便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
こちら、FAとして頂いた絵からインスピレーションを受けた話です。タイトル通りの平和。
「『先生』仕事で近くに来たからついでに立ち寄っ……む?随分と顔色が悪いな」
“あはは……ちょっと無理をし過ぎたみたい”
そう思うのなら私を目の前にしても動かしている手を止めたまえ『先生』……まぁ、彼は何を言っても大人しくする選択肢を持たないだろうからこうするのが得策か。
“わっ!?”
「ふむ……熱もある様だな。このまま休憩室のベットまで運ぶから暴れるなよ」
“ま、待ってセラ。この形は少し恥ずかしいというかなんというか”
「ククッ、満足に動けないのだろうから仕方があるまい。恨むのなら己の管理不足を恨みたまえ」
そもそもヘイローを持たず、生徒に比べれば弱い身体なのだからお姫様抱っこの形で運ばれても抵抗する術を貴方は持たないだろう?
そう微笑みかけてみれば、うぐっと喉を詰まらせる『先生』の姿が面白くこれをネタに当分、揶揄ってやろうという思いが芽生えたがこの場は我慢して『先生』をベットへと送り届け寝かせる。
「失礼する」
“わわっ!?”
上着を剥ぎ取りネクタイを取って、襟元を緩めてからズボンのベルトを引き抜き身体の縛りを楽させる。
本当はもっと緩い服装に着替えさせたいが、今の状態の『先生』を私一人で着替えさせるのは少々、手間だし他の生徒を呼べば『先生』は見栄を張るだろうから今はこれが限度だな。
“セラ……私は……”
「起き上がるなよ『先生』、君が許可されていることは大人しく眠る事と水分と軽い食事を摂る事だけだ。それ以外は認めん」
“……過保護だね”
「大人と言えど、体調不良の時は甘えたまえ。君はそれ以上に頑張っているのだから」
普段の『先生』の仕事量から考えて、むしろ今日の様に体調を崩さない方が不思議と言えるのだからこうして、体調不良の時ぐらい素直に甘えても誰も文句は言わないだろう。
何より、この場にいるのは私なのだから『先生』が心苦しくなる必要もないしな。
「薬と何か作れる材料を買ってくる。もし、私が戻ってきた時に寝ていなければ然るべき対処をするから覚悟しておく様に」
“うっ……分かったよ”
……この痛い所を突かれたみたいな伏し目がちな表情は私の居ない隙に仕事でもしようと考えていたな?
「全く、ワーカーホリックも大概にしたまえ」
“……君に言われるとは思わなかったなぁ”
「私はしっかりと休んでいるとも」
“ほんとぉ?”
「本当だとも……っと、ついつい話しすぎるな。しっかりと休んでいる様にな」
“はーい”
本当に分かっているんだろうな彼は?
まぁ良い、これで仕事をする様ならみっちりと説教をするだけだ。
“……ん?”
気がついたらすっかりと眠ってしまっていた様だね……セラが来てくれたから良かったけど、ベットで横になって一人になった瞬間寝落ちするほどに体調を崩しているとは思わなかったな。
“それにしてもなんだがとても美味しそうな匂いがする”
少し眠ったおかげで体力が戻って来てる気がするし、ベットから立ち上がっても大丈夫かな……うん、ちょっとふらっとしたけどこれくらいなら問題なく歩けるね。
風邪なんて何年ぶりに引いたかな……久しぶりってもあるかもしれないけど、壁に手を着きながらよろよろと歩かないといけないなんてね、昨日とか当番に来てくれていたユウカに移してないか心配だなぁ。
“えっとキッチンは……”
「ん。下拵えはこれで十分か……あとは炊いておいたご飯を……む?」
“やぁセラ”
どうやらキッチンでご飯を作っていたのはセラみたいだ。
髪色と同じ空色のエプロンがよく似合っているし、自分でやったのかな?少し乱れてるけどポニーテールが良い感じだねって、あれ?なんだが少しずつ顔が怖くなっている様な?
「……『先生』、私は大人しく寝ている様に伝えた筈だが?」
“えっと、良い匂いがしたから気になって……それにほら、一人で動ける様にもなったし”
「はぁ……君は子供か?それと壁に手を突かなければ歩けないレベルを一人で動けるとは言わん。だがまぁ、もう少しでおかゆが出来上がる。其処の椅子に座って大人しく待っていると良い」
それじゃあお言葉に甘えて待たせて貰おうとするかなっと……よしよしちょっとふらっとしたけど座れたぞ。
セラから感じる視線の圧力が上がった気がするけど、私の気のせいだなヨシッ!!
「何か盛大に勘違いしてる気がするが……まぁ良いだろう」
“あはは”
くるっと背を向けて鍋に向かい合うセラの背中をぼんやりと眺めながら、漂ってくる良い匂いにお腹が空腹を訴えてくる。
そう言えば昨日は夕飯を抜いちゃったんだっけ?そりゃ、お腹も減るよね……んー、早く出来上がらないかなぁ。
「ご飯を入れて煮たったら、溶き卵を入れてと……『先生』、生姜は苦手かね?」
“ううん、平気だよ”
「では少しだけ入れておくか」
グツグツと煮立つ音に混ざって、セラがゆっくりとお粥をかき混ぜる音がとても耳に心地よい。
いつもは賑やかな周りが静かなのもあるけど、凄くありふれた私がキヴォトスに来る前の平和って感じがして良いねこれ……グツグツ、カタカタ……ふふっ、良い音。
「さて馴染んだか?」
長い髪をかきあげながら、一口味見をするセラの姿はなんだか、とても慣れている様で感心する。
便利屋でも料理をしたりするのかな?
「よし。良いな、『先生』今からそっちに持って行くぞ」
“あ、てつ──なんでもないです”
「よろしい」
視線だけで黙らせられてしまった……私って弱い。
「どうぞ」
“わぁ、とても美味しそうだね!”
セラが作ってくれたのはたまご粥の様で、白いご飯と焦げた部分のないまるで黄金色の様な卵がとても食欲を唆り、ご飯の上に散りばめられたネギの香りと追加で入れてくれた生姜の香りが鼻腔を擽ってくる。
対面に座ったセラに感謝しながら、スプーンで一口掬ってみれば、程よいとろみのあるご飯からふわっと生姜の良い香りが際立ち、反射的に唾を飲み込んでしまった……飢えた私の身体がこれを求めているのがよく分かるね。
“……うん!とてもおいしいよセラ!”
「ククッ、それは良かった」
風邪を引いているからってのもあるだろうけど、一口口に入れたお粥はとても素朴な味わいだけど、出汁を入れているのだろうかどこか深みのある味とご飯の甘さと卵のまろやかさがマッチしていてとても美味しく、次から次へと伸びる手が止められない。
そうして気がつけば私はニヤニヤと笑うセラを他所に、皿の底が綺麗に見えるまでお粥を完食していた。
“ご馳走様でした……美味しかったぁ”
「随分と真剣に食べていたな。私程度の料理なら食べ慣れているだろうに」
“そんな事はないよ。君が作ってくれたお粥はとても優しい味がして、私の事を気遣って丁寧に作ってくれたのが分かったよ”
私は全然料理が出来ないから実感としてはないけど、きっと誰かの為を思って料理をするというのはとても繊細で集中力のいる事だと思んだよね。
フウカが以前、私に作ってくれた時も美味しかったしきっと私は誰かの為を思って作られる料理が好きなんだと思う。
「ククッ、そうか。そんなにも私の愛情がお気に召したのなら良かったよ」
“愛情?”
「ほら、よく言うだろう?料理の最大のスパイスは愛だと」
“ふふっ、そうだね。じゃあ私は君の愛情をたっぷり受け取ったって事だね”
「……つまらんな。少しくらいは照れてくれると面白かったのだが」
もう褒めたらこれなんだからセラは。
美味しかったのは事実だから、とやかく言うつもりはないけどもっとこう、素直に私の賛辞を受け取ってくれても良いんじゃないかな。
「さてと『先生』、あとは薬を飲んでぐっすりと眠るだけだな」
そう言ってセラは買ってきた薬を二本の指で挟んで見せてくる。
いつものと変わりないけど、何処か柔らかくて優しい雰囲気のセラから差し出された薬を受け取り飲んでから、私はまた同じ様にお姫様抱っこでベットへと運ばれて眠りにつくのだった。
「ねーむれー ねーむれー 良い子よー」
でも、子守唄は違うと思うんだセラ?