便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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結末を飲み込んだ者/結末に抗う者

 ──常に退屈そうな表情を浮かべているものだなと、ふと思ったのが始まりだった気がする。

 来る日も来る日も、一人で来訪者など居ない鳥籠の中でその生徒はただ、飾りだけが立派な椅子に腰掛けて空を見上げていた。

 傍観者に過ぎない私が彼女との接点を得たのは、あの女に命じられ信用出来ない私の監視の意味も込めた『話し相手』になったからだ。

 

「……」

 

「……」

 

 初めは揃って無口で、同じ空間にいるだけの他人であったが幾許かの時が過ぎてあまりに退屈だった私は気紛れに、ほんの気紛れに店先に並んでいた花を一つ買って手渡した。

 

「……くれるの?」

 

「君が貰わないのであれば枯れゆくだけだな」

 

「どうして……」

 

「ん?花を買ってきた理由かね?以前、監視付きで此処から出た時、道端に咲いてる花を興味深そうに見ていたから好きだと思ってな」

 

 ただそれだけの理由だった。

 気紛れに花屋に立ち寄り、ふと思い出したから試しに適当な花を買ってプレゼントしただけのこれと言って明確な意味がある訳ではない行動。

 私らしくないとは思ったが、此処はあまりにも何もなく殺風景で居るだけの私ですら退屈に殺されそうだったから一つ部屋に彩りを加えて気分転換の一つにでもなれば良いと、そう思う事にした。

 

「……好き。好き、だと思う綺麗な花」

 

「そうか。なら買ってきた甲斐があったというものだ」

 

「うん。ありがとう」

 

 そう言って彼女は身を守るための仮面を、外すなと言われているものを自らの意思で外してそっと小さく笑ったのだ。

 それが私にはとても─────

 

「……」

 

『……プレナパテスか。私の顔に触れて何かあったか?』

 

 いつもは船の中央から微塵も動かないのに珍しい事もあるものだな……出来ればその手は貴方の生徒であるシロコ嬢に伸ばして欲しいものだが。

 

『はい……はい……バイステンダーさんが泣いていたからと』

 

『泣いていた?……ククッ、それは見間違いか聞き間違いだなA.R.O.N.A嬢。私にそんな機能はないよ』

 

 元より、涙を流すなどそんな資格すら私にはないのだから。

 全てを失ってから漸く大切であったものに気がついた愚者に後悔など……何様のつもりだ。

 

『プレナパテスよ。私に貴方の心を割く必要はないと伝えた筈だ。私と貴方は共にキヴォトスを滅ぼす共犯者であって、貴方が心を割くべき生徒などではない。むしろ、バベルの図書館を用いて生徒を収集している私は恨まれて当然だと思うのだがね』

 

「……」

 

『A.R.O.N.A。返事は不要だ。これ以上は互いに無駄だとも』

 

『……わかりました』

 

 仮面のせいで表情は見えないがきっと貴方のことだ、悲しそうにしているのだろうな。

 だが不必要だ……既に多くの心を砕いた貴方がその優しさを悪役である私に向ける必要性はない。

 

『気分転換に歩いてくる。シロコ嬢には適当に話をしておいてくれ』

 

 我ながら逃げの一手だな。

 数少ない同郷から逃げてアトラ・ハシースの箱舟の中を歩き進め、空を見下ろす場所で立ち止まる。

 

『ククッ……我ながら女々しいものだなバイステンダーよ。今更……本当に今更、綺麗だったなど』

 

 胸の内から押し花の栞を取り出して眺める。

 これは私の罪を忘れないためだ……あの美しき世界を見殺しにした私の罪を。

 

『──来るならいつでも来るが良いキヴォトス。我々はいつでも君達を歓迎しよう』

 

 まだ、嗤えるなバイステンダーよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。なるほど、状況は理解した。遥か上空、地上から75,000mにある物体を破壊しサンクトゥムタワーの再誕を阻止すると」

 

“うん。カイテンジャーとの共闘後で、簡単に煤を落としただけのセラに頼むのは申し訳ないんだけど”

 

「ククッ、キヴォトスの危機に休んでいる暇はない訳だ。しかし、その様な上空への移動手段があるのかね?」

 

 ケイに頼んで作るというのもありだが、その為には上空75,000mまでそれなりの人数を乗せて飛べる様な兵器の図式が必要だ。

 そんなものを制限時間である二十四時間以内に考えろというのは、流石に無理だぞ。

 

「難しいわね。一応、私が保有していたミサイルでの破壊を試したのだけど」

 

「上空の物体は物理的な介入を受け付けませんでした。トリニティの方々の推測ではアレは、一種の多次元世界論に基づく『状態の共存』にある様です」

 

「……説明ありがとうヒマリ嬢。『状態の共存』……リオ嬢、その物体はもしかしてだが」

 

「えぇ。セラの推測通り、アレは『アトラ・ハシースの箱舟』だと断定して良いわ。ケイにも確認を取ったけど99.9999%正しいと」

 

『私や王女の管轄にないというのが気に入りませんね』

 

 ケイの口ぶりからして既にアレへのハッキングは仕掛け、失敗に終わったのだろうな。

 となれば上空にある『アトラ・ハシースの箱舟』は名も無き神々の王女より上の権限がある者によって支配されていると……影の様な状態になった『私』にその資格はないだろうからやはり、未来視を失う直前に見たあの仮面の男が支配者か。

 

「……展開されている『状態の共存』と真逆の波形をぶつけてやれば解除も可能かもしれないが、そんな複数の世界線を一纏めに演算するなどどれほどのスパコンが必要か目算すら立たんな」

 

「……私達全員で辿り着いた結論に一人で辿り着くのだから私の共犯者は末恐ろしいわね」

 

「神秘と科学は私の専売特許なのでね。しかし移動手段とスパコン、その両方を一日で用意するのは無謀だな……」

 

“あぁ、その件なんだけどね?”

 

「ん?」

 

 何か考えがあるという顔だな『先生』よ……って、お前よく此処に顔を出せたな?

 

「クックックッ、遥か上空のアトラ・ハシースの箱舟に対抗する手段ならアビドスにありますよ」

 

「訳知り顔だな黒服」

 

「えぇ。あの時の私の目的ではありませんでしたので何も言いませんでしたが、カイザーコーポレーションが探していた兵器はビナーではないのです。かつて、キヴォトスを支配していた古代文明の遺産──古代兵器と呼ぶべきものを掘り起こしていたのですよセラ」

 

 ふむ……ビナーに続き、古代兵器とは厄災ばかりだなアビドスよ。

 まぁ、小鳥遊ホシノが苦労する分にはどうだって良いか。

 

「場所は知っていますから私が案内しましょう……と言いたいところなのですが、あそこはカイザーコーポレーションの土地。面倒事は避けたいと思いませんか?」

 

 そう言って懐から何やら書類を取り出す黒服にキョトンとする周囲。

 ゲマトリアである黒服が此処まで協力的なのは気になるが、まぁ、良いだろう……私との契約に付き合ってもらう義理もある事だしな。

 

「此処にカイザーコーポレーションから盗みいえ、正当な取引をした土地の権利書があります」

 

「幾らだ?私が買い取ろう」

 

「クックックッ、流石はセラ。話が早いですね」

 

“……良いのかなぁ?この悪い二人を放置してて”

 

 キヴォトスの危機を数億程度で買えるのだから目を瞑りたまえ『先生』──え?平和になってからで良いからカイテンFX Mk.∞∞のフィギュアが欲しい?……良いだろう幾らでも用意してやるとも。

 

「やっぱりセラは悪い事をしている方が活き活きしてるわね」

 

「リオ……貴女、趣味が悪くなったのなら一度医者にかかる事をお勧めしますよ?」

 

 何やら後ろが騒がしい気がするが、我々は全て無視して目的のものがあるとされる土地の買取をさっさと済ませて皆をアビドスへと向かう準備の為、退出させる。

 会議室で私一人……いや、いつでも話せるケイ含めて二人っきりとなったところで口を開く。

 

「ケイ」

 

『……そろそろだと思ってましたよ』

 

「ククッ、相互理解が進んで何よりだ──君にとっては造物主に逆らう行為だ。覚悟は出来てるのかね?」

 

 ケイより上の権限など該当する存在は一つしかない。

 彼女達を作った無名の神々の司祭、つまりこれからケイは生みの親に逆らうのだ。

 

『貴方と共に居ると決めた時から出来てますよ。私は被造物、造物主の意思に逆らうのならどんな結末でも受け入れると』

 

「……そうか」

 

 ただ一言返す事しか出来なかった。

 彼女の声から感じる覚悟は、いつかの日の私と同じであったのだから。

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