまで俺のベッドを陣取って小町から借りてた少女漫画を読んでいたはずだが、もう読み終わったのだろうか。
「すぅ……、はぁ……」
なんか匂い嗅がれてる気がして恥ずかしい。
俺はなんとなく一色の頭に手を乗せてみた。
「ん、ふふっ」
うん、喜んでくれてるようでなにより。
もうひと撫で。さらにもう一度。
繰り返すたびに一色は気持ちよさそうに息を吐く。
何この可愛い生物。
今まで自分に彼女ができるなんて想像したことはなかったが、俺はどうやら恋人には甘いらしい。
こうやって寄りつかれてることをすごく愛おしく思っている。
まあ絶対面と向かって口にしてやらんけど。
愛してるとかキザな台詞を言ったが最後、結婚して子供が生まれた後ですら弄られる未来が目に見えているだよなぁ。
……………………。
自分が一色との未来を無意識に考えていたことに気付いて顔が熱くなる。
そして一色の髪を梳いている俺の手が止まってしまうと、顔をこちらに向けてきて口を開く。
「先輩、どうかしました?」
「あ、やっ……、なんもない」
意識を髪を撫でるのに集中させると再び一色は甘えたように顔を俺の足に擦りつけてくる。
その様子がとても可愛らしく、ついつい頬が緩んでしまう。
とうの昔に読書への集中力は切れてしまっているので、栞を挟んでベッドに置き一色だけに集中することにした。
柔らかな頬に指をふにっと押しつけ、首元にも優しく触れてみる。
と、一瞬だけぴくっと反応したが、拒否することはなく、撫でられることを許容してくれる。
「んっ、それ、気持ちいいです」
「……そうか」
顎の下辺りが気に入ったようなので、そこを重点的に揉みほぐすようにしていく。
時折り耳に手を持っていくとくすぐったさからか身じろぎするのが面白い。
……しかしあれだ。このままだと少しやばい。
「痒いところは無いですか〜?」
「なんで急に美容院風味を出してくるんですか」
気まずかったわけでは無いが、あのままだとエロティック方面に雰囲気が極振りされそうだったので、なんとか無意味な会話で理性を取り戻す。
けれどやめ時が分からず撫でつける手はとまらない。
俺と一色が付き合い始めてかれこれ数ヶ月。
一色とデート……買い物……荷物持ちには何度か付き合わされたが、未だ手を繋いだことまでしか無い俺に取ってはこれでも十分刺激が強すぎる。
ぼっち街道を突き進んできたとしても、俺だって一応健全な思春期男子なわけで。
本音を言えばもう少し先に進みたい気持ちもなくは無い。けれど、俺の意思より一色の意思を尊重したいと付き合い始めた時に密かに心の中で決めているのだ。
傍からみればそれは受け身でしか無いヘタレとも捉えられる。
けれどこっちから迫って相手を怖がらせるよりは充分マシだろう。
それに今はこうして一色を愛でられるだけで満足している俺もいるのだから、何も問題は無い。
何分、何十分こうしていたのだろうか。
やがて一色は満足したのか、のそのそ起き上がり伸びをする。そして胡座状態の俺の上に座り、すっぽりと身体を収めた。
次に俺の手を動かし、後ろから一色を抱きしめるような形にさせられる。
さっきよりも顔の距離が近くなって幾分恥ずかしい。
俺、鼻息荒く無いかな? 息とか臭かったりしないかな、大丈夫? と密かに心配していると、一色は顔をこちらに向けて照れたように微笑んだ。
「えへへ、先輩。好きですよ?」
「……っ。おう、そうか」
「はい、大好きです」
「どうした急に」
不意の愛情表現にたじろぎつつなんとか聞き返すと、一色は前を向き直し俺ごと身体を揺らしながらゆっくりと言葉を紡いだ。
「今割といい雰囲気だと思うんですよ。……先輩、私にあまり好きって言ってくれないので今ならチャンスかな、と」
「……なるほど」
理に適ってるようで、でもそれ聞いた後に言ったら言わされたようであまり良く無い気がするんですがそれは……。
けれど一色は期待の眼差しをちらちら向けてくる。
ならば期待に応えはいわけにはいかない。
俺は耳元で彼女の名前を呼んだ。
「一色」
「は、はいっ!」
俺は耳を寄せたまま数秒そこで止まる。
緊張で口元が震え、なんなら全身が緊張で硬直していた。
こういうのにもいずれ慣れてくるのだろうか、……いやむしろ慣れずに常にドキドキしていた方がカップルとしては長続きするのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えつつ、俺はゆっくりと息を整えて、ようやく言葉を発した。
「いろは、愛してるぞ」
「……っ⁉︎」
一色の身体が震え耳まで赤く染まっていくのが見える。
そしてばっと立ち上がり潤んだ瞳を一瞬見せてから、ベッドに向かい布団を頭まで被ってしまう。
……あれ、思ってた反応と違う?
「うぅ〜、先輩、それは流石にズルすぎですよぉ〜」
「…………」
思ってた反応通り、いやそれ以上の反応だった。
多分俺も先ほどまでは彼女同様顔全体真っ赤だったかもしれないが、今はやり方が間違っていなかった安堵の方が強く現れホッとする。
布団の山を撫でて一色を落ち着かせてやると、やがてひょこっと顔だけを出す。そしてボソッと一言。
「わたしも愛してますよ。……は、八幡、さん」
「っ……⁉︎」
再び殻に閉じこもる一色。
けどそうしてくれて心底安心した。
多分今の俺の顔を人生で一番だらしなくなっているだろうから。
なるほど、これは破壊力抜群だ。
すぐさま意趣返しを行える一色はやはりあざとさの頂点にいる女の子。
けれどそんな彼女を俺は好きになったのだ。
「えへへ、先輩に初めて名前で呼ばれちゃった」
布団から聞こえるくぐもった声。
そのあとは「八幡さん」と名前を連呼していた。
俺が喋らなければ部屋は沈黙そのものなのでもちろん俺に聞こえている。
けれど、一色はそれに気づいていないのだろう。
まあ楽しそうでなによりだ。
この日を境に、俺と一色は二人の時はたまに名前呼びで過ごすようになっていくのだった。
約7ヶ月ぶりくらいですが、これからまた少しずつ書いていけたらなぁと思ってます!
感想などいただけると嬉しいのでぜひお待ちしております!