便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「……」
「クックックッ、そう睨まないでください暁のホルス。貴女と私の因縁は数あれど今回は私としても手助けのつもりで此処に居るのですから」
ふむ、分かりきっていた事だが小鳥遊ホシノと黒服の相性が終わっているな。
普段のおじさんRPの形すら取り繕えない程、完全に目が据わってるのは私からすれば見慣れたものではあるが他のメンツ、主に連邦生徒会からやってきた面々はこの空気に耐えられん様だ。
「ふぅ……セラさんも飲みます?」
「ククッ、カヤ防衛室長はこの空気にもいつも通りとは頼もしい限りだ」
「はい?あぁ……まぁ、小鳥遊さんから発せられる空気は重いですけど私に向けられてる訳じゃありませんし。何処かの誰かに組み伏せられた時に比べれば微風ですよ微風」
「レイヴン9は私の駒の中でも殊更に優秀だからな。しかし今の君なら狐達を躾ければ十分に育て上げられるのではないかね?」
FOX小隊とカヤ防衛室長の関係性は相互利用だが、今のカヤ防衛室長ならば目的意識に欠けたFOX小隊では力不足だろう。
しかし嘗てはSRT特殊学園でも指折りの実力者達で狐坂ワカモの逮捕など実績も十分にある為、今のカヤ防衛室長の様に明確な未来を見据えた人間が彼女達を従えれば……ククッ、強くなるだろうな。
「発破は掛けたつもりです。私としてもFOX小隊は単なる道具として使い捨てるのには勿体なさを感じていますので、出来れば道具以上の意志を宿して欲しいものですね。まぁ、全てはこの事態が無事に終わってからの話ですが」
「ククッ、本当に逞しくなったものだなカヤ防衛室長。あぁ、先のペロロジラとの戦闘、君が使える範囲での全てを使いよく務めを果たしていたな。君の稼いだ刹那がなければカイテンジャーは光線のチリとなっていたかもしれないからな助かったよ」
自分以外の全てを見下していたいや、正確には見下して自らを超人と鼓舞しなければならなかった彼女が何一つ躊躇いもなく、他者の為に自らの部下を使えたのだ……やはり子供の成長というのは早いな。
「……ちゃんと見てくれていたんですね。そんな余裕はなかった筈なのに」
「私の視野は広いからな。駆けつけながらしっかりと見ていたとも」
「小声で言ったのですから空気読んでスルーしてくれても良いんですよ!?」
「ふむ?聞こえてしまったのだから仕方あるまグェ!?」
く、首が嫌な音を……この微妙に逆さまな景色と良い、見える長い桃色髪と絶対零度のオッドアイからして犯人は……
「ソファとは言え……後ろ首を掴んで引っ張られるのは苦しいのだがね?小鳥遊ホシノ」
「……うへー、私にアレを押し付けて女の子と楽しくお茶会とは良いご身分だねぇお前」
「別に押し付けたつもりはないのだが……寧ろお前の方から黒服に絡んでなかったか?」
「は?誰があんな奴」
「クックックッ、嫌われたものですねぇ」
「逆に好かれる要素があると思うのかね黒服よ……とりあえず手を離してくれ。私に話しかけたという事は向かうのだろう?現地に」
返事よりも早くパッと手が離れたので、少し首を労りながら立ち上がる。
ヘイローを手に入れていて良かった……以前の身体ではそのまま天に旅立っていたかもしれんな。
「……黒服から聞いたけど土地、買ったんだって?」
「あぁ。この通りだ。発掘現場ゆえ、計画していた祭りには使えないかもしれないが、本当に古代兵器が眠っていたとすれば歴史的価値を見出す事も出来るだろう。キヴォトスにおいてそれがどれ程の金を生み出すのか私には分からないがある程度は君達の借金返済に使うと良い」
「え……自分で使わないの?」
「勘違いするな小鳥遊ホシノ。誰が全額全て渡すと言った。お前に渡すのはあくまで一部だ」
全く、満額受け取れるとでも思っていたのかね。
ほぼ必要ではないとは言え、私の私財で買い取ったのだからある程度の儲けは私の懐に入れさせて貰うぞ……まぁ、一割程度でもあれば十分だが。
「……お前に借りは作りたくないんだけどね」
「ククッ、恩義を感じる必要はない。キヴォトスを救う為の投資だとすれば安いものだ。さてと行くとしようか」
気まずそうにしてる小鳥遊ホシノを追い抜き、黒服の首根っこを掴みながら用意されたヘリに乗り込むとごく自然な形で、カヤ防衛室長が隣に座って来たがまぁ良いだろう。
「黒服。発掘されていたという古代兵器は」
「えぇ。アトラ・ハシースの箱舟に対抗する為の船、ウトナピシュティムの本船と呼ばれる宇宙戦艦ですよ」
「ほぅ……それはそれは心が躍るな」
宇宙戦艦……これほど心惹かれワクワクする言葉もそうそうないだろう。
ヘリの中でカヤ防衛室長や黒服と取るに足らない雑談をしていると、思っていたよりも早く現場に到着しカイザーの私兵に取り囲まれるという事態はあったものの、正式な手続きをした書類を見せれば不服そうではあるが下がっていった為、サンクトゥムタワーが生み出した雑兵の後始末だけで済み、我々は砂漠には見合わない鉄の道を進み、黒服の案内のもと件の場所へと辿り着いた。
「数多の神々が共に生み出した箱舟をもとに、古代文明が生み出した神秘と科学の結晶。今の貴方方が求めてやまない解決策……これがウトナピシュティムの本船です。『先生』、貴方であれば動かせるでしょう」
幾つもの明かりに照らされたウトナピシュティムの本船は、やはりというべきか武装の類を積んではおらず、私の思い描く宇宙戦艦には程遠い代物であったが軽く見ただけで分かる──これは私の手には余る代物だと。
「早速中を見てみましょう」
リン代行に続き、皆でウトナピシュティムの本船に入ったが思ったよりも古めかしいとは思わなかったというよりも下手すればその辺の設備より新しいとすら呼べるだろう。
「リオ」
「既にエンジニア部、そしてヒマリを通してヴェリタスには連絡済みよ。到着までの間、私達でシステムを調べておきましょうか」
「ククッ、話が早くて助かるよ。ケイは念の為、接続をせずに様子見をしていてくれ」
『……そうですね。頼みます』
リオから機材を借り受け、私とリオそしてヒマリ嬢の三人でウトナピシュティムの本船の構造とシステムの把握を始める。
やはり既に司祭達の技術に関して調べていたリオのお陰で、比較的スムーズに進行はするが古代文明と現代では用いている言語レベルで差異がある為、書かれている言語が今の言語のどれに該当するか、システムの互換性はあるのかどうかを逐一調べるというのは一筋縄ではいかない。
「……ふむ。嫌な予想ほど当たるものだな。ウトナピシュティムの本船が稼働すればケイやアリス嬢は敵として攻撃を受けるだろう」
『……』
「一度、ケイが宿とした端末ですら対象になる可能性がある以上端末間を辿り、ケイ本体を抹消にかかるかもしれんな。私の方で偽造プログラムを作っておく」
『……ありがとうございます』
ケイを別のところに避難させる事が出来るのならそれが一番だが、彼女は覚悟を決めて同行する事を選んだ……であれば、打てる手は打ち、最善を尽くすのが私の役目だな。
「『先生』」
“うん。いつの間にか乗ってきたアリスは私が守るよ”
「本当は降ろせれば良いのだが、説得の時間すら今は惜しいか」
どうにも我々はアリス嬢の笑顔に弱いらしい……死のリスクをたったそれだけで認めてしまうのは本来であれば駄目だが、アトラ・ハシースの箱舟は彼女らの力が源流だ。
悪い大人として考えるのなら、彼女達はいざという時の一手を打つ為に絶対必要な存在なのだ……キヴォトスを救う為に異端から生まれた二人を犠牲するのは救える人数の割合から見ても正しい。
「……だとしても私はそんな結末を認めんがな」
最終的な選択はケイに委ねるが、準備はしてきてある……どうかこの準備が無駄にならない事を祈るばかりだ。
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