便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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子ウサギの正義

 世界とは数多の偶然が積み重なって出来上がるものだと私は思う。

 世の中に絶対などなく、幾つもの偶然──それこそ、右足と左足どちらから先に動かして歩き出すかだけでも世界という物は分岐し、起きうる結果が変動するのだ。

 先程の例を極端にすれば、キヴォトスという地だからというのもあるが右足で歩き始めたことで地雷を回避しその後を平穏に過ごすか、左足で歩き出したことで地雷を踏み喧騒に身を置く事になるのかの違いが起き得る。

 

『──私の世界は失敗でありこの世界は今のところ正解だ』

 

 スランピアにある城の天辺から戦いを見下ろせば、私の世界では見かける事がなかった完全二足歩行でシロとクロと戦うアバンギャルド君が居て無数に湧き出すDivi:Sionをゲーム開発部とヒナ風紀委員長が撃滅していき、私が呼び出した『ミヤコ』嬢とRABBIT小隊が互角の戦いを繰り広げているのがはっきりと分かる。

 時折、ヒナ風紀委員長の視線とミユ嬢の弾丸が飛来するが、戦いを傍観するにはまだ安全な場所と呼べるだろう。

 

『友情とは美しい物だ。隣人と手を取り合い、背中を託し合い、一丸となって脅威に立ち向かう……あぁ、本当に美しい在り方だと今の私なら思うとも』

 

 だが、何故かな。

 私が見たかった光景、望んでいた光景が広がっているというのに私の心は一欠片も満たされる事なく、ただひたすらに凪いでいくばかりだ。

 異なる生活を送ってきた者達が手を取り合う美しい青春の物語を前にして、傍観者である私は贅沢にも何かを感じることはない。

 

──何故この光景を私の世界で見る事が出来なかったのだろうな──

 

『……考えるな』

 

 そんな事を考える資格は私になどない。

 陰鬱とした私を泥の底へと引き摺り込む様な思考を無理矢理、断ち私は『ミヤコ』嬢の本を開きプレナパテスから借り受けている色彩の力を流し込む。

 

『少しばかり手を貸してやるとしようか。悪役らしく、苦戦を演出するためにな』

 

 どうかこの程度で折れてくれるなよという声は誰のものであったのか、演じる事に努める私には分かりたくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 それは同じ存在だからこそ、気が付けたのかもしれません。

 『私』の動きの一つ一つは悔しいですが、今の私より数段上のものでこの戦いが一対一であればきっと私は勝てないと確信出来るものです。

 ですが、『私』の動きは仲間達の動きをツギハギの様に付け足した様な、そんな違和感をずっと感じていました。

 

「あのヘリは……RABBIT3のものですか」

 

『えぇ!?私のはちゃんとこっちにあるのに?』

 

「恐らく彼方の『私』……ではなく敵の策でしょう」

 

 ヘリを見上げた『私』の表情は少しだけ本当に少しだけ怒りを露わにした様に見えましたからきっと、あのヘリは『私』の意思とは無関係の介入なのでしょうね。

 それでもこちらに変わらず武器を向けてくる辺り、与えられた任務に忠実なのは同じ様です。

 

「RABBIT4。敵の首魁は?」

 

『そ、それが射撃ポイントを変えてもバレてるみたいで死角からの射撃もよ、避けられてる……どうしようミヤコちゃん』

 

 ミユの狙撃を避け続けているとなると、何か特殊な対抗策を有している可能性が高いですね。

 幸い、彼自身は戦闘力自体には乏しい様ですしこのまま『私』との戦いを優先するとしましょう。

 

「では狙いを彼方の『私』に切り替えてください。RABBIT小隊、各位に通達。障害を速やかに排除の後、敵の首魁を叩きます」

 

『『「了解!!」』』

 

 号令と共にサキが展開するのに合わせて『私』の気を引くために制圧射撃を開始。

 

『……』

 

 ですが、こちらのやり方など熟知しているといった具合に軽快なステップで私の制圧射撃を切り抜けると、サキの方へドローンを片手操作で展開し彼女の動きを止めると空いてる方の手で私へと弾幕を展開してくる。

 

「やはり練度が高い……ッッ!?RABBIT2撤退を!!」

 

「うん?急にどうしたってうわぁぁぁ!?」

 

 警告虚しく、ドローンで動きを止められたサキがヘリから放たれる無数のミサイルに飲み込まれる。

 

『ヘリの相手は私が……嘘ぉ、なんか変態的な機動で全部避けられたんですけどぉ』

 

 ミサイルの雨が猛追しているのに、機体を左右に揺さぶりながらフレアを撒き此方のミサイルの多くを無害化。

 それでもなお、追尾してくるミサイルには超低空飛行からの建物ギリギリを掠める様に飛行して回避……アレを落とすのは簡単には行かなそうですね。

 

「っと!」

 

『……』

 

 上手いですね……ミユに自由な狙撃をさせない為に敢えて私との接近戦ですか!

 ですが私も接近戦の心得が無いわけではありませんので、先ずはこれ以上踏み込まれてない様に銃床で一撃を──!?

 

「消えたっ!?」

 

『……』

 

「ガフッ!?」

 

 わ、私の攻撃で自分の視界が隠れるのを利用して身を屈め私が見失ったのを確認してから即座に顎を掌底で叩き付けてきた……!こんな動き、SRTではまだ習っていません。

 動揺し体勢を戻せないでいると、私の腹部にゴリッと銃を押し当てられそのまま発砲され一瞬、意識が飛びそうになる。

 

「このぉぉぉ!!」

 

『……』

 

『ミ、ミヤコちゃん……!!』

 

 寸前のところでサキが『私』を体当たりで吹き飛ばそうと突進して来て、それを躱した『私』をミユが狙撃する事で距離を引き剥がしてくれました。

 しかし、『私』が放つ妙な不気味さを纏う圧は一段と跳ね上がり本来であれば必殺の一撃になり得るミユの狙撃すら、飛来する音を聞いているのか敵意でも知覚しているのか分かりませんが、身の丈に合わない上着をまるでダンスの様にひらめかせ避けている『私』を倒すにはどうすれば良いのか……。

 

「ケホッ……おい、RABBIT1どうする?」

 

「……」

 

 煤で身体を汚し、浅くは無い傷を負ったサキの視線が私に策を促しますが私は『私』を見て、勝てないという思いがチラついているのを自覚してしまい言葉を返せない。

 ここで膝を突き、屈している場合ではないと分かっているのに冷静に『私』との実力差を理解してしまってサキや皆に勝つと断言出来ない弱い私を『私』の無機質な視線が貫き──それから視線を逸らす様にサキが私の首根っこを掴み上げ無理矢理立たせる。

 

「聞いているのかミヤコ!!」

 

「……聞こえて、いますよ」

 

「じゃあとっとと立ち上がって武器を取れ!良いか、私達はSRTの隊員だ。今ここで戦ってる者達の中で一番、戦わなきゃいけないんだよ!あの影みたいな奴が言っていたけど、ミヤコはミヤコの正義に屈して良いのか!?」

 

 正義……私の思い描く理想の在り方。

 あの『私』の事を影みたいな大人は私の理想の果てだと表現した……多分、『先生』もRABBIT小隊の皆も失って残された唯一の理想だけを貫くしかなかった『私』……道理で強い筈ですねたった一人で戦い続けたんですから。

 

「──屈したくありません。アレがたった一人で戦う事しか出来なくなった『私』だと私は認めたくありませんから」

 

 負けを認めかけていた私の心にサキから受け取った熱が宿り、強く燃え上がるのを感じます。

 思い出すのは子ウサギ公園で、皆と一緒に野宿をして廃棄品のお弁当に喜んでドラム缶風呂で汗を流し、『先生』の協力を得て今出来ることを全力で笑って楽しんで過ごした日々。

 

「当たり前の日々を守ってこその正義です。戦う事しか出来なくなった『私』を止めます」

 

「よしっ。よく言った!!それでこそミヤコだな。で、具体的にどうするんだ?ここまで言っておいてアレだが、実力の差は私だって感じているぞ」

 

「いつもの様にやるだけです」

 

「なるほど。分かった」

 

 いつも通り、皆で協力して不足を補い合いながら戦うだけです。

 サキと目を合わせて、同時に『私』に向かって走り出すのに合わせて、モエがヘリを操作しミサイルの弾幕を展開し敵のヘリと『私』の動きを制限する。

 動きの止まった『私』に向けてミユが狙撃を放ち、それを『私』はドローンを盾にする事で防ぎ私達に向けて銃口を向け──放った一撃は不発に終わりました。

 それは何故か──

 

『そこですッッ!!』

 

『!!!!!』

 

 私達と『私』の間をアバンギャルド君が両腕で敵のシロとクロを殴り飛ばしながら駆け抜けた為です……マスコットみたいな見た目の敵がなんとも言えないデザインのロボットに顔面を殴り飛ばされているという光景には少しだけ思う所はありましたが。

 その僅かな隙をサキは逃さないと信頼し、走る速度を一切緩めずに『私』へと向かうと背後から投げられた手榴弾が『私』を襲う。

 

「SRTの正式採用品だ。威力は『お前』が一番よく知っているだろう?」

 

『……』

 

 間違いなく爆発の直撃を受けた筈ですが、『私』の視線はすでに私に向けられておりそんな彼女を援護する様に戻って来た敵のヘリの銃口と揃って、走る私に銃口が向けられる。

 

『くひひっ!同じ品なら……強度も同じだよねぇ!』

 

 瞬間、此方のヘリと敵のヘリが真正面から衝突し、爆発と共に閃光が周囲を明るく照らし出す中、私と『私』は互いの武器で牽制し合い距離を詰めていく。

 衝撃がかなり私達を揺らす中、やはり技量の優れる『私』は的確に私へと銃弾を当ててくる……苦しいですが、もう少し……もう少しだけ此方に引きつけなければ。

 

──そして、勝負の時は来ました──

 

「ッッ!」

 

 充分に近づいて来た『私』を見て、先ほどの同じ様に銃を振りかぶりながら今度は、ギリギリのところで勢い良く真横へと飛び退き通信機に向かって叫ぶ。

 

「今ですRABBIT4!!!!!」

 

『うん!!』

 

『……』

 

 慌てて避けようとする『私』に向かって、見様見真似の片手ドローン操作でドローンをぶつけて体勢を崩させれば狙い通り、ミユの必殺の一撃が見事に『私』の頭部へと当たり勢い良く吹き飛ばした。

 ゴロゴロと地面を転がった『私』は立ち上がらないまま、ミユがいる方向を見て自分の壊れたヘッドセットをもう一度撫でると何処か儚げな笑みを浮かべた後に溶ける様に消えていった。

 

「……かっ、た……?」

 

 そんな不意に溢れた言葉を肯定する様に拍手の音が鳴り響き、いつの間にか私の横には影の姿をした大人が立っていました。

 

「ッッ!?」

 

『おめでとう。君は見事に自らの誤った正義に打ち勝ったとも。気分は如何かな?あり得る己を討ち倒した気分は?』

 

 ドロリとした粘ついた悪意を纏うその言葉は何故か、私には空虚な形だけを取り繕ったものに聞こえた事が不思議でしたがそれよりも訂正しなければならない言葉が聞こえて来た為、武器を手に取り影へと向ける。

 

「訂正してください」

 

『ほぅ?』

 

「確かに私が理想とする正義のあり方とは違ったものかもしれません。貴方の言う通り、それに縋るしかなく変質したものかもしれません」

 

 ですが、『私』の実力は間違いなく今の私よりも上でそこまで至るに積んだ努力を否定する気はありませんし、何よりも──

 

「──正義に正しいも間違いもありません。私の描く正義がある様にあの『私』が思い描く正義があっても良い筈です」

 

『……ククッ、そうかね。どうやら向こうも決着がついた様だな。此処のサンクトゥムタワーは好きに破壊すると良い。良い見せ物を見せてくれた礼だとも、有り難く受け取りたまえよ』

 

 そう言い残すと溶けるように影は消えて行った……気のせいでなければ、何かを堪えるような表情をしていた様な?

 

「なんなんだアイツは……」

 

「……後で『先生』と情報を共有しておきましょうか。さてと本来の任務に戻りますよ」

 

 私は私の正義を貫きます。

 たった一人ではなく、皆と一緒に……だからどうか見守っててください彼方の『私』




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