『…軌道衛星上にいた火星騎士の楊陸城が、一斉に降下し始めました…!』
「姫の暗殺に嬉々として領土拡大を始めようと言ったところか…。 」
予測通りの結果に、フロンタルは落ち着いて思考を回す。
とはいえ大義名分ができてしまった今、確実に戦争は始まるだろう。
この争いを止めるには、やはり姫を見つけ出す他にないだろう。
「…降下が始まったとはいえ、我々のやることは二つだ。主犯を見つけることと、姫を捜索する事。 私からの命令は変わらない。」
『了解しました、 こちらでは引き続き情報収集を行なっておきます。』
「ああ、頼んだ。」
フロンタルは通信を切断し、レーダー状況を確認する。
「…ん? この信号は…トリルラン卿の?」
フロンタルはマップを起動し、レーダー情報とすり合わせる。
すると、この車両がトリルラン卿と合流しようとしているように見えた。
「…少なくとも、この二つを合流させてはいけないだろうな。」
気のせいだといいが、と呟きつつ、フロンタルは機体のスラスターを最大限使い、この二つが合流しようとしているポイント…橋の方へと向かった。
♢
『トリルラン卿! お待ち申し上げておりました!』
「うむ、大役ご苦労であった。」
橋に立つ五人の人影。 彼らは今回の暗殺を実行した、火星側のスパイであった。
そして彼らと話すのは帝国騎士の一人であるトリルランという男。
トリルランは、自らが配下として仕えているザーツバルムという男の意向を汲み、この下にいる五人を使い暗殺を実行。
そして今、この五人を始末して証拠を消そうとしていた。
「フッ、所詮は醜いネズミ。利用されていることすら気づかないとはな。」
トリルランはそう呟き、自らの愛機であるニロケラスの特徴的な装備である次元バリアを起動する。
この次元バリアは、3次元空間に多次元への変換空間を発生させる装置であり、触れたものを全て無に返す、防御特化の装置だ。
敵の銃弾はもちろん、レーザーなども全て吸収してしまう。 …そしてそんなバリアを人に当てたらどうなるのか。
トリルランはそのバリアをまとったニロケラスの拳を、下にいる五人に向かって叩きつけようとした。
その時だった。
『トリルラン卿。 彼らは今回の事件の主犯だ、そう簡単に始末してもらっては困る。』
「っ!?」
トリルランが振り向くと、そこには緑のモノアイを光らせる真紅の機体が居た。
『MSN-06S シナンジュ』。 火星騎士の中でもトップクラスの実力を誇り、その実力のみで親衛隊隊長の座を得た男の機体だった。
トリルランの予想では、そもそもあの機体がここに現れるはずがなかった。
「…なぜあなたがここに? それにシナンジュまで。 …皇女殿下はそれを用いることをあまり好まないと思うのですが?」
そう、この真紅の機体を駆る男、フル・フロンタルが使える主人、第1皇女であるアセイラム・ヴァース・アリューシアは武力を用いることをよしとしない。
故に彼女が地球降下の護衛にカタフラクトを使わせるわけがないと踏んでいたのだ。
『これを持ち込んだのは私の独断だ。 敵地に生身で突入させるほど私は楽観主義者ではない。…それに、今こうして役に立っているだろう?」
そういうとフロンタルは、シナンジュに備え付けられている武装の一つ、ビームサーベルを抜き、トリルランに向けながら言う。
『貴官は彼らと何を話していた?...なぜすぐに実行犯を始末せずに悠長に話していた?』
「っ… 彼らは実行犯ではありません、地球に降下していた私の部下を…」
「苦しい言い訳だ、トリルラン卿。 私が何の根拠もなく犯人と決めつけるわけがないだろう?」
その言葉と共に、橋の周囲に複数のカタフラクト反応が出現する。
その全てが、親衛隊カタフラクトである『ギラ・ズール』のものだった。
『監視カメラの映像などを確認した結果、彼らが今回の事件の主犯であるのははっきりしている。*1そしてそんな彼らを追跡した結果、我々は今ここであなたと会っていると言う訳だ。』
「なっ! ……貴様らのせいかネズミども!」
『ネズミ。 到底部下に向ける言葉ではないだろう。 …しかし残念だ、トリルラン卿。君はクルーテオに使えていた食客だったはず。友人の部下を殺すというのは良いものではないが。』
シナンジュはビームサーベルを起動し、スラスターを使って凄まじい速度でニロケラスに向かって行く。
『裏切り者はこの場で始末するしかあるまい…!』
「ぐううっ、ネズミどもめ…!」
トリルラン卿が、せめてネズミは始末しようと橋を見る。
が、すでにそこに彼らの姿はなかった。
「ど、どこに行った…!」
『無駄だ、トリルラン卿。 彼らはすでに我々が確保した。』
「はぁ…!?」
上空のUAVを使って*2周囲を確認すると、確かに人を運んでいくギラズールの姿が見えた。
『最も、娘の方はすでに逃げたが。 …どうやら彼らにとっては私も君も変わらないらしい、不愉快だがね…っ!』
「チィっ!」
バリアの穴を狙ってくるシナンジュの攻撃を掻い潜り、何とか受け流す。
『…やはりニロケラスの弱点は狙いづらいな。…っ!?』
シナンジュが追撃を仕掛けようとした時、シナンジュの背後から射撃が飛んでくる。
しかし実弾のようでニロケラスには全く影響がなかった。
「なんだ…?」
トリルランがUAVで確認すると、それは地球側のカタフラクトらしかった。いつの間にか到着していたらしい。
『流石に数が多いか。 …トリルラン卿。 君は必ず私が殺す。』
そう言ってシナンジュはその場から飛び去っていった。
シナンジュのコンセプトは高軌道型であり、その欠点として装甲は脆い。故にフロンタルはニロケラスと地球軍の相手を同時にすることは不可能と判断した。
しかしトリルランはそんな意図に気づくことはなかった。
「フ、フフフ……フハハハハハ! 所詮は地球に毒された愚かな騎士か! 我がニロケラスの鉄壁の防御に恐れをなしたようだなぁ!」
とりあえず脅威は去ったが、しかし彼の目的であった"ネズミ退治"は現状不可能となってしまっていた。
だがしかし、と彼は本来の主人が言っていたことを思い出す。
「ふむ…だが確か通信はザーツバルム様の手のものがすでに潰していたはず…。」
そう、月の通信中継場はすでにザーツバルムの手の内にあり、故に皇女派が地球から火星に直接通信することは不可能となっていた。
ならばたとえネズミが捕まっていたところで皇帝に直訴するなど不可能なのではないか。 トリルランは、そう考えた。
「…ならばネズミ退治さえ必要ないではないか! 無駄骨だったなぁフロンタル! ハハハハハハハ!」
完全に自分にとっての脅威がさったトリルランは、改めて周囲を見渡す。 そこには射撃を続ける地球のカタフラクト以外何もいなかった。
「ふん、時間を与えてやっていたというのに…愚かな。 …仕方がない、我がニロケラスで貴様らを蹂躙してやろうではないか、地球人。」
そう呟き、トリルランは未だ射撃を続ける地球軍に向かっていった。
トリルラン卿、書いててクッソ楽しかった。 ああいうやられて嬉しいやられ役なんてあんまり書く機会ないんですよね。 あとCV櫻井さんってそんな贅沢に声優使っていいんか。