やはり俺の青春ラブコメは短編でもまちがっている。 作:石田彩真
今回はオリキャラ視点で八雪を観察します!
私の名は綾瀬彩香。
これでも普通科より多少偏差値が高い国際教養科に通っている優等生である。
顔面偏差値だってそこら辺の一般ピーポーに負けていない。そう、私は美少女なのだ!
ただ総武校生には"そこら辺"の枠に収まらない輩が数多くいるせいで私自身が霞んで見えてしまう。
同級生では結衣ちゃんや三浦さんや川崎さん。下級生だと生徒会長の一色いろはさん、あとは今年の新入生の比企谷小町ちゃん。
この前学食で偶然的にも会話をしたけどお持ち帰りしたくなるぐらい可愛かった。
あれはもう自分の長所を全て理解している振る舞いだと、私は読んでいる。
三年つまり私の同級生に兄がいるらしいのだが、"比企谷"なんて性の人は聞いた事もない。
一度聞けば覚えていそうな名字のはずなんだけどなぁ。……っと、話が逸れた。
つまり、私が可愛くないわけではなく、運悪く私の世代の総武校生が可愛すぎるだけなのだ。
で、私偏見でその頂点に君臨しているのが我が三年J組の女神、雪ノ下雪乃様であられる。
J組は基本、クラス替えが存在しない。つまりこのクラスだけは三年間同じなのだ。
だから私はずっと雪ノ下さんを見てきた。
……べ、別にストーカーじゃないよ? ほら、雪ノ下さん。可愛くて綺麗で出来れば仲良くなりたいな〜とか思っちゃったりして。
一年の頃はそんな雪ノ下さんと仲良くしたいと思っていた人は多くいたと思う。けれど今ではそれも多くはない。
というのも一年の時に問題があった。
会話をすればラリーは続かず、業務連絡以外は無視とまではいかなくともあまり成立させてはくれなかった。
時々反応してくれる内容もあったけど……あれ何だっけ? 確か猫?
まあそんなのはどうでも良くて。
二年になる頃には多分雪ノ下さんに話しかけてるの、私ぐらいしかいなかったと思う。
けどその時期から雪ノ下さんは言葉を返してくれるようになった。それが嬉しすぎて饒舌に喋ってたら、若干引かれたのは良い思い出だ。
三年になった今では席も隣同士で益々仲良くしていけたらと私は思っている。
そんな中、雪ノ下さんに彼氏が出来たという噂が流れてきた。
正直、私は噂を信じたりはしない。
去年はヒキタニって人の噂が何度か流れてたけどそこまで話に上がるとか逆に人気者じゃね? とか思ってしまったぐらいだ。
まあでも雪ノ下さんにもし本当に彼氏が出来たのなら、イチ雪ノ下雪乃ファンとしては見定めないわけにはいかないと思ったわけで、即行動に移した。
すると意外にもあっさりと現場を見つけることに成功した。
「はいお弁当」
「ん、いつも悪いな」
「一人分も二人分も変わらないわ」
なんだよお前ら? 夫婦?
場所は風当たりの良い校舎の裏、テニスコートが見える位置。そこに二人は座っていた。
一人は言わずもがな雪ノ下さん。
ただ座っているだけなのにそれだけで彼女の品の良さが伝わってくる。
もうひとりは誰だか分からない。ここから見える唯一分かる特徴といえば、ピンとしているアホ毛くらいなものか。
もう少し近づいて容姿を確かめたいけど、もし雪ノ下さんにバレたら冷めた目で睨めつけられそうなのでやめて――なんか変な扉が開きそう。
私はここで風に乗って届く声に耳を傾けることにした。
「美味しい?」
「ああ。すげぇうまい」
「そう、良かった」
雪ノ下さんの横顔が目に入る。
今までに見た事のないぐらいの笑顔で、本当に隣の奴が彼氏なんだなと実感せざるを得ない。
噂を確信にした瞬間だった。
「ここの風、気持ち良いわね」
「だろ? 俺の一年の頃からのお気に入りの場所だからな」
「……ごめんなさい」
「おい今のは別に自虐ったわけじゃねぇぞ?」
「あらそうなの?」
微かに笑い声が聞こえてくる。
今の会話のどこに面白さがあったのかイマイチ伝わってこないが、きっと二人だけに分かり合える何かがあったのだろう。
そこでふと私は視界に捉えた。
雪ノ下さんたちより奥にいる人物がこちら側に手を振ってくる。
恐らく、その距離だと辛うじて私を視認出来ないだろうから座っている二人に向かって。
それに気づいた弁当を食べていた二人も手を振り返した。
で何を思ったのか雪ノ下さん、おもむろに玉子焼きをひとつつまみ、それを彼氏の口元へ近づける。
「はいあーん」
「あのちょっと? 今戸塚がこっち見てるんだけど?」
「ええそうね」
事もなげに雪ノ下さんは言う。
これはあれだ。雪ノ下さんなりのイタズラなのだろう。それを分かった上で、恐らく彼氏の方は乗っかっている。会った事もないのに何となくそう思った。
「戸塚くんに見られてると恥ずかしいの?」
「や、当たり前だろ。戸塚だぞ戸塚!」
「あなたのその戸塚くん好きはそろそろ矯正しないとダメなレベルね」
「安心しろ。お前は戸塚と同じぐらいに好きだから」
「そこは私が一番だと言って欲しいのだけれど」
「ばっかお前、照れだよ照れ。戸塚は友達として一番だけどお前は俺の好きになった人としてずっと一緒にいてくれなきゃ……こま、る」
「最後が減点対象だけれど良いわ。……ありがと、私も同じよ」
……なにこの甘々空間。
自分から近づいといてあれだけど軽く呪いたくなってきた。
雪ノ下さんってあんな表情豊かだったんだね。なんか新鮮。
きっとあれは彼しか引き出せない顔なのかもしれない。
まだ数分しか彼を観察していないけど、雪ノ下さんがどれだけ彼のことを好きかは伝わってきた。
「はいあーん」
「や、まだ続けるのかよ」
「ええ。だってもう戸塚くんも練習に戻ったもの」
奥を見れば確かにこちらに背を向けて素振りを始めていた。
戸塚くん練習熱心で感心感心。私も女子テニス部の部長として見習うべきかもしれない。
「今なら誰も見てないわよ」
「そう言う問題じゃなくてだな……」
「恥ずかしいとか言うのなら、さっきのあなたの発言の方が恥ずかしいのだから気にする必要ないわ」
「おまっ、勇気を出した発言を言うにこと書いて恥ずかしいって──」
「冗談よ。こうでも言わないとあなた食べてくれないじゃない」
「うぐっ」
雪ノ下さんの悲しげな声音に彼氏の喉が詰まった。私これ知ってる、泣き落としってやつだ!
あの雪ノ下さんが彼氏に対してここまでやるとは……恐るべし名も知らぬ彼氏よ。
「今なら誰も見てないわ」
「……分かったよ」
言って、彼は戸塚くんの方を一度向いてから雪ノ下さんが摘んでいる玉子焼きを口に入れた。
ただ、目測を誤ったのか雪ノ下さんの細くてきれいな指ごと口に入れやがったこいつ!
「んぐっ、わ、悪い!」
「ふふっ、なにが?」
あ、ちがう。これあれだ。雪ノ下さんの方がわざと突っ込んだんだ。
あの悪戯に成功したような笑顔可愛いなぁ。……じゃなくて。
「どっちがおいしい?」
「どっちって何をだよ。……や、"玉子焼き"は美味かった」
彼は恐らく頭が良いのだろう。雪ノ下さんの悪戯を瞬時に見抜いた上で玉子焼きを強調したはずだ。
しかし雪ノ下さんはそれの上を行くことを私は何となく察していた。
「じゃあ私の指は?」
「っ……⁉︎」
雪ノ下さんの直接的な発言に流石の彼氏も動揺を禁じ得ない。
彼氏の発言に要注目!
「えっと……、甘かった、です」
「……そう」
私は二人の空間が甘々だと思います!
そもそも誰も見てないって思ってるけど私見てるからね⁉︎ もう終始穴が空くほど見ちゃってるから!
多分バレたら雪ノ下さんに舞浜海岸辺りに沈められちゃうんだろうなぁ、と思います。
でも雪ノ下さんの記憶に残れるならそれもそれであり……や、無いな。記憶に残るなら友達としてが良い。
というわけでそろそろ時間も頃合いなので退散しましょうかね。
「そういえば比企谷くん。今日小町さんにお呼ばれしてるから、お家にお邪魔するわね」
「……えっなに? 俺聞いてないんだけど」
私も聞いてないんだけど。
ってか今なんて言った? 比企谷? 小町?
その二つを組み合わせたらもう私の知ってる名前だし、比企谷なんてそうそういるはずもない。
……つまり、雪ノ下さんの恋人は小町ちゃんのお兄さん?
「小町さんにおいしいクッキーの作り方を知りたいから教えてって頼まれたのよ」
「ほーん」
「時間的に遅くなれば泊まらせていただくかもしれないわ」
「ふーん。まあ良いんじゃねぇか? 小町が許可してるんなら」
ちょっと私の情報処理能力が追いつかない。
この二人ってもしかしてもうやることやってんの⁉︎ ……いやいやないない。あの雪の下さんに限って、……うん。
彼氏、比企谷くんのあーんでの照れ具合から考えればまだしてないでしょ、多分。
私はそう信じてる!
チャイムが鳴ってからだとあの二人に気付かれてしまうので、その前に抜き足差し足忍足で二人の近くから戦線離脱をする。
──噂以上の進展具合だったなぁ。
けど雪ノ下さんはすごく幸せそうだった。その彼氏の比企谷くんも……まあ結局顔は見えなかったけど楽しそうではあった。
「……彼氏かぁ」
誰かを好きになったことがない私にとってそれは未知の領域だけれど、いつか自分にも素敵な恋人ができたら良いなぁと思わせてくれる、雪ノ下さんと比企谷くんの昼休み風景であった。