やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。 作:石田彩真
南が俺の家に入り浸り始めてから約一年、告白するべきか否か、かれこれ一週間くらい迷っていた。
今では月の九割は一緒に生活しているし、なんならお互いの合鍵すら渡している半同棲状態である。
相模がどう思っているかは置いておいて、俺の気持ちを言葉にするなら俺は南が好きだ。……多分。
や、多分というのはあれだ。念の為というか言葉にするのが恥ずかしいというか、まあ色々あるんだよ察しろ。
とにかく今は南が俺のことをどう思っているか、告白するならどうやってするべきかを考えることが先決だろう。
「ん、……八幡、おはよ」
ひとまず自分の考えをまとめたところで南が寝室から出てきた。
まだ完全な覚醒には至っていないのか、眠そうに目を擦り小さくあくびをしていた。
このピンク色のパジャマ姿も見慣れたものだ。
「ん〜、まだねむい」
「今日は休みなんだし、まだ寝ててもいいんだぞ」
「……でも、折角久しぶりに八幡と二人揃っての一日休みなのに寝てるだけなのももったいないし」
そう言って、南は後ろから俺に抱きついてきた。
…………。
このやり取りが恋人同士のそれじゃなければなんなのだろうか。
ドキドキしつつも暖かさがある抱擁。
ずっとこのままでもいいなと思ってしまえる安心感。
俺は自分でも知らないうちにだいぶ南に絆されているらしい。
「八幡、なにしてるの?」
「ん、大学の課題だな。こういうのは早めに片付けるに限る」
へぇ〜、と感心したような声をあげる。
というかこの課題、同じ講義のやつだから南にもあるはずなんだけど。
南は俺から離れると棚に置いてあった鞄からノートパソコンを取り出した。
「実はうちも課題やろうかなって持ってきてたんだ」
「……言っとくが手伝わないからな」
「え〜、アドバイスくらい良いじゃん!」
[[rb:端 > はな]]からそれを期待していたんだろう。
南はパソコンを俺の向かいに置き、着替えてくると言って寝室に戻っていく。
いつからか名前で呼び合うようになり、この日常が当たり前になっていた。
洗面台には南の歯磨きセット、風呂場には南のシャンプーやリンス、食器棚には同じ種類の食器が二セットずつ。
寝室のタンスには私服やら寝巻きやら下着までも、南のスペースが用意してある。
「……どうすっかな」
パソコンと睨めっこしてても妙案は浮かばない。
このままの現状で良いんじゃないかと思ってしまう自分もいれば、そろそろ明確な答えが欲しい俺もいる。
なんとも我儘な話だ。
ひとまず目先の敵、まずはこの課題を片付けてからじっくり考えることにするか、と問題を先送りにすることにした。
× × ×
「八幡、ここどうすれば良いと思う?」
「ああ、それはな──」
甘い声でお願いされ、結局課題の手伝いをしてしまう甘々などうも俺です。
『先輩って気を許した相手には甘くなる傾向ありますよねー』
と、高校卒業前に言われたことを思い出す。
あの時は否定したがあながち間違いとは言い切れないかもしれない。
や、そもそもの話、南を好きだという自覚がある俺からすれば可愛く頼まれれば断りきれないのは明白なわけで。
「……よし、終わった〜!」
「おつかれさん」
ん〜、と伸びをしてからパソコンを閉じ、ぐで〜っと机の上に脱力した。
その頭に自然と手をのせる。
「っ……! えっ、な、なに?」
「あ、や……、悪い」
謝罪し手を退かそうとすると南はそれを制す。
「良いよ別に。ただ八幡からこうして触れてくれるの珍しいから驚いただけ」
「……そうか」
拒否されないなら遠慮なく撫でさせてもらう。
「南は最近大学どうだ?」
「なにそれ」
「や、基本大学とバイト以外ここにいるから友達とかと上手くやれてるのかなぁ、と」
言うと、一瞬動きを止めた南は身を起こしてから「ぷっ」と吹き出した。
「八幡、うちのお父さんみたいなこと聞くね」
「うっ……」
「心配されなくてもうちは友達も仲良い先輩もいるよ〜。この前も八幡がバイトしてる時間に一緒に買い物したし」
「……そうか」
まあ元々社交的な南なら心配する必要のないことではある。
むしろ俺の方が一年経っても仲良い友達は愚か、関わる人が教授か南くらいしかいないので問題かもしれない。
「ねぇ八幡。疲れたから肩揉んで」
「へいへい」
唐突なお願いも素直に聞く。
俺は南の後ろに周り肩に手を置いた。
「うはぁ〜、きもちいぃ〜」
「なんかおっさんぽいなそれ」
「いいじゃん別に。……んはぁ、後で八幡にもやってあげるよ」
「俺は別に肩凝ってないんだが」
「良いの、うちがスキンシップしたいだけだから」
そう言われたしまえば断る理由もない。
「はい、交代」
「ん、じゃあ頼む」
南が俺の後ろに回る。
そして肩を揉み始めた。
「お客さん、痒いところはないですか?」
「それは美容院だろ」
「じゃあ頭皮マッサージに変更する?」
「や、しない。……おいやめろ髪引っ張るな」
俺が南の手を払うとそれに負けじとアホ毛に狙いを定めてくる。
その攻防を続けていたら、不意に南は俺の首に手を回しそのまま耳に口元を寄せてきた。
そして──、
「八幡、……好き」
「っ……」
「好き、だよ?」
それは前触れの無い突然の告白。
言った後、南は俺から離れ、伸びをした。
「ん〜っ、スッキリした〜」
「……南?」
「どう、驚いた? いや〜、言葉にすると胸のつっかえがとれた感じする」
俺が南の方を向こうとすると顔を掴まれ無理矢理前を向かされる。
「だめ、こっち見ちゃ、今多分すごい顔赤いから」
「えっ、なにそれめっちゃ見たいんだが」
「見たらうっかり八幡の首絞めちゃうからだめ」
まだ死にたくは無いので、俺は大人しく前を向いてることにした。
「ねぇ、八幡」
「ん、なんだ?」
「ほんとはね、もっと雰囲気とか……デートとか誘ってその後に告ろうかなって思ってたんだよね、うち」
言って、南は後ろから腰に手を回してくる。
「でも、それはなんか違うなって……。ほら、うちと八幡ってそういうことした事ないじゃん?」
「……だな」
「うん。うちはただの日常生活を一緒に過ごして八幡を好きになったからさ、特別はいらないかなって」
南は多分俺と同じことを考えていたのかもしれない。
告白したい、けどどうするべきか……もしこれでイエスノーどちらに転んでも関係は変わってしまう。
もういっそ勢いのまま告白しちゃえ、みたいな感じで。
無駄に捻くれてて言い訳ばかり考えてしまう俺とは違い、俺に無かった真っ直ぐな勇気を南は持ち合わせていた。
本当、情けない。
ここまで彼女にお膳立てされて答えないわけにはいかないだろう。
「……南」
「やだ」
「えっ……?」
「うち、八幡に断られたら耐えられない。やだ、だから聞きたくない」
顔を背中に擦り付けてきて、いやいやと首を振る南。
ああ、やっぱり俺と同じだな。
好かれてる自覚があったとしても、万に一つ、それが勘違いの可能性もあると頭の片隅で考えてしまう。
こう言う思考は本来俺の専売特許のはずだが、俺と一緒にいすぎて南も似てきてしまったのだろうか。
「南、俺も好きだぞ」
「…………っ」
「俺もちゃんと好きだから変な心配する必要ないぞ」
「……ほんと?」
ああ、と力強く頷く。
南は少しの硬直の後、ゆっくりと脱力していった。
「はぁ〜、よかった〜。ダメかと思った〜」
「や、なんでだよ」
「だって……お兄ちゃんは色々後ろ向きに前向きな考えする人だから、難攻不落だよって小町ちゃんが」
「なんでそこで小町が出てくる」
「大分前だけど、八幡がバイトの時たまたま小町ちゃんがここにきてそれで会った」
それは初耳だった。
言わなかったのは大方小町に口止めされたとかだろうからそれは良いとして。
「ねぇ、八幡。これからはうちと八幡って恋人同士だよね?」
「ん、ああ。そうなんじゃねぇの?」
「だよね。……ふふっ、八幡と恋人かぁ」
そう改まって噛み締められるとこちらも照れるんだが、……まあ南が嬉しそうにしてるならなによりだ。
「じゃあ早速恋人記念のチューでもしてみる?」
「えっ、や、それはその……心の準備が」
「ってか八幡いつまで前向いてるの? そろそろこっち見てよ」
もう振り向いても首絞めの刑は撤回されているらしい。
俺は告白後、初めてちゃんと南と目を合わせた。
「……うぅ、やっぱり恥ずかしい」
そしてすぐに逸される。
「南って変なところで乙女だよな。意外に少女漫画好きだし」
「八幡が変なところで割り切り良すぎなだけだし。なんでいつも不意のスキンシップ出照れるのにこういう時は堂々としてるの」
俺からすればキス云々の話ではからかい混じりだったのにここで照れる理由が分からんけど、それを言うとイタチごっこになりそうなので控えておく。
南は自分の頬を叩き喝を入れた。
「もう良いわかった。照れるのやめる」
「お、おう、そうか」
「うん。……そして八幡にキスする」
「は? いや待て……んっ⁉︎」
南に押されて後ろに倒れ込む。
そしてそのまま唇を塞がれた。
柔らかい、唇から体温と鼓動まで伝わってくる感じだ。
俺は彼女のしたいように身を任せ、やがてゆっくり南は俺から離れる。
そして照れたように笑う。
「八幡、これからもよろしくね」
「おう」
俺たち二人の何気ない日常はこれからも続いていく──。