やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。 作:石田彩真
ペラペラと本を繰る音だけが聞こえる。
由比ヶ浜さんが不在で、部室に私と比企谷くんだけの時は基本こんな感じである。
それは彼と付き合う前も後も変わっていない。私はこんな何気ない日常が好きだ。
そう素直に思えるようになったのはきっと、目の前の彼といつも私の前で笑顔を見せてくれる彼女のおかげだ。
「ねぇ、紅茶飲む?」
「……おう」
自分の本を読み終え代わりを持ってきていなかった私は、紅茶の入っていない彼の湯呑みに目をやり声をかける。が、彼はこちらを見向きもせずに返事をしてきた。
……まあいい。彼の愛想ない態度はいつものことだ。付き合い始めてから気にし出して、その度にイラッとしてたらキリがない。
私は熱々の紅茶を注いで彼の目の前にそれを置く。
「はい、どうぞ」
「……おう」
またしても彼は顔を上げてくれなかった。
きっと今良いところなのだろう。私も話の核に触れる展開になると集中してしまうから分からなくはない。
けれども、彼女が世話を焼いているのにこの態度はいかがなものか。
「比企谷くん。隣座っても良いかしら」
「……おう」
許可が取れたので比企谷くんの椅子と私の椅子を隙間なく近づける。
と言っても集中力が持続している彼は自分が許可したことも、私が近くに寄ってきたことにも気付いていないはずだ。
まあそれを知っていて聞いた私も私なのだけれど。
「…………」
「…………」
彼の近くにいるだけでこんなにドキドキする日が来るなんて、彼と初対面の時は思いもしなかった。
比企谷くんのページをめくる指、静かに上下する肩、時折り深く吐かれる息、そのどれもが愛おしく感じる。これが惚れた弱みか。
いやでも比企谷くんだって私に惚れてるはずで、愛してくれてる……はず。多分。
そういえば私から何度か好意を示したことはあるけれど彼からはそこまで無い気がする。
そう思うとちょっとあれだ。ずるい。
私だってもっと比企谷くんに──
「愛してるぞゆ、雪乃」
「──っ⁉︎」
不意の呟きに息が詰まってしまった。
「……比企谷くん?」
呼ぶと、彼はサッと顔を背ける。
「お前さっきから笑ったり、しかめっ面したり可愛すぎるだろ。集中できるものもできねぇよ」
「っ……⁉︎」
「それに……ほら、俺一応お前の彼氏だし。……なんとなく通じた」
「そ、そう」
つまりあれか、比企谷くんは私の百面相を見て何かを察して言葉にしてくれたのか。
自分の顔に熱がこもっていくのがわかる。恥ずかしさはあるけれどそれ以上に嬉しすぎる。
私はその嬉しさを噛みしめつつクスッと微笑んだ。
「なんだよ」
「いえ別に……。ただ、それで吃るなんてやっぱり比企谷くんは比企谷くんね」
「悪かったなヘタレで」
少し拗ねた様子の彼がますます愛おしい。
私は彼を包むように抱きしめる。
「っ⁉︎ お、おい!」
「今日は部活が終わるまでこのままよ。部長命令」
「お前そんなやつだったか?」
疑問を呈しながらも私の提案を拒絶はされなかったので、もう少し楽になるように抱きしめ直す。
彼もそっと私の肩を抱いてくれる。
そんな優しい彼とこれからもこうして過ごしていきたいと思える、私と比企谷くんの日常の一幕である。