クソデカ激重感情に気が付かない一般TS最強ロリ 作:れもんぷりん
たまに織り込まれるシリアス。
温度差で風邪を引いたところで初投稿です。
教室の扉が開けられた。
そうして現れる一人の少女。
「せんせー! ゴキブリはダメですよ〜!」
ふざけたセリフ。
おちゃらけた態度。
だが男は、御鏡タクヤは確かに見た。
少女の瞳と自分の視線がぶつかった瞬間、ゆっくりと顰められるのを。
氷の様に冷たい眼差し。
刃物より尚鋭い殺気。
御鏡は自分の体が勝手に臨戦態勢を取ったことを自覚した。
「逃げてツナちゃん!」
リカは必死に叫ぶ。
ツナナにだけは傷ついて欲しくなかった。
御鏡という男の心を読まずとも分かる。
彼は今、ツナナだけに集中していると。
「状況はよく分かんねえけど」
ツナナは深く腰を落とし、戦意を昂らせていく。
鋭く、鋭く、研ぎ澄まして。
教室の中にいる全員が息を呑んだ。
誰もがツナナに目を奪われていた。
「ナイフだ……」
誰かが言った。
それはその場にいる全員の代弁。
研ぎ澄まされて尖りきった戦意、息苦しくなるほどに振り撒かれた威圧。
それはいつしか、ツナナを刃物に錯覚させる程の“殺気”を生み出していた。
今の彼女に触れるなかれ。
それは即ち、死を意味することになる。
ツナナの周りは危険領域。
誰もが忘れかけていたその事実を再確認した。
「お前、リカちゃん泣かしてんじゃねーよ」
ツナナはバカだ。
これがついさっきまで妄想していた学校襲撃テロリストであることなんて思いもしないし、今でも全く状況が理解出来ていない。
だが、それでも分かることはある。
目の前の男は木洩日ツナナの親友である言葉リカを泣かせた。
それ以外に殺す理由が要るか?
「決めたぜ。お前は地獄行きだ」
戦いの火蓋を切ったのはツナナだった。
常人の目では捉えられない程の速さで繰り出された足がタイルを踏み締める。
同時に加速。
銃弾が当たらない様に小刻みに揺れ動き、的を絞らせない。
側から見れば、ツナナが突然御鏡の前に現れた様に見えただろう。
だがそれは御鏡の予想の範疇だった。
一目見た瞬間から、目の前の少女が“強い”ことなど分かっていた。
それほどに周りとは隔絶した何かを感じ取れたからだ。
間違いなく手強い。
そこらの有象無象ではない。
見た目は女子中学生だが、それで騙される奴なんてそれこそ三流だ。
御鏡は荒事が仕事。
戦闘経験も豊富だ。
繰り出される右腕の突きを体を捻って躱し、至近距離で銃を突きつけようとする。
どんなに強くても所詮は人間。銃弾が当たればこちらの勝ちなのだ。
だが、ツナナもそんなことは分かっている。
銃口を横から押して射線をズラし、更に肉薄。
お互いの距離がほとんどゼロになるまで近付いた。
そのままの勢いで鳩尾に左膝を食い込ませ、自分の体を押し上げる。
両手で相手の後頭部を掴み、引き寄せるのと同時に右膝を蹴り上げた。
「がはっ!」
勢いと力学、その全てが存分に利用された一撃は見た目以上の衝撃を御鏡に齎す。
鼻が裂け、視界が揺れた。
だがツナナの猛攻は止まらない。
御鏡の顔を足場にして飛び上がり、一回転。
天井を足場にして加速。
腰、肩、肘、扱える全ての骨と関節を掌握する。
廻す。廻す。力を廻す。
そうして繰り出される肘打ちは間違いなく人を殺しうる凶器と化していた。
ふらつく思考の中でも、流石にこの一撃を受ける訳にはいかないと考えた御鏡は、奥の手を切る事にした。
まさか学生相手にこれを使わされるとは。
驚きの中、御鏡は体の中に感じる不思議な熱を掴み取った。
そうして顕現する超常。
御鏡の姿が掻き消え、ツナナの後ろに現れる。
それは言葉リカと同じ枠組みにある力。
まさしく“異能”だった。
完全な不意打ち。
人間を相手にしていて、これに対応出来る筈がない。
御鏡は無防備に背中を晒すツナナに銃口を向けて……
「は?」
ツナナを見失った。
そうして顎に迸る痛み。
何のことはない。
消えたと錯覚するほどツナナが身を低くし、手を支えにして御鏡を蹴り上げただけだ。
それがあまりにも自然に、緩急を付けて行われたから分からなかっただけ。
幾ら異能があろうと関係無い。
御鏡タクヤ“程度”の異能者で勝てるほど、木洩日ツナナは甘くない。
たった二度の打撃、しかも中学生女子が放ったそれ。
それだけで御鏡タクヤはボロボロだった。
だが、まだ勝機は消えていない。
みたところ、目の前の少女には致命的な弱点がある。
それならばまだ勝ち目はある。
御鏡は傷だらけの顔で凄絶に笑んだ。
◆
心が冷え切っている。
何か、自分に異常があるんじゃないかと勘違いしてしまう程に。
考えるよりも前に体が動く。
自分がどう動けば良いのか、戦闘を掌握できるのか。
それが手に取るように分かる。
生物の先生が血を流しながら肩を押さえて気を失っていた。
クラスメイトの皆んながガタガタと震えていた。
何より、リカちゃんが泣いていた。
お前はもう赦さねえ。
死すら生温い地獄を刻み込んでやる。
肉薄と同時に勢いを利用して顔に膝蹴りを食い込ませる。
そのまま追撃に入ろうとしたが、消えた。
どういう原理かは分からないが、相手は不思議な力を使うらしい。
で?
それがどうした?
そんなチンケな力一つが何になる。
お前の未来は変わらない。
そもそも不思議な力を持つ奴なんてこちとら相手し慣れてんだよ。
今までとは違い、変則的に転移を織り交ぜた体術で相対してくる目の前の男。
笑えるね。
隙だらけ、死角だらけ。
殺して欲しいですってお願いしてんのか?
動き出しを一つ一つ丁寧に潰して、反撃を加えてやる。長らく使っていなかった戦闘時の思考が戻ってくるのが感じられて。
目の前の男が少しずつ顔を恐怖に歪めていくのが分かった。
懐かしいな、その怯え。
やり過ぎて、なんか変な異名で呼ばれたこともあったかな?
膂力、体力、耐久性。
基礎的な身体機能に関しては相手が完全に上回っているだろう。
不思議な力を扱えて、尚且つ銃まで持っている。
あぁ、弱いな。
なんて弱いんだ。
この程度で俺と戦おうなんて、無謀にも程があるだろう?
「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け、落ち着けよ、俺」
辛い。
目の前のノロマを殺せない事が辛い。
人参の皮を剥くより簡単に殺してやれるのに。
それをやったら俺は牢屋に一直線だ。
極限まで精神を研ぎ澄ます。
相手は今まで俺が戦ってきた中でマシな方であることは間違いない。
殺さずに無力化するとなると、集中しなければいけないだろう。
何とも厄介だが、これも仕方のない事だろう。
ヒーローはいつだって、法の内側で戦わなくちゃいけないんだからな。
俺の心の中にはいつだってハイパーマンがいたし、戦隊レッドがいたし、覆面ライダーがいた。
彼らは相手を殺さない。
それどころかやっつけた後、改心させることすらあった。
やっぱり凄い。
俺は中途半端だ。
完璧な美少女でもないし、彼らみたいな最高のヒーローでもない。
俺に出来ることなんて限られている。
助けられる範囲は短い手の内だけだし、一度戦い始めたら人格が入れ替わったみたいに殺しにひたむきになってしまう。
それでも。
それでも俺はヒーローに憧れたから。
泣いている親友の為だったら、なんだってしてみせる。
◆
御鏡はチャンスを伺っていた。
正直、まともに戦って勝ち目は無い。
目の前の少女は想定以上に強く、致命傷を防ぐのが精一杯。
まさか異能に対応されるとは思わなかった。
あれが破られたことなど初めてだ。
御鏡の異能は至極シンプルだ。
“鏡移”、鏡から鏡へと移動できる様にする力。
鏡と言っても、定義は中々に曖昧だ。
正確には“一定以上反射する”物質間の移動である。
それが目に見えない程の速さで行われる為、あたかも瞬間移動しているかの様に映っているのだが。
教室に移動するときは教卓の上にある没収されたスマホを媒体に転移した。
戦闘中は磨かれたタイルを媒体にしている。
つまり、御鏡は教室のどこにでも瞬間移動が出来る訳だ。
本来なら初見で対応出来る類の能力ではない。
背後への転移から銃で撃ち抜いて終わる筈だったのだ。
それを当然の様に躱され、全く驚かずに対処してきている目の前の少女がおかしいだけ。
御鏡からすれば何とも笑えない話である。
だが、勝機はあった。
悪の敵が取る戦略ランキング堂々の一位。
人質である。
ツナナの追撃が途切れた瞬間に転移。
教室の一番後ろで尻餅を搗いていたリカの真後ろに立った。
ここが周りに人のいない場所で、ツナナとタイマンで勝負していたなら。
万に一つも御鏡に勝ち筋など無かっただろう。
だが、ツナナは御鏡に感情を晒しすぎた。
ツナナがリカと呼ばれるこの少女を大切に思っていることなど誰にでも分かる。
充分に人質として機能する。
単体として最強の生物であるツナナのアキレス腱。
御鏡はリカの首を後ろから締め上げ、銃口をこめかみに当てた。
「動くなガキ! こいつがどうなっても良いのかぁ?」
「くっ!」
途端に青ざめて動きを止めるツナナを見て、御鏡はニンマリと笑った。
勝ちを確信したのだ。
幾ら強くとも所詮は子供。
人質を取れば御鏡の勝ちは揺るがない。
そう。
人質に取ったのがただの子供であれば。
リカはツナナの邪魔になるのが一番嫌だった。
御鏡という男の心を読めば、自分を人質に取る予定であることなど簡単に分かる。
どうしよう、と迷った。
正直怖い。
今でも銃口を向けられた時の恐怖は心の奥底にこびり付いているし、すぐにこの場から逃げ出したい。
だけど、逃げ出したら終わり。
御鏡が持つ転移の力ですぐに捕まって人質になるだけだ。
怖い。怖い。何もかもが怖い。
けれど、ツナナが傷つくのに比べればどれも怖く無かった。
体の底から溢れ出す恐怖を我慢することが出来た。
ツナナは自分にとって理想のヒーローで。
驚くほどに強かった。
だけど、リカはこの二ヶ月間ツナナと毎日一緒にいたのだ。
好きな食べ物が出るたびに満面の笑みを浮かべる。
ピーマンが嫌いで、でも子供っぽく思われたく無いから我慢して食べる。
そのくせ転んだらすぐに涙ぐむし、手を繋ぐと嬉しそうに顔を綻ばせる。
そこにいたのはどこまでも等身大の彼女で。
普通の女の子の姿だったのだ。
好きだなぁ、と思った。
別にツナちゃんがヒーローじゃなくたって、自分を守ってくれなくたって。
きっと私はツナちゃんの事を好きになる。
ツナちゃんといると何だか胸が温かくなって。
ずっとずっと、この時間が続いて欲しいと願う。
このまま動かなければ、きっとツナちゃんは殺される。
それも、自分のせいで。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
ツナちゃんのいない世界なんて耐えられない。
そんな世界に生きていくくらいなら!
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
怖い、怖いよ。怖いけど!
身に奔る恐怖を誤魔化す様に叫ぶ。
リカは頭を無茶苦茶に動かし、銃口を振り払った。
ツナちゃんを失う方が、ずっとずっと怖い!
作られた隙はほんの一瞬。
充分だ。
その一瞬が欲しかった!
ツナナは脳が体に掛けた枷を取っ払った。
体が壊れない様に保護する為のそれは、今のツナナにとっては邪魔でしか無かったのだ。
そうして加速。
今までの動きを遥か遠くまで置き去りにする速度で駆ける。
正しく神速。
文字通り瞬きする間に御鏡と距離を詰めたツナナは覚悟を決めた。
目の前の男を殺してしまうかもしれない。
だがそれがどうした? ここを逃せばもう二度とチャンスは来ないだろう。
親友が命懸けで手繰り寄せた勝利への糸口。
ならば、俺もそれに応える!
勢いを殺さぬまま御鏡の頭を掴み、後ろに設置されたロッカーに叩き付けた。
「がっ!」
血が溢れ、骨が軋む音がする。
それでも止まらない!
ぶつける。ぶつける。ぶつける!
何度も何度も、御鏡がピクリとすら動かなくなるまで!
気がつけば、御鏡は気を失っていた。
ツナナはようやっと気を緩め、リカの下へと走り寄る。
「り、り、リカちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
だらだらと涙を流して縋りつくツナナを優しく抱き止めるリカ。
ここに事件は終着したのだった。
殺してないから安心してください。
次からはまた百合百合ほのぼのします。