キングヘイロー、好きだ...

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キングヘイロー、好きだ...


泥濘に咲くエメラルド

 最初の冠を手にするのは私だと思っていた。

 

「クラシック三冠、最初の冠を手にしたのは――――――」

 

 ウィナーサークルで私が一流だと証明して、お母様に認めさせてやるってトレーナーと約束したのに。

 

「セイウンスカイ!逃げたキングヘイローを捉え、迫るスペシャルウィークの猛追を振り切った!!」

 

 この様はなんだ。慣れない逃げで、同期に翻弄されて。

 

「強力な同期のなかで強さを示しました、セイウンスカイ!」

 

―――――気高き王(キングヘイロー)は敗北を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 敗北から約1週間。私は自主トレに明け暮れていた。トレーナーには、

 

「オーバーワークにならないようにね?」

 

と一応の黙認は貰っているカタチだ。

 

 無論今回の自主トレはダービーにむけて自分を追い込むのが大きな目的ではあるが、もう一つトレーナーにも伝えてない理由があった。

 それはあの日(皐月賞)の日、お母様から掛かってきた電話。

 

――――私はまだ何も掴めてはいないのに。ここが、私の限界点?

 

 スカイさんに負けた―――それ以前に同じ舞台に立てていたのかも怪しいけれど―――あの日以来、そんなことばかりを考えてしまう。

 

 そんなことはないと自分に言い聞かせてはいるけど、それでも同室のウララさんに心配されるくらいには表に出ているようだった。

 

 トレーニングをしている間はそのことを忘れられるから、トレーナーに頼み込んで自主トレの時間を作ってもらっているのだが、今日は観客がいるようだった。

 

「スカイさん。何か言いたいことがあるなら早く出てきなさい、私もそんなに暇じゃないのよ」

 

(って私のおたんこにんじん!どうしてスカイさんに当たっているのよ!)

 

「にゃはは、これはこれは手厳しいねキング」

 

 ヒョコッとコースの脇からスカイさんが出てきた。そして私が自分の発言を後悔している暇もなくニヤニヤと面白がっていたスカイさんの顔が真剣な表情になって話を切り出してきた。

 

「今日来たのはね。最近のキングちゃんの様子がらしくないから何かあったのかなって気になったんだよねえ」

 

 …、返す言葉もない。そう思った私は今日の自主トレを終えることにした。

 

「そうね、私も最近練習に力を入れすぎていたわ。ありがとうねスカイさん」

 

 トレーニングを切り上げて、シャワーを浴びに行った私の耳にはその後のスカイさんのつぶやきは聞こえなかった。

 

「今のキング、自分で自分のことを傷つけてるようにしか見えないよ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーから急に練習が休みだと告げられた。自主トレも禁止らしく、皐月賞前から数えても久しぶりの休みとなった。

 休みといっても特にすることも思いつかなかったので図書館で自習でもしようと思っていたのだが、寮を出たところでスカイさんに捕まった。

 

「キング~、今時間ある~?」

 

「見ての通り、自習しようと思っていただけだから空いてはいるわよ」

 

「おお~、それはよかった。ならセイちゃんについてきて~♪」

 

「ああっちょっとスカイさん?!ちょっと待ってってば、私を置いていかないでちょうだい!」

 

 予定が空いていると聞くやいなやずんずんと進み出したスカイさんを追いかけて、たどり着いたのはトレーナー棟だった。

 

「ほらほらキング~、こっちだよ」

 

 何やら楽しげな彼女についていってたどり着いたのは見覚えのある扉の前だった。

 

「どうしてスカイさんが私のトレーナーのトレーナー室に用があるのよ?」

 

「まあまあ、細かいことは気にせずに~。ささっ、中に入って入って」

「わわっ、危ないじゃない!スカ、イさん…?」

 

 扉をガラッと開けた彼女に押し込まれるようにしてトレーナー室に入った私が見たのは、“お誕生日おめでとう!キングヘイロー!”の文字とクラッカーを持った皆の姿だった。

 

「「「キング(ちゃん)、お誕生日おめでとう!」」」

 

 そうだ、忘れていた。今日が誕生日だったこと。反応を示さない私を見て不安そうな顔をしているトレーナーと皆の姿を見て、私は自分の視野がここまで狭くなっていたことにようやく気付いた。

 

「“キングちゃんのことが心配なんだ”ってスカイちゃんが言ってたので、キングちゃんのトレーナーさんとお誕生日パーティーを開こうって話になったんですよ!」

 

「ちょっとちょっとスペちゃん、そこまで言わないでよ~もう」

 

 “いやー本人にバレるなんて、一番恥ずかしいよヤダヤダ”なんてうそぶくスカイさんが、後ろから小声で話しかけてきた。

 

皐月賞(あの日)からキングの様子が変だったからさ、皆でぱーっと楽しんだら楽になるかなって」

 

 ニコニコと近づいた彼女は、“それにさ”と続けて

 

「本調子じゃないライバルに勝っても、あんまり気分よくないでしょ?楽に勝てるぶんにはいいけどね~?」

 

 なんてニヤリと笑った。

 

 …本当に人を焚きつけるのが上手い。だって、この心はこんなにも滾っているのだから。

 

「?どうしたの、キング?っあ、何かマズいことでもあった?!」

 

 なにやら慌てだしたトレーナー。どうやら私が不満そうに見えたらしい。

 

「何も心配しなくていいわトレーナー。だってこんな最高のパーティー、私初めてだわ」

 

 お母様の言葉はまだ私の心を縛っているけれど、こんな最高の友達(ライバル)と共に支えてくれる一流のトレーナーがいれば、この先に待つどんな壁だって越えて行けそうだ。

 

 笑顔で私を迎える皆に向かって歩き出す。

 

―――――そんな彼女たちに誓いを立てるために私はこう言うのよ。

 

「おーっほっほっほ、この私がキングヘイローよ!あなたたちに私の誕生日をお祝いする権利をあげるわ!」




なんとビックリなんですが、彼女と私誕生日が一緒なんですよね。押しと一緒に迎える誕生日ってこんなにも清々しいんですね。




…まあこのあと一時まで僕は夜勤なんですが。

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