それでは第2話よろしくお願いします!
カンカンカン!カンカンカン!!
「みんな起きてくれ!九時の方向から何かが猛スピードで迫ってきてる!」
まだ夜が明けるには少し早い頃。見張り番が警鐘を鳴らして船の乗組員を叩き起こしていく。
「なんだ?敵船か?海獣か?」
船の中で一番豪華な服を着た男が起きてきて、見張りをしていた男に尋ねた。
それに見張りの男は月明かりを頼りに双眼鏡で目標を覗き込みながら答える。
「船長!まだわかりません。何かが水飛沫を猛烈に飛ばしながらどんどん近づいているのは確かなのですが…ってあれは、ヒト⁉︎バタフライです!誰かがバタフライで急接近中!!」
「おいおいおい、ここは新世界の海だぞ?人が泳げるわけねぇだろっ!ふざけるのも大概にしねぇか!ちょっとそれ貸せ!!」
今は比較的穏やかな波をしているとはいえ、すぐに気候が荒れ狂い始めることで有名な「新世界」。そこを人が泳いでいるなどと意味のわからないことを報告する見張りにキレる船長。
「新世界」では、そんな冗談を言うような甘ったれた気持ちが通用しないことを身体全部で体感し、もう「楽園」に戻ろうかと迷っていたその時分にこの狂言。船長が憤ってしまうのも
無理はないだろう。
そして双眼鏡を覗いた先には確かに人がいた。本当にバタフライでけたたましい量の水を掻き分け、こちらに接近している。体つきからして、おそらく男だ。人が本当に「新世界」を泳いでいる。もう肉眼でも男を認識できるくらいの距離まで近づいて来ており、他の船員も皆この状況を理解できないようで、呆然と迫りくる男を見ていた。
すると、その男の元から声が聞こえる。
「おーい!ちょっと乗せてくれ!!もうそろ体力が切れる!助けてくれ!」
「ヒィイ!!せ、船長!あいつ、なんか言ってますよ!ど、どうしますか!?」
「おいおいおい、俺は夢でも見てるってのか!?おい、ちょっとつねってくれ。って痛ってて。
夢じゃねぇ。じゃあ、ほんとにあいつは泳いでんのか!
こうしちゃいられねぇ!早く助けてやれ!ロープだロープ!それに何か温かいもんでも用意してやれ!タオルもだ!」
「「は、はい!」」
船長の声で我に帰り、船員たちは各々指示に従っていく。
「でも、大丈夫ですかね?襲われたりしないですか?」
不安げな様子で残った見張り番の男は船長に尋ね、船長にボカッとどつかれる。
「お前は何を言ってんだ!救命信号ならまだしも、本人が目の前にいるんだぞ!海では助け合いが基本!バカ言ってんじゃねぇ!」
「す、すいません…」
「船長!準備が整いました!ロープです。」
「ありがとう。おーい!まだ大丈夫か?ロープ投げるぞ?」
そう言って船長はロープをもう船のすぐまで辿り着いた男の元へ投げこむ
「すまねぇ!恩に着る!!」
===========================================
船の甲番に上がりタオルに包まった男の息が整ってきた頃、暖かいスープをのんで一息ついた男がようやく口を開く。
「いやーあんた達のおかげで助かったぜ!本当にありがとうな!もうなんて礼をすればいいやら。」
「おい、そんなこと気にすんじゃねぇよ!それにしてもすげぇなお前!最初はマジでビビったぞ!こんな所で泳いでるなんてよ!
俺はアナグマ海賊団の船長、アナグマだ!こいつらとこの船で海賊やってんだ。お前は?見た所海賊っぽいが?」
「先に名乗らせちまって悪いな。俺はマックス。昨日から海賊をやってる!」
「マックスか、いい名前だな。それにしても昨日から海賊、新世界育ちか。それで、なんで泳いでたんだ?言いづらかったなら別に、答えなくていいんだがよ。」
お互い自己紹介をすまし、アナグマはずっと聞きたかった疑問を口に出す。海賊になって早々仲間から海に落とされたり、全滅したりと、色々と聞きづらい事情を一応考慮してはいるが、船員も含めて皆、早く聞かせろとばかりに身を乗り出している。悪い者たちでないなのは確かだが、遠慮を知らないらしい。
「ちょっと長いかもしれないが、聞いてくれるか?」
マックスは自信満々と言ったような笑みを浮かべながらこれまでの経緯を意気揚々と語り出す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
話はマックスがアクサーとの別れてすぐの時まで遡る。
「今日は本当に良い船出日和だ!なぁ、ピーちゃん!」
『イイテンキ!』
呑気に天気の話をしながら、マックスはオールを漕ぐ手を止めて、イカダに背中を預ける。そしてまだ海賊旗のついていない真っ白な帆、それを掲げたマストの上から進行方向へと警戒をつづけるピーちゃんと会話を続ける。
「カームベルトって海に出てもほんとに風も波もないんだな〜。あとどれくらい続くんだ?ちょっと見て来てくれよ。」
『ピーチャン、イッテクル!』
「でかい鳥に気をつけろよー!
さーて、ピーちゃんが帰って来るまでちょっと寝るか。」
船出の準備や期待感で昨日から一睡もしていないマックスには、天候面だけで見ればこの世界でも有数の安全地帯がなぜこんなにも閑散としているかが全く頭から抜け落ちていた。
「うぉおお!!あれ?」
突然の浮遊感に身体を起こし周りを見てみると、明らかに先ほどと目線の高さが違う。そして、目線が合う。巨大な目だ。目玉だけでも俺よりでかい。俺を縦に二人分以上はある。
ぬぼーっとした巨大な目がずっとこちらを覗いている。どうやら海王類の鼻?に乗っかっているらしい。しばらく目線を合わし続けると、何を考えているか皆目検討のつかない目線に耐えかねて、口を開く。
「いやー、その、なんでしょう、海に下ろしてくれないかなーなんて思ったりしていまして。」
意思の疎通が取れているのだろうか、海王類は海面から伸ばしていた首を窄める。これで一安心と思った刹那、
GYAAAAAAA!!
首を大きく振りながら海王類が叫ぶ。
首を窄めていたのはイカダを降ろそうとしていたのではなく単に叫びの溜めを作っていただけらしい。俺は咄嗟にイカダを蹴り、海王類の頭頂部へと飛ぶ。ギリギリで海に落ちるのを免れた。下を覗くと海に打ち付けられた、徹夜で作ったイカダはバラバラになっており、もう修復不可能だ。沈んでいく白い帆が哀愁を漂わせる。材料集めを含めて5時間の努力が水の泡だ。
「おい!下から出たら良い気になりやがって!!覚悟しろよ!」
拳に力を溜め、腰を落として身体をのけぞらせながら左足を振り上げる。そして右足に移った全体重を乗せた拳を真下、海王類の頭頂部目掛けて一閃。
『ハンマージョルト!!』
大槌のように硬く大きく込められた力は海王類の頭を打つ。海王類はその衝撃に耐えられず意識を失い沈んでいく。
拳を振り抜いた衝撃で自分自身の身体も宙に浮き、タッと海面に横たわる海王類の腹に着地する。
「イカダ、壊れちまったな。どうしよ。まじで。とりあえず、ピーちゃん帰ってくるまで寝よ。」
『マックス、オキロ!オキロ!』
先行して海の様子を探ってきたピーちゃんが帰ってきた。ちょこんといびきをかいて眠るマックスの隣に着地する。
「ん…?おはよ。ピーちゃん、帰ってきたか。どうだった?結構かかりそう?」
『フネハ!?コノデカイノハナンダ!?』
「あー、寝てたらこのデカイのにぶっ壊されちまってな。んで、気絶させた。結構強くいっちゃったからまだ起きないと思うけど。早く移動した方が良いかも。」
『マックスツヨイ!デモ、フネドウスル?イッカイカエルカ?』
「まだ船出から半日も経ってないんだぞ?帰れるか。俺は泳いでもいくぞ。」
『オヨギナライチニチクライカカルゾ?』
「まあ、いけるだろ。カームベルトを抜けたら普通の船もいるだろうしな。乗せてもらうか奪うかしようぜ。海賊らしくな!泳いでる間は休んでていいぜ。ポケットに入っとけよ。」
『ジャアタノンダゾ。ガンバレヨ。コノマママッスグデイイ。』
そう言ってピーちゃんはオウムの意匠のログポースに姿を変える。出港したのは早朝なのにもう太陽は真上に来ているので、ずっと飛んでいたピーちゃんはすっかり疲れていたらしい。ログポースになったピーちゃんに一言ねぎらいの言葉をかけ、ポケットにしまう。このまま真っ直ぐか。急ごう。早くしないと食料も水もない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「てなわけよ!で、こいつがピーちゃんだ!」
話し終えたマックスはポケットからオウムの意匠のログポースを取り出す。すると、それはたちまち姿を変えていく。
『ピーチャンダ!』
オウムになった。
「「おお!」」
ピーちゃんの変身と登場にアナグマ海賊団達は歓声をあげる。そして、注目は再びマックスへと向かう。
「いや、海王類を倒しちまうとはおったまげたぜ。それを海賊初めて二日目のルーキーがよ!お前が泳いで来るのをこの目で見てなきゃ信じられなかったぜ!」
「まあな、俺はこれまでずっと島で鍛えてたからな。で、ちょっと相談なんだけどよ、次の島まで乗せてくれないか?今はなんも払えるモン無いから宝払いになっちまうけど。」
「細かいことをいちいち気にしてんじゃねぇよ。お前も海賊ならこの船を奪うってくらいの気概を見せなきゃこれから先、四皇にでも出くわしたら生きて帰れねぇぞ?それにお前を助けた時からそんくらいはすることは決めてたよ。遠慮せず乗ってけ。お前らも良いよな?」
「「もちろんだ!歓迎するぜ!!」」
「ありがとう。お世話になります。」
『ヨロシクナ!』
「よーし、じゃあ、宴でも開くか!!お前ら酒持ってこーい!!」
「「うぉおおおおお!宴だー!!!」」
斯くして、マックスは次の島までアナグマ海賊団の世話になることが決まった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
お気に入りや感想、評価などが執筆の励みになりますので、応援よろしくお願いします!