1911年アメリカ合衆国
グレートプレーンズ州、ビーチャーズ牧場にて。
この牧場で、とある1人の男の命が失われた。
男の名前はジョン・マーストン、このビーチャーズ牧場の牧場主であり、とある"ギャング団に所属していた過去を持った男だった。
ジョンのギャング団に属していた"過去"を当局に危険視され、愛する妻と息子を人質に取られた彼は妻子を解放する為に"かつての仲間達"の殺害を条件に彼等と取引をし、そして物の見事に仲間達を殺し、家族を解放した。
その後ひと時の家族の団欒を過ごしていたジョンだったが、州を跨いで多くの犯罪を起こしたギャング団の最後の1人である彼を合衆国政府がそのまま見過ごす筈も無く、政府は軍と当局を寄越し彼の牧場を襲撃した。
牧場を襲撃されたジョンは妻子を逃がす為に居候の"おじさん"と共に迎え撃つが、おじさんは殺され、愛する妻子を逃す事こそ出来たが自身は納屋に追い詰められ、自身の死を事を覚悟した彼は自ら納屋を出た。
そして待ち受けていた多くのアメリカ兵と当局の職員によって銃口を向けられた彼は、微かな抵抗しかできずに大量の銃弾をその身に浴びせられた事で死を迎えたのであった。
「......ここは......俺の牧場か?それに俺は死んだ筈だぞ......」
ジョン・マーストンは混乱していた、自分は先程“エドガー・ロス“率いる当局の職員達とアメリカ軍の兵士達に射殺された筈なのに何故か傷一つ付いていないし血に塗れてもいない。
そして今目の前には自分の牧場、ビーチャーズ・ホープが存在している。動物どころか人の気配も碌に無いこの牧場に、ジョンは微かな希望を込めて自分の"家"へと入った。
「ジャック!.......アビゲイル!......おじさん!」
ジョンは3人の名前を呼びながら家中を探し回った、夫婦の寝室、子供部屋、屋根裏部屋、自身が死んだ納屋を探したが遂に見つかる事は無かった。
「くそっ......」
玄関を開けて前の段差に腰掛けると、ジョンは悪態をつきながら途方にくれる。自分以外、家族も居なければ家畜もいない"我が家"
彼は自分が死ぬ時は必ず地獄に堕ちると思っていた、少なくとも天国に行ける様な人間では無いと自分でもそう思っているし、どんな罰を受ける覚悟もしていた。
そしていざ死ねば目の前にあるのは自分の見知った牧場と我が家、だがそこには自分の愛する家族も居なければ育てる家畜も馬も居ない。
ジョンは思った、これが自分への"罰"か、ギャングとして悪事に加担し、政府に捕まった家族の為に自分を裏切ったかつての仲間達を政府に売り、そして次々と手に掛けていった自分への。
"俺が死んだら、奴らは新しい怪物を見つけてくる、それが飯の種だからだ"
"俺には関係ない"
その時脳裏によぎったのはコネチイ山でのとある男との問答だった、家族との生活を取り戻す事に必死だったジョンは男の言葉に耳を貸さなかったが、今になって男の言った言葉の意味がわかった。
アメリカ政府はジョンを使ってかつての仲間を手に掛けさせる事で脅威を次々と排除させ、そして最後の1人を始末させた。
だが政府がそんなジョンを果たして"そのまま"にするだろうか?合衆国を震撼させたギャング団の最後の生き残りである彼を政府が放っておく訳も無く、軍と捜査官達を寄越して始末させた。
「奴ら、はなっから約束を守るつもりは無かった訳か......」
ジョンは何も無い空を見上げながらそう呟いた。
「ああ、そうだな、彼らは最初から約束を守るつもりはなかったよ」
「ッ⁉︎誰だッ!」
自分以外誰もいないこの場所で、突如背後から声を掛けられたジョンはホルスターから
銃を向けられた声の主は怯む事無く、玄関から一歩一歩ゆっくりと歩みながら彼の前に姿見せる。
「お前は......」
「"また会おう"と言ったろう?久しぶりだな、カウボーイ」
ジョンの目の前にいるのはシルクハットを被り、黒い服に身を包み古風なカイゼル髭を生やした"謎の男"だった。
「チッ......」
男を見たジョンの顔は不機嫌そのものになる、彼がこの男と会ったのはこれで"4"度目だ。1度目はシーヴス港、2度目はメキシコ、3度目は牧場を見下ろせる丘、そして......この自宅。
苛立って引き鉄を引いてやろうとしたが、3度目に会ってから銃撃した際に”何故"か1発も当たらなかった事を思い出し、止めた。
ジョンは銃をホルスターに収めると、謎の男と向き合う。
「で?何であんたが俺の家に居やがるんだ?」
「......」
ジョンは男に問いかけるが、男は何も返さない。暫くお互い"間"が空くものの、やがて男が彼に口を開いた。
「さてカウボーイ、いきなりで悪いが単刀直入に言おう、"取引"をしよう」
「"また"取引か」
ジョンは自嘲する様に鼻で笑うが、男は何も応じない。どうやら彼は取引以外何も話さない様だった。
「私の"古い知り合い"からのお願いでね、4人の男達が"何者"の手引きによってあの世から抜け出されてしまったらしい」
「4人の男?」
男が言った4人の男という言葉にジョンは首を傾げる、そんな彼を見ても男は表情を変えずに話を続ける。
「ああ、君の良く知ってる男達だよ......ビル・ウィリアムソン、ハビエル・エクスエラ、マイカ・ベル、そして......ダッチ・ファン・デル・リンデ」
4人の男の名前を聞いたジョンの顔は一気に険しくなる、それもそうだ。4人ともジョンにとってはかつての仲間であり、同時にこの手で始末した相手でもあったのだから。
「厄介なのを4人も脱走させやがって...番犬共は居眠りでもしてたのか?」
「言ったろう?手引きだと、我々以外の第三者があの世に介入してきた、そして彼等を脱走させたのだよ...まるで欲しい物だけを取る様にな」
男はジョンの皮肉をあっさりと流し、脱走の経緯を話す。
「そこでだカウボーイ、君にはこの4人を始末してあの世に連れ戻して欲しい、その対価として...君の愛する妻子を蘇生させて、一家仲良く平穏な場所で暮らさせてやろう。捜査官や政府に脅かされない場所にな」
男の言葉にジョンは一瞬、顔色を変えたが直ぐに戻る、かつての彼なら男の言葉を素直に信じただろうが、信じて殺された今のジョンからしてみれば何一つ信用が出来なかった。
「ああ、安心するといい...私はあの捜査官達の様に契約を反故にする事はしない、彼等を始末するのは"君達"が相応しいと知り合いが言っているからな」
「君達?」
「君の他に後"2人"程あの世から蘇生させる手筈だ、なに心配するな何方も君にとっては知り合いで、何より心強い味方になるだろうよ」
男は生気を感じさせない笑みでジョンにそう言うが、肝心な彼からして見ればあまり心当たりが無かった、心強い味方といっても碌に検討がつかない。
「ああそれと、4人が行った世界には十数人の少年少女達が召喚された様だ、知り合いは"出来れば"助けて欲しいと言っているよ」
「注文追加ってか?」
急に追加された依頼にジョンは皮肉を吐くが、男は特に気にも留めない様子だったので深くため息を吐く。
「チッ......分かった、連中は始末してやるよ。ガキ共も"出来れば“助けてやる」
「それは有難い限りだ、では早速送るとしよう。ああそれと安心したまえ、君の使った武器も"使えなかった武器"も全部送ってやる」
「送る?そりゃどうやって」
男が指を鳴らすと、ビーチャーズ牧場からジョン・マーストンの姿は跡形も無く消え去った。男はそれを見届けると、玄関に置いてあった椅子に腰掛けて呟く。
「感謝しろよカウボーイ、メキシコでのシスターとの一件や君の積んだ善行から、特別に恩赦をくれたんだ。この恩赦、無駄にはするなよ......」
「おおッ!勇者様がもう1人召喚されたぞ!」
(なんだ......?)
男によって失わされた意識を、耳につんざく様な声を聞く事でジョンは回復させる。
どうやら転送の際に倒れていたらしく、ジョンは起き上がると周囲を見渡す。
周囲にはサンドニの劇場やジャックの見ていた本に出てきそうな中世ヨーロッパの司教帽を被った者達と
ズボンとスカートを履いて似た様な服装をした少年少女達が驚いた様子でこちらを見ていた。
(あれが例のガキ共か、ジャックと同い年ぐらいか?)
ジョンはとりあえず近場にいた中でも位の高そうな司教帽を被った老人に話かける。
「なぁアンタ、ここは一体......」
「さぁ勇者様方!こちらへ来てください!先ずは王宮へご案内致します!」
「あっ、オイッ!」
話を遮られ、半ば無理矢理にジョンは少年少女達と一緒に連れられていった、途中に動く足場に驚きながらも。
(ったく、なんなんだ此処は......)
道中でジョンは驚くばかりだった。動く足場もそうだが、何より自分が見る景色に驚いていたのだ。
ジャックが読み聞かせていた本に出て来そうな鎧を纏った古めかしい姿の騎士達やサンドニの上流階級の人間達の様な上等な衣服を身に纏う者達、そして女の給仕達といった
1910年代のアメリカ、ましてやまだ発展途中だったブラックウォーターの町でも中々見ない光景にただ圧倒されるばかりだった。
今のジョンは食堂の様な場所で少年少女達から離れた場所に座っている、理由としては少し気まずかったからだ。現に
「なにあの人、カウボーイ?」
「結構渋くてイケてない?天之河くんとはまた違った魅力あるよね〜」
「ハリウッドの役者かな?すげぇリアルだよな」
先程から此方をチラ見しながらそんな声がヒソヒソ聞こえて来るのだから、近場に居なくて正解だろう。
しかしそんな声を聞きながら、ジョンはある事に気が付いた。
(ん?......ちょっと待て、アイツら英語話してんのか?)
そう思って彼らの顔を見る、顔立ちからして少なくともアメリカ人では無い事は分かる。
そうしていると少年少女達の中から一際背の低いピンクのジャケットを着た少女がこちらに向かってきた。
「ハ、ハロー」
ぎこちない笑みとやや拙い発音で此方に挨拶をした少女にジョンはしゃがれた声で挨拶を返す
「やぁお嬢ちゃん、俺に何か用か?」
挨拶を返したジョンに驚いたのか、少女は目を丸くする。
「え......ッ!?に、日本語......ッ!?あっ、あの〜これってドッキリですよね?そろそろネタバラシをお願いしたいんですけどぉ......」
「ニホンゴ?俺の言ってる言葉は"英語"だぞお嬢ちゃん。それとなんだその"ドッキリ"ってのは」
ジョンは少女の言ってる事の意味が分からなかった、ニホンゴという言葉もドッキリという言葉も分からない。ただ分かるのは、目の前の少女がかなり狼狽えているという事だけだ。
「えっ、えッ⁉︎じょ、冗談ですよね⁉︎何処かにテレビ局のクルーとかが隠れてるんですよね⁉︎ねッ⁉︎」
急にうるさく騒ぎ出した彼女にジョンは顔を顰めながらこう返す。
「ったく、騒ぐなよ急に......俺はウソなんか言っちゃいないさ、それにテレビキョクのクルーってなんだ?アメリカ政府の連中か何かか?」
そう言ったジョンに、少女は絶句した様子で固まると、そこからカタカタと震えながら再び彼に話かける。
「失礼ながらその......差し支えなければ、貴方のお名前と生年月日、今が何年かを教えて頂いてもよろしいでしょうか......?
急にそんな事を聞く彼女に対し、ジョンは不思議そうな顔をしながらこう返す。
「名前はジョン・マーストンだ、1873年生まれ、歳は38歳。今は......1911年だろ?」
「えええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜ッッッッッッ!!?」
食堂に少女の絶叫が響いた。
ハジメくんにデッドアイ覚えさせて強壮剤ガブ飲みさせまくって強化させてみよう!