やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。 作:石田彩真
「ねぇ占いアプリやろうよ!」
「やらないわ」
「やらねぇよ」
奉仕部の扉をガラッ、ピシャリと開け放って閉めた由比ヶ浜の発言に、俺と雪ノ下はすげなくあしらう。
雪ノ下が淹れてくれた若干冷めつつある紅茶を一口啜る。うん美味い。
「ちょっと二人とも! 拒否するの早すぎるし!」
俺と同様紅茶に口をつけていた雪ノ下は、丁寧にカップを置いて息を吐くと由比ヶ浜を見据えた。
「由比ヶ浜さん、まずいきなり扉を開け放つのはやめなさい。びっくりするじゃない」
「うっ、ごめんなさい」
「それと、今日は三浦さんたちと出掛けるんじゃなかったの?」
「あっそれはね、隼人くんがサッカー部のミーティングがあるからってその後になったんだー」
だからゆきのんに会いたくって、という由比ヶ浜に対し「そ、そう」と素っ気なく返す雪ノ下。
けれど広角がわずかに上がっていることから嬉しさが隠しきれていない。
もうやだー雪ノ下さんったら由比ヶ浜さんのこと好きすぎじゃ無いですかー、とうんうん頷いていると雪ノ下に睨まれる。
あれ? 俺の思考読まれた?
「ねぇゆきのんやろうよー。色々あるんだよ」
「ちょっと由比ヶ浜さん、あまり揺らさないで──」
「仕事運に金運、あっ、恋愛運ってのもある! これやろー!」
「由比ヶ浜さん、あの、話聞いて」
どんどん由比ヶ浜のペースに流されて行く。こうなると雪ノ下にはなす術がない。そして奉仕部内で拒否権を剥奪されている俺は従わざるを得ない。
「じゃあまずヒッキーとあたしね」
言ってポチポチっと自分の携帯を操作する由比ヶ浜。鼻歌を歌いながら楽しそうにしている姿を見ていると、止める気も失せてくる。
そこでふと由比ヶ浜は指を止める。
「ヒッキーって血液型なんだっけ?」
「A型よ」
「なんでお前が答えんだよ」
そもそも血液型の話したことあるっけ? と記憶を遡ってみると思い出した。そういやあったな一回だけ。
由比ヶ浜の誕生日会だったか、文化祭の打ち上げだったか──
「あっ、結果出たよ」
最初は楽しそうな表情をしていた由比ヶ浜だが、それが徐々に険しくなっていく。
「むっ、五十パーセントだって」
「あら、良かったじゃない」
「ま、妥当だな」
どこが良かったのか雪ノ下に詳しく聞いてしまうと俺が傷つく未来しか視えないので、スルーしておく。
「あっ、占い結果もちゃんとある。えっと『あなた達は友達としてお互いに刺激しあえる良い関係を築けるでしょう』だって」
「……良かったわね比企谷くん。由比ヶ浜さんが友達になってくれるそうよ」
「そうだな。でも俺には戸塚だけいれば十分だからお断りします」
「なんか知らないけど断られた⁉︎」
ますます膨れっ面になる由比ヶ浜。
そして無造作に再び携帯を打ち始める。
やがて驚いた顔を見せた。
「うそっ! ヒッキーとゆきのんの相性、99パーセントだってさ!」
「っ⁉︎ そ、そうなのね」
「…………」
「えっと……、『あなた達はまさに運命の二人でしょう。ただお互いに一歩踏み込む勇気が足りません。それさえ乗り越えれば未来永劫、幸せに暮らせるでしょう』だってー」
……へぇーふーんそうなんだー。
なにこれ妙に気恥ずかしいんだけど。
俺はふと雪ノ下の方を向く。と、ぱっちり目があってしまう。そしてすぐに顔を逸らされた。
「ひ、比企谷くんと相性良いなんて少しいえ大分虫唾が走るわね」
「俺だってお前と相性良いとか……はっ、あり得ないな」
うん考えれば考えるほど可能性皆無だ。
大体部室内で俺は罵倒されまくりだぞ。雪ノ下からの好意なんて感じたことない。
そんな俺と雪ノ下の否定をよそに、由比ヶ浜は考えるように呟く。
「ん〜、でも二人ともいつも仲良さそうに会話してるし、案外間違いでもないのかも」
「は?」
「由比ヶ浜さん。私だって怒ることがあるのよ?」
「で、でも本当のことだし……」
仮にそれが本当なら俺はドMで雪ノ下がドSという図式が成り立ってしまう。なるほどそれなら相性は抜群そうだ。
けれどそんな事実は存在しないのですぐさま頭から消し去る。
そして由比ヶ浜を睨み付けてる雪ノ下に便乗し、俺もじとーっと睥睨した。
「あ、あの……。そ、そうだ! あたしそろそろ時間だからもう優美子達のところ行くね!」
居心地が悪くなったらしい由比ヶ浜はカバンをサッと背負い、そそくさと奉仕部を後にした。
最後に帰りの挨拶を忘れないのは由比ヶ浜の良いところだろう。
「…………」
「…………」
ただこの空気で俺たち二人を残すのはいただけない。あいつ、空気読むのだけが取り柄じゃないのかよ。空気破壊人エアーブレイカーは俺だけで充分だ。
「その、私たちもそろそろ帰りましょうか」
「そ、そうだな」
時間も丁度良い時間だし、特に異論はない。
無言で帰りの支度をし部室を出る。
「比企谷くん。また明日」
「おう。またな」
小さく手を振ってくる雪ノ下に別れをつげる。その背を少しだけ見送って歩き始めた。
昇降口までの道程、俺は由比ヶ浜がやっていた占いアプリを検索し、彼女との相性を出してみた。
出てきたのは由比ヶ浜が伝えてくれたことのすべて。
──一歩踏み込む勇気、か。
「俺らしくねぇ、だろうな」
昇降口には俺たち同様、部活を終わらせたらしい文化部連中が騒がしく談笑しながら校門へと向かっていく。
俺がそれを佇みながら何度か見届けていると、コツコツと静かな靴音が耳に響いた。
それをいつも意識的に聞いていたわけじゃないが、不思議と誰だか分かってしまった。
顔を上げると想像通りの人物、雪ノ下雪乃は驚いた表情を向けてきた。
「比企谷くん?」
「おう」
「なに、してるの?」
「……雪ノ下を待ってただけだ」
「そう、待っててくれたの。……そう」と噛み締めるように呟く雪ノ下と顔を合わせられない。
きっと綺麗な夕焼けじゃなかったら、彼女に俺の赤面具合が露呈してしまっていたことだろう。
「んじゃ行くぞ」
「ちょっと待ちなさいよ」
早足で歩く俺を靴に履き替え追いかけて来る雪ノ下。
校門を抜けて俺と雪ノ下は一定の距離を保ちながら歩いていく。
そこで雪ノ下に声をかけられる。
「そう言えば比企谷くん。あなた、自転車は?」
「あっ……忘れてた」
「ふぅ、まったく」
呆れた声を出す雪ノ下だが、俺としては今日は雪ノ下と一緒に下校することしか考えてなかったので仕方がないと言い張るしかない。
まあそれを雪ノ下に伝えると色々墓穴掘りそうなのでやめておくが……。
「それで取りに戻る?」
「……いや、学校に置いとけば無くなることもないだろうし、いいだろ」
「そう。比企谷くんが良いのなら私は構わないのだけれど」
俺と雪ノ下は無言で歩いていく。
いつの間にか雪ノ下は俺の隣に並んでいた。
肩と肩が触れ合うんじゃないかってくらいに近づいている。
「……ねぇ、どうして待っていてくれたの?」
「どうしてって──」
「もしかして"一歩"踏み込むため?」
「っ⁉︎ いや、それはな……」
そしてパッと雪ノ下の方に顔を向け確信した。あ、これバレてる、と。
いや今日のアレの後でバレない方がおかしいだろうが、いざバレたと自分が気づいてしまうと恥ずかしくて軽く死にそうになる。
だがもうここまできて引くことはできない。
「そうだな。少し思うところがあった……っていう感じだ」
「そう」
それからお互い無言になる。
まあ元々俺たち二人、喋る方ではないので気まずい感じはあまり無い。
しばらく歩いていると右手に微かな違和感を抱く。それが指を握られた感触だと気づくのに時間はかからなかった。
「"一歩踏み込む"を私も実践してみようと思って」
「……そうか」
俺と雪ノ下の関係はまだまだ奉仕部の部長と平部員の域を出ない。
けれど近いうち、関係を変えることが出来るんじゃ無いかと思う俺と雪ノ下の一幕であった。
深夜にかけて投稿したのは本来全部まとめてで投稿してたやつなのでひとつひとつが短いです!