便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
黒煙が立ち上る。
製作者であるリオの性格が如実に反映され、理路整然と目的に応じて綺麗に建てられていた建物達が爆音と共に地獄の底へと続いている様な大きな穴の中へと沈んでいく。
「ハーハッハハハハ!!良いぞもっと掘れ!!ミレニアムの地下から温泉が噴き出すまで掘るんだ!!」
「「「はぁ……」」」
高笑いと共に際限なき破壊を叫ぶのはゲヘナ学園所属温泉開発部部長、鬼怒川カスミであり彼女のよく通る笑い声と現在進行形で行われる建物の崩壊に頭痛を覚え、額に手を当てているのがヴェリタスのマキを除く三人だ。
彼女達は共に第五サンクトゥムタワーの破壊にアサインされたメンバーなのだが、既に双方のノリが違いすぎて微妙な空気が流れていた。
「ちょっと地層を調べれば分かる事なのに……」
「ハッハハ!!何を言う!!そこに温泉があると思えばあるのさお嬢さん!!」
「ダメだ。話が通じないよ」
現行科学を真っ向から否定する理論展開をされてしまってはヴェリタス引いては、ミレニアム生徒に反論する気力はなくモニターに表示される破壊活動をただただ見つめ続ける。
『失礼するわ。さっきから黒煙が立ち上る方向がズレている様な気がするのだけど?』
通信と共に映し出されたのは、黒崎コユキを含むセミナーメンバーと共に現地に立っているリオであり、ヴェリタスに一瞬緊張が走るがそんなものを気に留めないカスミが嬉々として応答する。
「順調だ。このまま行けばサンクトゥムタワーの破壊と一緒に温泉を拝めるぞハーッハハハ!!」
「……リオ会長相手に堂々と……さすがゲヘナの生徒。恐れ知らず……」
『そう。こっちもホドの誘導に成功したわ。なるべく、手早く破壊してくれるかしら』
エリドゥの開発者であるリオと、あらゆる電子ロックを無に帰すコユキが揃ってる以上、如何にホドが設備を利用し閉じ籠ろうとも開錠し追い立てるのは簡単だった様で通信機越しにホドが地表に現れる音が聞こえ出す。
「任せたまえよ。抜かりはしないさ」
『分かったわ。では作戦通りに──あぁ、それと一つ言い忘れていた事があったわ』
「ん?何かなミレニアムの生徒会長殿」
『ちょっと待ってください。会長まさか──』
なんとなくこの後の展開が予想出来たユウカが、リオの口を止めようと手を伸ばすが悲しきかな、何処かの誰かの影響で一流の浪漫好きになってしまった彼女の熱意を止める事は出来なかった。
『温泉期待しているわ』
「──ハ、ハーハッハハハハ!!!!!良かろう!!!!このミレニアムで温泉を見つけ出したら、君に一番風呂ならぬ一番温泉を約束しよう!!」
慰めでも呆れでも、同情でもない。
温泉開発部に所属していないどころか、ゲヘナ学園ですらないミレニアム所属の生徒会長であるリオが
『あぁ……言っちゃった』
『まぁまぁユウカちゃん。本当に温泉が出れば観光収入が見込めますから』
『にはは!!リオ会長変わりましたねぇ!』
『そうかしら?……っと、お喋りはここまでね来るわ皆』
地表へとホドが完全に姿を現し、周囲の防衛施設をハッキングした事で通信が途絶えるが、カスミには彼女達否、リオへの心配は一欠片もなかった。
彼女はいっそ、清々しいとも呼べる狂気的な笑みを浮かべながら部員達が掘り進めていく光景を眺める。
「初めてだな。温泉開発の先を期待されたのは」
『ホド』──元はミレニアムの最先端技術が込められた通信ユニットAI「ハブ」であり、デカグラマトンによって0.00000013秒でハッキングされ感化された八番目の預言者。
絶対の安全圏に引き篭り、キヴォトス全域を自身の通信ケーブルと接続する事で支配下に置こうとしていたホドであったがその企みはデカグラマトンほどではないにしても自身へハッキングしてくる存在と、理解が及ばない未知の存在によって妨害されてしまい晒すつもりのなかった本体を晒してしまっていた。
「周囲へのハッキング能力の高さに加えて、兵器の複数並列使用にも耐えられるAI。なるほど、優秀ね」
「空間投影型とは言え、戦闘しながら使ってて疲れないんですか?」
「これくらいは平気よ。ヒマリじゃあるまいしスタミナ切れにはならないわ」
ホドの中枢へと向かうため、ハッキングされた兵器が火を噴く戦場を走るセミナーの面々はリオの態度からも分かる通り、余裕綽々と言った具合だ。
「あのぉ、私帰っちゃダメですかね?もう必要ないですよね?」
「戦力は一人でも多い方が得なのでダメですコユキちゃん」
「ううっ……シャーレに捕まってなければこんな事には……」
「その場合は結局、ミレニアムに居るから変わらないわよコユキ」
「うぐぐ……」
一人一人が荒事になれている訳でもないのに、談笑するぐらいにはセミナーが全員揃っている事を彼女達が嬉しく思っている事に間違いはないのだろう。
まぁ、ことホドに関しては彼女達は相性有利なのもあるが。
「はいっ!こっちは終わりましたよ!」
「……こっちも終わったわユウカ」
「了解です!」
リオとコユキがハッキングによって、奪われた兵器を取り返しホドへと攻撃を加えていきその間に開かれた道をユウカが先陣を切って進んでいく。
一見するとノアの仕事が無いように見えるが、視野の広い彼女だからこそ出来る前に出ていくユウカのフォローをしつつ、ハッキングを行う二人の護衛という重要な役割を果たしているのが彼女達、セミナーの関係性と言えるだろう。
『──!!』
「ホドの本体へと到着。皆さん、兵器の射線に入られない様に注意を!!」
ホド本体への攻撃可能地点へと彼女達が到着するのと同時に、二本のピラーが落下しエリアの侵食を開始する。
「残念だけど読めているわ。該当地区をパージ」
ガコンッ!っという音共にピラーが落ちた場所の床が抜け落ち、ピラーごと落下していき予備の層として備えられていた鉄板が競り上がる。
防衛の構造としてリオは幾重にも連なる多重構造を採用しており、深く侵食が進んだ部分なら兎も角新たな区画であればパージする事が可能なのだ。
「ユウカとノアはホドの気を引いて。私とコユキでハッキングするわ」
「「了解!!」」
「もう疲れましたよぉ〜!!」
泣き言を漏らすコユキは目に涙を溜めながらも、リオに首根っこを掴まれユウカとノアの戦闘を掻い潜りホドへと肉薄、ハッキングを開始する。
二人の端末に膨大な量のデータが流れ込んでくるが、その一つ一つをリオは解きほぐし、コユキは己の神秘で鏖殺しながら突き進む。
無論、ホドも無能ではないため、逆に彼女達の端末をハッキングしようとするが──
『残念ながら私が後詰で控えていますので』
ケイの指パッチンと共に迎撃され、次の手を打とうとするが戦闘をこなしながらチート級とも呼べるハッキングを前に『色彩』の力を受けているとは言え、ホドは徐々に押されていき……沈黙した。
「……そう。此処に彼の生徒は来ないのね」
誰にも聞こえない小声で呟くリオ。
他の地区に比べてあっさりと終わってしまった戦いだが、揃った戦力と敵の相性から考えてこの結果は妥当であり故にこそ、『バイステンダー』の妨害が来るかと思っていたリオであったが、妨害がなかった事で察してしまった。
「……自分の間違いが証明されるのは辛いわね」
リオがリオである限り、『アリス』を破壊しようとするだろう。
つまり此処に『彼』の生徒が来なかったのは偶然かもしれないが、『リオ』は必ず失敗しミレニアムに致命的な被害を齎らすと分かってしまったのだ。
「それでも……私はもう二度と立ち止まらないわ」
もう泣きそうな少女は此処には居ない。
代わりに居るのは沈黙したホドに背を向け、勝利に喜ぶセミナーの面々へと僅かに口角を上げて歩む自らの罪を逃げずに受け止める強い少女だ。
『──強くなったなリオ嬢』
事切れるホドのモノアイの先で、共犯者にもなれなかった傍観者の虚しい呟きは誰の耳にも届く事はない。
感想・此処好き待ってるぜ!