やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。   作:石田彩真

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俺の家に相模が入り浸ってるんだが……。(相模side:入り浸るまでのお話編)

 好きな反対は嫌いではなく無関心、とはよく言ったものだ。

 実際高校生のうちは比企谷の苗字すらまともに知らなく、興味を抱く事なんてなかった。文化祭や体育祭で関わった後も同様に。

 なのに、それなのに、だ。

 大学に入り、講義が始まり、教室をなんとなく眺めていたうちの目に比企谷が映った瞬間、過去のことがフラッシュバックした。

 うちだってそれなりに成長して大人になっている……と思う。

 だからあの時の言動は子供っぽかったことは自覚してるし、なんなら黒歴史……うちのブラックヒストリーのひとつとして記憶の中で封印していた。

 それから比企谷を見つけるたびに自然と目で追ってしまい、自分からは人と関わろうとしていない彼が、意外に教授や同期に頼りにされていることを知った。

 だからだろうか。

 ──うちも比企谷と話したい。

 そう思ってしまったのは。

 比企谷は常に一人。

 友達に協力してもらい、講義室で待ち伏せしてあたかも偶然見つけたかのように装い、二人で会話をできるように誘導するのは簡単だった。

 

『あれ、もしかして比企谷?』

 

 呼ぶと、後ろの席に向かおうとしていた比企谷がこちらを振り向き、すぐさま驚いた表情を見せる。

 うちは小声で友達にお礼を伝え、比企谷に近づく。

 あれだけ会話をしたかったのに何を言おうかは決めておらず、けれど何か話さないとと思い咄嗟に口を開いた。

 

『比企谷、……久しぶり、だね』

 

 言いながらも、久しぶりなんて言葉を使えるほど仲が良かった間柄でも無いんだよなぁ、と考える。

 比企谷もどう対応するのが正解なのか迷ったのだろう。

 しばらくしてからふぅ、と息を吐き出した。

 

『ああ、そうだな……、相模』

 

 

 

× × ×

 

 

 

 あの時は無視されなくてよかったという安堵感からか、それ以上どんな会話をしたのかあまり記憶がない。

 何も話さず、うちが逃げ出した可能性だって大いにある。

 もしそうだとするなら、自分から話しかけたのに逃げ出すとか傲慢すぎだし、比企谷からしたらなんだったのかますます意味不明に思ったかもしれない。

 だから次会った時はもっと冷静に会話ができるように脳内シミュレーションをしていたのだが、それよりも先にスーパーで鉢合わせるなんて思わなかった。

 まあでも練習の成果か、きちんと会話が出来て夜ご飯にも誘えて、連絡先まで知ることが出来たので上々の出来では無いだろうか。

 ……や、食事に誘うのはまだ早かったかもと少しだけ反省。

 あの時の比企谷の表情はこの世のものを見る目をしていなかった。ちょっと面白くて笑いそうになったのはここだけの話。

 そもそも比企谷からしてみれば、うちは異分子。排除すべき存在のはず。

 まあ実際はどうか知らないけれど、少なくとも良い印象を抱いていないのは確かだろう。

 

「……よし」

 

 ──今何してる? とスマホに打ち込み、すぐに削除した。

 いやいや何してんの? いくら連絡先を交換してくれたからっていきなりLINE送るとか迷惑じゃん。落ち着け私……。

 どうせ明日講義の時に会えるし、わざわざメッセ送るなんて……。

 でもでも、今日の誘いに乗ってくれたお礼は言いたいし。

 

「……って、なんでうちこんなうじうじしてんの?」

 

 まるで恋する乙女じゃん。

 ……や、べ、別にまだ好きになってないし?

 大体、昨日の今日で好きになるとか、うちはそんなチョロくない……はず。

 思いきり頭をふり、両頬を叩く。

 

「あ〜、もう寝よ寝よ!」

 

 布団を被り目を閉じる。

 何故かヒリヒリしている頬のせいで中々寝付くことが出来なかった。

 

 

 

[newpage]「比企谷……、おはよ」

「ん」

 

 うちの挨拶に比企谷は頷くだけ。

 少しむっとしたけれど反応してくれただけ良しとする。

 隣に腰を落ち着けると比企谷は驚いた表情をみせた。

 

「えっ、なんで隣座んの?」

「別にどこ座ろうがうちの勝手でしょ」

「や、それはそうだが友達いるだろ」

「今日は急遽バイトの代理頼まれたからって休んでる」

「……なるほど」

 

 頷き、それ以上は何も言ってこない。

 うちが隣に座っても比企谷が移動する様子は無いので安心する。

 スマホをいじりつつ、ちらちらと比企谷の様子を伺う。

 眠いのか、何度もあくびを噛み殺していて瞳が潤んでいた。

 ぼーっとしている顔をどこか抜けていて……。

 でもなんだろう、こうしてみると比企谷って案外顔立ちは悪くないんだな。

 目がちょっとあれだし、葉山くんと比べたら見劣りはするけれど、それでも雰囲気と態度さえ改善すればモテそうなものなのに……。

 そんなことを考えていると、不意に比企谷がこちらを振り向いた。

 

「なぁ相模……」

「えっ、な、なに?」

「そんなマジマジ見られると流石に居心地悪いんだが」

「は、はあ⁉︎ そんな見てないし!」

「や、見てただろ。危うく顔面に穴が空くところだったぞ」

 

 見ていた自覚があるだけに指摘されると強く反論してしまう。

 

「比企谷さ、今日の夜暇だよね?」

「えっ、なんで決めつけ? ってか、ひ、暇じゃねえし」

「嘘。目、泳いでるし、それに昨日、比企谷バイト以外は家でレポートやるかアニメ見てるみたいなこと言ってたじゃん」

 

 「くそっ、昨日の俺バカ野郎!」と比企谷が小声で呟く。

 それを見てちょっと負かせた気がして嬉しくなった。

 

「それじゃ今日比企谷の家行くから、うちが手料理振る舞ってあげる」

「……ちょっと情報量多くない?」

「別に多くないでしょ。うちは比企谷に料理を作る、比企谷は場所を提供する、OK?」

「オ、オーケー」

 

 勢いで押すと比企谷は了承した。

 うちが勝ち誇った笑みを浮かべると、比企谷はしまったという表情を見せる。

 

「じゃ、放課後一緒に買い物ね」

「や、それは──」

「ほら比企谷。そろそろ講師来るよ」

 

 まだ何か言いたそうな比企谷だったけれど、うちは華麗にスルーをして講師が来るのをスマホをいじって待つことにした。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「お邪魔しまーす」

「はぁ……」

「ほら比企谷、決まっちゃったことをいつまでも気にしたってしょうがないじゃん」

「それを当人が言うなよ」

 

 19時ごろに駅前に集合し、スーパーで買い物を済ませてから比企谷の家に到着。

 比企谷も自炊はしているようで、調味料や調理器具はある程度揃っていたからうちに取りに行く必要がなくて安心した。

 

「比企谷、あまり物置いてないんだね」

「まあな」

 

 台所に買ったものを置き手を洗い、早速料理に取り掛かる。

 

「比企谷は適当に休んでて良いから」

「……わかった」

 

 まずは下準備から始め、手際良く作業を進めていく。

 なんかここまで強引に進めちゃったけど、今更ながら比企谷が迷惑がっていないか心配になってきた。

 ……ま、まあ、比企谷も美味しい料理を食べれば、許してくれるよね? うんうん。

 何を隠そう今作ってるのはうちの得意料理。

 たまに気まぐれで家族にも振る舞っていて、いつも好評だったので問題無いはず。

 あるとすれば比企谷の口に合うかどうかだが、それは今考えても仕方のないこと。

 

「……よし、大丈夫かな」

 

 豚汁の味も確認し、無事完成。

 いつのまにかテーブルの上を片付けて飲み物とかを用意してくれていたようで、そこに料理を運ぶ。

 

「おまたせ」

「ん」

「そういえば比企谷、好き嫌い無かった?」

「今聞くのかよ。……トマトは嫌いだが、ケチャップとしてなら問題無い」

「あっそ」

 

 比企谷が「美味そうだな」と小声で呟いたのが耳に届き、嬉しくなる。

 

「じゃ、食べよっか」

「ああ。……いただきます」

 

 比企谷がオムライスを口に入れる。

 咀嚼して飲み込むまで、うちはじっと比企谷に視線を向けていた。

 

「……美味い」

「ほ、ほんと?」

「こんなことでいちいち嘘をつくほど性格は腐ってないつもりだ」

 

 それを聞き、顔がニヤけそうになる。

 褒められた。

 家族以外に振る舞ったのは初めてだけれど、褒められるとこんなに嬉しいものなんだ。

 

「ねぇねぇ、どの辺が美味しい?」

「は?」

「だから、どこがどう美味しいの?」

「どこって言われてもな……」

 

 嬉しくなったうちが詰め寄ると、比企谷は困ったように視線を巡らせる。

 

「食レポとか出来ないから上手く伝えられんが……、このホワイトソースが俺の好みに近い味がして食べやすいな」

「……そっか」

 

 感極まりすぎて嬉しさが爆発しそうだ。

 自分の食事をすることを忘れて、比企谷が食べてるのを見入ってしまう。

 そんな比企谷と不意な目が合った。

 

「早く食べないと、冷めるぞ」

「あっ、うん、そうだね」

 

 改めて手を合わせてからうちも食べ始める。

 ……うん、美味しい。

 自分で言うのもなんだけれど、うちは割と料理のセンスあるかもしれない。

 二人とも食べ終わると、比企谷が洗い物を買って出てくれる。

 その後ろ姿にうちは声を掛けた。

 

「ねぇ、比企谷。またこうして二人で食事とかしちゃダメ、かな?」

 

 聞くと、蛇口を止めて比企谷が振り返る。

 

「……まあ、あれだ。飯は普通に美味かったし、食費も折半すれば互いに安く済むから悪くないんじゃないか?」

 

 その返答をどう捉えて良いのか分からず、一瞬考え込む。

 それって良いってことだよね? 多分。

 うちは立ち上がり、洗い物をしている比企谷の背中を笑顔でバシバシ叩く。

 

「もう比企谷、素直じゃないな〜。そこはこれからも俺のために料理を作ってくれって言えばいいんだよ〜」

「や、なんでだよ、彼氏じゃあるまいし。ってか、痛いからそんな強く叩くなよ」

 

 言うものの、比企谷は手が塞がっており、うちの手のひらを回避する術はない。

 

「あっ、でも今度は比企谷の料理も食べたいかも」

「ああもう、分かったから背中叩くな。紅葉跡付いたらどうすんだよ」

「……写真撮る?」

「や、なんでそうなる」

 

 いつの間にか比企谷と話してる自分にも違和感がなくなり、むしろ会話が楽しくなってきた。

 この日から一週間に一度、三日に一度と、段々二人で食事する機会も増えていくのだけれど、それはまた別の話ということで!

 

「おいだから、いつまで叩いてんだよ」

「比企谷が洗い物終わるまでかな?」

「……あとで覚えてろよ」

 

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