張り詰めていた息を解いて、一人の青年が小さく笑った。
──見つけた。ついに。
自らの『アトリエ』の中で、彼は一人、笑みを浮かべていた。目の前にあるのは十を超えるモニタ。その画面の向こうでは、赤い髪の男が穏やかな笑みで誰かと話していた。否、一枚だけではない。眼前にある全てのモニタに、その男の姿が時間と状況を変えて映し出されている。
これはまだ、取っ掛りに過ぎない。それでも、一歩踏み出す為には十分である。
世界を正しき形で導くための第一歩が、彼を見つけることだった。この男こそが、今ある世界のカタチを破壊することに最も適しているから。
歓喜の声を抑えた青年は立ち上がり、出入口のパネルを操作する。その先に続く廊下を抜けて、向こうへと一歩踏み出した。
そこに置かれているのは、二つの影であった。
黒を基調とした二つの人型。片方は分厚い大剣を、もう片方はロングバレルの銃を装備している、モビルスーツ。否──特徴的な顔をしたそのモビルスーツは、ただの機動兵器ではない。
ガンダム。
五年前、世界を震撼させたその名を、知らぬ者などいないだろう。
(……僕は、貴方のために)
青年の瞳がごくわずか、誰にも分からないほどのゆらめきで以て感情を表出させる。
「いいや、大丈夫だ。……きっと、やれる」
彼が目指した世界のために。
きゅっと唇を引き結んだ瞬間、彼の立つキャットウォークを轟音と衝撃が襲った。ドアが破壊され、一人の男が歩いてくる。
ふわふわと流れる栗色の髪に、不気味さを感じられる漆黒の仮面から覗く青い瞳。普通であれば必要のないはずの全身をぴったりと覆う黒い服──いや、パイロットスーツを纏った影が、拳銃を構えて言った。
「アッシュ・グレイですね? ──動かないでください」
鼓膜を震わせる、涼やかな声。
彼の名を、青年は知らない。だが、その正体は自らと同一であると知っている。
イノベイド。
イオリア・シュヘンベルグの計画を完遂するため、人類を変革に導くために作られた、生体端末。
人間を観察・評価するための『目』であり、計画の邪魔をするものを排除する『
それに狙われているということは、自らが計画の障害となった事を意味しているのだが。
しかし──銃口を向けられ、為す術もないはずの青年が浮かべたのは、諦めの表情ではなく。
「はっ」
余裕さえ感じさせる、ふてぶてしい笑みだった。
「洒落臭いな」
金色に輝く双眸が、男を睥睨する。
そうして、アッシュ・グレイと呼ばれた彼は、この世界を『正史』に戻す計画の幕を上げた。