やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。   作:石田彩真

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言い合い

「比企谷くんのバカ!」

「バカって言う方がバカだろ」

 

 小町がいつものメンツとお茶を終え帰ってくると、お兄ちゃんの部屋から子供の言い争いのような声が聞こえてきた。

 既にデッドヒートを終えているようで、小町からしたら「またか」という感じだ。

 扉が閉まる音、階段を下りる音を耳にしげんなりしながら顔を上げると、涙目の雪乃さんが姿を現した。

 

「雪乃さん。お兄ちゃんがまた何かやらかしましたか?」

「小町さん……」

 

 正直このやりとりが何度目かもうわからない。多分軽く数十回はいってるんじゃないだろうか。

 それでも私は毎度雪乃さんのお話を聞く。

 未来のお義姉ねえちゃんの話を聞く小町ポイント高い! とかやらないと流石にやってられないんだよね、本当に。

 まあ高校生になってからはこのポイント制もお兄ちゃんの前では数えるほどしか出してないし。

 

「あー、雪乃さん? とりあえず小町は荷物を部屋に置いてくるので、リビングで待っていてもらっても良いですか? お話は伺いますので」

「ええ、……ありがとう」

 

 言って雪乃さんはリビングへ入っていく。

 それを見送り、小町は二階へ上がりひとまずお兄ちゃんの部屋のドアをゆっくりと開ける。

 これでもし気づかれるならそれで良しだった。が、兄はちょうど扉に背を向けイヤホンをしていたのでこちらに気づく様子はない。

 なので大人しく引き下がり、自分の荷物を自室へ投げやり、リビングに戻ることにした。

 

「お待たせしました〜」

「いえ、大丈夫よ」

 

 時間が経ちある程度落ち着いたのか、テーブルには紅茶と雪乃さんが家で焼いてきたのであろうクッキーが置かれていた。

 勝手知ったるように台所を使っていたようだが問題無い。なんなら小町もお母さんも公認なのでこれからもどんどん使ってもらいたい。

 

「で、今日はどうしたんですか?」

 

 椅子に座りがてらクッキーをひとつ口に運ぶ。安直な表現だが、香りが口の中に広がってとても美味しい。今度作り方を教えてもらおう。

 雪乃さんとのプチお菓子教室を目論んでいると、目の前の雪乃さんが兄との喧嘩を思い出したのか、再び涙で瞳を潤ませた。

 

「あのね比企谷くんが――」

「はい、兄が?」

「その……、比企谷くんが……」

 

 そこで俯いて口が閉ざされる。

 これは今までになかったパターンだ。大体兄たちの喧嘩の原因なんて、デートの際雪乃さんの服を褒めなかっただとか、兄のラノベに出てくる娘は胸の大きい子ばかりだとか、それはもうマジでくだらない事ばかり。

 『八雪カップル被害者の会』を作ってしまうぐらい、こちらとしてはそんなレベルで相談してくんな! って感じだ。

 ちなみにメンバーは小町、結衣先輩、戸塚先輩、沙希さん。あとメンバー(仮)で厨二先輩がいる。

 何を隠そう今日の集まりも厨二先輩を除いたこのメンバーでのお茶会だったのだ。

 皆さん優しくて小町は先輩方が全員好きだ。今後とも是非仲良くしていただきたいと思っている。

 そしてなるべく他の人に迷惑が掛からないよう、小町の手で兄と雪乃さんのくだらない諍いを仲裁していきたい。

 そんなことを思っているとようやく言葉にする決心が付いたのか、雪乃さんが顔を上げた。

 

「比企谷くんが自分の方が私を好きだって!」

「……………………は?」

 

 思わず素で返答してしまった。

 いや、えっ? ちょっと待って? ほんとわけわからない。

 

「だから、私の方が比企谷くんを好きレベルが上なのに彼は自分の方が私を好きレベルが上って言い張るのよ!」

「…………そうですか」

 

 ………………………………聞いて損した。

 過去最低でどうでも良い内容だった。

 今までも酷かったけどこれはもうどうしようもない。

 そんな今時の少女漫画でもありえない相談内容だとは思わなかった。

 そもそもそこまで溜めて言うことだったのだろうか? ……あ、いや、待て。もしかして恥ずかしくて口に出すのに照れてただけとか?

 もしそうならビンタ一発くらいしても許されるよね? もちろん雪乃さんじゃなくてお兄ちゃんに。

 

「私の方が絶対彼を愛してるのよ。小町さんもそう思うでしょう?」

「はあ……、そうですね」

 

 正直どっちでも良い。けど、ここで曖昧に返すと余計拗らせる可能性があったので肯定しておく。

 まあ実際色々な愛情表現をしているのは兄より雪乃さんの方だと思う。

 

「それなのに比企谷くんったら……」

 

 その後もお兄ちゃんへの愚痴が延々と続く。

 

「……で、私のことを思い切り抱きしめてくれたの」

 

 そしていつのまにか惚気に変貌していた。

 ……小町知ってた。聞いてるだけでこうなるって。いつものことだし。

 ここまでくれば後はテンプレとなっているパターンがある。

 

「雪乃さん、その気持ちを兄にぶつけてみてはどうですか? きっと兄も同じだと思いますよ?」

「……そう、かしら」

「はい、間違い無いです! あの愚兄の妹である小町が保証します!」

 

 机を叩き立ち上がる。手のひらがヒリヒリして痛い。

 雪乃さんは「そう……。そうよね」と自分の中で何か答えを見つけたようでやっと笑顔が戻ってきた。

 

「ありがとう小町さん。比企谷くんと話してくるわ」

「はい、いってらっしゃい」

 

 言ってリビングから出て行く雪乃さんを見送ってほっと一息つく。

 これにて雪乃さん慰めミッション終了。クッキーをひとつはむっと食べる。

 

「……おいしい」

 

 兄と雪乃さんの痴話喧嘩は一体いつ頃落ち着くのだろうか。もしかしたら一生続くのかもしれない。

 まあでもそれならそれで我が家の今後は安泰だなと思う小町なのでした。まる。

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