やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。   作:石田彩真

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先輩と付き合えることになったのに。

 先輩と付き合えることになった。

 正直、受け入れてもらえるとは思わなかったしダメで元々、当たって砕けろ精神で告白したけれど、先輩は「お、俺も、一色が好き、だぞ」と詰まりながらも伝えてくれた時は夢なんじゃないかとその場で先輩の頬を強く抓ったのも記憶に新しい。

 けれどそれから一ヶ月半。

 これから初めてだらけのドキドキワクワク恋人生活が始まると思っていたのに──、

 

「何もしてこないってどう思います? お米ちゃん」

「どうって……、まあお兄ちゃんだしなぁ、としか」

 

 なんとかこの現状を打破したくて、止むを得ず自宅に招いたお米ちゃん──もとい、先輩の妹の小町ちゃんをおもてなししつつ、相談してみたが、ポテチをむしゃむしゃもりもり食べてるだけで、真剣に聞いてくれてる様子がない。

 むぅ、相談する相手を間違えたか?

 でもこんな話、先輩を好きだったはずの結衣先輩や雪ノ下先輩には相談しづらいし、悲しいことにクラスに相談できる間柄の友達がいるわけでもないわたしは、先輩の身内であるお米ちゃんに頼る他なかった。

 けど既に半ば後悔している。

 

「お米ちゃん、真面目に聞いてくれないなら今食べたお菓子のお金返してくれないかな?」

「……むぐ、この期間限定の味、美味しいですよ?」

 

 言ってお米ちゃんはそのポテチをわたしの口元まで運び無理やり食べさせてくる。

 ……うん、確かに美味しい。でもそうでは無くて。

 わたしがポテチを飲み込んで文句を続けようとするより早く、小町ちゃんは口を開く。

 

「そもそも意外です。こういう場合、いろは先輩から積極的に行くものかと思ってました」

「……ん、確かに普通ならそうかもしれないけど」

「けど……?」

「やっぱり、その……、少しは先輩にリードしてほしい、と言いますか」

「ほうほう」

 

 にやにやぁ、と嫌な笑みを浮かべるお米ちゃん。

 相談している立場として、極力誠意を見せたくて本音を漏らしたが少しだけ後悔。

 ちょっとムカついたので両手でほっぺをむぎゅっと挟み込んだ。

 

「むにゃ⁉︎ にゃにしゅるんでしゅか、ひほはしぇんぱい」

「ぷふっ、変な喋り方と顔」

 

 笑うとお米ちゃんも負けじとわたしの顔を同じように両手で挟んでしばらくわちゃわちゃ戯れる。

 頬を引っ張り、逆に思い切り両手で押さえつけてひょっとこ顔を作ったり、相手の顔をおもちゃにしつつ、やがてどちらからともなく吹き出す。

 

「もう、何してるのわたしたち」

「いろは先輩が始めたんじゃないですか」

 

 お互いの顔から手を離し、ほっと一息吐く。

 なんでわたしは先輩と仲を深めたいという相談をしていた相手と仲を深めているんだろうと冷静になった。

 わたしはわざとらしく咳払いをし、居住まいを正し、本筋へと話題を引き戻す。

 

「こほん……。小町ちゃん、恥を忍んで聞きます。先輩はどうすればわたしを甘やかしてくれますか?」

「いろは先輩が素直になれば良いと思います」

 

 満を辞して尋ねると、にべもなく答える小町ちゃん。

 わたしは明後日の方へと視線を向ける。

 

「……それが出来たら苦労しない、というか」

「そもそもですね、お兄ちゃんから無償で甘やかされようとするのは間違ってると、小町は思うのですよ」

 

 そう言った小町ちゃんはしかしすぐに腕を組み首を傾げて、「いやそれは違うか」と呟く。

 

「小町が知る限り、お兄ちゃんも彼女が出来るのは初めてなんですよ。だからこそ、いろは先輩にどう接するのが正解か分からない可能性があります」

「ほう」

「つまりですね。わたしは何をされても良いですよーって兄にいろは先輩から示す必要があると思うんです」

「なる、ほど?」

「兄に色々して欲しいんですよね?」

「それは、まあ……うん」

 

 何をされてもは言い過ぎかもしれないが、言わんとすることは分かる。

 わたしは先輩になら手を握られたり抱きしめられたりキスされたりそれ以上だって……。

 あれ? これもう何されても良いって事になるのでは?

 

「まあ兄はシスコンですし良くも悪くも年下には甘いので、いろは先輩が少しでもアクションを見せれば簡単に靡くと思いますよ、……知らんけど」

「最後ので台無しだよ、お米ちゃん」

 

 呆れつつため息を吐くも、今日小町ちゃんを呼んで相談出来たのは良かったと心から思える。

 胸の内がすぅっと軽くなった。

 残りのポテチを口に含んだ小町ちゃんは机に置いていたスマホを手に取り画面を確認していた。

 

「もうそろそろ帰る?」

「……あっ、はい、そうですね」

 

 言って、小町ちゃんは立ち上がってドアに手を掛ける。

 そして含みのある笑みを浮かべひとこと。

 

「ま、いろは先輩が何もしなくても明日からは大丈夫じゃないですか?」

「? それはどういう……」

「ではでは、小町は夕飯を作らなくちゃいけないので帰りますねー」

 

 わたしの疑問を無視して部屋を出ていく小町ちゃんの後を追い、玄関でお礼を言って見送る。

 部屋に戻って片付けをしている最中、スマホが鳴り画面を見ると先輩からの着信。

 不意の着信にわたしは慌てて受信ボタンを押す。

 

「も、もしもし。せ、先輩……⁉︎」

「おう、一色か?」

「は、はい」

 

 落ち着きのある低い声。

 付き合い始めてわたしから連絡することはあれど、先輩からは初めてだった。

 電話越しだと息遣いまではっきりと聞こえてきて、先輩が近くにいるように感じ、胸の拍動が止まらない。

 ああ、やっぱりわたしは先輩が大好きなんだと自覚する。

 口元が緩むのを抑えつつ、少し声のトーンを上げて揶揄うような口調で問い掛ける。

 

「先輩、どうしたんですか? あっ、もしかしてわたしの声が聞きたくなりましたか?」

「……ん、まあ、そうだな」

「っ……⁉︎」

 

 自分から仕掛けておいてカウンターを食らってしまう。

 えっ、なに。先輩なんかいつもと違う?

 

「……先輩。なにかありましたか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

 

 そこまで言って先輩は言葉を止める。

 わたしは疑問を持ちつつも先輩の次の言葉を待っていると、やがて小さな声が聞こえてきた。

 

「明日の昼休み。一緒にどうだ?」

 

 ひる、ヒル、昼……お昼を一緒に。

 つまりそれはお昼ご飯を一緒に食べないかということ。

 先輩の発言を理解するのに数秒を要してしまったが、答えはすぐに出る。

 

「は、はい、ぜひよろしくお願いします!」

 

 わざわざ電話でとか、なぜ今このタイミングでとか疑問はあったけれどそんなのどうでも良い。

 先輩からの誘い、それだけで嬉しいのだから。

 

「で、では明日、先輩のこと迎えに行きますね!」

「……ああ、じゃあ教室で待ってる」

 

 それだけの会話で特に雑談をするわけでもなく通話を終える。

 今まで付き合い始めてからも先輩と関わるのは放課後か、寝る前のわたしから掛ける電話くらいだった。

 けれど今回は先輩からお昼に誘ってくれた。

 わたしが小町ちゃんに相談してる間にどんな心境な変化があったのか分からないが、今はこの嬉しさを噛み締める事にしておく。

 

「ふふっ、明日は先輩とお昼かぁ……」

 

 そうだ。それならお弁当を作っていこう。

 先輩はいつも購買で買ってるみたいだし、サプライズで弁当を渡す事も可能のはず。

 

「明日、楽しみだなぁ……」

 

 とりあえず今日の小町ちゃんに相談したことは頭の片隅に置いておくとして、今のわたしはお弁当を何にしようかしか考えていなかった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 いろは先輩の家を後にした小町はずっと繋がりっぱなしだったスマホの通話を切り、LINEでお兄ちゃんにメッセージを送った。

 

「全く、世話が焼けるカップルだなぁ」

 

 ここから先はいろは先輩とお兄ちゃん次第。

 小町はゆっくり行く末を見守らせてもらうとしましょう!

 

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